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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

276 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:24:56.96 ID:riV/9sg0 [1/42]
まずは大見得切っといて展開がさーせん   打ち止めさーせん
正直何度も書いて消して繰り返して頭が煮詰まりすぎて、厳しくなった
で、今読み返してぎりぎりありなのかなーっと思ったので投下するわ
はぁ、取り消した文章だけで軽く2パートできたんだが…

なんか悲しい系のBGMでも聞きながら読んでくれ そうしないと…誤魔化せないwww
メルト、ゼロ使のI SAY YES、目が逢う瞬間、スカイクラッドの観測者 とか聞いてかいてますた

※9982の実験並みに書き直しをした結果俺の脳内補完がすごいことになってる 

277 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:26:28.40 ID:riV/9sg0 [2/42]





「ンだっおい! 全っ然楽しめねェぞっ!!」

強引に千切ったかのようなぐちゃぐちゃな断面からは、骨が見え内臓が抉れ零れ落ちる。
右半身を失った男は、言葉にならない声を発しながら数秒後に、絶命。
一方通行は白で統一された壁面や通路を、どす黒い赤で塗りつぶしていく。
どこか無機質さを感じた部屋にその名残は欠片も無く、鮮血で染まり狂気を放っていた。

「死んどけよ」

突然の乱入者に仲間の半分がやられた男達は、動揺や恐怖を感じつつもまだ数に安心していた。
どこで入手したのか、拳銃を持った男が一方通行を狙い、撃つ―――――

「―ッ!?」

理解できないと驚愕の表情を浮かべ、己の右手が暴発した拳銃によって致命的な傷を負った事に気付き絶叫を上げる。
まだ自分の能力をまるで理解していない男達の滑稽さに哂う一方通行。
発砲してきた愚かな男に一瞬で距離を詰め左手で顔面を握り潰す。
ぐにゅり、と間抜けな音を出して、男は顔を失くした。
左右の目の玉が視神経で僅かに繋がったまま、顔のない男の顔面からぶら下がっている。
脳に損傷を与えていないのでまだ死なないだろう。抉れた顔面の口元と思われる所からはコフコフと空気が漏れた。


278 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:27:17.65 ID:riV/9sg0
>>237 またわすれてた




「おっと、やりすぎたかもしれねェなァ。あァでも安心しろよ、まだお友達は生きてンぜェ?」

ふざけんなクソ! と口にした男が鉄パイプを一方通行の顔面に振り下ろす。
一拍、男の腕がありえない方へぐにゃりと曲がり鉄パイプを落とした。
その様子を見て、バーカ、と呟き無造作に鉄パイプを拾い上げ男へ投げる一方通行。
ドスッ、と鈍い音が響くと男の頭を貫通したパイプは丁度真ん中で止まり、その両端からは血液とゼリー状のものが流れ落ちた。
あまりにも理不尽な現実に、男達はようやく目の前の存在が異質であると認める。
だが、遅すぎた。

「ビビンなよ、頭にパイプが刺されば脳味噌くらい零れンだろォ?」

出来の悪い生徒に優しく教える先生のように、当然の帰結を語る。

「それによォ、俺もここに致命的な損傷ってやつがあンだけど、明るく前向きに生きてンだぜェ?」

自身の頭を指差しながら、そう言い捨てて一方通行は哂った。
この異常な現実を平然と語り、造りだす一方通行に男達は恐怖しかなかった。
惨劇は続く。逃げ出すことなど出来る筈がない。



279 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:28:42.75 ID:riV/9sg0


「少しは根性見せようぜェ。俺が弱い者虐めしてるクズみたいじゃねェかァ」

そう言って男達を軽く見回し、次の獲物を決めた。
一方通行が軽く床を蹴るとドンッ、と轟音をたて建物が軋み、悲鳴をあげた。
哀れな獲物となった男が自分を狙う一方通行に気付いたときには、全てが終っていた。
あれ、と男が呟くと体が崩れ落ちる。目の前にいる一方通行が哂い声を噛み締めていた。

「オマエ死んでるぜェ?」

え、と胸部に穴を開けた男が倒れ伏し、絶命する。
一方通行はこの殺戮を、どこか冷めて目で見ている自分がいることに気付く。
今自分のしていることは単なる八つ当たりだと。
この男達は正真正銘の屑だ。それは間違いない。
だが、自分がやってきたことに比べれば児戯に等しい行為だ。
順列をつけるなど間違っている事だが、単純に比較すれば誰でもそう判断するだろう。
一方通行は1万人も殺している。

「まだ3分も経ってねェぞ? 暇潰しにもなンねェよ、こっちは杖突の身体障害者だぜェ?」

血で真っ赤に染まった杖をこれ見よがしに男達に見せ付ける。
挑発に乗った男が一人、叫ながら一方通行へと突進。
ナイフを突き立てようと腰だめに構えた男は、一方通行に触れたその瞬間に腕が自分の体にめり込んだ。
肘が気持ち悪く曲がって腕が腹に突き刺さり苦悶の表情を浮かべ倒れ込む。
(残り38秒…)
惨状に耐え切れず、一方通行の脇を抜けて逃げようとした男に右手を突き出し大気のベクトルを操作。
まるで落ちるかのようにして男は壁面に激突した後痙攣して動かなくなる。
(32秒…)
一方通行は冷静に残り時間を数えながら残った男達をどうするか考えた。
その気になればいつでも殺せるのだが、どうもやる気が起きない。
女はもう逃がした、八つ当たりにも飽きて面倒になってしまった。
口調とは裏腹に一方通行は冷め切っていた。



280 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:29:38.85 ID:riV/9sg0


「…チッ、くっだらねェ」

男達にもう戦意はない。
当たり前だ、あんな光景を目の当たりにして立ち上がるほうがどうかしている。
最強に挑んできたバカは過去相当数居たが、二度立ち向かってきた奴は居ない。
一方通行の能力を知ってなお単独で挑んできた例外はあのバカだけだ。

「消えろ」

そう男達に吐き捨ててチョーカーのスイッチを切る。
残り時間は20秒、これ以上の使用はオフ状態の活動時間にも問題が生じる。
変わり果てた赤い部屋に背を向け、歩き出そうとしたとき携帯の着信音が響く。

「―ッ」

思考が止まり、顔が強張る。
一方通行が、最も恐れていたことが現実に起きた。
働かない頭で考え否定する。まだ芳川からの電話だとは限らないと。
通話相手を確認しようとポケットから、震える手で携帯を取り出す。
一方通行は動揺のあまり忘れていた。自分の携帯番号を知っている人間に、打ち止めと欠陥電気が含まれていないことに。
そして気付けなかった。まだ戦意を失っていない男が残っていたことに。
背後の足音に気付き即座にスイッチを入れようとするが、左手は携帯で塞がっている。
(なにやってンだ俺は――――)
後頭部にゴンッと鈍い音が響き視界が揺れ、碌に受身も取れず地面に倒れこんだ。



282 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:30:30.32 ID:riV/9sg0


「な、何だよおい! 楽勝じゃねえかっ!!」

男の声が聞こえる。
一瞬何が起きたのか理解できない。頭部にズキン、と鈍痛が走った。
どうやら自分は男にやられ無様に倒れているらしい。
戦意を失っていると勘違いをし、携帯に気を取られこの様だ。

「オマエ、全殺し確定………がぁッ!!」

言葉の途中で背中に激痛――――焼ける様な痛みが襲った。

「おいおい、何言ってくれちゃってんだよガキィッ!!」

男はそう言って今度は倒れ伏している一方通行の横腹を蹴り上げる。
碌に受ける姿勢も取れないまま腹部に衝撃を受け苦悶の声を漏らし一方通行。そして哂った。
男が不気味そうに一方通行を見下ろすが、その視線すら哂えた。
愉快だった。とてつもなくいい気味だった。殺すより殴られた方がずっと気が楽になった。
無様を晒すことは今に始まったことじゃない。今更どうでもよかった。

無能力者に負け実験は中止になり、打ち止めを救って演算能力を失い、欠陥電気を助け過去を突きつけられた。
どれもこれもが自業自得。
無敵になれば誰も傷つけずに済むと思った。打ち止めを救えばやり直せるかもしれないと縋った。
そして、居もしない神が粋な計らいをしてくれた。
平然と踏み潰してきた中にしぶとい生き残りがいた。ただ、そいつはどう足掻いても地獄行きが確定していた。
やってくれるものだ。しっかりとオチを付けてくれる。この喜劇を自分は見事に演じきった。
能力を失い、欠陥電気を殺し、次は打ち止めの番だろうか?



284 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:31:07.08 ID:riV/9sg0


「―――クッ、アッハハハハハハハハハハハッ!!」

突然狂ったように声を上げて哂う一方通行に男はぎょっとして身を下がらせた。
仲間を分けも分からない方法で解体したかと思えば、殴り倒されて突然哂い出す。
目の前の少年が男には何なのか分らなかった。
だからさっさと殺すことにした。殴られて血が出る以上殺すことが出来ると信じ、
男は哂い止めない一方通行を殺すべく、近づいて鉄パイプを上段に大きく振りかぶり―――

「残念でしたァ」

その言葉を意味するところを理解する前に男は死んだ。
頭部にいくつかの穴を開けて。

「あー、クソッ、マジ痛ェなおい。―――で、オマエらはどうすンだァ?」

まだ残っていた男達に、一方通行は顔を歪め問う。






285 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:31:53.89 ID:riV/9sg0




手に持っていた拳銃を放り投げ、額を通って流れる落ちる血を袖で拭いた。
最後の男を殺したのは、路地裏で殺した男から奪った拳銃だった。
拳銃を使うときに落とした携帯を拾い上げ、一拍置いて着信履歴を見る。

激しい感情は沸き起こらなかった。
ただ、どこか諦めにも似た寂寥感が一方通行の心を押し潰す。
何となく思っていたことだ。結局こうなってしまうのだと。

無言のまま履歴からリダイヤルしてかけると僅か数回のコールで相手は出た。
出て欲しくないときに限って早く出やがると、一方通行は胸の内で悪態をつく。

「よォ、オマエのお陰で三途の川を渡りかけたぜェ?」

『あら、それは残念ね』

開口一番の皮肉を軽く流す芳川。
実際一方通行は殺されかけてはいるのだが、まさか芳川も事実だとは思わなかっただろう。
予定調和である挨拶を終え、二人は本題に入った。

「で、イイ知らせと悪い知らせの両方があンのか?」

『…そうね、悪い知らせと、悪いけど救いがある知らせってところかしら』

「…そォかよ」

一方通行は短く返し、芳川の言葉を待った。

『統括理事会が実験の承認をした。これで実験は晴れて学園都市公認となるわ』

「…」

『もう一つは、それが施行されるのが明日の朝。どういう事情かは分らないけど
明日の朝までは彼等は動けない。だから―――――』

気が付いたら一方通行は、奥歯をギリッと軋み上げるほど噛み締めていた。
いよいよ年貢の納め時がやってきた。タイムリミットは明日の朝。
せめてもう一日くらい待ってくれれば、また違っただろうに。

『―――それまでに彼女の記憶を消しなさい』

随分と気の利いた台本が用意されている喜劇だと、一方通行は居ない神を呪った。






286 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:34:24.28 ID:riV/9sg0






――――――――――――――――『別離』――――――――――――――――








287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:34:55.64 ID:riV/9sg0





形が崩れて安くなっていた人参をカゴに放り込む。
次は玉葱を、と通路向かいの棚へ向かった。
欠陥電気は平日の夕方の学生で混む近所のスーパーで夕食の買出しをしている。
手に取ったモノを見比べながら、何が違うのか全くわかんないわね、と内心呟いてカゴに入れていく。

今夜はカレー。野菜多めのヘルシー嗜好なやつ。
具は何でもいい、家の連中はあまり極端な好き嫌いは特に無いから。
ただ、ルーが非常にデリケートな問題だ。
甘口と辛口で激論になることは想像に難くない。
カレーをあの家で作るのは初めてだが、外食したときに一度それで言い争いになったことは記憶に新しい。
ちなみに欠陥電気は甘口の方が好きだったりする。打ち止めは言うまでも無く。
一方通行は辛口か、普通を好むだろう。間違っても甘口なんてことが無いことは確かだ。



288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:35:23.01 ID:riV/9sg0



野菜と肉のコーナーを抜けて、固形のルーが売っている棚へ向かう。
んー、と棚を眺めながら唸りつつ、適当なパッケージを手に取る。
不意に山のようにパッケージが積んである特選コーナーが目に入った。
3箱で198円。手元に目を落とし値段を確認する。1箱で215円。
これは、どうするべきなのか。
普通に考えれば3箱198円を買うべきなのだが、家には三人しか居ないうえに皆あまり食べない。
あの家一番の大食漢は欠陥電気という、不名誉な状態なのだ。
しかし、こんな身分になってお金の大切さが身に沁みた今日この頃。
欠陥電気は迷った挙句、山の頂上を崩すことにした。

目的の品は手に入れた。あとこのままレジへ向かって清算すれば終わりなのだが、
家で一人寂しくお留守番しているであろう打ち止めのことを思い出し、ヤンヤンを買って帰ることにした。
間の抜けたコロッケの促販用テーマソングを聞き流しながら、製菓コーナーでパンダのイラストの入ったカップを手に取りレジへ向かう。
缶コーヒーも買って帰ろうかなと考えたが、一方通行の所業を思い出しやめた。
あいつのせいで自分に金を借りるという、恥辱的行動を強要されたのだから。
欠陥電気は胸中で一方通行を罵りつつ店員から釣りを受け取り、やや大きめのビニールに買った物を詰めて家へ帰った。






289 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:37:15.40 ID:riV/9sg0






空を赤く染める夕刻の柔らかい日差しを受けながら、馴染みとなった階段を黙々と登り廊下へ出る。
不意に振り向き、沈む夕日を見た。
歪な地平線に自身を半分ほど埋めた真っ赤な太陽が見える。
秋の冷たい風が思い出したかのように吹くが、ぼんやりとした暖かい光に照らされ寒さを感じることは無かった。
夕暮れを眺めてどのくらい経っただろうか、欠陥電気は間抜けな声をあげて我に返る。
なに黄昏てんだが、と小さく呟いて苦笑すると小奇麗な廊下を歩き同居人の待つ部屋のドアを開けた。

「ただいま、打ち止め帰ったわよー」

欠陥電気の声は玄関を抜け廊下によく響いた。

「…、打ち止め?」

返事が無い。
またネットワークでお喋りに夢中なのだろうか、鍵は閉まっていなかったので家の中に居ることには違いない。
欠陥電気は軽くため息をつき、靴を脱いで家の中へ入る。
ドアを閉めると赤く照らされていた廊下が、薄っすらと黒に染まった。
荷物を左手に持ち替え、右手でスイッチを押し廊下を進む。

「カーテンまで閉めてなにやってんのよ…」

呆れたようにこぼしてリビングに居るであろう打ち止めを探す。
簡単に目的の人物が見つかり、もう一人居ることに気付いた。

「あんた、帰ってたの…。っていうか、お金なくて大変だったんだからね!」

薄暗い部屋の中、強い口調で欠陥電気は言う。

「…、あっそ、そりゃ悪かったな」



290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:38:17.40 ID:riV/9sg0


一方通行はソファーに腰を下ろし、寝入っている打ち止めの頭を膝に乗せている。
所謂膝枕を実践していた。似合わないことこの上ない。

「ンで、飯どうすンだ?」

膝に乗せた打ち止めの髪をぐりぐりといじりながら、欠陥電気を見ることなく言う。
欠陥電気はその物言いに呆れつつ返す。

「作るわよ。わざわざ『私』からお金まで借りてきたんだから」

「そォかい、じゃあさっさと作ってくれ。腹減ってンだよ」

「…ぐ」

にべもない言葉。
一方通行が『私』と会ったという事実を軽くスルーしたことに納得がいかない欠陥電気。そして飯の催促。
どこのダメ親父よ。つーかわたしは召使か、という突込みが喉の奥から競りあがってきたがなんとか飲み込む。
今日は気分がいいのだ、黒子に会って『私』と会って分かり合えた。
楽しくて最高の一日だったのだ。こんなことで一々怒って気分を台無しにすることはない、そう考え―――

「なにボーっと突っ立ってンだ居候。さっさと働け」

―――無理。

「ふっざけんじゃ……」

怒鳴ろうとして、止まる。
原因を作った目の前の張本人は無言で打ち止めを指差していた。
ガキが起きるンだろバカか、と声が聞こえた気がする。
理不尽なことを言っておいて正論を吐くとは、なんてムカつく奴なんだと欠陥電気は思いながら仕方なく準備にとりかかる。
(妙に打ち止めに優しいわね…)
そんな事を考えながら。



292 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:39:03.98 ID:riV/9sg0


トントントン、と野菜を切る規則正しい音が静寂の中部屋の隅々で届く。
この時間にしては珍しくテレビを付けることなく過ごしているからだ。
いつもテレビを見ているであろう打ち止めは、今もすやすやと眠っている。
一方通行もソファーに背を預け何をするわけでもなく、相変わらず打ち止めを膝枕していた。不気味である。

「今日はなンだ?」

「カレー」

「…甘いンじゃねェだろうな?」

何もしないのに注文の多いことだ。
ふと、ルーを煮込むときに砂糖をぶち込んでやろうかと思ったが自爆するだけなのでやめた。

「普通よ。なんか文句ある?」

返事はなかった。
いつものことなので、気にせず切った野菜と肉を鍋に放り込み炒める。
人参、ジャガイモ、玉葱、ピーマン、ブロッコリー、なす、にんにく、牛肉。
想定よりも野菜が多めになってしまったが、まあいいかと納得し手を動かす。

「あんたさ、どこに行ってたのよ?」

いい感じに炒めたところで水を加え、中火よりちょっと小さいくらいに合わせる。

「あン? どうしても知りたいンなら」

「…いいわよ別に」

あとはこのまま20分程煮込んだ後に、ルーを入れてまた煮込んで終り。
肩を鳴らしエプロンはそのままで、冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出す。

「缶コーヒー」



293 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:39:45.03 ID:riV/9sg0


催促の声が聞こえてきたので嘆息しつつも缶コーヒーも手に取りリビングへ向かう。
投げるように渡して向かいのソファーに腰を下ろしジュースを飲む。
口の中をシュワッ、と炭酸がはじけ舌を刺激する。甘い。

「ブラックコーヒーって美味しいの?」

「さァな」

唐突に思った事を口にしただけだが、なんとも微妙な答えが返ってきた。
気だるそうに缶コーヒーに口をつける一方通行。
さっきからまるで今日の事を聞いてこない連れない同居人に、ちょっとだけ腹が立つ欠陥電気。
(…全く興味がないわけ?)
あの一方通行なのだから仕方ないといえば仕方ないが、どこか腑に落ちない。
そうこうしている内に時間が経ち、セットしていたご飯が炊き上がる。
炊き上がったことを確認して、キッチンに戻り鍋にルーを入れ弱火にする。
固形のルーが溶けるさまを眺めながら、十分溶けたのを確認し火を落とした。

「打ち止め起こしたら?」

「放っとけ」

素っ気無く言い放つ。
(優しくないわやっぱり…)
そんなことを考えながらも皿を二つしか用意しない欠陥電気も相当アレである。
カレーは煮込みが足りなかったのか、出来はいまいちだった。






294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:40:43.10 ID:riV/9sg0






夕飯を食べ終りぐだぐだと過ごした欠陥電気は、あくびをしながら洗面所に向かう。
すでに馴染みとなった寮とは違う間取りの浴場でいつものと同じように体を洗い入浴を済ませる。
湿った髪にタオルを巻いて多少スッキリした頭で、冷蔵庫から飲みかけのジュースを取り出し一口、プハー、と一息。
リビングでまだ寝てる打ち止めと、それを膝枕している一方通行にチラリと目配せしつつ、もう一つのソファーに腰をかけた。
(随分寝つきがいいわね…)
一体いつから打ち止めは寝ているんだろうか。自分が家に帰ってきてからでもかれこれ3時間は経っている。

「いつもそうだと静かでいいんだけどね」

半分は嘘で、半分は本当。

「…」

その言葉に特に無反応な一方通行。
こういった台詞に対する反応はほぼないので欠陥電気もいつものことだと特に気にしない。
頭に巻いたタオルを解いて肩にかけ、ソファーに思い切り背を預け伸びをする。
ポキポキと小気味のよい鈍い音が耳に響くと、目と閉じて深く息を吐き心地よい感覚に身を任せた。
静寂が訪れる。
壁にかけられたアナログ時計の時を刻む音だけが、溶け込むように部屋に染みわたる。
不意に、欠陥電気はいつかのようにひとり言を呟いた。
聞いてもらうように自分に言い聞かせるように。



295 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:41:53.73 ID:riV/9sg0


「今日は『私』と黒子に会ったわ」

「…」

「昨日はあいつとあの子に会った。いっぱい色んなこと話した」

手に持ったペットボトルに視線を落とす。

「正直言うと怖かった、こんなわたしを受け入れてくれるか不安だった。でも、それでも―――」

「…」

「―――会いたかった。ずっと会って話したかった」

うすく笑った。

「…、そォかよ」

視線を下げたまま一方通行はそう答えた。

「そうよ、そりゃそうよ。あの子を除いたら記憶の中でしか殆ど会ったことないような奴ばっかだけどさ」

一方通行には欠陥電気のあげた名は、殆ど覚えないものだ。
分ったのは、『私』と『あいつ』だけ、『私』はいうまでもなく超電磁砲のことだろう。
そして『あいつ』とは、身の程知らずにもあの進化法で自分に挑んできた少年のことだと、自然に理解した。

「やっぱりわたしにとって、……大切なこと、だから」



296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:42:42.14 ID:riV/9sg0



欠陥電気は呟いて口をつぐむ。
そして、ややあってからまた語りだした。
昨日会った上条とインデックスのことを。

(なんでだろ……)

いっぱい泣いてしまったことを。
今日の約束をしたことを。

(どうしてかな…)

黒子と会ったことを。
『私』と再会したことを。
また会うと約束したことを。
欠陥電気にも何故自分がここまで喋るのか分らなかった。
ただ、そうすることが自然だと思えた。


「ねえ、わたしさ。あんたのこと好きよ。割とだけど」


言った。

「打ち止めも好き」

はにかむように。
本当に、心からそう想って。
打ち止めは真っ直ぐで優しくて眩しい日向にるように暖かい。
一方通行はとても不器用で生きることにぎこちない奴だけど、多分こんな奴だからこうしていられると、思ったから。












297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:44:41.38 ID:riV/9sg0







時刻は深夜11時をやや過ぎた頃。
深く沈む静寂が支配した部屋で動く気配があった。
薄暗い部屋の中でも、白く鈍い光を発する杖を突いた少年、一方通行の影が。

一方通行は少し大きめなシングルベッドに近づき動きを止め、ベッドで寝ている打ち止めと欠陥電気を見下ろした。
無言のまま自身の首に軽く触れる。
そして、一拍の逡巡の後、左手を欠陥電気の頭までゆっくりと持っていく。
恐る恐ると、震え混じりに迷いながら欠陥電気の額に辿り着き、触れた。

一方通行の鼓動が、緊張が高まる。
顔は強張り、額に乗せた手は震え、心臓が早鐘を打った。
あとは能力を使うだけ。使うだけで終る。
もう迷うことはない。この先は彼女にとって良いことなど何一つないのだから。
(…なにやってンだか)
終らせる。これで全て終りにする。
ここまでなのだ。欠陥電気が欠陥電気でいられるのは。だから―――――
(―――やれ、今更こンなことで迷ってンじゃねェよ…)
能力を使え。使え。使え。使え。使え。使え。使え。使え。使え。
(やれ、ヤりやがれ。さっさとやれ。何迷ってやがンだ)
欠陥電気を殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
喉を鳴らし唾を飲み込む。冷や汗がにじみ出る。
演算を開始して欠陥電気を殺せ――――――――ない。欠陥電気を、殺せない。
(…、なンで、できねェンだ俺は!)
ここに来て。ここまで来て。最後の最後で。決断できない。欠陥電気を殺せない。



298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:46:32.45 ID:riV/9sg0



無様を晒して家に戻ってきた。
あの忌々しい筋書を反抗するかのように、三人でそう悪くない一日を過ごし終止符を打つ。
しかめっ面した欠陥電気が文句を言いながら打ち止めを寝かしつけ、一方通行がそれを皮肉って一日を締めくくると。
もう幕は下りた。欠陥電気に許された時間は終った。ここから先は本当に救いようがない。
一方通行はここから先、欠陥電気を助けに行けない。欠陥電気が苦しんでいることを分っていても動けない。
欠陥電気のためにここで殺してやることが一番だ。だが―――――殺せない。

打ち止めから欠陥電気との最後の時間を奪った自分が。
欠陥電気から打ち止めとの最後の時間を奪った自分が。
自分の我侭で、二人の別れの時間をぶち壊しといてこの様だ。

打ち止めは寝てなどいない。
一方通行の目的を知った打ち止めは一方通行を説得しようと、最悪能力の使用を制限しようとした。
だから一方通行は打ち止めの意識を奪った。
そうまでして自分の我侭を優先しておいて、いざ最後に欠陥電気を、殺せない。




299 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:48:58.56 ID:riV/9sg0


一方通行は最後の最後で決断が下せない。終局の一歩を踏み出せない。
欠陥電気の額から手を離して深い息を吐く。呼吸が荒い。
(バカか俺は…なンでできねェんだ……っ)
動機の早い心臓が不快で、こんなときにでも能力の使用時間を無意識に考える頭に一方通行は苛立った。
大きくし舌打ちし、左手で頭を掻き毟る。
そんなときだ、ベットで寝入った少女が体を起こしたのは。

「…、あんた、何やってんの?」

寝惚けた目を擦りながら、すぐ目の前に居る一方通行に欠陥電気は声を掛ける。
深夜、電気もついていない薄暗い暗闇の中で佇む一方通行。
(なんで?)
欠陥電気は当たり前の疑問を持つ。
一方通行が不埒な行為に及ぶとも思えなかった欠陥電気には、理由がすぐに思いつかなかった。



300 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:49:48.93 ID:riV/9sg0


「…っ」

一方通行は血の気が失せるように愕然としていた。
迷った挙句踏み止まって、最悪な状況になってしまったことに。
(…、クソがッ)
思わず罵倒の台詞を吐く。それは一体誰に対してか。
ここまできて、ここにきてこんな失敗をする。どうしようもないバカ野朗だ、と一方通行は自分を責める。
しかし、もう賽は投げられた。投げたのは欠陥電気。
例え誰が投げようと、賽は投げられてしまったのだ。
ならば、終らせるしかない。
終わりにしなければならない。
どうしようもない。
だから、一方通行は言った。

「…オマエを殺すンだよ」

あくまで殺す。
端的に、そう言った。

「え?」

欠陥電気には意味が分らなかった。
一方通行が自分を殺す? どうして?

「え、じゃねェンだよ」



301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:51:03.05 ID:riV/9sg0


淡々と言い捨て、欠陥電気に無造作に歩み寄る一方通行。
平然と吐き捨てた一方通行を見て、近づいてくる一方通行を見て欠陥電気は呟いた。
考えたわけでなく自然と口にでた。

「…、記憶を消すの?」

「…」

肯定も否定もなかった。
(そっか…)
一方通行は自分の記憶を消すのだと、欠陥電気は理解した。
それはつまり、いつか打ち止めが言っていた『危うい立場』という危惧が現実となったことを意味していた。
実験が再開するのか、記憶を持っていることが問題なのかは分らない。
寝惚けていたせいなのだろうか、恐怖や悲哀は特に感じなかった。
ただ少し、この日々が終って残念だな。と思った。

いつの間にか俯いていた顔をあげ、一方通行を見上げる。
薄暗くて表情は見えないが、欠陥電気には泣いているように見えた。

「面倒にすンなよ、動くンじゃねェ」

左手を欠陥電気の額に近づけながら、一方通行はそう言った。
欠陥電気はその手を振り払うという発想がないかのように、一方通行の手を受け入れた。



302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:52:13.52 ID:riV/9sg0



「消すぞ」

消す。
殺すんじゃないの?
と唐突に思い、内心笑ってしまった。
そして、数えて10秒が経ち、20秒が経っても変化はなかった。
どのくらいそうしていたのか欠陥電気にも分らない。
不意に、額に当てられた一方通行の手が震えることに気付いた。
無理をしている。目の前の意地っ張りは明らかに無理をしている。
(…ばか)
そんな無理をして努めて平然と振舞う一方通行のことが、とても――――――愛しく感じた。

「……わたしさ、あんたのこと…忘れたくないよ」

額に置かれた手が震えた。
そんな些細なことが、欠陥電気には嬉しかった。
だから頑張れる。

「ねえ、わたし出て行くね」

多分今の自分もかなり無理をしている。でも大丈夫。まだ頑張れる。
目の前の彼がこんなにも動揺してくれているのだから。
少しばかり不安があるが自惚れていいのだろうか、と欠陥電気はやわらかく微笑んだ。

欠陥電気は優しく一方通行の手を押しのけてクローゼットへ向かう。
外に出るのなら流石にパジャマというわけにはいかない。
簡単な着替えを済ませ多くない手荷物を持つと、ベットの傍で立ち尽くしたままの一方通行へ声を掛ける。
冷静に。平然と。優しく。短く。真っ直ぐに。

「ありがと」

結局一方通行は、最後まで欠陥電気に手を下すことができなかった。







303 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:54:05.93 ID:riV/9sg0






外へ出た欠陥電気は歩く。それが早歩きになり、ついには走リ出した。
遠くへ、ひたすら遠くを目指して足を動かした。
外は雨が降っていた。大粒の雨が欠陥電気を打った。
それでも止まるわけにはいかなかった。
点滅を繰り返す街灯を通り過ぎ、通りを抜け角を曲がる。
見慣れてしまった商店のシャッターを走り抜けた。

「……っ」

欠陥電気は声を押し殺して泣く。
顔を流れ落ちるモノが、涙なのか雫なのか分らなかった。
どのくらい進んだろうが、荒い息を繰り返し電柱にもたれ掛かって欠陥電気は足を止めた。

「…ひっ………ふぇ…………っ」

格好付けすぎだバカと、内心自分を罵る。
きっと、一方通行はもう欠陥電気に何があっても助けに来ない。助けには来れない。
欠陥電気を救うために実験をぶち壊し、施設も潰してみせたあの一方通行が記憶を消すという選択をしたのだ。
それが何を意味するかなんて、考えるまでもない。
一方通行の反則すぎる能力も、圧倒的過ぎる強さも凌駕する巨大なもの。

「…ひぐ…………やだ、よ……」

過去の『私』が絶望を抱いた、学園都市そのものに違いなかった。
単純な強さでいうなら一方通行の方が強い。何が相手であっても彼に敵う存在など想像がつかない。
例え能力に制限があったとしても、彼の負ける姿など想像できない。想像したくない。
でも一方通行は、諦めた。無理だと悟ったのだ。
だから、もうダメなんだと理解できた。

「………なん、で……わたし、なの…………」




304 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:54:55.79 ID:riV/9sg0


欠陥電気は浪漫主義者じゃない。現実主義者だ。
あんなことが身に降りかかって浪漫主義者で入られる程、楽観的ではない。
これが、現実だ。
しかし、こんな現実をぶち壊した少年もいた。
上条当麻。お人よしの無能力者。八方美人。ちょっとだけ気になる人。

「…っ……バカ………じゃ、ないの………」

そう言って、少しだけ笑った。
欠陥電気は上条に頼ろうかと考えてしまった自分を責めた。
そもそも上条は知らない。
自分があまり長くないことも、不安定な立場であることも上条には言っていないのだ。
知って欲しいとも欠陥電気は思わなかった。
この件に関して上条は部外者だ。彼はそれを否定するだろうし、自分自身否定したい。
それでも心のどこかで、それは正しいと告げる何かが欠陥電気にはあった。

「……………………っ」

単純な話だ。
何かがストンと落ち胸にしっくりはまった。
欲している。自分は彼が来てくれることを望んでいる。彼を――――――――――― 一方通行を。




305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:57:32.19 ID:riV/9sg0






どのくらいそこに佇んでいただろうか。
電柱に背を預けたまま雨に打たれ、どのくらい時間が経っただろうか。
もう、涙はでなかった。
絶望を抱くのはまだ早すぎる。希望を抱くには早すぎる。
だが可能性があることに欠陥電気は気付いたから。

『私』が一方通行に殺されるために挑むときとは状況が違う。
どう事態が転ぶかは分らないが、多分自分はそう簡単には死なないし殺されることはない。
生きていればきっとチャンスは来る。
(負けない…)
だから、それまで歯を食いしばって頑張るのだと欠陥電気は決意した。
自分は悲劇のヒロインを気取って簡単に死ぬつもりはない。
(そうだ、わたしは)
あのときも『私』は妹達のためにと、立ち上がれた。
今度も、と考えたところで欠陥電気は人の気配を感じた。

「…っ」

警戒するように周囲を見渡す。
(随分、早いわね…)
監視されていたのだろうか?
その可能性はあると、視線を強く張り巡らせる。

「…、誰よ、居るのは分かってんだから顔見せなさいよ!」

欠陥電気は声を荒げて叫ぶ。
威嚇するように見せ付けるように言い放った。



307 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 00:59:53.25 ID:riV/9sg0


「はっ、面白いなお前」

声が聞こえた。
蔑むような見下すような声は、欠陥電気の斜め向かいにある狭い路地から発せられた。
そしてその声に続くかのように、欠陥電気を取り囲む男達が現れる。
男達の格好は統一感がまるでなく、スーツを着たものからチンピラ紛いの服装のものまで様々だった。
ただ一様に、静かに欠陥電気を見据えている。

「あんたらが、お相手ってわけね…」

「相手? ったく、冗談じゃねえよ実験動物風情が調子にのんな」

先程の声の主が男達の輪を抜け欠陥電気の前に顔を出した。
声の男は周りの男達とは違い、随分と若かった。
(―――こいつ、能力者……!)
早鐘を打つ心臓を無視し、声の男を睨みつける。

「おいおい、警戒すんなよ。わざわざ迎えに着てやったんだぜえ?」

迎えにきた、だって?
一々勘に触る声の男に欠陥電気は吐き捨てた。

「冗談じゃないわ、迷惑だから消えてくれる?」

「ったくよお、お前聞いてないのか? 実験すんだから実験動物が要るに決まってんだろ」

「…残念だけど、興味ないわね。さっさと消えて」

「へー、あー、そうかよ。でもま、拒否権はねーんだよねえ」



309 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:01:16.12 ID:riV/9sg0



声の男がそう言うと、周りの男達が動き出す。
欠陥電気を取り囲む包囲網を狭め、徐々に迫ってくる。

「…、やれるもんなら―――――やってみなさいよ!」

啖呵を切った欠陥電気の前髪から、バチン、と火花が散りそれが始まりの合図となった。
ズドン! と大気を切り裂く鋭い音とともに青い閃光が全身から発せられる。
雨が降っている。男達は皆雨で濡れているのだ。
例えレベル5並みの力がなくてもこれだけの条件が揃えば――――――

「ざーんねん、でしたー」

(――――効いていない!?)
倒れない。誰一人として倒れなかった。電撃が効いていない。
男達は何事もなかったかのように欠陥電気へと近づいてくる。
(どうして!?)
必殺だった一撃をいとも容易く防がれたことに動揺する。
そんな欠陥電気を見て声の男が口を開いた。

「おっまえマジ馬鹿だろ? 手前の能力が割れてんのに対策しねえわけねえだろうが
 ったく、レベル5っつっても劣化版だとこんなもんなのかねえ?」

そう言って、口を歪め笑う声の男。
男達は欠陥電気の周囲3m辺りまで迫り、足を止めた。
声の男はひとしきり笑い満足したのか言葉を続けた。

「さってと、次はどーすんだ? 砂鉄で剣でも作るか?」

安い挑発だった。
(こいつ…)
声の男は分っていて言っている。


「ああ、そうだ。超電磁砲とかどーよ? あれなら流石に防げねえよ?」




310 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:02:35.35 ID:riV/9sg0



頭が真っ白になった。
気が付いたときには能力を全開にして電撃を放っていた。
叫び声を上げ。両腕を突き出し。眼前の敵を睨みつけ。
体のあちこちから鋭い紫電が走り腕を抜け標的へ殺到する。絶え間なく轟音が響き、白い土煙ががあがった。
直撃した。確実に当たっている筈なのに、それでも男は――――――倒れない。

「ああそう。ここで始めるわけか。そうかいそうかい。いや、他の奴だったら危なかったんだけど」

惜しかったねえ、と言い声の男は、片腕を担ぐように掲げ―――――

「なにやってンだおい」

声がした。居る筈のない彼の声が。
(なんで…)
欠陥電気には信じられい。
白い少年が当たり前かのように欠陥電気の前に静かに降り立った。
気だるそうに、着地で屈伸した膝を伸ばし肩を鳴らす。

「―――て、てめえは…」

声の男は顔を大きく歪め少年を見た。少年、一方通行を。
その存在に気圧されたのか、声の男はジリジリとあとずさる。
一方通行は男達にまるで興味無さそうに、軽い口調で問いかけた。

「なにやってンのか、聞いてンですけどォ」




311 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:04:09.01 ID:riV/9sg0


その言葉に声の男は体を震わせた。顔は驚愕から恐怖、戸惑いに変わる。
一方通行を見据え、逡巡の後言った。

「…統括理事会の決定に逆らうのか?」

これが声の男の切り札。
一方通行が欠陥電気と一緒にいることは分かっていた、だから今まで行動を起こせなかった。
しかし統括理事会から承認がでたのだ。
目の前の少年があの最強のレベル5だとしても、それに逆らう筈がないと声の男は確信していた。
声の男の言葉に一方通行は呆れたように返した。

「オマエなに言ってンだ? そりゃ朝からだろ」

そう、その承認が効力を持つにはまだ時間がある。

「な、なに言ってやがるんだお前は! そんなのは」

そこまで言って声を失う。
目の前の一方通行が本気だと気付いたから。

「ンだよ、ビビってンじゃねェよ。俺のことも知ってンだから当然対策してあンだろォ?」







312 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:05:29.81 ID:riV/9sg0







男達は誰一人として死ぬことは無く、この場から去った。
欠陥電気が一方通行が動く寸前で止めたから。
一方通行に無駄に人を殺めて欲しくないと思った欠陥電気は男達を逃がしたのだ。
どれだけ殺そうが、決定が覆ることがないのだから。

雨は相変わらず降り続けている。
冷たい雫が叩きつけるように二人を打った。
男達が去った後、一方通行は佇んだまま動かず一言も口にしない。
欠陥電気はそんな一方通行を見て悲しそうに小さく笑い呟いた。

「…なんで、来たのよ」

一方通行は答えない。

「…どうして、こんなことしたのよ」

欠陥電気は責めた残酷で救いのない行為を。
見せかけの希望を、がらんどうな中身のない行動を。
一方通行は言った。朝からだと。
これはつまり、一時しのぎに過ぎない。
そして朝になれば一方通行は欠陥電気を諦めるだろう。
この先がないから、一方通行は欠陥電気に何も言えない。
肯定も否定も出来なければ、理由も話せない。

「…中途半端が、一番ムカつくのよ…」





313 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:07:18.65 ID:riV/9sg0



悲しそうに微笑んで、涙を流す欠陥電気。
嬉しくなかったと言えば嘘になる。
期待していたかと言えば認めざる得ない。
だから、それでも欠陥電気は一方通行のことを嫌いになれなかった。
不器用な優しさが、残酷な優しさが全て欠陥電気のことを想ってのことだと分ったから。
酷い奴だと思った。最低な男だと思った。
けど許してしまう自分がいた。

欠陥電気は鼻を啜り涙を拭い、目の前で固まったままの一方通行に言った。
努めて明るく攻撃的に。

「バカ、さっさと帰んなさいよ。風邪引くわよ」

「…っ」

反応があった。
肩をビクッ、と震わせたのが目に見えて分かる。
いい気味だと思いながら、続けて言ってやった。

「ありがとう、とでも言うと思った? ざけんなっつーの」

その言葉に、何かを言いかけてやはり口をつぐむ一方通行。

「そんなに何回も言うほど安くないわよ。勘違いなら他所でやってよね」

「…、オマエ、全然わっかンねェよ」

言葉が返ってきた。
(こ、こいつ…)
内容が酷い。しかし、ここまで最悪過ぎるとむしろ清清しさを感じる。




314 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:08:42.20 ID:riV/9sg0




「全然分かんないのは、あんたでしょ」

「…どうやったらそうなンだァ? やっぱオマエ頭逝ってンじゃねェのかおい」

調子が出てきたが、これは酷い。
こいつ、全然分かっていない。
こんなにも自分が、健気に頑張っている理由を何一つ察していない。
いや、気付いているのかもしれないが考えないようにしているのか、と判断に迷った。

「…はぁ、もういいわよ」

「イイわけあるか」

おや、と欠陥電気は驚いた。
一応考えていたことがあったのかと感心しかけたが、すぐにため息をついた。
欠陥電気は呆れたような視線を一方通行に送る。

「それは、なんのつもり?」

「…」

あまりにも短絡的行動に、ばか、と心の中で呟く。
一方通行は拳銃を欠陥電気に向け、射抜くような視線で見据えていた。

「…、それがあんたの最後の手段なの?」

「バッテリーが切れ掛かってンだ、無理言ってンじゃねェよ」




315 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:09:47.30 ID:riV/9sg0


開き直ったのか、実にらしい物言いだ。
欠陥電気はそんな一方通行に少しだけ安心する。
辛気臭いのも、悲しい涙も似合わない。
出会いが散々だったんだ、別れ方もこれくらいの方がいいと思った。

「あっそ。それじゃあ今のわたしでも余裕で勝てるわね。
 っていうか、さっきの大見得は大法螺だったの?」

一方通行は舌打ちし、

「欠陥電気如きが、吼えンじゃねェかおい」

「欠陥電気の補助がないと、歩けもしないあんたに言われたくないわね」

「…、オマエ、状況分かってンのか?」

半眼で呆れたように言う一方通行。
見ればわかるわよ、と欠陥電気もため息交じりで答え、言葉を続けた。

「ねえ、どうしても無理なの?」

「無理だ」

「あまり聞きたくない言葉を即答しないでよね」

一方通行は覚悟を決めたのか、もう動じなかった。
いつもの彼に戻ったことに欠陥電気は嬉しく思ったが、これじゃあ計画がご破算になる。それは困る。



316 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:10:45.35 ID:riV/9sg0


「わたしさ、考えたんだけど。頑張れば何とかなるかもしれないじゃない?」

「…」

「さっきの奴が実験って言ってたから、結局続きをするわけでしょ?」

じゃあ簡単には死なないわよ、と付け加え。

「また、記憶消されンぞ」

「…妥協するしかないじゃない。死ぬよりはまだいいし、まだ決まったわけじゃないわ」

「逆に聞いてやる、ンでその後オマエはどうすンだ?」

「レベル5になったら実験は終りじゃない」

欠陥電気は当然のことを聞く一方通行に呆れた。
レベル5になれさえすれば、実験は終る。
これは進化法の実験なのだから。それまでどうにか粘れば欠陥電気の勝ちだ。
そこに敗者がいるとすれば、今こうしている一方通行だろう。
欠陥電気が生き残ることができれば、一方通行のこの行為は意味を成さない。
勿論この状況からまず抜け出さないことには始まらないけど、と欠陥電気は考えていた。
だが、一方通行の言葉にそれが大きな勘違いだと気付かされる。

「レベル5になったら? おいおい笑わせンなよ欠陥電気。
 オマエがレベル5になったら、どォなンのか想像できねェのか?」



317 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:12:24.70 ID:riV/9sg0




(―――――え?)
レベル5になったとしたら、どうなる?
『欠陥電気』である自分がレベル5になれば、それは、超電磁砲量産計画の成功を意味し―――――
(―――――レベル5を造る為に妹達が生まれるっ!?)
現実はどこまでも非情だった。頑張れば自分と同じ境遇の子を生むことになる。
それは絶対に許容できない事態だ。

「………たちの悪い、冗談じゃない」

眩暈がする。欠陥電気は両手で頭を抱えたくなった。
レベル5にならないと終らないが、レベル5になるわけにはいかない。
(なに、よ……これ)
最早打つ手がない。いよいよ死神が欠陥電気の肩を叩きに来たようだ。
涙は出ない。ただ、くすんだ灰色にも似た諦めに心が押し潰されそうだった。

「分かったンだな?」

「…」




318 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:14:53.33 ID:riV/9sg0



一方通行に殺される。
それは非常に魅力的な提案だ。どうせ死ぬなら分けも分からない実験で死ぬより何倍もいいと思えた。
(…、無理……してんじゃ、ないわよ)
だが、一方通行の顔を見ていたら、とてもそんな決断は下せない。
まだ頑張らないといけない。ここで負けるわけにはいかない。
一方通行は自分を殺したら、きっと打ち止めと笑って過ごせなくなるのだから。
(それ、だけじゃない…)
欠陥電気は証明して見せなければいけない。
『欠陥電気』でいくら実験を繰り返しても、レベル5なんて生み出せないと。
でなければ、また自分と同じような『欠陥電気』が生まれてしまうから。
そんなことは断じて許せない。
だから、負けられないのだ。諦めるわけにはいかない。

「…、分かった」

「…なンか、言いたいことでもあンなら言っとけ。冥土の土産に伝言も受け付けてやンぞ」

「…冥土の土産なら、もうもらったわ」

決して忘れることの出来ない。あのときに、欠陥電気はすでにもらっている。
一方通行は、そォか、と呟くと引き金に手を掛ける。

「ストップ」

「…死に際の悪い奴だなオマエ」

ほっとけ、と内心突っ込む。
案外自分は余裕があるな、とどこか他人事のように考えながら欠陥電気は言い放つ。

「勘違いしないで、実験には参加するわ」



320 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:16:17.49 ID:riV/9sg0



欠陥電気の言葉を聞いた一方通行は眉を顰めた。
だが、銃口はそのままで視線も欠陥電気を見据えたまま動かさない。
考え込んだように黙り込む。そして不意に口を開き、

「理由は?」

端的にそう言った。

「実験の無意味さを、バカ共に教えるためよ」

その言葉を聞いた一方通行は忌々しそうに舌打ちした。
苦虫を噛むような顔をして口を閉じたが、腕は決して下ろさない。
―――動けば、撃つ。
まるでそう言っているかのように、欠陥電気には思えた。
互いに無言のまま雨に打たれ睨みあう。
両者の距離はおよそ3m。銃口を向け突きつけたままの一方通行。それを真っ直ぐに睨み返す欠陥電気。

そんなときだ、二人の間を白刃の閃光が走りぬけたのは。










323 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/08(木) 01:21:48.94 ID:riV/9sg0
ここまで

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