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上条「クリスマス…だもんな」-2

上条「クリスマス…だもんな」
続きです

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:08:18.05 ID:C+1vRQ8UQ [6/98]
12月24日PM10:01

美琴の調べてくれた情報を精査していた黒子は、
裏付けを取った情報を手に、第七学区にある、アンチスキル第73活動支部に来ていた。

「どうやら第十学区の研究施設が事件に関与しているようですの」

黒子の持ってきた資料に目を通しながら、
黄泉川は夕食代わりの菓子パンをかじっている。
黄泉川愛穂―
彼女は上条の高校で体育教師をしながら、
有志としてアンチスキルに所属している。

「なるほど…確かに怪しいじゃんよ。
で、その御坂は今どこにいる?」

「電話も繋がりませんし…
ここに来る前に寮にも寄ったんですが、居たのはこの子だけですの」

黒子のセーターの襟元から、小さな猫がひょこっと顔を出す。
黒子も黄泉川も知らないが、インデックスの愛猫、スフィンクスだ。

「ほう、それが御坂か?随分可愛らしくなったじゃんよ」

黄泉川は食べていた菓子パンをちぎり、
スフィンクスに食べさせてやる。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:09:34.35 ID:C+1vRQ8UQ [7/98]
「今は冗談を言ってる場合じゃありませんの。
お姉さまの事ですから、恐らく第十学区に向かったのでしょう」

「なるほど。それで白井は応援を頼みに来たって訳か」

スフィンクスの頭を撫でながら、黒子は頷く。
自分一人で美琴を追っても良かったのだが、
相手の目的、戦力、人数、何もかも分からない。
そもそも美琴の調べてくれた情報が、
行方不明事件とどう繋がっているのか見当もつかない。
そんな状況で黒子一人が応援に行っても、
出来る事が少な過ぎるのだ。

「確かに…23人の行方不明者に、23台の学習装置。
何か関係がありそうじゃん」

「では応援を…」

「ダメだ」

黄泉川ははっきりと言い切った。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:25:06.64 ID:C+1vRQ8UQ [8/98]
「応援を回したいのはやまやまじゃんよ。
けどな、今は人手が足りないんだ」

「なぜ…ですの?」

「実はな、学園都市各地で行方不明者の目撃情報が寄せられてる。
数時間前から急にだ」

黒子の心拍数が跳ね上がる。
黒子の知らないところで、事態が大きく動いていた。

「イタズラの可能性も否定は出来ないが、確認しない訳にもいかないじゃん。
白井の言う研究施設も気になるが、優先すべきは攫われた学生達じゃんよ。
すまないが分かってくれ」

「…分かりましたの」

黒子はスフィンクスを胸に抱きかかえると、席を立つ。

「手が空いた奴から順番に応援に回す。
それまで絶対に無茶はするなよ、白井」

アンチスキルとして、教師として、
そして大人として、黄泉川は何もしてやれない歯痒さで胸が一杯になる。

「大丈夫ですの。私は…風紀委員ですから!」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:26:57.98 ID:C+1vRQ8UQ [9/98]
12月24日PM10:02

「そんな怖い顔して何話してたのよ?」

アレイスターの居た場所、第七学区、窓もドアも無い建物の前で、
結標淡希は土御門に尋ねる。
結標淡希―
霧ヶ丘女学院の生徒で、レベル4の座標移動(ムーブポイント)能力者。
土御門と同じ暗部組織"グループ"のメンバーであり、
窓もドアも無いビルへ人を運ぶ、案内人でもある。

「別にたいした事じゃない」

土御門は結標を軽くあしらうと、携帯から一方通行の番号を呼び出す。
神裂にぶつける為に彼が与えられた情報が間違っている事を伝える為だ。

『なンだ?』


「一方通行、ねーち…打ち止めを狙っていた奴とやり合ったのか?」

土御門の質問に、彼の声色が低くなる。どうやら苛立っているようだ。

『さすがに物知りだなァオイ。あの女、妙な能力使いやがって。
やっと動けるよォになったぜ、クソ』

土御門は結標をチラリと見やる。
もうとっくに帰っていると思ったが、土御門と同じ様に誰かと電話をしていた。
その様子を視界の端で捉えつつ、土御門は話を続ける。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:28:52.74 ID:C+1vRQ8UQ [10/98]
「一方通行、その情報はデマだ。お前は利用されただけなんだよ」

電話の向こう、彼の声に更に苛立ちが滲む。

『あン?なンだそれはァ!?』

「お前に情報を流した奴は、恐らく学園都市上層部の人間だろうな」

『ふざけやがって…許さねェ。
学園都市第1位を利用したってのが、どういう事になるか教えてやる』

一方通行はそう言って通話を切ってしまった。
恐らく利用した人間を探し出すつもりなのだろう。

「今の電話の相手、一方通行でしょ?」

こちらも電話が終わったのか、
結標がガードレールに座ってニヤニヤしている。

「これで海原でも出てくれば、ロリコン三人勢揃いなのにね」

そんな軽口を叩きながら、足をパタパタさせている。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:02:17.17 ID:C+1vRQ8UQ [11/98]
「結標、お前の電話は何だったんだ?」

土御門の問い掛けに、結標は何か思い出したかのように、ガードレールから飛び降りた。

「いけない。仕事頼まれたんだった」

「仕事?グループのか?」

結標は首を振りながら答える。

「違うわよ。グループは原則4人一組で任務に当たるでしょう?
私単独の仕事は、案内人以外滅多に無いわよ」

嫌な予感がする。
土御門の背筋を、冷たい汗が流れていく。

「統括理事会からの依頼か?」

この質問にも、結標は首を振る。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:03:14.96 ID:C+1vRQ8UQ [12/98]
「なんて言ってたっけ?なんか長い名前だったような…
でもさっき携帯で確認したら、きちんとお金は振り込まれてたし。
楽な仕事だから引き受けたわ」

「依頼された内容は何だ?」

「言えないわよ、そんな事」

結標は背中に張ってある低周波治療器が、
正常に稼働しているのを確かめる。
これを使ってリラックス状態にしていないと、
結標の能力は暴走してしまうのだ。

「じゃあ急ぐからこれで」

「おい、ちょっと待て!」

土御門の制止も間に合わず、結標は座標移動で姿を消してしまった。
結標の能力、座標移動の最大移動距離は約800メートル。
土御門の推測が当たっていた場合、
今から追い掛けても間に合わない。
土御門はもう一度携帯を取り出し、今度は上条の番号を呼び出した。
第十学区に向かって走りながら、祈るように呟く。

「出てくれよ…カミやん!」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:04:44.76 ID:C+1vRQ8UQ [13/98]
12月24日PM10:16

「お待たせして申し訳ありませんでした」

上条達のところへ合流した神裂は、
体中切り傷だらけだった。
所々裂けたTシャツは赤く染まり、顔にも痛々しい傷跡が残っている。

「だ、大丈夫かよ神裂?一体何があったんだ?」

上条の心配を右手で制して

「私は大丈夫です。それより何故あの子がここに?
今の状況と合わせて説明して貰えれば助かります」

そう言いながら、上条の横に身を屈める。
美琴は突然現れた神裂を不思議そうに眺め、
インデックスはその傷口を痛々しそうに見ていた。
上条は今分かっている事全てを、簡単に説明してやる。
美琴と本人に聞かれないよう、インデックスに関する大事な部分は、
ステイルから借りた通信用の魔術カードを使って説明する。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:06:07.65 ID:C+1vRQ8UQ [14/98]
『なるほど。行方不明者の能力を使って、
あの子の中の魔導書を読み取るつもりなのですね』

『あぁ、多分な。それなら全てがあの研究施設と繋がる』

神裂はステイルに目で合図すると、腰を低くしたまま立ち上がる。
今度は全員に聞こえるように

「私とステイルは、大きく迂回して研究施設の裏側に回ってみます。
上条当麻。あなた達は、私達が戻るまでここに居て下さい」

「お、おい神裂、その傷で大丈夫か?」

「心配いりません。少し様子を見てくるだけです」

それだけ言うと、ステイルと共に暗闇に消えていった。
取り残された上条は、急に不安を覚える。
インデックスはもちろん、レベル5とはいえ、美琴も中学生の女の子。
いざという時は自分が守るしかない。
不安を取り除くように上条は首を振る。
その時―
それはまさに突然だった。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:07:04.99 ID:C+1vRQ8UQ [15/98]
「おっ、ターゲット発見!」

上条達の背後から、女の声が聞こえた。
近付く気配も、足音さえもしなかった。
まるで最初からそこに居たかのように。

「ちっ!」

最初に動いたのは美琴。
声から距離を取るように、素早くバックステップ。
そのまま暗闇に向かって電撃を放つ。
しかし―

「残念ね。ハズレよ」

さっき声がした場所とは、まったく正反対の位置から声がする。
美琴の放った電撃の余波で、その女の姿がハッキリと照らされた。

「あ、あんたは…」

「久しぶりね。レベル5の御坂美琴さんっ」

髪を二つに結んだ、上条達と同じくらいの少女。
胸にはサラシのようなものを巻き、
その上からブレザーを羽織っている。
スカートの横、腰の辺りには懐中電灯のような物が一つぶら下がっていた。
同じ物をもう一つ、少女が手に持って、くるくると回している。

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:08:34.97 ID:C+1vRQ8UQ [16/98]
「あれ!?インデックス!?」

上条はさっきまで隣に居たインデックスが居ない事に気付き、声を上げる。
すると何故か離れた場所から

「とうまっ!!」

インデックスの声が聞こえた。

「な、どうなってやがる!?」

慌てて周囲を見渡すと、薄暗い中にインデックスを見付ける。
ただし―
上条達と研究施設の、丁度中間地点に。

「御坂美琴。あなたとは一度決着を着けたいとこだけど、
今は仕事中だからこれで失礼するわ」

「このっ、待ちなさいよっ!」

美琴は少女に向かって再度電撃を放つ。
しかしそこに少女の姿は無かった。
代わりに、インデックスの横に少女の姿が現れる。

「座標…移動っ!」

まんまとやられた。
美琴は地面を力一杯蹴りつける。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:11:38.02 ID:C+1vRQ8UQ [17/98]
少女はインデックスと共に、跡形もなく姿を消した。
恐らく研究施設に座標移動したのだろう。

「くそっ、インデックスっ!」

上条は研究施設に向かって走り出そうとする。
しかし―

「待ちなさい!」

美琴が腕を掴んでそれを止めた。

「くそっ、離してくれ!インデックスが!」

「ダメよ。今ので私達の事は間違い無くバレたわ。
あんただけで向かったら…多分殺される」

上条の腕を掴む美琴の手は、微かに震えていた。
それは自分への怒り。
絶対に守るとインデックスに約束した。
その約束を守れなかった自分への怒り。
その怒りを、震えながら抑え込む。
冷静さを欠いたら、今度こそ本当に何も出来なくなってしまう。
美琴は、まだ諦めた訳ではなかった。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:12:20.00 ID:C+1vRQ8UQ [18/98]
「離してくれ御坂!インデックスを助けに行かねーと!」

「のこのこ身をさらしたら、あんた殺されるわよ。
"あんただけなら"ね」

美琴は自分の頬をパチンと叩く。
取られたなら、取り返せばいい。

「私の後ろをついて来て!絶対に私より前に出ないでよね!」

上条も美琴の真似をして、頬を叩く。
冷静さを取り戻す為、そして気合いを入れる為。

「行くわよ!」

「おうっ!」


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:14:40.09 ID:C+1vRQ8UQ [19/98]
12月24日PM10:12

「くそっ!」

土御門は乱暴に通話終了ボタンを押す。
先程から何度も電話をかけているのだが、
返ってくるのは電源が切られているというアナウンスだけ。
次にステイルの携帯を呼び出すが、こちらも上条とまったく同じだった。

「ねーちんはっ!」

土御門は神裂の番号を呼び出す。結果は同じ。
誰一人連絡は付かなかった。
一体どうなっているのか。
神裂やステイルはそう簡単にやられたりはしないだろう。
では上条は。
インデックスは。

(カミやんなら…きっと大丈夫だ)

上条が強いとか、特殊な右手を持っているとか、
そんな事で判断している訳ではない。
土御門はあの少年を信じているのだ。
どんな時も諦めず、どんな困難も正面からぶつかって行く。
そんな姿を何度も見てきた。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 01:15:27.91 ID:C+1vRQ8UQ [20/98]
(くそ、こんな事ならもっと運動しとくんだったな)

土御門の目に、第十学区への案内標識が映る。
走りっぱなしのせいで、足が棒のようになっていた。
それでも走るしかない。
出来る事があるなら、ただそれをするだけ。
上条を見て学んだ事だ。
土御門は走りながら、ステイルの携帯に繰り返し電話をかけ続ける。

(俺は…俺に出来る事を!)


139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:01:08.80 ID:C+1vRQ8UQ [21/98]
12月24日PM10:24

「裏側からも近付けそうにありませんね」

大きく迂回して研究施設の裏側に回り込んだ神裂とステイルは、
姿勢を低くして様子を窺う。
距離にしておよそ200メートル程、
正面からは見えなかったが、裏側には施設に沿うように小さな駐車場があった。
そこだけコンクリートで舗装された、一辺が50メートル程の小さな駐車場。
その駐車場には電灯が数本立てられており、
そこからの光で施設の外観がぼんやりと照らされている。

「まぁ、予想通りだけどね」

ステイルの視線の先、電灯の光でぼんやり見える施設の屋上部分に、
四角い箱のような物が見える。
おそらく自動で発砲する銃のような物だろう。
当然、正面にも同じように配置されているとみて間違いない。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:02:05.80 ID:C+1vRQ8UQ [22/98]
「取り敢えず土御門に連絡をしてみましょう。
施設に侵入するにしても、内部の見取り図が欲しいところですから」

神裂はジーンズのポケットから携帯を抜き出し

「あ…れ?」

滅多に聞いた事のない間抜けな声を漏らす。

「どうした?」

「壊れちゃって…ますね」

神裂の手のひらには、ディスプレイが粉々になり、
所々から何かのコードや部品が飛び出した携帯が乗っかっていた。

「そう…みたいだね」


「ど、どうしましょう」

「僕が連絡するよ。そのゴミは後で捨てておくといい」

しょんぼりしながら携帯をポケットにしまう神裂を余所に、
ステイルは懐から自分の携帯を取り出す。
電源を切っていた事を思い出し、ステイルは明かりが漏れないよう、修道服の内側で電源を入れた。
暗闇に慣れていたせいで、ディスプレイの明かりに思わず目を細める。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:03:53.02 ID:C+1vRQ8UQ [23/98]
施設に背を向け、修道服のマントを頭から被り、
土御門の番号を呼び出そうとボタンに手をかけた時だった。
まるでタイミングを計ったかのように、土御門から電話がかかって来た。

『やっと繋がった!ステイル!禁書目録は今どこにいるっ!?』

「いきなり何だ?」

『いいから答えろ!禁書目録は今どこだっ!?』

土御門のあまりの剣幕に、ステイルは思わず携帯を取り落としそうになる。

「あの子は今上条当麻と一緒だ。それがどうしたんだい?」

『お前は禁書目録の近くにいないのか!?』

「僕は神裂と一緒に少し離れた所にいるけど…」

『いいか、よく聞け!禁書目録のもとへ能力者が向かった!
もう接触しているかもしれない!』

今度は別の意味で携帯を取り落としそうになる。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:04:52.33 ID:C+1vRQ8UQ [24/98]
「能力者があの子のもとへ!?」

ステイルの言葉を隣で聞いていた神裂は

「ステイル、私は先に向かいます!」

そう言ってその場を離れた。
ステイルも携帯を握り直し、神裂の後を追う。

『そいつはレベル4の座標移動能力者だ!
カミやんでも厳しいかもしれない!急げ、ステイル!』

「くそっ!」

ステイルは乱暴に携帯を切ると、
神裂か自分のどちらかが残れば良かったと激しく後悔する。

(後悔先に立たず…か。まったくもってその通りだね)

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:06:33.68 ID:C+1vRQ8UQ [25/98]
12月24日PM10:37

「じゃあ行くわよ!」

研究施設の真正面、身を隠す事もせず、上条と美琴は堂々と立っている。
まだ何も動きはないが、このまま突っ立っていれば、
攻撃される可能性は非常に高い。

(一か八か…やるしかないわね)

美琴の前髪から、パチパチと青白い電流が飛び散っていた。
その電流は次第に大きく激しくなり、
美琴の全身、そして足元へ絶えず流れ始める。
次の瞬間―
ドバッ!という音を立て、美琴の正面の砂が盛り上がった。
それはまるで意志を持っているかのように、
うねりながら形を変えていく。

「な、何だこれ!?黒い…砂!?」

暗闇という事を差し引いても、どう見ても普通の砂には見えなかった。
自分の足元の砂と比べても、明らかに黒いのだ。

「黙ってて!集中出来ないでしょ!」

砂はどんどん集まり、膨らみ、
美琴の前に巨大な壁を形成する。
高さは2メートル、横幅は1.5メートル程だろうか。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:07:24.69 ID:C+1vRQ8UQ [26/98]
「こんなもんね。ここが砂地で良かったわ」

美琴の造り出した地面から生えた壁。
それは砂鉄の壁だった。
岩や石には磁鉄鉱という鉱石が含まれている事が多く、
それが風化したり、建築資材用に細かく砕かれ、砂状になったものが砂鉄だ。
簡単に言えば、極小の磁鉄鉱。
そして電撃使いである美琴は、
電流の三作用である、磁気、発熱、化学を自在に操る事が出来る。
電流が流れる際に発生する磁気で、砂の中から砂鉄を集めたのだ。
無論2メートルの壁を造るなんて芸当は、並みの電撃使いには出来ない。
レベル5の美琴だから出来る事だった。

「いい?あんたは絶対に私の前に出ないでよね。
この壁を維持するだけでもかなりキツいんだから、
余計な手間かけさせないでよ」

「あぁ、分かった」

美琴はゆっくりと歩き出す。
それに合わせて、砂鉄の壁も地面を滑るように前へ移動を始めた。
この壁を盾に、研究施設に近付いて行く。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:09:31.53 ID:C+1vRQ8UQ [27/98]
「うぉっ!」

突然パンっ!という乾いた音と共に、
上条達の横の地面が小さく抉られた。
発砲だ。それを皮切りに、パンパンと立て続けに乾いた音が響く。
二人は自動銃の射程範囲に入ったのだ。

「撃ってきた!撃ってたきたぞ御坂!」

「うっさい!集中出来ないでしょ!」

銃弾は砂鉄の壁に次々と撃ち込まれる。
その度に壁の表面が弾け、美琴はそれを瞬時に修復していく。

「御坂!この壁大丈夫なのか!?」

砂鉄は鉄の原料となり、
炭素を加え、熱を加え加工する事によって強靭な鉄に変わる。
しかし御坂が操るのはただの砂鉄。
そう何度も銃弾に耐えられるのだろうか。



147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:11:16.19 ID:C+1vRQ8UQ [28/98]
「大丈夫、相手がミサイルでも撃ってこなきゃね!」

砂鉄の形状は正八面体。
それを隙間なく並べ、さらに何層にも重ねる事によって、
美琴は壁に強度を与えていた。
さらに砂鉄は鉄よりも柔らかく、まるでネットのように衝撃を吸収するのだ。

「もうすぐよ!」

美琴は一瞬壁に小さな穴を作り、そこから前方を確認する。
施設の正面玄関がすぐそこに見えた。
銃撃は激しさを増し、壁を操る美琴の額には汗が滲んでいた。
銃撃は施設の屋上からの為、近付くにつれ、
銃弾の角度が上からのものに変わってきている。
それに合わせ、美琴も壁の角度を徐々に変えていく。
壁が屋根のように頭上に広がる頃には、
施設の正面玄関に辿り着いていた。
少し窪んだ玄関に身を隠すと、美琴は能力を解除する。
砂鉄の壁はサラサラと音を立て、
元の地面に戻ってしまった。


148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:13:15.24 ID:C+1vRQ8UQ [29/98]
「くそ、ロックが掛かってる」

玄関の横には数字の並んだパネルがあり、
扉を開けるには暗証番号を入力するシステムになっていた。
美琴は慌てる事なくパネルに手を触れると

「はい、開いたわよ」

電流を流してロックを解除してしまった。

「御坂…まさかいつもこんな事を…」

「ば、バカ!違うわよ!時々よ、時々!」

扉の向こうはロビーのようになっており、
小さな灯りが点いているだけで薄暗い。
人影も無く、研究員などはここにはいないようだった。
しかし油断していれば、何者かが襲ってくる可能性もある。
美琴は施設の中を警戒しながら、上条の腕を引っ張った。

「さ、無駄口叩いてないで行くわよ!」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 02:18:10.72 ID:C+1vRQ8UQ [30/98]
12月24日PM10:42

「っ!?」

突然沈黙を破る銃声。神裂の全身に緊張が走った。
立て続けに二発、三発と、銃声は次第に増えていく。
神裂の少し後ろを走るステイルも、
その銃声に顔を強ばらせていた。

「今のはどういう事だ!神裂!」

「あの子に何かあったようです!
上条当麻ともう一人、研究施設に向かっています!」

神裂の視力は8.0。
視線の先、何かを壁にしながら施設に近付く二人の姿が見える。
もう少しで正面玄関に辿り着くようだ。
そこにインデックスの姿は無く、つまり―

「どうやら…あの子は施設の中に連れて行かれたみたいです!」

上条達があんな強引な手段に出たという事は、
つまりはそういう事態が起きているという事だ。

「くそ!何をやっていたんだ、上条当麻は!」

ステイルは血が滲む程唇を噛み締める。
上条当麻だけじゃない。自分の不甲斐なさにも腹が立っていた。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:00:41.08 ID:C+1vRQ8UQ [31/98]
「もう潜入などと言っている場合じゃありませんね。
彼らはインデックスという鍵を手に入れたようですから。
銃は私が引き受けます。ステイルはその隙に中へ!」

「分かった!」

上条達は正面玄関に辿り着き、中に入ろうとしている。

「はぁぁぁぁっ!」

神裂は聖人の証である"聖痕"を開放する。
そうする事で、一時的に天使に匹敵する力をふるう事が出来るのだ。
当然肉体には大きな負荷が掛かり、例え100パーセント力を発揮出来たとしても、
体が使い物にならなくなるリスクもあるが。

「はっ!」

神裂は力一杯地面を蹴る。体は数十メートル飛び上がり、
三階建ての施設を軽々越える高さに達し、屋上目掛けて降下を始める。


151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:04:15.05 ID:C+1vRQ8UQ [32/98]
「あれは!?」

神裂を捉えた銃口が一斉にこちらを向く。数はおよそ10台ほどか。
更に屋上の中央に何かの装置が見える。
人間サイズの巨大な十字架が横たえてあり、
そこからケーブルのような物が何本も生えている。
その十字架に、一人の少女が張り付けにされていた。
その十字架の横には、黒い修道服を着た人物が立っている。

「インデックス!」

神裂を捉えた銃口が、一斉に火を噴く。

「はぁぁぁぁぁっ!」

聖人の力を開放した神裂の反射神経は100分の1秒にも達する。
神裂は飛んでくる銃弾を、七天七刀で片っ端から叩き落としていく。
そのまま屋上に着地し

「七っ閃っ!」

魔力で強化したワイヤーを素早く繰り出す。
ワイヤーは全ての機銃をバラバラにし、使い物にならなくしてしまった。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:06:04.66 ID:C+1vRQ8UQ [33/98]
「ふふ、お見事ね」

パチパチと手を叩く音に神裂が振り返ると、
上空から見たあの修道服の人物が立っている。
上空からは確認出来なかったが、フードの下、その顔は女性だった。

「あなたは、何者ですか!?インデックスをどうするつもりです!?」

「あら、あなた…もしかして神裂火織さん?
噂通りの変わった格好ね」

「質問に答えなさい!」

苛立つ神裂とは対照的に、女は面倒くさそうに溜め息を吐くと、
まるでたいした事じゃないと言うようにこう言った。

「これから滅ぶイギリス清教の人間に、
教える事なんてないんだけれど、ね」

「え…何を」

「だからあなた達イギリス清教は、もうすぐ滅ぶんだってば」

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:09:06.72 ID:C+1vRQ8UQ [34/98]
12月24日PM10:48

「誰も…いないわね」

施設に侵入した上条達は、そのあまりの静けさに拍子抜けしていた。
武装した人間はおろか、研究員らしい人間すら見当たらない。
防音設備が整っているのか、外の音も聞こえず、
二人の足音だけが薄暗い施設の中に響いていた。

「インデックスはどこだ?」

上条達は部屋という部屋を片っ端から、かつ慎重に調べてまわる。
いくつかの部屋は灯りが点いたままで、
机の上のパソコンも、電源が入ったままになっていた。
美琴はその中の一台に近付き、キーボードを叩き始める。

「何してんだ?」

「何か情報がないか調べてみる。パソコンは生きてるみたいだしね」

パソコンスキルゼロな上条は、黙って美琴の作業を見守る。
暫くキーボードを叩いていた美琴が、何かに気付いて声を上げた。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:10:05.14 ID:C+1vRQ8UQ [35/98]
「ちょっと、これ見て」

ディスプレイにはこの建物の見取り図が映っており、
横に小さく数字の書かれた、赤や青のラインがその上を走っている。

「これは?」

「これは電力供給量を示すラインよ。
赤は非接続、青は接続。横の数字は多分電力供給量ね。
要するに、どこにどれだけの電力が割り振られているかを示してるの。
こういった研究施設の場合、大規模な実験の際には、
電力供給量をきちんと管理しないとダメなのよね。
万が一実験の途中で電力の供給がストップしたら、
大事故に繋がりかねないし」

美琴はそう言いながら、見取り図の一番上、
屋上と書かれた部分を指差す。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 03:11:01.33 ID:C+1vRQ8UQ [36/98]
「ここ。何故かここに莫大な電力が供給されてる」

「屋上に莫大な…電力?」

上条の頬を汗が伝う。
インデックスを鍵とし、何かをしようとしている研究施設。
この莫大な電力は、その何かの為としか思えなかった。

「ここから電力をカット出来ないのか!?」

「無理ね。これはどのパソコンからでも見られる、ただの情報。
カットするなら…そうね、コントロールルームのコンピューターからならもしかして」

美琴がキーボードを叩くと、コントロールルームの場所が見取り図に表示される。
地下一階、屋上とは正反対の場所だった。

「俺は屋上に向かう!御坂はコントロールルームに行って、
電力をカット出来ないか試してくれ!」

「あ!ちょ、あんたっ!」

美琴の制止も聞かず、上条は部屋を飛び出して行く。
その背中を見送り、美琴は大きな溜め息を吐いた。

「ま、あのバカは言っても聞かないわよね…」

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:28:54.70 ID:C+1vRQ8UQ [38/98]
12月24日PM10:46

「イギリス清教が…滅ぶ?」

確かにそう聞こえた。
イギリス清教はもうすぐ滅ぶ、と。

「そう、その通りよ」

女はインデックスが張り付けにされている装置の横まで行くと、
ディスプレイを見ながらキーボードを叩く。

「あ、いけないいけない。あなたに教えといてあげる。
この装置はね、30分おきに私が調整しないといけないの。
もしきちんと調整しなかったら、頭に負荷が掛かりすぎてこの子死んじゃうわ。
それから、無理に装置を壊したり、無理にこの子を引き離しても同じ。
この意味分かる?」

つまり、女を倒す事も、装置を破壊する事も出来ない。
聖人の力は何の役にも立たないという事。

「くっ…」

神裂は歯を食いしばり、刀を鞘に収める。

「お利口さん。ご褒美に見せてあげる。
イギリス清教が滅ぶとこを、ねっ」

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:30:20.72 ID:C+1vRQ8UQ [39/98]
女は装置に腰掛け、インデックスの頬に触れる。
頭にはケーブルの沢山ついた機械を被せられ、
気を失っているのかピクリとも動かない。

「あら、お客様がもう一人」

女がそう呟くと同時に、屋上の扉が勢い良く開かれる。

「インデックスっ!」

現れたのはツンツン頭の少年だった。膝に手をつき、肩で息をしている。

「上条当麻!?」

驚く神裂の横を、上条は女に向かって歩いていく。

「てめぇ、インデックスを離せ!」

「ダメです!上条当麻!」

神裂は上条の肩を掴み、女の話していた事を教えた。
女はその様子を、とても楽しそうに眺めている。

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:31:41.05 ID:C+1vRQ8UQ [40/98]
「だったら!あいつをぶん殴って装置を止めさせる!」

「無理です!ここまで大掛かりな事をしでかした人間ですよ!?
そう簡単に装置を止めるとは思いません!」

それを聞いた女は、パチパチと手を叩くと

「せいかーい。私はどんな事をされても、絶対に装置は止めないわよ。
それにね、この場で装置を止めるのは無理。
施設の電力をちゃんとした手順で落とすしか、止める方法はないの。
残念だけど、あなた達はそこで大人しくしてるしかないわ。
禁書目録を見殺しにすれば、私の計画は止められるけれど、ね」

「てめぇ…っ!」

上条は怒りで我を忘れそうになる。
これだけの事をして、インデックスをあんなところに張り付けにして、
それでも楽しそうに笑う女に、怒りが止め処なく込み上げる。

「落ち着け、上条当麻!」

後ろから突然掛けられた声に振り向くと、屋上の出入り口にステイルが立っていた。

「話は聞いていた。冷静さを欠くな、上条当麻。
本当に取り返しがつかなくなるぞ」

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:32:34.91 ID:C+1vRQ8UQ [41/98]
女は客が増えたと一人で喜び

「あら、あなたは頭が良いのね。
私はそこの坊やくらい熱い男の方が好みだけどね」

そう言ってまた楽しそうに笑う。

「黙れ。僕は君のような下品な女が大嫌いなんだ」

「ふふ。嫌われちゃった」

ペロッと舌を出し、女が立ち上がる。
女は懐から小さな短剣と、一冊の古びた本を取り出した。
それを見たステイルと神裂の顔色が変わるのを、
上条は見逃さなかった。
二人が反応したという事は、あれは魔術に関係する物という事になる。
女はまるで祈るように天を仰ぎ、言う。

「さて、と。星も綺麗に見える事だし、そろそろ始めましょうか」

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:33:42.65 ID:C+1vRQ8UQ [42/98]
12月24日PM10:52

「何とかなるかもとは言ったものの…」

美琴はコントロールルームのメインコンピューターの前で溜め息を吐く。
ここに辿り着くまでの電子ロックは楽々解除出来たものの、
電力をカットするのはかなり難しそうだ。
セキュリティーが何重にもかけられ、
パスワードに至っては一度も間違えずに正しく三回入力しなければ、
システムをシャットダウンする事が出来ないようになっている。
唯一の救いは、IDによる認証と、掌紋の照合がない事くらいか。

「はぁ…、これはかなり厳しいわね」

「何が厳しいんですの?」

「パスワードの解析が、よ。ってえっ!?」

いつからいたのか、美琴の後ろからディスプレイを覗き込むように、
黒子が立っている。
いや、そもそも何故ここにいるのだろうか。

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:35:25.80 ID:C+1vRQ8UQ [43/98]
「あっ、あんたどうしてここに!?
てゆーか何で私がここにいるって分かったのよ!?」

「最初の質問ですが、私は風紀委員ですの。
この施設は行方不明事件に関わっている様ですから、
調査に来るのは当然ですわ」

黒子は一呼吸置き

「二つ目の質問。お姉さまも来ているだろうと施設に入ってみたら、
至る所の電子ロックが解除されてましたの。
まるでショートさせたみたいに。
で、解除された電子ロックを辿っている内に、
ここに辿り着いたという訳です」

そう言ってコントロールルームの外に声を掛ける。

「さ、あなたも入ってくださいな」

黒子に呼ばれて、一人の少女が恐る恐る部屋に入ってくる。
頭には花飾りをつけ、柵川中学の制服を着た少女。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:36:25.45 ID:C+1vRQ8UQ [44/98]
「う、初春さん!?なんで!?」

「あら、お姉さま。初春も立派な風紀委員ですのよ?」

それは美琴にも分かってはいるのだが、
初春は本来オペレーターとして第177支部にいる事が多いのだ。
こんな危険な場所に来る事は珍しかった。

「あ、あの。白井さんがここに行く事を聞いて…
何か出来る事があるかもって、ついて来たんです」

研究施設なら当然コンピューターもあり、
そこから何か情報が得られるかもしれない。
初春はそう考えたのだ。

「御坂さん、ちょっと変わって下さい」

初春は美琴の座っていた席に腰掛けると、
鞄から自分のノートパソコンを取り出す。
それをメインコンピューターと繋いで、
大きく深呼吸をした。

「私…やってみます!」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:39:15.59 ID:C+1vRQ8UQ [45/98]
12月24日PM11:01

「あれは!?」

神裂とステイルの視線の先、女の手に握られた短剣、そして古びた一冊の本。
上条にはそれが一体何なのか分からなかったが、
どうやら魔術側の物らしい事は、二人の反応を見れば分かる。
女はまるでおもちゃを自慢する子供の様に、
短剣と本を上条達に掲げ、楽しそうに口を開く。

「ふふ。やっぱり知ってるわよねー。よく勉強してる。偉い偉い。」

「アサメイと…ハバクク書だと!?」

「せいかーい。もっとも…ハバクク書はオリジナルじゃないけれどね」

ステイルをからかうように、女は短剣をクルクルと手の上で弄ぶ。
どうやら魔術の世界ではそれなりに名の知れた物らしい。

「おい、ステイル。あれは一体何なんだ?」

上条の問い掛けに、神裂が口を開く。

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:40:50.21 ID:C+1vRQ8UQ [46/98]
「私が代わりに。あの刃を落とした短剣はアサメイという物です。
アセルメイ、アセイミーという別名もありますが…
簡単に言えば、魔女が使う儀式用の短剣です。
短剣の黒い柄から宇宙のエネルギーを吸収し、
剣先からそれを放出する事によって、
強力な魔法陣を描いたり、様々な魔術に使います。
その力から、別名"真の魔女の道具"と呼ばれています」

神裂の言葉に耳を傾けながら、女はうんうんと頷いている。
神裂の説明は正しいという事だろうか。

「そしてあの本ですが…あれはハバクク書という物です。
800巻あるとされる"死海写本"の内の一冊で、
著者はユダヤの預言者ハバククとされています」

「短剣は何となく分かる。けどあんな本を一体何に使うんだ?」

パチパチと手を叩く女を睨みつけ、ステイルが代わりに答える。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 10:42:41.67 ID:C+1vRQ8UQ [47/98]
「霊装というのは、その伝承や内容により能力が付加されるんだ。
ハバクク書に付加された力は、"第三章"の内容に起因するものだ」

「内容?」

「音楽を伴う祈祷。第三章にはその詳細が書かれている。
ハバククも楽器を演奏しながら祈祷する預言者だったそうだからね。
あのハバクク書は
"音に関する魔術や術式の力を爆発的に増幅する"力があるんだよ」

「でもあれはオリジナルじゃないんだろ?そこまで凄い力があるとは…」

「あれは死海"写本"の内の一冊。
写本とはその名の通り、オリジナルを正確に写した本だ。
ハバクク書のオリジナルはそもそも見つかっていないんだよ。
つまり…あれはもうオリジナルと言っても差し支えない」

女はわざとらしく驚き、ステイルにも拍手を送る。
どこまでも挑発的な態度。


175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:03:06.77 ID:C+1vRQ8UQ [48/98]
「そこまで知ってるの?さすがは一流の魔術師といったところね」

女の持っている物が何なのかはだいたい分かった。
しかしそれを一体どう使うのか、上条にも、
そしてステイルと神裂にも分からなかった。

「お勉強は終わった?じゃ、そこで大人しく見てなさい」

装置のボタンをいくつか押すと、女はハバクク書を開き、
短剣を夜空に向かって掲げた。
まるで意志を持っているかのように、淡く白い光が夜空から降り注ぎ、
短剣へと吸い込まれていく。
それに呼応するかのように、インデックスが苦しそうにもがき始めた。


「くそ!ステイル!何か手はないのかよ!?」

「僕達があの女に手を出せば、あの子は死ぬかもしれないんだ。
何をしようとしているかは分からないが、
目的を果たす為にあの子が必要なら、すぐには殺されたりしない」

ステイルは淡々とそう言った。
目の前でインデックスが苦しんでいるのに、
まるで感情の無い機械のように。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:06:07.56 ID:C+1vRQ8UQ [49/98]
「…てめぇ、本気で言ってんのか!?」

「やめて下さい、上条当麻!ステイルは…」

神裂の制止も聞かず、上条は思わずステイルの胸倉を掴んだ。
その拍子にステイルがくわえていた煙草が地面へ落ちる。
煙草からステイルへ、上条は視線を移し―
その顔が苦痛に歪んでいる事に気がつく。

「ステイル…お前」

「ステイルだって悔しいんです。何も出来ない自分が。
分かって下さい、上条当麻」

そうだった。ステイルが最強の魔術師であろうと決めた理由。
それはたった一人の少女、インデックスを守る為。
何も出来ない状況が、悔しくない訳がないのだ。
上条は掴んでいた手を離す。

「悪い…つい…」

「ふん…」

ステイルは修道服の襟元を正すと、新しい煙草に火をつける。
すると突然―

「ステイル!見て下さい!」

神裂が夜空を指差す。
上条も視線を上に向け、その光景に息を呑む。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:08:06.40 ID:C+1vRQ8UQ [50/98]
夜空に巨大な魔法陣が現れていた。
白い光で描かれた、円形の魔法陣。
その光の円に沿うように、上条の知らない文字や数字のようなものが並び、
中央には巨大な六芳星が描かれている。
現在の直径は30メートル程だったが、
上条達が見ている間にも、魔法陣はその直径を大きく広げていた。

「これは!」

「そうだ、星を使った大規模魔術だ」

何かに気付いたステイルの声に、ここに居ないはずの人物の声が答える。

「土御門っ!?」

上条達が振り向くと、土御門が腕を組み屋上の扉にもたれかかっていた。

「悪い。遅れちまったな」

「そんな事より土御門!今のはどういう意味だ!?」

「カミやん。冬の大三角形は知っているか?」

土御門の質問の意図が掴めず、上条は首を横に振る。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:09:08.82 ID:C+1vRQ8UQ [51/98]
「オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン。
この三つの星を結ぶ三角形の事だ」

「それが一体…」

「いいか、カミやん。
三角形というのは、魔術の世界ではただの図形ではないんだ。
上向きの三角形は男と火、そして神聖渇望心の象徴。
下向きの三角形は女と水、更に聖寵、慈愛、慈悲の象徴」

土御門は頭上の魔法陣を指差し続ける。
その直径はおよそ100メートルに達しようとしていた。

「そして六芳星。三角形を二つ合わせて出来た、六つの頂点を持つ星。
その六つの頂点は、東西南北、上、下を意味している。
つまり世界…地球を表しているんだ」

あまりにスケールの大きな土御門の話に、
上条含め、その場の誰もが息を呑む。

「じゃああの魔術は、世界中を対象にしてるのか?」

「いや、いくら霊装で底上げされた魔術でも、さすがにそれは無理だ。
だが…国一つくらいなら対象に出来るかもしれない」

「国…一つ!?」

対魔術師用どころじゃない。
国を対象にして、一体何をしようというのか。
インデックスの頭の中にある、"音に関する魔術"とは一体何なのか?

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:10:48.02 ID:C+1vRQ8UQ [52/98]
(音に関する…魔術?)

上条の頭の中の記憶。
その記憶の中に、ぼんやりと何かが浮かび上がった。
それは次第にハッキリと、鮮明に蘇ってくる。

「なぁ土御門。この大規模魔術って音が関係する魔術なんだよな?」

「あぁ、そうだ。あの女はハバクク書を持っているしな」

「それに、対魔術師用でインデックスの頭の中にある魔術…」

その条件に当てはまる術式を、上条は一つだけ知っている。
過去にインデックスが使用しているのを見たことがあった。

「まさか…ステイル、覚えてるか!?
オルソラを助けに行ったあの教会で、インデックスが使った魔術!」

記憶の糸を辿り思い出したステイルの目が見開かれる。

「そうか!魔滅の声か!」

魔滅の声(シェオールフィア)―
魔術ではなく正確には術式。
10万3000冊の魔導書の知識を使い、
教徒の信仰する教義の矛盾を徹底的に糾弾する事により、
その教徒の自我を一時的に崩壊させる術式。
インデックスが強制詠唱と共に、身を守る為に使用する術式だ。
上条達の話を聞いた土御門が、何かに気付いて口を開く。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:12:07.21 ID:C+1vRQ8UQ [53/98]
「なるほど…魔滅の声か。
カミやん、あの女の目的はそれだ。
まず禁書目録から魔滅の声の知識を吸い出す。
次にハバクク書で魔滅の声の能力を爆発的に増幅し、
それをアサメイで描いた大規模魔術用の魔法陣を通して、
目的の場所に送り込むつもりだ」

「そうか…その為に読心能力者を誘拐してたのか!」

美琴が言っていた。行方不明者は全員、読心能力者だと。
恐らくインデックスの記憶を―
つまりは魔導書の知識を吸い出す為に使っているのだ。
ここで上条の頭にもう一つ疑問が浮かぶ。

「じゃあ…23台の学習装置はどういう目的が…」

「恐らく…いや、間違いなく、
インデックスと読心能力者達とのパイプの役目を果たしているはずだ」

つまり、23人の読心能力者がインデックスから魔導書の知識を受け取る。
そして学習装置で脳にその知識を一字一句記憶させ、
意識を奪った学生達に強制的に詠唱させる。
これが土御門の推測したプランだった。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:13:49.75 ID:C+1vRQ8UQ [54/98]
「でも行方不明の23人はどこにいるんだ?
この建物の中にも居なかったぞ」

「カミやん。身の回りで23という数字に心当たりはないか?」

上条は考える。
身の回りで23の数字が関わるもの。

「…学区…か?」

「そうだ。学園都市は全23学区から成り立っている。
しかも…学園都市は円形なんだよ。
恐らく一学区に一人、行方不明の人間が配置されてるはずだ」

土御門の言葉に、今まで黙って聞いていた神裂も口を開く。

「まさか!?学園都市全体も魔法陣の一部にする気ですか!?」

上条が慌てて頭上を見上げると、白い魔法陣はとてつもない大きさになっていた。
上条達には分からなかったが、魔法陣は既に学園都市の60パーセントを覆っている。
魔法陣が大きくなるにつれ、
インデックスから苦しそうな息が漏れる。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:15:31.23 ID:C+1vRQ8UQ [55/98]
「あの魔法陣と対になるよう、学区ごとに特定のポイントがあるはずだ。
そこに行方不明の人間を配置してるんだろう。
これも術式の力を跳ね上げる為だ」

ステイルは苦々しく言葉を吐き出し、新しい煙草を取り出す。
その時だった。

「あ…あ、あぁぁぁぁぁぁ!」

インデックスが今までにない苦痛の叫び声をあげる。
魔法陣の大きさと比例し、インデックスへの負担も大きくなっていた。

「くそっ!あの短剣に俺が右手で触れば、魔法陣は消えるんだろ!?」

「落ち着けカミやん!
まずは禁書目録から知識を吸い出している装置を止めないと始まらない!
魔法陣を消すのはその後だ!
じゃないと…禁書目録の脳がもたない!」


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 11:22:00.98 ID:C+1vRQ8UQ [56/98]
12月24日PM11:03

「………」

初春は黙々とキーボードを叩く。
あれから2つパスワードを解析し、残りは1つになっていた。
美琴と黒子は別のパソコンを使い、
行方不明事件とこの施設を結ぶ証拠を探していた。
黒子はディスプレイを眺めたまま、隣でキーボードを叩く美琴に尋ねる。

「ときにお姉さま」

「なによ?」

「お姉さまならあんな回りくどい事をしなくとも、
電撃一発で電力の供給を止められたと黒子は思いますの」

黒子はその回りくどい事をしている初春をチラリと見る。
額の汗を拭い、一生懸命キーボードを叩いている。

「それは私も真っ先に考えたわよ。
だけど調べてみたらね、強制的に電力を落とした場合、
施設のデータは消えて、二度と復元出来ないみたいなの。
きちんと手順を踏んで電源を落とすしかないって訳。
そうすれば、後でデータの復元も可能なのよ。
もし今何も証拠が見つからなくても、
データさえ無事なら後は風紀委員かアンチスキルの仕事ね」

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:10:08.55 ID:C+1vRQ8UQ [57/98]
「なるほど。もしデータが全て消えれば、誘拐の証拠なんかも見つかりませんものね」

「さっ、喋ってないで尻尾を掴むわよ」

美琴と黒子はディスプレイに意識を戻し、
再度キーボードを叩き始める。
すると突然―

「お、お二人共っ!ちょっと来てください!」

黙々と作業していた初春が二人を呼び、
慌ててディスプレイを指差す。

「どうしましたの?初春」

「あの、最後のパスワードが分かったんですけど…」

その含みを持たせた言い方に、美琴は首を傾げる。

「けどって…どうしたの?」

「候補が二つあるんです…」

初春の指差すディスプレイを覗き込むと、
確かに二つ文字が並んでいる。
どちらも八文字。
"soror103"と"sound101"

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:10:54.32 ID:C+1vRQ8UQ [58/98]
「あの…どちらかはフェイクだと思うんですけど、
これ以上はどうやっても絞り込めなくて」

「片方は分からないけど、もう一つはsound…音よね。
この施設は音に関する研究をしてるから、こっちじゃない?」

「まぁ、お姉さま!なんて単純な!
そんな分かりやすいはずないじゃありませんの」

「う…いや、でも分かりやすいからフェイクと見せかけて、
実はこっちが当たりって事も」

「いいえ、お姉さま。
フェイクと見せかけて当たりなんて、黒子はそうは思いません。
フェイクと見せかけていない方がフェイクじゃないから…あれ?」

「えーい、ややこしい!初春さん!あなたが選んで!」

「あっ、はい分かりまし…えぇぇぇっ!?」

突然話を振られ―
もとい、責任を押し付けられ、初春の体がブルブルと震える。
まるで狼に追い詰められたウサギだ。

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:11:43.46 ID:C+1vRQ8UQ [59/98]
「さっ、初春さん!思い切って!」

「初春…分かってますの?失敗したら大変な事に…」

「ひぃっ!どどどどーしましょう!?」

「黒子!あんたは黙ってなさい!ここは初春さんの運に任せるわよ」
美琴は黒子を羽交い締めにして、初春を安心させるように頷く。

「もし失敗しても、それは私達みんなの責任よ。
だから初春さんの運を信じるわ」
「わ…分かりました!私やります!」

初春はディスプレイに向き直り、
マウスを力一杯握る。

(頑張れ私!答えは二分の一!)

二つのパスワードの間を、カーソルが行ったり来たりしている。
初春の思考そのままに。
美琴と黒子はその様子を、固唾を飲んで見守っている。
と、突然―

「くちゅんっ!」

可愛らしいクシャミをした初春が振り返り、
後ろで見守っている二人を申し訳なさそうに見つめる。
何故かその目には大粒の涙が溜まっている。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:13:59.38 ID:C+1vRQ8UQ [60/98]
「あの…」

「ん?どうしたの、初春さん」

「…押しちゃいました」

「え?」

「パスワード…今ので押しちゃいました」

「えぇぇぇぇぇっ!?嘘でしょ!?」

美琴と黒子が慌ててディスプレイを確認すると、確かにパスワード入力が完了していた。
選ばれたのは"soror103"



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:15:21.92 ID:C+1vRQ8UQ [61/98]
「ご…ごめんなさいっ!」

初春は深々と頭を下げる。
もし間違ったパスワードを選んでいたら。
三人の背中を嫌な汗が流れた時だった。
突然室内の灯りが落ちる。
どうやらコンピューターの電源も落ちているようだ。
あとは―

「このまま予備電源に切り替わらず、完全に電力がストップしていれば…」

「初春は幸運という事になりますわね」

それから数分待ってみたが、一向に灯りは点かない。
つまり―

「やった!電源をカット出来たわね!」


192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:33:02.47 ID:C+1vRQ8UQ [62/98]
12月24日PM11:24

「電力が…カットされた!?」

インデックスの張り付けられた装置のディスプレイが、突然真っ暗になる。
女は慌てていくつかのボタンを押すが、
装置は何も反応しなかった。

(馬鹿な!?何重にもセキュリティーを掛けてあったのに!
一体何故っ!?)

きちんとした手順を踏み、完全に電源が落とされてしまった為、
予備電源にも切り替わらない。
その上、調整しなければインデックスの命が無いという保険も、
無駄になってしまった。
無理に電源が落とされれば、インデックスの脳に負荷が掛かり、
命を落とすはずだったのだ。

「御坂か!?」

きっとそうだ。
上条は美琴に心の中で感謝する。
そして―

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:33:58.12 ID:C+1vRQ8UQ [63/98]
「ステイル、神裂、土御門!あとはあいつを何とかすればいいんだな!?」

「あぁ。行くぞ神裂!」

「はい!」

「カミやんの右手、役に立ってもらうぞ!」

四人は女に向かって走り出し―
その女が楽しそうに笑っているのに気付いた。
装置は止まってしまい、切り札は失ったはずなのに。

「あっははは!切り札っていうのはね!
最後まで取っておくものよ!」

女はハバクク書のページを捲りながら、
何かを呟き始める。


「うっ…」

すると突然、ステイルがその場に膝をつく。
次に神裂、そして土御門も。

「くっ…これは…一体!?」

神裂は立ち上がろうと膝を立てるが、
まるで巨大な岩を背負っているかのように体が重い。

「なんだよ!?みんな一体どうしたんだ!?」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:35:18.72 ID:C+1vRQ8UQ [64/98]
上条の体には何も変化が無い。という事は―

「魔術か!」

「そうよ。あなたが普通に立っているのは驚きだけれどね」

女はそう言うと、上条に向かってパチパチと手を叩く。
この女は拍手するのが癖なのだろうか。

「音って不思議よね。耳だけじゃなく、骨なんかからも受け取れるんだもの。
骨伝導って言ったかしら。
今のはね、その骨伝導を利用した魔術なの。
あなた達の体の中、音に混ぜた私の魔力が全身の骨を伝って、
体の自由を奪ってるのよ。
まぁ本来は一時的なものだけれどね。
ハバクク書で強化してあるから、暫くは動けないでしょうね」

本来魔術師は体内に、魔術に対する抵抗力がある。
土御門は例外だが、神裂やステイル程の魔術師なら、
体の自由が奪われるのは一瞬なのだ。
しかし、女がハバクク書を使って強化したせいで、
三人の体は一向に言う事を聞かなかった。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 12:37:11.50 ID:C+1vRQ8UQ [65/98]
「くそ、上条当麻!君が何とかしろ!」

言われるまでもなかった。
もしあの魔術が単純に耳だけを狙うものなら、
上条もどうなっていたか分からない。
しかし、全身を対象にしているのだ。
それならば―
上条は右の拳を握り締める。動けるのは自分だけなのだ。

「うぉぉぉぉっ!」

上条は女に向かって走り出す。
その勢いのまま、短剣に向かって右手を振り抜く。
しかし―

「ぐっ、あぁっ!」

上条の右手以外、全身に鋭い痛みが走る。
まるで刃物で切られたように、細い傷口から血が溢れ出す。

「知らなかったかしら?このアサメイはね、魔法陣を描くだけじゃないのよ」

女はクルクルとアサメイを回し、離れた上条に向かって振り下ろす。

「くっ!」

咄嗟に右手を前に差し出し、何かが打ち消されるのを感じる。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:07:27.55 ID:C+1vRQ8UQ [66/98]
今度は上条にも確認出来た。女が振り下ろしたアサメイから、
無数の刃が放たれたのだ。
それはまるで鎌鼬だった。

「く…カミやん!アサメイは四大属性の"風"に属してる!
気をつけろ!」

女は更にアサメイを振り下ろす。
無数の刃が牙を剥き、上条の右手で打ち消される。
消しきれなかった風の刃が、上条の太ももを切り裂いた。

「あら…あなた資料ではただのレベル0だったはずだけれど、
一体どんなトリックを使ってる訳?」

女は知らなかった。
上条の右手には、異能の力なら、それが例え神によるものでも打ち消す力、
"幻想殺し"が宿っている事を。

「うぉぉぉっ!」

答える気の無い上条は、再度女との距離を詰める。

「ちっ、しつこい男は…好きじゃないのよっ!」

女は風の刃を立て続けに放つ。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:08:25.56 ID:C+1vRQ8UQ [67/98]
右手で防ぎきれる筈もなく、上条の全身に再度激痛が走った。
それでも足を止める訳にはいかない。
上条は激痛に耐え、女の顎目掛けて拳を振り抜く。
女はそれをバックステップでかわすと、
今度はアサメイを使わず、上条の脇腹に回し蹴りを叩き込んだ。

「がはっ!」

前に体重を掛けていた上条は、その衝撃を受け、思わず地面に手をつく。
それを逃さず、女はうずくまる上条の顔を蹴り上げた。

「っがぁぁぁ!」

一瞬意識が飛び、次に夜空に浮かぶ魔法陣が目に入る。
そこで初めて上条は自分が仰向けに倒れている事を知った。

「邪魔が入ったせいで出力は70パーセント程だけれど、
これでも十分ね。
上条と言ったかしら。あなたもそこで見てなさい。
イギリスが滅びるところを、ね」

女は倒れた上条を一瞥すると、ハバクク書を開き、
アサメイを魔法陣に向かって掲げる。

「マズい!魔滅の声をイギリスに向けて発動する気だ!」

ステイルは何とか体を動かそうとするが、
指一本言うことを聞かなかった。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:10:48.80 ID:C+1vRQ8UQ [68/98]
「くそ、70パーセント程度でも…
イギリス清教に属する魔術師や一般人は再起不能になるぞ!」

ステイルの言葉に、土御門も付け加える。

「それだけじゃない。さらわれた23人は学園都市の能力者だ。
無理にあんな強力な魔術を使わされたら…死ぬかもしれない!」

土御門も同じ。魔術師でありながら、スパイとして学園都市に潜入し、
超能力開発を受けたのだ。
相容れぬ二つを手に入れた代償。
それを誰よりも分かっていた。

「そういえば…魔滅の声は一定数の人間が集まっていないといけないのではないですか?」

神裂の言葉にステイルが首を振る。
確かに集団心理を利用する魔滅の声は、
同じ宗派の人間などが一定以上集まっていなければ、
あまり効果を発揮しないのだ。
所謂その場の純度が威力を左右する。
しかし―

「こんな無茶苦茶な術式だからね。
何があるか分からない。
それに…今日が何の日か覚えてるかい、神裂」

「今日…?」

今日は12月24日。クリスマスイブ。
神裂はハッと息を呑む。

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:11:52.76 ID:C+1vRQ8UQ [69/98]
「そうだ。日本とイギリスの時差は9時間。
正確な時間は分からないけど、
向こうは今クリスマスイブの昼過ぎくらいだ」

十字教徒が多数を占めるイギリスにとって、
12月24日、12月25日の二日間は日本でいう正月と言っても過言ではない。
ほとんどの会社や店は休みとなり、
家族、友人、同じ宗派の人間が、パーティーやミサに参加するのだ。つまり―
同じ宗派の人間達が、かなりの確率でイギリス各地に集まっている。

「そこまで考えてこの日を選んだという事ですか!?」

「だろうね。だから…何としても止めなければならない」

「当たり…前だっ!」

「っ!?」

ステイル達の視線の先、傷だらけの上条が立ち上がる。
その目にはまだ諦めの色は無い。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:16:10.98 ID:C+1vRQ8UQ [70/98]
女は立ち上がった上条を見て、今度は本当に驚く。
あれだけやってもまだ立ち上がって来るとは。

「あなた…一体何者?ただの無能力者じゃなさそうだけれど」

「何で…」

「え?」

「何でこんな事をするんだよ!イギリスを滅ぼすとか…
何がお前をそこまでさせるんだ!?」

女が一瞬、ほんの一瞬悲しそうな顔をした。
そして今度は怒りを滲ませて上条を睨む。

「いいわ…教えてやる!イギリス清教が"私達"に何をしたか!」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:20:39.59 ID:C+1vRQ8UQ [71/98]
女には双子の妹がいた。一卵性で瓜二つ。
とても優しい、心の綺麗な妹。
好きな歌も、好きな食べ物も、好きな遊びも、何もかも一緒だった。
何をするのも二人は一緒。
今までも、そしてこれからも。
女はそう思っていた。
その想いが打ち砕かれたのは、姉妹が22才になった頃だった。
魔術師だった父と母の影響で、姉妹そろってイギリス清教の魔術師になっていた二人は、
諜報活動をする部署に配属されていた。
ある時、そこの上司に命令され、任務としてロシア正教に潜入する事になった。
潜入して一年程経った頃、大きなトラブルが発生した。
姉妹がイギリス清教のスパイである事がバレたのだ。
妹は女を逃がす為に囮となり捕まった。
自ら犠牲になる事を選んだのだ。

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:21:22.68 ID:C+1vRQ8UQ [72/98]
女はイギリス清教に帰るとすぐに応援を頼んだ。
妹を助けて欲しいと。
ところが―
女は何故か牢に投獄され、上司から心をズタズタに引き裂く事を聞かされた。

"妹は諦めろ"

後で知った事だが、上司はロシア正教にこう言っていたのだ。

"潜入は姉妹が独断で行った事。よって、妹はロシア正教で裁いてくれて構わない。
姉はイギリス清教で処理する"と。
勿論それでロシア正教が納得するはずはなかったが、
多額の金、いくつかの霊装を渡し、この話は秘密裏に決着がついた。
結果―
妹は拷問の末に命を落とした。

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:22:22.25 ID:C+1vRQ8UQ [73/98]
女には妹の苦しみが、そして妹の死が分かった。
対を失った感覚を、ハッキリと感じたのだ。
女は三日三晩泣き叫んだ。
そして女の処分の日。
任務の失敗を外部に知られぬよう、上司は女を殺す事にしたのだ。
それに反発した一人の魔術師が、女を牢から逃がした。
そして―
女は復讐を心に決め、
イギリス清教も手が出しにくい学園都市に潜んでいたのだ。
それが丁度一年前。


205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:23:54.63 ID:C+1vRQ8UQ [74/98]
「それからこの街で、私はどんな汚い事でもやった!生きる為にね!
ようやく協力者を見つけ、ここまで来たんだ!邪魔をするなっ!」

女は上条にアサメイを振り下ろす。
今度はかなりの数の風の刃が上条を襲う。
右手だけではカバーしきれず、体中が切り刻まれた。
それでも上条は倒れない。

「ふざけんな…」

「な…?」

「ふざけんなって言ったんだ!」

「何だと!?」

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 13:24:55.81 ID:C+1vRQ8UQ [75/98]
「お前が妹を失った苦しみや悲しみは俺には分からない!
けどな、妹はお前にそんな復讐をさせる為に犠牲になった訳じゃねぇだろ!
囮になってお前を逃がした妹も、お前が殺されないよう逃がした仲間も、
お前には幸せに生きて欲しかったんじゃねーのかよ!」

「知ったような事を言うなっ!お前に私や妹の気持ちが分かる訳ないだろ!」

「ならお前は胸張って言えんのかよ…」

「何…が…」

「沢山の関係無い人間巻き込んで…
これはあなたの為にした事よって…
妹に胸張って言えんのかって聞いてんだ!」

「それ…は…」

「お前の妹と仲間が繋いでくれたその命で、
どうして妹の分まで幸せに生きてやらないんだよ!」

「黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇっ!」

女の目からは涙が溢れていた。
分かっていた。
優しい妹がこんな事を望むはずが無いと。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:13:40.39 ID:C+1vRQ8UQ [76/98]
それでも―
それでも、この苦しみや怒りを上手く受け止める事が出来なかったのだ。
復讐する事で解放されると、そう思ったのだ。
いや、思わなければその苦しみや怒りに押し潰されていた。

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!」

女はアサメイを振り上げ、残りの魔力の全てを注ぎ込む。

「お前が復讐でしか自分を救えないって言うんなら…」

上条は女に向かって走り出す。
その右拳に残った力の全てを込める。
女が振り下ろしたアサメイは、
完全に振り下ろされる前に上条の左肩に食い込む。

「そのふざけた幻想をぶち殺す!!」
鈍い音が響き渡る。
上条の右拳が、女の顔面を打ち抜いていた。
女はそのまま薙ぎ倒され、完全に意識を失った。
聞こえていないだろうが、上条は女に声を掛ける。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:15:12.61 ID:C+1vRQ8UQ [77/98]
「お前はまだ…やり直せるはずだ」

女が意識を失った事で、ステイル達の体もようやく自由になった。

「上条当麻。右手でアサメイに触れるんだ。
魔法陣はそれで消える」

「あぁ」

上条は女が落としたアサメイを拾い上げる。
儀式用に刃が落とされていた為、
上条の左肩に食い込むだけで済んだ。

「これで…いいのか?」

アサメイには何も変化はない。
神裂は上条に目で合図を出し、夜空を指差した。

「あ…」

白く巨大な魔法陣に、まるでガラスの様な亀裂が入っていた。

「そうだ、インデックス!」

上条は張り付けにされたインデックスの拘束を解き、
体と膝下に手を入れ抱き上げる。

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:15:56.09 ID:C+1vRQ8UQ [78/98]
「良かった…大丈夫そうだ」

インデックスの体は温かく、表情も穏やかなものになっていた。
しばらく見つめていると、インデックスがゆっくり目を開ける。

「とう…ま?」

「インデックス!大丈夫か!?」

上条に抱きかかえられたまま、インデックスが空を指差す。

「とうま…雪」

上条が空を見上げると、小さな白い粒が無数に舞い降りてきた。
その一粒を、インデックスが右手を伸ばして捕まえようとする。
しかし雪はインデックスの手のひらをすり抜け、
地面に落ちて消えてしまった。
インデックスを抱きかかえたまま、上条も同じように右手を差し出す。
雪の粒は手のひらをすり抜けず、
右手に触れた瞬間に小さく弾けて消える。

「そっか…これ、魔法陣のカケラなのか」

光の粒は学園都市全体に降り注ぎ、街の灯りを反射してきらきらと輝いている。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:17:01.76 ID:C+1vRQ8UQ [79/98]
「ホワイトクリスマスだね、とうま」

決して積もる事のない雪を見つめながら、
インデックスは嬉しそうに呟いた。
この笑顔を見られるなら、どんな事だって出来る。
上条はそう思った。

「ちょっと、一体何があったのよ!?」

屋上に上がるなり、美琴の目に傷だらけの上条が飛び込んだ。
腕にはインデックスを抱え、傍らには修道服の女が倒れている。

「いや、まぁ色々ありまして…」

「色々って…あんた血まみれじゃない!」

美琴はスカートのポケットから、カエルのプリントされたハンカチを取り出し、
上条に差し出した。
そんなやり取りをよそに、ステイルは倒れている女を肩に担ぐと

「じゃあ僕と神裂はこれで。この女は一度イギリスへ連れて帰るよ」

そう言って屋上から出て行く。
神裂は深々と頭を下げ、上条にお礼を言った。

「あの、また助けて頂いてありがとうございました。
このお礼はいずれ。失礼します」

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:18:47.02 ID:C+1vRQ8UQ [80/98]
そんな二人を、黒子は慌てて引き止める。

「ちょ、ちょっとお待ちになって下さいまし!
あなた達は学生には見えませんが、IDの確認を…」

ステイルは足を止めず、神裂もぺこりと頭を下げてその場を後にしてしまった。
気付けば土御門の姿も無い。

「逃げやがったな…あいつら」

「ねぇ、とうま」

インデックスが上条の服をちょいちょいと引っ張った。

「クリスマスパーティーしよう」

「へ…今から?」

確かに日付は変わって、今日はクリスマス。
しかし、今は真夜中だ。

「うん、今からなんだよ!せっかくのホワイトクリスマスだもん!」

そう言って無邪気に笑うインデックス。

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:19:42.02 ID:C+1vRQ8UQ [81/98]
上条は頭を掻きながら暫く考え

「そうだな…やるか!クリスマスパーティー!」

「うん!でもまずは病院で手当てだね、とうま!」

綺麗に落ちが決まりそうなところで、
美琴が素早く水を差す。

「ちょっと、何二人で盛り上がってんのよ」

「そうだ、短髪も来る?パーティー!」

「え…私?」

「そうだな。お前には今回色々助けてもらったし…
良かったら今からうちでパーティーしないか?」

「あ、ああああんたんち!?」

「おう。ダメか?」

「ダメじゃないっ!いや、違う!あの…あんたがどうしてもって言うなら…」

美琴は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんな美琴の背後から、鬼の形相で黒い影が迫る。

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:21:51.34 ID:C+1vRQ8UQ [82/98]
「お姉さま…」

「ひっ…」

「お姉さまには色々聞かなければいけない事、もといっ!
色々お説教がありますの。
ですからパーティーなんか参加してる暇はないんですのよ」

黒子は上条を見て付け加える。

「あなた達にも聞きたい事は山ほどありますの。
ですが今は時間も時間ですし、明日にさせて頂きます」

「ちょ、ちょっと待って、黒子!」

「問答無用!」

黒子が美琴ともう一人の少女の肩に手を置くと、
その姿は一瞬で消えてしまった。

「じゃあ、俺達も帰るかインデックス」


216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 14:22:49.24 ID:C+1vRQ8UQ [83/98]
「全員保護出来たか」

黄泉川は受話器を置くと、ぐったりとソファーにもたれかかる。
行方不明者の捜索が難航していたところに、
突然匿名で垂れ込みがあったのだ。
時計の針は夜の12時を回っていた。
窓の外にはまるで黄泉川を労うように、きらきらと雪が降っている。

「さて、書類を書き終わったら小萌んとこでも行くじゃんよ」

黄泉川が大きく伸びをした時、
机の上の携帯が鳴る。
ディスプレイには学園都市一番の問題児の名前が表示されていた。

「もしもし―」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:01:20.37 ID:C+1vRQ8UQ [84/98]
「くそっ、くそっ、くそぉっ!」

男は高級外車の後部座席で悪態を吐いた。
その声に、運転手がビクリと肩を震わせる。
計画は全て順調に進行しているはずだった。
禁書目録を鍵とし、全ての魔術師にとって脅威になる兵器を完成させる。
その兵器と技術を独占し、学園都市で確固たる地位を築く。
そしてゆくゆくは魔術側さえ自分のもとにひれ伏すはずだった。
その為に莫大な私財を投じ、ここまでこぎ着けたのだ。
それなのに―

「許さん…許さんぞ!」

全てが無駄になってしまった。
今まで裏で協力していた学園都市の有力者達も、
計画の失敗を知ると、男に責任を押し付けて身を引いてしまった。

「見ていろ…このままでは終わらん!」

男を乗せた車は、一方通行の細く薄暗い道へ入る。
学園都市の外へ身を隠す為、
知り合いの逃がし屋へ連絡をしようと携帯を取り出したその時―

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:02:51.12 ID:C+1vRQ8UQ [85/98]
「っ!?」

突然急ブレーキがかけられ、男は携帯を取り落としてしまう。

「何やってんだ!」

運転席に向かって怒鳴りつけ、男は座席を蹴りつける。

「そ、その、人が…人がいたので」

「あぁ!?人だと!?」

男は後部座席から身を乗り出し、前方を確認する。
確かに車の前に立ちはだかるように、少年が立っていた。
ヘッドライトに照らされている事を差し引いても、
その肌も髪も真っ白。
ただし、その両目だけが異様に赤く輝いている。

「まさか…くそっ!轢けっ!」

「え?ですが…」

「いいから轢けぇぇぇっ!」

男の剣幕に押され、運転手はアクセルを目一杯踏み込む。
タイヤが地面を擦る甲高い音が鳴り響き、そして―

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:04:10.64 ID:C+1vRQ8UQ [86/98]
「ち、もうちょっと頭使うかと思ったんだけどよォ」

車は少年に激突し、その衝撃に男は運転手席に頭をぶつける。

「うっ…」

男が痛みに耐えて目を開けると、フロントガラスは粉々に砕け散り、
運転手は額から血を流し気絶していた。

「そん…な」

少年はまだそこに立っていた。
車のフロント部分は、まるで電柱に激突したかのように大破している。
いや、それ以上だ。別の方向から力が加えられたとしか思えない程、
不自然な形に潰れていた。

「残念だったなァ」

少年は道路標識を指差している。

「こっから先は"一方通行"だ」


学園都市第1位のレベル5。
最強にして最凶の能力者。
一方通行。
それが目の前で笑っていた。

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:05:13.89 ID:C+1vRQ8UQ [87/98]
「ひぃっ!」

男は変形してしまった後部座席のドアを無理矢理こじ開け、
車の外に這い出す。

「やっと見つけたぞ、おい。
てめェが俺を利用しやがった身の程知らずだなァ?」

「ま、待ってくれ!違う!違うんだ!」
腰が抜けて立てなくなった男は、
ズリズリと這いずりながらまくし立てる。

「あ、あれは俺が指示したんじゃない!だ、誰かが勝手に!」

男の言い訳に、一方通行の顔から笑みが消える。
彼の一番嫌いなタイプの悪党。

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:07:01.94 ID:C+1vRQ8UQ [88/98]
「そんな事俺の知ったこっちゃねェ」

「そ、そんな…」

「心配すンな、殺しはしねェよ。
てめェみたいなクズを殺したら後味悪そォだしなァ」

思いがけない一方通行の言葉に、助かるかもしれないと男は安堵する。

「ただし―」

「え…?」

「死ンだ方がマシだと思える状態にはなるけどなァァァァァ!」


228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:10:05.72 ID:C+1vRQ8UQ [89/98]
一方通行は足元に転がる男を一瞥する。
たった一発顔面を殴っただけで、男は気を失ってしまったのだ。
一方通行はそれ以上攻撃を加えなかった。
昔の彼なら、男は殺されるか、それこそ死んだ方がマシな状態にされていただろう。
一方通行の脳裏に浮かんだ一人の少女が、
彼の性格に大きな影響を与えていた。

「あァ、くそ。なンか疲れた」

パキパキと首を鳴らし、一方通行はその場を離れようと踵を返す。
丁度その時、ポケットの中の携帯が着信を知らせる。
ディスプレイには見慣れた番号が表示されていた。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:12:28.16 ID:C+1vRQ8UQ [90/98]
「…なンだ?」

『あ、もしもし?出掛けたっきりなかなか帰ってこないから心配したんだよ、
ってミサカはミサカは夫の帰りを待つ主婦の気持ち風に話してみたり』

「…切るぞ」

『あー、待って!待ってってば!
今のは冗談、ってミサカはミサカは調子に乗った事を反省してみたり』

「…用はなンだ?」

『あのねあのね!日付が変わって今日はクリスマスでしょ?
帰りにケーキを買って来て欲しいな、ってミサカはミサカはおねだりしてみる!
もちろんコンビニのじゃないよ!
ケーキ屋さんの丸くておっきくて
苺がいっぱい乗ってるケーキが良いな、ってミサカはミサカは…』

「断る。つーかこンな時間に開いてるケーキ屋なンざねェよ」

『じゃあさ、じゃあさ!
こんな時間でも開いてるケーキ屋さんを探して買って来て欲しいな、ってミサカはミサカは…』

一方通行は今度こそ本当に電話を切った。
毎回毎回、この少女と話していると頭が痛くなる。
ある意味、学園都市最強はこの少女かもしれない。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:13:26.42 ID:C+1vRQ8UQ [91/98]
一方通行は家路を歩きながら暫く考え、
ポケットから携帯を取り出す。
GPSを使おうと思ったが、何故か電波が届いていなかった。
どうやらさっきから降り注いでいる、雪のようなものの影響らしい。
一方通行は仕方なく電話帳を開き、ある人物の番号をコールした。

『もしもし?珍しいじゃん、お前が電話してくるなんて。
それもこんな時間に』

「いいか、黄泉川。今から俺がする質問に答えろ。
余計な事は言わずに、聞かれた事だけに答えろ。
少しでも余計な事を言ったら殺す」

『はぁ?話が見えないけど…まぁいいじゃんよ。何だ?』

「この時間に開いてるケーキ屋を教えろ」

『………は?』

「いいから答えろ」

『なるほど!あの子に頼まれたのか…
じゃあ今日はお前がサンタクロースじゃんよ!ぷぷっ!』

「黄ォォォ泉ィィィ川ァァァ!」

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 15:15:11.23 ID:C+1vRQ8UQ [92/98]
12月25日AM8:11

「知っていたのだな、ローラ・スチュアート」

アレイスターは、ディスプレイの向こうで微笑む女に問いかける

「あら?何の事かしら?」

ローラ・スチュアート―
イギリス清教の最大主教、ステイル曰わく"女狐"だ。
ローラは美しい金色の髪をとかしながら、挑発的な口調で話している。

「今朝、あの研究施設で原因不明の爆発事故が起きた。
君の仕業だな、ローラ・スチュアート」

それは朝の6時過ぎだった。研究施設が突然爆発したのだ。
あの装置もデータも、建物諸共全てが灰になってしまったのだ。

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:01:08.38 ID:C+1vRQ8UQ [93/98]
「それは大変。心中お察しするわ」

「あれは"グレゴリオの聖歌隊"だろう?」

グレゴリオの聖歌隊とは、バチカン聖堂に3333人の修道士を集め、
聖呪を集積、任意の場所を灰に帰す大規模魔術。
その赤い神槍が研究施設に落とされたのだ。
幸い施設の捜索は午後からだった為、巻き込まれた人間はいない。

「あら、どうしてそう思いけるの?」

その質問に、アレイスターは笑った。少なくともローラにはそう見えた。

「私を誰だと思っているんだ、ローラ・スチュアート。
グレゴリオの聖歌隊は発動まで時間が掛かる。
禁書目録を使った兵器の存在、
君は最初から知っていたんだろう」

「それはお互い様。あなたも最初から知っていて、
イギリス清教には黙っておったのだからね」

ローラはとかし終わった髪を、器用に束ねている。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:03:42.34 ID:C+1vRQ8UQ [94/98]
「もしもあの少年達が兵器を止められなかったら…
君はあの少年達ごと焼き払う気だった。
しかし彼らは兵器を止めた。
イギリス清教としては、兵器やデータが邪魔だろうからね。
遅かれ早かれ、グレゴリオの聖歌隊は発動するつもりだったのだろう?」

ローラの表情は変わらない。
いつ話しても、ローラの心の内を読む事は出来ないのだ。
それはアレイスターも同じだが。

「アレイスター・クロウリー、最大主教たる私はクリスマスの準備で忙しいのよ。
やる事が山ほどありけるの。
もう失礼するわね」

ローラの姿が一度ディスプレイから消え、突然顔が大写しになる。
カメラに顔を近付けたのだろう。
そして満面の笑みでこう言った。

「メリークリスマス♪」


235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:04:47.61 ID:C+1vRQ8UQ [95/98]
12月25日PM6:22

バスルームで爆睡していた上条は、携帯の呼び出し音で目を覚ます。
病院に行ったあと、
インデックスのワガママに付き合って朝までパーティーをしていたのだ。
気付けばもう夕方になっている。
上条は大きく伸びをし、通話ボタンに指をかけた。

「はい…もしもし」

「相変わらず間抜けな声だね」

開口一番の嫌み。それだけで電話の相手が分かる。

「ステイルか…なんだよ?」

「あの女の事を、君にも教えておこうと思ってね」

上条の寝ぼけていた頭が、一気に回り始めた。
それは上条も気になっていた事だった。

「イギリス清教への背信行為。これは重罪だ。
かなり厳しい罰を受けるだろうね」

「そんな…」

確かに女のした事は間違っていたかもしれない。
しかし、女にも苦しい思いがあったのだ。
上条の胸がチクリと痛む。

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:07:01.59 ID:C+1vRQ8UQ [96/98]
「ただし…」

「え?」

「最大主教は事情を汲むと言っていた。
暫く自由は奪われるだろうが、やり直すチャンスは与えられるだろうね。
僕と神裂からもよく言っておくよ」

「そっか!よかった!」

どんな人間もきっとやり直す事が出来る。意志さえあれば何でも出来る。
上条の顔には、自然に笑みがこぼれていた。

「それから、これは僕からのクリスマスプレゼントだ」

「ん?」

「soror103、我が命は常に対と共に」

「何だそれ?」

「彼女の魔法名さ。君が覚えていてやってくれ」

それだけ告げて、ステイルは電話を切ってしまった。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:09:57.04 ID:C+1vRQ8UQ [97/98]
「さてと!」

上条は清々しい気分でバスルームのドアを開く。
もう遅い時間だが、今日はやる事が山積みだ。
御坂のところへスフィンクスを迎えに行き、
クリーニングした制服を返す。
病院にも行かなければいけないし、風紀委員へのごまかしも考えなくてはいけない。
更にパーティーの後片付けだってある。
しかし、今日の上条はそれを不幸だとは思わなかった。
あの女が今度こそ幸せに生きてくれるのなら、
今日は不幸を受け入れる。
神様があの女に幸せをプレゼントしてくれるのなら―
そう、今日は誰もが幸せをプレゼントされるべき日なのだ。

「クリスマス…だもんな」



239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 16:12:21.18 ID:C+1vRQ8UQ [98/98]
色々と読みづらかったとは思いますが、長々とお付き合いくだりありがとうございました
また、支援、保守なども重ねてお礼を。ありがとうございました
細かい設定ミスなどはすいません


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