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唯「え~っ、新入部員が80人!?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:20:22.56 ID:avzC+MY60 [1/24]
梓「はい、そうなんです。
  みんな新勧ライブで感激して、来てくれたみたいで」

唯「でも80人も来るなんてありえないよ」

梓「いやでもホントなんですよ。
  今ちょっと音楽室が大変なことになってるんで、
  唯先輩も来て下さい」

唯「う、うん、分かった」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:25:07.60 ID:avzC+MY60 [2/24]
音楽室前。

ざわざわざわざわ

唯「うお、人がいっぱい……
  これみんな新入部員?」

梓「はい、人数が多すぎて音楽室に収まりきらないんです」

新入部員「あ! 平沢さんだ!」
新入部員「キャー本物の平沢さんよー!」
新入部員「平沢さーん!」
新入部員「握手してください平沢さん!」

唯「あ、あれ?
  私なんだか人気者? えへへへ」

梓「そりゃーギターボーカルですから一番目立ってましたし」

新入部員「きゃー平沢さーん!」
新入部員「平沢さんこっち向いてください!」
新入部員「サインください!」

唯「いやー参っちゃうね、あははは」

梓「……」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:29:43.88 ID:avzC+MY60
唯「ごめんねー、音楽室入りたいからちょっと通してー」ぐいっ

新入部員「きゃーん平沢さんに触られちゃったー」
新入部員「あっずるーい」
新入部員「平沢さーん!」
新入部員「きゃー平沢さーん!」べたべた

唯「ちょ……通してってば……ぎゅむ」

梓「こらっ、新入部員たち!
  唯先輩が迷惑してるでしょ、やめなさい!」

新入部員「中野さんコワーイ」
新入部員「2年生だからって先輩風吹かせちゃってー」
新入部員「なんかすげー偉そうだよねー」
新入部員「きもーい」

中野「全部聞こえてますよ」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:33:54.05 ID:avzC+MY60
新入部員たちをかき分けて、
なんとか音楽室に入った唯と梓。
音楽室の中には新入部員はおらず、
いつものメンバーの静かな軽音部があった。

唯「ふぃー……えらいことになってるね」

澪「髪も制服もぐちゃぐちゃだぞ、唯」

律「いやーまさかこんなに新入りが入るなんて思わなかったなー」

紬「まあ大半の人は、
  唯ちゃんと澪ちゃんに憧れて入ったみたいだけどね」

律「人気者も大変ですなあ、澪ちゅゎん」

澪「な、何いってんだ」

梓「あの、そんなことより……どうするんですか?
  あれだけの部員、ここの音楽室には収まりきりませんよ。
  それに楽器もありませんし」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:38:30.59 ID:avzC+MY60
律「それに、大半がズブの素人みたいだし。
  ちゃんと先輩として指導もしなきゃいけないな」

澪「指導って……私が?」

律「ベースできるのお前しかいないだろ」

澪「そ、そんな……
  私が後輩に指導だなんて……」

律「先輩の宿命だ。諦めろ」

紬「それで、部室の問題はどうするの?」

唯「和ちゃんに頼んでみるよ。
  生徒会長様なら何とかしてくれるかも知れない」

律「おお、頼んだぞ唯」

紬「こういう時、生徒会にコネが有ると助かるわねえ」

梓「こうして権力は腐敗していくんですね」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:44:07.67 ID:avzC+MY60
――

――――

――――――

第2音楽室。
険しい表情の吹奏楽部部長が、
他の部員達にイライラをぶつけていた。

豊崎「いったいどういうこと?
    吹奏楽部に新入生がまったく入ってこないなんて……!
    ちゃんとビラ配りとかしたんでしょうね!?」

日笠「し、しましたよう」

豊崎「くそっ、新勧ライブも完璧だったのに……
    なんで誰も来ない……」

ガラッ
佐藤「部長、大変です! 生徒会長が……!」

豊崎「生徒会長?」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:48:52.54 ID:avzC+MY60
和「こんにちは、豊崎部長。
  新入部員が入らなくて、だいぶイライラしてるみたいね」

豊崎「あなたには関係の無いことよ」

和「関係大アリよ。
  そうだ、なぜ部員が入らないか教えてあげましょうか」

豊崎「知っているの?」

和「ええ。音楽系の部活に興味があった新入生は、
  すべて軽音楽部に入部した。それだけよ」

豊崎「なっ……」

和「で、軽音楽部の部室がいっぱいいっぱいだから、
  ここの第2音楽室を軽音楽部に譲ってもらうわよ」

豊崎「い、いきなり何を言っているの!
    横暴にもほどがあるわ!」

和「黙りなさい、これはもう決定事項よ。
  昨年度で上級生がごっそり抜けて、
  新入生も入らず部員数が少ない今の吹奏楽部には
  生徒会の決定に反論する権利はないわ」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 21:52:04.92 ID:avzC+MY60
豊崎「ふ、ふざけないで!
    たしかに今は部員は少ないけど……!」

和「反論する権利はないと言ったはずよ。
  あっ、ちなみに吹奏楽部の新しい部室なんだけど、
  どこも教室が空いてなくって。
  申し訳ないけど、プール用具倉庫を使ってもらうことになったから。
  じゃあ、そういうことで」

豊崎「……」

日笠「ぶ、部長……どうするんですか?」

豊崎「……楽器をプール用具倉庫に運びなさい」

佐藤「部長!」

豊崎(このままじゃ終われない……軽音部……!)


――

――――

――――――

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:00:27.56 ID:avzC+MY60
生徒会長・真鍋和の粋な計らいで、
めでたく2つめの部室を手に入れた軽音部。
軽音部は新入部員を迎え、
新たに85人体制でスタートすることとなった。

澪「で、これからの活動についてなんだけど」

律「うん」

澪「さっき新入部員全員にアンケートをとった。
  これがその結果だ」

紬「希望する楽器……ギター・47人、ベース・25人、キーボード・8人」

律「あれ、ドラムは?」

紬「経験者が22人、あとは全員未経験で楽器もない、と」

律「なあドラム希望者は?」

澪「楽器はみんなに買ってもらうとして……
  こうも未経験者が多いと、どうしたものか」

唯「やっぱりここは先輩として
  ちゃんと新入部員に教えてあげるべきだよ!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:06:32.60 ID:avzC+MY60
梓「別に必要ないと思いますけど。
  適当に自主練でもさせとけばいいんじゃないですか?」

唯「ダメだよあずにゃん!
  みんな私たちに憧れて軽音部に入ってくれたんだよ?」

梓「はあ」

唯「それなのに、私たちが新入部員をほったらかしにするなんて、
  そんなの冷たすぎるよ」

梓「そうですかね」

唯「そうだよ。先輩としてみんなにちゃんと指導して、
  みんなで一緒にうまくなって……
  そっちのほうが楽しいよ。
  ねえ澪ちゃん」

澪「え、ああ、まあ。そうかなあ」

唯「でしょ?」

梓「まあ……唯先輩が、そこまでいうなら。
  でも自分の練習をおろそかにしちゃ駄目ですよ」

唯「大丈夫だよ、人に教えるのが一番の練習、っていうじゃん」

梓「ならいいんですけど」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:13:51.62 ID:avzC+MY60
澪「部室はどう分ける?
  ギターが第2音楽室で、それ以外がこっち、
  ってことでいいかな」

唯「おっけー。
  あずにゃんもそれでいいよね」

梓「えっ、はあ」

澪「決めるのはこれくらいかな。
  じゃあ早速明日から、新入部員を交えて活動しよう」

紬「お茶菓子の用意が大変そうねえ」

梓「ティータイムやるんですね」

唯「あっムギちゃん、第2音楽室にもお菓子持ってきて!」

紬「はいはい、分かってるわ」


――

――――

――――――

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:19:53.86 ID:avzC+MY60
翌日、第2音楽室。

唯「ここはこうやって弾くんだよ~」ジャジャーン

新入部員「キャー平沢さんスゴーイ!」
新入部員「平沢さんってやっぱり上手いですねー!」
新入部員「平沢さんみたいになりたいですー!」
新入部員「あーん平沢さん、ここの弾き方がわかんないですー!」

唯「あっここはね、指をこう……」

新入部員「きゃー平沢さんに指触られちゃったー」
新入部員「あっずるーい」
新入部員「私にも教えてください平沢さん!」
新入部員「私も私も~」

唯「えへへー、もう困っちゃうなー。
  あずにゃんも教えてあげてー」

新入部員「中野さんじゃなく平沢さんに教えて欲しいんです!」
新入部員「教えてください、平沢さん!」
新入部員「平沢さ~ん!」

梓「……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:25:30.54 ID:avzC+MY60
ガラッ
紬「お菓子持ってきたわよー」

唯「あっ、ありがとうムギちゃん」

新入部員「キャーお菓子お菓子ー」
新入部員「このお菓子チョーカワイー!」
新入部員「ありがとうございます琴吹さん!」
新入部員「琴吹さん最高です!」

紬「あらあら、そんなに褒められると困っちゃうわ」

梓「……」

唯「ムギちゃん、そっちの様子はどう?」

紬「ああ、澪ちゃんはちゃんと新入部員の教育をしてるわ。
  恥ずかしがってたけど、まんざらでもないみたい」

唯「そっか、よかった」

新入部員「おいしーい!」
新入部員「軽音部に琴吹さんがいてくれて良かったです!」
新入部員「こんな美味しいお菓子食べられるなんて幸せです!」
新入部員「琴吹さん最高です!」

紬「あらもう、みんなったらぁ」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:33:20.98 ID:avzC+MY60
部活後。

唯「いやー、今日はいっぱい練習できたね!」

新入部員「平沢さんの教え方がお上手だったおかげです!」
新入部員「ギター弾くの初めてだったんですけど、楽しかったです!」
新入部員「軽音部に平沢さんがいてくれて良かったです!」
新入部員「平沢さん最高です!」

唯「もー、みんな嬉しいこと言ってくれるねー!」ぎゅーっ

梓「!」

新入部員「きゃっ、平沢さんに抱きつかれちゃった!」
新入部員「あっずるーい、私にもやってくださーい!」
新入部員「だめ、次は私よ!」
新入部員「私にもお願いします~」

唯「いやー、みんな可愛いなーもう!
  よーし、私のおごりでこれからパーッといこうか!」

新入部員「きゃー平沢さん太っ腹ー」
新入部員「ありがとうございます平沢さん!」

唯「あずにゃんも来るでしょ?」

梓「…………行きません」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:41:48.60 ID:avzC+MY60
翌日、放課後。
第2音楽室。

梓「……」

唯「おっ、上手く弾けたね!
  よーし、これはご褒美だー!」ぎゅーっ

新入部員「きゃーっ、嬉しいです平沢さん!」
新入部員「ずるいずるいー、私もぎゅってしてほしーい!」
新入部員「平沢さーん、私もー!」
新入部員「私にもお願いします~」

唯「でへへへー。まったくもう、順番だよ~順番~」

ガラッ
紬「お菓子持ってきたわよー」

新入部員「キャーお菓子お菓子ー」
新入部員「このお菓子チョーカワイー!」
新入部員「ありがとうございます琴吹さん!」
新入部員「琴吹さん最高です!」

紬「あらあら、もう~」 ニコニコ

梓「……」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:45:23.67 ID:avzC+MY60
紬「あら、どうしたの、梓ちゃん。
  お菓子食べないの?」

梓「あ、はい……ちょっと体調が悪くて。
  今日はもう帰らせてもらいます」

紬「あらそう、せっかくいつもの3倍は高級なお菓子を持ってきたのに」

梓「ぐ…………帰らせてもらいます」

紬「お大事にね」

唯「あずにゃん、大丈夫?」

梓「大丈夫です、ちょっと頭痛と腹痛と関節痛がするだけですから」

唯「ならいいんだけど」

梓「じゃ……失礼します」
ガラッ

廊下に出て、第2音楽室のドアを閉めると、
さっきまでの賑やかな空間がまるで別世界のことだったかのように思えた。

梓「…………」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:50:34.37 ID:avzC+MY60
とぼとぼと静かな廊下を歩く梓。
すると、曲がり角から律が出てきた。

律「お、梓。なんだ、便所か」

梓「いえ、帰るんです。
  律先輩こそ便所ですか」

律「違うよ、私ももう帰るんだ」

梓「まだ部活動中でしょう」

律「お前のとこだってそうだろ」

梓「私は体調不良ってことにして帰るんです。
  律先輩とは違うんです」

律「『ことにして』って、仮病かよ」

梓「……」

律「まあ私も『用事がある』って嘘ついて出てきたんだけどな」

梓「新入生の前でサボリですか、最低ですね」

律「だって……つまんねえんだもん」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 22:56:15.69 ID:avzC+MY60
梓「なんでですか」

律「えー、だって私にだけ新入生がついてないし」

梓「ああ、そういえばそうでしたね」

律「それに……澪もムギもさあ、
  新入生にチヤホヤされて、すげー嬉しそうにしてんの。
  それ見てたらなんか……なんかなぁ、上手く言えないけど」

梓「……唯先輩も、そんな感じでした」

律「それが嫌になって、
  仮病使ってサボったのか」

梓「自分でもよくわかんないです……
  なんていうか、あの場に居たくなくて。
  唯先輩が新入生に囲まれて、
  私だけ音楽室のすみっこで独りぼっちで、
  疎外感があったのかもしれません」

律「疎外感ねえ」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:02:05.70 ID:avzC+MY60
梓「それに」

律「?」

梓「えっと、なんていうか……
  唯先輩が、遠くなったような気がして」

律「……」

梓「唯先輩だけじゃないです、
  ムギ先輩も、澪先輩も。
  なんか、このままじゃ……
  放課後ティータイムが、ばらばらになっちゃうような」

律「……」

梓「あ、ごめんなさい……なんか変なこと言っちゃって」

律「いや……なんとなく分かるよ。
  でも梓が言ってるようなのは表面上だけだよ。
  みんな心の底では放課後ティータイムの仲間同士、繋がってるから。
  こんなことでバラバラになるなんて、ありえない」

梓「そう、ですね……」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:09:21.58 ID:avzC+MY60
それから、数週間の時が流れた。
一部のの部員は飽きて辞めてしまっていたが、
それでも軽音楽部はまだ桜高でもトップの部員数を誇っていた。

唯たちは自分に心酔している新入生たちを
まるで我が子のように可愛がっていた。
それは日が経つごとに度を増していった。
そしてさらに新入生も唯たちを慕うようになり、
また唯たちも……以下省略。

そんな先輩の姿を見ながら
梓はあの日、律がくれた言葉を
必死に自分自身に言い聞かせながら
部活に参加していた。
「ただ新入生をかわいがっているだけ」
「放課後ティータイムが、バラバラになることなんてない」
……それでも、梓の胸からは
得体の知れない不愉快さは消えなかったのだ。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:18:10.02 ID:avzC+MY60
唯「よーっし、じゃあ次はふわふわ時間、弾いちゃうよーん!」

新入部員「いよっ、待ってました!」
新入部員「平沢さんかっこいいー!」
新入部員「平沢さん最高です!」
新入部員「こっち向いてください平沢さーん!」

ただの嫉妬かも知れない。
悔しいだけなのかも知れない。
心の奥底では自分もチヤホヤされたいと思っているのかも知れない。
そしてもしそうなったら、自分も唯のようになってしまうであろうことは否定できない。

唯「君を見てると~いつもハートドキドキ~!」ジャカジャカ

新入部員「揺れる想いはマシュマロみたいにふーわふわ!」
新入部員「揺れる想いはマシュマロみたいにふーわふわ!」
新入部員「揺れる想いはマシュマロみたいにふーわふわ!」
新入部員「揺れる想いはマシュマロみたいにふーわふわ!」

だから、唯に対してとやかく言うつもりはないし、
唯が悪いなんてことはあるはずもないと分かっている。
それでも、こんな光景を嫌だと感じるのは、
唯が遠くへ行ってしまうように思ってしまうのは、
ただの自分のワガママなのだろうか。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:27:38.88 ID:avzC+MY60
唯「ああ神様お願い! ふたりーだーけーの!」

新入部員「ドリームタイムくだーさい!」
新入部員「私は平沢さんとのドリームタイムが欲しいです!」
新入部員「きゃーだいたーん!」
新入部員「平沢最高ー!!」

でも、ワガママでも構わない。
自分は、あの軽音楽部が好きだったのだ。
5人で仲良く、紬が持ってきたお茶を飲んで、
唯たちとお喋りして、笑い合って、練習もして、
ライブではみんなが一つになって。

唯「ふわっふわターイム!」

新入部員「ふわっふわターイム!」
新入部員「ふわっふわターイム!」
新入部員「ふわっふわターイム!」
新入部員「ふわっふわターイム!」

あの5人なら、なんでもできる気がした。
あの5人じゃなきゃ、何もできない気がした。
唯、澪、律、紬、そして梓。
5人でやる軽音楽部が、なによりも好きだった。
かけがえのないものだった。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:41:34.72 ID:avzC+MY60
だが今はどうだ。
5人はバラバラになり、
唯や紬は新入生のご機嫌取りをしているだけだ。
とくに唯はもう新入生の指導もろくにせずに、
ただギターを掻き鳴らしてはしゃいでいる。
唯や新入生はそれで楽しいのかも知れないが、
こんなものはもう部活としての体をなしていない。

唯「必殺、ぐるぐる弾き~!」ジャーンジャーン

新入部員「出たー、平沢さんの必殺技!」
新入部員「いよっ、平沢さん日本一!」

この現状を見かねて、
マジメに軽音楽をやりたかった新入生は辞めていった。
あとに残ったのは、ただ平沢唯を信奉しているだけの
音楽に微塵の興味もないろくでもない新入生ばかり。
辞めていった新入生たちの選択は正解だったろう。
もうマジメに軽音楽をやろうというほうが少数派なのだ。

軽音楽部は変わってしまった。
もう、こんなのは自分が好きだった軽音楽部ではない。
自分が好きだった先輩たちも、もういない……。
梓はずっとそんなことを考えていた。

そしてある朝、かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いが、
きれいに失われていることに梓は気づき、もう限界だと知った時、部活を辞めた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/13(火) 23:50:54.23 ID:avzC+MY60
――

――――

――――――

唯「りっちゃんりっちゃん!
  あずにゃんが部活辞めたって本当!?」

律「えっ、ああ、本当だよ。
  さわ子先生から聞いた」

唯「なんで辞めちゃったの?」

律「部員が多すぎて居心地が悪くなった……らしい」

唯「ええッ、何それ。
  部員がいっぱいだったら楽しいのに!」

律「……」

唯「ねー、りっちゃんもそう思うよね」

律「……分かってないな、お前は」

唯「え、何を?」

律「ほら、授業始まるから席もどれよ」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:00:47.47 ID:8mWMTL0W0 [1/24]
唯「ねーねー、何を分かってないの?
  教えてよお」

律「あーもー、先生来るから早く席もどれよ」

唯「教えてくれたら戻る」

律「えー」

唯「早く教えてよ」

律「……」

唯「ねーねー」

律「…………唯が悪いんだぞ」

唯「えっ?」

律「梓は、私たち5人で軽音楽部をやりたかったんだ。
  でも唯や澪、ムギは新入生におだてられていい気になって、
  もう5人で演奏することも無くなっちゃったからな。
  それで梓は嫌になっちゃったんだろ」

唯「……」

先生「早く席につけー」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:06:21.02 ID:8mWMTL0W0 [2/24]
放課後。

紬「やっと授業終わったわね」

澪「よーし、今日も部活行くか!」

律「私帰るわ」

澪「なんだよ、また帰るのか?
  最近ろくに部活でてないじゃないか」

律「別にいーだろ、じゃーな」
ガラッ

澪「なんだあいつ」

紬「まあまあ、部活に行きましょう」

澪「そうだな、今日は新入生のために詞を書いてきたんだ!
  みんな喜んでくれるだろうな~」

紬「私も、いつもより8倍高級なお菓子を持ってきたの。
  みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶわ~」

唯「……」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:11:13.47 ID:8mWMTL0W0 [3/24]
澪「どうした、唯。早く行くぞ」

唯「え、うん……
  そういえば、あずにゃん部活辞めたんだってね」

澪「あー、そうらしいな」

紬「せっかく1年間やってきたのに、勿体無いわね」

唯「…………え、それだけ?」

澪「? 何が?」

唯「あ、あずにゃんが部活辞めたんだよ?」

紬「ええ、それがどうかしたの?」

唯「え、でも……」

澪「そんなことより、早く部室に行こう!
  新入生たちが待っている!」

紬「ええ、そうね!」

澪「あははははははははははは」
紬「あははははははははははは」

唯「…………おーい」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:18:34.95 ID:8mWMTL0W0 [4/24]
――

――――

――――――

豊崎「はあ、今日もプール用具倉庫で部活か」

日笠「涼しくていいじゃないですか、狭いけど」

豊崎「あんな屈辱的な涼しさならいらないわ……ん?」

唯「……」

豊崎「あっ、軽音楽部の平沢唯」

唯「……あ、吹奏楽部の部長」

豊崎「こんなとこで何やってんの?
    せっかく部室あげたんだから、
    とっとと練習しに行きなさいよ」

唯「あ、うん……いやまあ、ちょっと」

豊崎「何よ」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:24:16.12 ID:8mWMTL0W0 [5/24]
唯「2年生の後輩が辞めちゃって」

豊崎「あっそう」

唯「それが実は私が原因みたいなんだよね」

豊崎「どういうこと?」

唯「私が新入生にばっかりかまけて、
  新入生に褒められて良い気になって、
  そっちにばっかり傾倒しちゃって……
  普段の活動をおろそかにしちゃって。
  それで、嫌になって辞めちゃったみたい」

豊崎「ふうん」

唯「へへ、ダメな先輩だよね、私って」

豊崎「まあ確かにあんたはダメだけど、
    その子が辞めたのって
    もっと違うことが理由なんじゃないの」

唯「どういうこと?」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:31:22.72 ID:8mWMTL0W0 [6/24]
豊崎「だって原因があんただけなら、
    その子はあんたに注意するはずじゃない。
    ちゃんと練習してください、って。
    その子から注意された?」

唯「されてない……
  注意どころか何も言わずに辞めてっちゃった」

豊崎「何も言わずに、ねえ」

唯「なんで何も言ってくれなかったんだろ」

豊崎「何か言える雰囲気じゃなかったんじゃない?
    そうね、その子はその軽音楽部の雰囲気に負けて、
    辞めていったんでしょうね」

唯「雰囲気……?」

豊崎「心当たりはないの?」

唯「……」

日笠「部長、そろそろ部活に」

豊崎「ああそうね。じゃあね、平沢さん。
    いつか音楽室返してもらうからね」

唯「え、あ、うん……」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:39:28.37 ID:8mWMTL0W0 [7/24]
音楽室。

唯「……雰囲気、かあ」

紬「あら、どうしたの唯ちゃん。
  第2音楽室の方は行かないの?」

唯「いや、ちょっとね」

紬「あら、そう」

澪「今日はみんなのために歌詞を書いてきたんだ!
  いまから歌うから、聴いてくれよな!」

新入部員「ミオミオの歌を聴けるなんて幸せで死にそうです!」
新入部員「耳だけじゃなく5感のすべてでミオミオの歌を感じたいです!」
新入部員「私たちのために歌詞を書いてくれるなんて感激で泣きそうです!」
新入部員「ミオミオ最高です! 私、ミオミオに一生ついていきまあああす!」

澪「だひゃひゃひゃ、参っちゃうなーもう!
  じゃあ歌っちゃうぜー!」

新入部員「うおおおおおおお!」

唯「……」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:46:24.01 ID:8mWMTL0W0 [8/24]
紬「ほーらみんな~、お茶にしましょ~。
  今日の紅茶とお菓子は、みんなのために
  いつもより8倍高級なのを持ってきたわ!」

新入部員「いつも美味しいお菓子をありがとうございます、紬お姉さま!」
新入部員「紬お姉さまのお菓子のおかげで毎日を生きていられます!」
新入部員「せっかく紬お姉さまが持ってきてくださったお菓子、なんだか食べるのがもったいないです!」
新入部員「紬お姉さま最高です! 私、紬お姉さまに一生ついていきまあああす!」

紬「どぅふふふふ、もうみんな、
  そんなに褒めても何も出ないわよ~……
  と言いたいところだけど、
  今日はおまけでいつもより20倍高級なお菓子も用意しちゃいましたー!!」

新入部員「うおおおおおおお!」

唯「……」

紬「唯ちゃんもどう?」

唯「いや……遠慮しとく」

唯は、初めて自分たちの姿を冷静に見ることができた。
そこにあったのは確かに異様な光景だった。
梓は毎日これを見て、何を考えていたのだろう……
と唯は思った。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 00:55:16.51 ID:8mWMTL0W0 [9/24]
第2音楽室。

ガラッ
唯「やあ」

新入部員「あーっ、遅かったじゃないですか平沢さん!」
新入部員「みんなで心配してたとこなんですよー!」
新入部員「もうっ、授業終わったらすぐに来てくんなきゃイヤイヤですぅー!」
新入部員「ここにいる全員、平沢さんに会いたくて来てるんですからね!」

唯「え、うん……ごめん」

新入部員「あれっ、なんか元気ないですね!」
新入部員「具合でも悪いんですか? 保健室行きますか?」
新入部員「頭痛ですか? 腹痛ですか? 関節痛ですか?」
新入部員「あんまりご無理をなさらないでください、平沢さん!」

唯「だ、だ、大丈夫だよぉー、ほら元気元気。
  じゃあ早速練習しようか」

新入部員「はあーい」

今まで自分を崇め讃え信奉していた新入生たち。
唯にはそれが気持ち悪いものに見えてしまっていた。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:03:04.30 ID:8mWMTL0W0 [10/24]
唯(そうか……あずにゃんはこの雰囲気がイヤで、
  部活を辞めちゃったんだね)

新入部員「平沢さん、早くやりましょうよお」

唯(この新入生たちのせいで……
  いや、この新入生たちに踊らされて、
  自分を見失っていたバカな私が悪いんだ)

新入部員「ひっらさっわさーん」

唯(そんな私を見るのが耐えられなくて……
  音楽室に居るのも嫌になって……
  あずにゃんは……)

新入部員「あのー、平沢さん?」

唯(そういえばりっちゃんも言ってた。
  あずにゃんはもう軽音部が嫌になった、って。
  ……あ、そうか、りっちゃんも……!!)

新入部員「あの……」

唯「ごめん、やっぱり私、今日は帰る!」ダッシュ

新入部員「あ、ひ、平沢さん!?」

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:10:09.87 ID:8mWMTL0W0 [11/24]
――

――――

――――――

夕焼けの茜に染まる閑静な住宅街、
家に向かう律の背中に息を切らせた唯が飛びついた。

唯「り゛っぢゃああああああああああん!!!」

律「うおっ、唯!? どうしたんだ、いきなり」

唯「はあ、はあ、きょ、ね、はあ、はあ、が、はあ、はあ、あずにゃ、はあ、はあ」

律「まず息を整えろ」

唯「はーはーはーはー……はあー……」

律「落ち着いたか」

唯「うん」

律「で、なんでいきなり人の名前を叫びながら全力疾走してきたんだ。
  すげえ恥ずかしいぞ」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:14:44.85 ID:8mWMTL0W0 [12/24]
唯「いやあ、一刻も早くりっちゃんと話がしたくなって」

律「じゃあ電話でもすりゃいいじゃん」

唯「なんか学校にいたくなくて……
  特にあの部室には……」

律「……」

唯「あずにゃんが辞めちゃった理由、
  分かった気がするよ。
  私、大勢の新入生に慕われて、
  いい気になりすぎちゃってた」

律「うん」

唯「自分自身を見失って、
  もう軽音楽部のこともどうでもいい感じになっちゃって。
  ただ自分を褒めてくれる人たちの中で、
  楽しい思いをしていたいだけだったんだ」

律「うん」

唯「……あずにゃんはそれが嫌だったんだよね。
  あずにゃんは、誰よりもあの軽音楽部が好きだったから」

律「ああ、そうだな」

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:21:50.45 ID:8mWMTL0W0 [13/24]
唯「今日やっと自分でも分かったよ。
  確かにあの雰囲気は異常だって。
  りっちゃんもそれに気づいてたんだね」

律「ああ、まあな。
  澪やムギが、唯の言ったように
  新入生に持ち上げられて、馬鹿みたいになって……
  私はそんなの見たくないんだ」

唯「そっか」

律「私も……もう部活辞めようかな」

唯「えっ、そんな……」

律「だって、あんな音楽室にいても楽しくねえよ。
  不愉快になるだけだもん」

唯「でも……」

律「私な」

唯「何?」

律「前、梓に言ったんだ。
  軽音楽部がバラバラになってるように見えても、
  心の底では放課後ティータイムは繋がってる、って」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:26:43.44 ID:8mWMTL0W0 [14/24]
唯「へえ、良いこと言うね」

律「でも……実際には違ってしまってるみたいだな。
  ほんとにバラバラだったんだ」

唯「……」

律「梓もそれを心のどこかで感じ取ったから、
  軽音部を辞めちゃったのかもな」

唯「そ、そんなこと……
  澪ちゃんやムギちゃんだって、説得して……」

律「説得して、改心すると思うか?
  あいつら本気で幸せそうな顔してたぜ。
  梓が辞めたことだって、まったく気にしてないみたいだったし」

唯「でも……」

律「……」

唯「……」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:32:42.42 ID:8mWMTL0W0 [15/24]
律「……こんなことになるなら、
  新入部員なんて入んない方が良かったな」

唯「それは違うよ、りっちゃん……
  私たちが部活という体裁を取っている以上、
  新しい部員が入ってくれるのは喜ぶべきだよ。
  悪いのは新入部員じゃなくて、私たちだよ」

律「……お前は偉いな」

唯「そ、そうかな」

律「そうだよ……私なんて部長なのに、
  もう諦めて退部しようとしてるんだぜ?」

唯「あは、そういえばりっちゃんは部長だったね」

律「忘れてたのかよ」

唯「うん……なんか自分が部長みたいな気になってたから」

律「そっか…………」

唯「……」

律「…………もう、戻れないのかな」

唯「……」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:43:10.41 ID:8mWMTL0W0 [16/24]
その夜、唯は梓に電話をかけて、
今までの過ちを全て謝罪した。
梓も泣きながら自分の胸中を告白した。

梓「ううっ……嫌だったんです、
  みんな変わっていってしまって……」

唯「うん」

梓「私たちのっ……ぐすっ、軽音部が……
  ひっく、壊れていく気がしてぇ……」

唯「うん」

梓「5人で……のっ、演奏も、ひぐっ、
  しなくなってっ……」

唯「うん」

梓「軽音部のこと……先輩たちのこと、
  ひぐっ、大好きだったのにっ……」

唯「ごめんね、つらかったね……」

梓「ぶわあぁぁぁぁん!」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:49:11.69 ID:8mWMTL0W0 [17/24]
唯「もう部活には来ないの?」

梓「はい……
  あの軽音部には、行きたくありません」

唯「そっか……」

梓「すみません」

唯「いや、いいんだよ。気にしないで。
  でも……」

梓「?」

唯「澪ちゃんとムギちゃんを説得してみない?
  もしかしたら元の軽音部に戻るかも知れないよ」

梓「えー……そんなにうまくいきますかね」

唯「やってみる価値はあるよ。
  りっちゃんも誘ってさ、明日、やってみようよ」

梓「……はあ、唯先輩がそこまで言うなら……」

――

――――

――――――

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 01:56:20.44 ID:8mWMTL0W0 [18/24]
翌日、放課後。

澪「はあはあ、ふっひひひひ、やっと授業終わったなあムギ……」

紬「ああもう部室に行きたくて行きたくてたまらないわ!
  早く行きましょう、澪ちゃん!」

澪「ああそうだな、このために学校来てるようなもんだしな!
  行くぜムギ!」ダッシュ

紬「ええ!」ダッシュ

律「……あいつら日に日にヤバくなっていってないか」

唯「あはは……」

律「ほんとに元に戻せるのかよ」

唯「それはやってみないと分かんないよ」

ガラッ
梓「あのー……先輩」

唯「あ、あずにゃん」

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:04:37.12 ID:8mWMTL0W0 [19/24]
梓「さっきそこで、澪先輩とムギ先輩とすれ違ったんですけど……
  あれ大丈夫なんですか?
  目とか完全に逝っちゃってるじゃないですか」

律「大丈夫かどうかはこれから確かめに行くんだ」

梓「……どうにも手遅れっぽいですけど」

唯「そう決めつけるのは早計だよ。
  さあ、音楽室に行こう」

律「ああ」

梓「はあ……でもなんだか、
  あんな先輩たちを見るのはもう嫌です……」

律「だからこそ、あいつらの目を覚まさせてやる必要があるんだ」

唯「うん、そうだよ。
  そしてそれには、軽音部の変化に一番敏感だったあずにゃんの説得が欠かせない」

梓「は、はい……分かりました」

律「よし、じゃあ行くか……敵陣へ」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:23:56.53 ID:8mWMTL0W0 [20/24]
――

――――

――――――

音楽室。
そこにはうず高く積まれた机の上でふんぞり返って、
新入部員の崇拝を一身に集める澪と紬の姿があった。

澪「はははははは! 跪け! 崇めろ!
  私は天下のミオミオ様だぞ!」

新入部員「ははーっ、ミオミオ様ー!」
新入部員「ミオミオ様、ミオミオ様ー!」
新入部員「ミオミオ様のお声を聞けて幸せです!」
新入部員「私、ミオミオ様のために死にます!」

紬「ほうれほうれ、お菓子だぞお菓子!
  私の慈しみと優しさの心を食すがいいわ!」

新入部員「ははーっ、ありがたき幸せ!」
新入部員「ああっ、こちらにも! こちらにもお願いします!」
新入部員「おいしゅうございます紬お姉さま!」
新入部員「もっと、もっとくださいませ!」

梓「…………帰りたいです」

唯「……」

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:35:07.96 ID:8mWMTL0W0 [21/24]
律「おい、澪、ムギ!
  いいかげん目を覚ませ!
  こんなこと続けてたって良いことないぞ!」

唯「そうだよ、澪ちゃん!
  そこから下りてきて!」

梓「ムギ先輩もお菓子で餌付けはやめて下さい」

澪「ん……なんだ、お前らか。
  お前らも早く部活をやれよ」

律「馬鹿か、これのどこが部活だ!
  思い出せ、あの日の軽音部を!」

唯「そうだよ、5人で楽しく、
  お茶したりバンドしたりしてたじゃん」

梓「私、もうこんな澪先輩やムギ先輩は見たくないんです!
  もとに戻ってください!」

澪「ハッ……何を言っているのか分からんな」

紬「そうよ、馬鹿なことばかり言って……
  あなたたち、あいつらを追い出しなさい」

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:40:13.03 ID:8mWMTL0W0 [22/24]
新入部員「はっ! 了解しました紬お姉さま!」
新入部員「オラオラ、紬お姉さまにたてつく奴は今すぐに出て行け!」
新入部員「消え失せろ、オラオラ!」
新入部員「神聖なる紬お姉さまを穢す俗物め!」

唯「ひいっ、痛い、痛い!」

梓「や、やめてっ……!」

律「ゆ、唯、梓、ここは一時撤退だ!」

唯「らじゃー!」

梓「ちょ、ちょっと待ってくださいよう……」


――

――――

――――――

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:43:21.84 ID:8mWMTL0W0 [23/24]
教室。

律「はあ、はあ……」

唯「まさかあんなことになってるとは思わなかったね」

梓「ど、どうするんですか?」

律「えー、もうどうにもならんと思う……」

梓「諦めるんですか」

律「だって行っても追い返されるし……
  あいつらの気が済むまでやらせとこうよ、もう」

唯「気が済めば、いいんだけどね……」

梓「放置しといたら今以上に増長しますよね」

ガラッ
豊崎「……あっ、軽音楽部の」

唯「あ、吹奏楽部の」

豊崎「何やってんの?」

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 02:49:32.61 ID:8mWMTL0W0 [24/24]
唯「実はカクカクシカジカで」

豊崎「ふうん……後輩とは仲直りしたけど、
    他の部員がエラいことになってる、と」

唯「まあそんなかんじ」

豊崎「部員が多いと色々大変ね、
    部員が多いと」

唯「あはは、吹奏楽部並の部員数が丁度いいよね」

梓「嫌味言い合ってる場合じゃないでしょう。
  これからどうするかが問題です」

律「いいじゃんもう、様子見で」

唯「ううん……現状だとそれしかないかなあ」

梓「部室じゃなくて、新入生のいないとこで……
  休み時間とかにこのクラスで話すってのは」

律「だめだめ、あいつら、授業中も休み時間も
  新入生たちとずーっとメールしてるもん。
  こっちの話なんか聞きゃしねえ」

梓「はあ……」

豊崎「……」


163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:00:28.19 ID:8mWMTL0W0
それから何もしないまま数日が過ぎた。
相変わらず澪と紬は新入生からの崇拝を受けて
音楽室の神様を続けていた。

律はもうすっかり諦めた様子で、
もう軽音楽部のことを気に掛けることもなくなった。
澪と紬のことも完全にスルーし、
今では澪よりも唯と仲良く過ごしている。

唯は軽音楽部に行かなくなった。
澪と紬のことは心配だったが、
どうにもできないまま悶々とした日々を送っていた。
ときおり教室に唯を信奉していた新入生がやってきて
軽音楽部に戻るように説得されたが、
唯はきっぱりとNOを突きつけていた。
そしてそのうち新入生も来なくなった。

梓はまだ諦められなかった。
あの5人でやっていた軽音楽部を、
放課後ティータイムを、その手に取り戻したかった。
しかし唯と同じく、澪と紬に対して何もすることが出来ず、
もどかしい気持ちを抱えていた。

だが異変は起こっていた。
誰にも知られないまま、少しずつ、確実に。
最初に気づいたのは律だった。

169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:04:32.80 ID:8mWMTL0W0
律「なあ、唯。気付いたか?」

唯「なにが?」

律「澪とムギがメールを打つ回数、
  明らかに減っている」

唯「えっ、そうなの?」

律「ほら、現に今、携帯に触れてもいないだろ」

唯「あ、ホントだ。前までは一日中携帯開いてたのに」

律「なんかあったのかね」

唯「へへ」

律「ん、なんだよ」

唯「いやー、なんだかんだ言っても、
  やっぱり澪ちゃんたちのこと気にしてるんだなって思って」

律「ただ視界に入るだけだよ」

唯「どうだか」

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:09:00.16 ID:8mWMTL0W0
律「なあ、今日の放課後、
  久々に音楽室を見に行かないか?
  梓も誘ってさ」

唯「え、うん、いいけど」

律「私の予想では、何かが起こってるよ。間違いなく」

唯「何かって、何が?」

律「それはまだ分かんないけど。
  ただ、私たちにとって良いことだといいな」

唯「切に願うね」

律「ああ」

6限目の授業が終わった後、
澪と紬はいつものように奇声を発しながら
全速力で教室を飛び出していった。

唯と律は梓と合流し、
音楽室へと向かった。

――

――――

――――――

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:14:20.27 ID:8mWMTL0W0
澪と紬は以前よりも高く積まれた机の上で
ふんぞり返っていた。
これは前と変わらないが……。

唯「あっ、取り巻きの新入生が少なくなってる」

律「えっ、マジで?」

梓「あ、ほんとだ……5,6人しかいませんね」

律「一体どうなってんだ……?
  どこいっちまったんだ、他の奴は」

唯「辞めちゃったとか」

律「あんなに崇拝してたのに?」

梓「違う宗教に鞍替えしたとか」

律「宗教て」

唯「いずれにせよ謎だね」

律「よし、じゃあもう本人に直接聞くか」

唯「えっ」

178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:18:37.30 ID:8mWMTL0W0
ガラッ
律「おい、澪! ムギ!」

澪「あっ、誰かとおもったらお前か……
  何をしに来たんだ、今さら」

律「何しに来たってわけでもないけど。
  お前らの取り巻きの新入生、ずいぶん減ってんじゃないか」

澪「っ……」

紬「ふん、それがどうしたというの?
  私たちは私たちを崇めてくれる人がひとりでもいれば、
  それでいいのよ」

澪「そうだ、ムギの言うとおりだ。
  まあ律には分からないだろうな、
  後輩に慕ってもらう楽しみって言うのはさ」

律「何いってんだ、お前らには梓って言う大事な後輩がいるだろ。
  去年一人だけ入ってくれた、大事な後輩が」

梓「律先輩……」

183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:26:03.91 ID:8mWMTL0W0
律「思い出せよ、私たちが5人で部活やってた時のことを。
  梓は生意気な後輩だったかも知れない、
  お前らに立てついたことも確かにあった。
  でもそれは軽音部のことが好きだったからだ。
  梓は誰よりも軽音部を愛していたから、
  お前らに愛想つかして出てっちまったんだよ」

唯「あ、りっちゃんったら良いとこ全部持ってく気だ」

律「そんな梓をないがしろにして、何をバカなことやってんだ。
  お前らは結局、後輩に慕ってほしいんじゃなくて
  自分を持ち上げてくれる、讃えてくれる人が欲しいだけだろ」

澪「う、うるさい! うるさいんだよさっきから!
  良いじゃないか別に、後輩たちが私のことを好きで、
  私はそれに答えてやったまでだ!
  何かおかしいか、えぇこら!」

律「ああ、おかしいね。
  お前らの行いで、確実に傷ついてる人間がいるんだから」

澪「生きてりゃ人の一人や二人は傷つける!
  お前はアリを踏まないように気をつけて歩くのか!」

律「梓はお前にとってアリか!
  なんで忘れちまったんだよ、梓と過ごした日々の思い出を」

188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:32:22.35 ID:8mWMTL0W0
澪「思い出? そんなものはとうに捨てたね。
  私たちはこれからこの後輩たちと
  新しい思い出を作っていくんだ!」

律「ふざけたこと言うな!」

澪「もういい、これ以上話しても無駄だ。
  おいお前たち、こいつらを放り出せ!」

新入部員「かしこまりました、全知全能神ミオミオ様!」
新入部員「全知全能神ミオミオ様の名のもとに不埒な輩は追い返してくれる!」
新入部員「出てゆけ! 出てゆけ! 俗人は出てゆけ!」
新入部員「全知全能神ミオミオ様を穢す人間は消え去れ!」

律「痛い痛い痛い、やめろ!」

梓「ついに神になりましたか」

唯「何ノンキなこと言ってんの、逃げるよあずにゃん」

律「おい、まてよ二人とも……!」

――

――――

――――――

192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:38:34.69 ID:8mWMTL0W0
律「はあ、はあ」

唯「ここまでくれば大丈夫かなあ」

梓「それにしても、なんで新入生の数が減ってたんでしょうね」

豊崎「……あっ、軽音部の」

唯「あっ、吹奏楽部の」

律「またあんたか、よく会うな」

豊崎「これはこっちのセリフだわ。
    息切らしてるけど、なんかあったの?」

唯「実は澪ちゃんたちの取り巻きが減ってて、
  なんでなんだろーって思って」

豊崎「……フッ、そこに気付くとは」

唯「えっ……なにか知ってるの?」

豊崎「知ってるも何も……
    私たち吹奏楽部があんたのとこの部員を
    ごっそり頂いたのよ」

唯「ええっ?」

194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:44:13.98 ID:8mWMTL0W0
律「ど、どうやって?」

豊崎「そんなに難しいことはしていないわ。
    ああいうのは崇拝対象の人間性ではなく
    カリスマ性に惚れているだけなのよ。
    つまりはちょっとそういうのを見せつけてやれば、
    コロッと心変わりするものなのよ」

梓「へえ」

豊崎「まあ、ああいうのは基本的にバカだから。
    思ったより簡単にいけちゃったわ」

唯「そうなんだ、すごいね」

律「ああ、あんたええ人やな……
  私たちのために、わざわざ……」

豊崎「いえいえ、礼には及ばないわ。
    人の役に立てと、幼い頃から教えられていて」

日笠「豊崎部長~、軽音楽部の不和に乗じて
    部員を根こそぎ奪い取って部室奪還作戦は
    うまくいk……」

豊崎「オラア!」ボカッ

日笠「ぐはっ」

196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:47:56.61 ID:8mWMTL0W0
唯「不和? 奪還?」

豊崎「ああ、いえ、気にしないでね。
    あっ、残りの新入部員も近いうちにどうにかするから。
    取り巻きがいなくなってしまえば、
    全知全能神ミオミオ様と宇宙創造神ムギムギ様も
    いいかげん目をさますでしょう」

梓「そうですね、ありがとうございます……
  私たちのために、そこまでしてくれてっ……」ぐすっ

唯「ほんとだよ、感謝してもしきれないよ!
  ありがとう、豊崎さん!」

豊崎「良心が痛むわ」

律「え、何?」

豊崎「なんでもないわ。
    じゃあこれで失礼するわね、いくわよ日笠」

日笠「は、はい……」


――

――――

――――――

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:53:47.62 ID:8mWMTL0W0
豊崎の言った通り、
すべての新入部員は軽音楽部を去っていった。
そして信仰者を失った澪と紬はようやく我に返ったのだった。

澪「すまなかったな、みんな……
  私、やっと目がさめたよ」

紬「私もどうかしてたわ。
  あんなバカなことをやっていたなんて……
  もう忘れてちょうだいね」

唯「うん、分かってるよ」

律「…………全知全能神ミオミオ」

澪「ひぃっ」

梓「…………宇宙創造神ムギムギ」

紬「うわあああああああ」

梓「しばらくは脅迫の種に使えそうですね」

律「そうだな」

唯「人の黒歴史を掘り返しちゃいけません」

202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 03:59:43.18 ID:8mWMTL0W0
律「まあ、何はともあれ5人で再スタートだな」

梓「はい……やっぱりこの5人でやるのが、
  一番いいです」

唯「そうだね」

澪「ようし、じゃあ早速音楽室に行こう!」

紬「お~!」

和「……ダメよ」

唯「うおっ、和ちゃん」

梓「ダメってどういうことです?」

和「吹奏楽部の部員が爆発的に増加したのよ。
  だから軽音楽部が使用していた2つの音楽室は、
  両方とも吹奏楽部に開け渡してもらうわ」

唯「えっ!? なんでそんないきなり」

和「弱小部であるあんたらに反論する権利はないわよ。
  あっ、ちなみに軽音楽部にの新しい部室なんだけど、
  どこも教室が空いてなくって。
  申し訳ないけど、プール用具倉庫を使ってもらうことになったから。
  じゃあ、そういうことで」

204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 04:04:23.25 ID:8mWMTL0W0
唯「……」

律「……」

梓「……」

澪「……」

紬「……」

律「くそ……吹奏楽部にハメられたな」

唯「まあまあ、いいじゃん部室くらい。
  吹奏楽部のおかげで解決したんだしさ」

梓「そうですよ。ほら、プール用具倉庫に楽器運びますよ!
  急いでください、先輩たちも!」

澪「はいはい、元気だな梓は」

紬「ティーセットも持っていっていいのかしら?」


こうして新たな始まりを迎えた軽音楽部。
翌年たくさんの新入部員が入って、
吹奏楽部から音楽室を取り返したのはまた別の話である。

     お        わ        り

205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/14(水) 04:05:08.36 ID:8mWMTL0W0
これでおしまい

予想より長く、そしてワケワカラン展開になったけど
国民の皆様なら理解していただけると信じている

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