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律「梓?あぁ、あいつは苦手だな」

1 名前:代理[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:00:50.38 ID:VKIe7gxM0
梓「……え?」

掃除当番で部室に来るのが遅くなってしまった梓は、
息を切らしながら部室の前に立っていた。
ドアを開けようと伸ばした手が固まり、
力が入らなくなってだらんとだらしなく垂れ下がった。
足が少しだけ震えていた。

今中から聞こえてきた、我が軽音部の部長の言葉を頭の中で繰り返す。

『梓?あぁ、あいつは苦手だな』

どくんどくん、と心臓が嫌な風に脈打っていた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/02(木) 22:04:39.86 ID:bfEUaxM30 [2/20]
――――― ――
梓「こんにちはー……」

澪「あ、梓!」

唯「あずにゃん、良かったあ」

紬「昨日来なかったから皆心配してたのよ?」

梓「すいません」

律「何で昨日無断欠席したんだよ?」

梓「」ビクッ

梓「(いつもより冷たく感じる……昨日あんなこと聞いたからなんだろうけど)」グッ

律「梓?」

梓「すいませんでした、これからはちゃんと連絡するように気をつけます」

律「いや、別にいいけどさ」

唯「ま、あずにゃんも来たしお茶にしようよ!」

――――― ――

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/02(木) 22:09:33.51 ID:bfEUaxM30 [3/20]
昨日、ショックが抜け切らないまま家に帰りついた梓は、すぐに部屋に入るとベッドにもぐりこんだ。
胸の奥がもやもやとしていた。
妙に苦しかった。

梓「(……私だって、律先輩のことなんか大嫌いだよ)」

他の先輩たちと比べて、部長の癖に不真面目でふざけているように見える律のことを、
梓は入部した当時からずっと、嫌いだと思っていた。

梓「(寝たらこんな気分、忘れられるよね……)」

制服のままで、皺がつくことがわかっていても起き上がる気力がなかった。
だから梓はそのまま、律の言葉を頭から締め出そうとぎゅっと目を閉じた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:14:08.07 ID:bfEUaxM30 [4/20]

梓「……」

梓「(あ、だめだ。昨日のこと思い出したらよけいに変な気分になってきた)」

ギターケースを開けながら、梓はふるふると首を振った。
あの時の気持ちがまた、胸の奥から競りあがってくる。

梓「(嫌いな人に苦手って言われたんだから、清々するはずなのに)」

紬「梓ちゃん?」

梓「は、はい!」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:18:21.72 ID:bfEUaxM30 [5/20]
律「何ぼーっとしてんだよ?練習すんぞ」

梓「す、すいません」

慌ててギターを持って立ち上がろうとした。
しかし、慌てすぎたせいでギターケースに自分の髪の毛が挟まってしまった。

梓「いたっ……」

唯「あずにゃん大丈夫!?」

澪「梓、何かあったのか?今日ずっと暗い顔してるし……」

梓「そんなこと!」チラッ

律「……」

梓「……ないです」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:22:19.81 ID:bfEUaxM30 [6/20]
唯「本当に?」

ギターケースの蓋を開け、梓の髪を救出しながら唯が心配そうに訊ねる。
梓は大きく頷いた。もう律のほうは見なかった。

梓「(思い切り目、逸らされたし……)」

紬「それじゃあ一度ふわふわ時間、合わせるのよね、りっちゃん?」

律「え?あ、あぁ、うん」

澪「律も律でどうしたんだよ、考え事?律に至って悩み事はないだろうけど」

律「ひどっ。私だって色々悩んでるんだからな!」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:24:50.20 ID:bfEUaxM30 [7/20]
澪「はいはい」

律「梓」

梓「……はい?」

律「もう演奏できるな?」

梓「……はい」

律「」ジッ

梓「あ、あの……」

律「よーし」フイッ

律「んじゃあ行くぜ、1、2、3!」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:32:09.76 ID:bfEUaxM30 [8/20]
――――― ――
梓「(……疲れた)」

帰り道、先輩たちと別れ一人で歩く梓は、背負ったギター以外の重みも肩に感じ
ながら足を進めていた。

梓「(思えば私、律先輩と今までちゃんと話したこと、あったっけ?)」

入部してから今までのことを振り返っても、梓は律とちゃんと話した記憶がまったく
と言っていいほどなかった。

梓「(このまま“苦手”じゃなくほんとに嫌われちゃったらどうなるんだろ)」

所詮、ここは女子高。
いじめなんて日常茶飯事だということを、梓はちゃんと知っていた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:38:49.49 ID:bfEUaxM30 [9/20]
いくら仲の良いと(梓の周りでは)評判の軽音部でも、そういうことが起こりかねないと
いうことはちゃんとわかっていた。

梓「(まず、絶対に澪先輩とかが私を避けるようになるんだろうな)」

女子のグループというのはリーダー的存在の人の言葉は絶対だ。
そのグループの中心人物が誰かのことを嫌いだと言ったら、その時からその人は、彼女達の
敵になる。
それが、ちょっと前まで仲良くしていた誰かだとしても。

梓「(それからムギ先輩とか、唯先輩とかも……)」

皆自分の周りからいなくなる。
せっかく見つけた、軽音部という居心地のいい場所がなくなってしまう。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:45:40.43 ID:bfEUaxM30 [10/20]
もし本当にそうなったら……。
そこまで考えて、梓はその先を想像することを止めた。

梓「何暗くなってんだろ、私」

わざと、自分に喝を入れるために声に出して梓は呟いた。
誰かが自分のことを苦手だとか嫌いだとか言っているのを聞いたら、きっとどんな
人間でも傷付く。

梓「(でも相手は律先輩だもんね、澪先輩や唯先輩たちじゃないんだから……)」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:50:55.07 ID:bfEUaxM30 [11/20]
梓「……大嫌いなんだから」

昨日、思ったことを口にした。
何となくすっきりとした。

梓は普段なら、誰かが自分のことを嫌っていると知れば自然と距離を置くように
していた。しかし、相手は同じ部活で先輩だ。

梓「(どうせ今の今までだってそこまで関わりもなかったんだし、今までどおり接すればいいよね)」

まだ胸に何かが残っている気がする。
しかしそれを無視して、梓は晴れ晴れとした表情をしてみた。

――――― ――

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 22:56:21.11 ID:bfEUaxM30 [12/20]
次の日

梓「(よしっ、いつもどおりいつもどおり)」

部室の前で深呼吸。
何度も吸っては吐くを繰り返す。

梓「(これで律先輩さえ中にいなければ完璧なのに)」

そう思いながら、梓は部室の扉を開けた。
そして自分の運を呪った。

律「おっす」

中には律しかいなかった。
律は、読んでいた雑誌から目を上げることなく軽く手を上げて梓を迎えた。

梓「(最悪だ……まだ律先輩以外誰も来てない……)」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:02:34.84 ID:bfEUaxM30 [13/20]
律「梓、座れば?」

梓「は、はい」

中に入って突っ立ったままだった梓に、
律がやはり視線を梓に移すことなく声を掛けた。梓は裏返ってしまった声で、
自分がまだ律の言葉を引きずってるのを自覚した。

律「……別に緊張しなくてもいいだろ?」

ぎこちなく定位置に腰を下ろした梓に、律が小さく苦笑した。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:05:58.59 ID:bfEUaxM30 [14/20]
梓「……別に緊張してるわけじゃないです」

小さな声で、梓は答えた。
緊張してるわけじゃない。ただ、自分のことを良く思っていないと知っている人と
二人きりだと思うと、楽しそうになんてしていられるはずない。

律「そ」

梓「はい……」

特に興味もなさそうに律は言うと、再び部室に沈黙が訪れた。
仲の良い間柄の沈黙は、梓は好きだった。しかし、お互い嫌い合っている関係での
沈黙に、梓は慣れていない。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:11:07.25 ID:bfEUaxM30 [15/20]
どうにも居心地が悪い。

律「なあ梓?」

頭の中で必死に会話の糸口を探していた梓は、だから突然の律の声にびくっと
反応してしまった。

梓「な、なんですか?」

律「……軽音部、好きなんだよな、お前」

梓「……はあ」

梓「(突然何でそんなこと聞くんだろう、律先輩……)」

梓の頭の中に、次々と嫌な考えが浮かんでは消えていく。
軽音部を好きだと言い切った自分のことを、律は他の部員に話すんじゃないだろうか。
そして「私たちは嫌いだっつーの」なんて言って嘲笑うんだろうか、とそんなことばかりが。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:16:55.06 ID:bfEUaxM30 [16/20]
梓はそんな自分が嫌で嫌で仕方が無かった。

律「どっち?」

何も答えずに、律から目を逸らして俯いたままの梓に、律が少し苛立ったような声で
梓の返事を催促した。

梓「……私は、普通、です」

だから梓は、素直に自分の気持ちが言えなかった。
もし好きだと正直に言って、今自分が想像していたようなことをされていたら。
そう考えると悔しかったから。

律「……じゃあ軽音部、廃部になってもいいの?」

梓「へ?」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:20:08.12 ID:bfEUaxM30 [17/20]
突然の突拍子も無い律の言葉に、流石の梓も俯かせていた顔を上げて律の表情を
覗った。
その表情は、いつものふざけたものじゃなく、真面目な顔だった。
しかし梓が顔を上げたのを見ると、律はすぐに表情を柔らかくした。

律「なーんてな」

梓「冗談、ですよね」

律「まあな。梓が私の軽音部を継いでくれたら、の話だけど」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:24:28.90 ID:bfEUaxM30 [18/20]
どういうことですか、と梓は訊ねようとした。
しかし、それを訊ねる前に、部室の扉が勢い良く開いた。

唯「やっほー、りっちゃん、あずにゃん」

澪「遅くなってごめんな」

紬「直にお茶入れるわね」

さっきと全く反対の、いつもの賑やかな軽音部が訪れる。
しかし梓は、またしても嫌な想像しか出来なくなっていた。

梓「(もしかしたら律先輩、私に軽音部を任せるつもり、ないの……?)」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:29:28.68 ID:bfEUaxM30 [19/20]
負の感情が負の感情を呼ぶように、負の考えがまた負の考えを呼んでしまう。
梓の頭の中は、いつのまにか暗い想像で埋め尽くされていた。

唯「あずにゃん、ケーキ食べないのー?」

目の前にある美味しそうなケーキでさえ、食欲なんて涌いてこなかった。
唯のフォークが自分のケーキに刺さってそれを口に入れられてしまっても、
普段なら怒るところなのに、梓は何も言わなかった。

澪「梓?ほんとに昨日からどうしたんだ?」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/02(木) 23:35:38.19 ID:bfEUaxM30 [20/20]
梓「何でもないです」

澪の優しい声ですら、梓の暗い感情を吹き飛ばしてはくれない。
嫌われることは昔から怖かった。
でも、今嫌われているとしても、その相手は自分の嫌いな人。
それなら問題ないと思っていたのに。

梓「すいません、今日はもう帰りますね」

梓「(このままここに居たって何も出来ない……。一旦家に帰って頭を冷やさなきゃ)」

心配そうな先輩の声を背中に受けながら、梓は帰り支度を済ますと部室を出た。
扉を閉めると、微かに先輩たちの会話が聞こえてきた。
聞きたくないのに、梓の身体は勝手にその声に反応して、耳を欹てていた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 01:51:45.04 ID:Jd18DDAb0 [2/19]
唯「りっちゃん……」

律「……から……だろ?」

ドア越しだから途切れ途切れにしか聞こえない。
それでも梓は聞き耳を立て続けた。

澪「……私も最近、少し、苦手かな」

紬「私はいいと思うけど」

一体何の話をしているのだろう。
梓はそれ以上話を聞いていられなくなり、その場から逃げるようにして走り出した。

――――― ――

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:03:27.77 ID:Jd18DDAb0 [3/19]
次の日も、そのまた次の日も、梓の心が晴れることはなかった。
日に日に軽音部の雰囲気が悪くなっている気さえする。

梓「(変なこと考えるからそんなふうに思っちゃうんだよね……)」

梓「(けど……)」

ギターの手入れをする振りをして、梓はそっと後ろを振りかえった。
四人の先輩が、たった一人真面目に部活動をしている後輩を気にすることもなく
談笑している。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:16:57.93 ID:Jd18DDAb0 [4/19]
その中に自分がいないことを改めて意識して、その光景から目を逸らした。
最近、律は愚か他の三人ともまともに話せていないことに梓は気付き、ぐっと
唇を噛締めた。

梓「(もしかしたらもう……)」

もう、恐れていたことが起こり始めているのかも知れない。
たった数日間の間で。
いや、きっとずっと以前から。

梓「(なんて、ね……そんなこと)」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:21:18.21 ID:Jd18DDAb0 [5/19]
あるはずがない、と自分に言い聞かせる。
いつもどおり澪先輩やムギ先輩に曲について聞けばいい。
いつもどおり唯先輩や……律先輩に練習して下さいって怒ればいい。

梓「(嫌われてたらどうしよう……)」

なのに、そんなことばかりが頭に過っては梓の行動を止めてしまう。
形ばかりのギターの手入れを終わらせ、梓は立ち上がった。
それに気付いた唯が、梓に視線を移した。
目が合ったのに、慌てて逸らされた。

梓「(うそ……)」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:26:27.00 ID:Jd18DDAb0 [6/19]
梓は愕然とした。
昨日までは、確かに(律とは怖くて顔も見れなかったが)他の先輩たちと目が合ったって
露骨に避けられることはなかった。

梓「……っ」

声が出ない。
手が震えている。ギターが上手くもてない。

梓「(……本当に私、みんなに嫌われてるの……?)」

ぐっと手に力を込めて、ギターを持ち直した。
持ち慣れているはずのギターが酷く重く感じた。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:34:20.22 ID:Jd18DDAb0 [7/19]
ちょうど、梓の気持ちを汲み取ったかのように部活終了のチャイムが鳴った。
梓はまた練習出来なかったなどと思う余裕もなく、すぐにギターをケースに仕舞った。

梓「(このままじゃきっと、本当に一人になっちゃうよ……)」

一人での惨めな帰り道。
その後ろには、先輩たちが笑いながら歩いている。
それだけは絶対に避けたかった。

梓の中にはもう、先輩たちに話しかけるという選択肢なんて残っていなかった。
だから、ぺこっと形ばかり頭を下げて足早に部室を出て行こうとしたのを呼び止められ、
かなり驚いてしまった。

律「梓、何急いでんだ?」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:46:39.09 ID:Jd18DDAb0 [8/19]
しかも、事の元凶である律に。
梓は恐る恐る振り向いた。

律「どうしたんだよ?」

澪「……梓?」

梓「あ、の……」

唯「あずにゃん、泣きそうな顔してる」

紬「大丈夫?」

いつもと変わらない、先輩たちの声に梓はほっとした気持ちとともにどうして、と
怒りがこみ上げてきた。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:51:24.27 ID:Jd18DDAb0 [9/19]
意味がわからない。
何でこんなに優しい顔をしているのか。
何でさっきはあんなに私を避けていたのか。

梓「意味、わからないです……」

唯「あ、あずにゃん?」

堪えていた心のダムが決壊しそうになって、梓は慌てて俯いた。
梓の元に駆け寄ろうとした唯を、律が無言で制した。

澪「ごめんな、梓?えーっと……多分この間からの私たちのこと、だよな?」

紬「私たちもやりたくってやってたわけじゃないし、梓ちゃんのこと、皆大好きだから」

梓「で、でも……っ」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:56:44.22 ID:Jd18DDAb0 [10/19]
律「梓が私たちのこと、どう思ってるのか知りたかっただけだから」

梓「え……?」

梓の様子を見て、律が静かに呟くように言った。
梓が律の方をちゃんと見たのを確認すると、律は言葉を続けた。

律「前に聞いたよな?梓は軽音部が好き?」

梓「えっと……」

律「梓は、私たちのことが好き?」

とてもからかっているようには見えなかった。
律以外の三人だって、律と同じように真剣に梓を見詰めていた。
梓はたじろぎながらも、答えた。

梓「好き、ですけど……」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 02:58:14.62 ID:Jd18DDAb0 [11/19]
だめだ、眠くて仕方無い……。
頭が重いので誤字とか変な部分多いと思いますが最後まであとちょっとなので
見逃してやって下さい。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 03:08:07.91 ID:Jd18DDAb0 [12/19]
律「……そっか」

唯「本当のこと言うとね、あずにゃん。確かに確かめたかったっていうのもあるけど、
あずにゃん、これから一人になっちゃうから」

紬「私たちが卒業しちゃったら……ね?」

澪「だから梓にちゃんとわかっててほしかった。私たちがいない生活……って律がね」

律「ちょ、ばかっ、言うなって言っただろ!」

澪「本当は反対したんだよ、こんなやり方は梓を傷つけちゃうだろって」

梓「……はい」

澪「けど律が強引に」

紬「次期部長として梓ちゃんの忍耐強さを確かめるって意気込んでたのよね」

律「ごめん……。梓を泣かせちゃうとは思ってなかった」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 03:22:55.99 ID:Jd18DDAb0 [13/19]
梓「べ、別に泣いてなんかないですっ」

慌てて梓は涙を拭うと首を振った。
唯が、梓の頭を撫でると漸く気分が落ち着いた。

梓「最低、ですよ……」

呟いた。
こんなの酷いと。どれだけ自分が傷付いたのか、この人たちは知らない。
それなのに、安心してしまってる自分がいる。

律「えっと……」

唯「あずにゃん、許して、くれないかな……?」

不安そうな唯の声に、梓はしょうがないなあと笑った。
何より今は、また先輩たちと一緒に居れることが嬉しい。
ただ、梓にだって意地はある。

梓「……許しませんよ?」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 03:33:38.98 ID:Jd18DDAb0 [14/19]
――――― ――
ここ数日間、色々あったことが嘘のように、次の日からの軽音部はいつもどおりだった。
梓も普段どおりの生活を送っている。

また掃除当番で遅くなってしまった梓は、急いで部室に向かっていた。
そして、勢い良く扉を開けると、律の姿しかなかった。

梓「あ……こんにちは」

律「ん」

梓はいつもの場所に座ると、居心地が悪くて辺りを落ち着きなく見回した。
ここ最近、ずっと気になっていることがあった。

『梓?あぁ、あいつは苦手だな』

律の言葉が再び、梓の頭でリピートされる。
まだ、このことについてはちゃんと聞いていなかった。

梓「律先輩」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 03:40:23.11 ID:Jd18DDAb0 [15/19]
律「なに?」

梓「律先輩は、私のことが嫌いですか」

以前律に聞かれたように、反対の言葉を使って梓は訊ねた。
律はやっぱり読んでいた雑誌から顔を上げることなく、答えた。

律「……苦手、かもな」

終わる。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 17:27:00.91 ID:vQKeHYGZ0 [2/5]
(>>64から)

梓は、四人に話し掛ける術が思いつかなくて、ギターケースの前に向き直った。
思いがけない律の言葉を聞いたあの日から、梓は中々先輩たちと話せずにいた。
律はともかく、澪や唯、紬にまで嫌われていたらどうしようと、そんなことを考えると
声が喉に張り付いて出てくれなかった。

ケースの蓋を閉めると、脇に置いていた鞄からチューナーを取り出した。
その時目の端に映った時計の針は、もうすぐ下校の時間を指そうとしていた。

梓「(今が先輩たちに話しかけられるチャンスかも……)」

梓「(前みたいに練習しましょう、って言えば……)」

すっと息を吸い込んで、梓は立ち上がった。
そして、四人の下に近付くと、言った。

梓「先輩方、練習しましょう!」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 17:36:27.17 ID:vQKeHYGZ0 [4/5]
暫くの沈黙があった。
四人の視線が梓に注がれ、居た堪れなくなる。
それでも梓は、その視線に負けたくないときっと睨みつけるように四人を見返した。

唯「……しよっか」

紬「そうね、最近してなかったし」

沈黙に耐えられなかったのか、律のほうを窺うようにしながらも、唯が小さな声で
言った。
紬もそれを聞いて、ほっとしたような表情で頷いた。
澪は棒のように横で突っ立っている律に視線を投げ掛けた。

律「……やるか、練習」

梓の表情がぱっと明るくなった。
律の視線が冷たかったことに梓は気付かないふりをした。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 17:45:48.40 ID:vQKeHYGZ0 [5/5]
――――― ――
梓「(……今日はちゃんと先輩たちと話せたし……)」

梓「(やっぱり、気のせいって思ったほうがいいのかも)」

帰り道。
梓は冷たい両手を擦り、息を吹きかけながら思った。
今までのように、唯たちと話せた、だから、
気のせいなのかも知れない、と梓は思うようになっていた。
そう思うことで、自分の心を落ち着かせていた。

少し前に聞いた澪たちの会話は、頭の奥底に仕舞って思い出さないようにする。

梓「(大丈夫、だよね……)」

――――― ――

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 19:04:21.07 ID:FNLQen+b0 [1/2]
純「梓、おはよー」

梓「純」

次の日の朝、教室に入ると珍しく早く来ていた純が梓の元にやって来た。
梓は自分の机に鞄を置きながら、気の無い返事をした。

純「どうしたの梓?」

梓「ん?」

純「なんていうか……最近、元気ないじゃん」

梓「……そんなことないよ」

心配そうな親友の声に、梓は小さく笑ってみせた。
純が顔を顰めて、梓に意地でも何があったのか問いただそうとした時、
今教室に入ってきた見慣れた姿を見つけて、ひとまず別の言葉を発した。

純「おはよ、憂」

梓「」ビクッ

憂「純ちゃん!……梓ちゃん」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 19:11:21.69 ID:FNLQen+b0 [2/2]
憂という名前が聞こえた途端、梓は暗かった顔を更に暗くして硬直した。
そんな梓の様子に気付かず、純は梓と同じくやはり戸惑って梓達の近くで立ち止まったままの
憂の手を引いた。

純「憂も変だと思うよね、最近の梓!」

憂「え……う、うん」

梓「だから!……別にそんなことないって」

思わず大声を出してしまった梓は、はっとして小さな声で続けた。
出来るだけ、憂のほうを見ないようにしながら。

純「嘘!絶対何か……」

キーンコーンカーンコーン

純「あちゃー、チャイム鳴っちゃったよ……梓、また後でじっくり話聞くから!」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 19:49:09.62 ID:fHGFxlq20 [1/15]
梓「え、純……!」

朝のホームルームが始まる前に、純はそそくさと自分の席に戻っていった。
梓はそっと上目遣いに横を見た。憂と目が合う。
憂はまだ、梓の隣に立ったままだった。何かを迷っているような表情で、憂は
梓を見ていた。

梓「憂、えっと……」

憂「……梓ちゃん、ごめん」

担任が教室に入ってきて、憂は慌てたように席に戻って行った。
梓は机に顔を伏せると、「どうして……」と呟いた。



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 19:56:09.99 ID:fHGFxlq20 [2/15]
今朝、学校の校門をくぐる前、梓は平沢姉妹の後姿を見つけた。
昨日の夜、何があってももう暗くならないと心に決めていた梓は、憂がいたこともあり、
走って二人に追い付き、後ろから声を掛けた。

梓「おはようございます!」

憂「梓ちゃん!」

いつもどおり、憂が梓の声に反応して振り向く。
しかし、唯は以前なら抱き着いてきたのに、全くの無反応だった。
憂も、そのことで何かを思い出したように小さく声を上げると、梓から目を逸らした。

唯「何してるの、憂?」

憂「お姉ちゃん……」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 20:13:35.58 ID:fHGFxlq20 [3/15]
唯「早く行くよ」

梓「唯、先輩……」

前を向いたままの唯。普段ののんびりとした声なのに、どこまでも冷たかった。
梓は助けを求めるように憂を見た。
でも、憂は何も言わず、ただ唯の言葉に頷く。

憂「……うん」

そのまま、梓のほうを見ようともせずに憂は前を向くと、唯の少し後ろを足早に
歩き離れていった。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/03(金) 20:18:03.34 ID:fHGFxlq20 [4/15]
>>141修正

前を向いたままの唯は普段ののんびりとした声なのに、どこまでも冷たかった。


143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 20:27:58.58 ID:fHGFxlq20 [5/15]
この短い時間の間に何があったのか、理解するのに数十秒は要した。
いつのまにか、平沢姉妹の後姿も見えなくなっている。
梓は、冷たい何かが胸の中で湧き上がるのを感じていた。

いくらなんでも、唯はきっと自分の味方でいてくれる、なんてことを心のどこかで
考えていた。
だから、その上に「きっとこれは自分の勘違い」「気のせい」だと言葉を重ねることで
溢れそうになる不安を隠せていた。

だから梓は、もう軽音部に自分の居場所がなくなってしまった、そんな気がした。



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 20:35:27.12 ID:fHGFxlq20 [6/15]
休み時間の度仕掛けてくる純の質問攻めを交わしながら、昼休みになった。
結局憂とは話せていない。
話しかけようとしても、憂は梓のことを避けているようだった。

梓「(そりゃそうだよね……)」

純「梓ー、早くお弁当食べようよ」

梓「うん……憂は?」

純「憂は今日は別のとこで食べるって」

よっこらしょ、と梓の机に自分の弁当箱を置くと、純はそちらに視線を向けた。
普段あまり仲良くしていないグループに混ざって、一人黙々とご飯を口に運んでいる憂が
見えた。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 21:20:42.19 ID:fHGFxlq20 [7/15]
梓「そっか……」

純「うん、そ」ガサゴソ

純「ねえ、梓ー?」カタッ

梓「なに?」

純「もしかして、憂と何かあったの?」パクッ

梓「え……」

純「……また違うって言い張るのかも知んないけどさ」

梓「……うん」

純「昨日まで二人、普通に話してたのに今日急にお互い避けてるみたいだし」

梓「ごめん」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 21:25:26.34 ID:fHGFxlq20 [8/15]
純「何で梓が謝るのさ?いいよ別に。ていうか私こそごめん。無理矢理聞こうとしちゃってさ」

純「……ただ、やっぱ気になっちゃうんだよ、親友として」

梓「純……」

純「だから何かあったんならいつでも相談してきなよ?」ニッ

梓「……ありがと」

純の優しい声が、梓の心を温めてくれた。
梓は笑い返すと、もう一度心の中で、同じ言葉を繰り返した。

梓「(ありがとう、純)」ガサゴソ

純「で、梓さん、さっきから気になってたことがあるのよ」ズイッ

梓「え、なに?」カタカタ

純「おべんと、いらないならいっただっきー!」バッ

――――― ――

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 21:38:16.61 ID:fHGFxlq20 [9/15]
梓「……こんにちは」

放課後。
梓は自分を奮い立たせて、部室の前に立つと間髪を入れずに扉を開いた。
ここでうじうじと考えて止まっていてしまっては、きっといつまでも中に入れない
気がしていたから。

嫌われていることを、仲間外れにされていることを知るのが怖いなら行かなきゃいい。
しかし、それでも梓は部室に入っていった。
このまま部室に行かないのは、何だか癪だった。

梓「(それにまだ、私が無視されてるって決まったわけじゃない)」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 21:49:44.07 ID:fHGFxlq20 [10/15]
だから梓は、出来るだけ気丈に振舞おうとした。
それでも、入るときの挨拶の声が小さくなってしまった。

既にもう、全員が来ていた。
四人は話していたのを止め、梓を見た。

梓「先輩方……」

しかし、すぐに話を再開し始めた。
まるで梓のことなど見なかったかのように。

梓「(昔のいじめそのまま再現しちゃってる感じなんですか)」

心の中で呟いてみる。
しかし、本当はまったく、余裕なんてものは存在しなかった。
予想通りだとはいえ、誰も自分のことを見てくれない、話してくれない。
それがこんなに辛いことだとは思わなかった。

自分の声が誰にも返されず、宙で消え失せる。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 22:00:51.09 ID:fHGFxlq20 [11/15]
このまま踵を返してしまいたかった。
だけど、梓はそれさえ出来なかった。

四人の先輩たちを見ないようにしながら、梓は背負っていたギターを背中から
下ろすと、ケースを開けようとしゃがみ込んだ。
手が震えて、上手く開けられなかった。

その時、誰かの近付いてくる足音が聞こえた。
梓は、顔を上げなくてもそれが誰の足音なのかわかってしまった。

律「なんかすっげー邪魔な黒いのがいるんだけど」

梓「!」

律「おっと、何か踏んじまったー」

わざと間延びしたような声で、
律が床に垂れていた梓の髪を踏みつけた。

律「ゴキブリの触覚踏んじまったぜ」

唯「……ぷっ」

梓は、自分の頭がかっと熱くなっていくのを感じた。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 22:08:05.83 ID:fHGFxlq20 [12/15]
澪と紬が顔を見合わせた。
唯がたまらず噴出すと、二人も小さく笑い出す。

梓「(……なんで……)」

律「おえー、汚ねー」

酷くわざとらしく顔を顰めた律は、
梓の髪を踏みにじった足を床に擦り付けた。

律「あーあ、ちゃんと掃除しなきゃなー、部室!汚いのが入り込んじまうぜ」

唯「りっちゃんひどーい」ププッ

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 22:24:41.12 ID:fHGFxlq20 [13/15]
 いじめなんて、何の前触れもなく始まる。
そんなこと、重々承知していた。
誰かが「嫌い」だと言えば、それは瞬く間に伝染してしまう。
特に、こんな狭い世界では。

ここ数日の間で、確実に軽音部の関係は変わっていった。
恐らく、律の一言で。

『梓?あぁ、あいつは苦手だな』

わかってる。
これはただのゲームだ。暇潰し程度のこと。きっと受験や色々なことでストレスを
溜めた先輩たちの娯楽。

梓「(だけど、何で……私は何もしてないのに……)」キッ

律「……何だよ、その目」

どれだけ小さな不満でも、
それを肥大化させていじめの種にしてしまう。

律「生意気なんだよ、お前。後輩のくせに」

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 22:33:32.00 ID:fHGFxlq20 [14/15]
梓「……!」

律「ちょっとはこっちの気も知れっていうの?すっげーうざいんだよ、お前」

唯「練習しましょうばっか繰り返しちゃうしねー」

梓は何も答えられなかった。
律たちの暴言が続いても、何も言い返せなかった。
ギターケースを前にしたまま、
ただひたすら、俯いて時が過ぎるのを待つことしか出来なかった。

――――― ――

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/03(金) 22:55:51.42 ID:fHGFxlq20 [15/15]
その日から、軽音部での梓への「いじめ」はますますエスカレートしていった。
それでも梓は、部室に行き続けた。

部室に行かなくなったら、それこそ四人の思うツボだ。
そう自分を励ましながら、梓は毎日、軽音部に顔を出し続けた。
何より、何も話していないのに、純がずっと梓の心を癒してくれていた。
だから梓は、軽音部で何があっても、心を折らずにいられた。

それなのに、クラスでの平和な毎日までもが崩れようとしていた。

梓「純……!」

純「ごめん、梓、先行ってて!」

元々クラス内でも、浮いていたわけではないが仲のいい友達は少なかった。
憂が離れてしまい、ずっと一緒にいられるのは純だけだった。
その純さえも、梓を避けるようになっていた。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 12:05:39.50 ID:4Kn5QFst0 [1/14]
梓「……もうやだよ」

梓から逃げるようにして教室を出て行った純の後姿は、心なしか、楽しんでいる
ように見えた。
それでも梓は鞄を持つと、重い足取りで軽音部に向かった。

しかし、部室の扉の前で、とうとう梓の足は止まってしまった。
中から聞きなれた声が聞こえてくる。

梓「(どうして純が軽音部にいるの!?)」

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 12:12:29.69 ID:4Kn5QFst0 [2/14]
確かに中から聞こえてくるのは、梓の親友である純の声だった。

澪「ふふ、ありがと純ちゃん」

純「い、いえ!澪先輩のためなら!あ、勿論他の先輩方も……」

律「いいっていいって、気遣わなくっても。あーあ、あんな後輩じゃなくって
純ちゃんみたいな子がうちに入ってくれれば良かったのにな」

唯「ほんとだよね!……あずにゃ……あんな後輩なんていらなかったよー」

紬「あ、純ちゃんお茶飲む?」

純「すいません、頂きます」

梓「(もしかして、純もあの噂聞いて……!)」

ここ数日の間、澪のファンクラブの間で、澪が梓を「嫌ってる」という噂が
流れていた。その噂のために、澪のファンであるクラスメートの一部や、他学年の人間に
梓は避けられるようになっていた。
純も澪のファンだから、その噂を聞いて梓を避け始めたと考えてもおかしくない。

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 12:35:11.65 ID:4Kn5QFst0 [3/14]
それとも、元々軽音部と親交のあった純だから、直接何かあったのか。
いずれにしても、純が梓から離れ、軽音部側についたことだけは確かだった。

梓「(私たち、親友じゃなかったの!?ねえ純!)」

律「にしても、純ちゃんあいつと仲良かったんじゃなかったっけ?」

純「私も、梓ちょっと面倒臭いなって思ってましたし……」

梓「……!」

『……ただ、やっぱ気になっちゃうんだよ、親友として』
『だから何かあったんならいつでも相談してきなよ?』

頭の中に、いつか聞いた純の言葉が響いた。
本当に、自分の居場所がどこにもなくなったんだと梓は気付いた。
もしかしたら、梓が気付いてなかっただけで、もうずっと前からなのかも知れない。

梓「(全部全部全部、純の優しい言葉は嘘……)」

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 13:34:25.60 ID:4Kn5QFst0 [4/14]
梓の心を支えていたものが無くなってしまった。
もうどこからも立っていられる力なんて涌いてこない。

裏切られたとは思わなかった。
ただ、ひたすらに悲しかった。

梓「(所詮女の友情なんてこんなものなんだって思えればいいのに……)」

ずっと我慢していたものが、一気に溢れ出てくるのを感じた。
それでも涙は一滴も零れない。
感覚が麻痺してしまったのか。それとももう枯れてしまったのか。

ただ梓の気持ちは、まさに「絶望」だった。

梓「死んじゃえばいい……、みんな死んじゃえばいいのに!」

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 13:45:30.55 ID:4Kn5QFst0 [5/14]
掠れた声で、梓は言った。
中からは何の反応も無い。きっと梓の声など聞こえていないのだろう。

真正面から向き合う勇気は、梓にない。
だから聞こえてなくてよかった、と梓は思い、そして何も出来ない自分に愕然とした。

梓は虚ろになった瞳を、扉に投げ掛ける。
開いていないのに、中の様子が手に取るようにわかる気がした。
今もまだ、梓のことを嘲笑い、梓がバカみたいに自分達の遊び道具になるために
中に入ってくるのを待っている。

梓「(そうだ、別に中に入らなくたっていいんだ)」

梓「(皆皆、自分のしたことを悔やんで苦しめばいい)」

ふらふらとした足取りで、梓は部室の前を離れた。
そのまま、屋上へと続く階段を上っていく。

一段、二段、と段々上がるごとに身体が震え始めた。
しかし梓は止まらない。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 13:52:49.51 ID:4Kn5QFst0 [6/14]
勢いに任せて、最後の数段を駆け上がって屋上の扉を開けた。
冷たい風が梓の身体をよけいに震わせた。

梓はゆっくりと、転落防止の柵に近付こうと歩き出した。

梓「……!?」

そこに先客がいた。
それも、梓の良く知ってる人物が。
梓は自分に背を向けていて、梓の存在に気付かないその人物に向かって慌てて
駆け出した。

梓「憂!?」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 14:27:00.77 ID:4Kn5QFst0 [7/14]
またパソコンおかしかった……

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 14:32:54.72 ID:4Kn5QFst0 [8/14]
憂「……梓ちゃん!」

梓「憂、何してるの!?」

憂「こ、来ないで!」

びくっと梓は立ち止まった。
憂は、柵に足を掛けたまま梓を振り返る。
その目は本気だった。

梓は、自殺するつもりだったんだから誰がここで何をしていようと関係ない、そう思っていたが、
それが嘗ての友達――梓の傍から離れた後、自ら孤立していった憂――だと
知ると流石の梓も止めずにはいられなかった。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:32:42.58 ID:4Kn5QFst0 [9/14]
梓「憂、何で!?どうして憂も飛び降りようなんて……」

憂「……“も”?」

梓「え?」

憂「梓ちゃん、今“憂も”って言ったよね?もしかして梓ちゃん、自殺するつもりだったの!?」

梓「え……」

憂「逃げるの!?梓ちゃんは逃げちゃうの!?」

梓「なっ……」

梓「(違う、私は逃げるわけじゃない!先輩たちや純にわからせてやるために……!)」

憂「梓ちゃんはまだ死ぬべきじゃない!」

梓「……!」

憂「だから、ね?早く戻って。お願い、梓ちゃん。これ以上私を苦しめないで」

梓「……どういうこと?意味わかんないよ……」

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:34:14.61 ID:4Kn5QFst0 [10/14]
憂「梓ちゃん、私がどうしてクラスで独りになったかわかる?私はお姉ちゃんに、
梓ちゃんと話すなって言われた。けど、梓ちゃんは私の大切な友達なの!」

梓「……!」

憂「でもお姉ちゃんだって大切で、私が梓ちゃんを避けるようになったのを知って
私を沢山褒めてくれた!それが嬉しかったけど、梓ちゃんのことを思うとすごく
悲しかったの。だから私は、せめて梓ちゃんと同じ立場でいたら梓ちゃんも心が楽になるんじゃ
ないかなって思って独りを選んだんだよ!」

梓「……」

憂「けどもう限界だよ梓ちゃん。私、お姉ちゃんも梓ちゃんも苦しむの、見たくない」

憂「だから……。梓ちゃんは戻ってよ、ね?」ニコ

梓「う、い……?」

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:35:42.32 ID:4Kn5QFst0 [11/14]
憂「お姉ちゃんもみーんな、梓ちゃんを待ってるよ?」

梓「待ってない……!誰も私のことなんか……」

憂「待ってるよ。今、メール送ってあげたよ梓ちゃん。梓ちゃんが屋上に着いたよって」

突然、屋上の扉が音をたてて開いた。
唯や澪、紬、そして律がいた。もちろん、純の姿もある。
純は目に涙を溜めながら、梓を見ていた。

梓「……皆、さん」

律「ごめんな梓」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:38:10.60 ID:4Kn5QFst0 [12/14]
近付いてくる。
笑みを浮かべながら律が。

梓は後ずさった。
頭が混乱して、何が何だかわからなかった。

梓「(私の……いじめは終わったの……?)」

律「本当に悪かった」ニヤニヤ

梓「……あ、の……」

更に後ずさる。
澪や紬、唯は、律の様子を見ているだけだった。

柵が背中に当たる。
律が近付いてくる。
憂の足が、梓のすぐ近くにあった。
梓は憂を見上げた。
憂も笑っていた。

梓「うい……」

憂「良かったね、梓ちゃん。もう終わりだよ」

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:40:32.90 ID:4Kn5QFst0 [13/14]
梓「……っ」

憂は梓に手を伸ばした。
梓の腕を掴んで、梓の身体を柵の上に引っ張り上げる。
柵の外に、梓の身体が出る。下の様子が見え、梓は恐怖し慌てて降りようとした。
しかし、律の手がそれを許さなかった。柵から降ろすどころか、梓の背中を押して
転落させようとする。

梓「やっ……だ……!」

律「最初から死のうとしてたんだろ?それを手伝ってやってんだよ」

梓「憂……どういう、こと、なの……!?」

憂「梓ちゃん、知らないほうがいいことも沢山あるんだよ?それでも教えて欲しいなら
教えてあげる」

憂「さっきの言葉、ぜーんぶ嘘だよ。梓ちゃんが間違ったことしないようにここ最近ずっと
見張ってたの。それで梓ちゃんがここに来ちゃったからおしおきなんだよ」

梓「……そん、な……」

律「降ろして欲しいなら叫べよ、そうだなあ、私は糞ゴキブリですとか?」

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/04(土) 15:41:16.84 ID:4Kn5QFst0 [14/14]
屋上に笑いが広がる。
梓はぐっと唇を噛締めた。律の梓を押す力が強くなる。

もう本当に、誰も信じられなくなった。
心の枷が外れた気がした。自分を止めていた何かが、消えてなくなった。

梓は柵を掴んでいた手の力を緩めた。
押されていた身体が一気に柵の外に。
そのまま、梓は何にも逆らわずに、ただ落ちていくに身を任せた。

梓「皆大嫌いだよ……」

遠くから悲鳴が聞こえた。


終わる。


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