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ミコト「ただいま!」-2

ミコト「ただいま!」
続きです

93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2010/07/16(金) 00:10:57.01 ID:eJmqFO20 [2/15]

***

上条はホッと胸を撫で下ろすと、呆然と立ち尽くしている白井に声をかけた。

「白井、すまないな」

「…………。あなた方……一体何者ですの……?」


上条は困ったように頭に手をやる。

「そういえば白井、レベル5になったんだってな。すごいじゃないか」

「あからさまに話を変えないで下さいませ!質問に答えて下さいですの!」

上条は少し考えるように俯くと、再び口を開く。

「そういえば御坂は、何か変わったところとかないか?例えば……去年の12月くらいから」


白井は少し驚いた顔をする。

「確かに…その頃からお姉様は少々変わられました。夜遊びや門限破りは一切されなくなりましたし、口数も少々減ったように思われます。どうしてそれを?」

白井は上条が同じ頃から学園都市を離れていたことを知っていた。

御坂の変化もそれが原因だと考えていた。


94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:16:21.16 ID:eJmqFO20 [3/15]

「そうか……。ま、あいつが何も言わないなら俺から言うことは何もないさ。そこを通してくれないか、白井」

「……そんなこと言われて、納得できるとお思いでして?」

「……お前は、昔の俺や美琴にそっくりだな」

「……どういう意味ですの……?」

「今のうちに引き返せってことだ」

「!?」

その瞬間、周囲の温度が2,3度下がったような気がした。



「一方通行の忠告がわからなかったのか?」



本当にそっくりだ、上条はそう思った。

だから今はここで止めてやらなければならない。







95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:17:38.45 ID:eJmqFO20 [4/15]

***

上条がこちらに向かって歩を進める。

先ほどと同じ状況だ。

たださっきの男が放っていた、全身を突き刺すような強烈な殺気はない。

その代わりに辺りに立ち込める、この世の絶望の全てを煮詰めたような重く禍々しい空気。

白井の全身から嫌な汗が噴き出す。

震える身体に鞭を打ち、金属矢を握ると上条に向かって放つ。

上条は避ける素振りすら見せない。

構わず白井は上条の上方へ瞬間移動する。

全身の力を使い渾身のとび蹴りを放つ。

しかしそこに上条はいなかった。

慌てて空中で姿勢を整え着地する。

「白井」

背後から上条の声がかかる。

息が止まる。

身体が動かない。

背後から漂う、あまりにも非日常的な匂い。

深く、暗い、噎せ返るような死の匂い。


全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。



96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:20:22.21 ID:eJmqFO20 [5/15]



「これでわかっただろ」

呆然と床にへたりこむ白井に上条は話しかける。

「風紀委員とかレベル5とか、ここはそういう世界じゃないんだよ」

白井はピクリとも動かない。

「この学園都市は狂っている。それはお前も薄々わかっているだろう。だから……今日のことは忘れてくれ。そして二度と俺たちに関わるな」

白井が小さく頷く。

「そこのあなたも……、お願いします」

上条は扉の外に向かって声をかける。

小さな返事が返ってくる。

上条は白井の前にしゃがみこむと、左手で掴んでいた3本の金属矢を白井の手に握らせ、その場を後にした。




97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:25:17.51 ID:eJmqFO20 [6/15]

***

「相変わらず甘ェなァ」

「お前も人のこと言えないだろ」

上条と一方通行は近場のコンビニを出て隠れ家へと向かっていた。

「そう言えばお前は学校行かないのか」

「学校ねェ。別に行く必要なンざねェし、今更戻れねェよ」

上条が黙り込む。

「別にお前のことを言ってンじゃねェ。それにお前の復学はあの野郎が頼み込ンで認めさせたンだ」

「土御門が?」

「その方が超電磁砲が喜ぶってなァ。とにかくグダグダ考えてねェで、表の世界に戻れる内は気にせずもどりゃァいいンだよ。お前もわかってンだろ?」

美琴のことが頭をよぎり、胸が痛んだ。

「わかった。お前らの分まで学校生活を楽しんでやるよ。そのかわり打ち止めが戻ってきたらお前も学校通えよ」

上条が悪戯っぽくそう言うと、一方通行は小さく舌打ちし、すこしだけ口元を歪めた。


 

98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:31:45.05 ID:eJmqFO20 [7/15]


ポツポツと雨が降り出したかと思うと、すぐに本降りとなりアスファルトを黒く染めた。

予報になかった雨が降り出したため、上条は一方通行と別れ、傘を購入して美琴を迎えに行くことにした。


「ンなもン、あのストーカー野郎に任せときゃいいじゃねェか」

「ストーカーって……。それにそういうもんじゃないだろ」

「そうかねェ」

「そうなんだよ。そういや一方通行、いつまでその杖ついてんだ?」

「まァ必要ねェが、色々と役に立つンだよ」

「そういうもんか」

「そういうもンなンだよ」


 

100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:37:16.06 ID:eJmqFO20 [8/15]

***

「わざわざ迎えに来てくれるなんて、なんか当麻らしくないわね。もしかしてそれで雨が降ったとか?」

「折角来たのにひどい言い草だな!どうせ俺は気が利きませんよ」

「冗談よ。ありがと!」

そう言うと美琴は白いビニール傘をクルクルと回しながら上条の前を歩き出す。




「へえ、そんなことがあったんだ」

上条は白井と会ったことを美琴に話した。

「ああ、今度会ったら謝っておかないとな」

美琴が俯いて黙り込む。

「その……、オリジナルとはどんな話をしたんだ?」

「主にこれからのこととか、ここ半年のことかな。向こうも色々と遠慮してくれるんだけど……、その、やっぱり違うし……。表の世界のことは諦めるわ」

「…………。白井のことは?」

「黒子にはいつか言わなきゃいけないと思うけど……今はまだ……って感じかな」

「そうか……」


二人は大きな川に突き当たり、そのまま土手の上を歩く。

いつの間にか雨は上がり、再び蒸し暑さがもどってきていた。




101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:45:42.78 ID:eJmqFO20 [9/15]



学園都市に帰ってきてから二人はよく夜の街を散歩していた。

美琴は日の下に出ることを嫌がった。

オリジナルのため、と言っていたが、何人もの妹達がこの学園都市にいることを考えれば今更迷惑がかかるとも考えにくい。

やっぱりまだ気持ちの整理がついていないのだろうか。

美琴はこの一週間、朝起きると夕方まで、ずっと部屋の中でロンドンから持ち帰った魔術関係の本を読んでいる。

日が沈むと、上条たちと買出しに出かけたり散歩に出たりする。

これからもこんな生活を続けるつもりなのだろうか。



ふと横を歩く美琴を見ると、向こう岸の方をじっと見ている。

そちらに目をやると、既に灯りを落としたアミューズメントパークのようなものが見える。

「あんなものあったっけか?」

「今年できたみたい。日本で一番大きなプールがあるんだって」

「ふーん……」

「……」

返事は返すが、美琴の視線は向こうをむいたままだった。

その様子をじっと見ていた上条は、突然美琴の手を掴み走り出した。

「ちょっと当麻!どうしたの?!」

「とりあえずついて来いって!」


 

102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:52:40.23 ID:eJmqFO20 [10/15]

***

二人がやって来たのは、上条が以前通っていた高校だった。

フェンスの隙間から敷地内に忍び込むと、そこには真っ暗な水を湛えたプールがあった。

「ちょ、ちょっと当麻?」

上条は構わずプールの入り口の方へ歩いていき、鍵がかかっている場所へ手を伸ばす。

それからこちらを振り向くと、何かを美琴に向かってトスした。

美琴はそれをキャッチし、手の中を見る。

そこにはU字の部分が一部欠けた南京錠があった。

上条がこちらを見て悪戯っ子のように片目を瞑る。

「しょうがないわね」

美琴は小さく笑うと開いた扉の中へと入っていった。




103 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 00:58:31.04 ID:eJmqFO20 [11/15]



二人はプールサイドに肩を並べて立っていた。

「それでどうするの?水着なんて持ってないんだけど」

「どうしましょうかね……」

「何にも考えてなかったの?」

美琴はやれやれと小さくため気をつく。

それからニヤリと笑うと素早く上条の背後に回りこみ、両手でドンッと背中を押した。

「どわっ!!」

上条は大きな水しぶきをあげ真っ黒な水中に消えていった。

慌てて水底に足をつき、水面に顔を出す。

「あはははははっ!なによそれ!」

こちらを見上げる上条の髪の毛は、いつものようなツンツンヘアではなく、ぺったりと顔の輪郭に張り付いていた。

「やりやがったなぁ!」

 



104 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 01:04:21.97 ID:eJmqFO20 [12/15]

上条はそう言うと美琴の方へ手をかざす。

すると突然美琴の背後から突風が吹き、バランスを崩した美琴は上条のようにプールへと落下した。

上条が勝ち誇ったような顔で美琴が落ちた場所を見る。

するといきなり足首を引っ張られ、上条の顔が水中へ姿を消す。

代わりに美琴の顔がザバァと水面に現れる。

続けて上条も顔を上げる。

「ぶはっ!!このやろうっ!!」

「あはっ!つかまえてみなさいよー」

「待てコラーー!」

美琴がキャーと悲鳴を上げながらバシャバシャと水をかき分けて逃げる。

その背中を上条が追いかける。


二人分の水音と笑い声が真夜中の学び舎に響いた。



 

105 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 01:10:55.05 ID:eJmqFO20 [13/15]

***

「ハァ…ハァ…」

ひとしきり暴れまわり疲れきった二人は、プールサイドに寝転がっている。

美琴は嬉しかった。

上条が見せてくれる気遣いと優しさ。

上条は普段めったに能力を使わない。

きっと辛い思い出が甦るのだろう。

それでも美琴にだけはそれを曲げてくれる。

そのことが美琴の心を温かくする。

しかし同時に湧き上がる、どうしようもない思い。

どうしようもない願望と、やり場のない気持ち。

自分は一生この思いを抱えて生きていかなければならないのだろうか。


 




106 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/16(金) 01:16:53.19 ID:eJmqFO20 [14/15]



上条は上半身を起こし、美琴の方を見た。

いつの間にか空を覆っていた雲はその数を減らし、隙間から月明かりが差し込んでいる。

辺りを少しだけ照らし出すが、美琴の表情はよく見えない。

「ブフッ!!」

上条が突然吹き出した。

怪訝な顔をした美琴が自分の姿に目をやるとみるみる顔を赤くする。

「ちょ、ちょっと!!何見てんのよ!」

「す、すまん!」

上条は慌てて美琴に背中を向ける。

背後でモゾモゾと美琴が動く音がする。

この後どうしよう、などと考えていると、急に上条の背中をやわらかい感触が包んだ。

「美琴……?」

「……こっち向かないで……」

「……」

「……」

長い沈黙が流れた。

背中を通して美琴が震えているのが伝わってくる。

少しだけ鼻をすする音がする。

上条は目を閉じた。

静かに身体を入れ替え、美琴を抱きしめる。

「冷えてきたな……、そろそろ帰ろうか……」

「……うん……」

116 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 16:58:38.98 ID:KdvBXDw0 [2/11]


***

翌々日、上条は用事があると言って土御門と共に学園都市の外へ出ていた。

残された美琴と一方通行はいつも通りの一日を過ごし、夕方美琴はオリジナルに会うために第七学区にあるファミレスへと向かった。



その日の話題は妹達のことや一方通行のことだった。

大体の記憶は共有していたが、暗部に都合の悪い記憶はところどころ消されているようだった。

「アンタ今一方通行と一緒にいるんでしょ?何もないの?」

「何って言われてもね……。まあ性格はアレだけどそんなに悪い奴じゃないわよ」

「へえ……。それとあの上条って人、最近どうなの?」

「ぶふっっ!!ど、どうって……べ、別に何もないわよ!」

「はぁ……、我ながら分かりやすい性格してるわね」

最初はかなり気まずい雰囲気だったが、頻繁に顔を合わせていることもあり二人はかなり打ち解けていた。

終バスの時刻が近づき、片方が伝票に手を伸ばす。

「最後に……一つだけ聞いてもいい?」

「何?」

「その……、私を……あなたを倒したのって、誰なの……?」

 
 

117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:04:57.05 ID:KdvBXDw0 [3/11]


***

美琴は人気のない通りを一人歩いていた。

前回は上条が迎えに来てくれたが、彼は今学園都市にいない。

少し寂しく思いながら歩を進める。

先ほどの会話を思い出す。

(「研究施設を襲撃した私はとある暗部組織の待ち伏せにあったの……。その中に……レベル5の一人がいた」)

突然何かに締め付けられるような感触があり、身体が動かなくなった。

「っ!!!」

慌てて身体をよじるが、その場から全く動けない。

(マズいっ!!!)

そう思ったときにはもう遅かった。


118 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:13:55.24 ID:KdvBXDw0 [4/11]

みるみる地面が遠ざかり、周囲のビルほどの高さで宙吊りとなる。

(ッ!!!)

これから起こることを予想し、思わず目を閉じる。

すると突然何かがぶつかる感触があり、ガラスを割る音が聞こえた。

驚いて目を開けると、オフィスのような部屋の中で自分を抱える一方通行の姿があった。

「一方通行!?」

一方通行は何も答えず、美琴を抱えたまま反対側の壁をぶち破り建物の外へ飛び出す。

直後ビルが轟音をたて崩れ去る。

「!!」

美琴はわけが分からず一方通行にしがみつく。

一方通行はビルの間を飛ぶように駆け抜けていった。



 

119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:21:14.43 ID:KdvBXDw0 [5/11]



数分後、二人は10kmほど離れた狭い路地裏にいた。

「一体どういうこと?!」

美琴はわけがわからず一方通行に尋ねた。

「学園都市も一枚岩じゃねェってことだろ」

美琴はその一言で全てを理解した。

土御門は統括理事会の理事長に直接話をつけたと言っていた。

だが上層部には美琴が邪魔になる者がいたのだろう。

それが美琴に刺客をさしむけたのか。

または……



「どういう手品を使ったか知らねェが……」

「!!」

何かが凄まじい速度で美琴に向かって飛来した。

一方通行が片手で払いのけると、それは美琴の背後の壁にめり込みコンクリートを砕いた。

「お出ましだ」

路地の入り口に人影が現れる。

美琴は再び彼女の話を思い出していた。

彼女が話したレベル5の特徴。

180cmほどの長身。

細い目。

青い髪。

そして、最強の念動能力。

「……第6位!」


120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:29:42.94 ID:KdvBXDw0 [6/11]


「なんや、ボクのこと知っとるんか」

男はおよそこの場にふさわしくないようなおどけた関西弁で答えた。

その後から新たな人影が現れる。

自分と同い年くらいの少女だった。

小柄な体躯と茶髪のセミロング。

一方通行がわずかに眉をひそめる。

美琴には見覚えのない少女だった。

(こいつもレベル5?!)

「超違いますよ、元第3位」

「っ!!!」

次の瞬間、一方通行は美琴の腕を掴みビルの隙間から飛び去った。


 

121 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:34:48.77 ID:KdvBXDw0 [7/11]
***

(どういうことだァ……)

再び距離をとった一方通行は考え込んだ。

「超電磁砲、あの青髪野郎はどういうわけかお前を[ピーーー]気がねェ」

「……」

(それとあのチビ女……)



美琴も理解していた。

念動能力者は学園都市に数え切れないほどいる。

同時に念動能力ほど汎用性に優れる能力はない。

こと戦闘に関しては無類の強さを発揮する。

演算の難度を考慮すれば瞬間移動を超えるかもしれない。

その頂点に立つ能力者が一瞬で命を奪えないはずがない。


そしてあの女。

(心を……読んだ……?!)




122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:48:37.50 ID:KdvBXDw0 [8/11]

「超電磁砲、俺はあのチビ女に用がある。お前はあの青髪をやれ」

「え?」

「心配すンな。逃げ回ってできるだけ勝負を引き延ばせ。用が済ンだらあとは俺がやる」

そう言うと一方通行は、先ほど破った倉庫の窓から音もなく飛び去って行った。




数秒後、大きな音が聞こえわずかに建物が振動する。

窓から外を覗くと、どうやらここは倉庫街の一角のようだった。

女は一方通行が引き離したのだろう。

100メートルほど離れたところに男が一人で立っている。


一方通行は逃げろと言った。

しかし目の前の男には貸しがある。

二人分の貸しだ。

美琴はポケットの中のコインを握り締めた。


 

123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:53:18.02 ID:KdvBXDw0 [9/11]

***

「どうした、土御門?」

上条は隣でハンドルを握る土御門に尋ねた。

二人は外での用事を済ませ、学園都市に戻ってきていた。

「魔翌力の流れを感じる」

「美琴か?」

「わからん、だが一つじゃない」

「まさか、侵入者か?!」

土御門は車をわきへ寄せ、停車させる。

「探知用の魔術を使う。カミやんは少し待っていてくれ」

「……」

土御門はそう言い残してドアから出て行った。


 

124 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/17(土) 17:56:30.86 ID:KdvBXDw0 [10/11]


ややしてから、再び土御門が車に乗り込んでくる。

「どうだった?」

「一つは超電磁砲のものに違いない、もう一つは……」

「侵入者か?」

「……おそらくそうだ」

「くそっ、こんなタイミングで!」

土御門はエンジンをかけるとアクセルをみ込んだ。

「ここから30分ぐらい、第9学区の倉庫街だ」

「わかった……急いでくれ」


上条の心に不安と焦燥が広がる。

そしてもう一つ。

かすかな違和感が上条の胸に棘のように突き刺さっていた。

128 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 22:29:53.69 ID:3ub292k0 [2/11]

 
***

少女と一方通行はあるビルの屋上で対峙していた。

「お久しぶりですね、一方通行」

「俺はてめェなンざ知らねェよ。ところで……」

「なんでしょうか?」

「てめェ……、何人繋がってンだァ?」

「!!」



129 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 22:36:18.99 ID:3ub292k0 [3/11]


一方通行は知っていた。

『幻想御手』

事件が起きたのは暗部に堕ちる前のことだったが、情報は耳にしていた。

脳波リンクを形成することによる演算能力の一時的な上昇。

その副産物。

事件の全貌を聞いた一方通行はいつかこうなることを予想していた。

そして目の前の少女。

御坂美琴の心を読んだ読心能力。

そして空間移動系能力。

そしてもう一つ、少女が元から持っている能力。



「多才能力者か……」

「さすがは第一位ですね。超正解です」

一方通行は小さく舌打ちした。

幻想御手事件の話を聞いた一方通行は、当然使用者の末路についても知っていた。

何を何人使ったのかは知らないが、全くこの街は清々しいほどに腐りきっている。


「てめェの身の上なンざ興味ねェが……」

一方通行が再び首のチョーカーに手をやる。

「俺に勝てると思ってンのかァ?」




130 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 22:48:26.23 ID:3ub292k0 [4/11]

その瞬間、周囲の空気が一気に張りつめる。

少女はバックステップで数メートル後ずさると、ポケットから小さい玉のようなものを取り出した。

玉は少女の手を離れふわふわと宙に浮くと、突然一方通行に襲い掛かった。

(……念動能力か?)

玉は弾丸のようなスピードで一方通行の額にぶつかったかと思うと、なぜか少女の方に反射されずに上方に向かって弾かれていった。

一方通行は少しだけ驚いたような顔をすると不気味に口の端を吊り上げる。

「へェ……、木原くンを知ってンのかァ」

少女は表情を変えない。

「まさか、これが必殺技なンてこたァねェよなァ」

一方通行が一歩足を踏み出した瞬間、少女は昆虫の羽根のような音を残しその場から消え去った。


 




131 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 22:56:55.85 ID:3ub292k0 [5/11]

***

「シスターアニェーゼ、何をしているのですか?」

聖堂の書庫でアニェーゼを見つけた神裂が声をかけた。

「これですか?美琴のやつが、持ち帰った本を読み終わったから次のを送ってくれと言って来やがりましてね。適当なのをみつくろっているんですよ」

「もうですか……、かなりの量を持ち帰ったと思いますが」

「今更驚きやしませんよ、あれは間違いなく天才です」

「……そうですね。彼女は学園都市230万人の頂点に純粋な力で上り詰めた人間ですからね。我々とは根本的なところから違うのでしょう」

「それに魔術をあんな使い方するやつはほかにいやしませんよ。雷を操る魔術や魔術師は、そりゃ数え切れないほどいますけど、なんて言うんですかね、電磁力だとか電磁波だとか……よくわかりませんがあんな使い方があるなんて初めて知りましたよ」

「私たちは科学のことに関しては全く知識がありませんからね。それに……」

「上条当麻のことですか?」

「それもあります。やはり彼のためというところが大きいのでしょう」

「それと、なんですか?」

「魔術を使う感覚は超能力のそれとかなり近しいと言っていました。我々にはわかりかねますが」

「超能力と魔術がですか……?全く別物だと思いますがね」

「私もそう思っていました。ただ、案外両者は同じようなルーツを持っているのかもしれませんね」

***


132 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:23:20.41 ID:3ub292k0 [6/11]

***

美琴が魔術を学び始め半年が経つころには、既にその実力はロンドンでも10指に入るほどになっていた。

しかし目の前にいる男はそれをはるかに凌ぐ怪物だった。

美琴は建物の陰から男に向かい渾身の超電磁砲を放つ。

オレンジ色の光の線が、音速を遥に超えるスピードで男に向かってのびる。

しかしそれは男から1メートルほどの地点で急に速度を失い途切れた。

赤く光るコインの残骸が男の足元にポトリと落ちる。

男はそれに目をやると光線が発せられた方に手をかざした。

美琴は慌てて磁力を使いその場から離れる。

元いた場所のアスファルトが大きくめくれる。

力を使い倉庫の間を飛び回る美琴の後を追うように、建物が次々と崩れていく。

追撃を振り切った美琴は男の背後に回りこみ、離れた位置から雷撃の槍を放つ。

しかしその雷撃も男の直前で進路を変え、そのまま地面に消えていった。

(このままじゃ埒があかない……っ)

美琴はそう思った。

射程距離も力の強さも向こうが上だ。

しかも男は能力を駆使して周囲に自動防御のようなものを築いている。

このままではじわじわと体力を奪われ、いつか捉まってしまう。

美琴は小さく息を吐くと、ポケットから十字架を取り出し呪文を吐いた。





133 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:36:25.62 ID:3ub292k0 [7/11]
***

(どォいうことだァ……?)

一方通行は考えていた。

先ほどから少女は瞬間移動を使い逃げ回ってばかりいる。

一方通行から距離をとると、すかさずそこから能力を撃ち込む。

能力は発火能力、念動能力、空力操作といったものから、よくわからない光線や熱線といったものまでその種類は20近くに及んだ。

しかし一方通行はそれをことごとく反射する。

地面を蹴り攻撃が反射していった地点に飛ぶが、あと少しのところで少女の姿が消える。

この鬼ごっこが始まり既に10分以上が経っていた。

先ほどの少女の攻撃は明らかに一方通行の能力を知ってのものだった。

ならばこんなことをしても無意味なことは分かっているはずだ。

一つの考えが一方通行の頭に浮かぶ。

(へェ……)

再びどこからともなく飛来した白い光線を反射すると、一方通行はニヤリと笑った。





134 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:42:10.28 ID:3ub292k0 [8/11]
***

頭上でパリッと小さな音がした。

雷撃なら先ほどから何度も防いでいる。

殺さない程度に加減された雷撃なら何度撃ち込まれようと物の数ではない。

もちろん彼女の性格をよくわかってのことだ。

しかし今回は違った。

何か嫌な予感がする。

(あかんッ!!)

とっさに能力を発動し、近くの倉庫に転がり込む。

直後自分がいた場所に、今までと比べ物にならない巨大な雷撃が落とされた。

アスファルトが大きくえぐれ、むき出しになった地面が赤く光り湯気を立てる。

小さく汗をかくと同時に、足元に違和感を覚えた。

体育館ほどの倉庫の床一面に、薄く水が溜まっている。

薄暗い屋内で、青白い火花が音をたてた。



     

135 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:46:49.62 ID:3ub292k0 [9/11]
***

(おかしいですね……)

少女は腕に巻かれた時計に目をやった。

戦闘が始まり30分近くが経っていた。

しかし一方通行の追撃がやむ気配はない。

いつの間にかだいぶ遠くまで来てしまったようだ。

廃墟ばかりが建ち並ぶ、見慣れない景色に囲まれていた。

深夜と言うにはまだ早い時間だが、辺りは灯り一つない。

急に背中を嫌な汗が伝った。

(まさか……)

過去の一方通行のデータが脳裏に浮かぶ。

(追い詰められていた……?!)

慌てて能力で一方通行を捕捉する。

そこには巨大なコンクリートの塊を地面に叩きつける一方通行の姿があった。





136 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:53:09.98 ID:3ub292k0 [10/11]

***

倉庫の中で男が横たわっていた。

どうやら足元の水を伝う電撃に対する防御は張られていなかったようだ。

威力は抑えたが、しばらく動くことも能力を使うことも出来ないはずだ。

「勝負あったわね」

仰向けになったままの男に言い放つ。

「まさか……ボクを殺そうとするなんて予想外やったな……」

「冗談言わないで、あんたがあれを避けることは想定通りだったし、そもそも“あれ”はそういう力じゃないの」

「なんや、能力を失くしたゆうとったのに、いつの間に元に戻ってたんかいな」

男はそう言うとおもむろに上半身を起こした。

「な……!!」

美琴の目が見開かれる。

あの電撃を喰らって動けるはずがない。

「まさか“また”これを使うことになるとは思わんかったわ」

男は倉庫の壁に立てかけられていた大きな鉄板に手をかざす。

男が何か喋ったが、見えない壁に遮られているかのようにその声は聞こえない。

しかし男の口は確かにこう言っていた。

(そのまま無能力でいればよかったものを)

立てかけられた鉄板が振動し、聞き覚えのある耳障りな音が倉庫内に響き渡った。


 

137 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/18(日) 23:58:42.40 ID:3ub292k0 [11/11]

***

巨大な衝撃波と轟音が過ぎ去り、辺りに静けさが戻ってくる。

先ほどまで建物が建ち並んでいた場所は、直径1kmにわたり瓦礫の山と化していた。

「はぁ…はぁ……」

少女は瓦礫の下にいた。

(まったく、超無茶苦茶なやつですね)

とっさに防御を展開したが、瞬間移動を使う時間まではなかった。

(でも……)

透視能力を使い、爆発の中心地を見る。

案の定そこには一方通行が倒れていた。

(超時間切れです)



暗部にいれば大概の情報は手に入った。

第一位の一方通行が負傷し、能力に制限を負ったことも知っていた。

少女がとったのは、それを利用した最も確実に一方通行を倒す方策だった。



念には念を入れ、瓦礫の中から一方通行に狙いを定める。

いかなる遮蔽物も突き破る最強の攻撃能力。

『原子崩し』が少女から放たれた。

138 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/19(月) 00:03:26.30 ID:AOJMeJg0 [1/6]
***

美琴は地面に膝をついた。

男はそれを見るとポケットから銃を取り出す。

『キャパシティダウン』

以前開発されたその装置と、まったく同じ効力を能力を使って生み出すことができた。

演算能力の大半を要するため、音を遮断する空気の壁を残し能力の使用はできなくなる。

しかし既に勝負はついている。

一年前もこれを使い彼女を追い詰めた。

男は撃鉄をおこし彼女に狙いを定める。

その瞬間彼女と目が合った。

彼女は膝を突いたままこちらを見て何かを呟いた。

声は聞こえなかった。

しかし唇が読めた。

(だからそういう力じゃないって言ったでしょ)



次の瞬間、美琴から放たれた電撃の槍が男を貫いた。



 

139 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/19(月) 00:08:28.97 ID:AOJMeJg0 [2/6]

***

全演算能力を使用した原子崩しを放つと、少女は小さく息をついた。

再び透視能力を使い、原子崩しが貫いた場所を見る。

(!!!!)

少女は驚いた。

あるはずの死体がない。

それどころか一方通行の姿すら見えない。

(やばいっ!!)

慌てて演算を始めるが既に遅かった。

上方の瓦礫が吹き飛び一方通行が現れる。

「かくれんぼは終わりだァ」

大きく裂けた口が不気味に笑う。

「がっ……!!」

皮肉にも一方通行から受け継いだ能力が無意識に身を守るが、彼の前では無力だった。

踏みつけられた肩に激痛が走り、演算を阻害する。

「どうし…て……」

まるで全てが読まれていたかのようだった。

一方通行は口元を歪める。

その瞬間少女は全てを理解した。

 

140 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/19(月) 00:18:21.47 ID:AOJMeJg0 [3/6]

何のことはない、一方通行は始めから知っていたのだ。

少女がとった作戦。

そしてアイテムのこと、原子崩しのこと。



あの状況に置かれれば、少女が原子崩しを放つだろうと一方通行は読んでいた。

そして本来レベル4の少女が、レベル5の“彼女”の技を使う際には他の能力が使えなくなることも。

それでも少女が原子崩しによせる信頼と拘泥も。

わかっていてあの状況を作り出した。

全て掌の上で転がされていたというわけか。



「超完敗ですね……」

少女が諦めたように呟く。

それを見下ろしながら一方通行が無表情で口を開く。

「絹旗最愛だな」

「……知ってたんですか。超嘘吐きですね」

「俺は知らねェよ」

そう言うと一方通行はポケットから白い封筒を取り出し、絹旗の上に放り投げた。

「ロンドンのチンピラから郵便のお届けだ」

そう言うと一方通行は足をどけ、音もなく去って行った。


 

141 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/19(月) 00:24:59.06 ID:AOJMeJg0 [4/6]

***

「何で私を殺そうとしなかったの?」

美琴は倉庫の床に倒れている男に尋ねた。

男は今度こそ力尽きたようで、仰向けの状態から動く気配がない。

美琴はその顔を見て、どこか既視感を覚えていた。

「ボクは女の子は傷つけへんよ」

「……? でもアンタ、だって……!」

「一年前のあれはボクやない。いや、途中まではボクやった。依頼を受け、ボクはお嬢ちゃんを捕まえた。ボクが知っとるのはそこまでや」

「え……じゃあ……」

「そこから先のことはお嬢ちゃんと同じことしか知らん。せやけど」


 

142 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/19(月) 00:30:12.58 ID:AOJMeJg0 [5/6]

突然男が目の前から消えた。

逃げたのかと一瞬思ったが、能力は使えるはずがない。

瞬間移動特有の音も聞こえなかった。

背後に人の気配を感じ、慌てて振り返る。

見知らぬ男がそこに立っていた。




「誰……?」

全く見たことのない男だった。

極短いブロンドと碧眼の、東欧風の顔立ち。

歳は50才くらいだろうか。

灰色のスーツのようで、ところどころに明らかに魔術的なものを散りばめた服装。

どれも見覚えがないものだった。

この男は誰なのか。

美琴が思ったのはそんなことではなかった。

この男は一体何なのか。

美琴は戦争中、フィアンマを始めとする神の右席や、何人かの聖人を目にした。

彼らはみな、箍が外れたような馬鹿げた力を持っていた。

能力を目にせずともわかる、絶対的強者の纏う空気。

美琴が目の前の男から感じたものはそれだった。

男は腕時計に目をやると日本語を口にした。

「時間だ」

151 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:33:18.53 ID:iVJSIjE0 [2/26]


「美琴!!」

倉庫の外から一日ぶりに聞く上条の声が響いた。

上条はゆっくりと、慎重に歩を進め、そのまま美琴を庇うように前に立った。

男は顔色一つ変えない。

「こんばんは、上条当麻」

「あんた……、誰だ?」

上条も男の顔に見覚えがなかった。

背後から遅れて土御門がやってくる。

「(土御門、美琴を頼む。)」

土御門は頷くと、美琴を連れてその場を離れていった。


男はそれを見ると小さな笑みを浮かべる。

「まずは順を追って説明しようか」

男はそう言うと、近くにあった20cmほどのコンクリートの破片を拾い上げた。

「気づいていると思うが私は魔術師だ。ロシアの片田舎の小さな教会に所属している」

男は流暢な日本語で話し始めた。

上条はその様子にどこかいやなものを感じていた。



152 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:37:28.01 ID:iVJSIjE0 [3/26]
「私のことをこれ以上話す前に、まずは私の魔術を披露しよう」

男がそういった次の瞬間その隣に、なんの前触れもなく全く同じ姿の男が現れた。

全く同じ服装、そして全く同じ顔。

“新たに現れた男”は手の上で先ほど拾い上げたコンクリート片をポンポンと弄ぶ。

それは“元からいた男”が手にしているそれと、形も大きさも、何から何まで同じだった。

“元からいた男”が何かを呟いたかと思うと、突然その場から消え去った。

残された“新たに現れた男”は手にしていたコンクリート片を顔の高さに掲げると、コンクリート片はまるで早送りでも見ているかのようにみるみる風化していき、男の手の上で白い砂となった。

上条の背中を冷たい汗が伝う。

「私が使う魔術は――」

そう言うと、男は何かを呟きながら手の上の砂を放り投げる。

次の瞬間、今度は静止画像を見ているかのように、撒かれた砂が空中で停止する。

同時に全ての音が聞こえなくなる。

わずかに吹いていた風も止まり、完全なる静寂が二人を包み込む。

男が静かに口を開く。

「時間操作だ」



153 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:41:38.13 ID:iVJSIjE0 [4/26]



上条はわけが分からなかった。

時間を操る魔術など聞いたことがなかった。

しかし男が嘘を吐いているようにも思えない。

今しがた目にした光景。

そして男が放つ尋常ならざる力の気配。

能力の限界はわからないが、上条に見せた片鱗だけでもその脅威は計り知れない。


上条は混乱した。

これほどの力が何故戦争中に使われなかったのか。

そして何故わざわざ上条に能力を見せたのか。




空中で静止していた砂が動き出し、地面に落下した。

止まっていた虫の声や風の音が再びあたりを包む。

すると男の背後から人影が現れた。

金色の髪。

胸元が大きく開いたアロハシャツ。

真夜中にも関わらずその両目を覆うサングラス。

そして聞きなれた声。


「久しぶりだにゃー、カミやん」





154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:44:31.15 ID:iVJSIjE0 [5/26]



上条は目を疑った。

そして慌てて後を振り返る。

50メートルほど離れた場所で、美琴と並んで立つ人影。

間違いなく土御門だった。

しかしその手には黒く光る何かが握られ、美琴の頭に押し付けられている。


上条の頭が目まぐるしく回転し、一つの答えを導き出す。

「……」

一瞬、能力を使用することを考えるが、すぐに思いとどまる。

後にいる二人が実物だという保証はない。

どこからかはわからないが、上条ははめられていたのだ。

男はどう考えても上条の能力を知っている。

全て分かっているからこそ、先に能力を披露し、本物の土御門を上条の眼前にさらしたのだ。

今更逃げ道が残されているとは到底思えない。

完全に手詰まりだった。

上条はわずかな可能性にかけ、口を開く。

「……話を聞かせてくれ」





155 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:49:17.25 ID:iVJSIjE0 [6/26]

男の話は簡単だった。


彼はロシア正教の小さな教会のある、小さな町で生まれ育った。

そしてやがて魔術に出会い、魔術界に足を踏み入れる。

ある日男は教会で一冊の魔道書を発見した。

禁書目録にも記されていない、未知の魔道書だった。

男は長い年月をかけ、魔道書を解読した。

そこには時間を操作する禁断の魔術が記されていた。

元々大望も持たないその男は、その魔術が秘める力のあまりの大きさに恐怖し、再び魔道書を封印することを決意する。

片田舎の一介の魔術師として人生を終えよう。

男はそう決めた。

しかし戦争が全てを変えた。



そこからはよくある話だった。

親しい友人を戦争で亡くし復讐を決意する。

そのために一度捨てた力に手を伸ばす。

その前に立ち塞がる圧倒的な力。

積み重なる仲間の犠牲。

そしていつしか男の魂は復讐にとりつかれていた。





156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 15:54:05.84 ID:iVJSIjE0 [7/26]


「とまあ、こんなところだ」

男は淡々と話し終えた。

上条は奥歯を噛み締めた。

こうなることは分かっていた。

割り切ったはずだった。

乗り越えたはずだった。

しかし心の奥に閉じ込めた罪の意識が上条の心を激しく揺さぶる。

「……随分まわりくどい真似をするんだな」

上条は吐き捨てるように言った。

「殺せない相手というのはやっかいなものでな」

男は相変わらず顔色一つ変えずに話す。

「だから心をぶっ壊してやろうってわけだ」

上条は心の中で舌打ちした。

わざわざこのタイミングで現れたこと。

わざわざ土御門と謎の偽者を用いたこと。

全て合点がいった。

そして男は言い放った。

「二度と元に戻らないように、今回は念入りにぶっ壊してやるよ」




157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:00:54.79 ID:iVJSIjE0 [8/26]


「今回……は……?」

上条は低くつぶやいた。

上条は目の前の男が吐いた言葉の意味を正しく飲み込めずにいた。

(まさか……)

上条の思考に覆いかぶせるように男は続けた。

「前回は場所からタイミングからそれなりに計算してやったつもりだったんだがなあ……全くお前ときたらますます張り切ってくれやがって」

「…………」

「おかげで何人仲間がやられたと思ってんだあ?おい、聞いてんのか?」

上条は歯を噛み締める。

「てめえ……」

「おいおい怖い顔すんなよ。お前だって俺の仲間を何百人もやってんだ。それにわかってんだろ?」

「……」

「わかってねえなら教えてやろうか?俺はこの術を使いどこへでも一瞬で移動できる。お前が妙なことをすれはすぐにあの女を[ピーーー]。お前が力を使えば外にいる俺の仲間が女を[ピーーー]」

男は上条の背後に見える土御門と美琴をさして続ける。

158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:05:23.13 ID:iVJSIjE0 [9/26]

「さらに言えば後のあれは話をわかりやすくするためにあそこにいるだけだ。あれを消しても女は[ピーーー]。どこにいるかわからない、だれかもわからない人間は消せないんだろ?そういうことまでわかってんだよ」

「……」

「これでわかったか?お前に出来ることは、信じていた仲間の手で、大切な女が殺されているのを黙って見ていることだけなんだよ」

「黙れ……」

「お前のことは何ヶ月もつけさせてもらったよ。全く見ちゃいられねえよ。あんな何千人も殺しまくった野郎が今更女と幸せになろうってかあ?何考えてやがんだ」

「……黙れよ……」

「ま、それも今日で終わりだ。女は死ぬ。お前には何も出来ない。あの魔術師のときのようにな」

「黙れって言ってんだろお゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」



159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sagesaga] 投稿日:2010/07/22(木) 16:22:23.19 ID:iVJSIjE0 [10/26]
***

美琴は上条から100メートルほど離れた倉庫の中にいた。

突然態度を豹変させた土御門に術式をかけられ、全身の自由が利かなくなっている。

(どういうことなの……)

美琴の頭にいくつもの可能性が浮かぶが、どれも最悪の内容だ。

土御門を睨みつけるが、こちらを見ようとすらしない。

彼らの目的は間違いなく上条だ。

正攻法では叶うはずのない彼を相手にするため、自分を人質にとったのだろう。

(私は、どうすればいいの……)

肝心な時に傍にいることができず、あまつさえ彼の足枷となってしまったことが口惜しくてならない。



突如大気が震え、周囲の気温が急激に下がるのを感じた。

美琴の全身に悪寒が走る。

真夏にも関わらず、吐き出す息が白くなる。

(あの時と同じだ……!!)

美琴はこの状況に覚えがあった。

そしてあたりに満ちる禍々しい気配。

間違いない。

上条が覚醒し、自分が能力を失ったあの日と同じだ。

(当麻……!!!)

美琴は心の中で叫ぶ。

怖かった。

彼の身に起きているだろう何かが。

そしてこれから起きるかもしれないなにかが。

美琴はぎゅっと目を閉じる。

(当麻っ!!!)

160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:28:00.07 ID:iVJSIjE0 [11/26]

***

上条を中心に何かが弾け、大気の振動が広がっていった。

倉庫の外壁に嵌る窓ガラスにヒビが入ったかと思うと、次の瞬間音を立てて崩れ落ちた。

床一面に溜まっていた水はいつの間にか完全に氷結している。

真夏だというのに、倉庫内の温度は氷点下に達しようとしていた。


上条の背中からはぼんやりとした光の翼が飛び出していた。

そしてこちらを見据える双眸は赤い灯をともしている。

男はこの姿を見るのが初めてではなかった。

(全く馬鹿げてやがる)

男はそんな内心とは裏腹にニヤリと笑った。

おそらく自分はここで死ぬ。

しかしそれで構わない。

上条当麻を確実に潰す。

今の自分にはそれ以外何もないのだ。








161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:35:26.90 ID:iVJSIjE0 [12/26]



上条は不思議な感覚に陥っていた。

怒りが、憎しみが、後悔が、罪悪感が、様々な感情が渦巻く黒い激情の嵐。

その中に上条は立っていた。

嵐は容赦なく上条を飲み込む。

この光景には覚えがあった。

自分の一年余りの記憶の中で、最も思い出したくない記憶。

美琴の能力を消したとき、罪なき人々の命を奪い去ったとき、自分はこの嵐の中にいた。

しかし今は少しだけ違う。

上条は自らの足で地面を踏みしめている。

荒れ狂う渦に翻弄され、飲み込まれたあの時とは違う。

上条にはその理由が分かっていた。

信念。

別に呼び方は何だっていい。

かつてのそれは、自らの力に比べあまりに弱く脆かった。

後悔や疑念、迷いや自責によって押しつぶされ、すり減らされたそれは、自らの力の前に、敵の前に砕け散った。

でも今は違う。

上条は大地を踏み、前へ進む。

大事なものを取り戻すために。


(美琴っ!!)


.

162 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:39:25.06 ID:iVJSIjE0 [13/26]




目の前の少年の目から赤い灯が消えた。

少年の周りに吹きあれていた風も弱くなっている。

(……?)

男はかすかに眉をひそめる。

上条が口を開いた。

「土御門!!」

「何だ、カミやん?」

それまで押し黙っていた土御門が答えた。

その声はいつもと変わらない。

「……いつからだ?」

上条が土御門の目を見据え、再び尋ねかける。

「いつから?そんなもの最初からに決まってるぜよ、カミやん」

そういうと土御門は右手でずれかけたサングラスを直す仕草をした。

その瞬間なぜか男は嫌な予感がした。

今のやりとりに妙なところはない。

土御門には余計なことを言わないよう術もかけてあるし、保険もある。

しかしこちらを振り向いた上条の目は何かを確信したかのような目だった。

(まずい!)

男は瞬時に呪文を唱え、その場から姿を消した。


.

163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:41:41.57 ID:iVJSIjE0 [14/26]



美琴を助けられるわずかな可能性。

上条はそれにかけた。

土御門は『最初から』と言った。

『最初』とはいつを指しているのか。

はじめは二人の出会いかと思ったが、その可能性は考えられない。

ではいつなのか?

上条の頭にはロンドンに帰還したあの日が浮かんだ。

あの日土御門は絶望に沈む上条に言葉をかけた。

『超電磁砲との約束はどうするんだ』

上条は今このときまで『約束』とは、告白に答える約束だと思っていた。

しかしよくよく考えればいくら土御門でもその約束まで知っているはずがない。

そこで浮かぶ、もう一つの約束。

『御坂美琴と、その周りの世界を守る』


その瞬間上条は一つの答えに辿り着いた。

ロンドンから学園都市まで、偽土御門は不自然なほど美琴のことを気にかけていた。

上条が抱いていた違和感の正体はまさしくそれだった。

あの約束を知り、美琴のことを大切に思っている。

そしてその男は学園都市で土御門と同じ組織に所属していたはずだ。

何よりその男はかつて肉体変化の魔術を使用していた。

上条の中で全てのピースが繋がった。

上条の視線の先でサングラスに手をやる土御門の右腕には、白い包帯がまかれていた。


.

164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:47:16.41 ID:iVJSIjE0 [15/26]


次の瞬間男が目の前から姿を消した。

上条の頭がフル回転する。

何に、どの順番で能力を使用するか。

上条は首をひねり、素早く辺りを一瞥する。

すると上条たちがいた倉庫が消え、辺りの建物も次々消えていった。

一瞬で更地となった周囲を素早く見回す。

案の定、辺りには数人の魔術師の人影が残った。

そのなかの一つ、いくつもの人影が集まっている場所がある。

上条はそこに向かって手をかざした。



.

165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:53:42.44 ID:iVJSIjE0 [16/26]
***

男は美琴がいる場所へ走っていた。

周囲の時間を止めれば一瞬で辿り着くことが出来るが、上条には何の効果もない。

仕方なく自分の時間を限界まで加速し、目的地へ走る。

(ちっ!)

残り十数メートルの位置で周囲の時間が元に戻る。

上条が自分の能力を消したのだろう。

だがそれでも構わない。

すでに合図は送ってある。

人質を拘束している偽土御門かそれを囲む仲間が女を消す。

予定通りには行かなかったが、最終的に女を[ピーーー]ことが出来れば目的は達成できるだろう。

パンッ パンッ

男が倉庫の扉に手をかけると、中から乾いた銃声が聞こえた。


.

166 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:56:37.67 ID:iVJSIjE0 [17/26]



不意に銃声が耳に飛び込み、美琴は恐る恐る目を開く。

そこに飛び込んだのは、美琴を庇う様に立ち、背中から血を流す土御門の姿だった。

「土御門…さん……?」

次の瞬間土御門は膝をつき、床に倒れ臥した。

同時に十メートル程離れた場所で見知らぬ男が崩れ落ちる。

(相打ち……?どういうこと……?!)

すると、突如美琴たちがいた倉庫が跡形もなく姿を消した。

「え……?!」

美琴は混乱した。

あわてて辺りを見回すと、背後に先ほどの男がいた。

その手には黒い拳銃が握られ、銃口は自分に向けられている。

男は無表情のままだったが、その目には確かな殺意が宿っていた。

「終わりだ」

男の指がゆっくりとトリガーを絞る。

(とうま……)

身動きの取れない美琴は、覚悟して目を閉じる。

(ごめんね……とうま……)

パンッ


命の終わりを知らせる発砲音が響いた。

しかし覚悟した瞬間はなかなか訪れない。

美琴が再びゆっくりと目を開けると、そこには光の翼を纏った上条の背中があった。


.

167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 16:59:46.13 ID:iVJSIjE0 [18/26]



男の手から銃弾が放たれた瞬間にその少年は現れた。

目の前の少女に向けて放たれた弾丸は上条の身体に吸い込まれるように消えていった。

上条がこちらを睨む。

その瞳からは既に狂気は去り、黒々とした光を湛えている。

仲間の魔術師がこちらに向けて攻撃を放つが遅かった。

上条の翼が少女を守るように包み込む。

直撃するはずの銃弾や魔術はことごとく打ち消された。

上条は男から視線を外すと足元に倒れている偽土御門の前で跪いた。

胸部から背中に貫通している銃創に手を当てる。

するとたったそれだけで偽土御門の傷は何事もなかったかのように消え去った。

上条はゆっくりと立ち上がると辺りを一瞥する。

十人近くいた味方の魔術師は次々と倒れ、立っているのは上条と男だけとなった。

「全く馬鹿げた力だ」

男は低くつぶやいた。


.

168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:05:03.14 ID:iVJSIjE0 [19/26]



上条は男の目を見た。

そこからは、何も読み取ることの出来ない、完全な無表情だった。

先ほどの男の話を思い出す。

この男も自分と同じなのだ。

信念を失くし、力に翻弄され、そして自分を喪った。

しかし、自分とは違いこの男には縋る者がなかった。

否、自分が奪い去ってしまったのだろう。

胸に鋭い痛みが走る。

しかし上条の視線は揺るがなかった。

男が口を開く。

「殺さないのか」

上条はわずかに目を細め、口を開いた。

「そういうことは俺より強くなってから言うんだな」


.

169 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:10:46.77 ID:iVJSIjE0 [20/26]


上条の背中から翼が消え、中から美琴が姿を現した。

美琴は地面に倒れ、気を失っていた。

「美琴……」

土御門が駆けつけ男を拘束すると、上条に声をかけた。

「安心しろ、極度の疲労と緊張、魔翌力の使いすぎで一時的に気を失っているだけにゃー。一時間もすれば目を覚ますぜよ」

それを聞いた上条は胸を撫で下ろす。

「久しぶりだな、土御門」

「だましてすまなかったな、カミやん。こいつはロシアの抵抗勢力の最後の大物でな。こいつの使う魔術のせいで今まで捕まえることができなくて、そこで俺がスパイとして送り込まれたってわけだぜい」

「仕事か……?」

「まあな。ま、こいつもおれの正体を知っていて利用していたようだし、とにかくだましたり、餌にするような真似をしてすまなかった、カミやん」

「美琴をまきこんだのは許せないけど、半分は俺の業だ。気にするなって」

「ま、とにかくカミやんのおかげで一件落着だぜよ。あとは俺が責任を持って後始末するから、カミやんはそこのお姫様を家まで届けてやるんだな」

「ああ、わかった。あとは頼んだぞ」

上条はそういうと美琴を背中に負ぶった。

「ああ、それと」

「なんだ、カミやん?」

「そこの土御門にも色々ありがとうと言っといてくれ」

そう言うと上条は美琴を背負ってその場を去って行った。



.

170 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:18:43.75 ID:iVJSIjE0 [21/26]




「おいおい、三下も随分派手にやりやがったなァ」

どこからともなく一方通行があらわれた。

「久しぶりだな、一方通行」

「その面で言われてもピンとこねェよ」

「そう言うな、気づいていたんだろう?だまっていてくれて助かった」

「まァな。気づかねェのは三下くれェなもンだ」

突然ヒュンという音が聞こえ、どこからともなく一人の少女が姿を現した。

「まったく人使いが荒いわね。妹さんは無事取り返してきたわよ」

「すまなかったな、結標」

「いいわよ、大切な妹さんなんでしょ。お互い様よ」


「このメンバーが揃うのも久しぶりですね」

いつの間にか身体を起こした海原が言った。

その顔も、いつの間にか土御門のものから海原光貴のものへと変わっていた。

「9ヶ月ぶりか」

「そうね……」

この4人がこうして顔を合わせるのは、昨年エイワスの手によってメンバーが壊滅して以来だった。

「組織はなくなってしまいましたがこうして皆さんと再び会えて嬉しいですよ」

一方通行がチッと舌打ちし、低く言い放つ。

「ンなこたァどうだっていい。とにかく駒は揃ったんだ。やるこたァ決まってる」

「そうだな……」

全員が真剣な面持ちで頷きあう。


171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:23:49.64 ID:iVJSIjE0 [22/26]
「とりあえず今日は解散だ。新たな隠れ家を見つけ次第連絡する。こいつの身柄は俺があずかるからお前たちは帰ってくれ」

土御門がそう言うと、結標はその場から姿を消し、一方通行も去って行った。

「お疲れ様です、土御門さん」

「海原、お前も必要悪の教会に協力してもらってすまなかったな」

「いえ、御坂さんのお役に立てるならよろこんで協力しますよ」

海原はさわやかな笑顔を顔に貼り付けて言った。

「しかし彼の力は本当に凄いですね。痛みすらありませんよ」

海原はそう言うと傷のあった居場所を撫でた。

「ああ、俺も直接見るのは初めてだ。それに……」

土御門は先ほどの上条の姿を思い返していた。

(ドラゴン……か……)

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。ここから先は俺の仕事だ。お前ももう大丈夫なら帰ってくれ」

「わかりました。では彼に伝えておいてもらえますか。『約束を守ってくれてありがとう』、と」

「わかった、伝えておく」

海原は笑顔で頷くとその場から去って行った。



.

172 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:38:06.40 ID:iVJSIjE0 [23/26]
***


美琴は夢を見ていた。

風邪をひいた時に見るような、得体の知れない恐怖に満ちた夢だった。

美琴は必死で上条の姿を探す。

ようやく上条の姿を見つけ肩に手をかける。

上条がゆっくりとこちらを振り向く。

その目は美琴を飲み込むかのように、暗く、赤く光っていた。



「っ!!」

美琴は目を覚ました。

慌ててまわりの様子を確認する。

美琴は上条に背負われ、いつしかの土手の上を進んでいた。

「とう……ま……?」

「気づいたか……」

上条は美琴を背負ったまま答えた。

「ここは……?」

「ああ、一応全部片付いてな。美琴が寝ちゃったから家まで運んでるんだ。あと少しで着くぞ」

美琴は先ほどの記憶を必死で思い起こす。

第6位のこと、突如現れた男のこと、自分に向けて放たれた銃弾のこと、そして最後に見た上条の姿を。

「とうま……?」

173 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:43:10.51 ID:iVJSIjE0 [24/26]
「なんだ……?」

その声は美琴の良く知る、いつもの彼の声だった。

しかし美琴は怖かった。

自分を背負っている目の前の彼が、どこか遠くへ行ってしまった別人のような気がしてならなかった。

上条が怖い。

そしてそう考えている自分が嫌でたまらなかった。

「あ……」

二人はいつの間にか見覚えのある場所へ来ていた。

「この河原……」

「どうした?」

「当麻、この河原覚えてる?私と当麻が出会った頃、ここで勝負したのよ。私の攻撃を当麻が全部消しちゃって、それで当麻がやられたふりして私が怒って追いかけて……」

上条が少し黙り込む。

「すまない……俺にはその記憶はない……」

「…………」



長い沈黙が流れた。

美琴が自分の胸に回す手に力を込めるのが伝わってくる。

しばらくして美琴がポツリと呟いた。

「私、生きていていいのかな……」



174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:45:39.99 ID:iVJSIjE0 [25/26]




しばらく答えが返ってこなかった。

上条は自分を背負ったまま足を止めない。

美琴は後悔した。

何故こんなことを言ったのか。

彼を困らせるようなことを、彼を責めるようなことを。

やがて上条がゆっくりと口を開いた。

その答えは少し意外なものだった。

「それは……俺にはわからない」

「……」

「俺がどんな立派なことを美琴に言ったとしても、それは正しい答えじゃあない。美琴が信じること、それこそが正しいことなんだ。わかるか?」

美琴がゆっくりと首を横に振る。

「……俺はこの世界で生きていちゃいけない人間だと思うか?」

今度は激しく首を横に振る。

「でも俺は何人もの命を奪い取った。彼らや、その周りの人間にとって俺は殺したいほど憎い存在なんだ。それでもおれは生きていていいと思うか?」

「……」

「俺もかつてはそう思っていた。自分は生きていていい人間じゃない。死んで当然の人間なんだと。でも今は違う。生きていたい。美琴と一緒に生きていたい、そう思っている」

「……」

「でもそれは道理や理屈じゃない。お前と一緒にいたい。だから生きたい。それだけなんだ。何千人、何万人もの憎しみや怨嗟、それを背負ってでも俺は生きたいんだ」

「とうま……」

「お前は……生きたいか?」

美琴はゆっくりと頷いた。

「だったらそれでいいんだよ。邪魔するやつは蹴散らして、文句を言うやつはぶん殴って、そうやって生きてやればいい。俺はもうそう決めたんだ」

「……でも……」

美琴がそう言うと、上条は土手の上に会ったベンチに美琴をゆっくり座らせ、その前に立ち美琴の髪を優しく撫でた。

175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 17:51:53.89 ID:iVJSIjE0 [26/26]
「……」

「……今日は怖い目にあわせて悪かった。でもどうしても学園都市の外にでないとならない用事でさ」

上条はそう言って、肩にかけていたブリーフケースから数枚の書類の入ったクリアファイルを取りだし、美琴に手渡した。

「……?」

「とりあえず見てみてくれ」

美琴がクリアファイルから書類を取り出し目を通すと、それは戸籍謄本ととある中学校への編入案内だった。

「え……?」

「実は今日、美鈴さんと旅掛さんに会ってきたんだ」



上条は数日前から美鈴に連絡をとり、旅掛と二人が揃う今日美琴の実家へ出向きあるお願いをしにいったのだ。

そのお願いとは、美琴を家族としてほしいということだった。

上条は妹達のこと、オリジナルと00000号のこと、全てを包み隠さず二人に話した。

「お願いです。俺は美琴に表の世界で生きていてほしいんです。1万人の妹達を放って置いて虫がいいと思われるかもしれません。それでも俺は美琴のためにできることをしたいんです」

上条は必死で二人に頭を下げた。

美鈴は上条の目も憚らず、大粒の涙を流し続けた。

旅掛も何かを堪えているようだった。

「わかった。美琴とその子さえ良ければ私たちも構わない。ただ一つだけ条件がある」

176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 18:00:11.75 ID:opmhLF.0 [1/6]
***

「これで晴れて美琴も学園都市の住人てわけですよ」

そう言って上条は美琴に渡した謄本の一部を指差した。

そこにはこう書かれていた。

長女 御坂 美琴
次女 御坂 ミコト

「え……これって……?」

「うーん、我ながら少し強引だったかなと思うんだけど、向こうの名前を変えるわけにはいかないし、美琴の名前が変わるのも嫌だし、というわけで美琴は今日からカタカナでミコト。もちろんお前さえ良ければだけどな」

「で……でも……」

「もちろんオリジナルには話をしてある。喜んで承諾してくれたぞ」

「でもそんな簡単に……」

「確かに戸籍を捏造するのはただごとじゃないけど、上条さんには色々と素敵なコネがあるんですよ。だからミコトは何の心配もいらないよ」

上条はそう言って胸を張った。



177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 18:02:06.08 ID:opmhLF.0 [2/6]

ミコトにはにわかに信じられないことばかりだった。

それでもミコトは嬉しかった。

再び光の下に出られること。

上条がどこまでも自分を大切にしてくれていること。

そして、いつもの上条が戻ってきてくれたこと。

「ありがとう当麻……ありがとう……」

ミコトは上条の胸に顔を埋めた。

いつの間にか目からは涙が溢れ出していた。

上条はミコトを優しく抱きしめながら口を開いた。

「ただいま、ミコト」

「え……?」

「……言っただろ、必ずお前のもとに帰ってくるって。今回はちょっと危なかったけど、約束は必ず守る。だからミコト……」

上条はそう言ってミコトの頭を撫でた。

「ただいま」

「……おかえり、当麻!」



178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 18:07:18.50 ID:opmhLF.0 [3/6]



***

土御門は海原が帰った後、残った魔術師たちも拘束し、手配した必要悪の教会の人間が来るのをまっていた。

すると何もなかったはずの空間から一人の少年の声が聞こえた。

「あれ……ここはどこや?」

「青ピか?」

「あれ……土御門クン?随分久しぶりやなぁ」

「そういうお前もな」

「これはどういうことなんや?」

青ピは辺りを見回して言った。

「まあ、そこの男の仕業とだけいっておくか」

「へぇ、けったいな能力やな。ところで土御門クンもお仕事?」

「まあな、こっちで会うのは初めてだな」

「せやな、ところであのお嬢ちゃんはもう帰ってもうたん?」

「超電磁砲か?それならカミやんが連れて帰ったぜい」

「相変わらずカミやんモテモテやなあ。まあそれならええわ」

「ところで青ピ、用がないならここから離れてもらいたいんだがいいか?」

青ピは上半身だけ起こし、いつもと変わらないにやけ顔で言った。


「手、貸してくれへん?」


.

179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 18:13:16.11 ID:opmhLF.0 [4/6]

***

上条とミコトは先ほどのベンチに並んで座り星を見ていた。

ミコトは上条の肩にもたれかかり、腕に手を回している。

あれから1時間ほどがたったが二人が動く気配はない。

「やっぱり学園都市だとあんまり星は見えないな……」

「そうね……でもこれはこれで綺麗なんじゃない?」

「そうだな……」

突然やって来た川風が二人を包み、ミコトが少しだけ身体を震わせた。

「寒くなってきたな……、そろそろ帰るか」

「いや……」

「でも風邪ひいちまうぞ?」

「ううん、違うの。そうじゃないの」

「……?」

「私が帰る場所はここなの……だから『帰る』じゃないの」

ミコトはそう言うと上条の背中に腕を回し、胸に顔をうずめた。

上条は小さく笑うとミコトの小さな背中に手を回し、抱き締めた。

「おかえり、ミコト」

「ただいま!」




.
181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/22(木) 18:23:43.50 ID:opmhLF.0 [6/6]
後編終了しました。

最後少し駆け足になってしまいましたが、本編はこれで終わりです。

もともと2部構成のつもりで作ったので、謎の伏線らしきものが複数放置されていますが今のところ続きは白紙です。

時間があればエピローグまで投下したいと思います。

コメント

文才に溢れてるな

面白かったです。

それと管理人さんいつも更新楽しみにしてます。頑張って下さいな(^_^)

No title

当麻強すぎ

No title

第六位ってそうだったのか、驚いたけどなんか納得だなw

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