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レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」-2

レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
続きです

425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:01:38.15 ID:jv2VOdVk0
  ■■ 悪の美学 ■■

 ――タマムシシティ、スロットコーナー。
  
オジサン「やぁ、えらく出してるな、少年」

 隣に座ったオジサンが、声をかけてきた。
 仕立ての良い黒いスーツの、人の良さそうなオジサンだ。
 
 レッド「……?」

 首をかしげるレッド。
 見知らぬ人に声をかけられる覚えがなかった。

 しかし、
 レッドのうしろには10箱以上のドル箱の山。
 ボケなレッドは気づいていないが、現在すべての客に注目されていた。


428 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:09:11.59 ID:jv2VOdVk0
 客の羨望と嫉妬。
 スロットコーナーの暗がり。
 喧しいスロットの音。店のBGM……

オジサン「すまないが、コインを少し分けてくれないか?」
レッド「……」
 
 コクリと頷いて、レッドは豪快に、箱ごと渡そうとした。
 が、いやいや、と軽く首をふって、断った。

オジサン「3枚でいいんだ。一回まわせればそれでね」
レッド「……」


430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:16:29.50 ID:jv2VOdVk0
オジサン「今日の君は、幸運の女神に愛されてるらしいが――」

 軽快に三枚のコインが投入口された。
 スロット機種は『アイム・ニャース』だった。


オジサン「幸運の女神は、尻軽なんだぜ?」
レッド「……」

 不敵な笑みで男は、たった一回だけスロットをまわした。


431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:26:44.86 ID:jv2VOdVk0
 ――ガコン。ぴ、ぴ、ぴ。

『777』
大当たりだ。
 
オジサン「な、いったろ。女も神も信じちゃいけない。
     何かを信仰するなら、己にするべきさ。
     ――そうすれば、運さえも跪かせられる」

 オジサンの機種から、大当たりの音楽が流れ始める。
 それを見物していた観客たちが、おぉ! と感嘆の声をあげた。


オジサン「ほら、コイン返すぜ。レッドくん」
レッド「……」

 名前を呼ばれて驚くレッド。
 メガネの変装を、あっさり見抜かれていたらしい。


432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:32:20.78 ID:jv2VOdVk0
  景品交換所を出た。

オジサン「ははは、お互い大勝だな!」
レッド「……」
オジサン「あれから一度も当たらなかった?
     隣に俺くらいのカリスマが座ったんだ。
     そりゃあね、女神も大人の魅力にタジタジさ」

 冗談まじりのオジサン。
 しかしレッドは信じる気になれた。
 この男に、運の女神が屈したのだと。

レッド「……」
オジサン「俺かい? 俺はサカキという、とある会社の首領さ」

 男の名はサカキ。
 おもしろい人だな、とレッドは思った


434 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:39:37.05 ID:jv2VOdVk0
 ロケット団殲滅。
 その目的に走っているレッドは、
 情報収集。もとい下っ端団員への脅迫で、
 このタマムシにロケット団のアジトがあることが分かった。

 そのアジト発見のため、しばらくタマムシに滞在していた。

 そして、そのあいだ、サカキという男と行動を共にした。


436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:48:44.51 ID:jv2VOdVk0
 サカキといるとき、レッドは落着いている自分に気づいた。

 どこか荒んでいて、掴みどころがなく、知識の塊だった。
 そして、指名手配中のレッドを、まるで警戒しない。
 それどころか変装道具から、宿の手配までしてくれた。

 そして、大人のくせに、
 こどもみたいにレッドを危険な遊びに誘う。
 いままで出会った大人の中で、一番目指したい背中だった。

 
 そして本日もレッドは危険な遊びに誘われた……。


438 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:03:21.36 ID:jv2VOdVk0
 ――あるマンションの屋上(深夜)。

サカキ「ほら、いただろ? ――じゃじゃ馬が」
レッド「……」

 ポケセン裏に位置するマンション。
 その屋上に放置されていたボール。
 それを開くと、兇暴なポケモンが現れた。


 ――シゃぁぁぁぁああああああああああ!!!


439 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:11:57.07 ID:jv2VOdVk0
 それは哺乳類型のポケモンだった。

サカキ「おや、コレは奇妙だな?」
レッド「……」

サカキ「イーブイは、こんな巨大なポケモンじゃなかった筈だが。
     まるでニドキングくらいあるぞ」

  ――シャぁぁぁあああああ!!

 イーブイの雄叫びが、タマムシに轟いた。
 威嚇じゃない。この声は怯えだ。と、レッドは気づいた。


441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:15:59.10 ID:jv2VOdVk0
『兇暴なポケモンの捕獲』
 それが今日の遊びだった。

 イーブイがレッドめがけて駆けだした。

サカキ「それでは頑張りたまえ。レッドくん。
    俺は見物しているよ。ハハハッ」
 
 サカキが逃げた。
 


442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:16:45.77 ID:jv2VOdVk0
 イーブイが入っていたボール付近。
 いくつもの注射器。瓶。鞭……。
 ロケット団に調教された後のようだった。

 レッド「……」


443 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:22:04.69 ID:jv2VOdVk0
 噛みつこうとするイーブイ。
 咄嗟にイーブイの頭を蹴って、飛び越えた。

 空中でも手は休めない。
 人間を襲うポケモンとの戦闘。
 そこにタイムラグは命とりだった。

 空中でスピアーを出した。

レッド「――ッ」
 そのままスピアーに指示。

 ほうッともらし、サカキは戦闘を見守った。


444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:25:46.02 ID:jv2VOdVk0
 レッドはスピアーでおうせん。
 イーブイのこうげき。たいあたり。
 レッドはころがって、さけた。

 そのスキにスピアーのダブルニードル。
 イーブイのぞうぶつをつらぬくハズのどくバリがよけられた!

 イーブイのでんこうせっか!
 スピアーに120のダメージ。
 スピアーはしゅんごくさつをくりだした。
 イーブイに200のダメージ。
 しかしまだよりょくがありそうだ。

 みだれづき。
 しっぽをふる。
 いとをはく。
 とっしん……


445 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:40:41.77 ID:jv2VOdVk0
 戦闘の最中。
 酷く哀しい眼光で、レッドを睨むイーブイ。

 ――たすけてほしい。

 そんな声が聞こえた気がした。

レッド「――」


447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:42:15.68 ID:jv2VOdVk0
 イーブイの気配にレッドは初めから気づいていた。

 スピアーは主人の心境を図り慎重に戦っている。
 トキワの森を知っているレッドが。
 ロケット団を殲滅して歩くレッドが。

 このイーブイを救わないわけがない。
 そうスピアーは確信していたのだ。

 
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:45:00.40 ID:jv2VOdVk0
 調教され、改造され。
 本当は辛く、いまも怯えている。
 そんなイーブイの荒ぶる心の声が轟く。

 スピアーを跳ねのけ、イーブイはレッドに疾駆した。

 ――イーブイの牙が、レッドを捉えようと開く。
 
 レッドは背中に視線を感じた。
 この戦闘を凝視するサカキの眼だ。

レッド「……」

 レッドはスピアーに、本気で貫くよう命じた。


450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:49:03.35 ID:jv2VOdVk0
 スピアーの乱れ突き。
 約40回の高速の突きが、
 イーブイの横腹を穿った。


 ――シャぁぁぁぁあああああッ!!

 助けを求めたイーブイの慟哭。
 血が薄暗い闇や地面にまき散らかされた。

 鮮血にそまった手を、スピアーは払い飛ばした……。


レッド「……」


サカキ「――」


482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:02:23.93 ID:jv2VOdVk0
血だまりの中、横たわるイーブイ。
先ほどとうって変わって、いまじゃ幼い声で鳴いている。

――きゅううん。

 なんども、何度も。
 血の海で身を動かし、
 レッドに助けを求めるように
 前足をのばす。

レッド「……」


483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:04:26.77 ID:jv2VOdVk0
 その助けを求める姿に
 トキワの森のポケモンたちを思い出した。

 見ず知らずのレッドに助けを求め、
 幼い肩に希望を預け、
 レッドの成長のために生贄になった彼らを。
 

484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:06:19.62 ID:jv2VOdVk0
 幼いころからレッドは、何故かポケモンを惹きつけた。

 この人間に虐げられたイーブイですら、
 同じ人間のレッドに、何かを感じ、救いを求める。

レッド「……」


486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:19:01.61 ID:jv2VOdVk0
 レッドはイーブイが入っていた、
『R』とロゴの入ったボールを近づける。
 
 ――きゅううん。

 やはり怯えて戻ろうとしない。

サカキ「こいつは驚きだ。
    ただのモンスターボールじゃないな」

レッド「……」
サカキ「あぁ、恐らくは改悪されている。 
    それもポケモンの恐怖心と服従心を煽るための、
    えげつない装置でもあるんだろうな」


488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:25:58.08 ID:jv2VOdVk0
 レッドは新しいボールを投げた。

 大人しく捕獲されるイーブイ。

サカキ「よくやったレッドくん。
    恐れず、躊躇せず、残虐に。
    教えたとおりやってのけたな!」

レッド「……」
 
 サカキに背を向け、レッドは醒めた顔をした。


490 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:32:24.46 ID:jv2VOdVk0
    ■■■

 レッドは駆けた。
 たたたたたたッ――。

サカキ「おい、レッドくんッ!
    どこへ行くんだ?」

 マンションの屋上から、レッドは去った。

サカキ「……」

 たった一人深夜の屋上に残されたサカキ。

サカキ「ききき、きはははははははッ」


492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:41:00.44 ID:jv2VOdVk0
 サカキの人の良さそうな表情が崩れた。、
 私利私欲の権化のような顔つきで、レッドが去った扉を見つめる。

サカキ「あの人間恐怖症のイーブイがなぁ。
     あれだけ調教し、牙を研いでやったというのに。
     あっさりレッドを信頼したようだ――」


496 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:48:32.67 ID:jv2VOdVk0
 ただの動物に好かれる奴とはワケが違う。
 マサラの加護をうけた、レッドの力があれば……。

サカキ「マサラタウンのレッド。
    やはり彼が我々の計画の鍵になりそうだな」


498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:51:03.75 ID:jv2VOdVk0
 それにしても、とサカキは思った。

サカキ(レッドの奴め。
    本気で俺に気を許しちゃいないようだな。
    あのスピアーの乱れ突き。
    微妙に急所を外していた。
    あれだけハデにやったのも、
    俺の信頼を得るためのパフォーマンス……)


 ――おもしろい、化かし合いをしようっていうのだな、レッド。


502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:04:47.02 ID:jv2VOdVk0
 強い夜風がサカキのスーツを翻した。
 一瞬のぞいた懐には、『R』と刻まれたモンスターボールが。


サカキ「レッド。悪には悪の美学があるんだ。
     善にもつかず、悪にも傾倒しようとしない。
     その甘さのせいで、いずれ地を這うことになるぞ」


 血にぬれた屋上を、サカキは跡にした……。



   ■■■


503 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:11:06.93 ID:jv2VOdVk0
 ――ポケモンセンター(深夜)

 クローン疑惑のあるジョーイさんに、イーブイを預けた。


 薄暗い待合室でレッドは自分の両手を見つめた。
 なぜか血に染まっているような気がしてならなかった。

 あそこでサカキの意図とは逆の、
 イーブイを助ける為ような戦い。

 それが出来ない理由がレッドにはあった。


507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:21:23.67 ID:jv2VOdVk0
 ――おそらくサカキはロケット団に繋がっている。

 先日のスロットコーナー。
 それを裏で経営しているのは、実はロケット団なのだ。
(哀れ下っ端ロケット団員を、ピカチュウの電撃椅子で脅して得た情報である)

 だからこそレッドは、スロットで遊び、店内を窺っていた。
 


508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:22:37.47 ID:jv2VOdVk0
 そこで、レッドへの大当たり。
 隣に座ったサカキの大当たり。
 それらは狙いすましたようだった。

 ――幸運の女神なんかじゃない。
 ――あれはサカキのパフォーマンスだ。


509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:24:28.64 ID:jv2VOdVk0
 遠隔操作だ。
 そんな違法行為ができるのは、
 店でも幹部クラスの人間だ。

 サカキは、ロケット団と繋がっている。
 それも、おそらく、深い所に……


510 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:26:42.78 ID:jv2VOdVk0
 このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
 悪の塊のようなサカキに、正義をかざしたら逃げられる。

 悪を倒すために、悪を成す。
 それでもイーブイにしたことは……


××「なぁに、暗い顔してんのよ、レッド」


511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:35:22.76 ID:jv2VOdVk0
 待合室の人工の光が、少女の横顔を照らした。

カスミ「このハナダの人魚姫が、アンタに会いにきたっていうのにさッ」

レッド「……」
カスミ「なんで……、じゃないわよ。
    あたしはアンタの助けなりたいって言ったじゃん。ほら!」

 その優しさがあたりまえのように、カスミがレッドに手をのばした。


 深夜の静寂な、暗がりの待合室。
 そこには悪の美学とは正反対の、快活な少女の笑顔があった……


   ■■ 悪の美学/了 ■■


546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:36:45.65 ID:jiLA6u8A0
   ■■ 朋輩の質量 ■■

 タマムシのファミレス。

カスミ「……あんた、朝から胃袋ブラックホールね」

 どこかの悟空さん並の勢いで、食事の皿の山を形成していくレッドさん。

レッド「……」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「挨拶がわりって、何に対してのよッ!」
レッド「……!」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「いや、うん、あのさ――自分の肉体への挨拶って何よ!?」


 カスミの嘆息に、レッドは首をかしげる。
 肉体を鍛えるのは、荒々しいバトルをするレッドの基本なのだ。


548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:50:01.29 ID:jiLA6u8A0
 もぐもぐ、むしゃむしゃ。
 
カスミ「……あ、あー、あたし、ドリンクとってくるね!
    レッドは何飲む? っていうか、レッドの好きな飲み物ってなに?
    知りたいなァ、あたし」もじもじ。

 チラ。

 もぐもぐ、むしゃむしゃ。

レッド「……?」
カスミ「ニャースなんて被ってないわよ!
    レッドの馬鹿。もう知らないッ!
    いいわよ、カスミ特性激辛ミックスを作ってやるわよ!」


 カスミが怒って去っていく。
 なぜ怒ってるんか見当もつかないレッドさん。
 とりあえず、食べつづけた。


549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:53:04.79 ID:jiLA6u8A0
××「もし、そこの貴方。もしかしてレッドさんですか?」
レッド「――」

 声の主に顔をむける。
 そこには和服姿の、お淑やかな令嬢といった感じの女がいた。

 指名手配中のレッド。
 名をあてられ、かなりビビる、が、肉だけは食い続けた。

 もぐもぐ、むしゃむしゃ。


550 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:04:17.48 ID:jiLA6u8A0
レッド「……」ジー。
××「……」ジー。

 見つめあう男と女。
 レッドの反応に困った女は、あらあら、と首をかしげるだけだった。 

カスミ「何、見つめあってんですか、エリカさん……」ムカ

エリカ「あら、カスミさん。ご無沙汰しておりますわ」

 ふわっと花が咲いたように、エリカが微笑んだ。


552 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:10:52.74 ID:jiLA6u8A0
 慎ましく料理を食べるエリカ。
 談笑の中心である、カスミ。
 そして、いやもう、なんか食べる描写しかないレッドさん。

カスミ「それで、エリカさん。
    頼んでいたレッドの件なんですけど……」

レッド「……」ピクッ。

 重たい話題に、エリカは箸を置く。

エリカ「ええ、まずはトキワの森の件ですが――。
    この実行犯が、レッドさんでない証拠を掴みました」

カスミ「やったァ! ねえ、聞いたレッドッ!?」
レッド「……」

554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:19:21.58 ID:jiLA6u8A0
エリカ「マサラへの通報者。それと証言者たち。
    どちらもロケット団の構成員であることが判明――」

エリカ「それとグレンジムのカツラさんに検証してもらった所。
    オーキド博士からもらった時点のヒトカゲのレベルでは、
    アレほどの大規模な火災が起きるはずがない、という結果がでました」

カスミ「へー。ところでカツラさんは、元気?」
エリカ「はい。去年のジムリーダーの集会以来ですが、
    お変わりないようです」

カスミ「じゃあ、またヘンなクイズばっかり考えて、うむー、うむーとか? あはッ」
エリカ「クイズ馬鹿じゃなければ、仲良くしたいのですが」

カスミ「うわァ……ほんとエリカさんって、時々キツーイ!」
エリカ「しかたありませんわ。
    どのクイズも、答えが分かってしまうので、面白味がないんですもの」


557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:32:41.00 ID:jiLA6u8A0
 女子二人の談笑に、レッドは戸惑っていた。

エリカ「レッドさん」
レッド「……」

 真剣な顔でエリカはレッドを見つめる。

エリカ「言ったとおりです。
    トキワの森について冤罪を晴らすことができます。
    現在、全力で私たちのチームが、確固たる証拠を集めています」


558 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:36:48.91 ID:jiLA6u8A0
エリカ「ですから、レッドさん。
     冤罪と誤解を晴らすためにも、私にすべてを話してくれませんか?」


 赤の他人のレッド。
 それも極悪人の烙印を押されたこどもに。
 何故ここまでしてくれるのか分からなかった。

 まるで難解な数学の問題を突きつけられてるかのようだ。


560 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:48:25.73 ID:jiLA6u8A0
レッド「――――」

カスミ「……はァ。あんたって筋金入りの〝鈍チン〟ね」
エリカ「あら、その発言は殿方の下のことですか?」
カスミ「んなわけあるかいッ!」

 わいわい、わいわい。

 僭越ながら、私が代表しましょう、とエリカ。

エリカ「なぜ貴方に手を差し伸べるのか、という質問に答えましょう。
    それは――カスミさんが私の『朋輩』だからです」

 ほうばい。
 仲間という意味だ。


561 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:08:39.26 ID:jiLA6u8A0
エリカ「人に助けを求めるのが苦手で、
    暴れまわるギャラドスに、一人で立ち向かう。
    そんな意地っ張りなカスミさんが、
    プライドを捨てて、『助けて欲しい人がいる』と頼ってきたのです……」

レッド「……」

 レッドが眼をやると、カスミは顔を赤くして、そっぽを向いた。

エリカ「ならば朋輩として助けるのが、このエリカの矜持じゃありませんか」

 その気高さにレッドは戸惑った。


563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:27:46.62 ID:jiLA6u8A0
 ごっほん、というワザとらしい咳払い。
 今度はカスミの番だった。紅潮した顔でレッドを睨んだ。

カスミ「そしてアンタはあたしを助けてくれた。
    アンタは一人、あたしのコイちゃんへの想いに気づいてくれた。
    だからあたしは助ける。アンタはあたしの仲間よ。迷惑だなんていわせない。
    ――レッドの為なら、いつでもプライドなんて捨ててやるわよ!」


レッド「――――」

 胸が温かくなる。
 その感覚に、困惑するレッド。
 久しぶりの感覚だった。

 仲間。
 朋輩。
 かつてレッドにも、それはいた。

 グリーン。
 マサラで唯一の、幼なじみで、ライバル。
 いまは殺意をもって、彼に呼ばれるけれど――。


565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:34:51.67 ID:jiLA6u8A0
 すっと緑茶を啜ったエリカ。
 
エリカ「貴方が逃亡してから、13件。
    13件も、ロケット団員の粛清、および支部の壊滅が確認されています。
    どの事件にも、あなたの姿が確認されました」

レッド「……」

エリカ「……復讐、ですか。なんて哀しいッ。
    たった10を超えただけの少年が、茨の道を歩むのを、私は見ていられませんッ」

エリカ「レッドさん。
    貴方が一人で抱える理由が、どこにあるというのですッ」



エリカ「私もカスミさんも、あなたの力になりたいのです。
    ――よかったら、私を朋輩と認めてくれませんか?」
 

 戸惑っているレッドに、エリカが柔らかい笑みを向けた――。


569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:01:30.17 ID:jiLA6u8A0
 この復讐は渡さない。

 トキワの森の想いも、
 死んでいったポケモンたちの慟哭も。
 託されたロケット団への怒りも。
 無実の自分を追いやったマサラへの悲しみも。

 ぜんぶ、ぜんぶ。


 常にそんな想いがレッドの腹の底で滾っていた。

 ――しかし。


570 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:03:30.48 ID:jiLA6u8A0
 しかし。

 エリカ、カスミ。
 この二人は、そんな暗い想いまでも、受け入れてくれる。
 きっと叱ってくれる、泣いてくれるかもしれない。

 レッドの胸に温かいものが広がっていく。嬉しいのだ。


571 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:06:55.71 ID:jiLA6u8A0
 カスミが手を差し出してきた。

カスミ「あたしも、そのホウバイってやつなんだからね。
    ほら、誓いの握手。誓いのチューよりは、カンタンでしょ?」

 冗談めかしていったカスミは、やっぱり頬が紅潮していた。
 そっぽ向いて勝気な顔のカスミ。



 その意地っ張りな横顔に、レッドは数ヶ月ぶりに、笑った。
 とてもおかしそうに、そしてそれは、エリカとカスミが騒ぐくらいの、満面の笑みだった――。


607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:23:20.61 ID:jiLA6u8A0
 しばらく食後の団欒をしていた時だった。

サカキ「やァ、レッドくん。相変わらずだな」

 店員が片付ける食器の山を見て、サカキが人の良さそうな顔で近付いてきた。

レッド「……」
サカキ「昨日のイーブイ、助けたんだろ?」
レッド「……」こくり。
サカキ「爪が甘いが、君らしいな」
 
 と、親しげにレッドの肩に手をおく。

エリカ「…………」


610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:32:16.07 ID:jiLA6u8A0
カスミ「レッド、このおっさんと知り合いなの?」
サカキ「ハハハ、まあ40をとうに超えているが、若いつもりだったんだが。
    せめてオジ様が望ましいな」

カスミ「俺はサカキだ。まあ、レッドくんの悪友といったところか」
レッド「……」

カスミ「へー。歳の離れたホウバイね」

サカキ「朋輩? ハハハ、渋い言い回しだな。
    ――生憎だが、そいつは違うだろうな、なァレッド?」

レッド「……」こくり


612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:44:06.87 ID:jiLA6u8A0
エリカ「もしやサカキさん。貴方は、あのトキワの――」
サカキ「ほう、もう何年も姿を暗ましていたのだが、まだ俺の名は世に通っているようだ」

カスミ「え? トキワのサカキって、もしかして伝説のジムリーダーの?」
サカキ「伝説かどうかはしらないが、そのサカキで間違いない」

レッド「……」
カスミ「えッ? そんなことも知らずに、オジサンと仲良くなってたの?」


 ― サカキは『おっさん』から、『オジサン』に進化した! ―


エリカ「ジム戦の砦。難攻不落。
    一時期、『ポケモンマスター』を目指す若者が減少するほどの兵ですわ」


616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:23:55.12 ID:jiLA6u8A0
 サカキの表の顔。
 それよりもレッドは、『ポケモンマスター』という響きに心動かされていた。

 かつてマサラを旅立った時に、
 オーキドが語り、グリーンが目指したもの。


 ――なぁ、レッド。
   どちらが先にポケモンマスターになるか、勝負しようじゃないか?

 いつかの、もしかしたら朋輩と呼べただろう、同郷の少年の声が蘇る……

 その言葉の数時間後。
 トキワの森でレッドは地獄を見るのだが――。


617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:38:33.03 ID:jiLA6u8A0
エリカ「そんなお方に会えるなんて、今日は吉日ですわね。
     よかったらサカキさん、座ってくださいな。
     ジムリーダーの責務を放棄して、行方を暗ましていたのでしょう?
     我々ジムリーダーの信用を落とした謝罪なんかを、ぜひ聞きたいですわ」

 ニコッと悪意のない笑み。
 そのわりに言葉の含みは辛辣だった。

サカキ「遠慮させてもらおう。
    おっ、これはトマトジュースかな?
    なんだ、飲まずに片付けるなら、頂こうじゃないか」

 カスミが作った特性激辛ドリンクに、サカキは手をだした


618 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:54:53.60 ID:jiLA6u8A0
カスミ「――あっ!(ま、いっか)」

 その後の展開が楽しみで、本気で止めないカスミ。

 ごく、ごく、ごく、ごく……
 豪快に飲み干すサカキ。
 唖然とする三者。

カスミ「……」
エリカ「……」
レッド「……」

サカキ「ごちそうさま。喉を突き刺すイイ喉越しだ!」


620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:04:18.20 ID:jiLA6u8A0
 サカキは別の席で注文をとり始めた。


エリカ「逃げられましたわ。
    ジムリーダーを束ねる者として苦言したかったのですが。
    ヤマブキのナツメさんは、ロケット団員宣言で失踪してますし。
    残念ですわ」

レッド「……」

カスミ「っていうか、うっそでしょー。
    厨房から唐辛子やハバネロとか借りてきて作ったのにッ」

レッド「…………」
カスミ「えッ? そんなものを飲ませようとしたのかって?
    いや、あの、そのォ、ごめん、レッド!
    だから、――らめぇぇ、そんな醒めた眼であたしを見ないでぇぇ!!」


621 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:16:06.89 ID:jiLA6u8A0
     ■■■

  ― 同時刻。タマムシ、上空 ―


 そこには巨大な赤き炎竜の姿。
 タマムシの家々や地面に、暗い影を落としている。
 青空に浮遊しているリザードンに、気づき始めた人が騒ぎ始めていた。

 リザードンの背には、二つのロケット団員の影。

622 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:25:13.04 ID:jiLA6u8A0
 地上で騒ぎ始める人々を見下ろして、不敵に笑う男と女。
 
ムサシ「何だかんだと聞かれたら!」
コジロウ「答えてやるのが世の情け!」


コジロウ「世界の破壊を防ぐためって――おいおい、マジでやるのかよォ。
      いくらボスの命令でも、俺こえぇよッムサシィ!」

ムサシ「黙らっしゃいッ。ボスの命令は絶対よ!
     だからこそボスに内緒で、ニャースに手配させてるんじゃないさ!」


 タマムシの空に、緊張した二人の声が響く。


626 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:27:34.89 ID:jiLA6u8A0
コジロウ「でもよォ。これじゃ、本当に悪役だぜぇッ!?」

ムサシ「ハナからロケット団は悪の組織じゃないか!
     給料天引きなんて、あたしはゴメンだわ!
     ――ニャース、聞こえるッ!?」

 ムサシと呼ばれた赤紫髪の女が、無線機をとって声をあげる。


ニャース『聞こえてるニャ!
     ポケモンたちも逃がし終わってるニャ。
     いつでもOKニャ!』


627 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:34:36.29 ID:jiLA6u8A0
ムサシ「怖じ気づいてるんじゃないよコジロウ!」

コジロウ「あァ、あァ、分かりましたよォ!
     やってやるぜ。ムサシ一人にやらせて堪るかい!」

ニャース『ボスから指令メールが来たにゃ、40秒で支度しニャッ!』


629 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:50:29.28 ID:jiLA6u8A0
 リザードンがギロりと二人を視た。
 ――まだか? という視線。
 それに怯えながら、よし、と二人が頷いた。


コジロウ「男コジロウ。咲かせてみせよう悪の華」
ムサシ「連れ添いますは、時代の徒花ムサシ」


ムサシ・コジロウ「いけぇぇぇ、リザードン! 火炎放射だぁぁ!!」

 ――ぎゃしゃァァァァアアアア!!

 リザードンの濁流のごとき炎が、とある森と建物に放たれた。
 ロケット団員たちの狙いは、森に囲まれたタマムシのジムだった……

      ■■■


642 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:47:35.95 ID:P3Oe5s7J0
 ――タマムシ、ファミレス内。


 破壊音と人々の悲鳴が轟いた。

エリカ「――何事ですのッ!?」

 ガラス壁の向こう側で、炎があがっていた。

カスミ「エリカさん、あの方角って――」
エリカ「はい。あの森は私のジムですッ」
レッド「――――」


644 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:59:12.81 ID:P3Oe5s7J0
 エリカの携帯が鳴った。

エリカ「エリカです。一体何が起こったのですか?」

 携帯越しにジム関係者と会話するエリカ。
 それをレッドとカスミが見守っている。

 すぐに向かいます、とエリカは携帯を閉じた。

エリカ「ロケット団の襲撃です。
    リザードンの火炎放射で
    我がタマムシジムが破壊されてました」

カスミ「そんなッ! 
    エリカさんの所が襲われる理由なんてないのに……」

エリカ「いえ、一つあります――」

 エリカを見つめた。

645 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:02:02.34 ID:P3Oe5s7J0
レッド「……」
エリカ「はい、理由はレッドさんでしょうね」
カスミ「え?」

エリカ「トキワの森の放火の冤罪。
    サントアンヌ号の、ナツメさんの協力。
    ロケット団は、レッドさんに何かしら執着していますよね」

エリカ「そしてナツメさんの発言」


 ――この少年を覚えておくがいい!
 ――この少年がいずれ、人類の大いなる敵になるだろう

 
エリカ「何故かロケット団はレッドさんを追い詰めたいように見えます」

エリカ「これはレッドさんの冤罪を晴らす為に動いてる
    私への報復と脅しと見て間違いありません」


646 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:08:41.82 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「なんなのよ、ロケット団は!
    こんな酷いことして、レッドに何をさせようっていうのッ!?」

レッド「……」

 エリカは和服をなおし、席を立った。

エリカ「楽しい席でした。それでは失礼します」

  たたたたたッ、からん、ころん。

 カウベルの音を残して、エリカが去った。


647 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:14:06.81 ID:P3Oe5s7J0
 レッドが立ち上がる。
 
レッド「……」
カスミ「罪悪感で動くんじゃないでしょうね?」
レッド「――」?

 深刻な状況なのに、レッドは軽く返した。
 カスミは驚いたあと、嬉しそうな声をあげる。 

カスミ「アンタも分かってきたじゃん。
    そうよ、朋輩だもんね。行くっきゃないって」
 
 そういって二人して席を立った。

 ファミレスを出る際。
 気取られないように振り返る。


 燃えさかる森を、コーヒーを啜りながらサカキは見つめていた……


648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:25:44.19 ID:P3Oe5s7J0
     ■■■

  ― サカキ ―

 我が麗しの悪友、レッドが去っていった。
 コーヒーを啜りながら、団員の仕事っぷりを眺める。

 ――だめだめだな。
   人もポケモンも、逃がしてると見た。

 まだ壊せた筈だ。
 まだ燃やせた筈だ。
 まだ殺せた筈だ。
 まだ轟かせた筈だ。
 まだ慄かせた筈だ。
 
 まだ、まだ、まだ、まだ――。

 腹の底で、滾る悪意の塊。
 頭蓋の芯に埋め込まれた、冷たい悪の因子。

 仕事をこなした団員たちの、悪の足りなさをなじりたくもある。


650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:38:34.40 ID:P3Oe5s7J0
 まあ、いい。
 所詮は手足。
 心や頭ではない。
 芯がないのだ。
 
 ――悪い病気は、俺だけが持っていればいい。

サカキ「ごっほッ、くッ――」

 吐血するサカキ。
 机の上にポタポタと滴る、赤い雫。

サカキ「チッ、もっと手筈を踏んで、計画に臨みたかったんだがな……」


 ――さぁて、クライマックスの幕を開こうか。


    ■■■


652 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:48:46.92 ID:P3Oe5s7J0
 ――タマムシジムの森近く。

 エリカの背に追いついた。

カスミ「エリカさん、状況はッ?」
エリカ「はい。被害は森とジムのみ。
    人もポケモンも、予め避難していたようです」

レッド「……」

エリカ「はい、なんでも、喋るニャースが、
    爆弾を巻きつけて乱入。
   『早く非難しないと爆発させるニャ』などと呻き、
    それが本物の爆弾だったので、みなさん避難を。
    ――その避難のとたんに、この放火です」

カスミ「……なにそれ?」


653 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:54:03.97 ID:P3Oe5s7J0
 燃えさかる森を見て、レッドが拳を握りしめた。その時だった――。


 地面に大きな影が落ちた。
 上を見上げれば、青空を竜が飛行していた。

カスミ「なに、あのリザードン。こっちに向かってくるッ!」


 その竜は、ゆっくりと地面に降り立とうとしていた。


655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:58:41.64 ID:P3Oe5s7J0
 バッサ、バッサ、バッサッ――。

 翼による風に、レッドは帽子を押さえた。

レッド「――――」

 その邪悪な顔をした炎竜は、
 それに似合わない慇懃な礼をとるように、
 静かにレッドに向かって頭を落とした。

 リザードンの鼻先付近を、レッドは軽くなでた。
 それに対してリザードンは、なんの抵抗もせず受け入れた。


 ――それはレッドの最初の仲間だった、ヒトカゲだった。


656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:12:39.24 ID:P3Oe5s7J0
 リザードンの背にのる二人が驚いていた。

コジロウ「おいおい。あの暴れん坊が、ガキに頭をさげたぞォッ!?」
ムサシ「あんなジャリボーイに? うっそでしょォ!」
コジロウ「わっけ分かんねー」
ムサシ「おい、アンタ、早くアジトに飛び立ちなさいよ!」

リザードン「――――」ギロリ。

コジロウ「……あの、よろしければ、ぼくたち家に帰りたいなぁーって」

 リザードンは、ふんっと二人を落とし、尻尾で二人を遠くへ打ち上げた。


ムサシ・コジロウ「やな感じィィィィイイ――」

 謎の愉快なロケット団員は星になった。


658 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:27:43.63 ID:P3Oe5s7J0
エリカ「このリザードンは、レッドさんの」

カスミ「間違いないわ。
    だって、ロケット団に調教されてる筈なのに、
    こんなにレッドに哀しい眼を向けてる……助けて欲しいのよッ」

 ギャラドス事件の経験が、そうカスミに強く確信させていた。


レッド「…………」


×××「おいおい、そのリザードンは、レッドくんのじゃないぞ」

 その男の声に、三人が振り返った。


661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:36:15.87 ID:P3Oe5s7J0
 ――ポン。
 ――ポン。

 モンスターボールの開閉音。
 その刹那、スピアーとサイドンが激突していた。

 スピアーの角のような両手が、サイドンの角を抑えつけていた。

レッド「――――――」
サカキ「ふん」

 睨むあう両者。
 状況に追いつけない、カスミとエリカ。 


サカキ「そいつは我々が奪い取った、
    正真正銘、我がロケット団のリザードンだ」


663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:50:31.01 ID:P3Oe5s7J0
 燃える森を背景に、悪と赤が対立する。

レッド「……」
サカキ「俺の本性? 化かし合いを続けて、ロケット団に近づきたかったか?
     そんなもの、ここでたった今断ち切ってやっただろうが?」

サカキ「戦っていた土俵から、理不尽に降りるのも有効だぞ」

カスミ・エリカ「……」ごくり。


664 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:58:02.65 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「レッド、こいつがロケット団だって知ってたの?」
レッド「……」こくり。

エリカ「まさかジムリーダーが、ロケット団だなんて。
    やはりサカキさん。貴方とはお話する必要がありそうですわね」

                     オレ
サカキ「話、か。善のおまえ達に、悪の言葉は通じないさ」
     ――うむ、改まって自己紹介といくか」

 赤いネクタイを緩め、サカキが酷薄な顔を浮かべた。


 ――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?


702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:07:49.74 ID:P3Oe5s7J0
   ― 4年前。シオンタウン ―

 その深夜、一夜限りの戦火があがっていた。
 ポケモンタワーに挑むように、ロケット団の軍勢がいた。
 ロケット団が関わった事件では、最大規模の戦力が集結していた。


 


703 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:10:29.26 ID:P3Oe5s7J0
 ――ポケモンタワー、前方。

 マチスによる、マルマイン60匹による大爆発の音が轟く。
 ビル一つ崩壊させるほどの爆発。標的はポケモンタワーだった。

 ――ドゴォォォォォォオオオオンッ!!!!!

 爆炎と煙に包まれながらも、ポケモンタワーの影は健在だった。
 その影を見上げて、舌うちをする、一人の男。


マチス「シット! あの野郎、完全に立てこもりやがったッ!」


704 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:12:27.02 ID:P3Oe5s7J0
 ――ポケモンタワー南、崖の上。

 そこにマルマインの攻撃を見物する一人の影。
 

団員「キョウ様。ゴルバットたちの超音波による、情報の結果が出ました!」

 その報告に、忍びの装束の、気難しい顔の年配男がうなづく。

キョウ「すぐにナツメ嬢の部隊に結果をまわせ。
    なお残りの団員は、引き続き調査に当たるべし……」

団員「「「ハッ。承知致しました!!」」」


キョウ「マチス殿の大爆発をモノともしないか。
    愛らしい姿とは裏腹。超越的な力をもっているな、あのポケモン……」


706 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:25:46.73 ID:P3Oe5s7J0
 ――ズゴゴゴゴォォォォオオンッ!!!
 

 空中部隊のプテラ、カイリュウたちのの攻撃。
 29もの破壊光線が、ポケモンタワーを襲った。
 
 が、すべて見えない壁に防がれてしまった。

 死霊の塔。
 ポケモンの墓場。
 シオンに聳える荒廃な聖域。

 そのポケモンタワーは、特別な力で守られているようだ。


 ――部隊の雑用係りたち。

コジロウ「うへー、ATフィールドかよ~!」
ニャース「おみゃーは何をいってるニャ」
ムサシ「アンタたち、遊んでないで手伝いなさいよ!」


708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:36:52.44 ID:P3Oe5s7J0
 ロケット団の目的。
 それはタワーの破壊ではない。
 追いつめた筈のポケモンを炙り出す為だった。
 
 サカキの念願が、塔に逃げて籠城してしまったのだ。    


サカキ「――――ッ」

 塔を仰ぎ、舌うちをするサカキ。


710 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:38:29.56 ID:P3Oe5s7J0
 ――ポケモンタワー、近く。エスパー部隊。
 
 そこにはまだ幼さが残るナツメがいた。

ナツメ「オジさん。ケーシィが情報つかんだって!」


 ――バッシッ。
 容赦なくサカキが、ナツメの頬を叩いた。

 まだ10を超えて間もないナツメ。 
 涙を浮かべて、サカキを見上げた。

サカキ「年配者への口の聞き方を教えてやろうか?」


711 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:40:37.12 ID:P3Oe5s7J0
 教えてやろうか?
 それは虐待的教育のことだった。
 ペルシアンに刻まれた腕の傷を思い出し、ナツメが震えた。

ナツメ「……申し訳ありま、せん」
サカキ「超能力のせいで、忌み嫌われたおまえを救ったのは誰だ?」
ナツメ「サカキさまです」
サカキ「何故、おまえは拾われた」
ナツメ「?」


712 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:43:20.54 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「おまえの世界への悪意が、
     俺の優秀な駒に成りえるからだ。
     チェスでいうなら、まだビショップ。
     成長すれば、クイーンにもなりえる駒だ」

ナツメ「……」

サカキ「そして俺はキングではない。
    キングすら操る、打ち手だ。
    その俺を不快にさせる駒など入らん」

ナツメ「――捨てないでください!
    あんな醜い世界に戻りたくありません」

 泣き言ながらも、キッと強い眼光でサカキを見据えた。


716 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:44:59.99 ID:P3Oe5s7J0
 エスパー少女。
 マスコミのお約束だ。
 持ち上げて、手のひら返し。
 忌み子、呪われた子。超能力でのイタズラ。
 そういった悪評を撒き散らされ、家族崩壊にまでなってしまった。

サカキ「その醜い世界を、俺が壊してやる」

 ――おまえは俺の背中を見て育てばいい。

 戦火を酷薄な顔で観賞するサカキ。
 その背中を見つめ、ナツメは拳に力をいれる。
 悪。その背中。その背中が、ナツメを強く突き動かす。

ナツメ「ハッ!」

 戦火に照らされた少女の顔には、もう幼さは消え失せていた……


717 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:51:01.09 ID:P3Oe5s7J0
 エスパー部隊。キョウの調査部隊。
 その報告をまとめ、ナツメが読み上げる。

          
サカキ「そうか、ヤツはある筈のない8階を形成し引きこもったか」
ナツメ「ハイ。物理攻撃は無駄かと。ATフィールド発動中です」

サカキ「ATフィールド?」
ナツメ「いえ。エスパー学における専門用語です」

サカキ「俺が欲しい報告じゃないな。ヤツを捕獲する手立てはないのか?」


ナツメ「それが……あッ、ア、ぐぁッ」

 突然、頭を押さえ、苦しむナツメ。
 その脳裏には、未来が足早に映し出されていく。
 断片的なそれに、ナツメは吐き気を覚えた。


 ――これは四年後の、ポケモンタワーの予知だ。


718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:52:35.56 ID:P3Oe5s7J0
 いくつかの断片予知。
 その一つがナツメにとって衝撃的だった。

 ――その予知では、ナツメは少年に殺されるのだ。


サカキ「予知がきたか。もちろん、ヤツの捕獲についてのだな?」

 そうでなければ使えない。
 そんな声色でサカキがナツメを見下ろした。

ナツメ「……はい」


 その予知の内容を、ナツメは語った。


719 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:54:45.34 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「きははは、そうか。マサラの少年が餌か」

サカキ「まっさらなマサラが育む精神!
    確かに伝承では『純粋な心の持ち主に姿を見せる』だったな」

サカキ「それでは我々がいくら向かった所で意味がない」

ナツメ「どうされますか?」
サカキ「全軍、引け。俺は四年後に備える」
ナツメ「……サカキ様」

サカキ「おまえの犠牲が必要ならば、払え。その命」

サカキ「――醜い世界を壊す礎となれ」
ナツメ「ハッ。ありがたき光栄です」

 ――私一人の力じゃ世界は壊せない。
   でも悪の権化の、このお方ならば……


720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:57:23.77 ID:P3Oe5s7J0
 全軍が引いていく。
 サカキが聳えたつタワーを振り返った。


サカキ「――待っていろよ、幻のポケモン、ミュウ。
    俺の悪意が、貴様を呑みこんでやる」

 きはははははははははははははッ!!



ナツメ「――マサラの少年、か。
    私はどんなヤツに殺されるのだろうな」
  
 四年後。ナツメはトキワの森で、その少年と出会った――。


   ― 四年前/了 ―


723 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:46:54.66 ID:P3Oe5s7J0
 ――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?

 その発言後、レッドとサカキの戦闘が始まった。

 スピアーとサイドン。
 圧倒的に力負けのするスピアー。
 速さと毒で翻弄されるサイドン。

 両者の角と針が火花を散らす姿は、
 さながら主君の名誉をかけた騎士の殺しあいだ。

 が、その勝負を打ち切ったのは、やはりサカキだった。


725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:48:14.56 ID:P3Oe5s7J0
 リザードンの背にのるサカキ。
 レッドを見つめるリザードン。

レッド「……」
サカキ「ふん、これ程ナラしたリザードンすら、おまえに好意を抱くか。
    ――だからこそ、おまえが必要なのだレッド」

カスミ「ちょっとアンタ、タダで帰るつもりじゃないでしょうねェッ!」
エリカ「あら、お茶の席を用意致しますのに。
    きっちり絞り上げて、証言をお聞きしたいですわ」

 ふたりはモンスターボールをかまえた。
 

サカキ「残念だが、遊びは終わりなんだよ」

 
 すっとサカキが手をあげると、リザードンが炎を吐いた。


726 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:50:50.77 ID:P3Oe5s7J0
 サカキとレッドたちのまえに、炎の境界線が引かれた。

 バッサッ、バッサッ、と飛び始めるリザードン。

サカキ「レッドよ」
レッド「……」

サカキ「どんな苦難を与えても、貴様は悪に染まらなかった。
    そこの正義ったらしい娘たちを仲間と思うくらいだ。
    もう、俺が歩んだ道に、踏み外すことはないだろう」

 ――喜ばしいが、本心としては残念だ。

 バッサッ、バッサッ、バッサッ――。

レッド「…………」
サカキ「シオンタウン。ポケモンタワー。
    そこの最上階を、決着の舞台としようじゃないか」

サカキ「待っているぞ。レッド――ッ」

 シュッバッ―――。

 サカキをのせたリザードンが、遥か上空に飛び去っていった。


727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:57:34.66 ID:P3Oe5s7J0
 ――数時間後、タマムシ郊外。


 レッドは巨大なイーブイの背にのった。
 向かうはシオンタウン。ロケット団の頭を叩く。
 
 ――たぶん、そこにナツメも、と一人の女を想うレッド。

カスミ「こら、レッド! もう行くつもり?」
エリカ「あらあら。カスミさんも寂しがり屋さんですわね」
カスミ「エッ、エリカさんだって、そうじゃないですかぁッ!」

 振り返ると、朋輩と呼んでくれた少女たちがいた。

エリカ「レッドさん。私はジムの件でお伴できません――これを」

 そういってエリカはたくさんのバッチを手渡した。

レッド「……」
エリカ「これは全てのジムバッチの真贋です。
    ジム戦でもらえるバッチは、すべてこれのレプリカなのです。
    バッチはリーダーを束ねる、このエリカの管轄ですので、
    ――かるく本部から拝借してきましたわ」

 ふふふ、と笑うエリカ。


エリカ「きっと貴方の才とポケモンの力を、バッチが大いに強化してくれますわ」


728 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:58:41.88 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「さっきのバトルを見て、私は足でまといだって分かった。
    でもだからって、逃げるつもりはないわ。私はエリカさんを手伝う。
    だから、私は、こんなことしかできないけど――」

 民族衣装のカスミが、静かに踊り始めた。

 そのゆったりなリズム。幻想的な姿。歌声。
 まるで大海を見守る、人魚を彷彿させられる。

 見えない力に、守られているような気分だった……

 ジャン、タッタタ、ランッ――

 最後のステップを決め、カスミが頭を下げる。


731 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:12:45.67 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「これ、ある神秘の水島に伝わる、伝統的な踊りなの。
    眉つばなんだけど、旅人に加護を与えるんだって!」

レッド「――――」
カスミ「で、どうよ? 御利益ありそう?」

 顔を真っ赤にしたカスミが、上目遣いでレッドを見つめた。

レッド「……」こくり。


732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:13:59.19 ID:P3Oe5s7J0
 胸のまえで両手をあわせて、カスミが満面の笑みをみせた。

カスミ「そう、よかった! レッド、いってらっしゃい!」
エリカ「あなたの帰りをお待ちしていますわ」


 レッドは別れを告げ、イーブイにのり駆けだした。
 向かうは、シオンタウンの、ポケモンタワーだ。


734 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:17:01.91 ID:P3Oe5s7J0

 流れていく花々や木岐の景色。
 近代的な建物すら、とても柔らかい色をしている。
 虹色のようなタマムシの風景を、レッドは跡にする。

 カスミとエリカ。彼女たちが託したモノ。
 それは眼にはみえないものだ。
 
 しかしレッドは想う。


 ――それはタマムシシティのような、鮮やかな色のような気がした。


 ――なかま、か。
 イーブイの背で、レッドは強く拳を握りしめた。
 

 
  ― タマムシ にじいろ ゆめのいろ ―


   ■■ 朋輩の質量/了 ■■■


746 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 04:59:40.68 ID:4bOMnMUK0
   ■■ ミュウ ■■

  ◇ 桜咲くカフェテリア ◇ 


 ――ポケモンタワー、入口の洞窟前。

 岩壁に寄りかかっているナツメがいた。

ナツメ「――よく来たな坊や」
レッド「…………」

ナツメ「ここでおまえと我々ロケット団。
    どちらかが潰れることになるだろう」


ナツメ「まぁ、万が一にもサカキ様が負けるなどありえないがな」

 と、ナツメはシニカルな笑みを浮かべた。


747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:05:01.77 ID:4bOMnMUK0
レッド「――」
ナツメ「久しぶりにあったと思ったら、ずいぶん嫌な顔になった」
レッド「……」

ナツメ「なんだ、その緩みきった顔は。
    以前のおまえは、もっとギラついていたぞ?」

レッド「――」
ナツメ「故郷は、社会は、家族は、同郷のグリーンは……
    みなお前を怨み、恐れ、遠ざけているというのに――!」

ナツメ「だというのに、たいそう善人な顔をする。
    まるで『決闘者』だ。復讐者のそれではない。
    ――なぜ、なぜ、そんな顔ができる……」

 苛立ちげに、ナツメが睨む。
 それを真っ当から受け止めるレッド。


749 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:14:23.11 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」
ナツメ「ただ坊やに会いたくなっただけさ」
レッド「……」
ナツメ「私は心理学者じゃないんだ。会いたくなった理由なんて知るか。
    ――まあ、これが最後だからだろうさ」

 そっぽを向いて、ナツメがいった。

ナツメ「おまえはこの塔の8階で、サカキ様と戦う。
    そして何故か、私はここでお前に殺される……」

レッド「……」
ナツメ「それが私が見た、予知の断片だ。
    ちなみに私は、予知を外したことはない」

ナツメ「――いや、一度だけ、あったな」
レッド「?」

 ふっと儚げに自嘲するナツメ。


750 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:20:59.43 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「だれかと。――そう。だれかと一緒にいるんだ。
    どこかのカフェだった。硝子を隔てた向こうには、桜が散っていた。
    そこで私は楽しげにだれかを、からかいながらコーヒーを啜っていた……」


 ――アレはだれだったんだろうな。


 一瞬、温かい顔をのぞかせたナツメ。
 それもすぐに、いつものクールな顔に切り替わる。

ナツメ「結局、そんな未来は訪れなかった。
    ――いまの私からしたら、キモち悪いほど幸福な予知だったよ」

レッド「……」


751 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:25:55.88 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
ナツメ「私は入らない。ここで塔内部を監視するのが、サカキ様の命だからな」

レッド「……」
ナツメ「サカキ様に従う理由だと?
    先に私の居場所を奪ったのは、おまえ側の住人なんだよ」


ナツメ「私はサカキ様に従う。この世界を壊してくれるならば!」

 ――ザッ。 

 大きく一歩ナツメに踏み出すレッド。
 額がぶつかる程の至近距離で、レッドが宣言した。


752 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:28:17.69 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」

ナツメ「――なッ?」

 驚くナツメの横を通り過ぎて、レッドは洞窟内に入っていった。


753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:30:16.55 ID:4bOMnMUK0
 レッドが去って行った。

 ナツメは塔を見上げた。
 灰色の雲がシオン全体を覆い始めた。

 ポツ、ポツと雨が降り始める。


ナツメ「私をサカキ様の呪縛から解く――か。
    レッド、だから私はおまえが嫌いなんだ」

 ――救済を求めるには、私の手は汚れ過ぎてるんだよ。

 ……ざぁぁぁぁ。


  ◇ 桜咲くカフェテリア/了 ◇


757 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:01:14.94 ID:4bOMnMUK0
 ――ポケモンタワー内部。
 

 暗闇をピカチュウの電気が照らす。

 墓標。墓標。墓標。墓標。墓標……。


 薄気味悪い風。妙な視線。遠くから聞こえる怪音。
 如何にもユウレイが現れそうな空気だった。

レッド「……」


 ある気配に、レッドとピカチュウが、バッと振り返った……


760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:02:32.95 ID:4bOMnMUK0
 暗がりの中に黒い影の群れ。
 全ての影がにゅるりと形を変えていく。
 ポケモンの墓場。幽霊がいても納得の場所だ。

 その群れに、レッドは見覚えがあった。
 
レッド「……」

 その群れはレッドが助けられなかったポケモンたちだった
 燃やされ、レッドの成長の生贄になり、死んでいった虫ポケモンたち。
 旅の途中で助けられず、ロケット団の餌食になったポケモンたち。

 いつの間にか虚ろな群れが、レッドとピカチュウを囲んでいた。


761 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:04:20.91 ID:4bOMnMUK0
 ――ぴかァ、ぴかァッ!

 ピカチュウが幽霊に訴えかける。
 しかし、その声は空しくなっていく。


 レッドは攻撃を躊躇していた。
 安らかに眠っていただろうか。
 世に未練を残していたのか。

 群れは、レッドの手をつかみ、見上げ、足にしがみつく。

 虚ろな顔で、墓場に引き込むように、ゆったりと、ゆったりと……。


762 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:06:22.76 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」

 ――ドン。

 レッドの脳裏に、地獄の記憶がよみがえった。
 燃え朽ちていく、トキワの森という地獄を。
 罪悪感。復讐心。そういった感情が蘇っていく――。


 その時だった。
 すべてを打ち消すような、衝撃音が轟いた。


763 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:07:39.74 ID:4bOMnMUK0
 ――ジィィィイイインッ!!!

 一条の太い光が、一瞬、墓場を昼に変えた。
 その光は影を消し飛ばし、タワーの壁に穴をあけた。
 タワーは元の暗がりを取り戻す。壁の向こうには、シオンの暗い空。

 コツ、コツ、コツ、コツ――。

レッド「……」

 この技は、ソーラービーム。
 まさか、とレッドが振り返る。


グリーン「たっぷり日光浴させて正解だったか」

グリーン「なにせ天下の大悪党のレッドくんに、借りを作れたんだからな」


 そこにはクールで嫌みったらしい、
 フシギバナを連れたグリーンがいた。


766 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:11:04.19 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」

 先に睨みあいを降りたのはグリーンだった。
 歩み寄り、ポンとレッドの肩をたたく。


グリーン「タマムシのリーダーからマサラに伝達があった」

グリーン「――レッドが無実だってな。
      いまレッドの冤罪を晴らすために、エリカさんたちによる情報合戦さ」

レッド「――」
グリーン「オレはおまえを憎んじまった。
     オーキドの爺ちゃんが、せっかくおまえに夢を託したのにってよ……」

レッド「……」
グリーン「いまはオレは、自分が許せない。
     このクールな俺サマが、人一倍甘ちゃんな幼なじみを信じられなかったことが……」

グリーン「――レッド、俺を殴れ」

 
 墓場に、レッドの一撃が轟いた。


768 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:15:22.73 ID:4bOMnMUK0
グリーン「――本当に殴るヤツがあるか!」
レッド「……………?」
グリーン「ちくしょう。そうだよ、おまえはそういうアホだったよ」

 頬をさすりながら、グリーンはニヤついた。
 憎しみで自分を見失っていたグリーンも、やっとらしさが出てきたようだ。

グリーン「悪かった」
レッド「……」
グリーン「あぁ、言いっこナシだ。さっさとケリ、つけに行こうぜ」


 ――二人はコツンと、拳を突き合わせた。

 これから最終決戦をまえに、マサラの少年二人の最強タッグが誕生した。


769 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:19:07.78 ID:4bOMnMUK0
 二人が拳を突き合わせた時だった。

 さぁぁっと薄気味悪い霧が晴れていった。
 まるで一本の道を作るかのように、薄気味悪い霧が晴れていく。

 それを辿った先に、巨大な階段が現れた。


 ボッ、ボッ、ボッ、ボッ――。
 燭台のロウソクに、勝手に火が点されていく。

 暗がりの階段から、恐ろしくも神秘的な空気。
 気を抜くと、一気に違う世界に呑み込まれそうだ。


グリーン「へぇ、俺たちに、来いってかぁ?」
レッド「……」

 二人は階段をあがっていった。


772 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:42:02.17 ID:4bOMnMUK0
     ■■■

 ――ポケモンタワー前。

 ――ざぁぁぁぁ。

 ナツメが雨に濡れていた。作戦中である。
 塔内部でレッドたちを観察するユンゲラー。
 その念を受け取り、逐一サカキに無線で報告していた。


 洞窟の入り口に手をのばす。
 やはり入れない。透明な壁があるようだ。
 悪意ある者は、入れないって所らしい。

ナツメ「……」

 胸騒ぎがする。

 ――くそォ、随分飛ばされたなぁ、という男の声。

コジロウ「おぉ! あそこの洞窟で雨をしのごうぜ!」
ニャース「賛成ニャ。ニャーの紳士的な毛並みが台なしニャ」
ムサシ「うっそォ、やぁだ! アレってポケモンの墓場じゃないさ」


774 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:44:41.49 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「……何をしているんだ、おまえたち」

 どこかで見たことある顔ぶれ。
 たしか下っ端の構成員だった筈。

コジロウ「あァ! ナツメ様だ!」
ニャース「ニャーたちには、それはそれは、
     リザードンよりも高く、カビゴンの胃袋より深い理由が……」

 雨にぬれるナツメ。
 それをじーっと見つるムサシ。

ムサシ「あんたこそ、何してんのさ。そんな顔で」

 
 ――ざぁぁぁぁぁ。


775 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:51:41.68 ID:4bOMnMUK0
ムサシ「ハハーン、男を追いかけたそうな顔だわね」
ナツメ「馬鹿な。あんな坊やなんて、年下過ぎて男として――」
ニャース「……だれも坊やかニャんて聞いてニャいな」ボソ。


コジロウ「コラ、ムサシ、ナツメ様に向かってなんていう口の聞き方をォ……!」
ムサシ「いくら幹部では、アタシたちよりも、ぐんと下の小娘じゃないさ」

ナツメ「……ふん」

ムサシ「どんな事情があるか分かんないけどサ。
     さっさと追いかけなさいよ」

 ――似合ってないんじゃない、そーいうの。

 ムサシの訴えかける眼。

ナツメ「まるで私をそこらの女扱いするんだな……」

 再度、洞窟の入り口に手を伸ばす。

 ――なぜかナツメも、入れるようになっていた。


776 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:55:11.18 ID:4bOMnMUK0
 ――無線機を落とし、洞窟に消えたナツメ。

コジロウ「あぁ、あぁ、必死になって走っていったよ。
     クールな所が、チャーミングだったんだけどなぁ」

ムサシ「まったく女ってもんを分かっちゃいないわねぇ」
ニャース「おみゃーが女を語るニャ」
コジロウ「似あわねー」

ムサシ「うっ、うるさいわねアンタたち!」

 ――ガ、ガ、ガ、ガァァ。

コジロウ「おい、なんかコレから聞き覚えのある声がするぞ」
ニャース「にゃんだ、にゃんだぁ!?」


 地面に落ちた無線を、コジロウがとりあげる。
 その機械からはロケット団の首領の声がした……


    ■■■


778 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:17:46.07 ID:4bOMnMUK0
 ――そこは、ある筈のない8階だった。
 まるで静謐な空気が漂う寺院のようである。

レッド「……」
グリーン「あぁ、持ってるけど、何に使うんだ?」
レッド「――」
グリーン「まぁ、いいけどよ。ほら」

 そういって、レッドはモンスターボールを受け取った。

 グリーンは伽藍とした8階を見渡した。 

グリーン「特に、何もナシ、と。
     おいレッドォ、オレたち化かされてないか?」
レッド「……」

 レッドは迷わず、中央の祭壇。
 そこに置かれた、とある石板のまえに立った。

 レッドは古代ポケモンが描かれた石板に触れた。


 ――しゅっばァァァァんッ!!!!!


 レッドが石板にふれた瞬間。
 眼を覆いたくなる光が天を貫いた……


779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:29:43.42 ID:4bOMnMUK0
 石板が光柱の中に浮かんでいる。

レッド「―――――」
グリーン「なんだ、こいつはァ!」

 石板の上に漂う、
 一匹の小柄なポケモンが、
 ゆっくりと瞼を開いた。

レッド「……」
ミュウ「――」


781 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:31:37.56 ID:4bOMnMUK0
 マサラの少年レッドと
 幻のポケモンであるミュウが出会った。


        7月6日。
     ここに立ち入る人間が
     再び現れるとすれば
    心優しき人で在らんことを
     今ここに其の願いを記し
      この地を跡にする
 
       ― フジ ―

 
   ■■ ミュウ/了 ■■


787 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:40:53.98 ID:4bOMnMUK0
  ■■ マサラタウンのレッド ■■

 
 神々しい8階に乱入者が現れた。

 荒々しく壁を破壊してやってきたソレは、
 リザードンの背で邪悪な笑みを浮かべた。

サカキ「気を抜いたなミュウ!!」

 ――バサァッバサッバッサァ。

 突っ込んできたリザードンの牙が、ミュウに喰らいついた。

リザードン「ぎゃしゃぁぁぁあああ!!!!」

 狭い室内に風が吹き荒れ、レッドは帽子を押さえた。

レッド「……」
グリーン「あいつが、ロケット団首領かッ!」


788 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:49:46.70 ID:4bOMnMUK0
 地面に降りたっていたサカキ。
 そのまえに供物を捧げるように、
 リザードンがミュウを差し出した。

 バッサッ、バッサッ、バッサ。


 ――みゅうッ。

サカキ「予知のとおりだな。マサラの純白な精神。
    レッド、おまえはいい餌だったよ!」

 サカキはボールを投げた。
 それを払おうと尻尾をふるミュウ。

ミュウ「――!」

 が、あっさりミュウを捕獲してしまった……


 そのボールは、人類の叡智が生んだ傑作。
 どんなポケモンでも捕獲するという、マスターボールだった。


789 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:50:55.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」

 状況を掴めない、レッドとグリーン。

サカキ「きはははッ。ついに、ミュウを捕獲したぞ!
     四年越しの捕獲劇も、ついに閉幕――」

 ――これで俺の野望が遂げられる!


790 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:57:10.64 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
 
 スピアー、ギャラドス、イーブイ、ピカチュウ。
 すべての手持ちポケモンを出し、レッドは戦いに挑もうとしていた。

サカキ「おいおい、まさか、『決着の舞台』とやらを信じているのか、おまえは?」

レッド「――」
サカキ「四年前から俺の狙いは、このミュウ一匹。
    いまさらオマエと戦う理由が、何一つないんだがね?」

 ――またしても、戦いから逃げるサカキ。
   同じ土俵に立とうとしない、根っからの策士だ。


791 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:58:27.88 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ガキ相手に逃げだすなんて、カッコ悪いんじゃない?」
サカキ「グリーン、か。ポケモンバトルをしよう、とでも?」
グリーン「分かってるじゃんか。出せよ、ポケモン」

レッド「――――」

サカキ「うむ、早速こいつを使ってみるのも、一興か」

 サカキはミュウのボールをかざした。

 先手必勝。レッドはスピアーに攻撃を指示。


 その時だった。


794 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:01:38.86 ID:4bOMnMUK0
    ■■■

 ――たッ、たッ、たッ、たッ、という足音。

 幻の8階に辿りつくと、レッドの姿があった。
 ナツメはレッドに向かって走りだす。


 ――たッ、たッ、たッ、たッ。

ナツメ(レッド。レッド。レッド――!)

    ■■■


795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:03:39.15 ID:4bOMnMUK0
 世界が暗転した。


 ――ナツメの胸を、スピアーの針が穿った。

ナツメ「――あ」

レッド「――――――――――――――」


 急に飛び出してきたナツメ。
 深々と刺さる、巨大な針。
 ゆっくりと崩れていくナツメの躰。

グリーン「……」
サカキ「――予知が当たったか」

 のしかかってきた、
 ねっちょりしたナツメの躰を、
 レッドは抱きしめた……


796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:11:01.95 ID:4bOMnMUK0
サカキ「きははは――。
     そうか、レッド、おまえもついに人を殺めたかッ!」

レッド「……」

サカキ「それも女。極上の女をッ。悪の女を!」


 高笑いしているサカキ。
 その顔がすぐに屈辱に変わる。

 ナツメ殺害でできたスキに、
 ピカチュウが、マスターボールを奪ったのだ。


 ――ぴっ、ぴかちゅう!

 誇らしげなピカチュウの声がした。


798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:21:46.41 ID:4bOMnMUK0
 懐に飛び込んできたピカチュウをやさしく抱きとめるレッド。

サカキ「なッ、それは、まさかッ」


 レッドの足元で溶けていくナツメ。
 それは変身が得意な、メタモンだった。

グリーン「仕込みバッチリ成功だなレッド!」
レッド「――――」

 ――パンッ。

 マサラのコンビの、軽快なハイタッチが響いた。


799 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:24:16.00 ID:4bOMnMUK0
 レッドはミュウを外に出し、マスターボールを投げた。
 それをスピアーの針が貫く。


 ――びき、びき、パリンッ。

 マスターボールが砕け散った。
 どうやらサカキの狙いは、このポケモン。
 ならば、それを徹底的に阻止。

 これがいまのレッドによる、サカキへの有効打である。


800 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:27:51.65 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「やってくれたな……」


 ――みゅう。

 幻のポケモンが、大いなる力をふるった。

サカキ「――なん、だと……?」

 8階にいるすべての者を、ミュウが放つ虹色の光が包み込んだ


   ――しゅうん。
 
 そして8階には誰もないくなった……。

802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:30:47.33 ID:4bOMnMUK0
   ――しゅうん。

 
 ミュウの力により、テレポートさせられた。

 そこは焼け野原だった。
 いくつか残された大木も黒こげだ。
 
レッド「……」
グリーン「ここって、まさか、アレだよなぁ?」

 
サカキ「――ここはトキワの森だ」


 その声に、レッドたちは身構えた。

 空中ではミュウが自由にとびまわっている。


804 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:33:49.92 ID:4bOMnMUK0
 空で遊ぶミュウを見上げてサカキがつぶやく。

サカキ「――生きてる間に、捕まえられそうにないな」


レッド「……」

サカキ「レッド、おまえの勝ちだ」
レッド「――――」
サカキ「ロケット団は、解散だ。
    レッド、俺はな、ありがちな病気にかかり、
    ありがちな死に様を晒す、一歩手前なんだ」


805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:35:42.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「もう半年もない命。
    悪を、もっと悪を成すためには、長い寿命が必要だった。
    ――できるならば、ミュウの力で、不老不死になりたかったんだがなぁ」

グリーン「悪行の為に不老不死……あんた、狂ってるぜ」

 しゅぼッ。
 サカキは煙草をくわえ、火をつけた。
 
サカキ「――ふん。悪なんてものはな、俺にとっては食欲と同じなんだ。
    狂ってるもなにも、悪をしなきゃ、死ぬくらいだ俺は。きははッ」

806 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:38:05.52 ID:4bOMnMUK0
サカキ「さて、俺は退散させてもらおう。
    悪がべらべら、犯行理由を喋るのは、ナンセンスだからな。
    ――おまえたちに語るのは、悪ボスのごくごく一部。
    格好が悪いところを見せたのは、ちょっとした愛嬌だよ」

レッド「―――」
サカキ「あぁ、ロケット団は、本当に解散だ」


808 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:06:38.03 ID:4bOMnMUK0
レッド「―――」
サカキ「まだ犯罪を犯すのか、か。それを俺に聞くかレッド?」

サカキ「犯すさ。
     ロケット団という手足を使わずとも、
     この頭脳で、この心臓で、この滾る悪の血潮でッ。
     ――俺という人間は、死ぬ間際まで悪を貫こう」

 レッドは、一歩、一歩。サカキに近づいた。


 睨みあう両者。
 

レッド「――――――――――――――」


809 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:07:34.16 ID:4bOMnMUK0
 最上階についた時、レッドの姿を見つけた。
 その刹那、私は虹色の光に包まれた。

 それがテレポートの類だとは、エスパーポケモンの使い手として熟知していた。

 

 気がつくと私は森の茂みに倒れていた。
 空を見上げれば、青空と入道雲。
 ――素直に、キレイだ、と私は思ったのだ。


810 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:10:19.82 ID:4bOMnMUK0
 私は立ち上がり、
 現状を把握するため、
 あたりを窺った、その時だ――。


レッド「――――――――――――――」


 聞き覚えのある少年の声。
 私は茂みや木岐のすきまを煩わしく歩く。

 するとすぐに眼前には、私の心をかき乱す少年。

 
 その少年の快活な声に、私の鼓動が跳ねあがった。


  ――さぁぁぁあああああ。
 
 トキワの森の風が、私の髪をちらした。


   ―――………


811 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:17:17.39 ID:4bOMnMUK0
 トキワの森に、涼しげな風が吹いた。
 まだ根強く生える草花がなびいている。
 レッドはモンスターボールをかまえた。 



  レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」


      ――サカキ、ポケモンバトルしようぜ!


 まっすぐな眼で悪を見据え、
 レッドが挑戦状を叩きつけた。
 勇ましくも、楽しそうな少年のような顔で。

 トキワの森の空に、ミュウの楽しげな鳴き声が響く……

 

   ― トキワは みどり えいえんのいろ ―


    ■■ マサラタウンのレッド/了 ■■


819 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:45:31.16 ID:4bOMnMUK0
 ■■ ポケットモンスター ■■

    ― 後日談 ―

 
  ――2日後、トキワの森。


 何時間も続いた、レッドとサカキのバトル。
 両者共に、すべてを出し切った、激闘だった。

 スピアー、ピカチュウ、サイドン、
 イワーク、イーブイ、ギャラドス、リザードン、
 ニドキング……

 すべてのポケモンが、須らく主役であった。


821 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:51:48.00 ID:4bOMnMUK0
 ――兵達の夢のあと。

 もうそこに争いの気配はない。
 涼しげな風が吹くくらいだった。

 
サカキ『レッド。おまえの勝ちだ。
     そして、もう俺を追うのはやめろ。
     餓鬼は餓鬼らしく、もっとマシな道を歩けよ。 
     ――あと善人に近づかれると、持病が悪化しちまうのさ』


 そう言い残して、サカキは姿を暗ました。
 生涯、あの男と会う機会は巡ってこないだろう。


823 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:57:35.10 ID:4bOMnMUK0
 あの肌が焦げつくようなポケモンバトル。
 2日前の熱の名残りを求めるように、
 レッドは荒廃しているトキワの森にやってきた。

  それに付き添うグリーン。

グリーン「おい、あいつ、こっちに来るぞ」

 ここ2日、トキワ周辺を飛び回って、世間を騒がせているミュウ。
 その空中で遊んでいたミュウが、レッドのまえに降り立った。

 ――みゅう、みゅう、みゅー、みゅ?

レッド「――――」


 唐突にミュウから、光が放たれた。
 それも今度はトキワの森全土を包む巨大な光だ……。


824 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:09:38.30 ID:4bOMnMUK0
 ものすごい勢いで草木が生え始めた。
 さながら森が生き物のようだった。

 元に戻るのではない。
 新しい森が生まれようとしているのだ……。


 トキワ本来の、濃厚な森の匂いがした。


 ――気がつけば、立派な森が誕生していた。

 ミュウが遠くの空の彼方に飛んでいった。
 もうあのポケモンとも、会うことはないだろうな、とレッドは思った。


 ――ありがとな、ミュウ。


825 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:12:48.56 ID:4bOMnMUK0
 新しく生誕した森に、グリーンの素っ頓狂な声が響いた。

グリーン「これからどう生きて行けばいいのか分からない~!?」
レッド「…………」こくり。

 ずっと復讐の日々だったレッド。
 そして最終目標だった、ロケット団の解散。
 もうレッドには、やるべき目標がないのだ。


レッド「……」
グリーン「あぁ、だったら、よォ。ものは相談なんだが……」

グリーン「俺とポケモンマスターを目指そうぜ。
      どちらが先に頂点に立つか、勝負だ!」

 そういって、グリーンが手を差し出した。


826 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:14:33.20 ID:4bOMnMUK0
 力強い眼で、レッドを見つめるグリーン。
 まるでマサラを旅立った日のやり直しだった。

レッド「……」
 
 そして、あの時のように。
 レッドはその手を握り返した。
 ぐッと力強い握手が交わされた。


828 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:23:05.66 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ところで、レッドくゥん!」

レッド「……!」
グリーン「ポケモンマスターのまえに、だ。
      君には達成するべき任務があるんじゃないのかな?」

 ニヤつくグリーンが、レッドの肩を叩く。
 耳打ちをするように、ぼそりとグリーンがいった。

グリーン「いいか、レッド。
      年上の女は、押しに弱い。強気で当たれレッド」

レッド「――」
グリーン「なんのことだ、じゃない。すぐに分かる」
レッド「……」

グリーン「――タマムシに、桜咲くカフェテリアがある。
     そこにデートに洒落こんでみな。良い雰囲気の店だぜ」

レッド「――――――」

 じゃあな、と手をあげて、森を去っていくグリーンだった。

832 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:37:26.05 ID:4bOMnMUK0
 グリーンとすれ違う、一人の女。

 トキワの森の入口。
 そこには始まりの女、ナツメがいた。
 まるで本当に旅立ちの日のやり直しだ。

ナツメ「……」
レッド「……」

 お互い見つめあい、黙りこんだ。

 先に根をあげたのはナツメだった。

ナツメ「――色々。本当に色々。
    おまえには言わなきゃいけないことがある……」

ナツメ「すまなかった、ありがとう。辛かったか? 傷は癒えたか。
    ……初めに何をいえば相応しいのか、会うまで悩んでもいた」

レッド「……」


835 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:45:58.15 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「しかし、おまえに会った瞬間、言葉が全部消えてしまった」
レッド「……」

 ――さて、どうしたもんかな。

 唇に指をあて、儚げな笑みを浮かべるナツメ。
 毅然としたナツメの、ほんの一瞬だけ見せた、脆さ。


レッド「――――――」

ナツメ「――え?」


836 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:54:26.89 ID:4bOMnMUK0
 『よかったら桜咲くカフェテリアにいかないか?』


 桜咲くカフェテリア。
 それは唯一当たらなかった予知。
 悪意まみれの世界で生きるナツメにとっての、
 ある筈のない、やわらかく、嘘みたいに幸福な光景。


 ナツメの頬を涙が伝う。

ナツメ「こんな所にあったのか……」


837 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:05:18.22 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「レッド、私はおまえが好きだ!」
レッド「―――――」

 毅然とした顔が、柔らかい笑みに変わった。


 ――初めっから大切なものは、まっさらで。
    初めっから、すぐそばに転がっているらしい。
    


838 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:07:45.32 ID:4bOMnMUK0
 レッドは、トキワの森に、ポケモンを還した。

 スピアー、イーブイ、ピカチュウ、サカキから取り返したリザードン。
 どれもロケット団に調教された、可哀そうなポケモンたちだった。
 これからレッドは新しい道を歩く。彼らにもそうして欲しかった。


 『野生にお帰り』

 そうレッドとナツメが、ポケモンたちを見送った。

レッド「……」
ナツメ「……」

 ぎゅっとナツメは、レッドの手を握り締めた。


 ――二人はトキワの森を跡にした。


841 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:26:21.44 ID:4bOMnMUK0
   ― 数ヶ月後、近況 ―


 カスミはミス・ハナダに選ばれたことを、
 レッドに自慢したり、衣装をお披露目したりした。

 ちかごろ彼が連れ添っている女と
 衝突している光景は、もうお約束だ。


 タマムシの再興に尽力するエリカ。
 彼女は忙しいながらも、裏で暗躍したりしている。
 どうやらバッチの件は、借りだったらしい。
 朋輩が聞いてあきれるが、これもエリカの冗談なのだろう。

 その後ロケット団の噂が、頓と途絶えた……


843 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:36:00.39 ID:4bOMnMUK0
 とあるカフェテリア。

ナツメ「そこはエスパーポケモンで攻めるべきだ」
レッド「――――――」
ナツメ「それはオマエの嗜好だろうが。
    いいかレッド。もっとゴリ押しじゃなく、相性を――」


 そこにいるのは、
 復讐者のレッドでも、
 世界を怨むナツメでもない。

 純粋にポケモンを愛する二人の、
 いつもと変わらないポケモン議論に花が咲いていた……


844 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:37:07.67 ID:4bOMnMUK0
 
  動物図鑑にも載っていない。
   不思議な不思議な生き物。
   
    ポケットモンスター。
     略してポケモン。

    これはそんなポケモンと、
     少年レッドの物語。


 
      ■■ 完 ■■


847 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:43:06.39 ID:4bOMnMUK0
これにて完結です。
保守・支援さん、読んでくれていた方。
本当にありがとうございました。


コメント

イイ話ダナー

No title

これは傑作

No title

これは凄い 懐かしいですわ( ;∀;)

No title

これはすごい

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