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冥土返しの後悔

536 名前:冥土返しの後悔0/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 13:40:49.29 ID:ADYh6ko0 [1/41]
こんにちは。
ブログに書き溜めたものが完結したので投下させていただきたいのですが…
初めての投下です。ご迷惑かけてませんでしょうか?

537 名前:冥土返しの後悔0/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 13:46:57.80 ID:ADYh6ko0 [2/41]
「君の力には多くの人たちの病気を直す事が出きる可能性がある…」
そういった周囲の大人達の言葉に何の疑いを持つ事間なく少女は車に乗った。

彼女には少しだけ他の子供にない「力」が生まれつき備わっていた。
夜、布団の中にもぐりこみ両手を近づけると「花火」を見ることができた。
『わぁぁ~きれいだぁ』それが何なのかはわからない彼女にとっては「遊び」でしかなかった。
いつしか、その『特技』は子供達の間で話題になり…大人達の世界にも広まっていった。
やがて医療機関の関係者の耳にも入り、不思議な「力」が興味の対象となってゆく。
彼女の体質を気遣った両親の来診により、その「力」が「超能力」称される類のものと判明。
学会に公表された「力」に対して、医療関係機関の関心が一気に高まったのは言うまでもない。

両親の「任意」で行政付随機関の「病院」において彼女は「精密検査」…いや、『調査』をされた。
「彼女は自己の意識で、大気中に存在する磁力、電力、電磁波、が自在に操作出来ている」
担当主治医となった医師『冥土返し』は驚愕の事実に、ある可能性への期待を禁じえなかった。
人間の運動能力。「脳」から「各運動神経」への伝達は微弱な電気信号によるものである。
突如この電気信号が上手く伝えられない「病気」となってしまう。多くの患者が苦しんでいた。
『冥土返し』は彼女の能力が解析できれば「別の経路」から「電気信号」を送る事が出来ると確信した。

「お嬢さんの『力』を医学の発展の為…いや苦しむ大勢の患者の為に、ぜひ研究させてください」
「研究!?あんなに幼い子供の・・・一体何を・・・何処をどう調べるというのですか?」
「研究という表現には語弊があったようです。実際には髪の毛から遺伝子の配列を解析…
そのほか、彼女の日常行動を観察する事によって『力』の源を探り当てようというものです」
「わかりました。娘の力にそういう可能性があるのであれば私達のには依存はありません、
しかし、身体的、精神的な苦痛が伴うものと判明した時にはばきっぱりとお断りしますよ。」
「勿論、お嬢様には当機関に付属する「学園」で「普通に」生活していただくだけです…
ただ、毛髪、爪、若干の血液等の採取は研究資料としてお許し頂きたいとおもいます。」
「私達は納得しても、果たしてあの娘がそれを理解して納得できなければ…娘次第です」

その子には、見知らぬ優しい大人達、愉快な仲間達にに囲まれた生活が用意されいた。
通学する学校は、いわゆる「上流階級」と称される家庭の子女が主な、全寮制…
だが、当初から其処への通学はかなわない。まずは「治療」が終ってからの事である。

彼女が乗り込んだ車が向かった先は研究施設の集合する学園都市中枢に位置した、
見上げても先端が見えないような高く聳え立った白磁のように光を放った建物であった。
しかし、不思議な事にその建物の窓は極端に少なく感じられ出入り口もまた…
黒塗りスモークガラスの車は、そのビルには似つかわしくない不自然に開いた…真っ暗な空間へと進入した。
何も知らない幼子を乗せた車は地下駐車場へと向かうのか進路を左右に曲がりながらも急激に降下を続けて行く…
「わーぃ。まるでジェットコースターに乗っているみたいだぁ。ミコトはミコトは感激してみたりぃ」その幼子は無邪気にはしゃいでいる。
程なくして車が停車したのは最下層のエリア、余計な物音、気配一つしないただ広いだけの空間であった。

その一番奥深い部分に、一つだけ…エレベーターであろうかと思慮される小さなドアーがぼんやり見える。
軽い軋み音を発してドアが開くと眩しい位に明るく光る箱の中からゆっくりと一人の人影が歩み出てきた。
幼子を伴った一段に歩み寄ってきたのは、初老の…幼子にも見覚えのある「カエル顔」のオジサンであった。
「あっ、カエルのお医者さんが迎えに来てくれたぁ~ミコトはミコトは嬉しかったりぃ~」無邪気な笑顔を見せる。
「美琴ちゃん。久しぶりだったね~」笑顔で答えながらも「冥土返し」の胸中には複雑な想いが渦巻いていた。

『本当にこれで良いのか?始めてしまったらもう後戻りはできない…確かに医学向上といえば聞こえはいい、が、それはこの子の未来を大きく変えてしまう事でもある。果たしてそれに見合うほどの事なのだろうか…こんな事をする権利が私達にあるのか?許される行為なのか?早まった判断だったのかもしれんな…』


538 名前:冥土返しの後悔2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 13:51:21.04 ID:ADYh6ko0 [3/41]
「うわーい、床が氷みたいにツルツルしてる~スケートスケート♪」
「だめよ、美琴ちゃん。転んだら大変です。well…あっ、ほらぁ!!」無邪気に研究所内を走りまわる美琴を追いかける布束…
幼くして「生物学的精神医学」において、その才能を発揮。美琴に唯一年齢が近い4歳年上の布束が彼女のお守り役となっていた。
お守り…美琴と日常を過すと言う建前であるが実際にはこれも彼女に課せられたミッションの一部であるのだ。

彼女、当時12歳の布束の専門は「生物学的精神医学」。美琴の精神構造の把握する事自体が既に研究…
幼少の頃からその分野で頭角を現した、彼女の本計画での当初の担当は「能力の発生要因解析」にあった。
美琴の『能力』というものが、何の根拠によって、どこから、どのような要因が揃った際に具現化しているのか?
多くの能力研究者は『能力』とは「極一部が先天的に備えた資質」に由来しているという既成見解であった。
しかし布束は能力自体は誰しもが有しており、「精神的面への何らかの刺激」によって進化が可能だという論文を発表していた。
その「論文内容」が「冥土返し」に注目された事が今回のプロジェクトメンバーに登用される重要な要件となった。

「ミコトはミコトは、お腹がすいてきたと布束に涙目で訴えかけているのに完全無視ですか~!!」
物思いにふけっていた布束は美琴の声に我に返る。アナログな彼女の腕時計の針はとうに正午を過ぎていた。
「ごめんねさいね美琴ちゃん、じゃあ食堂に行こうか」布束はそういって美琴の小さな手を取って歩き始めた。
「わーい、ハンバーグ♪ハンバーグ♪」布束の手を引きずるように既にいくらか見知った所内を美琴は走り出す。
「だめよ美琴ちゃん。同じようなのばかりは!今日は私が選んであげたので我慢なさい」そういって彼女は驚いた。
『あれ?私っていつの間にかかのじょの姉になってしまっている?これじゃどちらが研究されんだか・・・』布束は吐息と共に微笑んでいた。

「どうかね?布束君。少しはつかめてきたかね…『能力』の出所。いや、美琴君の自己現実『パーソナル・リアリティー』の根拠は…」
「冥土返し」の言葉に「ええ、漠然としたものいくらか…でも、それがどこで彼女の能力発現に関連するのか見えてきません」
「うん。シュレディンガー理論とて完璧とは言えない所もあるからねぇ…既成概念に縛られず君独自の切り口から攻めてみてくれ」

…「すやすや」と眠る美琴。そのの安らかな寝顔、呼吸数、心拍数、脳波さえ「調査対象」としなくてはならなかった。
仮眠を取りつつ布束は美琴に装着されたリモコンセンサーからの情報モニターをじっと眺め続けていた。
めまぐるしく変化する数値、穏やかな曲線を描くグラフ…この何処に「それ」が秘められているのかと考えながら…

目覚めてから目覚めるまで…暑い日、寒い日、楽しい時、悲しい時、喜ぶ時、怒りを露にした時、そして…能力が顕在化した時。
意識して能力を発揮する場合は勿論、無意識でという場合もある。そのう上、微弱ながら電磁気を常時発生しているのである。
「結局は全てをトレース、コピーするしかなさそうね」そう呟くと布束は蓄積された『美琴データ』の全てをバックアップし始めた。

こうして集積された解析データーベースを基にした「御坂美琴カリキュラム」を基に「学習装置」の製作は開始された。
日常の会話の語意、語数から呼吸数。心拍数、血圧、脳圧、各種ホルモン分泌。1日を通じた全ての新陳代謝のデーター。

『まるで、これじゃぁ美琴のコピーロボットが出来ちゃいそう…学園はこれを「何処で」「何の為に」使おうというのかしら』
数ヵ月後…布束は目の前に完成したテスタメント…『学習装置』と名づけられた「それ」を見つめながら深い吐息と共に呟いた。

539 名前:冥土返しの後悔3/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 13:59:49.53 ID:ADYh6ko0 [4/41]
「なんと言う事だ!!」
そう吐き捨てるように呟きながら『冥土返し』は重い足取りで「統括理事会」の会議室を後に研究所へと向かっていた。
「ありえん!ありえんよ!!まったく、『生命』というものを何だと考えているんだ統括理事会…いや、アレイスターの奴は。」

美琴がこの「病院」という名の研究施設に来て半年が過ぎていた。当然ながら親が気にならないはずもなく月に1度は『見舞い』に訪れる。
秋も深まったこの日もいつものように御坂旅掛、美鈴夫妻は珍しく両親そろって学園都市の入り口でのチェックインを受けていた。
旅掛は外国で過す時間が多く美琴に合うのは「あの日」以来だ。半年振りの「再会」に旅掛の浮かれた様子は美鈴が嗜めるほどのものであった。

事前に知らされてなかった両親そろっての来所に「わーい、今日はお父さんも一緒だぁと、ミコトはミコトは喜んでみたりぃ~」
旅掛を見止めた美琴は大きな声で歓声を上げながら少しかがんで待ち受ける彼の首に飛びつくように巻きついて来た。
「ふふふっ、たまに会えば喜びも倍増って訳かい…」一見、研究所に通う学生かと見紛う若さと美貌の美鈴はじゃれ合う親子を微笑んで見守る。

今日の来所が二人揃ったものとなったのは、二人の考えでも偶然でもなかった。旅掛の仕事先からの帰国を待ってのもの・・・
『冥土返し』からの「折り入っての相談があります…」という「来所依頼」の電話が美鈴宛にあって、旅掛が日程調整したうえでの事であった。
このような事は、この半年に一度もなかったこと。美鈴はもとより旅掛の胸中にはいい知れぬ「ざわつき」胸騒ぎがあった。
「今日は、お忙しい中お時間を作って頂き本当にありがとうございました」席を勧めながら『冥土返し』はいつもの穏やかな表情で話を始めた。
「他でもない、美琴さんのことなのですがお蔭様で研究は着々と実を結びつつあります。予想以上の成果に所員一同驚いています」
「そういったわけで、来月から美琴さんは、この施設を出て一般学生、いや生徒同様に入寮し通学を始めることになりました」

そこで、一旦ことばを止め二人の反応を『冥土返し』は伺っていた…が、異論なしと見て取った彼は再び話を続ける。
「で、わざわざお二人に来ていただいたのは、その学校『常盤台小学校』と『女子寮』といった、以降の美琴さんの生活環境をご確認いただくためです」
たっての2人揃っての来所希望に不安を感じていた二人は『冥土返し』の言葉を聞き終えて「なぁ~んだ、そういう話ですか」と安堵した。

「ところでかあさん、今日の話をどう思う?本当にあの子の待遇の変化を見せる為だけに、わざわざ呼び出したとは思えないのだが」
「そうだねぇ…実は私もなんだかストーンとは府に落ちないものが、さっきからモヤモヤしちゃって…」
『ミコトはミコトは少しだけ寂しいかもと涙を我慢してみたりぃ…』と、愚図る美琴をやっとなだめて、学園から出る送迎車両に乗り込んだ二人は顔を見合わせていた。

確かに案内された「常盤学園」は、施設の充実に関して非の打ち所のないところであり、御坂家には、多少家賃が高いとも思える充実振りではあった。
寮のほうにしても『幼年部』は学園内に設置されており、寮監を筆頭に「アンチスキル」…学園都市の治安を維持する警備員を兼任する教職員が常駐していた。
また、食事などは管理栄養士が徹底計算し尽くしたメニューであり、調理も学園独自のシステムによって完全自動化された極衛生的なもの。
そのうえ美琴は、ここに移った後も「医局」によって常にフォローを受ける事となるので健康面などに関しても全く心配のないと言う待遇が約束されている。
それらを、つぶさに案内されて…目の当りにしてきた直後にもかかわらず、二人には言い知れない不安感がなんの根拠もなく湧き上るのを禁じえなかった。
「美琴…とっても元気だったし…あんなに大切にされてて、幸せそうだった。うん、幸せなんだよね」独り言のようにつぶやき合う2人を乗せた車両は公共交通機関の駅に到着した。



540 名前:冥土返しの後悔3-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:01:33.83 ID:ADYh6ko0 [5/41]
「そうか…御帰りになったか。君もご苦労だったね」そういって沈み行く夕日を眺めながら『冥土返し』は布束をねぎらった。
「いえ、私には何も出来ませんでした…あの『子』に付き従って教えてもらっていた、それを記録してまとめただけなのですから…」

「ふーむ。確かに我々は何をも生み出せなかったのかもしれないなぁ。だが本番はこれからだ…」そういって、布束の肩を軽く叩きながら『冥土返し』は部屋を後にした。

「学習装置」に蓄積されたデーターはすでに「樹形図の設計者」と称される学園のマザーコンピューターに転送済みである。

「樹形図の設計者」…ツリーダイアグラムの演算結果を待ち、それに沿った「とある計画」が間もなく指し示されることだろう…

しかし、いつの間にか当初聞かされていた「筋ジストロフィー」などの疾病対策にしては今回の「研究」はなんとなく解離している…

いい知れぬ「不安」ような違和感を感じ始めた12歳の布束は、研究所、『冥土返し』…いや、学園統括理事会に対して「疑惑」抱かずにはいられなかった。


541 名前:冥土返しの後悔4-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:08:01.65 ID:ADYh6ko0 [6/41]
その日のうちに『樹形図の設計者』からの返信が送られてきた。
トップの題は『 「Lv5量産計画」 : コードネーム「レディオノイズ」 』
「やつめ、本気でわしにアレを実行しろというのか…」

無機質な機械音と共に吐き出され続ける『樹形図の設計者』からのコマンドペーパー…
その状況を苦々しい想いで眺めるしかない自身の立場を恨みたくなる。
『冥土返し』が『御坂家』に対して「なしうる誠意の限界」が其処には描かれている。
『冥土返し』彼の腕を持ってすれば、『技術的』には何ら問題のない・・・
「いや「ヤツ」に比べれば難易度はかなり低い術式だ。」と思わず口からこぼれる程度…
しかし、僅かに残る「倫理観」のカケラが彼の心の奥深く、小さな刺の様に突き刺さってくる。

だが、今の彼には迷っている時間はなかった。「もう一度掛け合ってみるか」『冥土返し』は呟いた。
統括理事本部の地下深くにある『特殊区間』。マップには勿論、学園のあらゆるデーターべースにも上がっていない・・・
そんな「存在し得ない空間」で、彼は「ヤツ」…統括理事長「アレイスター・クロウリー」と対峙していた。

冥土返し「いったい、君は何を望んでいるのかね?理解しがたいオーダーだが」
アレイスター「ふむ、確かにあなたには随分助けられたし、お世話になっているな。今も…」
アレイスターの培養装置のようなガラス容器に逆さに浮遊するその姿は異様とも見える
冥土返し「いや、そんな事を聞きに、今日来ているわけじゃぁないよ」
アレイスター「レディオノイズ・・・の事か。うんそうだな、今いえることは時間がないのだよ…」
冥土返し「時間?一体何の時間だね?何が君に能力者を大量に必要とさせているんだ?」
おもわず彼に詰め寄る冥土返し。だが、ガラス越しに見える姿は時には揺らいでいる…
アレイスター「イギリス、ローマ、ロシア…魔術サイドの動きが激しくなってきているんだよ」
隠し事をする間柄ではないのか、トップシークレットであろう学園都市の立場をこともなげに伝える。
冥土返し「だからといって…まさか、魔術サイド相手に能力者で対抗する気か!?」
冥土返し「君は、今の体になるような目にあってまだ懲りてないのかね!魔術サイドに手を出すなんて!!」
普段は表情をほとんど表さないアレイスターの口元が少し綻んだ様に冥土返しにはみえた。
アレイスター「あなたが何も心配する事はない。ただ、黙って『レディオノイズ』を完遂してくれればいい」
優しい口調ではあったが話を打ち切るかのようにそういい終えた時、その姿は既に見えなくなっている。
『冥土返し』は取り付く島もないまま再び『病院』という名の研究所の地下へと向うしか術を持たなかった。

レディオノイズ:能力者量産計画には、大きな規約違反を伴うという前提があった。
学園都市においては、既にクローン生成技術は、「あらゆる生命体」で既に確立されていた。唯一『人間』を除いて…
その禁を犯してまで実行されようとしている今回の「設計」には大きな闇が見え隠れしていた。
『冥土返し』は、最後の最後まで悩み続けた。『人間』のクローン生成…その『事』の重みに。



542 名前:冥土返しの後悔4-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:09:16.45 ID:ADYh6ko0 [7/41]
クローンを生成するには『DNAマップ』は不可欠である。DNAの塩基配列が単純な植物ならいい・・・
髪の毛1本程度のサンプルのマップで事足りてしまうだろう。魚類なら『身の一欠』も在ればいい…
しかし「哺乳類ともなると、必要とされるマップは桁違いに多くなってくる。
皮膚から毛髪に始まって・・・血液は言うに及ばず、各種内蔵、骨髄、脳組織に至るまで…
今回の『設計』は、これら全てから『解析サンプル』採取するという事は『検体』の死をも意味する前提のものであった。
『絶対に「美琴」ちゃんを死なせる訳にはいかんのだよ…アレイスター。オーダーは完成させよう。が、一部は私流変えさせてもらう』
そう誰に呟くでもなく口にして『冥土返し』は、彼の研究室に戻ると「設計」に基づいた「レシピ」の作成に取り掛かっていた。
『体組織のサンプル採取は不可欠になってしまうか…だが、「記憶」だけは再生はできない。「体験記憶」「エピソード記憶」これだけは死守してみせる』

「計画」をもとにアレンジされた『冥土返し』の「企画」のもと、「病院」中のスタッフが一斉に緊張した面持ちで駆け回る日々が始まった。
『時間がない!オリジナル検体採取から「複製体」の完成には最短4週は必要だ。それ以上早めるとテロメアが極端に短くなってしまう!』

焦ってはいけないが急ぐ必要はあった。次回の「面会」までには、『御坂美琴』はこの病院を「いつものように」走り回ってなければならない。
今回の参観で両親が一安心している所…を見計らって切り出した。「次回は…クリスマスイブなんていうのは洒落てると思いますが」

『冥土返し』の提案に御坂夫婦は「あぁ、そうですねぇ~美琴の好きなぬいぐるみ…大きな『熊のぬいぐるみ』を…」と快諾していた。
『美琴ちゃんの生まれたままの最後の姿をご両親にお目にかけられたのがせめてもの救いか…いかんいかん仕事は山積みだ』

生命維持装置や、脳死保存装置。儀人体などはすでに「機械化」されたものが「治療用」の機器として既に完成している。

しかし、これは治療、手術時の使用を前提としており、せいぜい1-2週の治験結果しか得られていない。4週もの期間の前例はなかった。

『複製体』は急げば2週で完成させることも出来るが、極端な短命に…そう、バッテリー充電と同様な理論なのだった。

『冥土返し』は『もうひとつの検体』の前に立っていた。彼の『技術』をもってしても『余命1ヶ月』しか時間のない美琴と同じ歳の…
「すまない、私の独断で君にも協力をしてもらう事になるが…許してくれるよな?身寄りのない君が何万人にもなれるのだから」
小さな頭がかすかにではあるが「頷いた」様に見えたのは『冥土返し』の思い込みによる錯覚であろう。彼の自責の念が見せた…



543 名前:冥土返しの後悔5-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:12:57.64 ID:ADYh6ko0 [8/41]
「この方法しか美琴ちゃんを「温存』する術はないな…」そうつぶやき『冥土返し』は出来上がったばかりの「術式」のレシピを机に置いた。
そこには、検体の採取に始まり「美琴の『魂』の保存」、「美琴の『完全体』への復元」によって完遂する「高等手術」のカリキュラムが組み込まれていた。

『冥土返し』は、ここのところ徹夜続きであった…いや眠れなかったと言うほうが正確なのかも知れない。自責の念…それ以上に膨らむ責任感によって。

『見落としてはないのか?』『想定しうる事態はこれで全てか?』『器具の調整は完璧なのか?』自問自答のうちに、今朝も眠れぬ夜明けを迎えていた。

明日の「開始」にむけた準備は、一昨日には既に所員たちの寸暇を惜しむ働きにより、万全…『完璧』な状態が『バックアップ』を含めて構築されていた。

その「手術室」という名の『実験室』の数階上のフロアーを、『御坂美琴』は今日も元気に走り回って布束の手を煩わせている。

美琴を追いかけながらも『今日で、この美琴ちゃんとはお別れかぁ・・・』布束の心中もまた『冥土返し』同様に揺れ動いていた。

『学習装置には確かに「美琴」ちゃんの、ありとあらゆる「パターン」は記憶されている。けど、それは「機械的要素」が主体…』
『今、目の前の『美琴』が4週間後にまた元気な姿を私に見せてくれる・・・いいえ、返ってきてくれる事を祈るしか今の私に出来る事はないのか…』

「死体以外ならどんな患者でも直してみせるよ」と、日頃うそぶく『冥土返しの』言葉だけが今の布束にとって、唯一の心の支えであった。

いつのまにか、「姉」の様に自を慕い、何ら疑う事なく全幅の信頼を寄せている『美琴』を結果的とはいえ欺く自分に対する嫌悪感を布束は禁じえなかった

「おねぇちゃん、どうしたの?そろそろおやつの時間ですよ!と、ミコトはミコトが足をバタバタしてアピールしてるのに無視ですか?」
『美琴』の言葉が布束を現実へと引き戻す。

「そっかぁ、ごめんね~宿題の事考えてぼーっとしちゃってたかな」笑顔をつくろいながら彼女は食堂へと向きを変えた。

いくら世間が「秀才」と誉めそやそうが布束とて、現実社会では12歳の「女子」なのである。学術的研究と言う大義名分は何の癒しにもならない。

フナや蛙の実験とは訳が違う。学識では大人顔負けであったとしても冷静に研究素材として『美琴』を観るには余りにも幼く、その心は細かった。

544 名前:冥土返しの後悔5-3/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:14:28.98 ID:ADYh6ko0 [9/41]
2人が辿り着いた食堂の人影は疎らであった。閑散とはしているものの「美琴」の「おやつ」は特別なメニューが常に同じ席に用意されている。

布束は、「おやつーおやつーと、ミコトはミコトは目を輝かせてみたり♪」はしゃぐ美琴の手を引きながら「その一角」へと歩を進めてゆく…

『これが、この「美琴」ちゃんが、この世界で食べる最後のおやつ…悪いお姉ちゃんだったよね。ミコトちゃん…』


545 名前:冥土返しの後悔5-4-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:15:53.68 ID:ADYh6ko0 [10/41]
頬にトッピングを付けながら、大好物のパフェを無邪気に頬張る美琴をみつめながら布束は心で詫びていた。

「ん!?おねえちゃんどうしたの?お腹が痛いのかなぁ、とミコトはミコトは心配になって…あれれ?なんだか突然に眠くなってきたりぃ…」

其処まで話したところで「検体美琴」は、テーブルにつっぷすように倒れこむと静かな寝息を立て始めた。その寝顔は何の疑いもない天使のものであった。

「検体美琴」の寝顔を確認した布束の顔は先程までの「普通の女子」から「研究員の顔」へと変貌する。もう戻る事はできないのである。迷いはなかった。

「布束です。検体の収容をお願いします」施設内専用インカムで担当所員に報告をすると、1分足らずでストレッチャーを伴った4名の医局所員が到着した。

「お疲れ様でした・・・」布束の心中を察するかの様に彼女を見つめた目は同情の念にあふれ、そのねぎらいの言葉は呟きの様にかぼそい声であった。

カリキュラムのNo1がスタートした瞬間であった。手術自体は明朝06:00開始予定では在ったが「検体の浄化」という「下準備」がこの時点から開始された。

通常の手術の際には本人に伝えた上で「前日からの飲食や喫煙などの禁止。水分補給の摂取制限」を本人の意思によってするのであるが「美琴」の場合は事情が違う。

「美琴」本人に『手術を受ける意識も、認識』も全くない状態からスタートしたカリキュラム。意識のないうちに「胃洗浄」から始まり、全ての臓器をナチュラルにしてゆくのだ。

「手術準備室」と書かれた部屋の前でストレッチャーは一時停止。ドアが静かに開くとまるで「クリスマスツリー」状態の装置。その横には「あの蛙顔」が布束を待ち受けていた。

「君にはつらい役目をお願いする事になって申し訳なく思っている。僕も、想いは君と同じだ。きっと君の手に『御坂美琴』ちゃんが再び戻る事を一命を賭して約束するよ」

『冥土返し』の言葉に布束は押し殺していた感情が一気に噴出した。特徴的な「ぎょろ目」から大粒の涙が頬を伝う…

「先生、今夜…美琴ちゃんと一緒に寝てもいいですか?」

546 名前:冥土返しの後悔6-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:20:19.16 ID:ADYh6ko0 [11/41]
学園都市の『とある地下… 医療設備が整った空間』…とは言うものの『病院』ではない研究施設…
「諸君、いまから術式を『開始』します。長時間になる術式だが宜しく頼みます」
目が大きい高齢にもかかわらず眼光の鋭い『冥土返し』がそう宣言して「それ」は始まった。

冥土返し「始めに、検体より「脳」を摘出する術式からはじめる。さすがに「記憶」までは複製できないからね…」
冥土返し「では、術式を開始します。」
第1助手「脳組織の機能維持装置の点検完了。動作確認よし。スタンバイはできました」
第2助手「頭蓋開口、準備完了。レシピにより頭皮を剥離後、円錐状に切断を想定ライン確保」
機械出し看護士「ダミー人体、頭蓋開口器具ならびに工具の点検準備できています」
外回り看護士「脳組織移動用培養溶液槽スタンバイ完了しています」
麻酔医「検体の基礎代謝に現在異常は見られません。」
冥土返し「脳組織への負担を減らす為に低温術式を開始。」
外回り看護士「窒素ガス、コック開けます。」  
機械出し看護士「散布機です!」
第1助手「脳へのガス散布開始!」  
第2助手「脳体温度測定…臨界温度確認」
麻酔医「脳代謝、ならびに脳波の停止を確認。冬眠状態に入りました」

冥土返し「頭蓋開口。神経回路、循環機能維持装置起動、ダミー検体ON」
第1助手「頭蓋開口開始!脳組織全容確認。海馬、小脳ともに延髄より視認」
第2助手「頚動脈より、脳大動脈血管、静脈血管、確保。神経束確保」
冥土返し「これより、脳揚の摘出をする。動脈血管、静脈血管切断!機能維持装置にバイパス!!」
第1助手「動脈バイパスします!」  
第2助手「静脈バイパス完了!」
冥土返し「神経束を切断!!ダミー人体への接続急げ!!ショックを起こすと大変だ」
麻酔医「冬眠限界時間は120分!」  

冥土返し「判った!!」だが、みんな決して慌てるなよ」
機械出し看護士「脳体容器をここに置きます!」
外回り看護士「輸液装置作動させます」
冥土返し「一気に取り出す。それ!!」
美琴の脳体は延髄を含めて、血管・神経束共にバイパスをされた常態。

冥土返しの両手の上に乗った白くてもろい『豆腐』のような脳。ここに美琴の『心』が眠っている。

第1助手「ダミー人体をこちらに、急げ!!」 
外回り看護士「はい!!」
第2助手「先生!ここへ!!」
彼が差し出したのは『脳組織移動用培養溶液槽』である

冥土返しは、壊れやすくもろい宝物を扱うようそっと『美琴』をそのなかに浸した。



547 名前:冥土返しの後悔6-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:22:26.50 ID:ADYh6ko0 [12/41]
『美琴ちゃん、すまない。君の脳からほんの少しだけ、能力の発現サンプルを頂くよ…』
『そのお詫びに、そこを増殖培養する際には今以上に進化できる工夫をさせてくれ』
冥土返しは「白い塊」を見つめながら心の中でそう呟いていた。

麻酔医「脳体とダミー人体とのシンクロ率は98%を確保できています」
第1助手「冬眠時間の臨界が近づきています。これ以上の冬眠は覚醒確立が下がります」
冥土返し「よし、『美琴』ちゃんの脳体を常温に復帰する。生理食塩で徐々に常温に!」
『美琴君、再生検体が出来上がるまでこのダミー人体で眠っていてくれ。適う事なら良い夢を…』
冥土返し「残りの検体部を「擬似脳サーバー」に接続、生命維持装置稼動!」
麻酔医「検体部分の生命反応は維持!!交感神経、副交感神経、新陳代謝異常なし」
冥土返し「では、体細胞組織が生きてるうちに検体から組織サンプルを採取する」

血にまみれた、手術室の惨状。切り取られてゆくサンプル。
生きながらにして脳を切除される「名も無き」第2検体…
『冥土返し』を先頭に、作業に参加する誰もが『修羅』と化したかのように淡々と手を進めていった。
かくして「人体生成」に必要なサンプルは揃った。
が、其処からさらにDNA解析。塩基配列の解析…

『なんとしても、完全体で再生させなくてはならない。「美琴ちゃん」を無事に御両親に返すためにも…』
そう呟くと冥土返しは疲れきったその体を仮眠室のベッドに横たえた。


548 名前:冥土返しの後悔7-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:26:56.75 ID:ADYh6ko0 [13/41]
第一助手「先生、全ての検体の解析データーが完成。『樹形図の設計者』への転送終了しました」
躊躇いがちに話しかける声に、仮眠室のベッドで横たわっていた『冥土返し』は目を覚ました。
『冥土返し』彼の本当の力量を試されるのは、むしろ今からがその本番でもあった。

クローンを作成するためには「核」となる細胞が不可欠であり、この核に刻み込まれたDNA配列に基づき増殖をする。
核となる『ES細胞』…正確には『ヒト胚性幹細胞』は「とある『患者』」の治療の際、『冥土返し』によって既に完成されていた。
その核を「不活化」させた後に、今回出来上がる『DNAマップ』を上書きする事によって『ミサカ』の『胚芽』が生まれる。

「後は、『天』からもたらされる『DNAマップ』待ちか…」
疲れきった体を気だるそうに起こしながら『冥土返し』は返事をした。
気遣った看護師の差し出したブラックコーヒーに口をつけながら『冥土返し』はゆっくりとその足をサーバーPC室へと向けていた。

足を踏み入れた其処には『所員』の大半が揃っていた。にもかかわらず、かすかに聞こえるファンの音以外何もなかった。
と、その時プリンターっが静寂を破壊してけたたましく印字する音を立て始めた。
ロール状の用紙が一気に吐き出されてきた。「来たぞ!!天からの声だ」
「よし!今からが本番だ。未知の領域にも足を踏み入れる事にもなるが恐れることなく各自職務を遂行してくれたまえ」

『冥土返し』の言葉をきっかけに再び『実験室』に喧騒がよみがえる。
各部署ごとに『マップ』を手にすると部屋を飛び出していった。
「さて…私は『美琴』ちゃんを、復旧しなくては…」そういって『冥土返し』は実験室を後に『美琴』が待つ『培養室』へと向った。

彼がむかった、その部屋の中央には、『クリスマスツリー』いや、ダミー人体と『美琴』。
見守るように手術着姿の布束が立っていた。
『冥土返し』が音を立てる事無く静かにドアを開けて中に入ってゆく…
「美琴ちゃん、ぐっすりと眠ってる…」脳波計の緩やかな波から目を逸らすことなく布束はつぶやいた。
「うんうん、そうかね…だが、『思考』『演算』『自律神経』に関した部位をほんの少しだけ採取ているから復元が必要なのだよ…」
「痛くない?」と布束は『冥土返し』の言葉をさえぎる。
「安心したまえ、脳自体にそれを感じ取る『痛点』が存在しないからね」
「それに、もうメスを使う事はない。欠損部位に胚芽細胞を定着させて増殖補完してゆくだけだよ」
冥土返しの言葉に彼女は安堵した。もう、これ以上の苦痛を『彼女』に与えるのは酷過ぎる…

無数のケーブルやチューブによって「ダミー人体」の力を借りながらも『美琴』は、今はまだ「此処」で『元気』にしている。
その事が布束にとっては唯一の救いではあった。
しかし、変わり果てた姿の『美琴』は彼女を許してくれているのだろうか?
脳波計のグラフは穏やかなウェーブを描くだけでなにも応えてはくれない…

『がんばって美琴ちゃん』心の叫びは届いてるだろうか。



549 名前:冥土返しの後悔7-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:27:58.13 ID:ADYh6ko0 [14/41]
別の部屋には、不透明な溶液に満ちた『逆さに伏せたグラス』・・・

専属スタッフを伴った『培養装置』が規則正しく配列されていた。

その部屋に大きな声が響く「では、『胚芽』を入れてくれ」いつの間に入ってきたのか『冥土返し』が各担当スタッフにそう告げた。

唯一つ『検体No00000』と記された『培養装置』だけは特別であった。

スタッフが他の装置の『倍以上』配置され、各自の面持ちも緊張し、張り詰めた空気が流れていた。

「先生、検体のシリアルNoは『00001』からの予定では?」

事情を知らない『一般培養装置』担当スタッフが『特別培養装置』の特異は光景を見て『冥土返し』に尋ねた。

「うむ、『樹形図の設計者』のプランは確かにそうだよ。『プラン』この検体は『存在しない』・・・検体ではなく『御坂美琴』ちゃんだからね…」

『冥土返し』の言葉に質問したスタッフは『特別培養装置』の『意味』の全てが飲み込めた様子で自分の持ち場へと戻っていった。

時は過ぎて…4週間。

スタッフのたゆまない努力の結果、各『培養装置』の中では…一見8歳くらいの「ミサカ」が静かに眠っていた。

『特別培養装置』の中には「おやつを食べていた『御坂美琴』」が背中を丸めるように漂っている姿を『冥土返し』は見つめていた。

「今出来上りつつある検体には『心』が存在しない。よって『学習装置』を接続し『心』を注ぎ込む作業をはじめる」彼が宣言した。


550 名前:冥土返しの後悔8-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:34:32.64 ID:ADYh6ko0 [15/41]
第1助手「先生、『美琴』ちゃんにも『学習装置』を接続するのでしょうか?」
冥土返し「いや、美琴ちゃんは『脳移植』で『帰って』来て貰うつもりだよ。」

まだ一般的には『心臓移植』でさえ完璧とは言えない。
が、此処学園都市、中での『冥土返し』による「脳移植」術式(禁則事項ではあったが)の成功率は果てしなく100%に近いものであった。
『では、脳移植の術式は1週間後にセットする。その前に「検体」に「美琴」ちゃんの身体的特徴の全てを「コピー」しておく』
『術式前に撮影をした『御坂美琴』ちゃんの『身体詳細撮影画像』を準備。形成外科諸君の術式で完璧にトレースしてもらう』
『正確を期するために、担当医局は身体の部位単位で分割する。「頭部及び顔面」は第1医局。両椀部は第2医局。「上半身前面部」は…』
『冥土返しは矢継ぎ早に、しかし正確な指示を次々と全スタッフにしてゆく。

こうして8教室の医局が総力で『御坂美琴』の復元が始まった。
担当を振り分けた後に『冥土返し』は医局員全員に言った
「いいか、『親の愛』決して軽んじてはいけないよ。黒子、あざ、僅かな怪我の痕。何一つ見落としがないように」

こうして、まずは『御坂美琴』の帰る場所の生成が日夜通して繰り広げられてゆく。
「時間がない…あと2週間でイヴ…脳移植の回復に1週は必要だ」両親との約束の期日が迫った…『冥土返し』は珍しく焦りを感じていた。
1週間で『復元』は完了し『治療』の痕跡も完全になくなっていた。学園都市の手術では「メス」はレーザーであり「縫合」は『API細胞修復溶液』で行なう。
したがって、『外』での外科手術につき物である「糸の痕」や「傷口の痕跡」が残る事は無かった。

ホログラフィの『身体詳細撮影画像』と「シリアルNo00000-御坂美琴」の比較検証には、布束も立ち会っていた。
…ひたすら見守ることしかできない彼女…「美琴ちゃん」なぜか言い知れない感情に涙が布束の頬を伝っていた。

「どうかね布束君。君の目から見て『協力以前』と比べて何か違和感を感じるところがあれば忌憚の無い意見をぜひ聞かせてくれたまえ」
静かに…いたわる様に布束へかけられた『冥土返し』の言葉に
「美琴ちゃん、ちゃんと目を開けてくれますよね?『お姉ちゃん』って、また呼んでくれる様になりますよね!」
なかば、彼の言葉が耳に入ってない布束はそう言って『冥土返し』の白衣にすがり付いて立場を忘れ逆に詰問してしまっていた。

「明日、美琴ちゃんに『此処』に帰ってきてもらう予定だよ。今此処にある『脳』は、今更なのだが『第2検体』になってくれたあの子に返す」
「ここにある『脳』の大半が『あの子』のオリジナルの複製なのだから…きっと判ってくれるだろう。許しては貰えないかも知れんがね」
それだけを布束に伝えると『冥土返し』は『特別培養室』を後にした。彼には、『御坂美琴』の『帰還手術』へ向けた準備が待っていた。

551 名前:冥土返しの後悔8-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:37:02.92 ID:ADYh6ko0 [16/41]
脳移植』術式。それは『ある意味の不老不死』の魔法に聞こえるかもしれないが決してそういうことではない。
老いた体から若い体に移植を施したとしても『健康な若い身体機能』が一時的に得られるに過ぎない。
『脳細胞』自体の『テロメア…DNAに記録された『固有の寿命』があるのだ。
その上、老体時代に染み付いた「体験記憶」が蓄積された脳から発せられる『命令』は、脳の体験した年齢相当のものなので「若い老人」が出来るだけなのだ。

「美琴ちゃんへは『細胞分裂促進剤』の投与は中止してあるのだろうね。」『冥土返し』が担当の当直看護師にたずねた。
「はい、『手術直後年齢』になる予定の『投与』で遮断しています」
答えながらも、看護師は栄養補給、ドレイン作業と手を休められない。
「うむ、ご苦労様。他の検体にはもう少し投与を続ける事になるが…『促進剤』の過剰投与はその量に対して累乗的にテロメアが短く…短命になってしまうからね」
『冥土返し』は、綿密に『美琴』が有していた『余命』を忠実に再現できる『投与量』を計算して『4週間』と言う期間を設定した。
この幼い体にふたたび『脳器官移植』という負担をかける事は彼にとっても忍び無い事ではあった。
しかし『彼』からの「レディオノイズ」のオーダーをクリアーしながら『美琴』を守るにはこれしか選択肢が残されていなかった。
いや、これとて「彼…統括理事長」からの『警告』という名の質問に対して『能力発現』に必要な条件、要素を具体的に説明。説得を続けて得られた『ぎりぎりの譲歩』であった。

布束は、再びストレッチャーに載せられて手術室に入ってゆく『美琴』を見送るながら『無事に戻ってきてね』と祈る他に術は無かった。
今回の術式は『冥土返し』にとっては、幾度と無く経験済みの手馴れたものである事から、成果に対する不安は皆無といっても良かった。
むしろ、布束の不安は『検体』と『美琴』のマッチングが上手く行くのだろうか…
再生検体であるから『拒否反応』は考えづらい…が、皆無とは断言でず予断を許すものではなかった。

4時間後、傷口が無いので『手術直後』とは見かけ上は全くわからない『美琴』が…手術室前でじっと佇んで待っていた布束の前に戻ってきた。
その寝息は規則正しく、自律神経系の復旧の成果が証明されていた。
時々『ピクッ』っと指先が不随意反応を示して運動神経も証明されている。
布束の前を通過してゆく「ストレッチャー」の住人は暗に『元気だよ』と語りかけているかのようで彼女に一応の安堵感を与えるものであった。
「布束君」肩を叩いたのは手術着のままの蛙顔の医師だった。「安心したまえ。術式は完璧に終ったよ」そう呟くように彼女に告げる。
続いて、「では、早速だがこれからは君にも協力してもらう事になるが、準備は良いかね?」
『冥土返し』の質問に「こくり」と布束がうなずく。

今から、残り1週間で「5週間分」の「エピソード記憶」を『美琴』と共に、脳にインストールされるのである。とはいえ、彼女には『今までの記憶』も残る。
布束は、この5週間を2重に生活した事になる。多重人格というよりパラレルワールドを体験してゆく事となるのであった。
美琴の隣のベッドに布束も横になった。
『冥土返し』の監視下、両者の頭部に医局員数名によって手際よく数多くの電極が装着されていった。
「美琴ちゃん、目が覚めたら何時もの様に一緒に『おはよう~』って挨拶しようね」
そういい終わる頃には布束もまた深い眠りへと入っていった。


553 名前:冥土返しの後悔9-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:42:00.25 ID:ADYh6ko0 [17/41]
二人は仲の良い姉妹のように並んだベッドで『同じ夢』を観続けている。
『電気的に作成された擬似体験』を頭に取り付けられた電極を通じて…
眠り始めて5日が過ぎた…
明日は「クリスマスイブ」である。『冥土返しは』そんな二人を自分の娘を見つめるような優しい目で見守リ続けていた。

明日の朝には目が覚める…美琴ちゃん、私の顔を覚えていてくれているだろうか…』
疑似体験が誤って、既成記憶に上書きされるリスクは皆無である保証はなかった・・・
記憶と言うものは、ある特定の場所に「一時保管」された後に「保存」「削除」へと振り分けられてゆく。
PCの「ROM」「RAM」のメモリーに例える事ができる。
「体験記憶」概ね「ROM」に保存されるが「エピソード記憶」は「RAM」に保管される事が多く「上書き削除」という事態はむしろ大いにありえる事であった。
彼女「御坂美琴」にとって『蛙顔』が、自分に『痛い事をした医師』という体験で記憶が残れば覚えているが、時々見かける『面白いおじさん』に過ぎなかった場合は『上書き削除』
とはいえ『冥土返し』にとっては、いづれであっても自身の事などは二の次でよかった。
幼い頃からの『大切な家族の記憶』さえ無事であってくれれば…

長い夜が明けはじめる。『御坂美琴』の寮個室には『全ての装置』を取り除かれた二人が仲良く並んで眠っていた。
深夜のうちに二人が覚醒しないようにそっと…手早く全ての処置を終え『二人のいつもの部屋』へと移送されていたのであった。

「おねえちゃん!おねえちゃん!!って、ミコトがお腹の上でジャンプするまで起きないつもりなのかなぁって、叫んで起こしてみたり!!」

布束は『懐かしい』そして『夢見た声』が意識の遠くから聞こえてきた時…
『まだ夢の続き??』…「え!!」と、自分の耳を疑いながら飛ぶ様に起き上がった。
「ゆうべ、あんなにご馳走やケーキを一杯食べたのに、もうお腹が空いたよ~!!って、涙目でミコトはミコトはお姉ちゃんにあまえてみたり~って聞いてますかぁ~」
「おはよう、美琴ちゃんそんなに慌てなくても食堂はなくならないし、朝食も逃げていかないから~」
『懐かしい。。目覚めの儀式』布束は自身の感情を美琴に悟られないようにそう茶化していた。

そんな二人の様子を、研究室のモニター越しに食い入るように観察し『涙する』初老のカエル顔の医師がいた。
『記憶の継承は上手くいったか…』冥土返しは第一関門を無事に通過できたと確信できた。
しかし感慨にふけっている時間は彼には残されていなかった。『旅掛、美鈴』夫妻の来訪が明日「クリスマスイブ」に迫っていた。


556 名前:冥土返しの後悔9-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 14:47:05.33 ID:ADYh6ko0 [19/41]
布束は、御坂美琴…『検体シリアルNo00000〔個別呼称・パーフェクトミサカ〕』を伴って「食堂」へと歩を進めながらも、その様子をつぶさに観察し続けた。

その言動に、かつての「御坂美琴」との齟齬がないか…検証を怠れない。

『冥土返し』から「君が美琴ちゃんと過した日々は貴重なデーターなのだよ」と、学習装着時に聞かされていた。

「行動パターン、あらゆる言動や嗜好はデーターベース化されているし『学習装置』にも入力してある。しかし、肉親の感じとれる微妙な『感性』に対してのデーダーはデジタル化は無理がある」

「術式までの期間、姉妹のように過してきた君の中の『御坂美琴』の『想いで』こそが学園都市に存在する唯一無比の『生きたアナログデーター』なのだ。そう言い渡されていたのだった。

「わ~い、今日の朝ごはんは「ベーコンエッグにクロワッサン」。

デザートの「ババロア」にミコトはミコトは感激して椅子の上で逆立ちしてみたりぃ」

「こらぁ~!危ないでしょう!!明日は何の日か忘れちゃったの!?」布束は咎めながらも、課せられている『実験観察』を始めていた。

「う~ん?…って、そうかぁ、明日は『クリスマスイブ』って、お父さんとお母さんがサンタさんになる日だった~と、ミコトはミコトは喜びを倍に…」

『うんうん、変わってない、変わってないよ…『美琴ちゃん』だよ!』


560 名前:冥土返しの後悔9-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:00:48.64 ID:ADYh6ko0 [21/41]
反応に対する布束の厳しい表情の目にはなぜかうっすらと潤うものがあった。
『御坂美琴』の言動、行動パターンには今のところ『かつて』のものと比較して殆ど齟齬は感じられません」
布束は「朝食」に夢中な美琴を微笑んで見守りながら『所内インカム』をそっと口に近づける。

美琴に気づかれないよう細心の注意を払いながら、監視モニターを凝視しているであろう『冥土返し』に報告をする。
「ふむ、そのようだね。多少の齟齬があったとしても誤差の範囲。ご両親にも『空白期間』があるから、単なる娘の『学園都市』での成長との認識に収まる程度だろうね」と返答があった。
過去にさかのぼっての記憶…さすがの布束も、この『領域』に関しては立ち入れない。残り少ない『猶予時間』の中で美琴自身から少しずつ聞き出して言った。
『クリスマス』『お正月』『七五三』『ひな祭り』『誕生日の出来事』『一番嬉しかった想い出』『悲しかった出来事』『痛かったこと』『怖かった事』
術式前までに美琴との間に会話に出て来た『過去』を折に触れて、悟られないように…
一つ一つの出来事を…布束は、なるべく自然を装いながら会話を通じて確認をしていた。

「お姉ちゃん、今日はどうしたの??前に話したのに、同じ事ばかり聞いて!?とミコトはミコトはおねえちゃんを心配してみたりぃ」
「〔パーフェクト・ミサカ〕の名に違わず『美琴』からは完璧な回答が帰ってくる。
『成功です先生。私が知る限りの「御坂美琴」が…あの日のままの美琴ちゃんが目の前にぃ…』布束は自制を失いかけていた。
「どうしたの?お姉ちゃん??ミコトはミコトはモグモギしながらも心配してみたりぃ…」怪訝そうに見つめる美琴の目を気にする事も忘れて…

『大きな声の独り言』を部屋の片隅をじっと見つめながら口にせずにはいられなかった。
食事を終えた『二人』は、そのまま部屋には帰らず、来室を待ちわびているであろう『冥土返し』の研究室にむかっていた。
ノックして、中に入った途端「わぁ、お医者さんだぁ。注射嫌い!!と、ミコトはミコトはお姉ちゃんの背中に緊急避難してみたり!」
元気な『美琴』の先制攻撃に『冥土返し』は苦笑するしかなかった。が、それは至福の苦渋…という複雑な笑いであった。

「はははっ、嫌われたねぇ~美琴ちゃんは以前に僕から注射された事があったかな??」
「うん!?あれ?なかった??お顔もカエルさんみたいで、もしかして『優しいお医者さん?』ミコトはミコトは『このお医者さん』が少し好きかも!?」
布束がミサカの意外な反応に驚き、たずねた「美琴ちゃん「カエル」がすきなの?」
「う~ん、嫌いだった。けど、よくわかんない。『お医者さん』見てたら大好きになっちゃったかも?とミコトはミコトは訳が判らないと考え込んでみたり」
「そうかねそうかね、だが美琴ちゃん、先生は怖いかもしれないぞ?」
笑って応対する『冥土返し』に、いつしか布束から離れた美琴が彼の手をとって、驚く『冥土返し』に告げる…
「カエルのお医者さん…ミコトはミコトは病気なんてしないから、はじめて見るお医者さんだけど何だかとっても優しいって思うかなって、ここに宣言してみる」
「カエルさんに似てるからかな??」消えたはずなのに「消えなかった魂のカケラ」それだけで『冥土返し』には十分であった。
「うん?う~ん・・・カエルさんが大好きになったかも。ミコトはミコトは自分の趣味の悪さに驚きながらも喜んでみるぅ~」
忘却とは忘れ去る事…
『蛙顔の冥土返し』少なからず面識のある彼の存在は『検体シリアルNo00000-パーフェクトミサカ』の記憶には残されていなかった。しかし、彼の心は記憶以外に残ってくれていた。
「記憶にはなくても『魂』には残っているのかもな。はははっらしくもない『非科学的』な妄想を…」自室に戻った『冥土返し』は一人で苦笑していた。



562 名前:冥土返しの後悔10-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:04:19.46 ID:ADYh6ko0 [22/41]
「美琴、びっくりするわよぉ~これ見たらフフフッ」

大きな『熊の縫いぐるみの包み』を抱えた「御坂美鈴」は夫「旅掛」に悪戯っぽく笑みながらモノレールの窓から小さく見え始めた『学園都市』を見つめていた。

「そうだな、美琴が君に一月以上会わなかったことはなかったから寂しがっているだろう…」

アラスカから戻ったばかりの旅掛はそういって美鈴へ目を向けた。

「ううん、寂しかったのは私のほうかもしれないよ。電話では何度となく話しててもやはり『顔』を見ないとね…」

美鈴の『電話の話し相手』じつは、『美琴』本人ではなく『合成音声』であった事にまったく気づいていない美鈴は母親らしい慕情を募らせていた。

学園都市の技術を持ってすれば『美琴』の音声アンドロイドなどの製作は容易なことであった。全くの音信不通ではいくらなんでも不自然である。

その穴を埋めるべく『合成音声』で美琴の日頃の会話の特徴をインプットさせた『美琴音声アンドロイド』に1万通りの『会話の自動応答…』

電話…回線から入力される相手の会話内容を解析して分析。即時に自然な返事が出来ていたので、美鈴には『美琴』の元気な会話が用意されていたのだ。

むろん、会話内容から日時に至る全ては、『検体No00000・パーフェクトミサカ』の最終入力の際に『インプット』されているので面会時の会話に矛盾が生じる事はない。

そんな、他愛もない会話をしているうちにモノレールは静かに学園都市のコンコースへと滑り込んでいった。エスカレーターを上り切れば『学園都市チェックインゲート』が2人を待ち受けている。

『なんとも言い知れない不安?』

何かにせかされるかのように『大きな包み』を抱えた夫婦はどちらが誘う訳でもないのに自然と歩を早めていた。

見覚えのある女子寮の入り口の前に二人は来ていた。寮に入寮して既に一月以上…美琴がホームシックにもならずに頑張って生活を続けている城の前に…

美鈴がためらいがちに寮の玄関にある『美琴』の部屋の番号のインターフォンを探し出して押す。

「はい、ミサカでーす。って、わーい!お父さんにお母さんだぁと大きな声で喜んでみたりぃ!!」

布束が部屋のドアーを空けるのももどかしくエレベータへと走る『美琴』…

『検体シリアルNo00000パーフェクトミサカ』は其処には居なかった。

エレベーターのドアーが開いた途端、二人を見つけた美琴は『いつものように』旅掛の首に飛びついていった。

563 名前:冥土返しの後悔10-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:05:04.78 ID:ADYh6ko0 [23/41]
その様子を見ながら「はじめまして、同室の6年生の布束です」と自己紹介をしていた。

『この寮では、低学年の児童には上級生が同室して面倒を見る事になっています』

と、以前の『参観訪問』の際に受けていた説明を二人は思い出し布束に頭を下げた。

二人が見た布束は、実際の12歳であるのだからまったく違和感がなかった・・・

『研究所監察官』ということなど微塵も感じさせない『小学生6年生』そのものであった。

辞退し続けた布束を含めた4人は『寮監』に届けを出して学園都市にあるレストランへと向かった。

そこで、「御坂夫妻」からの布束への謝意をも込めた少し遅めの昼食を取ることとなったのだ。

はしゃぎまわって叱られながらも美琴は『この5週間』の出来事を事細かに…そして自慢げに『夫妻』に話す。

美琴と同時に入力した『パラレル記憶』を有する布束も相槌をうったり補足したり、おどけてみたりして場を和ませる役割も忘れていなかった。

一行がレストランを出た時には午後3時近くになっていた。

「ご馳走様でした。わたし、学校に用があるのでここで失礼します」

ここからは親子水入らずの時間なのだ。布束は自分の立場わきまえ『美琴』の両親に丁重に礼を言う。

「あらぁ、そうなのぉ残念ねぇ。一緒に夜のディナーまで居てもらってイヴをと思っていたのに」

美鈴が本当に心から名残惜しそうに言ってくれる気遣いに、布束は罪悪感と心苦しさを禁じえなかった。

「私は、寮の門限までには部屋に戻っています。今日は、お世話になりました。」

深々と…あらゆる感情を込めて布束は『夫妻』に一礼をしていた。

だだをこねるように『美琴』が追いかけようとするのを抱き留めながら

「これからも美琴を宜しくたのみます」と旅掛はそう返していた。

「美琴ちゃん、門限までの時間。ご両親に思いっきり甘えてらっしゃい」

マセタ台詞を『美琴』の頭をこつきながら告げると布束はその場を後にした。

564 名前:冥土返しの後悔10-3/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:06:51.67 ID:ADYh6ko0 [24/41]
一行と分かれた布束が向った先は『研究所』であった。

『監視』いや『管理役』の職務は常時くっついていなくても『研究所』のある衛星モニターで十分に可能であった。

学園内全ての施設には『警備モニター』が設置されているし『屋外』は『管理衛星』によって個人の手相まで識別する事が可能な画像を入手できる。

『特別培養装置』があったその部屋には『24時間』…『検体シリアルNo00000』を『見守っているモニター』があり、スタッフが現在も3交代で常駐している。

ドアの前に立った布束がセキュリティーロックに『網膜認証』をさせた後に『個別暗証番号』を打ち込む。

とドアが僅かな振動音を響かせて開いた。

「つらい役割…ご苦労だったね…」

蛙顔の医師『冥土返し』はそう言って入ってきた布束を振り返ることなくモニターを見ながらではあったがねぎらった。

「美琴ちゃんどうしています?」布束の声に

「うん、いまデパートで洋服をお母さんが選んであげているところだよ。順調なようだ…君のおかげだ…」

『冥土返し』の言葉に

「いえそんな、何も私には出来ていません。そばにいて美琴ちゃんが寂しくならない様にするのが精一杯…といっても、ご両親には遠く及びもつきませんが…」

話しながら蛙顔の医師の横に腰掛けると彼女もモニター画面に見入っていた…

そこには、満面の笑みをたたえながらはしゃぎ回る美琴が3方向から映し出されていた。

『そういえば、寮の部屋に来た時にお父さんが抱えていた『大きな包み』…

すっかり皆忘れてしまってそのまま直ぐに外出しちゃったけど、あれってもしかしたらクリスマスプレゼントだったのかなぁ』

今更に思い出した布束は、旅掛がいかに美琴との再会を喜んだのか…
美琴がどれほど両親を待ちわびていたのか…改めて思い知らされていた。

モニターに映し出された、『御坂』一行の周りは既に薄暗く、あたりの商店などのイルミネーションにも灯が入り始めていた。

「あっそうなんだ、今日はイヴだった…」その子供達、いや大人に出さえ夢を与えるイベントは研究の世界に身をおく布束には少し縁遠く感じられていた。

時計を見ていた『冥土返し』は、付近のスタッフに一言二言指示を出す。と同時に布束に対し
「うむ、そろそろ時間だね。行くとするか!」
きょとんとする彼女の背を押すしながらその部屋を共に後にした。
「僕はクリスチャンではないのだが、こいうものはお祭りなのだよ。理屈じゃなく素直に楽しんでもいいのじゃないかと思っている」
語りかけながら歩を「食堂」へと向けていた。『メリークリスマス!!』
中に入った二人を、大勢のスタッフが歓声を上げて迎え入れた。

何事が起きたかと驚きとまどって固まってしまった布束をからかうように

『冥土返し』が言った「布束君、小学校6年生になっていいんだよ…今日は聖夜なのだから」

565 名前:冥土返しの後悔11-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:10:33.46 ID:ADYh6ko0 [25/41]
思いがけず、『所員』からの『クリスマスプレゼント』に布束は感激…を通り越して『驚愕』してしまった。

『クリスマスをこんな風に過したのは…そっかぁ美琴ちゃんくらいの歳が最後だったかな』

幼くして『学識』という大人のスキルを身につけていた布束は感慨深く『先程までの夢のような出来事』を反芻するかのように思い浮かべながら寮へと歩を進めた
部屋に入ると「旅掛、美鈴」『美琴』親子がすでに中で『もつれ合うように』団欒をしているところであった。

「あっ、おねえちゃんおかえりぃ~とミコトはミコトは嬉しさを倍増させてみたりぃ~」

遠慮がちに部屋に入った布束を見た途端、『美琴』が歓声を上げた。

その声に布束に気づいた旅掛が
「いつも、美琴の面倒を親身になってみてくれてありがとう。夏休みの出来事や2学期が始まってからも勉強の面倒を見てくれたので成績もよかったと美琴に聞いたよ」
「本当のお姉さんみたいに優しくて…『叱る時には物凄く怖い』そうだね~いやいや、それでいいんだよ!ジャンジャン叱ってやっておくれ…私達の代わりに」
少し寂しげではあったが美鈴は布束に謝辞を述べた。
「そういう訳で、つまらない物だが私達から感謝の『クリスマスプレゼント』」そういって旅掛は小箱をそっと布束の手に持たせる。
「実は美琴には、ここに来る前に買ってきてあったんだよ…さっきの大きな包み。来たら直ぐに渡すつもりが忘れてしまって…」
美琴に外でもねだられてさぁ、クリスマスプレゼントを2重取りされちまったよ」
豪快に笑いながらも美鈴は自分達が『美琴』にしてやれる事への限界を痛感している様子だった。

和気藹々とする「親子」を目の当りにしながらも不思議と布束には羨望や嫉妬などという感情はわいてこなかった。きっと、つい先ほどまで『研究所の家族』のパーティーが癒してくれていた…
もしかすると『こういった家族愛の場面』に布束がいやおうなしに直面するであろうことを『予測』した上での『イベント』だったのかもしれない。
今になって布束は『冥土返し』の洞察の深さに改めて感服するしかなかった。
窓に目をやればすっかりと暗くなり特長的な布束の顔が鏡を見るように映し出されていた。

「そろそろ時間だね…」腕時計を見た旅掛が言葉をつむいだ「門限は8時だったね…」
残念そうに話しかけられ「そうだね…又暫く会えないかぁ」
母性とは程遠いイメージをかもし出していた美鈴がポツリと相槌…
「布束ちゃんだったかな…君がどれほど美琴の事を面倒見てくれているかは美琴の様子で良くわかる。本当のお姉ちゃんだって美琴が錯覚するくらい…」旅掛が布束に話し始めた。
「あと、3学期いっぱいで君は中等部。中学生になるから寮も変わるのだろうけどそれまで美琴をよろしく頼む」
そういって文字通りの大の男に頭を下げられ面食らう布束に…
「私たちには見守ってやる事しか今はできない。傍にいるあんたに『重荷』を背負わしちゃって悪いと思うよ。けどお願いする他には何もできない…悪い両親なのさ」

美鈴も旅掛に並んで布束に軽く頭を下げた。
「っそっそんなぁ、お二方とも頭を…とにかく上げてください。おっしゃられるような事…私は何もしてませんよぉ。ただ、美琴ちゃんが可愛いだけ…」
「それに、一人っ子の私こそ『本当の妹』が出来て本当嬉しいんです。それだけなんですから、お礼や、お願いなんて…」

大人びた事ばかり関わって暮らしてきた布束ではあったが流石に『この美琴の両親』の感謝する姿にはどう対応してよいものかと慌ててしまう。
その上…こんなに謝辞を重ねられては…
突発的に『ごめんなさい、美琴ちゃんは本当はもういないんです。お二人の前にいるのは・・・』などと口走りそうな葛藤さえ抑えなくてはならなかった。


566 名前:冥土返しの後悔11-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:11:26.39 ID:ADYh6ko0 [26/41]
だが、『本当の妹』と口走ったのには布束自身が一番驚いてもいたのだ。

いつのまに『検体シリアルNo00000』が『本当の妹』へ布束の中で変化したのか。布束自身にも分からない事であった。

時間の流れと言うものには容赦は無かった。

『門限』という名の楔が親子を引き離す刻限になると『美琴の両親』は寮を痕視するしかなかった。

寮のエントランスで布束に肩を抱かれた『美琴』の『ミコトはミコトは寂しくなんかないんだから~!!』

という声に『お姉ちゃんを困らせるんじゃないよ』とだけ声をかけると御坂夫婦は逃げだすかのように第7学区を後にした。

公共交通機関『モノレール』の車中で二人は呟いていた。

『美琴全く変わりがなかった…いや、少しだけ背が伸びてたかなぁ…何とか今は、同室のあの子の御蔭で寂しい想いはしてない様子…美琴なりに頑張っていたよね。』

二人を見送った『美琴』はすっかり意気消沈してしまっていた。

それはそうだ、わずか8歳の子供が寮生活…通常には余り例のない生活を余儀なくされてしまっているのだから。

『美琴』の肩を抱くように部屋に戻るエレベーターへと歩きながら

「美琴ちゃん、学校にも友達たくさんいるし、お姉ちゃんだってもう暫くは一緒。3年生になったら同級生と同室になるんだから楽しいこといっぱいあるよ」

布束の慰めに

「3年生になっても『お姉ちゃん』はおねえちゃんなんだよ!!とミコトはミコトは此処に宣言してみる!!」・・・

いつもの調子を装おうとする『美琴』がいじらしく『うん判った!約束するよ』と応えるのが精一杯の彼女だった。

567 名前:冥土返しの後悔11-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:13:37.15 ID:ADYh6ko0 [27/41]
春が来て…『美琴』は無事に常盤台小学校3年生へと進級。
いや、正確には『編入』といった方が正しい。
それまでいたクラスは「エキストラ」によって構成された『仮想学級』であった。
空白期間が存在してしまう『実験』と『日常生活』の誤差を無くすべく『仮設された学級』
御坂美琴が学園都市に来て以来通っていたのは『仮想学級』だったのだ。
エキストラといっても『実験室』職員の実年齢の子女が担当していたので『1クラス単位』での編入という形になる。
片や、布束は『既に大学院課程修了済み』。今更中学校へ通うことなく研究所員の一員として『実験室』に通勤していた

『実験室』では、既に完成体となった『検体シリアルNo00001~00101』の『100人の妹達』に対しての『能力教科訓練』が日夜続けられていた。

と、同時に『レディオノイズ計画』のもう一つの『課題』脳波の動きを『電気信号によって発生』させる事によって『妹達』の全固体の脳波をシンクロ…

同調させる事による『記憶の共有・ミサカネットワーク』という実験も同時に進行していた。

個は全体に、全体は個に…クローンであるがゆえに可能性を秘めた実験。

『地磁気を初め、地上に満ち溢れるありとあらゆる電磁波』を通信媒体として利用した『ネットワーク』を構築しようと言うのもであった。

これによって、『Lv5超能力』を身に着け『武器の装備を必要としない諜報員』を全世界に送り込める。

『魔術サイド」を中心とした『ありとあらゆる情報』を一手に集中させる。

これこそが『冥土返し』がアレイスターから『委託』された真の実験レディオノイズの『全容』であった。

『レディオノイズ計画』それを達成する為の『ミサカネットワーク』作り…

『冥土返し』が賛同し、当初聞かされていた『筋ジストロフィー電気信号応用治療』という目的は一人の独裁者によって消し飛んでしまっていた。

『美琴』は毎日学校で『開発カリキュラム』をこなすうち、みるみる実力を身に付けていった。

通常の常識では考えられない速度でLv1からLv2。Lv3と、着実に「エレクトロマスター」として進化を発揮し続けた。


568 名前:冥土返しの後悔12-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:15:27.11 ID:ADYh6ko0 [28/41]
他方『妹達・シスターズ』は、学業などと言う余計な時間を割かずに「カリキュラム」に専念しているにもかかわらず『Lv3』に到達するのが精一杯。

それどころか『美琴』には生来備わっている『空気中の電磁波、電子線や磁力線』を視認できるという『スキル』さえ持ち合わせず進化することも無かった。

だが、『脳波リンクによる意識の伝達』『記憶の同期化』は着実な成果を挙げていた。

いまや全ての妹達が『個の体験・視聴覚記憶の全てを共有化』することができていた。ただ一人『脳細胞の胚芽」が異なる〔パーフェクト・ミサカ〕を除いて・・・

研究がこの段階まで至ると『クローン検体の製造』が完了した瞬間に『新規の妹』は、先輩の『妹達』と、同調、同期化できるのである…

すなわち、『生まれた瞬間に即戦力』という当初の想定以上の『実験結果』が達成されつつあった。

mっともこの行ガクする事態すらじつは『冥土返し』にとっては想定済みであったのかもしれない…

新規の妹達は『オリジナル』である、『御坂美琴』の成長にあわせて『成長』してゆくように常に培養期間、促進剤などのホルモン投与を行なっていった。

実は、現時点では、表向きには『Lv2~Lv3が限度という結果から「理事会命令」で表向きは「凍結されたLv5量産計画」ではあった。

しかし、『統括理事長アレイスター・クロウリー』の密名を受けたスタッフによって極秘裏に継続・・・むしろ、加速していた。

こうして、『妹達・シスターズ』の数は『御坂美琴』が中学校に進学する直前には、『総数1000検体』を超える規模となっていた。

『妹達は「御坂美琴」が高校に進学するのを期に全世界に「留学」という形で世界中に「配備」されてゆくだろう』

そう呟く布束も、もう既に高校入学年齢…研究開始時とは見違えるような細身になっていた。


569 名前:冥土返しの後悔12-3/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:16:09.80 ID:ADYh6ko0 [29/41]
そんな、とある日のことであった・・・

『なんと言うことだ!!』という、所内では普段聞いたことの無い『感情むき出し』の声を布束は耳にした。

声の主は所長室の住人『冥土返し』から発せられたものであった。

開いたままになっている所長室のドアをノックして室内に入った布束・・・

『1通の指図書』をわなわなとする手に握り締め苦渋の表情をした『冥土返し』に声をかけた。

「所長、どうなさったのですか?」

心配した布束の声がまったく耳に入らないのかように『冥土返し』は吐き続ける…

「アレイスターのやつ!!一体どうしてしまったのだ!!野望の為には人間の心さえ捨て去ると言うのか!!」

『冥土返し』はぶつけようの無い怒りを限界ぎりぎりの所でこらえている様子であった…

が、布束に気づくと「ああっ布束君か・・・」真っ赤になった顔から怒りが消えていった。

「計画の内容だが…一部変更になってねぇ…大超能力者を…Lv6を目指す事になったよ。

君の『学習装置』にも少し手を加えさせてもらう事になるが…『テルスタメント・洗脳装置』へと…」

焦燥しきった表情を押し隠すように『冥土返し』が呟くように続ける。

「でだ、君はもう『此処』にいる必要は無いんだよ。明日にでも手続きをしておくから『長点上機学園』に復学してくれたまえ」

「急にそんな…一体…何があったのですか!?」詰め寄る布束に

「『将来あるものには知らない方が良い知識』と、いうものもこの世には存在するのだよ。判ってくれたまえ」

口調こそ優しさを装うものの『冥土返し』の言葉には一切の拒否、質問はするなという想いがにじみ出ていた。

「思えば僕自身、『筋ジストロフィー治療法開発』と聞かされて係わりを持ってしまい…いつの間にか『レディオノイズ計画』に巻き込まれてしまっていた。」

「事ここに及んで、何とか『美琴』ちゃんの『個性を有する固体』をご両親に返したかったからこそ此処まで来てしまった。最初から計画を全て聞いてたなら『命』をかけても拒絶していただろうが…」

「君に今、伝えられることがあるとすれば…そう、たった今からこの研究所が『とんでもない目的を持った実験室』へと目的も内容も『激変』してしまうのだよ」

そう言い終わると『冥土返し』は布束に背を向けた。

570 名前:冥土返しの後悔13-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:17:32.28 ID:ADYh6ko0 [30/41]
「私は『此処』を辞めません。

いや、『妹達』と一緒に居たいです。」

『冥土返し』の背の迫力に押し潰されそうになりながらも布束は懇願してさらに続けた…

「『テスタメント・学習装置』を開発したのは私です。その内容に関しては誰よりも詳しい…

『テルスタメント・洗脳装置』への『改変』であるなら、私の手で行なうのがベストなはずです」

「『洗脳装置』の内容も知らずに断言するのかね?」

『冥土返し』のあきれ返った顔に向けて

「はい、どのような内容への『改変』であったとしても後悔はしません」

と意志の固さを布束は言葉にこめていた。

「洗脳装置とは、文字通り『洗脳』をしてしまうのだよ?クローンに対し『あらゆる命令への絶対服従…

というより、命令に対して積極的な意欲を持つような意識構造になるような『思考回路』を植えつける…

と聞かされてもかね?」

『冥土返し』の言葉に一瞬にして顔色をなくしてしまった自身の動揺を悟られまいと耐える布束に

『冥土返し』は追い討ちをかけて話をつづけた。

「君ならば禁則事項は守れると思うから、もう少し話してもいいかな…実際の『洗脳』はそれだけではないんだ。

クローン自身に『自らは実験の為に生まれてきた存在であり【どのような実験】であろうと受けるのが当然』

と思い込ませなくてはならない」

そこまでで、『冥土返し』ことばを区切った。

布束の反応を覗う様に、くるりと振り返るとその『蛙顔の大きな眼』を布束にそそぎかけてきた。

布束は『話』が全く咀嚼出来ずにいた。

『冥土返し』の言語の意味は『理解』できた。が『其処に込められている内容の実

態』が全く把握できない。『なぜ?どうして?何の為に?』思考回路が凍結してしまっていた。

「これ以上は『計画の実態』にまで踏み込んでしまうから今の君には話すことはできない。

でも、賢明な君なら『新規の実験』がいかに容易ならぬものかは推察できると思うのだがね…」


571 名前:冥土返しの後悔13-21/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:19:13.21 ID:ADYh6ko0 [31/41]
これまでの「学習装置」は、日常の会話から始まり「慣習」「知識」「学識」「社会常識」から始まり

「個人現実・パーソナルリアリティーの確立」など「能力開発カリキュラム」を主体としているものの、

目的は普通の『社会人』となる為のものであった。

しかし、いま求められている「洗脳装置」…これではまるで「戦士」を養成して行くかのようなものではないか…

布束にとって技術的には何ら問題は無い…だが、メンタルが耐えうるかどうか自信がぐらつく。

その様子を見透かすかのように『冥土返し』は、更に続ける「判ったかね…

私がきみに『此処までにしておきなさい』という言葉の意味が…

君には『妹達を実験検体』と割り切ることなど無理だよ」

『冥土返し』に言われるまでも無く、布束にとって『研究の検体』ではあったとしても『教え子』であり…

その数が何人になろうとも『大切な妹達』であると言う認識が根付いていたのだ。

大切な『家族の意識』を改変して、采配するものにとってのみ都合のよい

『実験動物』への意識付けをするための『洗脳装置』が躊躇無く製作できるはずも無い。

しかも、その『改変』が、誰のどの様な意図を持って計画されたものであるのか。

一体何処に『大切な妹達』を向わせようとしているのか…全く雲をつかむような話しではある。

が、あえて『行く末を最後まで見届け無くてはならない。その責任がある!』

と布束には『実験』に対する恐怖以上に『言い知れぬ義務感』がわきあがってきていた。

「かまいません。禁断の実を食してもとに戻れぬ定めとなろうと、

私は最期まで『妹達』とその未来を共にすることの方が大切です。

でないと、きっと後悔する事に…いえ私自身が許せないと思います」

布束は自分の何処にこんな『頑固さ』があるのか不思議であった。
思いもかけず自然と口をついて出た言葉に自分自身が一番驚いていた。

こうして布束は、『冥土返し』のチームの一員として再び研究所に戻った。

とはいえ、すでに『復学届け』は提出済みであったため形だけは通学。

その後に『実験室』というサイクルとなっていた。

布束が聞かされた計画「セカンドーシーズン」…
それは、『超能力者量産計画』と称され検体を、一万単位で生産する
と同時に『全検体のLv5到達を目指す』というものであった。

572 名前:冥土返しの後悔13-3/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:20:28.09 ID:ADYh6ko0 [32/41]
既に1000体たらずの『検体』は完成しているものの

『期限』とされる『御坂美琴』が中学を卒業するまでに残された時間は限られている。

いまの『培養』ペースではとても不可能であった。

『冥土返し』苦渋の決断をした。『4週間かけて培養』すればテロメアの長さは通常人の平均値『余命81年』が確保できる。

この『培養期間』を「半減」することによって『増産』する。検体の余命は累乗的に短くなり『9年』しか残されないのだ。

「15歳」で完成体と想定された「クローンマップ」であるから、『通常培養』ならば「96歳」までの寿命が見込まれるが、

短縮バージョンの場合は「24歳」でその細胞の生涯を終える事なってしまう。

それをも含んでの量産計画。ゆえの『洗脳装置・テルスタメント』であった。

妹達が自身のおかれた立場や不自然な命令に寿命。それらに対して一切の「感情」を持たせないため…

一万体をこえる検体がクーデターを起こそうものなら対応には相当の犠牲が学園側にも強いられることとなる。

『洗脳装置』の優劣は計画の『成否の鍵』をも握っているのだ。

更に、クーデター防止の為に全て生産を終えたときに、

全妹達を掌握、ネットワークをコントロールできる司令塔『最終検体』を『ネットワーク』の中に置く必要があった。

生産を「打ち止め」る際に「管理が容易な」形態の最終固体「ラストオーダー」を…

1年近くが過ぎて『生産』は順調に進んでいた。

「培養期間短縮」に加え「施設の規模の拡大」も手伝って「検体シリアルNo」は「19000」を超えようとしていた。

そんなある日、唐突に『冥土返し』に対して『統括理事会』からの呼び出しが来た…

秘匿回線を有しているにもかかわらず直接の会話が必要とされる場合…

『冥土返し』の経験では『ろくでもない』議題が多かった。

そこで聞かされた議題は以下のようなものであった。


573 名前:冥土返しの後悔13-4/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:23:44.80 ID:ADYh6ko0 [33/41]
『「妹達」を運用した 絶対能力者への進化法』学園都市には七人の超能力者が存在するが『樹形図の設計者』の予測演算の結果、まだ見ぬ絶対能力者へ辿り着ける者は一名のみと判明した。
この被験者に通常の『時間割』を施した場合絶対能力者に到達するには二五〇年もの歳月を要する。我々はこの『二五〇年法』を保留とし実戦による能力の成長促進を検討した。
特定の戦場を用意をしシナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作する。予測演算の結果一二八種類の戦場を用意し『レールガン』を一二八回殺害する事で絶対能力者に進化すると判断した。
しかし『レールガン』を複数確保するのは不可能であるため、過去に凍結された『量産型能力者計画』の『妹達』をこれに代える事とする。
武装した『妹達』を大量に投入する事で性能差を埋める事とし二万体の『妹達』と戦闘シナリオをもって絶対能力者への進化を達成する。

…『なに!?』計画が突如変更されることは過去にも多々あったが…これは違う。
凍結されたとされている『量産型能力者計画』は統括理事長『アレイスター・クロウリー』の秘匿命令で継続中であった。
いくら学園都市の総力を挙げたとしても短期間に「2万体」もの「妹達」は生産することなど絶対に不可能…
ということは、折込済みの「秘匿命令」だったと言うことになる。

『冥土返し』はたった一言『アレイスター!!』と議場に映し出されたフォログラフの統括理事長に向って、喉の奥から絞り出したような声を発すると、議場の席を蹴り倒し『あの場所』へと向った。
其処に到達するのに、さほど時間はかからなかった。
相も変らぬ静寂。時折、気泡が浮かび上がってゆくような不思議な物音以外何も聞こえないこの世に存在しない空間に『冥土返し』は駆けつけていた。
「アレイスター君、見事だったよ。私としたことが…うかつにも程がある。まんまと、君にしてやられたと言うわけか」

揺らぎながら逆さに浮遊する彼に『冥土返し』は意外なほど冷静に語りかけた。
「あなたが何を誤解しているのか良く判らないのだが、今回のことは『別の研究チーム』により計画立案され、ほんの数日前に報告に上がってきた計画だよ?」
何処からか『アレイスター』の声が聞こえてくる。
「ふむ、そうかね…まっ、そういう事にして置くとして…わたしは此処までだ!!判ってくれるだろうね!?もう、これ以上は君の茶番には付き合いきれんのだよ」
口調こそ柔らかいものの『冥土返し』の意思の強固さを感じさせていた。
「残念だな…だが、君のもう結論は出ているようだな…だが、その決意は君自身に大きな負担をかけるかもしれない危険性は承知の上かな?」
恫喝でもなく、現実の可能性を『アレイースター』の声が伝えてくる。

「やむをえんだろう。私は医師だ!死人以外ならどんな患者でも治せるとの自負がある。
その自負こそが私にとって全て…死に行く事を『義務』とされた患者は扱えないからな」
臆する事なく『冥土返し』は応対した。
「それに、私に『万一』のことがあっては君自身の為にもならんだろう…」
今度は、『冥土返し』のほうから反撃に出始めた。
「ふふふっ…先生らしくも無い台詞ですね。でも、お世話になっていることは確か…
Lv6製造の計画は『代替』できる研究施設は幾らでもあるが、あなたは「あなた」しかいないですからね…」
アレイスターは譲歩せざるを得なかった。

アレイスターはかつて妻子をも犠牲にした上での「魔術界」との軋轢から『今の体』となってしまっている。
その「維持、管理」は『冥土返し』にしかできないことなのであった。
では、わたしは「病院」へと帰らせてもらうこととしよう…大勢の患者が待っているからね…
そう静かに言い残すと『冥土返し』はその場を後に診療施設へと帰っていった。


574 名前:冥土返しの後悔14-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:25:35.11 ID:ADYh6ko0 [34/41]
実験施設の『所長室』では、引越し作業…といっても私物はトランク一つ。膨大な資料ディスクのシュレッダーとPCのメモリー粉砕が主なものであった。
許容量を大きく超えた電力を与えれば一蹴で終る作業ではある。しかし『冥土返し』は、その作業を通じて『今までの自分自身』を消し去ろうとしているかのようだ。

軽いノックをして布束が入室してきた「ああ、布束君。ぼくは今日で、此処を去る。医者の居る場所ではなくなったからね。もちろん学生の君が居て良い場所でもない」

『冥土返し』の言葉は『君も、今日限りだよ』という間接的な事実上の『辞令』であった。むろん、新プロジェクトの内容を『全く知らない』彼女の除籍にはなんの制約もなかった。

あらかたの作業を終えた『冥土返し』が布束に席を進めると、彼女が2人分、カップに入れたレギュラーカフェをテーブルに置きながら誘いに応じた。

『もう7年になるなぁ…君との付き合いもこの研究所も』何もかもを懐かしむように部屋をぐるりと『蛙顔の大きな眼』で見回しながらかれは呟いた。

「先生はこれから何処に?」たまらずに布束が聞き返すと「僕は医者だよ?病人を治す事が使命…病院以外に戻るべき場所があるかね」そう笑いながら応えると『冥土返し』はカップに口を付けた。

「そうなんですよね…」そう短く答えるしか今の布束には成す術はなかった。彼女自身、又『慣れない高校生』へと戻ってゆくしかないのである。

すでに、『学習装置』プログラムの『洗脳装置』へのデーター改変は終っている。彼女の居場所も既に無くなっていたのであった。

声に出さない会話をふたりがしている時、ふいに来客があった。白衣に身を包んだ2人は『冥土返し』に深々と頭を下げた後、布川にも会釈をした。

幹部所員の「芳川桔梗」「天井亜雄」の二人であった。『先生…本当に残念です』『もっと、ご指導を頂きたかったのですが…』口々に『冥土返し』の退所を惜しむ。

「後は、君達次第だ。統括理事会からの『オーダー』を、どのように読み解いて、実験を続け…結果を導き出してゆくのか…部外者にはなってしまうが見守らせてもらうよ」

『冥土返し』は、具体的に『絶対能力Lv6生産計画』が、どのような形で行なわれるかまでは聞いてないし、考えたくも無い事であった。

布束とて同様…核心部分に関しては聞かされてはいないが『改変オーダー』の内容を見れば『妹達』の扱いが今までのものと全く違った方向に変更された事が容易に推測できる。

二人を除く大勢のスタッフは『残留』という形になる。しかし『此処』の研究所は閉鎖、解体され、新しく『何処か』へと新たな拠点に移動していった。

575 名前:冥土返しの後悔14-2/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:26:18.84 ID:ADYh6ko0 [35/41]
この研究施設…学園都市では「何の研究行なわれず」『何も作られてない』『何も起きてない』空白の時間が過ぎた場所に過ぎない所となってしまうのである。

わずかばかりの私物を手にした『最後の研究員』…『冥土返し』と布束が『研究所専用車』に乗り込むと、見送る者も居ない研究所を逃げ出すかのように発進した。

二人とも申し合わせたかのように、振り返る事も無くじっと前を見据えていた。「振り返ってはいけない」という使命感にたようなものを共有していた。いや…もしかしかたら『恐怖』

建物が見えなくなった頃、時を図ったかなような、後方で大きな物音、いや振動といった方が良い…か、車のリアガラスをビリビリと震わせていた。

運転していた「元同僚」が、備え付けの「モニター」のスイッチを入れる。其処に映し出された画面『工場火災現場のニュース画面』。布束は愕然とさせられる『映像』に目を疑っていた。

キャスターは伝える『虚数学区にあった飼料工場の電源コントローラーに異常が発生し爆発炎上。幸いレスキューシステムと異常の早期発見により従業員に怪我はありませんでした』

驚きを隠せない布束とは対照的に『当然の出来事』と認識しているのか『冥土返し』が表情を崩す事無く見つめていた。が、その眼にうっすらと滲むものがあった事を布束は見逃す事はなかった。

1週間後・・・布束が、再度「元研究施設」をおとずれて見た風景。それはあたり一面、芝生公園となり、ベンチに腰掛け、ひと時の休息を楽しむ市民の姿だけ…

布束はそこで憩う会社員風の女性に恐る恐る声をかけた「こんにちは。あのぉ、突然で失礼ですが。。此処の公園はいつ出来たのでしょうか…」

「え!?…ん~っと、私が学園都市に赴任してきたた時からあったよ。もう7年くらいたつかなぁ・・・」質問した時点で十分に想定できた答え・・・能力者による『記憶の書き換え・刷り込み』であった。

その答えに全てを悟ると同時に『統括理事会』の『恐ろしい真の力』をまざまざと見せ付けられ、打ちのめされたような気持ちになっていた…全ては『抹消』されていた。


576 名前:冥土返しの後悔15-1/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:29:09.16 ID:ADYh6ko0 [36/41]
全ての『研究履歴』から抹消されたはずの、布束に再び「招待」「要請」。。
いや、『召集』がかかった先は「樋口製薬・第七薬学研究センター」であった。
『テルスタメント洗脳装置』の改変には『テスタメント・学習装置の監修』を一手に担っていた『布束』でなければ解析できない部分が発生したのである。

布束は迷っていた。心の師と仰ぐ『冥土返し』不在の「見知らぬ研究施設」からの招請である。
高校2年になったばかりの『少女』に戸惑いが生じるのは当然の事であろう。
しかし、それを上回る「ある種の好奇心」が、彼女に再び研究所への復帰を決意させていた。
『あの、妹達は元気に研修を続けさせて貰えているのだろうか』

統括理事会たっての「要請」の前には、彼女は再び『消えた高校生』となり、
学園都市の地下深くの『研究施設』の一員としての仕事に復帰せざるを得なかった。
そして、そこで目の当たりにした「実験」は、彼女の想像以上に凄惨な光景・・・
計画書に記されていた『戦闘』などではなく『虐殺』という【絶対能力者:Lv6】養成実験の実態であった。
彼女は悟った。研究者達にとって、ボタン一つで量産できてしまう『妹達』に対しての『人格』認識は皆無。
『妹達』にたいして「実験用ラット」と同等の研究対象という認識しか持ち合わせてはいないのだ。
「実験用ラット」に『人格』『感情』などというものが、なまじ存在してはこまるのだ。

『大切な【絶対能力者:Lv6】育成計画』に支障をきたす恐れがある。

よって、『テスタメント・学習装置』で誕生した『妹達』に対し『テルスタメント・洗脳装置』による徹底した『洗脳』
『都合の良い信念の刷り込み』を施す必要性に迫られる…ゆえの、「布束再召集」なのであった。
それに加えて、万一の『妹達』反乱に備えた『安全装置』の研究も同時進行していた。
『最終検体:打ち止め』による、『ミサカネットワーク』を通じた『絶対的掌握:強制命令』の発動であった。
…布束が『実験研究』に復帰して、もうすぐ1年が過ぎようとしていた…

毎日毎日、加速的に悲惨な実験は繰り返されていた。破壊された『妹達』は次々と『廃棄』されつづける。
しかし、布束はこの事態の全てを許容できるほどの「研究者」にはなりきれてはいなかった。
他の所員の監視の目を盗み、こっそりと『寝袋』によって回収された検体を『吟味』完全死の確認をしていた。
少しでも、生体反応の残る検体は『訓練を通じて親密になった妹達』に命じ、廃棄処理完了を装い[『冥土返し』の病院]へと、搬入させ続けていた。
『抹消シリアルNoのミサカ』たちは、冥土返しの病院で治療後リハビリを経た後に『再調整』を受け・・・再びその瞳に光を取り戻していた。

『僕は一体なんていう研究に加担してしまっていたのだ…』
当初のうちに『統括理事会』…いや『アレイスター・クロウリー』の真意を見抜けなかった自身を恨みながら『妹達』の修復に心血を注ぎながら『冥土返し』は呟いた。
布束もまた『妹達』の反応、いや研修中の『言動』からその個性、人間味を見出してしまっていた。
『むしろ、この薄汚れた連中よりよほど人間らしい』その思いは日増しに増幅し続けた。
『自分にできる【絶対能力者:Lv6】計画を阻止するすべはないのか…』

布束は、実際は研究に加担しながらも胸の痛みに耐えかねていた。

577 名前:冥土返しの後悔15-end/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:30:13.65 ID:ADYh6ko0 [37/41]
やむを得ずとはいえ『テルスタメント・洗脳装置』の「再監修」を終えた布束は『最終学年』である3年生になった。

これを契機に学業に復帰したい』と申し出ると「絶対的な実験内容の『秘匿』誓約」を条件に許可される事となった。

今回の【絶対能力者:Lv6】計画は、あらゆる情報から完全隔離。『隠蔽』された・・・

この学園都市には過去にも未来にも存在し得ない実験…

いや、事件である事を制約せざるを得ない…でなければ『布束』が『隠蔽』される事になる。

学園の『学生生活』に無事に復帰した布束ではあった。

しかし、脳裏に残る『凄惨な検体』が消える事も、痛む心が癒される事はけっしてなかった。

冥土返しの病院を訪れて『生き残った未登録検体』の回復振りを見ることが唯一の救いと言えば言えるが…

それとてまだ1万回以上繰り返されるであろう「実験」を看過できる根拠にはなり得なかった。

布束は『草の根』活動を始める。

7歳から研究ばかりの彼女の経済力は大の大人も敵わないほどのものがある。

「実験場を無くせばいい」そう呟くと彼女は『大量のマネーカード購入』に全財産を投入した。

「先生、このカードを人目につかない場所に…実験想定箇所にばら撒けば『実験』は阻止できないかしら」

布束が『冥土返し』にそう話すと「うむ、幾らかは効果が期待できるかな。が、学園都市は広すぎるなぁ・・・」

『冥土返し』は布束が実行を決意した健気な「【絶対能力者:Lv6】実験阻止計画」・・・

それに比べて、「あきらめ」「大人の包容力」えお言い訳でなんら成す術を考えてこなかった自らを恥じた・・・

「布束君、僕は今まで常に前向きに生き、研究し、治療して自身の足跡には絶対の自信があった。

だが、今回の一連の『統括理事会議決』に心ならずも名を連ねた事は、生涯唯一の『反省』事項だ」

『アレイスター、気の毒だがこのままでは終らせる訳にはいかないようだよ…』と、

「とある決意」をする。『冥土返し』はその決意を胸に深く刻み付け『隠蔽』したのであった。

END

(もし、環境が許せば【冥土返しの反撃…】へと…続くかもしれません(^^;…)

578 名前:冥土返しの後悔15-end/15[saga] 投稿日:2010/10/13(水) 15:32:34.13 ID:ADYh6ko0 [38/41]
以上で「冥土返しの後悔」は完結です。
途中のお言葉に甘え、長々とスレ汚し、申し訳ありませんでした。
投下中のご協力に感謝いたします。


Tag : とあるSS総合スレ

コメント

何だこの駄作は。読む時間の無駄。
この書き手は書き手を名乗るべきではない、二度とSSを書くな

換言お礼申し上げます。

自らがわかりました。
忌憚なきお言葉に感謝いたします。

No title

駄目だと思うなら根拠を少しは示せっつーの
てめえの趣味嗜好による、しかも毒にも薬にもならないどうでもいい批判コメなんて腐りすぎてて見てられない

お前はブログにコメントを二度と書くな

No title

これは面白い

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