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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:28:53.37 ID:46udxVI0 [1/44]




気が付いたら自宅のあるアパートの前に立ち竦んでいた。
自分がどこを通ってここへ辿り着いたのか、一方通行はまるで覚えていなかった。
あのあと一方通行は呆然と当てもなく歩き回っていただけだから。

「…」

どうすればいいのだろうかと、どこか現実味感じない頭で一方通行はぼんやりと考えた。
欠陥電気にこれを話すことはありえない。黙って彼女の記憶を消すべきだろう。
記憶を消すなら、寝ているか気を失っているときに実行するのが賢明だ。
打ち止めのときのような精密作業になる、抵抗されて失敗すれば彼女の人格を壊してしまう。
いや、どうせ消すのだから壊れたところで大した違いは無いと、考えて口元を歪めた。
自分はもう欠陥電気の記憶を消すことを前提にしていると一方通行は気付いたから。




193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:30:04.07 ID:46udxVI0 [2/44]



「…」

一方通行はアパートを見上げた。
自宅のドアの横にある風呂場の換気用窓は閉まっている。
おもむろに携帯を取り出し時間を確認する一方通行。
もう午後10時を過ぎていた。
どうりで人通りも少なく辺りが真っ暗なわけだと、一方通行は自嘲するかのように一人ごちた。
今頃うるさい同居人と、何かと突っかかってくる同居人はさぞご立腹なことだろう。
一方通行はそう考え口を歪め笑うと、改めてアパートを見上げる。

記憶を消すなら早いほうがいい、少女に事態が露見する前に。
ポケットには受け取った端末と妹達の人格データが入ったメモリがある。
端末にメモリを差込、画面を流し見れば用済みのものだ。
だが、一方通行はまだ見る気にはなれなかった。見てしまえば後戻りできなくなると思ってしまったから。
少しでも長く、少女に幸せな時間を過ごして欲しかったから。




194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:30:36.58 ID:46udxVI0 [3/44]


自分は今酷く矛盾していると一方通行は自身の感情に困惑する。
少女のためを思うなら芳川の言ったとおり一刻も早く記憶を消すべきだ。
少女の最後の思い出が絶望する現実では、あまりにも酷すぎる。
けれど、まだ七日。少女が生まれてからたった七日しか経っていない。
少女が狂気を忘れ過ごせるようになったのは四日前。今日を入れてまだ五日だ。

消すことを前提にしているが、実行できない。
ただ事態の先送りをしているに過ぎないことは十分理解しているが、一方通行には決断を下せなかった。
家には戻れない。どんな顔をすればいいのか分らない。
少女と会って平然としていられる自信はない。
簡単に切り捨てられるほど、少女の存在は一方通行の中で小さくなかった。

一方通行は携帯をしまうと、小さく何かを呟き夜の街へと消えた。






195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:31:43.11 ID:46udxVI0 [4/44]





ただいま、と素っ気無く言ってドアを開け家に入る欠陥電気。
そういえば出るときに鍵を掛け忘れたな、と反省しドアを静かに閉めた。
ドアの取ってから手を離し、そのままドアに背を預け深呼吸する。

ふと、家をでてからの出来事を思い返し欠陥電気は顔を赤く染めた。
いつかみたいに上条と夜道を走り回り、抱きしめられ、インデックスに泣きつき明日の約束をする。
非常時だったとはいえ、自分はかなりはっちゃけていたと。
同居人に何をしているのかと聞かれたらどう答えるべきかと考えて、はたと気付いた。
廊下の電気はついてるものの、リビングの電気が消えていることに。

「打ち止め?」

返事は無なかった。
もう寝てしまっているのだろうかと、欠陥電気は思案しつつリビングへ向かう。
廊下から漏れる光を頼りに足元に気をつけながら、手探りでスイッチを探す。
(ん、確かこの辺に…)
無事見つけスイッチを入れる。
慣れない明るさに思わず瞼を閉じ、ややあって目を開ける欠陥電気。

「なんだ、起きてるじゃない…」

電気のついたリビングを見渡すと、打ち止めがソファーに座っていた。
前を向いたまま身動き一つせずにボーっとしている。

「打ち止め? どうしたの?」

「…、え? へ!? …あ、おかえり」



196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:33:03.36 ID:46udxVI0 [5/44]


怪訝な顔で打ち止めに声を掛ける欠陥電気。
その言葉にようやく欠陥電気の存在に気付いたのか、打ち止めは慌てて返事をした。
打ち止めの様子がおかしい。
ボーっとするのにも限度があるだろう。部屋の明かりがついたのに、それすらに気付かないなんて流石に変だ。
そう考えた欠陥電気は、表情を曇らせて打ち止めに言った。

「ちょっとあんた、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ! 少しネットワークでのお話に夢中になりすぎただけっ! ってミサカはミサカは白状してみたり」

「ミサカネットワークのこと?」

ミサカネットワーク、妹達の電気操作能力を利用して作られた脳波リンク。
目の前のこの幼い少女が管理者を務めるネットワークのことだ。
非常に短い時間ではあったが、欠陥電気も繋がっていたことがある。今は打ち止めによって切断されている状態だが。
ネットワークは便利なもので、妹達の中で情報の共有などが行える。
もっとも、妹達の中でも異端な欠陥電気は他の妹達と脳波リンクで繋がることが負担になるらしく
打ち止めが許可したところで、無理に繋げようと欠陥電気は思わなかった。
もともとネットワークに繋がっていることの方が欠陥電気にとって違和感を感じるのだから

「あの子たちと話ねえ、どんな話をするわけ?」



197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:35:12.93 ID:46udxVI0 [6/44]


ネットワークにはあまり興味がないが、妹達がどんな話をするのかは興味があった。
デフォで無表情、平坦な口調にやる気のなさそうな目。
記憶の中で過去会ったことのある9982号(自分)は、変な奴だった思い返す。
くだらない回文を言ったかと思えば自分で笑い、人のアイスを盗み食いしといて平然と紅茶を強請る。
殊勝な言葉に感心していると、次の瞬間に毒舌を吐く。

他の妹達とは会ったことはないが、まあ似たり寄ったりだろう。
何せ彼女たちの人格のベースとなったモノが全く同じものなのだから。
そんな彼女たちが一体何を話すのか、欠陥電気は非常に食指が動いた。

「え…、っと、ああ! 19090号がダイエットしてたりするんだよ! ってミサカはミサカは一瞬焦りつつもすぐに突破口が開けたことに安堵したり」

「台詞のあとの自己描写が引っかかるけど…。あんたたちも、ダイエットなんかすんのね」

「むむ、失礼な! ダイエットはいつの時代も乙女の永遠のテーマ! ってミサカはミサカは断言してみたり」

そりゃそうだろうが、ダイエットって…、と打ち止めの言葉に内心突っ込む欠陥電気。
始終無表情の妹達が汗を流してダイエットする様は、ちょっと想像できそうになかった。
どっちかと言えば、生活改善法だとかダイエット日記とかなのだろうと勝手に納得する。

「そもそもあなたもミサカな訳で、その物言いは若干違うような―――」

「あ、打ち止め」

欠陥電気は打ち止めの言葉に被せるように言い、続けた。

「わたし、欠陥電気に決まったから」

「へ?」

突然の宣言に、打ち止めは理解が追いつかなかった。

「わたしは名前よ」

「あ、うん。…どうしたの急に? ってミサカはミサカはいきなりすぎる心境の変化に戸惑ってみたり」



198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:36:56.84 ID:46udxVI0 [7/44]


その疑問はもっともだ。
以前から一方通行が欠陥電気のことを『欠陥電気』と呼び続けているのは周知の事実。
打ち止めは欠陥電気のことを、会ってからずっと三人称で呼び続けている。それに特に不都合はなかった。
前に一方通行と欠陥電気が名前のことで何やら言い合っているのは覚えているが、それにしてもあまりにも唐突だ。
欠陥電気は、打ち止めの問い掛けに顔を赤くしながらそっぽ向いて答えた。

「…わたし、外に居ってたのよ」

「それは知ってるよ、お陰でミサカはひもじい思いをしたし…。
 っていうか、どこに行ってたの? ってミサカはミサカは首をかしげながら聞いてみたり」

「会ってたの」

「誰と?」

「…、あ、あいつと」

「あいつって誰?」

「…あいつは、あいつよ」

打ち止めの問いに悩んだような嬉しいような表情を浮かべ、たどたどしく答える欠陥電気。
その要領を得ない途切れ途切れな言葉に打ち止めが切れる。
意味不明な煮え切らない初々しさに見てるこっちが恥ずかしくなるわ、とか思いながら。

「あーっ! もーっ! 誰と何でどこでなにを話していたのっ!? ってミサカはミサカは欠陥電気に聞いてみるっ!!
 っていうか、すげー甘酸っぱい空気にお腹いっぱいで胸焼けしそうで気持ち悪っ!!」

「…わ、悪いっ!? テンション上がって変なこと口走ったりしたわよっ!! だからなんだってのよっ!!」

「開き直りはうざい…、ってミサカたちの公式見解を述べる! ともかく教えて!」

「うっさいっ!! あのバカとシスターに会ってたのよっ! 何よ悪いっ!?」



199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:38:27.03 ID:46udxVI0 [8/44]


互いにぜーはー、と荒い息を吐きながら睨み合う打ち止めと欠陥電気。
夜も更けているのでかなり近所迷惑である。
打ち止めは、欠陥電気の言葉を今一度頭の中で反芻し、きょとんとした顔をした。
ややあって左の手のひらを上に向け、グーを握った右手でそれを叩く。

「会ってきたんだね、ってミサカはミサカは得心いったと手を叩いてみたり」

「…、そ、そうよ。あいつらに会ってたの」

打ち止めは目の前の欠陥電気を見る。
表情と会話の流れから察するに、どうやら上手くいったようだと打ち止めは考えた。
それはよかった。本当によかった。心からよかったと。
もっとも彼女の周りに居る人間を考えれば、彼女自身が踏ん切りをつければほっといても解決しただろうが。
どういう経緯で二人と再会したのかは分らないが、瑣末な問題だ。それに大体の検討もついているから。

「そっか。欠陥電気、よかったね」

「う、ここぞとばかりに使わないでよ…」

そう言って照れた笑みを浮かべ答える欠陥電気。
欠陥電気は誤魔化すように口を開いて、あいつはどこほっつき歩いてるのよ、と呟いた。
打ち止めは、さぁねー、と言って目の前の素直じゃない同居人に抱きつく。



200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:39:35.18 ID:46udxVI0 [9/44]


「はぁ…、あんたほんとに好きね」

呆れたようにため息を吐きながらも、打ち止めに身を任せる欠陥電気。

「自分で言うのもなんだけどさ、わたしはあんた自身でもあるのよ」

「なら尚のこと問題ないよ、ってミサカはミサカは断言してみたり! だってミサカはミサカのことが大好きだから!」

打ち止めは欠陥電気の皮肉を軽く流し持論を展開。
そんな打ち止めに嘆息しながらも満更でもない笑みを浮かべる欠陥電気。
明日のことに不安はあるが、きっとなんとかなるだろう。
なんたって上条とインデックスが着いてきてくれるのだ。きっと上手くいく。
そう考えて欠陥電気はまた笑う。
彼女は気付かなかった、抱きしめている打ち止めの顔が曇っていることに。
何かに堪えるようにぎゅっと口を閉めていたことに。

この日一方通行は家に戻ることはなかった。






201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:40:57.74 ID:46udxVI0 [10/44]




夜が明けても同居人の少年は戻ってこなかった。
なにをやってるんだかと、呆れながら朝の支度をすませ朝食の準備にかかる。
冷蔵庫の中にポツンと取り残された卵と、ベーコンの半端な残りをつかい簡単に済ませた。
少年がこのまま帰ってこなければ、夜が非常にまずいことになる。
最悪久しぶりに買い置きのカップラーメンのお世話になるだろうと、帰ってこない同居人の少年を胸中で責めた。

朝食をとってのんびり過ごしていると携帯が鳴り、約束の時間になったことを知らせた。
電話先の相手に今から家をでると伝え通話を終える。
テレビを見ていたもう一人の同居人の少女に、いってくるわ、と告げる。
少女に、がんばってね、と返され欠陥電気は家を出た。





202 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:45:05.32 ID:46udxVI0 [11/44]




午前9時過ぎ。
学校への登校にしては遅い時間で、どんなに頑張ってもすでに遅刻が確定しているそんな頃。
御坂美琴はいつものように常盤台中学の制服に身を包み、やや急ぎ足で歩いていた。
美琴は何かを考えているかのような難しい顔をしている。
その彼女と同じ制服を着た白井黒子は、自身がお姉様と慕う美琴の様子をチラチラと伺っていた。

「お姉様? 急いでいるなら黒子の空間移動で…」

時折唸りながらも決して口は開かずに黙々と歩き続ける美琴に声を掛ける黒子。
わざわざ歩かなくても、空間移動者の黒子が能力を使えば目的地まで1分とかからないからだ。

「ああ、いいわよ別に。歩きながら考えたいこともあるし」

黒子を見ることなくそう答え、また口を閉ざし美琴は難しい顔をする。
その様子に黒子は内心でため息を吐く。
昨晩の電話から美琴はずっとこんな調子だったのだ。
始終落ち着かず、夜もベッドの中でごそごそで動いていたかと思えば、今朝突然学校休むと言い出し黒子も強制的に休まされた。
寮をでて少し離れた公園で時間を潰し、今に至る。


203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:48:36.01 ID:46udxVI0 [12/44]


電話の相手も話の内容も教えてくれなかったが、黒子には大よその見当はついていた。
相手は間違いなく上条当麻だろう。内容はあのもう一人の『お姉さま』のことに違いないと、黒子は考えている。
黒子としても『お姉さま』のことが気に掛かったが、話を聞こうにも当人がこの調子なので毒気が抜かれてしまっていた。
ああもう、どことなり連れていってくれ、と。
なので、考えるのが面倒になった黒子は黙って美琴についていくことにした。
もう少しゆっくり歩いて欲しいと思いながら。

そんな黒子をよそに、美琴は昨晩かかってきた電話の内容を反芻していた。
正確には昨晩電話が掛かってきてからずっとそのことを考えていた。
電話は上条からだった、話は時間と場所を指定しただけの素っ気無いものである。
そして、切る直前になって黒子も連れてくるようにと付け加えてきた。
今現在上条が電話をかけてくるとしたら、あの少女に関係したものだろう。
彼は少女を見つけたのだろうか、それとも何かしらの手掛かりを掴んだのだろうか。
何故黒子を連れて行く必要があるのか、色々考えてみたが美琴には検討がつかなかった。

電話の件は非常に気になるが、上条に会えばその疑問も解決するだろう。
だけど、と彼女はもう一つの気になる事を思い返す。
あの日以来会っていなかった佐天涙子と、初春飾利と再会したときのことを。
あのとき佐天と初春の二人はどこか変だったと。
黒子の姿に素直に喜んでいたし、その後ファミレスで色々盛り上がったときもおかしいところはなかった。
だが、黒子が風紀委員を休み連絡もしなかったことに話が及んだとき、その時美琴が言った言葉。
その言葉に対する反応がおかしかった。
驚き声を上げたあとに「また」と、小さく呟いたのだ。

そのときは美琴も話を誤魔化すことに必死だったため、特に追求しなかった。
それが今になって喉に刺さった小骨のように気になる。
美琴はむー、と唸りながら何なのだろうと考えるが、答えは出ないまま目的地にたどり着いた。




205 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:55:59.78 ID:46udxVI0 [13/44]




過去に二千円を飲み込みこんだ自販機のすぐ横のベンチに、上条は座っている。
携帯で時間を確認し、そろそろかな、と呟き辺りを見回すと人影が見えた。
近づいてくる人影は二人分。常盤台中学の制服を着た美琴と黒子だった。
上条はベンチから立ち上がって、二人に声を掛ける。

「よお」

その言葉に美琴は鼻を鳴らして答え、黒子は小さく会釈して返した。
黒子の会釈が終ると同時に美琴は上条に言い放つ。

「さあ話なさいよ」

まるでお預けを食らって散々我慢しましたと言わんばかりの様子で美琴は言った。
上条の電話のせいでろくに眠れなかった事実もあるが。

「ここじゃなんだし、歩きながら話そうぜ」

上条はそう言って歩き出した。
二人は上条のあとを追うようについていく。

「ちょっと、あんたねえ。こっちはあんたの電話のあと気になってろくに寝れなかったんだからね!」

「そういうことですわ、わたくしとしても今日の朝突然お姉様から学校を休むように言われ、憤慨しているところですの」

美琴の言葉に同調し黒子は上条は責める。
二人の言葉に苦笑い浮かべながら、わるいわるい、とこぼす上条。
こいつ絶対反省してねえ、と思われても仕方ない謝罪である。

「…ん? いやまて、白井を連れてくるように言ったのは昨日だぞ?」

「それは分かっていますが、原因があなたの電話であることに違いはないのでは?」

「…その理屈はおかしいだろ」

黒子の言葉に不満をこぼし、上条はため息を吐く。

「いいから何なのか言いなさいよ! …って、本人の前で言うのもなんだけど、黒子が居てもよかったの?」

「…事情をしらないわたくしが、とは思いますが、お姉様の口から聞きたくなかったですの」

分りやすく涙をホロリと浮かべる黒子。
上条は、このまま放っておくと漫才を始めるであろう二人にこう切り出した。



206 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 21:58:17.99 ID:46udxVI0 [14/44]


「白井を呼んだのは、本人の希望だ。ぶっちゃけちまうけど、あいつは白井に話すつもりだぞ」

その言葉に、美琴は上条に振り向いて足をとめる。

「…見つけたのね?」

複雑な顔をして上条に短く問う美琴。
顔は強張り、声は若干震えていた。

「お姉様…」

黒子は美琴を心配するように呟いた。
上条は二人の様子をみて、困ったような笑みを浮かべ言った。

「まず落ち着けよ、御坂。こう言うのもなんだけどさ、変に緊張しなくていいんだよ。しないほうがいいというか…」

「そんな、簡単な話じゃないでしょ!」

上条の言葉に、美琴は剣呑な雰囲気で言い返す。
雰囲気を変えた美琴を落ち着かせるために、黒子はゆっくりと優しい声色で言った。

「お姉様、落ち着いてください。答えは焦らずともすぐに出ますの。
 そこの殿方の言ったように歩きながら話を続けましょう?」

美琴は口をつぐみ、一瞬考える仕草を見せると無言で歩き出す。
それを見て上条は肩の力を抜き深い息を吐くと黒子に小さく礼を言った。
黒子は上条を軽く見て礼を受け取ると、そっとため息をついて美琴のあとに続く。
上条も歩き出し、ややあってから話し出した。



207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:01:28.38 ID:46udxVI0 [15/44]


「突っ込みはとりあえず無しで聞いてくれ」

「…」

「わかりましたの」

各々の返事に上条はうむ、と呟く。

「あいつは今俺の家に居る。白井風に言うならもう一人の『お姉さま』がな。
 経緯だとかそういったことはあいつが言うと思う」

「また、役目ですか?」

どこか皮肉が混じった響きで呟く黒子。

「…まあそういうことで納得してくれ。正直な、俺もどう言えばわかんねえしさ。
 細かい事を置いといて言うけど、あいつは妹達の一人で『御坂美琴』、お前の記憶を持ってるんだよ。
 いや、記憶だけじゃねえ。性格も仕草もケンカ腰なところも無理しちまうところまでそっくりだ」

上条の独白めいた言葉に二人は息を呑み言葉を忘れ眉間にしわを寄せ深く考えるような顔をする。
二人があまりにも自分と同じリアクションをとったために、上条はつい笑ってしまった。

「…笑うところではないと思うのですが? 返答によっては無事では済ましませんのよ?」

「そうね、私も黒子と同意見だわ。マジで死んどく?」

「悪い悪い。俺と全く同じことしたからな。そりゃ事情が事情だから仕方ねーんだけどさ」

そう上条は言い、さらに続けた。

「でもさ、どんだけ深刻になってもあいつは何一つ救われない。
 インデックスにも散々言われたんだよ―――

『自分を責めたってあの子の現実は何一つ変わらないよ』

『だから、受け止めてあげよう? きっとあの子もそれを望んでるよ』

 ―――だってのに、俺はやっちまってあいつを無駄に傷つけた。
 ぐだぐだ言っても仕方ねえんだ。あいつ自身は自分の置かれた状況を、受け入れたんだ。
 あとは周りにいる俺たちがそれをどう受け入れるかってことなんだよ」 

俺みたいな失敗はするなよ、と自嘲気味に呟き上条は話を終えた。
黒子は一度鼻をすすると上条を見据える。



208 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:04:20.09 ID:46udxVI0 [16/44]


「『妹達』という言葉は気に掛かりましたが、今は聞きません」

「ああ、あいつか御坂がお前に話す」

「一つだけ、答えてください。今聞くことは『お姉さま』への侮辱かもしれませんが、聞いておきたいんですの」

そう言うと、一呼吸し黒子は上条へ言った。

「『お姉さま』はわたくしのことを何か言っていましたか?」

「…確かにそりゃフライングだな」

やや呆れたように呟く上条。
でもそれは仕方の無いことだ。
何しろ黒子は本当に何も知らない、気丈にしているが不安でたまらないんだろう。
いつか黒子と歩いた夜道を上条は思いだした。

「わかって、います…。でも―――」

「お前と会って話したい、あいつはそう言ってたよ。そもそも今回のこれもあいつがそう言ったから決まったんだぜ」

視線を合わせ遮るように上条は黒子に言った。

「そう、ですか…、ありがとう、ございます……っ」

「ちょっと黒子」

美琴は突然泣き出した黒子に思わず声を上げるが、すぐに笑みを浮かべ黒子の頭をコツンと叩く。



209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:05:37.20 ID:46udxVI0


「あんた、泣くのは早すぎるわよ。まだ始まってもいないじゃない」

「……です、が」

言葉とは裏腹にその口調は優しかった。
上条はそんな様子を微笑ましげに眺めつつ口を開いた。

「御坂は何かないのか?」

「ありすぎて絞れないわよ。…強いて言うなら、いつ会ったの?」

「昨日の夜、だな。お前に電話するちょっと前に会った」

「…随分急なのね」

「ああ、その変の事情もあとで言うと思うぞ」

美琴はそう、と素っ気無く頷くと黒子の手を引っ張って止まっていた足を動かす。
上条は二人の背中を見ながら、少し遅れて歩き出した。

「御坂、あいつを―――」

「分ってるわよ、私だってそんなことになれば混乱する……だけじゃないわね。
 ともかくっ! 会ってからなんでしょ?」





210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:08:10.23 ID:46udxVI0 [18/44]




三人はエレベータから降りて廊下を進み、上条の部屋の前で止まった。
ドアノブを握り締めた上条が二人に聞く。

「開けるぞ?」

その言葉に無言で頷く二人。

「ビリビリ、インデックス、連れてきたぞ」

ドアを開け部屋の中にいるであろう二人に声を掛けると、

「とうま! 遅いんだよ!」

早速インデックスから抗議の声が聞こえてくる。
はぁ、とため息を吐きながら上条は二人を部屋に入るように促し―――

「―ッ」

「し、白井!?」

黒子は上条を押しのけ部屋の中へ駆け込んだ。
美琴も黒子の突然の行動に目を白黒させる。

「お姉さまっ!!」

黒子はそう叫びながら、愛してやまないもう一人の『お姉さま』の元へ走る。
頭の中には悲しそうに自分に謝る『お姉さま』の姿がフラッシュバックする。



212 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:11:05.47 ID:46udxVI0 [19/44]

冷静に行動するつもりだった。事情を知らない自分は弁えるべきだと考えていた。
結局この件で自分に出来たことは何一つない。流されるままに流されて、事情など何一つ知らないままここまで来た。
上条に電話をし美琴が立ち直った後も事情を教えてもらえず、自分だけ置いていかれるようで苦しかった。
だが、お姉様への気持ちは誰にも負けてなどいない。負けている筈が無い。上条当麻にも決して負けていないのだ。
あのドアが開く前までは、あの瞬間までは抑えることができた。
だけど――――もう我慢できなかった。
もう事情なんてどうでもいい、知らないままでも構わない。ただ『お姉さま』に会って伝えたい。この胸の内を―――――

「黒子っ!?」

「お、お姉さま………っ」

部屋はさして広くもなかったので、『お姉さま』はすぐに見つかった。
ベッドに腰を下ろし、実に『お姉さま』らしい可愛らしい服を着て。

「…………ぁ……」

言葉が出てこない。あんなにも伝えたいことがあったのに。
苦しい、胸がとても苦しい。
目の前にいる人に、この気持ちを伝えたい。知ってもらいたい。分ってもらいたい。

「…くろ、こは…………ずっと……おねえ、さま、のこ……とを………」

もどかしい。
涙が溢れ声がでない。言葉が詰まって上手に喋れない。
早く、早くこの気持ちを伝えたいのに。

「…しん、ぱい……してっ………っ…」

こんなにも簡単なことを伝えることができない。最後まで言うことができない。

「ほら、泣かないの」

「…っ」

「うれしかったよ、黒子の言葉。言い切ったそうじゃないわたしがお姉さまだって、すごく…うれしかった」

伝わっていた。確かに自分の想いが目の前の『お姉さま』に伝わっていた。
もう知りたいことなどない。これで十分だと黒子は思った。

「…ぐす………ひぐ………っ」

「ありがとう、黒子」

「……おねえ、さま」

自分から黒子を抱きしめたいと思う日が来るとはね、と苦笑しつつ欠陥電気は黒子を優しく抱きしめた。
ようやく出会うことのできた『お姉さま』の胸で黒子は泣きじゃくった。
今までこぼすことの出来なかった想いをいっぱいにして、涙を流した。


213 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:13:51.67 ID:46udxVI0 [20/44]


「白井を取られて悔しいのか?」

「…、べ、別にそんなんじゃないわよっ」

抱きしめあう二人を廊下から眺める上条と美琴。
美琴はどこか不服そうな顔を浮かべ、上条はそんな素直じゃない美琴に呆れながら。

「…水を刺すと悪いから言わないけどよ。できれば、靴は脱いでから上がって欲しかった……」

と上条は呟いて肩を落とす。

「言ってるじゃない…ばか。大体あんた―――――ん?」

皮肉を言おうとした美琴の視界にインデックスがはいる。
インデックスは上条と美琴のいる廊下まで来て、人差し指を立て、くいくい、と美琴にジェスチャーで来いと言う。

「な、なによ」

「無理はよくないって言ってるんだよ」

インデックスは、やれやれ、とため息をついて、

「とうま、手伝って」

「へいへい」

返事をした上条は美琴を押した。
丁度美琴の頭がインデックスの胸元にくるように。

「なにを――――――――ふぇ?」

「わたしはシスターだからね。困っている子は放っておけないんだよ」

美琴を抱きしめ、優しく言い聞かせるようにインデックスは呟いた。



214 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:14:41.06 ID:46udxVI0 [21/44]



「ちょ、そんな趣味は黒子だけで――――え? あれ、どうして……わた、し……っ」

「あの子のことはよく知ってるつもりだよ。立場が違ってるけど、あの子は短髪でしょ?」

事情のことは深く知らないけどね、と付け加える。
突然流れ出した涙に困惑する美琴に、あの子より全然素直じゃないけどと心の中で呟くインデックス。

「ちが、違うのよ! 別に、泣いて…なんかっ」

「…短髪は素直じゃないね」

「お前は本当にビリビリ贔屓だな…」

インデックスの物言いに呆れる上条。
口ではそういつつも、決してインデックスは美琴を離さなかった。




215 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:16:04.83 ID:46udxVI0 [22/44]




「で、どうなのよ?」

「どうって何が?」

「…あ、あんたのことに決まってるでしょっ!!」

欠陥電気の言葉に美琴が怒鳴り返すが、欠陥電気ははぁ? とした顔をする。
上条、インデックス、美琴は部屋の中央に置かれたテーブルを囲うように座っており。
黒子と欠陥電気は上条のベッドの上に腰を下ろしていた。
ちなみに、二人の手は繋がれている。

「…つまり、何から話せばいいわけ?」

「―――ッ!」

「落ち着け御坂! 言いたいことは分かるが、俺もどう話せばいいのか分らねえんだよ」

家の家電製品が気が気でならない上条。
なにせ今は不発弾が部屋に二つもあるのだから。その内一つはすでに導火線に火がついているが。

「わたくしからよろしいですか?」

「あー、じゃあ白井」

黒子の言葉に投げやり気味に発言を促す上条。
どう話を切り出すべきか、それが問題だったので黒子の言葉はありがたかった。
事前に、欠陥電気が受けた実験のことは二人には話さないと三人で決めていた。
もっともインデックスはあの夜途中から乱入したので深く知らないわけだが。



216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:19:10.61 ID:46udxVI0 [23/44]


欠陥電気はあの実験を知ったところで二人を苦しめるだけだと言い、上条もそれに同意した。
今更事実に気付いたことろでどうしようもないのだ。
だから、一方通行が実験を潰し詳細は分らなくなったとシラを切り通すことにした。
欠陥電気が語れることは、自身の素性と助けられてからの同居生活だけともいえる。

「では僭越ながら、まずは『妹達』について教えてもらえれば幸いですの」

そういや知らなかったなあ、と一同納得する。約一名を除いて。

「わたしが話すわよ?」

と、欠陥電気を見て美琴は言った。

「いいわよ。口を出したりすると思うけど」

黒子の髪をいじりながら、素っ気無く言う欠陥電気。
『お姉さま』からのスキンシップで、神妙な顔をしている黒子から時折ぐへ、とか聞こえたりしたが皆スルーした。

「…黒子、ちゃんと話聞きなさいよ」

「も、勿論ですわ!」

真剣な瞳とは裏腹に、頬が引き攣っており明らかに笑うのを我慢している。
尻尾があったらさぞ振っていることだろう。実に説得力の欠片も無い空しい言葉だ。

「はぁ…、まあいいわ」

妙に黒子に構う自分の姿に呆れながら美琴はレベル6の進化法、妹達の詳細を語った。
一方通行、妹達。凄惨で救いの無い実験だ。
犠牲になった妹達は10031人。
欠陥電気はその話をやるせない顔で聞いていた。
当然知っている。むしろ美琴より詳しく知っている。
自身の元となった9982号は一方通行によって殺されかけたこともあるのだから。



217 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:21:34.26 ID:46udxVI0 [24/44]


だけど、と欠陥電気は思う。
あいつは本当に不器用だけど、根はいい奴なんだと声を大にして言いたかった。
勿論、あとで話すときに言うつもりではあるが。今この瞬間にも叫びたかった。
だが、あのお人よしが服を着ているような上条当麻ですら、この話に懐疑的なのだ。
今ここでそれを言ったところで、言い争いにしかならない。それが―――――悔しかった。

黒子は話を聞いていて驚きの連続だった。
何度も声をだして話を遮りそうになったが、そのたびに『お姉さま』が手を強く握ってくれたお陰で黒子は我慢できた。
とても許せそうになかった。そして信じられなかった、こんな実験を認める学園都市が。
自分の信じた正義が風紀委員としての誇りが『お姉様』への想いが、がらがらと崩れ落ちるような気がした。

同じ部屋で寝泊りし、『お姉様』と慕っておいて全くこの事実に気が付くことができなかった。
この狂った実験で苦しんでいた美琴に気付きもせずに、やれ風紀委員だの夜遊びが過ぎるなどとよく言えたものだ。
この実験から美琴を救ったのは上条当麻。偶然とはいえ実験に気付いた上条が救ってみせたのだ。
あの学園都市最強を相手に。
自分が美琴の実験に気付いたらどうしただろうか? 風紀委員も警備員もあてにできない。
それこそ上条当麻のように闘うべきか? 自分はレベル4の能力者だ、仮に勝てても実験を中止にできなかったかもしれない。
いや、下手をしたら私は『お姉様』を―――――――――――

「――――わ、わた、くしは……」

「黒子っ!」



218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:23:39.50 ID:46udxVI0


黒子は欠陥電気から身を離しあとずさる。
気付いてしまった、自分はなんて薄情で浅ましく歪んだ人間なのだと。
話してもらえなくて当然だ、気付ける材料はいつだって黒子の手元にはあった。
四十六時間美琴と一緒にいたのだから。

「黒子、話を聞きなさい!」

二人の『お姉様』が黒子に話を聞けという。
だが、そんな気遣いは必要なかった。

「や、やめてください。わたくしには、そんな資格が―――」

―――――初めからなかったのだから。

「くろ――ッ!?」

部屋から突然姿を消す黒子。
舌打ちする美琴。迂闊だった、黒子がこの話を聞いてどうするか全く考えていなかったと。
欠陥電気は黒子と手を離したことを後悔していた。すぐそこに黒子はいたのだ。なぜ止めれなかったのだと。
二人は自分のことばかり考えていて、黒子のことを考えていなかった自分を責めた。
黒子は空間移動者だ。本気で逃げる彼女を捕まえることは容易ではない。

「―ッ 初春さんに連絡して!」

突然何かに気付いた欠陥電気が美琴に叫ぶ。

「なん――――」

なんで、と言い返す前に気付き美琴は欠陥電気に叫び返す。

「わかったわ! あんたは先に探しに行っててっ!」

「もう行くわよっ!」

「ちょっと待て! 俺も行くぞっ!」

慌てて出て行こうとする欠陥電気に上条が言い放つ。

「お前いま携帯持ってねえだろ? 連絡取れないと面倒になっちまう」

「わかったわ、行くわよ!」



219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:24:50.66 ID:46udxVI0 [26/44]



上条と欠陥電気は家をでる。
美琴はポケットから携帯を取り出し初春の携帯へかけた。
コール音がもどかくて叫びそうになる。

初春飾利は学園都市にある監視カメラをつかって人を探すことができる。
空間移動者だろうがなんだろうが、学園都市中にある監視カメラから逃げ切ることは容易ではない。
建物の中に入られたらやっかいだが、そうでないことを祈るだけだ。

「初春さん!? 今すぐ黒子を探してッ!!」

単刀直入に用件を言う美琴。
恐らく電話越しにいる初春は突然すぎて意味も分らず驚いているだろう。

「学園都市にあるカメラでも衛星でも何でもいいから、とにかく今すぐ黒子を見つけて!! 責任なら後でいくらでも私が取るからお願い!!」

そう言い終わると自分も外へ出ようと玄関まで走り

「ほら、わたしたちもいこう」

そこにはインデックスが靴を履いて美琴のことを待っていた。






220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:26:06.28 ID:46udxVI0 [27/44]






「…お腹が空きましたの」

自分勝手さに嫌気がさし、自分の行いに絶望してシリアス路線を貫いているのに腹は減るらしい。
上条の部屋から勢いのまま逃亡を開始し3時間。朝食をとってから4時間。お腹は早くもグーグーと鳴り空腹を訴える。
いっそどこかのコンビニでサンドイッチでも、と考えたがやめた。
仮に、仮にだがそんなところを『お姉様』たちに見つかったら?
死ねる。間違いなく死ねる。恥ずかしすぎて黒子がやばい。
どこまで自分はダメな奴なんだろうと黒子の自虐的思考が止まらない。
はぁ、とため息をついて、はたと思った。

よくよく考えてみれば、実験に気付けなかったのは黒子の不徳であり、一生の不覚なのだが…
実験を知れば、例え相手が一方通行だろうが核ミサイルだろうが寮館…―――――無理、ともかく実験阻止に立ち上がっただろう。
実験阻止に失敗し倒れ死ぬことになったとしても、それはそれで案外いい感じの悲恋なのでは?
『お姉様』も黒子のことを一生胸に抱き生き続けたり、夕日に向かって悲しそうに微笑み黒子の名前を呟いたり
はたまた生まれた子供に黒子なんて名前を付けたりするかもしれない。いや、実験はもう終っているから死ぬことはないんだが。




221 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:27:20.47 ID:46udxVI0 [28/44]


うーん、と唸って考える黒子。
自分は驚きの事実についつい行き過ぎた行動をとってしまったのかもしれない。
あのまま部屋に居れば『お姉様』たちに優しく慰めてもらえただろうことは、想像に難くない。
しかしそれにしても、『お姉様』が二人。
これはとてつもない幸運なのかもしれない。言ってみればグリーンジャンボの一等前後賞のダブルゲット。
嫌な例えだが、仮に、しつこく言うが仮にだが、『お姉様』があの猿人類に靡いたとしても手元に一人残る。
まさかあの見境ない猿人類も『お姉様』のダブルゲットなんて真似はすまい。いやさせない。

グーとまたお腹が鳴る。年頃の乙女としては恥ずかしいあまりだが、今この場に他人が居なくてよかった。
まあ、わざわざ人の居ない場所まで跳んで来たのだから居ても困るのだが。
しかし腹が減った。一度考え出すと際限なく空いてくる。
やはりここは危険な賭けではあるが、食料の確保をしておくべきかもしれない。この戦いは持久戦の恐れがあるのだから。
自分から戻ることはありえない。今更どの面下げて戻ればいいというのだ。
案外笑って許してくれるかもしれないが、黒子のプライドが許さない。



222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:29:03.63 ID:46udxVI0 [29/44]


またグーと鳴る。ダメだ、本格的にお腹が減ってきた。
空腹のあまり変な事を考え出さないうちに、今後のことを考えなければならない。
折角逃げ出してきたのだから、『感動の再会』これは外せない。
ロケーションとしては、『お姉様』との思い出の場所などで見つかることが望ましい。
次はシチュエーション。『お姉様』達がどういったグループに別れて行動しているか、これが非常に難しい問題である。
最良は単独行動。上手くいけば一粒で二度再会が楽しめる。後で殺されるが。
最悪なのは全員行動。邪魔者が二人も入る上に二度楽しめない。
台詞なんかも考えておいた方がいいかもしれない。『お姉様』用と『お姉さま』用にわけて。

さて、大まかな方針が決まったら次は情報が欲しい。
本人達に掛ける訳にはいかないので、初春辺りに動きがあったか確認してみるか。
即断即決速決行、GPS追跡を警戒し電源を切っていた携帯の電源を入れて初春へ電話をかける。

「あ、初春ですの? お姉様のこ――――え? ちょ……………………わたくしは現在使われておりませんの」

やばい。ここまで大事になっているとは思っていなかった。愛が痛い。速攻初春との通話を切って携帯を踏み潰す。
これでコンビニには絶対にいけない。行く前に気付いてよかった、ナイス判断、5分前の私。
ああでも、携帯を踏み潰すのは早計だったのかもしれない。つい感情の赴くままに突き動いてしまった。
GPSの追跡は怖いが、逆に言えば『お姉様』を絶好の場所に誘い込むことが――――――あら?
目の前の景色が歪んでいるのは気のせいなのか、体が思うように動かないのは…

「…そ、そういえば、ここ最近ろくに寝てなかった上に……能力を酷使して……………………………きゅぅ」






223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:32:45.07 ID:46udxVI0 [30/44]



「えー、改めて大変ご迷惑をお掛けしました…の」

ベッドの上に膝をつき見事な土下座をかます。
あの後簡単に黒子は見つかった。携帯の電波から場所を割り出し、倒れているところを。
携帯が粉々に壊されていたことから、黒子を襲った奴が居るに違いないと皆が犯人探しを始めだしたのだが、ここでネタばらし。

目が覚めたら優しく自分を抱きしめる『お姉さま』に、初春に電話でなにやら激しく物騒なことを捲くし立ててる『お姉様』が見えた。
意味がわからず困惑していると、『お姉さま』が事情を説明してくれた。口元が激しく引き攣ったことを自覚する。
ある意味このままスルーして居もしない犯人を捜してもよかったのだが、折角『お姉さま』と会えたのにそれではあんまりだ。
なのでお仕置き覚悟で本当の事を話した。
ちょっとだけ、この妙に優しい『お姉さま』にお仕置きされたいとかも考えたりしたが。

「やれやれだね、心配して損したかも」

「あんたは私のお金でひたすら買い食いしてたでしょ!」

インデックスの嘆息に青筋をたって怒鳴る美琴。
どういった捜索内容だったかは割愛する。

「まあ、見つかったしいいんじゃねえのか…」

「ま、そうね」

割と真面目に探していた上条と欠陥電気。
黒子の位置がわかり、その後すぐに位置情報が消失したと聞いたときは焦り、急いで駆けつけてみると倒れた黒子がいた。
そして壮絶な勘違いがあって事態は今ようやく収拾した。



224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:34:17.80 ID:46udxVI0 [31/44]


「申し訳ありませんでした。黒子は、深く反省しておりますの」

ベッドに頭を擦り付け土下座を続行する黒子。
もっとも、動機自体は美琴のことを想ってのことなので仕方ない、その後さっさと戻ってくればよかったのだが。

「もういいわよ」

「で、ですが、それでは黒子の…」

「だから! それはあんたが、その…私のことを心配してくれたって、理由があんでしょ…」

勢いよ声を張り上げたものの、紡ぐ言葉は尻すぼみになっていく美琴。
心の中でありがと…ばか、と呟きながら素直になれない。黒子の暴走は愛情の裏返しだとよく分っているけれども。

「はいはい、この話は終りね」

欠陥電気は手を叩きながら終了宣言をし、黒子の横まで移動するとドスン、とベッドに乱暴に腰を下ろし黒子を構い始めた。
とりあえず土下座をやめさせ座らせると肩を抱いてやる。そして、二言三言黒子の耳になにかしら囁き黒子が真っ赤になる。
(あ、あいつ……)
その様子を見ていた美琴は非常に面白くなかった。
黒子の隣を取られた気がしてならなかった。ただ、そういうのが自分のキャラじゃないことも自覚していた。
(だってのに…、なんであいつは…)
寮で黒子を慰めるときに抱きしめもしたが、セールじゃあるまいし滅多にはしない。そんな趣味はないし。
そもそもそんなことを連発すれば黒子が調子に乗るに決まっている。
だけど、と考え、むー、と唸ると美琴は腕を組みしかめっ面で二人を見る。

「とうま、なにこれ?」

「あー、アレじゃないですかインデックスさん、孫を無駄に甘やかすお爺ちゃん、お婆ちゃんの心理」

「しつけるのは親の義務、とかいうやつ?」

「ビリビリは寮で一緒にならねえし、御坂より素直だからじゃねえか」

投げやりな上条の言葉に、なるほどとインデックス。
怒るのは美琴の役目なのかと頷きながら、昼食用に買ってきたお弁当にパクつく。
上条も緊張した空気がどっかにいってしまったことに白けつつ、弁当を食べだした。
黒子と欠陥電気もスーパーのビニールからサンドイッチを取り出す。
美琴は、納得いかねーと思いつつ買ってきたパンを食べる。



226 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:35:36.32 ID:46udxVI0 [32/44]


「で、さっきの続きするんでしょ?」

もぐもぐとサンドイッチを頬張り飲み込んでから、欠陥電気は言った。

「食べながらする話じゃないと思うけど…もういいわ、続けて」

美琴は肩を落としながらやるせなさそうに返事をする。
その言葉に軽く頷くと欠陥電気は口を開いた。

「途中で突っ込むのは無しにしてよね」

と前置きを入れて。

「それ、さっきそこのバカにも言われたわ…」

欠陥電気は、自身の出生を知るために実験が行われていた施設に戻ったところから語り始めた。
結局施設で知ることができたのは、自分が御坂美琴の記憶をもつ妹達の一人だということ。
そこで研究者に捕えられかけ、一方通行に助けてもらったこと。
実験のデータも施設も一方通行が破壊したことで実験は凍結され、今は一方通行の家に居候していること。
一方通行と打ち止めと三人で生活していること。昨日の夜に上条とインデックスと話し合って今日のことを決めたこと。
嘘を混ぜつつ欠陥電気はこれまでのことを語った。
一方通行の名前を出した途端、美琴が突っ込んできたが目で黙らせ話を続けた。
居候生活での出来事に話が及ぶと、予想通り美琴だけでなく一同頬を引き攣らせる。

「……分ってるわよ。突っ込みたいんでしょ? 好きにすれば」

欠陥電気は語り終えると、周りを見回しどこか拗ねるように呟いた。

「…お姉さま? その、第一位と今現在も同居していると?」

「だからそう言ってるじゃない。今日もこれが終ったら家に帰るし」

家に帰るし。帰ると言い切ったぞこの女、と欠陥電気を見る美琴。

「…あんたの言いたいことは分るわよ。好きに言えばいいじゃない」

美琴の視線にうんざりしたかのように欠陥電気は言う。
明らかに拗ねている。まるでお気に入りの曲を友人に聞かせ、その結果曲が貶されたかのように。



227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:39:44.91 ID:46udxVI0 [33/44]


「えーっと、え、…………マジなの? 『私』が、一方通行と同居?」

「…」

「あ、そう。へー、本当なんだ…………………マジ?」

「…………よ、よく分ったわ、あんたはこの間の続きがしたいわけね?」

「お、お姉さま!?」

わなわなと体を震わせた欠陥電気の体にバチバチ、と青白く光るナニかが走る。
上条はそれを見て血の気が引いた。

「ま、待て待て待て待てっ! 御坂! マジで信じろ! こいつの話はマジだから! 
 んで、確かに俺もこれで二度目なのに未だにその話について半信半疑なのは認める!
 悪かった! マジすみません! だからお願いだから家で能力を使わないでくれええええええっ!!」

冷蔵庫は買い換えたばかりなんだ、と内心で叫びながら。

「――――――はぁ、もういいわよ。そういう反応するってのは分ってたから。でも…」

言葉を濁らせる。
妹達の話を聞いていたときは、一方通行が一方的に悪者扱いされていたことが悔しくて反論したかった。
けど、いざ言うとなると躊躇われた。あいつはいい奴だ、なんて言えばどうなるだろうか。
少なくとも自分のキャラじゃないことは確かだ。欠陥電気は内心で呟いてため息を吐く。
物憂い顔をする欠陥電気を見た美琴は、髪をかきあげながらそっぽ向いてぼそっと言った。

「…悪かったわ、私もあいつがそんなことするなんて思わなかったから」

目の前にいる『私』が一方通行に助けられたのは事実。
その後も行き場のない『私』を受け入れてくれた。
なにより、一方通行が居なければ目の前の『私』はまだ実験体として使われていたのかもしれない。
あの一方通行が『私』と生活してるなんて想像つかないけどと思いながら。



228 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:42:27.10 ID:46udxVI0 [34/44]


「別にいいって言ったでしょ。…それより佐天さんと初春さん何か言ってた?」

湿っぽい空気を払拭するかのように、欠陥電気は話題を変える。

「? いえ、別にこれといって何も…。お姉様?」

「あ、うん。ちょっとその事で気になってたことがあるのよ。…もしかして、あんた佐天さんたちに会った?」

「…ちょっと前に、ファミレスで一方通行と一緒にいるときに会ったわ」

「あー、通りで…」

呟いて美琴はガクン、とテーブルに顎を乗せため息を吐く。
欠陥電気も自身の失敗を思い出し苦い顔をしていた。

「お姉様、どういうことですの?」

意味が分らないと、黒子が尋ねる。

「わたしが言うわ。確か3日前だったと思うんだけど、佐天さんたちとファミレスでばったり会っちゃってね
 そのまま一緒にお茶飲んでさ、帰り際にわたしにこの事を言わないでって頼んだわけ。
 わたしから言い出すまでは黙っといてって期限をつけて、多分そのことでしょ」

「…それでか。私も黒子のことで、事情はまだ話せないって言ったら、佐天さんが「また?」って小っちゃく呟いてさ」

「そういうことでしたの」

黒子は得心がいったと頷く。
体をぐっと伸ばして欠陥電気は、苦笑を浮かべる。

「いつか、事情が話せればいいんだけど、ね…」

「…っ」

そう呟いた欠陥電気の姿に、美琴は居た堪れなかった。
目の前の『私』は私にはなれない。そしてその事実を受け入れている。
もし、自分がそうなったらこんなにも平然としていられるだろうか?
彼女が佐天や初春に会いたいと言って誰がそれを責めれるだろうか。
黒子と会って話がしたい、それは実にささやかな願いで私にとっては当たり前で―――――

「…っ、ごめん」

「ちょっと、なんで急に…」



229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:44:23.50 ID:46udxVI0 [35/44]


考えるように俯いたかと思えば、急に謝る美琴に思わず言葉が出かかって、気付いた。
御坂美琴という少女がどういう人間かを。
当たり前だ、自分のことだから。

「わたしは自分を慰める趣味はないから。黒子」

「了解です、お姉さま。ささ、お姉様っ」

「な、なによ」

不穏な気配にジリジリとあとずさる美琴。
黒子は目を光らせ手をわきわきと動かし、じっくりと美琴に近づく。

「さぁさ、安心してお姉様の全てを黒子に委ねてくださいまし……………うへへへへ」

「ちょ、ちょっとっ! 明らかに不純なものが混じってるわよっ!!」

「ナニをおっしゃいますか、お姉様。黒子に不埒な想いなど一切、ええ、これっぽっちもございませんの! ………ぐふっ
 ただ、そうただっ! 溢れんばかりの黒子のこの想いが!愛が! 時として己を見失い些かお姉様を不安にさせるかもしれません
 しかしご安心くださいましお姉様。黒子の心は紛うことなき本物のソレ! それは美しく穢れの知らない乙女のぴゅあ・らぶ・はーとっ!」

「意味わかんないのよっ! 黒子っ! 後でマジ殺すわよ!?」

「黒子は今を生きる女っ! 過去も未来も興味の範疇ではありませんの! お姉様、ご覚悟ぉっ!!」

「や、やめなさいっ!! ば、ばかっ! なんてとこ触ってるのよっ!! ちょ、黒子っ!!」

「うへっ! おぅほっ! ああ、あああ。お姉様の初めてがいっぱいで黒子は、黒子は――――――――もうっ!!」

本気で抵抗しつつも電撃を使わないあたりが美琴なんだろう。寂しくて悲しいのに素直じゃない。
二人の一方的な抱擁を眺めつつ、欠陥電気はやれやれと笑った。

「…空気かも」

「仕方ないだろ…」




230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:47:55.87 ID:46udxVI0 [36/44]


時刻は午後4時過ぎ。
上条の部屋がかつてない男女比率を迎え早7時間を経過していた。

「これ、誰が片付けるんだよ…」

食べかけのポテチ、飲みかけのペットボトル、放置食べされた菓子袋etc
ゲッソリした顔で上条は呟く。いそいそとこれを片付ける自分の姿が簡単に想像できた。

「もう4時か…、そろそろ帰らなきゃ」

壁に掛けられた時計を見上げた欠陥電気が言った。

「えぇ!? そんなお姉さま…小汚い部屋ですけどどうぞゆっくりしていってください」

「えらい言われようだな…」

黒子の物言いにジト目で呆れる上条。

「ああ、うん。わたしももうちょっと話したいんだけどね…」

「皆まで言わないで下さいな、お姉さま。マンツーマンで朝だろうが地の果てだろうがお話に付き合いますわ!!
 シチュエーションにご不満があるのなら、こんなこともあろうかともホテルを―――――づぁっ!!」

「調子に乗ってんじゃないつーの。っていうか、いつホテルなんか予約したのよ…」

黒子の頭頂部にかなりマジなチョップを食らわす美琴。
そのままジロリと欠陥電気を見て言う。

「あんたも私ならぶん殴って止めなさいよ」

「あは、あはは…、なんだか懐かしくってつい…」

ぽりぽりと頬をかいて苦笑いを浮かべる欠陥電気。
もっとも、殴ろうとする前に美琴が動くので殴れないわけだが。
勘が鈍ったかな、と独り言を呟く。

頭部の思わぬ強打にへたり込んだ黒子は自身の頭頂部を優しく擦る。
(なんなんですの…………わたくしはお姉さまをお誘いしたというのに…お姉様が怒るという理不尽…)
押せばいけた。もう少し、もうちょっと時間があれば……と悔やみ、ふと思った。
(んん? これは……………………嫉妬? お姉様がお姉さまに嫉妬なされている…………?)
何かピースがカチリと嵌る音がした。これは、間違いない―――――

「おーい、白井ー。頭大丈夫か?」



231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:49:13.00 ID:46udxVI0 [37/44]


お姉様は嫉妬なされている。黒子を巡ってお姉さまに対して嫉妬していますの。
お姉さまと出会って苦節136日。とうとう黒子の想いは成就されました。
ありがとう神様。ありがとう運命。おめでとう黒子。嗚呼、黒子には見えますの。ジャイアント黒子が――――

「とうま、このついんてーるは頭より、中身のほうが大丈夫じゃないかも」

「なんか受け取ってるな……………誰もいねーのに」

しかし黒子の体は一つ。こればかりは意かなお姉様への愛を持ってしても……………黒子は何と罪深い女。
お許してくださいお姉様。お姉様の想いに気付くことなく、このような愚行をお許しください。
ですが何も問題ありません。黒子の体は一つですが、お姉様への愛。それ即ち次元を貫き天上へと突破する、その心は無限。
だから黒子をお姉様同士で奪い合うなんて悲しい事を―――――――――ぶぇっ!!」

「わけわかんないこと口走ってんじゃないわよっ!!」

「―――――うふ、うふふふふふふ。照れなくてもいいではありませんかお姉様? ちょっと愛が黒子の口からこぼれ落ちただけですの。
 ご心配なさらずとも年中無休で無限ですので、言ってくださればその10倍はいつでも差し上げますわ!」

満面の笑みを浮かべ美琴へ言い切る。
美琴は欠陥電気に振り向き叫んだ。

「どーしてくれんのよ! 滅茶苦茶前向きな変態になっちゃったじゃない!!」

「あー、その、ごめん」

とりあえず前向きな変態を二人掛りで張ったおす。
上条はいそいそとゴミを片付け、インデックスはスフィンクスと遊んだ。



232 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:50:02.27 ID:46udxVI0 [38/44]




話し合いも終りということで、各自外へ出る準備を済ませ玄関へと向かう。
靴を履き、日が赤くなり始めた外へ出る。
廊下を歩きながら黒子を背負った美琴は、後ろを歩く欠陥電気に振り向かずに言った。

「明日から、入院するのね?」

「そうよ」

短い返事。特に気負った様子も不安も見られない。

「黒子、連れて行くから」

「毎日来なくてもいいわよ。あいつらも来るだろうし」

「あっそ」

なるべく素っ気無く返す。
きっと、このくらいの距離が『私』たちには相応しいと美琴は思った。

「とうま、帰りにスーパー寄って欲しいかも」

「お前はまた何を買うつもりなんだよ…」

二人のさらに後ろを並んで歩く上条とインデックス。

「あ、そうだった。悪いんだけどさ」

と欠陥電気は前を歩く美琴へ声を掛ける。
なによ、と呟いて軽く視線を後ろへ向ける美琴。



233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:51:40.24 ID:46udxVI0 [39/44]


「…自分に頼むのもあれだけど、お金貸して欲しいのよ」

苦虫噛むような顔をして。

「あいつが昨日からどっか行って戻ってこなくてさ、生活費がすっからかんってわけ。
 今日も戻ってこないかもしれないから、ちょっと都合して欲しいんだけど…………ダメ?」

その言葉に深いため息を吐きながら、美琴は財布ごと渡した。

「あんま大して入ってないけど、好きに使って」

「悪いわね。…って、財布ごと?」

「返さなくていいわよ。知ってるでしょ? 財布なら他にも持ってるから」

美琴はそう言うと前を向いて歩き出す。歩調は若干先程より早い。
あまりにもらしい『私』に苦笑しながら、欠陥電気はあり難く受け取ることにした。

しばらく歩き、こっちだからと言って欠陥電気は皆と別れる。
チラチラと視線を送るが何も言わない美琴を尻目に、上条とインデックスは家まで送ると提案したが
欠陥電気はその言葉を断り、同居人の待つ家えと帰った。





234 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:55:00.62 ID:46udxVI0 [40/44]





―――同日 午前―――



うち捨てられてまだ日が浅いであろう建物。
寂れた第十九学区にひっそりと存在する研究施設。
かつて欠陥電気と出会った施設の一室に一方通行はいる。

家に戻ることの出来なかった一方通行は、この廃墟となった施設で夜を過ごした。
幸か不幸か、破壊し尽くしたと思っていた施設の一部が生き残っており
外部から電気の供給が止まった今でも発電機によって電力が賄われていた。
一方通行は、かつて職員がいたてであろう部屋で机に腰を下ろし割れた窓ガラスの向こうに映る景色を眺めていた。
足元にはここが閉鎖されると同時に必要なくなったであろう書類がばら撒かれ
一方通行が腰を下ろしている机にはまだ職員の私物と思われるモノが転がっていた。

「…」

窓の外を眺める一方通行の顔に表情は無く、ただ淡々と時間だけが過ぎていていく。
まるでこの廃墟となった施設の一部であるかのように、一方通行は身動き一つしなかった。
朝日は昇りきり日差しが窓から差し込む。割れたガラスの隙間から風が吹き抜けた。




235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:57:00.37 ID:46udxVI0 [41/44]


もう悩むことも考えることも一方通行にはなかった。
時間が着たら粛々と実行に移すと決めたから。
明日の夜、欠陥電気を自らの手で殺すと決めてしまったから。
だから家にはもう戻るつもりはなかった。次に欠陥電気と会うときは殺すときだと誓ったから。
そうでもしなければ決意が崩れてしまう。意思が鈍ってしまう。欠陥電気を殺せなくなってしまう。
一週間。それが一方通行が欠陥電気に与えた時間。
一方通行と欠陥電気が出会ってから数えて一週間、それが彼女に許された時間の全てになる。
その時間が来るまで一方通行はここで過ごすことにした。廃墟となった場所こそ自分にお似合いだと。
他に彼ができることは、芳川からの電話がないことをひたすら祈るだけだった。



日が昇りきってからどのくらいの時間が経っただろうか。
差し込む日差しは強くなり、吹き抜ける風によって冷え切った一方通行の体を僅かに暖める。

一方通行は無言のままポケットから芳川から渡された端末とメモリを取り出すと、
手にとった端末に視線を合わせ、能力の使用限界時間を計算した。
自宅周辺を張っていた連中を探し出して殺すのに結構な時間をつかった、それから充電は行っていない。
ざっと計算し、残された時間は大よそ2分だと把握した。
欠陥電気を殺すには十分すぎる時間だ。
仮に彼女が抵抗したとしても、気を失わせることに大した手間は掛からないのだから。
一方通行は端末とメモリを地面に投げ、粉々になるまで踏み潰した。



236 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 22:59:36.08 ID:46udxVI0 [42/44]


そんなときだ、彼の耳に届いたのは。
人の居ないはずの廃墟に、僅かだが確かに声が響いた。
声は次第に大きくなり会話の内容までしっかりと聞こえる。
どうやら男が数人で、哀れな獲物となった女を追い掛け回しているようだ。
一方通行は聞こえてくる声を無視し、変わらず外を眺め続けた。
女の甲高い悲鳴が勘に触ったが、何時間もしないうちに静かになるだろう。
勝手に殺して勝手に犯して満足したらさっさと消えろと、それ以上の関心を持たず時間が過ぎるのを待つことにした。

ふと、今の自分を同居人の少女達が見たらどう思うだろうと一方通行は考えた。
きっと彼女達は失望するだろう。なんて酷い奴だと蔑むだろう。
そして打ち止めは泣いてしまう。悲しそうに一方通行のことを想って涙を流すが、一方通行の側を離れないだろう。
欠陥電気がどうするかは一方通行には想像できなかった。
いつか彼女へ問いかけた言葉を思い出す。

『クソガキにも言ったンだがよォ、オマエらはどういう神経してンだ?』

その問いに対する解は

『でもそんなことはどーでもいいの』

実に笑える言葉だと一方通行は思う。どうでもいいなんてありえる筈が無い。
だが彼女はそれ以来一方通行に対し実験のことで恨み言はおろか、話題にすら上げなかった。
互いの名称を決めるときに皮肉として使われはしたが。



237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 23:02:01.26 ID:46udxVI0 [43/44]


そうだ、アレは痛快だったと一方通行は思い出して笑った。
『一万人殺して後悔』だと、実にセンスがある。実際その通りなのだからまた笑える。
その日の午後病院に行って、クソ医者に騙されそれをバカにされた。
その次の日は欠陥電気の服と日用品を買いに出掛けた。
その次の日の朝は朝食をつくった。打ち止めに邪魔されて傑作が汚された。
そして一日中ボーっと過ごした。欠陥電気と昼飯の用意を押し付けあって気付いたら夜になっていた。
チャンネル争いもした。ファミレスで口汚く罵りあった。打ち止めと欠陥電気が一緒に作った飯は意外とうまかった。
打ち止めと欠陥電気と三人で過ごした時間は悪くなかった。決して悪くなどなかった。


また悲鳴が響いた。先程より大きくより悲痛の篭った声で。
女は運が悪かった。ただそれだけで女が悪いわけじゃなく、ただ運が悪かっただけだ。
運が悪くても助かる奴とそうでない奴がいる。女は運が悪かったが前者の人間だった。
欠陥電気は助からないが女は助かる。
欠陥電気を殺すために一方通行がここにいたのだから、女の運は悪くなかった。



238 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/04(日) 23:08:58.41 ID:46udxVI0 [44/44]
ここまで
さーせん、黒子に比重おきすぎてイミフ。抑えて美琴に重心置くべきだったやも
一方さんのは途中なんだけど区切りがいいからここで一旦切る 2つあってどっちにするか迷ってる

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