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ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」

588 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/11/11(木) 18:37:56.04 ID:BfTWl4c0 [1/10]
科学ばっか書いて魔術全然書いたことなくね?と思って書いてみてあまりの難しさに挫折した。
と、とりあえず序盤だけ……10レスほど借りてもいいっすか?

590 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」1[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 18:43:52.87 ID:BfTWl4c0 [2/10]
目の前にひょうひょうとした表情で立っている男を見た第一印象は、
年齢不詳な外見でも、 真っ赤な装束でも、黙っていても空気を重くする存在感でもなかった。


(……櫛で梳いても抜け毛ひとつ地面に落ちそうにないな)


振り返ってみても、まぬけな感想だと思う。
けれど、彼女は必然の反応だと言わんばかりに男の赤みを帯びた髪に目を奪われた。


「ふ~ん、お前が新しく『前』を担当するヤツか」


彼女の視線に臆することなく、目の前の男は値踏みするように彼女を上から下まで眺めた。

男が口にした『前』。

―――それは、神の『前方』に位置する者。


「せいぜい俺様の足をひっぱるような愚かな行為だけはしてくれるなよ?」


男は皮肉を存分にこめた笑みを浮かべる。
首を微かに動かしたためか、重力に吸い込まれるように耳にかけてあった髪がひと房崩れ、流れる。


(不愉快だ)


彼女は声にせずに内心だけで悪態をはくも、しかめた眉の仕草、刻まれた眉間の皺まで隠す気はさらさらなかった。
相手に彼女の不快感は伝わったかもしれないが、彼女は気にも留めない。


(ああ、本当に、これ以上に不愉快な事はない)


591 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」2[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 18:46:20.30 ID:BfTWl4c0 [3/10]
手で撫でてやれば、とても柔らかな感触が楽しめそうだと思わせる彼の赤毛が、遠い昔の記憶と微かに重なる。
浸りたいような、浸りたくないような記憶だ。
曖昧で繊細で残酷で滑稽な過去の出来事が脳内の奥の方で思い起こされる、そんな気がした。

一瞬。
一秒にも満たない僅かな時間だった。

それでも、つまらない錯覚に囚われそうになった自分に嫌気がさして、彼女は舌から繋がるチェーンの先にだらりと垂れ下がる十字を、気を紛らわす様に左右に揺らした。


「それで? お前の名は?」


彼女の行動を気にもせず、これより先、彼女の『同僚』となる男が問いかけてくる。
彼の態度は新しい仲間のことをよく知りたいといった好意的なものではない。
興味がないけど仕事上知っておかないといけないから一応聞いておく、というようなスタンスだ。
ある意味事務的な男の問いに、彼女もまた事務的な声で対応した。


「ヴェント」


今日から、新しい名を名乗ったその瞬間から。
黄色を司る天使の属性である風(vento)を名に冠する若い女が、
四大天使が一つ、神の火(ウリエル)に対応する『前方』となる。

彼女は淡々と、それでいて堂々と告げる。
己の名を、つげる。



「―――――前方の、ヴェントだ」



それが彼女の新しい名前。
ようやく手に入れた、唯一の称号。


592 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」3[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 18:49:41.21 ID:BfTWl4c0 [4/10]


彼女。
――――前方のヴェントが魔術を追求するようになった理由は、とても単純で子供じみている。

『科学が憎い、だから力をもって絶滅する』。
ただ、それだけ。

ヴェントは同年代の同性と比べれば突出して幼稚な女ではあったが、
『魔術師』として彼女を語るならば、それはそれほど目立つような事柄ではない。

極端な言い方をすれば、魔術師は総じて自分本位の人間ばかりだ。


『七つの大罪を犯すことなかれ』。


これは十字教徒ならば当然の常識。
守るべき主との契約。
欲は罪であり、忠実に守り通し必要以上の欲を持たないことこそが美徳。
必要以上の欲を持つことは、神との契約に反することにも同義する。

十字教徒ならば絶対的に守らなければならない掟(ルール)を故意に破り、
己が願望を叶えるためにだけに汚れとされる魔術を率先して行使する者たちを、
自分本位という言葉以外になんと比喩すればいいのだろうか。

世界に数多いる魔術師全員がそういったヤツ等だ、とまでは言い切れないが、
少なくともヴェントが今まで出会ってきた魔術師たちは、彼女と同類の、同じ穴のムジナばかりだった。


593 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」4[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 18:53:38.92 ID:BfTWl4c0 [5/10]
例えば、司教ビアージオ=ブゾーニ。
例えば、告解の火曜(マルディグラ)リトヴィア=ロレンツェッティ。

ローマ正教に属する魔術師あるいは枢機卿達は、どいつもこいつも利己的だ。

神への忠誠を誓い、教えの為にすべてを捧げると振れ回っているが、
本質は他の意見を取り入れずに、ただの自分が望むことに盲信して突き進む、子供のような者ばかり。

もちろん、ヴェントもその一人であることを、本人は嫌々ながらも自覚している。



そして、魔術師ではなく『錬金術師』と呼ばれたアウレオルス=イザードも、そういった人物の一人だろう。


594 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」5[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 18:58:21.16 ID:BfTWl4c0 [6/10]


隠秘記録官(カンセラリウス)の地位まで登りつめた若き錬金術師は、
たった一人の子供を救いたいがためにローマ正教を裏切り、
文字通り『全世界を敵に回した』どうしようもない十代の青年だった。

当時、今ほど実力が無かったヴェントも、アウレオルスと同じ隠秘記録官として
魔術の使用傾向と対策を魔道書にまとめる役についており、幾度が共同で仕事をこなしたこともある。

ヴェントが『前方』としての属性を持ちながらも、
アドリア海の女王の対象をヴェネチア以外に向けることを可能とする
術式魔術『刻限のロザリオ』を組み立てられるほど、魔術師としての能力が高いのは、
隠秘記録官を長らく務めた経験が大きいのかもしれない。

同僚であった彼がローマ正教を去る、数日前。

ヴェントはアウレオスルと、隠秘記録官として魔道書の編纂を二人で行っていた。
その時、なんとなく彼と交わした会話がある。


「そういえば、アンタの魔法名ってなにさ?」

「当然。――――私の魔法名は、『我が名誉は世界のために(Honos628)』」



595 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」5[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 19:01:08.17 ID:BfTWl4c0 [7/10]
魔道書の細かい解釈の違いの討論が、いつの間にか魔法名についての意見交換にまで話題が間延びしたのだ、とヴェントは記憶の糸を辿る。
彼女の無粋な質問に、アウレオルスはこれといった拒否反応をしめすことなく、
「今日の天気は晴れだな」とでも言うような態度でサラッと返答した。


「あっさり答えるのね」

「判然。私の魔法名に、すでに迷いはない。だからこそ、解答を躊躇する必要性も感じられない」


羽根のペンですらすらと流れるような文字を書きながら、さも当然といったように彼は付け足した。


「ふ~ん」


ヴェントがつまらなそうに相槌を打って、その日の会話は終了した。



そして、ヴェントとともに行った魔道書の編纂を終えると、彼はローマ正教から袂をわかれたのだった。


596 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」7[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 19:05:55.81 ID:BfTWl4c0 [8/10]


同僚とは言え、裏切り者となったアウレオルスのことなど、ヴェントは時がたつにつれて忘れていたが、


『イギリス清教に所属しているたった一人のシスターを救いたいがために組織を裏切った』


という事の顛末を、『前方のヴェント』として部下から報告された時、先ほどの会話を思い出したのだ。

魔法名には、時に魔術師の誇りとしての名がつけられ、時に魔術師の真名を伏せた名がつけられる。
それぞれの魔法名は、それぞれの魔術師の人並ならぬプライドや執着といった感情が刻み込まれている、とヴェントは考える。

アウレオスルの魔法名は、彼自身が「魔女から信徒を守る」という名目の元に結成された
隠秘記録官を務めた経緯から来ているのかと思っていたが、
実は違ったのでないだろうかと、ヴェントは邪推するようになった。


『我が名誉は世界のために』。


彼が指した世界とは一体何だったのだろうか。
彼にとっての世界とはどういう意味だったのだろうか。


(――――もしかしたら)



598 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」8[saga] 投稿日:2010/11/11(木) 19:12:30.16 ID:BfTWl4c0 [9/10]
もしかしたら、こういう意味だったのだろうか、とヴェントは柄にもなく考えた。


『我が名誉は世界(禁書目録)のために』


魔法名に込められた意味など、魔法名を決めた術師にしかわからない。

彼が名誉の全てを差し出した世界というのは、主を信じる信徒のことだったのか、
はたまた、ローマ正教を敵に回してでも救い出したいと願った、一人のシスターのことだったのか。

答えは、永久に葬り去られたまま。

もし、ヴェントが想像したような意味がこめられた魔法名だったのならば、
より一層彼は自分と同じ利己的で背信的で、幼稚な魔術師なのだなとヴェントは思案する。

スーパーマーケットでお菓子を買ってと駄々をこねる幼児のように、世界に対して我儘をつきつけるのだ。


私は世界を破滅の道に追いやってでも、たった一人の大切な存在を優先する、と。


(…………やはりな)


ヴェントは改めて思う。

――――魔術師はやはり皆、


(己が願望を叶えるためにだけに汚れとされる魔術を率先して行使する、自分本位なやつらばかりだ)



599 名前:ヴェント「―――――前方の、ヴェントだ」終り[saga sage] 投稿日:2010/11/11(木) 19:14:44.67 ID:BfTWl4c0 [10/10]
八レスで事足りた。
色々とグダグダですまなかった。

ヴェントの過去ねつ造にも程がある


Tag : とあるSS総合スレ

コメント

「アウレオルス」な

ヴェントいいよー!!

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