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レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:30:41.66 ID:Eoo/7SUi0
   ■ 始まりの森 ■


 トキワの森の独特の空気が、少年レッドを圧倒していた。
 頭上を覆う枝や葉による暗さ。そのすきまから差す柔らかな陽。
 その光の筋が雨のように降り注ぐ道を、一歩、また一歩。
 
      ――がさッ。

    ――がさッ、がさッ。

『トキワの森には近づくな』
『巨大な蜂のバケモノに殺される』

 それがマサラで育ったレッドが聞かされた迷信だった。
 大人はみんなレッドやグリーンのような子共を脅し育てた。
 もちろん、それは子供を危険な遊び場に近づかせないための策だったのだろうけど。

 これがレッドにとっての、初めての冒険だった。

 胸を焦げつかせる、新しい出会いと冒険の道が――。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:32:56.99 ID:Eoo/7SUi0
   ――がさッ。
 

???「――ほう、予知夢どおり、現れたか」
 森の入口付近で、レッドは綺麗な女と出会った。

 女は一際大きな大木の下で、冷たい眼でレッドを見つめた。

レッド「……」
???「おまえが私を知らなくても、私はおまえを知っている」

 ――マサラタウンのレッド。未来のロケット団の敵だ。

 妖艶に笑う黒髪ロングのカノジョ。
 彼女の抱える胸の中には、安らかに眠るピカチュウがいた。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:37:37.47 ID:Eoo/7SUi0
 ――ロケット団?

 黒い制服に、首もとの白いスカーフ。
 そして何よりも女の制服には、赤文字の『R』のマークがあった。
 それはポケモンの犯罪集団、秘密結社であるロケット団の証明だった……。


レッド「……」
???「私の名はナツメ。近い将来、おまえに殺される女だ」


 そして苛立ち気に、ナツメは舌うちをした。


   ――チッ!


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:43:28.86 ID:Eoo/7SUi0
 それがレッドにとって、初めてのマサラ以外での出会いだった。

 すべての未来を怨んでいる。そんな眼をレッドは受け止める。
 勝手に殺人者にされた。これだけで女とは無関係ではない。そんな風にレッドは思った。


 突然、ボッという大きな音が轟いた。
 それに釣られるように、すぐさま森が悲鳴をあげ始める。

 ナツメの背後で、黒煙があがり始めた。
 トキワの森が、燃え始めていた……。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:46:37.35 ID:Eoo/7SUi0
 レッド「……」

 クックック、とナツメが笑い始めた。


 ナツメ「始まったか。トキワの森一掃計画が」
 レッド「……」
 ナツメ「おまえに説明する義理はないさ――ユンゲラーッ!」

 ナツメが鋭く叫ぶと、ユンゲラーが現れた。

 ナツメ「かなしばりだ!」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:53:38.58 ID:Eoo/7SUi0
 ユンゲラーのかなしばりで、レッドは身動きが取れなくなった。
 ナツメはレッドに、ピカチュウを投げつけた。
 腹にぶつかったピカチュウが、地面で呻いた。さっきまで優しかったナツメに助けを求めるように。

レッド「……」
ナツメ「敵に塩を送るというやつか。酔狂だな、私も――。
    我が敬愛なるボスがいうには、トキワの森のポケモンは強靭らしいぞ?
    ためしてみては、どうだ?」

 ごそごそとナツメがレッドの装備からモンスターボールを抜きとる。

ナツメ「ふっ、予知どおり。ヒトカゲか。
    こんな希少なポケモンは、
    マサラで隠居してる翁にはもったいない。
    この子はもらっていくぞ。こいつは我がロケット団の巨悪のために
    役立つだろう……」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:55:23.56 ID:Eoo/7SUi0
レッド「……」
ナツメ「何が、なんだか分からない、って顔だが、それでいいのか?」
レッド「……」


ナツメ「おまえの理解を待つほど、現実は生温かくないということだ。
    もうすぐやってくる理不尽な現実は、私からのおくりものだ」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:00:25.47 ID:Eoo/7SUi0
ナツメ「愚かだな、私は。未来は変わらぬモノだと知っているのに……」

 ユンゲラーの頭に触れて「テレポートだ」とナツメが命令した。
 彼女は消える寸前、さびしそうな顔をオレに向けた。

   ――しゅん。

 そこにナツメの姿はなく、
 レッドの冒険の門出を呪うように、
 陰惨たる黒炎が、トキワの森を焼きつくしていた……


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:04:54.86 ID:Eoo/7SUi0
 悲鳴をあげる森のポケモンたち。
 木岐が爆ぜる音。ピカチュウの慟哭。
 それらから眼を背けたくても、かなしばり状態のレッドは、嫌でも凝視するしかなかった。
 ロケット団。その制服をきた男たちが、ポケモンを捕獲、虐殺する風景までも――。
 
レッド「……」

 ざぁざぁとトキワの森が雨に包めれ始めた。
 かなしばりが解け、ピカチュウを抱きかけた時だった。


×××「レッド! こんな所で何をしているッ!」


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:12:00.90 ID:Eoo/7SUi0
 森の入口付近で佇みレッドを睨んでいる、幼なじみのグリーン。
 いつものクールな仮面は剥げ落ちている。グリーンの眼には殺意が宿っていた。


 呆然としているレッドに近づき、グリーンは頬を殴り飛ばした。
 近くにいたピカチュウが、ぴかぁ、とグリーンに威嚇の声をあげる。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:13:58.95 ID:Eoo/7SUi0
グリーン「オーキドの爺ちゃんの所に通報があった……」
レッド「……」


グリーン「マサラの少年が、トキワの森を燃やしているってなぁッ!
    ……レッドッ、おまえのヒトカゲはどうしたァァァァァァァ!!」
 
レッド「――ッ」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:16:48.29 ID:Eoo/7SUi0

『君の理解を待つほど、
 現実は生温かくないということだ。
 もうすぐやってくる理不尽な現実は、
 私からのおくりものだ』


 ナツメがいう、おくりものの箱を、少年レッドは否応なく開いてしまった……。


   ―― ポケットモンスター ――


 
 ■■■ 始まりの森/了 ■■■


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:32:50.85 ID:Eoo/7SUi0
  ■■ Golden bridge ■■


 ―― 一ヶ月後、ハナダシティ。

 通称ゴールデンブリッジ。
 その橋のまえに、うす汚れた外装の少年がいた。
 帽子とフードで顔は窺い難い。ただ平和的な姿ではないのは明らかだった。

×××「……」 


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:35:43.17 ID:Eoo/7SUi0
 怪しい少年に、むしとり少年が声をかけてきた、

虫とり「ポケモンバトルしないか」

 ゴールデンブリッジには、戦いに飢えたトレーナーがたくさんいるのだ。
 虫とり少年以外にも、橋には4人のトレーナーが、こちらの様子を窺っていた。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:37:58.26 ID:Eoo/7SUi0
×××「……」
雑魚「え、ぼくら全員と戦うだって? 早く終わらせたい? 
   ――君、ぼくを雑魚だと勘違いしてない!?」

 怪しい少年の豪胆な発言に、ゴールデンブリッジに荒れる気配があった。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:42:09.55 ID:Eoo/7SUi0
 5人対1人の戦いの火蓋が切られた。


虫とり「さて! おまえに 抜けられるかな?」
ミニスカートA「ふたりめは わたし! これからが、本番よ!」
たんパン「そう簡単にはイカせないぜ!」
ミニスカートB「そろそろバテてきたんじゃない」
ボーイスウト「きえーいッ! おれが あいてだ!」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:46:15.02 ID:Eoo/7SUi0
 5人抜きすれば
 豪華賞品『きんのたま』がもらえるという条件で、
 ポケモンバトルが始まった。


 彼/彼女らが一声にモンスターボールを投げた。
 キャタピー、ニドラン、アーボ、ズバット、マンキーが現れた


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:53:49.35 ID:Eoo/7SUi0
×××「……」


 それが戦いの合図のように、怪しい少年は宙にモンスターボールを投げた。
 高く打ち上げられたボールの軌道を、だれもが固唾を呑んで見守った。
 少年の尋常じゃない雰囲気が、彼/彼女たちを呑みこんでいた。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:59:15.83 ID:Eoo/7SUi0
 ――コトン、とボールが地面に降りた。

 その瞬間、

虫とり「糸を吐いて動きを封じろ」
ミニスカA「二ドラン、体当たりよ!」
たんパン「かみつけぇ!」
ミニスカB「いけぇぇ」
ボーイスカウト「ひっかいてやれぇ!」

 申し合わせたように、全員が攻撃し始めた。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:01:12.72 ID:Eoo/7SUi0
×××「……」

 ――が。
 落ちたボールに向かっての攻撃が、すべて宙を切っていた。

5人「――え?」


 少年が投げたボールは、空っぽだったのだ。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:09:12.29 ID:Eoo/7SUi0
   ――コトン。

 5人の背後で、何かが落ちる音がした。
 振り向いた瞬間、すべてが終わっていた。
 

×××「……」

 二つの巨大な針を5人に向けて構えたスピアー。
 その赤い大きな昆虫の眼球が訴える、
『串刺しにするぞ』
 という兇暴な意思に、ただただ5人は圧倒された。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:13:22.10 ID:Eoo/7SUi0
ボーイ「君、人へのポケモンの攻撃は……
    いや、よそう。負けだ。ぼくらの」

 たった数秒で、少年は5人抜きを達成した。
 このバトルは後々ゴールデンブリッジの伝説になった。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:20:35.91 ID:Eoo/7SUi0
ミニスカA「いつのまに後ろにボールなんて……」

ボーイ「空のボールがダミーだったんだろう。
    地面に落ちる寸前まで、ぼくらは怒りと緊張状態。
    いつ投げたのかは分からないけど、つけ入る隙がいくらでも、ね」

 ――殺意がなかったところからすると、
    何か生き急ぐ理由が彼にはあるようだな、とボーイは思った。
    

虫とり「なんて虫が好かんやつだ」

他4人(虫とりの虫ギャグうぜー)


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:26:21.01 ID:Eoo/7SUi0
×××「……」
 少年は二つのボールを拾って、すぐに立ち去ろうとしていた。
 その後ろを、ちょこちょこと、ピカチュウがついてまわる。

 ボーイスカウトが握手を求めた。
 少年は両手で握り返し、ぶんぶんと上下させ、ボーイスカウトを戸惑わせた。

ボーイスカウト(変わった子だなぁ)

 少年との別れ際。
 ボーイスカウトは、少年の謝罪の声を聞いた。

 ――ごめんなさい。
 と、確かに、そう聞こえたのだ。

ボーイ(あいつの顔、どっかで見たような。いや、まさかね。指名手配犯なわけ……)


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:42:05.43 ID:Eoo/7SUi0
 パチパチパチという拍手が聞こえた。
 ゴールデンブリッジを抜けようとした時だった。

団員「5人抜きおめでとう。
   そして人間に躊躇なく牙をむける、
   その醜悪な精神。すばらしいよ!
   君、ロケット団って慈善組織に、入らないかい?」

 と、少年を勧誘する、ロケット団の制服姿の男がニヤついていた。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:45:04.60 ID:Eoo/7SUi0
×××「……」

団員「え? ナツメ様を知っているかって?
   知っているとも。我らがロケット団の幹部だからな」

 いきなり少年はポケモンを出した。

 ボールから出現した瞬間から、
 すでにスピアーは荒ぶっていた。


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:51:31.98 ID:Eoo/7SUi0
団員「――なっ!」

 男はとっさにアーボで応戦。しかし一瞬でピカチュウの10万ボルトに倒れた。
 そのスキにスピアーがロケット団員を串刺しにしようと急接近。

団員「くそったれ!
   次だ。いけ、ギャロップッ!!」

レッド「……!」

 ボゥッと火を吹く、猛々しい眼のギャロップ。
 高レベルだと分かる圧力を少年は感じとった。


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:56:15.78 ID:Eoo/7SUi0
団員「ひのこの暴雨で、焼き尽くせギャロップ!!」

 その声に呼応して、ギャロップが火の雨を降らせた。
 炎に弱いスピアーに、猛威が降り注ぐかと思われた瞬間だった。
 少年が疾駆し外装を脱ぎ棄て、それを火避けにスピアーにかぶせた。

団員「チィ!」
×××「……」

 主人の短い命令に従った軌道でスピアーは飛んだ。
 視界が外装で見えないというのに、一切の躊躇がない。

×××「……」

 ピカチュウの電光石火が、ロケット団員の腹をえぐった。


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:58:36.86 ID:Eoo/7SUi0
 地面に倒れたロケット団員。
 その首筋に、スピアーの針が触れる。
 そして男の胸を容赦なく踏みつけ、少年はスピアーから外装を剥ぎ取った。

ロケット団員「その顔はまさか――指名手配中のレッド!」


レッド「……」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:04:55.20 ID:Eoo/7SUi0
団員「あァ、怨むよなァ。
   トキワの森の実行犯にされちゃァ、
   もう故郷には戻れないよなぁ。
   いい機会じゃないか、なァ。
   逃走生活なんざ、ガキにはキツ過ぎる。
   俺から口添えしとくから、ロケット団に入れちまえよ。
   それだけの実力があれば――ひゃァッ!?」

 ドッドッドッドッドッドッドッ!
 スピアーが男の頭蓋付近の地面を穿った。
 いくつも開いた穴の数だけ、男は死を実感した。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:06:22.88 ID:Eoo/7SUi0
レッド「……」

 レッドの持ちポケモン、ピカチュウとスピアー。
 どちらも悲劇の森で生活をしていたポケモンだった。
 二匹ともロケット団に怒りを覚えているのだ。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:17:02.86 ID:Eoo/7SUi0
  ■■ トキワの森、回想 ■■

 ―― 5日前。トキワの森跡。

 そこは幼いレッドにとって地獄絵図だった。
 レッドのまわりには、何匹ものポケモンが瀕死状態で転がっている。
 息を切らし、血だらけのレッド。傷だらけのピカチュウとスピアー。
 そして、戦いの順番を待っているかのような、野生のポケモンたちがいた。

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:18:15.90 ID:Eoo/7SUi0
レッド「……」
 
 レッドは泣きながら、順番に襲ってくるポケモンを倒し続けていた。
 もう何日も、何日も、ピカチュウとスピアーのみで、戦い続けた。
 どんな手を使っても強く、強く。そんな仄暗い激動が、彼とポケモンの原動力だった。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:19:34.80 ID:Eoo/7SUi0
 そして、野生のポケモンたちは、規則的にレッドたちを襲う。

 経験を捧げるための、ポケモンの自虐行為。
 倒されるために戦い。
 復讐を少年の肩に託し。
 レッドたちに経験値を与え続ける。

 雨降る暗いトキワの森に、ピカチュウの電撃がピカッ瞬いた。

 ――また、一匹、レッドのまえに焼けこげたポケモンが横たわる。スピアーの同胞だ。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:21:22.45 ID:Eoo/7SUi0
 転がるポケモンが増えるたびに、少年は身体が重くなるのを感じた。疲労じゃない。
 それは10代のレッドが背負うには、あまりにも無慈悲なモノだったからだ。


 トキワの森にいる、すべてのポケモンが啼いていた……


  ■■ 回想/了 ■■ 


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:25:01.78 ID:Eoo/7SUi0
 巧妙な罠により、犯罪者にされたレッド。
 彼の眼が揺らぐのを、ロケット団員は見た気がした。
 まるでトキワの森の亡霊が宿っているかのような……。


団員「あァ、助けてくれぇ」
レッド「……」

 ゴロゴロと稲妻が轟き始めた。
 ポツ、ポツ、と雨が降り始める。
 ピカチュウの電気袋に、紫電が走る。

 カッ空が光った瞬間、ロケット団の男は死を悟った。
 
団員「ウギャァァァァァァァァァァァァ!!」


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 08:36:17.99 ID:Eoo/7SUi0
 バッサっと少年は外装を羽織った。
 ポケモン図鑑の機能を使って、レッドは救急車を呼んだ。
 ロケット団員は、気絶している程度だった。

 ――甘いな、というナツメという女の声が聞こえた気がした。

 それでも、それでも少年の眼はギラついていた。
 これはトキワの森の復讐代行なんかではない。


 これはマサラの少年による、ロケット団壊滅の狼煙だ――。


  ■■ Golden bridge/了 ■■


112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 16:47:17.22 ID:Eoo/7SUi0
   ■■ ハナダの霞草 ■■

 
 それはハナダシティの食堂で耳にした噂話だ。

「離れの滝で、水ポケモンが暴れてるってよ」
「すっごく兇暴なポケモンらしい」
「まるでドラゴンみたいだって」
「ハナダのジムリーダーが、戦っているとか……」

 ジムリーダーが不在な理由判明。
 ランチをがつがつ口の中へ放りこんで、レッドは立ちあがった。


113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 16:54:18.68 ID:Eoo/7SUi0
 ――滝。

 圧倒的な速度で、ポケモンが滝のぼりをした。
 そして暴竜は空へ舞い、大きな牙を少女に向け落下する。

ギャラドス「ギャシャァァァァァァァァッ――!!」
カスミ「また来たわねッ。頼むわよ。スターミー頼むわよ。
    サイコキネシスッ!!」


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:08:56.95 ID:Eoo/7SUi0
 スターミーのサイコキネシス。
 少女を呑み砕こうとしたギャラドスの頭が弾かれた。

 滝壺に落ちた巨体で、震動。そして水しぶきが舞い上がる。
 少女カスミは、眼前の水しぶきに映る、巨大な影を見据えていた。

カスミ「油断しちゃダメよ。皆、一声に攻撃よ。GOッ!」

 スターミー、トサキント、タッツー、コダックが、それぞれ叫び攻撃を放つ。

 水しぶきを蹴散らし、ギャラドスに無数の攻撃が当たる。
 ギャラドスの悲鳴が、ハナダの滝に轟く……。


115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:13:26.86 ID:Eoo/7SUi0
 カスミ「ごめんね、コイちゃん……」

 ばざんと倒れたギャラドスを、憂いだ眼で見る少女。
 
 が、しかし、強靭な暴竜は、まだギラついた殺意に燃えていた。

ギャラドス「ギャラァァァァァッ」

 滝壺の中で巨体をうねらせ、カスミに喰らいつこうと水の中を疾駆した。

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:19:48.72 ID:Eoo/7SUi0
 眼前で大きな口を開けたギャラドス。
 その暗澹たる坑内を呆然と見つめ、カスミは死を覚悟する。

カスミ(助けられなくてゴメンね、コイちゃん。みんな、私もう……)


 ――ピカァァァァァ!!

 ギャラドスの巨体に、雷が落ちた。
 今度こそギャラドスは悲鳴をあげ、倒れていく。
 水しぶきに埋もれながら、カスミは驚いていた。

カスミ(これは10万ボルト?)


118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:25:36.75 ID:Eoo/7SUi0
 カスミが振り返ると、小さな崖の上に少年がいた。

レッド「……」
 少年の傍らには、電気ポケモン、ピカチュウがいた。

 疲労した体を引きずって、こちらに向かう少年のまえに近寄った。
カスミ「あんたが助けてくれたの?」
レッド「……」


120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:32:18.90 ID:Eoo/7SUi0
レッド「……」
カスミ「……なんで謝るのよ?」

レッド「――。」
カスミ「え? あたしがこのギャラドスを大切にしてるものじゃないか、ですって?」

カスミ「なんで、この子があたしの子だなんて、だれにも言ってないのに」

レッド「……」
カスミ「なんとなくって、なんとなくってねェ、アンタッ!」

カスミ「――みんな、町のみんなが、この子を悪者扱いしてたのに、
    仲良かった友達や家族だって、気づかなかったのに……」


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:33:09.64 ID:Eoo/7SUi0
 押し殺すように、訴えかけるように、強くレッドに当たったあと。
 静かに少女は大粒な涙を流した。
(嬉しい。なんで、どうして、こんなに――)
 戸惑うレッドの胸に顔をうずめ、カスミが震える口を開く。


カスミ「ありがとう。本当に、本当に……」


122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:43:04.33 ID:Eoo/7SUi0
 ――ハナダシティ、ポケモンセンター。

 カスミと名乗った少女に
「お礼するんだから、絶対に逃がさないわよッ!」
 と半ば無理やりつき纏われたレッド。

 回復したギャラドスが入ったモンスターボールを受け取ったカスミ。

カスミ「コイちゃん、コイちゃん!」
 
 と、頬をボールに擦り寄せている。

 平和であるべきポケモンセンターは、カスミを取り残して騒然としていた。


123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:51:08.47 ID:Eoo/7SUi0
 ポケモンセンターを出た時だった。

カスミ「ポケセンの皆、なァんか変な空気だったよね。ビビってるっていうか。
    あのいつも笑顔ふりまく、クローン疑惑のある、ジョーイさんだって、なんかヘンだったわ」
レッド「……」

カスミ「え? コイちゃんを怖がってたですって? 
    しかたないけど、酷いわ!
    こんな大きくなっちゃたけど、可愛いじゃない!」

レッド「……」
カスミ「可愛いわよ!」


124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 17:51:55.48 ID:Eoo/7SUi0
 レッドはカスミに、今回のギャラドス事件の経緯を聞いた。


 またロケット団だ。
 水浴びをさせていたコイキングを、ロケット団員が連れ去ったらしい。
 ここ半年、こういったポケモン誘拐事件が多発していた。

 そして、そのポケモンは、金持ちに売られ。
 あるいは特殊なレベルアッパー的な何やかんやで強制的に強化され悪用される。


レッド「……」


127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 18:01:41.08 ID:Eoo/7SUi0
カスミ「ねェ、どうしたの? すっごくコワイ顔してるわよ?」
レッド「……」

カスミ「なんでもないって顔、してないじゃん! 嘘つき!」

レッド「……」

カスミ「あたしは、アンタの助けになりたいの!///
    アンタ、えェっと、まだアンタの自己紹介がまだだったわね」


128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 18:03:56.91 ID:Eoo/7SUi0
カスミ「もう一度、落着いて、仕切り直しね。
    あたしはカスミ。
    ハナダのおてんば人魚にして、ハナダのジムリーダーよ。
    あたしの方が年上みたいだし、少しはアンタの助けに……」

レッド「――」

カスミ「そうレッドっていうんだ。
    で、ねえレッド。なんでアンタ、ボールをかまえてるわけ?」

レッド「……?」

カスミ「ジム戦したいからって、
    こんな場所で自己紹介終わった直後にするなァァ!」


 怒鳴られて、首をかしげるレッド。

カスミ(やだ、ヘンなヤツだけど、可愛いかも///)


145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:29:50.59 ID:Eoo/7SUi0
 ――ハナダシティ、ジム。

 翌日の早朝。
 レッドはハナダのジムの扉を押し開いた。
 暗闇が広がっていた。ぽちゃん、と水の跳ねる音が聞こえた。

レッド「……」
カスミ「ようこそ、レッド。あたしのジムへ」


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:33:42.31 ID:Eoo/7SUi0
 電灯が点いた。
 レッドのまわりには巨大な水槽の壁。
 まるで水槽の中を泳ぐポケモンたちに観察される虫けらのような気分だった……

カスミ「助けてもらってアレだけど、あたしはジムリーダー。
    背負っている期待を裏切らないわ。全力でアンタの挑戦を受けつけるわ!」

レッド「……」

 ――カスミの合図で、レッドのジム戦が始まった。


148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:36:28.72 ID:Eoo/7SUi0
 広いプール。
 それが戦いの場だった。
 いくつもある岩の足場。
 そこから滑り落ちたら、一巻の終わりだった。

 プールの底では、カスミの独壇場だ。

カスミ「スターミー、10万ボルトッ!」
レッド「――ッ!」


149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:38:45.31 ID:Eoo/7SUi0
 水ポケモンなのに、電気技を使うスターミー。
 カスミは水を使うだけではなく、それを利用できるジムリーダーだった。
 私怨も義務もない、純粋な戦いに、レッドは燃えていた。

レッド「……」
カスミ「あんたさァッ! ――わくわくしてるでしょッ?」

 スターミーVSスピアー戦。
 空と水の戦い。レベルの高い両者の戦いの中。

レッド「……」
カスミ「でしょうねッ! あたしもワクワクしてるわ!!」


150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:43:07.50 ID:Eoo/7SUi0
 ――2時間に渡るジム戦が終ろうとしてる時だった。

 激闘の、激闘。
 すぐに勝負をつけるための、
 レッドのトレーナーへの攻撃もなしの。
 本当のポケモンバトル。

 お互い残されたのは、一匹ずつ。
 ピカチュウ。
 そしてカスミの、――。


151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:45:03.07 ID:Eoo/7SUi0
カスミ「お願い、ギャラちゃん!」

 ぽん、と軽い出現音に似合わない。
 巨大なギャラドスが、ジムに降り立った。

ギャラス「ギャシャァァァァァァァァァッ!!」
レッド「……」


152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:46:28.30 ID:Eoo/7SUi0
 睨みあいも、刹那。
 電気を溜めていたピカチュウが、ギャラドスに向かって跳ねた。

 ピカァァァ――。
 ギャシャァ――。

 大きな戦闘のうねりがジムの中心で渦巻いていた。

 これで雌雄が決する。
 そんな未来を壊したのは、突然の乱入者だった。


153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:48:26.61 ID:Eoo/7SUi0
 ハナダのジムの扉が、
 何かしらの超現象により、
 大きな音を立てて勝手に開いた。

 そこには一人の女の影があった。

 あまりにも無粋で、あまりんも唐突だった。
 激戦の熱や想いを断ち切るようなくらいには……。


ナツメ「久しいなマサラの坊や」

レッド「……」

 それは始まりの森で出会った女だった。


157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:34:18.37 ID:Eoo/7SUi0
 戦いの熱が削がれた。
 そのことに怒り心頭なカスミ。
 ナツメに詰め寄って「あんた、一体なんの――」というが、
 ナツメは無視して、カスミの横を通り過ぎた。

ナツメ「少しはイイ顔するようになったじゃないか。
    その眼光。その佇まい。
    少し、私のボスの気配があるな」

レッド「……」
ナツメ「ここへ来た目的?
    なに勘ぐるな。坊やに会いにきただけさ。他意はない」

カスミ(この女、レッドの何なのォ!?)


158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:35:28.80 ID:Eoo/7SUi0
カスミ「一体なんなのよ、あんた!
    あたしとレッドの戦いの邪魔をして、ただじゃ済まさないんだからァ!」

ナツメ「嫉妬となんてしなくていいぞ。ハナダの出涸らし人魚娘。
    恋など愛だの浮ついたものじゃない。他意はないといったはずだが?」

カスミ「そ、そんなんじゃないわよ! 勘違いするなァァ!」


159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:37:01.90 ID:Eoo/7SUi0
レッド「――。」
ナツメ「これは何のつもりかな、坊や」

 ナツメの喉元に、スピアーの毒針。
 ナツメの背後にまわったレッドは無言で応える。

 ギャラドスに向けられる筈の、ピカチュウの電気がナツメに向けられる。

 トキワの森のポケモン二匹が、猛々しくナツメを睨み主人の命令を待つ――。


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:51:48.86 ID:Eoo/7SUi0
ナツメ「その敵意。それでいい、坊や。
    さっきまでの『ポケモンバトル』を楽しむだなんて、
    甘ったるい感情じゃ、我々ロケット団は倒せないぞ」

カスミ「ロ、ロケット団ッ!?」

 カスミに醒めた眼を向けたナツメが、懐に手を伸ばした。
 

ナツメ「そう警戒するな坊や。ほら」
 
 そういってレッドにとり出した紙を渡した。


161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:54:40.61 ID:Eoo/7SUi0
ナツメ「セント・アンヌ号のチケットだ」
レッド「……」
ナツメ「何のつもりか、か。ただの贈り物だ。
    ポケモンと合体したアホを、気まぐれに助けたらもらったんだ」

 ナツメの贈り物。
 それに陰惨な記憶が頭を過る。
 

ナツメ「ここにハナダ周辺のポケモン誘拐組織の幹部がいる。
    そいつの名はマチス。貴様が憎む、ロケット団の幹部だ」

レッド「……」
ナツメ「このネタをどうするかは、私の預かる所じゃないな」

167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:14:30.79 ID:Eoo/7SUi0
ナツメ「――すべてはボスの思惑のままに」

 レッドの制止の声も空しく、ナツメはユンゲラーと共にテレポートで消えた。

 その後。
 ハナダのジム戦は有耶無耶になったが――。
 
 午後。街の南。6番道路にて。
カスミ「そう、そんな理由があったのね」
レッド「……」
カスミ「アンタが指名手配犯だなんて、このあたしが許さない。
    タマムシの権力者のエリカさんって人にも、応援を頼んでみる」

 カスミはごそごそとポケットから、ボールをとり出した。


169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:17:31.29 ID:Eoo/7SUi0
カスミ「これ、あたしのギャラドスよ。
    強力だし。ロケット団のレベルアッパーとかそんな感じの何やかんやで、
    酷い目にあってたから。きっとアンタに協力してくれるわ!」

 ボールを受け取ってお礼を述べ、
 セント・アンヌ号に乗船するため、クチバシティに向かう。


カスミ「ありがとー! さようなら! 
    あたし、絶対にアンタのこと忘れないからァ――!」

 そういってカスミはレッドの姿が消えるまで、手をふり続けた。


171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:24:08.30 ID:Eoo/7SUi0
 背後から聞こえるハナダの人魚の快活な声。
 それにレッドの心の弾力が取り戻されていく。

 これでは駄目だ。
 甘くては、ロケット団という『人間』に牙を向けれない。
 それでも悪くない。旅立ちには、悪くない気分だった――。
  
 ピカチュウが青空を仰ぐと、そこには大きな白い雲があった。


   ハナダは みずいろ、しんぴのいろ。



   ■■ ハナダの霞草/了 ■■


201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:33:01.55 ID:/pezx2+l0
   ■■ サントアンヌ号襲撃 ■■

 
 ――クチバシティ。サントアンヌ号前。


 ナツメからもらったチケットを渡すと、事務の男が驚いた声をあげた。

事務「すぐにご案内いたしますッ」
 
 恭しく礼をして、事務の男が船まで案内した。
 階段をあがっていく途中、貨物の船員たちの中に、ある男を見つけた。

マチス「丁重に運べェ! こいつらは富を呼ぶんだからな。HAHAHAッ!」

 レアコイルを撫でながら、ポケモン誘拐犯の首領マチスが笑っていた。


202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:34:01.71 ID:/pezx2+l0
 案内された部屋はVIP扱いだった。
 シンプルで大きな部屋。そこに思わなく先客がいた。

ナツメ「さきにランチを頂いてるぞ、坊や」
レッド「…………………………………………」


ナツメ「なんだ、その坊やらしくない、呆れ切った顔は」
レッド「……」
ナツメ「べつに食事くらい構わんだろう。
    そのチケットもマチスの情報も、私が与えたものなのだから」


204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:43:00.69 ID:/pezx2+l0
 レッドは無防備にナツメの前に座った。

ナツメ「なかなか度胸がついたじゃないか」
レッド「……」

 食卓にならぶ色とりどりの料理に手を出し始めるレッド。

ナツメ(度胸がついたのか、ただ食欲馬鹿なのか……)


205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:46:00.71 ID:/pezx2+l0
 ――ガブ、ガブ、むしゃむしゃ。

レッド「……」
ナツメ「なァに。貴様に協力をしようと思ってな。
    坊やに罪を擦りつけ、トキワの森を殲滅した我々ロケット団。
    その憎い幹部のマチスへの報復。それに手を貸すといっているんだ」

 ――ガブ、ガブ、むしゃむしゃ。


206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:47:03.39 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
ナツメ「同じロケット団? ヤツは裏切り者だ。
    マチスは組織を陰で裏切り、金儲けに走っている。
    そいつを切ると同時に、おまえへの当て馬にしたいというのが、ボスの指令だ」

 ――ガブ、ガブ、むしゃむしゃ。

レッド「……」
ナツメ「いや、その、なんだ坊や――えェい! この大食漢め! 私の分まで食べたなッ!?」


210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:55:01.45 ID:/pezx2+l0
 ロケット団のボス。
 その男の指示に従って、ナツメは動いているようだ。
 ボスの目的も正体も分からない。

 ――自分を育てようとする黒い糸が、自分の四肢にぶらさがっているのを感じた。


211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:57:42.73 ID:/pezx2+l0
ナツメ「ナチスは裏切り者だ。
    社会も組織も裏切る。
    どっちつかずの、私利私欲の怪物。 
    ――そいつを倒せるのは、また別の悪だよ坊や」


 せいぜい、協力し合おうじゃないか。ふふふ。


 そういってナツメは客室を出ていった。
 そしてサントアンヌ号の出港の汽笛が鳴り響いた。


213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:58:37.23 ID:/pezx2+l0
 去っていくナツメの背中を見送ったレッドは、
『あいつテレポート以外でちゃんと移動するんだ』
 と思った。


216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:20:16.73 ID:/pezx2+l0
 ――同日、サントアンヌ号のデッキ(深夜)


 眼下には空よりも黒い海が広がっていた。
 夜風のように、冷たい手が首筋にからみついてきた。

ナツメ「スキだらけだな、坊や」
レッド「……」
ナツメ「ハナダの娘と会うまでは、もっとギラギラしていたのにな。残念だよ」

レッド「……」
ナツメ「ああ、私自身、超能力者だからな。
    おまえの気配は伝わっていたよ」

レッド「……」
ナツメ「甘ったるい感傷は、この暗澹な海の上にでも捨てていくんだな」


217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:30:41.40 ID:/pezx2+l0
ナツメ「で、このサントアンヌ号で、貴様は何をしたいんだ?」


 一時休戦。
 利用できるものは、敵だろうが利用。
 レッドは正直に、しかし気を抜かず、サントアンヌ号襲撃計画を語った。


218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:32:53.61 ID:/pezx2+l0
 それを聞いたナツメが、デッキで笑った。

ナツメ「ははは、なんだ。そうか。
    悪を成して悪を断つのかと思いきや。
    おまえ、貨物の中に閉じ込められている、
    売却予定のポケモンたちを救うつもりだな?」

レッド「……」


219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:38:17.38 ID:/pezx2+l0
レッド「……」

ナツメ「なんて甘ちゃんなんだ。
    だが、妙に私を惹きつける」

レッド「……」
ナツメ「いいだろう。貨物の襲撃は、私がやろう。
    正義ったらしくて虫唾が走るが、いいさ」

レッド「……」
ナツメ「ロケット団とは『巨悪』を成すための組織。
    金儲けごときに走るアホウには粛清が必要だ」


221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:52:24.22 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
ナツメ「いや、信じなくていいさ。
    腐ってもおまえは正義で、私は悪だ。
    ただの利害の一致さ。
    それに――」

レッド「……」
ナツメ「トキワの森でいっただろ。
    おまえは近い未来、私を殺す男なんだ。
    信頼関係なんて、持たれても困るぞ」

レッド「……」
ナツメ「いずれ分かるさ」
レッド「……」


222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 01:55:04.56 ID:/pezx2+l0
 レッドは謎を呑みこんで、今回限りの握手を求めた。 
 それをしげしげと眺めたあと、ナツメが薄く微笑む。

ナツメ「船襲撃で、またおまえは罪が大きくなるな。大犯罪者だ」

 友人よりも強い力じゃなく
 恋人家族よりは軽く、
 信頼を置くには遠い柔らかさ。

 そんな絶妙な加減で、ナツメは握手をかえした。

ナツメ「レッド。おまえの悪行を讃えよう」
レッド「……」

 ――こうして深夜のサントアンヌ号襲撃が始まった。


224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 02:04:30.57 ID:/pezx2+l0
   ■■■

 ――その人影は陰で見ていた。
 妖艶な美女と、指名手配犯の少年の、共闘の握手を。

 すっと人影はデッキから離れた。
 その胸にはレッドと変わらない、復讐の暗く熱いものが滾っていた。


 その気配にナツメは気づいていた。
 ふふふ、と妖艶に魔女は笑う。

 ――あァ坊や。
 私もおまえの未来も、ひどく残虐じゃないか。


   ■■■


226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 02:13:29.06 ID:/pezx2+l0
 客室で眠っていたマチスは、がばっと起き上った。

 ――しゅん。

 ベッドの傍らにユンゲラーが現れた。
 堕ちてもロケット団幹部。異様な気配には鋭かった。

マチス「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ。
    誰の使いだテメェはッ――!?」

 ボールに手をのばすマチス。
 
 が、ユンゲラーは、また唐突に消えてしまった。
 一枚の手紙だけが、ひらひらと床に落ちて残された。


227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 02:20:39.36 ID:/pezx2+l0
マチス「なんだ、ありゃッ!?」

 ユンゲラーが残した手紙をマチス拾う。

マチス「アッハーン? なんじゃこりゃァァ!」

 マチスの女関係、黒歴史、性癖、
『猫ポケモンを愛でる会』の会員ナンバーが10桁内であることや、
 その他、本人にとっての醜態が、細かく書かれていた。
 

 それはレッドによる挑発文かつ、呼び出し状だった。
 もちろんマチス情報は、ナツメの嗜虐という名の超能力によるものだった。


マチス「誰だか知らねェがぶち殺してやるぜッ!!」


237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 02:48:30.22 ID:/pezx2+l0
 乗客が寝静まった深夜。
 デッキに荒々しい気性の男がやってきた。

マチス「ヘイ。テメェが腐れ個人情報漏洩ヤロウかァ。アンッ?」
レッド「……」
マチス「テメェの指図通り、一人で来てやったぜ――っていってもだぁ」


 ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン――。

 マチスはたくさんのハイパーボールを床に落とした。

マチス「部下はいねェがッ、ポケモンはたくさん連れてきたぜェ!
    ハンッ! 俺サマはさびしがり屋なんでなァ、許してくれよなッ」

 兇暴が染みついたような顔つきで、マチスがニヤついた。


238 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 02:53:04.38 ID:/pezx2+l0
 10匹以上のコイルがデッキに浮遊していた。

マチス「バカなヤロウだぜ。
    わざわざ俺とタイマン張ろうなんざ。
    何が目的か知らねェが、死んでもらうぜ」

レッド「……」
マチス「――いけ、コイル共。
    猫ポケ大好きで団員共にも
    マニアを自称している俺サマが、
    哀れ会員ナンバーが10桁という恥を、
    そいつと一緒に海のもくずにしろォォ」

レッド「………………」


253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 05:56:37.30 ID:/pezx2+l0
   ― マチス戦 ― 

 コイル14匹による、体当たり劇が始まった。
 俊敏にデッキを飛び回り、時に転がり、すべてを避けるレッド。
 7回目の体当たりを避けた刹那、レッドはボールを投げた。

 ボールはコイルの群れのすき間を、絶妙に切りぬけマチスの足元に転がった。


 ――ポンッ。

 飛び出したスピアーの針が、一瞬でマチスを襲いかかった。
 
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 05:58:06.61 ID:/pezx2+l0
 スピアーのダブルニードル。

 その瞬殺の二連突きを、マチスがあっさり避けた。


マチス「ひゅーッ。アブねェなッ。
    だがよ、生憎と俺サマは強えェのよ!!」

レッド「……」
マチス「極上のポケモン使いってのはなァ。
    てめェの肉体を鍛えてるんだ、YO!!」

 スピアーの腹を殴り飛ばし、マチスが疾駆する。

 向かうは、コイルに翻弄される、レッド――。


255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 05:58:58.99 ID:/pezx2+l0
 18回目の体当たりを避けたときだ。
 マチスがコイルの影から、右ストレートをくりだした。

 わき腹を穿たれ、呻くレッド。

マチス「ハッハアーンッ!」

 鍛えぬかれた肉体から、さらにローキック。
 それを避けた瞬間、背中にコイルの体当たりが当たった。
 ポケモンの攻撃は、人間、それも幼い少年には残酷だった。


256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:03:42.17 ID:/pezx2+l0
 マチスの足元で倒れる寸前。
 レッドはくるりとまわり、モンスターボールを上に投げた。
 ボールが、マチスの鼻先に、カスった。

 
マチス「チィッ! 悪あがきしやがって」

 きれいに数メートル頭上にあがったボール。
 それを見上げて、

マチス「おい、ポケモンが出てこねェじゃ――」

 倒れていたレッドはひょいっと猫のように跳ねあがり、
 ボールを見上げているマチスの顎に掌底をぶちかました。


257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:05:39.58 ID:/pezx2+l0
マチス「くそったれェ! ボールはダミーだったのかッ!」
レッド「……」

 マチスは一歩後ずさり、コイルの群れに姿を隠した。
 また体当たりから逃げ続けるレッドを睨んだ。

マチス「てめェも極上のポケモン使いのくちかよッ。
     それもポケモンバトルの為だけじゃねえ。
     俺と同じ、人間にも振るう暴力ときやがる……」


258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:10:41.17 ID:/pezx2+l0
マチス「コイル共、10万ボルト×14を喰らわせ――」

 と、すぐさまコイルに指示をだした時だった。


   ――ポンッ。

 空中のボールからピカチュウが飛び出した。

レッド「……」

 主人の指示に呼応し、ピカチュウが電気袋に力を溜めこんだ。紫電が走る。

ピカチュウ「ぴかぁぁぁぁッ」

マチス「ヤロウ、幼い顔しやがって、人に電撃を――」


 暗い船のデッキが、カッと一瞬電撃で照らされた。

マチス「ぎゃぁあああッ!!」


261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:19:30.61 ID:/pezx2+l0
レッド「……」

 レッドが呼ぶと、巨大な暴竜が、海から首を出した。
 ギャラドスのハイドロポンプの水流が、コイルたちを薙ぎ払った。


 水浸しになったデッキ。
 デッキに転がっている、気絶したコイルたち。
 レッドは地面に伏したマチスに近づいた。

レッド「……」
ピカチュウ「ぴかぁ?」

 ピカチュウがレッドを見上げた。その時だった。


マチス「べろべろばぁ!」

 マチスが軽薄に顔を歪めて跳ね起きた。


263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:26:49.43 ID:/pezx2+l0
マチス「俺サマが起き上ってくるって、
    分かってたって顔つきだなボーイ?」

レッド「……」
マチス「軽傷な理由なんざ、コレだよ。コレ!
    この特殊な電気を通さないスーツだぁ!
    電気ポケモン使いにして、ジムリーダー。
    この俺サマが、電気対策してねェわけねーだろォがぁ!!」


レッド「……」
マチス「ボーイ。てめェは俺を怒らせた。」


266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:38:36.47 ID:/pezx2+l0
 マチスは、また、たくさんのボールを床に落とした。


 ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン――。

 現れたのは、10匹のマルマインだった。
 ころころころころ。床にマルマインが転がっている。

マチス「マルマイン、みがわりだぁ!」

 10匹による、10匹のマルマインの分身。
 デッキが計20匹ものマルマインで埋め尽くされた。
 異常な光景だった。

 ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ……。
 マルマインの転がる音が、ひどく不吉だった。

レッド「……」


268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:43:47.47 ID:/pezx2+l0
マチス「加減しろよ、オマエらぁ。
     そのガキ一人殺す程度でいい。
     いいな、船を沈めるんじゃないぜ?」


レッド「……」
 
 レッドは一声攻撃をしかけた。

 ピカチュウの電光石火。
 スピアーの乱れ突き。
 ギャラドスの波のりがマチスを襲う。

 デッキに漂う悪寒。
 それを発しているのは、もちろん。


マチス「マルマイン、大爆発だぁ!!!!」

 
 ――大爆発×10(みがわり)が、レッドたちを襲った。


270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 06:48:25.62 ID:/pezx2+l0
 ヒャハッーと、爆発の渦に襲われたレッドを、マチスが笑う。
『みがわり』と『だいばくはつ』の、裏技コンボを、10匹で。

 みがわりが爆発するので、マルマインは無傷だ。
 そして5匹以上の大爆発は、ビルの撤去などで使われる、大規模な破壊だった。
 これで助かる人間がいるわけがねェ。マチスは確信していた。


273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:05:19.23 ID:/pezx2+l0
マチス「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイヘイヘイ
    ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイッ――!!
    どうした極上? こんなもんだろやっぱよォ。
    これが俺の数の暴力だぁ。汚いも臭いもヘチマもねェぜ。
    これが、ポケモンの使い方だ、勉強になったろハハハハ!!」

 ――その時だ。
 爆炎の中から黒い影が飛び出し、マチスの喉元を掴んだ。

マチス「――なん…だと…?」


 床に倒れるマチス。
 彼に圧しかかったレッド。
 そのレッドにそっくりな悪魔の口端が、
 鋭い三日月のように歪み笑った……


274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:09:08.96 ID:/pezx2+l0
 デッキに、レッドののんきな拍手が響いた。
 みがわり×だいばくはつのコンボへの、惜しみない賞賛だった。
 マチスが首を動かし、こちらを凝視している。

マチス「なッ、てめェ何でそんな所にいやがる?
     いくら沈没しねェために手加減したからって
    、人一人殺すなんざワケない爆発――」


 驚いたマチスが顔をあげると、
 レッドの顔が崩れた。

 そこには、レッドに変身していた、ゲンガーがいた。

 レッドはマチスを電撃で伏しった瞬間。
 すぐにゲンガーと入れ替わり、隠れていたのだった……。


275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:10:40.96 ID:/pezx2+l0
 スピアー、ゲンガー、ピカチュウが、マチスを見下ろしていた。

レッド「……」
 どすッ。
 レッドがマチスの肩を踏みつけた。

マチス「なぜポケモンを売りつけるかだって?
    そりゃあ、金になるからに決まってんだろうがハハッ――ぎゃあぁ!」

 ピカチュウがマチスの頬をひっかいた。


276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:12:39.04 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
マチス「ハナダのコイキングだぁ?
    そりゃあ覚えてるぜ。
    ちょいと、とあるレベルアッパー的な飴と、
    組織の特殊兇暴薬を与えまくったら、
    すぐにゴキゲンになりやがってよォ――うぎゃぁぁ!」

 スピアーの針が、マチスの腹を軽く穿った。

278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:17:24.34 ID:/pezx2+l0
 最後に一つだけ、レッドは質問をした。

マチス「もうポケモンを悪用しないかだって?
    するねェ、するぜェ、絶対。約束してもいい……。
    つかてめェ、いい子ぶってんじゃねェぞゴラァ」

レッド「……」
マチス「てめェは人間にポケモンを向けることができる、悪人なんだよォ!
    パンピーの皆様方は、絶対にできない、サイテーなことだぜ。
    サイテー同士、悪人同士。仲良くやろうじゃないかハハハハハハハハ
    ハハハハハハハハハハハハッ――!!」

 デッキには、男の笑い声が響いた。
 一つ、また一つ。客室の電灯がつき、騒がしくなり始めた。


279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 07:19:18.78 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
 その一声に、ナツメが貸してくれたゲンガーが、マチスを襲った。

 ――夢食い。
 マチスの劣悪な精神を、ゲンガーが呑みこんだ。


    ――ガブリッ。


  ― マチス戦/了 ―


307 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:07:14.70 ID:/pezx2+l0
 ――サントアンヌ号内、通路。

 デッキの騒ぎで混乱し始めたサントアンヌ号内。
 深夜だというのに、人の波ができた通路を、レッドは走る。

 貨物倉庫まえ。
 その扉が開かれていた。
 もうナツメはポケモンを逃がしているのだろうか?


 ぎいっと蝶番が軋む音。
 ゆっくりと扉を開くと、そこには――。


309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:12:24.56 ID:/pezx2+l0
 ――貨物倉庫は空っぽだった。
 裸電球一つが、空っぽの倉庫とレッドを照らしている。


レッド「……」

 たしかマチスとその部下が、
 大量のモンスターボールが入った箱を、
 この倉庫に運んでいた筈なのに。


 パチ、っと倉庫内のすべての電灯が点いた。

×××「正体を現したな、レッド」

 背後から、男の声がした。


310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:13:29.81 ID:/pezx2+l0
 レッドが振り向くと、扉に背をあずけた少年がいた。

×××「とことん堕ちたなレッド。
     今度は乗客が預けたポケモンたちを盗んだか」

レッド「……」

 一歩、一歩、少年は近付いてくる。


312 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:14:28.55 ID:/pezx2+l0
×××「違う、何が違うんだレッド。
     ロケット団の幹部と噂の、
     あのナツメと一緒にいる、そのおまえの。
     ――何を信用しろっていうんだ?」

 コツ、コツ、コツ。
 また一歩、一歩と。


313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:15:28.30 ID:/pezx2+l0
レッド「……」

 レッドの眼前には、同じ背丈、同郷の……。

グリーン「サントアンヌ号襲撃。
     どこまでマサラの名を汚せば気が済むんだレッドォォォ!」

 まっさらの始まりの地、マサラの少年がそこにいた。


316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:16:55.70 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
グリーン「レッド。ポケモン図鑑、ここに置いていけ。
     おまえにオーキドの爺ちゃんの作った図鑑は、相応しくない」

レッド「……」

 レッドは床に図鑑をおいて、後ずさった。
 それを拾ったグリーン。その後ろに、もう一人、人がいた。


318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:18:30.97 ID:/pezx2+l0
船長「グリーンくん。彼がポケモンを盗んだというのは……」

グリーン「さぁな。本人に聞いてくれ。
     ただトキワの森を燃やし、ロケット団幹部とつながっている。
     そんな男と、この空っぽの倉庫――」

船長「うむ。捕まえる必要がありそうだね。
    ワシは至急、警備の者たちを呼んでくるよ」

 そういって船長が去っていった。


321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:23:20.99 ID:/pezx2+l0
 レッドとグリーン。
 同じくマサラを故郷とし、
 高め合い、認め合うくらいには、
 どこか似ていて、それを大人たちに期待されていたのだが……。

グリーン「おまえは、オレが止める。
     ポケモンバトルだ、レッド」

 グリーンはボールから、フシギソウを出した。

 何を語ろうと、状況がレッドを許さない。
 レッドにとって、いま最優先するべきは――。

 レッドは扉に向かって、走りだした。

グリーン「逃げるつもりかッ! させないぞ!」


323 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:26:17.57 ID:/pezx2+l0
 立ちふさがるフシギソウ。
 それに向かって、レッドは疾駆する。
 ポケモンを出す気配がなかった。

グリーン「チッ。卑怯だぞ、レッド! ポケモンを出せ!」

 グリーンは善。
 丸腰の人間に対して、ポケモンの攻撃ができないのだ。


 あっさりフシギソウをレッドは飛び越えた


325 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 18:29:49.74 ID:/pezx2+l0
グリーン「フシギソウ、レッドの足元につるのムチだ!」

 しゅん、バンッ!
 強力なムチがレッドのすぐ足元を砕く。
 しかし、それで怯むような、幼い心はトキワの森で死んでいた。

レッド「……」
グリーン「それどころじゃないだとッ!?
     ふざけるな! オレと戦え! オレを見ろよレッド!」


 グリーンの怨嗟の声はむなしく。
 貨物倉庫には、グリーンだけが残された。


332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:18:58.93 ID:/pezx2+l0
 ナツメを探すために、外側の通路を走っている時だった。

警備「いたぞォ! あの帽子の少年だぁ!」

 正面と、後ろ。
 挟み撃ちになる形で、
 屈強な警備の男たちに、レッドは捕まった。


335 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:24:29.49 ID:/pezx2+l0
 ――ガツ、ゴンッ。

 抵抗もむなしく。
 頭をつかまれ、乱暴に地面に押しつけられた。

レッド「――ッ」

 まったく動けない。

警備長「一番近い港に寄せるよう、船長に伝えろ。
   警察に突きだしてやる。――さァ、オマエたち。
   この少年を空いている部屋に閉じ込めておけ!」


 その時だった。


 暗い空から、耳を劈くような、風切る轟音が鳴り響いたのは……


339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:27:02.83 ID:/pezx2+l0
 それはヘリコプターだった。
 どうやら船のテラスに向かっているようだった。
 その巨大な機械の腹には、赤い『R』の文字。


「Raid On the City, Knock out, Evil Tusks.」
(町々を襲いつくせ、撃ちのめせ、悪の牙達よ)


 それは悪名高きロケット団のシンボルだった。

 ヘリの轟音に、レッドも。
 そして船内のすべての人々が起き上り恐怖した。

 ここまでヘリの音とは、不気味だっただろうか。
 まるで地獄の釜から聞こえる、亡者の高笑いだ。


344 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:37:53.54 ID:/pezx2+l0
 なんだ、なんだ。アレは。
 ロケット団だ!
 この船に何があるっていうんだ!
 ヘリの光が、テラスを照らしてるぞ!
 逃げろ、この船を沈める気なんだ!

 ――がやがや。


 この混乱の隙に、レッドは警備を振り払った。

警備長「待て! だれか、その少年を捕まえてくれェ!」


345 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:39:42.00 ID:/pezx2+l0
 テラスに駆けつけたレッド。
 
 ヘリに照らされたテラスには、
 貨物の木箱に座っている、ナツメがいた。
 
ナツメ「友人との再会は楽しめたかな、坊や」

 ヘリの荒々しい突風が、ナツメの黒髪をなびかせる。
 さあっと細い指で、彼女は長い髪を払った。

レッド「……」

347 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:48:43.35 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
ナツメ「そうだ、最初っからさ。レッド。
    最初っから私は、このポケモンたちの輸送が目的だったんだ」

レッド「……」
ナツメ「共闘? それがどうした?
    その共闘というのは、レベルが同じ同士の者がするものだ。
    その点、レッド。おまえは違う。
    善にも成れず、悪にも成れず。
    そんな中途半端なガキが、私と共闘? おもしろくもない」


348 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 19:52:39.34 ID:/pezx2+l0
レッド「――」
ナツメ「そう吠えるな、坊や。
    おまえはおまえで、『ロケット団幹部』を倒したんだ。
    よかったじゃないか」

 ナツメは、指を上に向けた。
 ヘリから降りたハシゴ。
 そこにマチスを背負ってのぼるロケット団員がいた。
 

 マチスがこれからどうなるのか、レッドは知る由もなかった。


350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:02:32.65 ID:/pezx2+l0
レッド「……」
ナツメ「マチスは我々が私有すべきポケモンたちを、
    金儲けのために横流ししていてね」

ナツメ「マチスの粛清。横流しのポケモンたちの確保。
    そしてボスお気に入りのレッド。
    おまえの成長の起爆剤のための、悪の兵との戦闘」

 
ナツメ「――どの目的も叶うとは。
    なかなかどうして、世の中とは悪の為にまわってくれる」


 くくくく、と唇に指をあて、ナツメは笑った。


351 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:04:04.83 ID:/pezx2+l0
 レッドが詰め寄ろうとすると、
 ナツメの〝パチン〟という指鳴らしと共に、
 ゲンガーの入ったボールが跳ねた。


 ナツメの手に吸い込まれたボールが開いた。

 ――ぽんッ。

 ゲンガーはレッドに変身すると、本物のレッドの頬を大きな舌で舐めた。

 悪寒が走ったあと、レッドは痺れて動けなくなった。


356 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:15:33.50 ID:/pezx2+l0
ナツメ「くくく、どうやらゲンガーは、おまえが気に入ったらしいな。
    どうも気に入ったヤツの変身ばかりする子でな」

 ナツメはレッドの頬を優しくなでた。


レッド「――ッ」
ナツメ「いっただろ?
    私の予知では、近い将来、おまえは私を殺すんだ。
    未来は、変わらない。今までだってそうさ
    そんなガキと女が、分かりあえるわけがない」

レッド「……」
ナツメ「なにッ? この私が寂しそうだ、と?」

レッド「……」
ナツメ「あはははははははははははははははは
    はははっはははははははははははははははは
    はははははははははははははははははははは」


 まるで慟哭のようなナツメの笑い声が響いた。


357 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:20:42.50 ID:/pezx2+l0
 ナツメはレッドの頬を叩いた。
 動けないレッドが、床に転がった。

 一通り笑ったあと、

ナツメ「――なァ、坊や」

 ひどく優しい声で、ナツメがいった。

ナツメ「――じゃあ、おまえは私を助けてくれるか。
    抗いがたい未来を壊してでも」

レッド「……」

 地面に這った少年が見上げた先には、
 見たことのないナツメの、シニカルで柔らかい笑みがあった。


360 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:23:40.48 ID:/pezx2+l0
ナツメ「ユンゲラー!」

 ボールからユンゲラーが現れた。

レッド「……」
ナツメ「背中に打撲のあとがあるな。
    いまはゆっくり眠れ、レッド」


ナツメ「ユンゲラー、催眠術!」

 眠りに落ちる中、頭をなでる感触をレッドは感じた……


362 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:29:57.90 ID:/pezx2+l0
   ■■■

 ババババババババババババババッ……。


 ヘリの喧しい音に、私はうんざりした。
 戦士が休息中だ。その妨げになるじゃないかと。


団員「ナツメ様。貨物とマチスを運び終えました。
   これよりタマムシのアジトに輸送します!」

ナツメ「よろしい。
    私は作戦ナンバー13。
   『マサラの少年』を逃がしたのち、
    シオンタウンに向かう。ゆけェ!」

団員一同「「「ハッ! すべてはロケット団の栄光の為に!!」」」


363 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:31:17.15 ID:/pezx2+l0
 ――そう、すべてはロケット団の為に。
   私の命や、坊やの人生さえも、礎に。

 ババババババババッ……
 去っていくヘリを、船にいる全ての者が固唾を呑んで見送った。

 そして残された私と、倒れている少年に、乗客たちの注目がいった。


364 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:33:19.85 ID:/pezx2+l0
ナツメ「ふんッ。野次馬どもが」

 超能力を使って、レッドを引き寄せる。
 そっと眠るレッド。何も知らないレッド。


 乗客に向けて、私は演説する。 

ナツメ「――聞くがいい。愚かなる偽善者共。
    我はロケット団の尖兵がひとり、ナツメ」

 がやがや、ざわざわ……。


 あの人、ヤマブキの……
 超能力で話題になった
 ロケット団だって?
 少年を人質にするのか?


366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 20:34:14.74 ID:/pezx2+l0
ナツメ「我々ロケット団が、近い未来、
    新たなる世界を切り開いてみせよう。
    遍く人間共が、ポケモンに平伏す未来をッ!」

 がやがや、わざわざ……。

ナツメ「そして、この少年を覚えておくがいい!
    ――この少年がいずれ、人類の大いなる敵なるだろう」


368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:01:23.63 ID:/pezx2+l0
 乗客すべてが、その眠っている少年を凝視した。
 遠ざかるヘリの轟音。私の演説。ロケット団登場による緊張感。
 それらすべてが作り上げた空気。それが一人の幼い少年に向けられる。

ナツメ「怨め、憎め、疑え、知れ、嬲れ、許すなッ――。
    この少年に試練を、ロケット団に栄光をッ!」

 その乗客の視線は、言うなれば『敵意』だった。

370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:06:07.66 ID:/pezx2+l0
 ――坊や、私は悪い女だろう?
   私を怨め、憎め、疑え、知れ、嬲れ、許すな。
   おまえの同情めいた顔など、毛頭見たくもないんだよ。

 ――カッシャ。
 カメラのフラッシュの光と音が響いた。

ナツメ「……」
 私は気弱そうな男を睨んだ。
 大方、写真をマスコミに売りつける魂胆なのだろう。

理科系の男「あの、いや、つい……あはは」

ナツメ「ふんッ」


371 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:08:54.24 ID:/pezx2+l0
ナツメ「ユンゲラー、テレポート!」

 疑惑と恐怖を残し、
 ナツメはレッドと共に、
 サントアンヌ号から消え去った。

 少し荒れ始めてた波飛沫の音が、
 乗客たちの心をざわつかせていた。


   ■■■


372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:10:47.84 ID:/pezx2+l0
 波に揺られるような心地よい眠りから覚めた。

 ――ざざァん、ざざァん。
 
 夕焼けのオレンジに染まった海が、
 レッドの眼前に広がっていた。

 どうやら自分は、
 サントアンヌ号出港場所だった、
 クチバシティの港に戻っていることがわかった。


373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:12:12.34 ID:/pezx2+l0
 砂浜に捨てられたボロい軽トラックの荷台。
 そこでレッドに、しばらく眠っていたようだった。

 ナツメに眠らされた後から記憶がない。
 だれに、ここまで運ばれたのかも、不明。


 ただ、背中には治療の跡。
 ここへ運んでくれたヤツの優しさを感じとれた。

レッド「……」


 ――ぽちゃん。


374 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:15:43.52 ID:/pezx2+l0
 水が跳ねる音。
 
レッド「……」

 波の中を、ポケモンが泳いでいた。
 ピンク色の皮膚の、ちょっとマヌケそうな顔。

 見たことのないポケモンに興味がわいた。、
 いつもどおりポケモン図鑑を出そうと手をポケットに―― 

レッド「……」

 ポケモン図鑑は、もうなかった。

 ――ざざァん、ざざァん。


375 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:16:57.00 ID:/pezx2+l0
 ロケット団幹部を倒した。

 それでも、ポケモンは逃がせなかった。
 サントアンヌ号襲撃で悪名はあがり、
 ナツメに裏切られ、
 グリーンへの誤解はどろ沼……

 
 心の弾力が、また失われていくのが分かる。

 ――ざざァん、ざざァん。

 ボールの中では、
 同じく故郷を失くした、
 二匹の仲間が心配してるのがわかった。


376 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 21:19:11.86 ID:/pezx2+l0
 海の音。
 夕焼けに染まる、町、海、空。
 波と戯れるポケモン。
 レッドの心とは無関係に、
 今日も世界は美しくあり続ける。

 レッドは、ピカチュウ、スピアー、ギャラドスを、外にだした。
 
 ぽん、ぽん、ぽん。


 ――戦いは、また明日。
 正義に逃げるのか、悪に転がるのやら、分からない。
 いまはただ、仲間と夕焼けを眺めていよう。


  ― クチバは オレンジ ゆうやけの色 ―


  ■■ サントアンヌ号襲撃/了 ■■



レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」-2
続きます

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