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吹寄「心に、でしょ」

449 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:27:25.51 ID:mD5lJADO [2/33]
前スレだかで書いた上条×吹寄の完成版を書いてきた。改行にミスがなければ30レスと長いです

カップリングは上条×吹寄、キャラ崩壊なし、オリキャラではないけど勝手に下の名前を付けたキャラはいる、ほのぼの、時系列は大覇星祭前と入学式

ではスタート

450 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:28:22.85 ID:mD5lJADO [3/33]
 「皆さーん。明日からの大覇星祭に備えて、しっかり体を休めるのですよー」

 担任の話が終わると生徒たちは思い思いの物で自分を扇ぎながら席を立ち教室を後にする。

 時刻は陽がまだまだ高い正午過ぎ。9月の半ばに差し掛かっているというのに気温は30度近くもある。

 今日は9月17日。明日の18日から行われる学園都市最大とも言われるビッグイベント、大覇星祭の前日である。

 前日である今日は体力を温存するということで早めの帰宅が義務付けられている。なぜ義務付けられているかというと……

 「いやー女子のチア、熱が入っとんなー」

 「いやはや至福の時ですなぁ」

 こういった者達が残っている実行委員や、他の生徒達と盛り上がって『面倒なこと』を起こしかねないからだ。

 季節としては秋なのに、脳内お花畑の二人の生徒に一人の女生徒が近付き声をかける。

 「貴様ら、ここでなにをしている」

 「ふ、吹寄! なにって別に……なぁ青――っていねぇ!?」

 太陽を背にしての仁王立ち。その姿、正に威風堂々!

 「あいつなら私の気配を察してかマッハ5くらいで逃げてったわよ」

 「ああ、どうして俺だけ……」

 「上条。お前は本当に不幸なのね」

 「仰る通りで……」

 太陽を背に吹寄とその陰で小さくなる上条。その構図は偶然にも二人の上下関係を表していた。

451 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:28:53.77 ID:mD5lJADO [4/33]
 「ま、不幸ついでに私にちょっと付き合いなさいよ」

 「なんだ? 実行委員の仕事か?」

 「まぁそんなとこ」

 「前日だってのに忙しいんだな」

 「前日だから、よ」

 「そうか。それじゃぐぇ」

 吹寄は上条の襟を掴み引き留める。

 「なにナチュラルに帰ろうとしているの? 私に付き合ってと言ったばかりでしょ?」

 「いやだぃ! 上条さんは帰って体を休めるんだぃ!」

 「女子を眺めていた元気があれば十分よ」

 「……」

 上条当麻、完全に沈黙。

 「それにちょうどいい機会だから上条に確かめたいことがあるのよ」

 「確かめたいこと? 俺のスリーサイズかなにかか?」

 「それじゃあスリーサイズで」

 「よしきた。上から90、60、90だ!」

 「…………」

 上条当麻、撃沈。

 「さ、行くわよ」

 「はい……」

 吹寄はテンションだだ下がりの上条の手を引っ張り、校舎内を適当な空き教師を探して歩いて行く。

452 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:30:04.84 ID:mD5lJADO [5/33]
 「なぁどこに行くんだ?」

 「いいから付いて来る」

 「あ、おい!」

 吹寄は上条の手を初めて握った時を思い出す。それは意外にも入学式の日だった。










 幸と不幸が出会ったあの日、二人の物語は始まった。

453 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:30:42.25 ID:mD5lJADO [6/33]
 私と上条当麻の出会はよくある、ありふれたものだった。たまたま同じ高校に入って、たまたま同じクラスになった。ただそれだけ。そう、ただそれだけ。



 ここはなんてことのないとある高校。今日はその入学式である。

 学園都市の中学校からこの高校を受験し、合格した大勢の者が集まる日。その中に吹寄と上条もいた。

 式は終わり、高校生活最初のホームルームが始まる。

 「皆さーん! 入学早々に申し訳ありませんが、クラスの仮の代表を決めなければなりません。代表と言っても名前を借りるくらいの簡単なお仕事ですよー」

 このクラスの担任となった月詠小萌の言葉でクラス全体が暗く沈み込む。無理もない。入学初日でほとんどの人が初対面の環境の中、仮とはいえこんなことをやりたい思う人間はまずいない。

 吹寄もこの暗い雰囲気に浸かっていると、同じ中学校出身の誘波珠洲(いざなみすず)が話しかけてきた。

 「せいちゃんせいちゃん」

 「どうしたの珠洲」

 「代表やらないの?」

 「やらないわ」

 「どうしてー? 中学の頃よくやってたじゃーん」

 「中学は中学。ま、正式に委員を決めるときになったら考えてみるわ」

 「そんなこと言ってたらいき遅れちゃうよー」

 「結婚じゃないんだから……」

 「分かんないよー? ここに将来のだんな様がいるかもよー?」

 「話ズレてるわよ」

454 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:31:32.13 ID:mD5lJADO [7/33]
 私を「せいちゃん」と呼ぶ彼女は誘波珠洲。中学からの付き合いだ。緩いアホっぽい感じでちゃっかり者だ。ちゃっかり者であるが故にだろうか? ちゃっかり私に代表のことを尋ねてきた。



 「あ、分かった」

 「なにが分かったの」

 「おバカさんがいないからだっ」

 吹寄の肘がガクッと机から落ちる。

 「ねぇ、違う?」

 誘波はそんな吹寄を無視して話を進める。

 「あのね、私がバカフェチみたいに言わないでもらえる?」

 「えー」

 「なにが『えー』よ。私はノーマルよ」

 と、吹寄は反論するが誘波は納得いかないのか頬を膨らませる。

 「私は私を信じるっ」

 「どうぞお好きに」

 よく分からない自信に満ち溢れた誘波を吹寄は軽くあしらって前を見る。

 すると小萌が左右に首を傾げていた。

455 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:32:15.15 ID:mD5lJADO [8/33]
 「うーむ。なかなか現れませんね……」

 小萌がクラス全体を見回す。簡単に立候補者が出ると思っていたのだろうか。吹寄は今まではこの名物ロリ教師のために手を挙げるバカがいたのだろうと勝手に予測する。

 「やはり慣れない環境でいきなり代表をやれというのは難しいお願いですよね……。先生はどうしたらいいのですか……?」

 小萌が涙ぐむ。これはわざとではなく素である。これに突き動かされた生徒は数多い。

 「僕がやりまーす!!」

 「俺がやるにゃー!!」

 「なら俺も立候補だーっ!!」

 先生のそれに突き動かされた三人がテンポよく立候補の手を挙げた。

 「なんやと!? 僕が最初に立候補したんや! にゃーにゃーとツンツンは引っ込んでな!」

 「にゃー。じゃあ俺は引き下がるぜよ」

 「え?」

 「なんや。なら僕も大人しくっと」

 「えぇぇ!?」

 男たちのバカな駆け引きをみた吹寄は、額を押さえ溜め息を吐く。

 「せいちゃんせいちゃん」

 「今度はなに?」

 名前を呼ばれた方を見ると、誘波が自信に満ちた表情していた。

 「おバカさんがいたよ? しかも三人っ」

 「…………………………」

 誘波の指が二本立っている。三人なのに二本。

 「Vサインかややこしい!」

 「え?」

 誘波は予想していなかったツッコミに困惑して指と吹寄を交互に見て「あーっ」っと指を三本にする。祭り前だが後の祭りである。

456 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:32:49.61 ID:mD5lJADO [9/33]
 「お前ら何で手を下げるんだよ!?」

 「さぁ。なんでやろなー?」

 「俺にも分からんですたい」

 「お前ら……」

 二人にしてやられた上条に勝ち目はなかった。

 クラスに「これはダメだ」という空気が流れる。かといって他に立候補する者はいない。大多数の人間はそういうものである。

 「えっと名前名前、上条ちゃんですね。まずは一人目決定! 上条ちゃんの他に立候補者はいないですかー?」

 「はは、初日からこれかよ。不幸だ……」

 「――、」

 “不幸だ”と、うなだれる上条と呼ばれたクラスメートを見た吹寄の左手は条件反射のように挙がっていた。この男を放っていけないとばかりに。

 「先生。私がやります」

 「あれ、いいのですか?」

 小萌が確認を取る。上条に決めるつもりだった小萌には予想外の立候補だった。

 「はい。私にやらせて下さい」

457 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:33:46.55 ID:mD5lJADO [10/33]
 私はバカを放っておけない性格だ。これがきっかけで私は初めて上条当麻と言葉を交わした。忘れたくても忘れることの出来ないこの瞬間。それを上条当麻は“覚えて”いるのかな……。



 「えっと名前名前……あ、吹寄ちゃんですね。上条ちゃんに吹寄ちゃん。他に立候補者はいませんかー?」

 吹寄の立候補によりクラスがざわつく。そのざわつきの中から吹寄の耳に男の声が聞こえてくる。

 「あのー、なんで立候補を?」

 あの二人に釣り出された上条だ。

 「上条君とか言ったっけ? 私が単純にやりたかっただけよ」

 「そ、そうか。てっきり俺は――」

 「皆さーん、静かにして下さーい。では他にいないようですから多数決を取りますよー!」

 「?」

 上条の声は途中で小萌の声にかき消され聞こえなくなってしまう。そして多数決が始まる。

 「それじゃあ上条ちゃんが相応しいと思う人は挙手をお願いします!」

 挙がった手は二本。さっき立候補しかけた二人の手だ。

 「はーい二人ですね。では吹寄ちゃん。少しの間代表をお願いするのです」

 小萌は吹寄の多数決を取らずに決を取る。

 釣り出されたうえに、情けない姿を見せた立候補者に賛同する者はいない。当然の結果であった。

 「二人……俺はお前らを大事にするよ!」

 「みんなあかんなぁ。あの女子に手を挙げた気持ち分からへんでもないけど、後々大変やでー?」

 「そうそう。こういうのは裏で動かしやすい奴をトップに据えるのが基本ぜよ」

 「くぅ! 持つべきものは友だよなぁ!」

 この二人に釣り出されたのに何故か賞賛し感激する上条。この時「立候補して正解だ」と、吹寄は心から確信した。

458 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:34:39.26 ID:mD5lJADO [11/33]
 「よかったねせいちゃん」

 誘波がニヤニヤしながら話しかけてくる。

 「なにが?」

 「おバカさんがいてさー」

 「だ、か、ら。私をバカフェチみたいに言わないでよ」

 誘波は気にせず「でも」と繋げ、吹寄の核心を突く。

 「あの上条……君だっけ? あの人がいなかったらせいちゃん、立候補しなかったでしょ?」

 「うん……まぁ、多分」

 誘波の言う通り、上条のあの姿を見ていなければ立候補の手は挙がっていなかっただろう。

 吹寄はそのの時に挙げた自分の左手を見つめながら無意識に上条のことを考えていた。

 「やっぱりせいちゃんは委員長向きだよっ」

 「……あ、そうだ珠洲」

 「なに?」

 「どうせ暇するでしょ? 手伝いよろしくね」

 「え、えぇ? 私は全然――」

 「暇でしょ?」

 「うん……暇」

 ズイッと迫る吹寄に万年帰宅部である誘波が勝てるはずがなかった。

 「さっすが珠洲ね」

 「けっ」

 狡い笑みを浮かべる吹寄に誘波は目線を反らす。

459 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:35:18.79 ID:mD5lJADO [12/33]
 入学やクラス替えの後の休み時間はなんとなく変だ。開放的な空気になるのに、その中で互いに話せる者同士が申し訳なさそうに話をする。私もその内の一人だった。



 クラスの仮の代表も無事決まった後の休み時間。誘波は吹寄をトイレに誘った。

 「せいちゃんトイレ行こう?」

 「私はいいわ」

 「えーなんでー」

 「なんでって私は別に行きたくないから」

 「えーなんでー」

 「だから」

 「えーなんでー」

 「……」

 「えーなんでー」

 誘波は呪文のように同じ言葉を繰り返して吹寄の体に纏わりつく。

 「……分かったわよ。入り口のそこら辺で待ってるから」

 「うん。……ん? 入り口のそこら辺て割と離れてない?」

 「気のせいよ」

 「気のせいじゃないってー」
 「そしたらそこら辺の入り口で待ってるから」

 「ついにトイレとか関係なくなっちゃたよっ」

 いつもの会話をしながら吹寄達は席を立ちトイレに向う。

 トイレは案の定、女子だけ混み合って。次々と入れ替わる男子と比べると圧倒的に回転率が違う。

 (男子の倍は作るべきよ!)

 吹寄はトイレの前で世の中の理不尽さを嘆いた。

 (他人のトイレって意外と長く感じるのよね……)

 待っている以外に特にする事もないし、と暇つぶしに携帯をいじる。すると隣から聞き覚えのある声がした。

460 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:35:53.53 ID:mD5lJADO [13/33]
 「えっと、確か吹寄……だよな?」

 どこか自信なさげに声をかけてきた相手は、先ほど不幸なことになっていた上条当麻だ。

 「そうよ。あなたは上条君よね。私になにか用?」

 「その、用っていうか。ちゃんと礼を言いたくてさ」

 「礼?」

 「そう、礼」

 上条は頬をポリポリと掻き、照れくさそうにしている。

 「私、なにかしたっけ?」

 「立候補してくれてただろ? それでさ」

 「礼を言うくらいなら立候補しなければ良かったじゃない」

 「そう、なんだけどさ……吹寄がダメな俺を見かねて立候補してくれたように見えて余計なことさせたかなって」

 「そんなことないけど……」

 上条の言ったことは間違ってはいない。しかし、礼を言われるほどのことでもないと思った吹寄はなんとなく言葉を濁す。

461 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:36:32.02 ID:mD5lJADO [14/33]
 「だから、ありがとうな」

 「ありがとうって……。私はそんな立派なことしてないわよ
 「でもなかなか出来ないことだと思うぜ」

 「そう? 私なら大丈夫かなって思っただけよ。こういうの慣れてるから」

 吹寄は少し動揺した。今まで吹寄の周りにはこのような人物がいなかったからだ。しかし上条はこのような人物だった。

 「そっか。吹寄ってなんか委員長キャラって感じだもんな」

 上条の何気ない言葉に吹寄の心が動く。今まで幾度なく聞いてきた勝手なレッテルを貼り付けられて生まれたイメージだから。

「はぁーあ。やっぱり私ってそういう役回りなのね」

 吹寄も慣れた対応で言葉を返す。しかしその後、上条から返ってきた言葉は意外なものだった。

 「羨ましいな……」

 「――え?」

 吹寄は上条が代表をやるのを嫌がっていたと思っていた。しかし上条は『羨ましい』と言ったのだ。

 「羨ましいってどういうこと?」

 「いや、なんでもない。なにかの間違いだろ」

 代表が羨ましかったのか。委員長のような役割が羨ましかったのか。上条の言葉が吹寄の喉元に引っかかる。

 「あー、そうだ。手伝えることがあったらいつでも手伝うからさ、必要になったら声かけてくれよ」

 上条は強引に話を変えようとる。そこにタイミングよく打ってつけの人物が現れる。

462 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:37:05.27 ID:mD5lJADO [15/33]
 たった10分、されど10分。珠洲の誘いから始まった10分間の休み時間は、私のこれからを決めた10分だった。まだなにもなかったこの頃に戻ってみたい。私は“あの日”から何度それを願っただろう。



 「せいちゃんは人使い荒いよー?」

 「へ?」

 「せいちゃんお待たせー」

 誘波が混み合ってる女子トイレからマイペースに手を拭きながら出てきた。

 「トイレ混み過ぎだよー」

 「ちょっと珠洲、変なこと言わないでよ」

 「なんのこと?」

 「私が人使い荒いとかなんとか」

 「違った?」

 「違うわよ」

 「そうかなー?」

 「そうよ」

 「えっと……どちら様でしたっけ?」

 二人の不毛な争いに上条がおずおずと入っていく。

 「ん? 私?」

 「そう、あなた」

 上条は誘波と吹寄を交互に見ながら頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

463 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:37:38.21 ID:mD5lJADO [16/33]
 「私は誘波珠洲。せいちゃんとは中学からの友達だよー」

 誘波は上条の顔の前にVサインを突き出す。人懐っこい子だと上条は思った。

 「誘波か。悪いな、ちゃんと覚えてなくて」

 「なんもだよー」

 「それで、君は上条君でいいんだよね?」

 「ああ。そうだ、ちゃんとした自己紹介がまだだったな。俺は上条当麻。二人ともよろしくな」

 そう言って上条は手を差し出す。

 「よろしくー」

 誘波が握手をする。

 「私も自己紹介が必要ね。私は吹寄制理。よろしくね」

 「ああ、よろしく」

 吹寄も誘波に続き上条の手を握る。

 「なぁ誘波。吹寄ってやっぱクーデレ委員長キャラか?」

 「いや、ツンデレ委員長キャラ――と、見せかけてツンデレ近所のお姉さんキャラだよっ」

 「なんと」

 ここは日本なのだからきちんと日本語を話して欲しいと吹寄は理解に苦しんだ。

464 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:38:14.83 ID:mD5lJADO [17/33]
 「はぁ。イメチェンしようかな」

 とりあえずまた変なレッテルを貼られることを嫌った吹寄は何気なく呟いた。

 「イメ」

 「チェン?」

 突然のことに誘波は目を丸くし上条は眉をひそめた。

 「そ。髪をばっさり切るとか」

 「入学早々イメチェンっ? てかせいちゃん、イメチェンするって言って髪を伸ばしたんじゃんっ」

 「そうだっけ? でも別に髪にそんなにこだわりないし」

 吹寄は腰まで伸びた長い髪の毛を持って毛先をくるくると遊ばせる。

 「勿体ないよー」

 「そこまで伸ばすっていったら結構かかるだろ?」

 「そうだけど、ほっとけば伸びるしね」

 「まぁそうだけどー」

 誘波はもったいないお化けでも喚びそうな雰囲気を放っている。

 「イメチェンされたら俺は――つらいな」

 「――え?」

 上条はまた意外なことを言った。吹寄にとっては今日三度目の出来事だ。

 「今なんて……?」

465 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:38:48.95 ID:mD5lJADO [18/33]
 この時だったのかな。俗に言う“フラグ”が立ったのは。きっとそうだ。じゃなかったらこの日から上条当麻を気にしたりしなかったから。



 「いや、髪の長い姿で知り合って顔と名前を覚えられたのに、イメチェンされたら次話しかけづらいかなって」

 「あ、そう」

 単なる聞きそびれに話に肩の力が抜ける。軽く小突いてやりたいと思ったが初日はマズいと軽く流す。

 「ねぇせいちゃん」

 「なに?」

 「もしも上条君が明日いきなり丸坊主にして話しかけてきたら『え? あ、あぁ』ってならない?」

 「妙にリアリティのある反応ね」

 「上条さんはなぜか胸に痛みを感じましたよ……」

 誘波の質問に答えず思い思いの反応を示す二人。

 「私の演技の感想は聞いてないよっ」

 「確かに丸坊主にされたらそうなるかもしれないけど……うーん」

 「……切るのか?」

 何故か二人からあまりいい目をされないことに吹寄は納得いかない。切るなと言われると切りたくなるのが人間というものだ。

466 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:39:25.35 ID:mD5lJADO [19/33]
 吹寄は長く伸びた髪を持って、手で作ったハサミで切ってみる仕草を取る。

 「頼む吹寄。俺のために切らないでくれ」

 上条は突然吹寄の手を掴み懇願する。

 「えぇ!?」

 「頼む」

 たまたま同じ高校に入学して、たまたま同じクラスになり、たまたま知り合う機会が今日なだけだった上条が吹寄に頭を下げている。

 「お、俺のためとかそんな大袈裟だって!」

 「この通り!」

 「えーっ!?」

 吹寄の顔が沸騰する。俺のためのと手を握られ、頭を下げられる。そんなことをされたらどうなるか上条は今も昔もこれからも分かっていない。

 「分かった! 切らないから切らないから! 上条君のために切らないから頭を上げて!」

 周りの生徒はそれぞれに予想する。ある人には上条が、ある人には吹寄が、ある人には誘波が、と好き勝手な視線で三人を見る。

 「――――――っ!!」

 周りの視線を感じた吹寄はスカートをギュッと握って俯く。

 そんな吹寄を知ってか知らずか上条は頭を上げる。

467 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:40:01.27 ID:mD5lJADO [20/33]
 「ほんとか!? ありがとうな吹寄!」

 笑顔で礼を言う上条に吹寄はなにも言えなくなる。

 「あれれー? せいちゃんったら照れてるのー?」

 二人のやり取りを間近で見ていた誘波はニヤニヤしながら吹寄を肘で小突く。

 「だって……お、俺……」

 「なになにー?」

 もじもじとする吹寄の顔を覗き込んで問い詰める。

 「お、俺のためにとかいきなり言われたら照れるわよ!」

 「そりゃまぁ確かに」

 ポンッとわざとらしく手を叩いて納得してみる。

 俯く吹寄、ニヤニヤする誘波、困惑する上条。周り生徒は痴情のもれと判断した。

 「えーっと……。あのさ、特に深い意味はなくてさ。ただ俺は――すまん」

 「ちょっと驚いただけだから大丈夫よ」

 吹寄は思い出せばすぐにでも赤くなりそうな顔を落ち着け、また頭を下げる上条を見る。

 「ほら、頭をあげる」

 「は、はい」

 上条は苦笑いしながら頭をあげる。吹寄はそれにまた赤面する。

 「私は置いてけぼりかー」

 コホンッとまたわざとらしい咳払いをし、誘波は棒読みの台詞を吐き捨てた。

 「私は白馬の王子様を待ってるからいいですよーだっ」

 誘波の謎の宣言が終えると、休み時間の終了を告げる鐘が鳴る。

468 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:40:29.97 ID:mD5lJADO [21/33]
 「――寄! 吹寄!」

 「!! ごめん。少しボーっとしてた」

 上条に呼ばれ吹寄の時は現在に戻る。

 今二人のいる場所は校舎内の三階。大覇星祭では使われず、立ち入りが禁止となる階だ。

 「ったく。ボーっとするなんて珍しいな。具合でも悪いのか?」

 「この私が具合悪いなんてことは有り得ないわ」

 「ですよねー」

 健康(グッズ)オタクである吹寄には愚問だった。

 「じゃあどうしたんだよ」

 「どう、見える?」

 「んぁ? そうだな……」

 上条は左手を顎に持って行って大袈裟な態度を取って考えてみせる。吹寄は足を止め、俯き加減で上条の答えを待つ。

 「なんつーか、実は男の娘でしたー! みたいな?」

 「……それじゃあ貴様は実は女の子だと言うのね?」

 「上条当子でごさいまーす!!」

 吹寄は握っていた右手を素早く持ち直し、前回り捌きで踏み込んで体を沈め、右肘を上条の右脇の下に入れ、肩越しに投げた。

 「お゛おっ!!」

 上条当子の野太い声が廊下に響いた。

469 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:41:16.87 ID:mD5lJADO [22/33]
 「いい、背負い投げだったぜ」

 廊下の硬い床にたたきつけられても、清々しい顔を浮かべて親指を立てられるのは日頃の死闘の賜物だろう。

 「バカじゃないの」

 「ははは」

 「ほらとっとと立ちなさい上条当麻。私の話はこれからなんだから」

 吹寄は背負い投げで倒れている上条に手を差し伸べる。

 「いてて……お、サンキューな」

 上条は吹寄の手を掴み起き上がる。

 (あの日に初めて手を握って、今も手を握っている。なのにお前はなにが変わってしまったの? ――――当麻)

470 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:41:46.11 ID:mD5lJADO [23/33]
 吹寄が上条を引っ張り入った空き教室は、元々使われていない教室だ。元々使っていないから閉め必要のない教室である。

 机などは全て下げられ、黒板は落書きを消した跡が残っている。吹寄は蒸した教室の窓を開け、近くの適当な席に座る。

 上条はこれといったものがなにもない教室を見回し、吹寄の隣に座る。

 「なぁ、この教室に実行委員の仕事なんてあるのか?」

 「ないわ」

 「そうか――って今なんて仰いましたか吹寄サン?」

 「ないって言ったのよ」

 「はぁ!? えと、んと……じゃあ俺は投げられ損かよ!?」

 実行委員の仕事を手伝う気でいた上条は出鼻を思いっきり挫かれ、とりあえず思い付いた文句を言う。

 「ごめんなさい。実行委員の仕事は嘘。でも確かめたいことがあるのは本当」

 「だったら――……、」

 吹寄のいつもとは違う雰囲気を感じ取った上条は「はいはい」と座り直し、話を聞くために耳を傾ける。

471 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:42:21.75 ID:mD5lJADO [24/33]
 9月も半ばに差し掛かってくると陽の傾きも早くなってくる。窓側に座った吹寄の顔が傾きかかった陽に照らされている。

 上条は机に反射する光の眩しさに目を細め吹寄が話すのを待つ。

 「…………」

 「…………」

 外では運営警備を担当するアンチスキルの人達が最終確認のための訓練を行っている。

 「アンチスキルの人達も大変みたいだぞ。大覇星祭では手当て出ないだってな」

 上条は頭の後ろで手を組み、全く関係のない話をして場を誤魔化す。

 そしてようやく吹寄が口を開く。その開かれた口からは上条の天敵とも言える言葉が発せられた。

 「7月の27日」

 「え?」

 「7月27日に自分がなにをしてたか覚えてる?」

 「……、」

 上条にとっての天敵。それは記憶を失った7月27日以前の過去である。

 これまではのらりくらりとかわしてきたが、今のように正確な日時を出されるとそうもいかない。

 上条は頭の後ろでもう一度手を組み直して外を見る。まだ温い風が吹き込んでいる。

472 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:42:56.23 ID:mD5lJADO [25/33]
 「7月27日って夏休みの最初の方だよな? なにしてたっけなー」

 上条は7月27日を想像する。その頃はステイルや神裂と戦闘していたという事実は知っているが、全て後から聞いた話であり、その日に具体的にどういう行動を取ったかまでは分からない。

 その日の事をどうして吹寄が聞いてくるのか。なにか約束でもしていたのだろうか? 上条は様々な憶測を巡らすが当然答えは出ない。

 吹寄は手を組んでじっと上条の答えを待っている。

 「んー、そんな前の話よく覚えてねーな。なにかあったか?」

 真剣な様子で答えを待っていた吹寄に悪いなと思いつつ、当たり障りのない回答をする。

 「本当に……本当に覚えてないの?」

 「ひぃぃぃ! すいませんすいません! 覚えてなくてなくて申し訳ございません! ですから肩の力を抜いてここは穏便にでどうか!」

 上条にとってはここで一発でも殴られて話題が終わる方が良かった。

 吹寄は「そう」と、短く返事をし、携帯電話を取り出し操作をし始めた。

 (なんなんだよ……)

 上条はその日、なにがあったか分からない。もっと言えば、なにがあったかすら分からない。だが吹寄は何かを知っている。

 魔術やインデックスのことでなければいい。ましてや記憶のことなど……。と、上条は思っていた。しかしその幻想は脆くも崩れ去る。

473 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:43:30.33 ID:mD5lJADO [26/33]
 「これを見てもまだそんなことが言える?」

 吹寄が何かを見せようと差し出したのはつい先程まで操作していた携帯電話。

 断ることの出来ない上条は黙って携帯電話を受け取る。

 「これを見てけばいい、のか?」

 「分かってるなら早く見て」

 上条は「はいはい」と携帯電話を操作し始める。間もなくして上条の体が寒くもないのにブルブルと震えだす。

 「な、なぁこれ」

 「始めに言っておくわ。これは全て事実よ」

 「なん、だよこれ……? は、はは……。悪い、冗談……だよ、な? ははは、はははは……」

474 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:44:06.03 ID:mD5lJADO [27/33]
 吹寄が上条に見せたのはメールの送受信。そのメールには二人の過去の残滓が色濃く残っていた。

 上条にとっては全く分からない存在しない過去であるが、吹寄にとっては存在する一つの過去である。

 「冗談なんかじゃない。これは私達の過去」

 「…………」

 上条はなにも言えない。なにを話せばいいか分からない。沈黙だけが唯一の答えだった。

 「ねぇ7月27日。あの日、なんで私と別れたの?」

 吹寄に叩きつけられた絶対的な過去。今までのらりくらりと逃げてきた過去。インデックスにも隠している過去。

 その事実を目の当たりにした上条の思考は停止する。出力は出来るが『考える』という過程が抜け落ち、しどろもどろな態度を取る。

 「やっぱり記憶、ないのね」

 その一言に上条の幻想が脆くも崩れ去る。

475 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:44:43.45 ID:mD5lJADO [28/33]
 「気づいて……たのか」

 「確信はなかったけどね」

 二人の間に重い沈黙がのしかかる。陽は大分傾いて建物の陰に隠れてしまい、もう吹寄の顔を照らしていない。

 「………………」

 「………………」

 騒がしかったアンチスキルの人達の声も聞こえなくなった。残っていた実行委員もほとんど帰ってしまっただろう。今この教室には二人だけの時間が流れている。

 「なんで……こんなことになってんだ……」

 「上条……」

 「俺は、お前に……」

 上条は頭を抱え髪をグシャグシャと掻き乱す。

 「吹寄」

 「なに?」

 「今すぐメールを消して俺を忘れてくれ」

 「――え?」

 「俺が最初からいなければこうはならなかった。吹寄にこんな思いをさせ――がふッ!!」

 ガダンッ!!
 全部言い終わる前に吹寄の拳が上条の鼻を真正面から殴り飛ばした。

 「う、ぐぅ……」

 吹寄は怒りに身を震わせている。

 「私は貴様を――当麻をどれだけ好きだったかメールを見て分かったしょう!?」

 「だけど……!」

 上条は鼻血を腕で押さえながらながら立ち上がる。

476 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:45:16.81 ID:mD5lJADO [29/33]
 「記憶がなに!? 当麻がどんな事情で記憶喪失なって私を忘れたのか分からないけど、私が当麻を忘れる必要がどこにあの!?」

 「……ごめん」

 「私が気がつかないと思った? 他の人は私達のことを知らなかったから誤魔化せたかもしれないけど、私が変わりように気がつかないと思う? ねぇ、あの日何があったの?」

 「ごめん……言えない」

 上条には謝ることしか出来ない。10万3000冊の魔導書、必要悪の教会、魔術のことを話すわけにはいかないからだ。

 「どうしてなの?」

 上条は歯を食いしばる。なぜならば自分自身を否定する説明をしなければならないからだ。

 「吹寄。俺の話を聞いてくれ」

 「……分かった」

 「まず27日の俺の状況についてだ。これは吹寄であっても話すわけにはいかないんだ。それは土御門や青ピ、小萌先生や両親にもだ。それは分かってくれ」

 「……、」

 「そして俺の……あの時以前の上条当麻の記憶はもう二度と……二度と戻ることはないんだ」

 「戻ることはないって……どういうこと?」

477 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:45:53.86 ID:mD5lJADO [30/33]
 「7月27日、吹寄制理の知る『上条当麻』は死んだ。今ここにいる『上条当麻』は、死んだ上条当麻の血肉を利用して生きてる別人なんだよ」

 上条は自分を別人と言い、上条当麻でもなんでもないと存在自体を否定する。

 「そんなこと――」

 「全部本当なんだ! だから俺は吹寄との過去も知らないしお前の気持ちも分かんねぇ!  俺はお前を不幸にしちまっただけの最低の屑野郎なんだよ!」

 上条の哀しい声が教室に響き渡る。

 「不幸? 私が、不幸……。困ったわね」

 「………………」

 自責の念に囚われ俯く上条の右手に吹寄は自らの左手を重ねた。

 「ねぇ覚えてる? 私が当麻になんと言って告白したか」

 吹寄は深呼吸を一つ挟み、もう二度と言うことはないだろうと思った台詞を言う。

 「『                                』って言ったのよ。……恥ずっ」

 言うやいなや吹寄は顔赤くして机に突っ伏して頭をブンブンと振り唸って悶える。

 「今思えばプロポーズみたいじゃない」

 一通り頭を振り回し冷静になった吹寄は上条の方を見る。すると――

 「ちょっと、一体どうしたのそれ……?」

 「本当にどうしちまったんだろうな……。本当に……」

 ――上条の目から大粒の涙が溢れていた。

478 名前:吹寄「心に、でしょ」[sage] 投稿日:2010/12/16(木) 20:46:45.76 ID:mD5lJADO [31/33]
 「なぁ吹寄。俺さ、吹寄との過去は本当に全く記憶がないんだ」

 上条は涙を拭きながら話始めた。

 「だから吹寄の言ったことも知らないはずなんだ。なのに何故か懐かしくて涙が止まらねーんだよ。本当にどうしちまったんだろうな、俺」

 吹寄は涙を流す上条に、上条当麻という人間の全てを肯定するように微笑みかける。

 「どうして涙が出るか教えてあげようか?」

 「……、」

 「私の知る上条当麻は生きてるからよ。じゃなかったら懐かしさなんて感じないし、涙も流れない」

 「でも、俺、記憶を」

 「頭にじゃなくても残ってる場所があるのよ」

 「――――――」

 「心に、でしょ」


 外は薄暗くなり、涼しい風が吹き込んでいる。その風は二人の重い沈黙を払いのけ、二人の止まった時間を再び動かし始めた。

 「なぁ吹寄。話してくれるか。俺達のことを」

 「そうね。大覇星祭が無事成功したら話してあげる」

479 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[] 投稿日:2010/12/16(木) 20:49:38.74 ID:mD5lJADO [32/33]
おわり


小ネタスレで吹寄が対カミジョー属性を有しているのは、すでにフラグが回収済みだからって妄想から始まってこのように落ち着きました

なんとか原作やアニメに侵食し過ぎないように書いてみた



この後、時系列としては二人の過去の話になって小萌編、上条編、吹寄編、誘波編、インデックス編、その裏での暗部編が構想としてあるけどはたして書けるのか…

Tag : とあるSS総合スレ

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で、よりを戻すんだろ!

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