FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キョン「かまいたちの夜?」-3

キョン「かまいたちの夜?」-2
の続き

325 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 20:21:07.82 ID:sDHzCwEM0
 ―――待てよ?

 そこで俺は、奇妙な引っかかりのようなものを感じた。
 なにか、なにかおかしくないか?
 何だこの―――違和感は。
 何かがおかしい。この事件には、どうしようもない矛盾が存在している。
 おかしいのは……一体何だ?

1.国木田の死

2.喜緑の死

3.長門の死


338 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 20:27:25.57 ID:sDHzCwEM0
 おかしいのは長門の死だ。
 何故長門はわざわざ殴り殺されていたんだ?
 俺の脳裏をよぎる過去の記憶。
 夕日に赤く染まった教室。俺に凶刃を振るった朝倉涼子。
 もし朝倉が長門をゲームに邪魔な存在として排除したというのならば、あの時みたいに『情報連結の解除』だかなんだかやればよかったじゃないか。
 犯人は朝倉じゃないのか?
 あるいは……朝倉が元凶なのは間違いないとしても、殺人の実行犯は別に存在している?
 ならば……。
 バラバラにされて殺された国木田。
 外で殴られた古泉。
 二階で殴り殺された喜緑さん。
 長門の件は例外としていいだろう(この時は完全に皆の記憶に情報操作が為されたと断言できるからだ。アリバイなど当てにならない)。
 先に述べた三つの事件。
 不可能かと思われていたそれらの事件も、犯人がただの人間の身に過ぎないとしたら、そこには必ずカラクリが存在している。
 それさえわかれば……。

 どさり! と重たい物が落ちる音。
 俺は反射的に身を竦ませる。
 すぐに雪が落ちた音だったと思い出した。

「またびっくりしてる」

 ハルヒが茶化してきた。

「そりゃ驚くだろ。あんな音がしたら誰だって……」

 ……音?
 その時、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。

339 名前:もうちっとだけ続くんじゃ[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:35:12.18 ID:sDHzCwEM0
「どうしたの?」

「すまん、少し黙ってくれ」

 俺の顔を覗き込んでくるハルヒを手で制して、俺は浮かんだアイデアを頭の中で慎重に吟味する。
 ……不可能ではない。
 この方法を使えば、何人かの人間には田中(国木田)の殺害が可能になるはずだ。
 かつ、外で古泉を殴り、二階で喜緑さんを殺すことが出来た人物となると……当てはまるのは、一人しかいない。

「犯人が分かった」

 全員がぎょっとして俺を見た。

「本当に…?」

 不安そうに問いかけてくるハルヒに俺は頷いてみせる。

「俺は今までガラスが割れたときにアリバイが無いという理由で会長が犯人じゃないかと疑っていた。
 でも、トリックさえ使えば、あの時談話室にいた人間にも犯行は可能だったと気がついたんだ」

「トリック?」

 会長が難しい顔で聞いてくる。

「時間差のトリック……とでも言えばいいのかな。ガラスが割れた音を聞いて、俺たちは二階へと駆けつけた。
 だが、本当にあの時に窓が割れたのかどうかなんてわからないんだ」

「しかし……実際に窓は割れていたではありませんか」

 新川さんは理解できないといった面持ちで首を傾げる。

341 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 20:40:25.90 ID:sDHzCwEM0
「それが時間差だと言っているんです。窓は確かに割れていました。
 だがそれは、俺たちが音を聞いたその時に割れたものだとは限らない。そうでしょう?」

「音ね? 音だけを後から出せばいいんだわ」

 顎に手を当てながらハルヒは言う。
 さすがに察しのいい奴だ。
 俺は頷いた。

「……犯人は夕食後、『田中』の部屋を訪れ、殺害し、死体をバラバラにした。そして音を立てないように窓を割った」

「どうやって?」

「いくらでもやりようはあるさ。有名なものじゃ、ガムテープを貼り付けてから割るとかな」

 他にも専用のカッターを使ったり、バーナーか何かで熱してから冷却スプレーで一気に冷やしたりとあるらしいが、一番簡単かつ現実的なのはやはりガムテープ法だろう。

「音を立てないでガラスを割ったのはわかったわ。でも、音は? 肝心の音を、犯人はどうやって準備したの?」

「それはな……」

 ハルヒの問いに曖昧に答えて、俺はポケットに手を突っ込んだ。
 ポケットの中にある『ソレ』を操作する。


 突然、救急車のサイレンが辺りに鳴り響いた。

343 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 20:47:11.97 ID:sDHzCwEM0
 皆驚いた顔をして部屋中を見回している。

「何この音…!? キョンがやってるの!?」

「ああ」

 俺はポケットから手品のタネを取り出した。

「携帯電話…?」

 目を丸くするハルヒに俺は頷いてみせた。

「最近のケータイってのは中々の優れもので、その音質の良さは今皆が体感した通りだ。
 今俺が鳴らしたのは昔、『色々な効果音』っていうインターネットサイトで戯れにダウンロードした音だ。
 そこには他にも色々な音があった。雪を踏みしめる音、車の走り去る音……ガラスの割れる音、とかな」

「しかし…ここは圏外だったはずだろう」

 会長は納得がいかないといった様子だ。

「前もってダウンロードしておいただけでしょう。死体をバラバラにまでしてるんだ。犯行が計画的だったのは疑いが無い」

 俺は皆の顔を見渡した。

「今時俺たちくらいの年齢になってケータイを持っていない人間ってのは考えづらい。実際この中にケータイを持っていない人はいますか」

 誰も手を挙げない。俺は意を強くしていった。

「つまりここにいる誰もが『偽の音』による時間差トリックを行えたことになる。
 だが、その中でも二階に行かなかったり、時間的に犯行を行うのは無理な人たちが存在する。その人たちを消去していこう」

344 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 20:52:44.25 ID:sDHzCwEM0
「まず、俺とハルヒは夕食後も最後まで食堂にいて、結局二階にも戻っていない。それを裏付けてくれる人間は何人もいると思う」

「次に新川さんは、夕食後もフロントにいて、その後も俺たちと一緒にいた。森さんはしばらく見かけなかったが、当然キッチンで夕食の後片付けをしていたんだろう」

「古泉がここに到着したのは夕食が終わって大分経ってからだった。二階へ上がった時間もほんのちょっとで、犯行を行うのは不可能だっただろう」

「鶴屋さん、朝比奈さん、朝倉の三人は夕食後、脅迫状の一件があって一旦部屋に戻ったものの、すぐに一階へ降りてきている。やはり時間が足りない」


 そこまで言って、俺は黙った。

「……それで?」

 谷口が、引きつった顔で聞いてくる。

「……以上だ。谷口と阪中、そして会長の三人を除いて全員を消去した。犯人が俺たちの中にいるのなら、三人の内の誰かということになる」

 俺ははっきりと断言した。


347 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:04:57.90 ID:sDHzCwEM0
「ば、馬鹿なこと言うなよ! 俺たちだってアリバイはちゃんとある! 俺と阪中は二人でずっと一緒にいたんだ! なあ阪中!」

「う、うん……」

 声を荒げて反論する谷口に、阪中は呆然としながらも頷いた。
 取り乱す二人の様子に胸が痛む。が、ここでやめるわけにはいかない。

「……次に古泉が殴られた件について考えてみよう。古泉が襲われた時、外にいたのは新川さん、会長、そして俺だ。
 他の人は皆談話室で待っているはずだった。ただ一人を除いては」

 全員の視線が谷口に集中する。

「お、俺か? 俺だってここにいたじゃないか」

「いいや。お前はずっとこの談話室にいたわけじゃない。後でハルヒに聞いた話だ。お前はケータイを試すために二階に上がっていた」

「い、いや、それは……でも、そうだとしても、二階にいる俺がどうやって外にいる古泉を殴ったりできるんだよ」

「古泉が襲われたのは『田中さん』の部屋の真下だ。そして『田中さん』の部屋のすぐ前に、廊下をはさんで谷口の部屋がある。
 誰にも見られずにその間を行き来することはそんなに難しいことじゃない」

 ハルヒがはっと息を呑んだ。

「じゃ、じゃあ谷口は田中さんの部屋から下にいた古泉君を……?」


351 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:10:57.11 ID:sDHzCwEM0
「おそらくな。やり方は簡単だ。何かロープのようなものを用意して、その先に何か硬くて重い石か何かを結びつける。
 後は下に犠牲者が来るのを待って、投げ落とすなり振り子のように振り回してぶつけるなりすればいい」

 俺は腕を軽く振ってみせた。

「だからこそ、すぐ前後にいたはずの会長や新川さんが犯人を目撃していなかったんだ。何しろ、犯人は現場にいなかったんだからな」

 なるほど、と何人か頷いた。

「もちろん、会長が単純に後ろから古泉を殴ったという可能性もある。だが、喜緑さんが殺された三つ目の事件……会長は二階に上がってはいない」

 犯人は……たった一人に絞られる。

「ま、待てよ!」

 谷口はほとんど泣きそうな顔で携帯電話を取り出した。

「チェックしてみてくれよ! ガラスの割れる音なんて入ってねえんだ!」

「……データなんてトリックが終わった後にいつでも消せる」

「そんな……違う…俺は……俺は殺してなんか……!」

 瞬間、ぞくりと不穏な空気を感じた。
 俺の隣に立つ会長が、今にも谷口に襲い掛からんとしていたのだ。

355 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:19:56.42 ID:sDHzCwEM0
「会長!」

 俺は慌てて会長を後ろから羽交い絞めにした。

「離せ! 何故かばう!? こいつは、こいつは殺人犯なんだぞ!」

「駄目だ! 谷口を傷つけさせるわけにはいかない!」

「は、な、せぇぇぇええええ!!!!」

 ガツン、という嫌な音と共に、鼻の辺りに激痛が走る。
 会長がでたらめに振り回した肘が俺の顔に直撃したのだ。
 溢れた鼻血がぽたぽたと床に落ちる。

「あ……」

 会長はそれで少し冷静になったらしく、暴れるのをやめてくれた。

「ぐ…!」

 痛みを堪え、呻く俺を、谷口は訳が分からないといった顔で見つめていた。

「なんだよ…なんなんだよ……キョン、お前は俺をどうしたいんだよ……」

「どうしたいかなんて、決まってるだろうが」

 ただ―――助けたいだけだ。
 このくそったれた世界から―――みんなを。

358 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:26:02.59 ID:sDHzCwEM0
 結局、古泉の発案で谷口は地下にあるワイン倉に閉じ込めておくことになった。
 ワイン倉はこの建物の中で唯一外から鍵をかけられるようになっていて、谷口を入れた後はその鍵を新川さんに持っていてもらう。

「これでよかったのか?」

 俺は朝倉にそう声をかけた。
 朝倉は、何故自分にそんなことを聞くのかわからない、といった様子で、

「そんなこと私にはわからないわ。私達は今、キョン君の推理にすがるしかないの」

 そう言って朝比奈さん、鶴屋さんと共にさっさと部屋に戻っていった。
 結局最後まで呆然と成り行きを見守っていたままだった阪中も、ふらふらと階段を上がっていく。
 それを見届けてから、俺も部屋に戻ろうと階段に足をかけた。
 くい、と袖をつままれる感覚。
 ハルヒだ。

「ねえ……キョンの部屋に行っていい?」

 断る理由は無かった。


359 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:29:22.40 ID:sDHzCwEM0
 ハルヒを俺の部屋に招きいれ、俺たちは二つあるベッドに向かい合わせで腰掛ける。
 俺は黙って手を伸ばし、ハルヒの手をそっと握った。

「キョン……私、怖い……」

 ハルヒがぽつりぽつりと、呟くように口を開いた。

「私ね、世の中はなんてつまらないんだろうってずっと思ってた。もっと刺激的なことが起こることをずっと望んでた。
 だけど……だけど……これは違う。こんなのはイヤ。こんなの……私は望んでない……」

 ハルヒの体は震えていた。
 俺はハルヒの隣りに移動し、その震える肩をそっと抱き寄せた。

「大丈夫だ。これ以上、事件を進行させはしない。これ以上……誰も殺させはしない」

「キョン……」

 ハルヒが潤んだ瞳で俺の顔を見上げてくる。
 唇を重ねるのに、抵抗は無かった。


361 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:34:46.45 ID:sDHzCwEM0
 そっと唇を離して、ハルヒの頭をぽんぽんと叩く。

「少し寝ろ。俺が起きて見張っててやるから」

「うん……ありがと」

 ハルヒはベッドに身を横たえ、目を瞑った。
 程なくして、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。
 異常な状況の中で、ずっと緊張していたんだろう。相当疲れが溜まっていた様子だった。
 俺はハルヒを起こさないようそっとベッドから腰を浮かせ、空いているもうひとつのベッドに移動する。
 くそ。
 ぎり…と奥歯を強く噛み締める。

 ……終わらないのか。

 正直言って、さっきのハルヒとのキスには浅ましい打算があった。
 いつかの閉鎖空間のように、キスが脱出の鍵になっているのではないかと期待したのだ。
 だが、一向にこの世界から解放される兆しが見えてこない。
 事件の犯人は暴き出したはずだ。
 なぜシナリオは終わりを見せない?
 俺は間違っていたのか?
 底知れない不安が俺の胸を締め付ける。
 しかし、今はただ、このまま無事に夜が明けることを願うことしか出来ない。
 窓の外に耳を澄ます。吹雪は一向に弱まる気配を見せない。
 ふと、急激な眠気が襲ってきた。

「なんだ…?」

 しばらく俺はその眠気に抗っていたが……耐え難いまどろみの中、俺の意識は次第に闇の底に沈んでいった。


363 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:41:07.21 ID:sDHzCwEM0
 気付いた時には、俺はベッドに倒れこんでしまっていた。
 慌てて身を起こす。
 ぞくりと背中に嫌な感覚が走った。

 ハルヒがいない。

「ハルヒ?」

 名を呼ぶがやはり返事が無い。
 バスルームの中にもハルヒはいなかった。
 時計を確認する。
 午前3時50分。くそ、随分長い間眠りこけてしまったらしい。
 俺はドアに近寄った。

「……嘘だろ?」

 ドアは開いていた。
 何故だ?
 ハルヒが何かしらの理由で出て行って、鍵を閉め忘れたのか?
 それとも、俺たちが眠っている隙に誰かが中に入ってきて……。
 頭の中に芽生えた嫌な想像を振り払う。
 とにかく、ハルヒは今どこかで一人でいるはずだ。
 早く迎えに行ってやらなくては。
 廊下に出る。
 廊下は不気味なほど静まり返っていた。
 まるで、この世界に俺以外誰もいなくなってしまったかのようだった。
 俺は、まずはハルヒの部屋に向かおうと足を踏み出す。


 その時だった―――階下から、ハルヒの悲鳴が聞こえてきたのは。

366 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:45:06.53 ID:sDHzCwEM0
「ハルヒ!」

 弾ける様に駆け出して、俺は階段へ向かう。
 階段を中ほどまで駆け下りて、俺の足は止まった。
 止まらざるを得なかった。
 階段の上からは談話室が見下ろせるようになっている。
 談話室のソファに、誰かが座っていた。

「そんな……」

 呆然と呟いて、ふらふらと階段を下りる。
 談話室に辿り着いた。
 ソファに腰掛けた誰かは俺に何の反応も示そうとしない。
 脳みそをしっちゃかめっちゃかにかき回されたような感覚。
 俺の頭は混乱の極みに達していた。









 ソファに腰掛けたままの姿勢で。

 朝倉涼子が死んでいた。




371 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:51:23.56 ID:sDHzCwEM0
 朝倉の目は驚愕に見開かれていた。
 絶対に起こるはずのないことが起こってしまったというような。
 有り得ない事態に直面したような顔。
 朝倉の着ていた服は、胸の辺りから真っ赤に染まっていた。
 あの辺りをナイフか何かで刺されたのだろうか。
 しかしその割にソファやカーペットには血痕が無い。
 ヒューマノイド・インターフェースには人の血があまり流れていないんだろうか、と馬鹿なことを考えた。

「キョン……」

 振り返ると、ハルヒが泣きそうな顔で立っていた。

「キョン!」

 ハルヒは俺の懐に飛び込んできた。
 俺はしっかりとハルヒを抱きとめる。
 ハルヒは俺の胸に顔を埋めたまま、声を震わせて言った。

「新川さんが……新川さんと森さんが………!」




 もう、何がなんだかわからなかった。



372 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 21:57:04.53 ID:sDHzCwEM0
 新川さんと森さんも殺されたのか?
 いったいどうして? いったい誰に?
 そんなもの決まってるじゃないか。
 全ての元凶は朝倉だ。朝倉が殺したに決まってる。
 ああ、でも、その朝倉はすぐそこで死んでいるんだぜ?
 わけがわからない。何で殺人が続くんだ。
 犯人は俺が暴いたじゃないか。それでこのお話はエンディングのはずだろう。

 犯人?
 そうだ。
 谷口はどうなったんだ?

 俺は胸元からハルヒを引き離し、その手を取ってワイン倉へと足を向けた。

「キョン……どこに行くの?」

「谷口の様子を確かめる」

 ワイン倉の入り口に辿り着き、俺は戦慄した。
 入り口のドアが開いていたのだ。


373 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:01:03.17 ID:sDHzCwEM0
 やはり谷口が新川さんたちと朝倉を殺したのか?
 しかし、ワイン倉の入り口は外から鍵をかけるタイプのものだ。
 いったいどうやって鍵を開けたんだ?

「谷口…?」

 地下に位置するワイン倉は、入り口を開けるとすぐ下に続く階段になっていて、中は薄暗くて見通せない。
 恐る恐る声をかけてみたが返事は無かった。
 ゆっくりと足を下ろし、一歩ずつ階段を下りていく。
 ぎしぎしと、嫌な軋みが鳴り響く。
 後ろに回した手はハルヒの手をしっかりと握ったままだ。
 階段を下りきる。
 裸電球が、冷え冷えとしたワイン倉の唯一の明かりだ。









 その明かりの下、谷口はうつぶせに倒れていた。




376 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:07:00.19 ID:sDHzCwEM0
 顔は真横を向いていて、目はかっと見開かれている。
 その顔を中心として半径1メートルほどのどす黒い血だまりが出来ていた。
 殺された。
 谷口まで殺された。

「ふは」

 唇が変な形に歪む。
 もう、正常な思考が出来る状態じゃなくなっていた。
 推理だなんだと名探偵ぶっていた自分が滑稽で仕方が無かった。
 そもそも長門ですら歯が立たなかった時点で、俺の手におえる範囲を大きく逸脱していたのはわかりきっていたことじゃないか。
 ただの一般人にしか過ぎないくせに。
 皆を救おうなどと、おこがましい。
 俺にできる事なんて……自分が殺されないように、みっともなく立ち回ることぐらいじゃないか。
 心は折れた。
 誰かに頼りたかった。
 誰かにすがり付きたかった。
 長門はもういない。
 脳裏には一人しか思い浮かばなかった。

「古泉…!」

 俺はハルヒを引きずるようにして階段を昇り、古泉の部屋を目指した。


384 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:12:02.48 ID:sDHzCwEM0
「古泉! 起きろ! 古泉!!」

 ドンドンと乱暴にドアを叩く。
 返事は無い。
 嫌な想像が頭をよぎる。
 馬鹿な。そんなはずはない。
 心臓が早鐘のように鳴っている。
 俺はドアノブに手をかけた。
 かちゃり、と拍子抜けするほどにあっさりドアは開いた。
 古泉は部屋にいた。
 ベッドに潜り、傍目にはただ眠っているように見える。


 でも、そのベッドは血で真っ赤に染まっていた。

「そんな…そんな……!」

 俺の後ろでハルヒがイヤイヤと首を振る。
 俺は覚束ない足取りで古泉の寝ているベッドに歩み寄る。
 掛け布団から血まみれの右腕が剥きだしになっていた。
 恐る恐るその右腕に触れる。

「ひっ」

 思わず手を引いてしまった。
 氷のように冷たくなっている。
 それはおよそ生きている人間の体温ではなかった。
 手首の辺りに手を添え、脈を確認する。当然のように脈は無かった。

386 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:16:19.58 ID:sDHzCwEM0
「は、はは……」

 乾いた笑いが口から漏れた。
 古泉も死んでいる。
 何だこれは。いったいこれから俺は何をどうしたらいいんだ。
 まだ自分の精神がもっていることが不思議だった。
 人間らしい理性を保てているのは奇跡だった。
 手の中に感じる温もり。
 ハルヒの存在だけが、俺の崩壊をギリギリで踏みとどまらせていた。

「生きている人間を……探すんだ」

 俺は自分に言い聞かせるように口にする。
 まだこのペンションには朝比奈さんを始めとして鶴屋さんや阪中、生徒会長が残っている。
 出来る限りの人間を助けなくては。
 俺は廊下に出て、まずは朝比奈さん達の部屋に向かった。


388 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:22:06.76 ID:sDHzCwEM0
「朝比奈さん! 鶴屋さん! 開けてください!!」

 俺はドアを叩くようにノックを繰り返す。
 しかし、またしても反応が返ってこない。
 まさかと思いドアノブに手をかけると、しっかりと鍵はかかっていた。
 部屋にいないのか?
 いや、鍵をかけて部屋に閉じこもっている可能性もある。

「もしそこにいるのなら聞いてください。新川さんも、森さんも、谷口も、朝倉も、古泉も殺されてしまいました……!
 残った人間で団結しなければ、全員殺されてしまうんだ! 開けてください!」

 しばらく待つがドアが開く気配はない。
 ドアに耳を押し付けてみたら、誰かのすすり泣く声が聞こえた。
 ……生きている!
 だが、ドアを開けてくれないのはどういうわけだろう。
 そうか。もしかすると俺を犯人だと疑っているのかもしれない。

「……わかりました。開けてくれないというのであれば仕方ありません。ですが、いいですか?
 もし俺以外の誰かが部屋を訪ねてきても絶対にドアを開けないで下さい。そのまま、部屋から絶対に出ないこと。いいですね?」

 返事は無かったが大丈夫だろう。
 この分だと俺がいちいち言わなくても最初から誰かを中に入れるという気はなさそうだった。
 その場を後にしようとドアに背を向けたところでギィ…と音がした。
 朝比奈さん達の部屋ではない。
 見ると、廊下の向こうで、谷口の部屋から阪中が顔を出していた。

391 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:26:23.60 ID:sDHzCwEM0
「阪中! 生きていたのか!!」

 よかった。本当に良かった。
 俺は心の底から安堵した。
 阪中は廊下に出ると、ふらふらとこちらに歩み寄ってきた。
 その顔はひどくやつれていて、まるで幽霊のような雰囲気を醸し出していた。

「キョン君……今の話、ホント?」

「え?」

「谷口君……死んじゃったの?」

 俺の声が聞こえていたらしい。
 俺は沈痛な面持ちで頷いた。

「そう…なのね。それで、谷口君はどこで……?」

「地下のワイン倉で……ってオイ、阪中。待て」

 阪中は俺の制止も聞かず階段を降りていく。
 しまった。谷口の居場所を教えるべきではなかったか。
 阪中を一人にするのはまずい。犯人はどこに潜んでいるのかわからないのだ。
 と、そこで俺はとんでもないことに気が付いた。
 今生き残っているのは俺とハルヒ、鶴屋さんと朝比奈さん、そして阪中と―――生徒会長だけだ。
 ならば、もう犯人は……生徒会長しかいないじゃないか。


393 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:30:26.18 ID:sDHzCwEM0
 ぞくりと背筋に怖気が走る。
 早く――早く阪中を追わなくては。
 だが、どこに会長が潜んでいるのかわからないペンションをうろちょろするのはあまりに危険だ。
 俺はともかく、ハルヒを連れて行くわけには絶対にいかない。

「ハルヒ、俺の部屋に戻れ」

「え…? あ、あんたはどうするの?」

「阪中を連れてくる。すぐに戻るから。いいか、誰が来ても絶対にドアを開けるんじゃないぞ」

「わ、私も一緒に……!」

「駄目だ。頼む…言うことを聞いてくれ」

 有無を言わせぬ俺の様子に、ハルヒは渋々であったが頷いてくれた。
 まずは一緒に部屋に戻り、安全を確認する。
 誰かが忍び込んでいたり…といったことはなさそうだった。
 そして俺はハルヒを部屋に残し、階下へと向かった。


396 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:34:14.32 ID:sDHzCwEM0
 物置からモップの柄を拝借し、慎重に階段を降りる。
 どこに会長が潜んでいるか分からないので、物陰をひとつひとつ確認しながら足を進めていく。
 朝倉の死体は変わらずソファに腰掛けたままだった。
 ワイン倉に辿り着いた。

「阪中?」

 入り口のところから中に声をかける。
 やがて、奥から阪中が階段を上がって姿を現した。
 その顔色は先ほどよりもなお白い。

「大丈夫か?」

 俺が声をかけると、阪中は弱々しく頷いた。

「部屋に戻ろう。天気が回復して、警察に連絡がつくまで部屋に閉じこもるんだ」

 足取りの覚束ない阪中に手を貸そうとして、俺はぎょっとした。






 今……人影が見えなかったか?



400 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:37:47.42 ID:sDHzCwEM0
 廊下の向こう……新川さんと森さんの部屋や、会長や喜緑さんのスタッフルームがある方向で、何か人影のようなものが動いた気がしたのだ。
 俺はごくりと唾を飲む。
 心臓がバクンバクンと鳴り出した。
 モップを握る手はもう汗でぬるぬるだ。

「阪中……俺の部屋の場所はわかるな?」

「う、うん……」

「先に行っててくれ。ハルヒがいるはずだから、二人で部屋に閉じこもるんだ」

「え、え?」

「俺もすぐに行く。さあ……」

 阪中は少し混乱していたようだが大人しく階段の方に向かってくれた。
 阪中が二階に辿り着き、俺の部屋の方に向かっていくのを確認して、俺は新川さん達の部屋がある方へ向かった。
 食堂の前を通り過ぎ、角を曲がると新川さん達の部屋、喜緑さんの部屋、会長の部屋、一番奥が裏口と続く。
 ……さっきの人影は、やはり会長だったのだろうか。
 こっそりと俺たちの隙を窺っていたのだろうか。
 もちろん、ただの俺の勘違いということもある。
 むしろそうであって欲しいくらいだ。
 俺は息を殺しながら、そっと新川さん達の部屋の扉を開けた。


401 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:41:27.08 ID:sDHzCwEM0
 新川さんは床に座り込むようにして死んでいた。
 腹に包丁が突き刺さっている。
 新川さんは自分でその包丁を抜こうとしたのか、包丁の柄を両手で握り締めていて、さながら切腹でも行ったかのような有様だった。
 バスルームの扉が開いたままになっていて中の様子が見える。
 バスルームの中は血まみれだった。
 まるで出鱈目に絵の具を塗りたくったかのように、バスタブも、壁も、天井に至るまで血の跡がべったりとついていた。
 血の出所は森さんだった。
 森さんは全裸のままバスルームで仰向けに転がっていた。
 喉がぱっくりと一文字に切り裂かれている。
 虚ろな目が、まるで俺をじっと見つめているようだった。

 ハルヒは、この惨状を見て悲鳴を上げたのか。

 無理もない。これは、この光景は……むごすぎる。
 特に今のハルヒにとっては、この二人は他人ではなく、仲の良かった親戚なのだ。
 もし現実に俺の叔父叔母がこんなにもむごたらしく殺されているのを目の当たりにしたとしたら……俺は正気を保っていられる自信はない。

 部屋の中に会長が潜んでいる様子はなかった。


403 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:45:41.59 ID:sDHzCwEM0
 喜緑さんの部屋、会長の部屋と見て回るが誰も居ない。
 やはりさっき人影を見た気がしたのは気のせいだったかと胸を撫で下ろしたが、今度は別の不安が頭をよぎった。
 ならば、会長は今どこにいるんだ?
 会長の部屋には居なかった。喜緑さんの部屋にも居なかった。
 まさか会長はこのペンションのどこかに身を隠し、今も虎視眈々と俺たちの命を狙っているのだろうか。
 俄かにハルヒ達のことが心配になる。
 俺はすぐに戻ろうと踵を返したが、そこでおかしなものが目に付いた。
 廊下の一番奥にある裏口のドア。
 そのドアノブに赤いものが付着している。
 近くに寄って見てその正体はあっさり判明した。
 既に見慣れてしまったソレは血の跡だった。
 何故こんな所に血痕が? 俺は首を傾げた。
 これはたまたま返り血か何かが付着したとかそんなレベルのものではない。
 血まみれの手でドアノブを掴んだりか何かしなければ、こうまでべったり血の跡は付かないだろう。
 しかし、ドアには鍵がかかっている。
 誰かがここから出たというのなら、鍵は開いていなければおかしいのだが……。
 それとも、一度出てから戻ってきて鍵を閉めたのだろうか。
 そうならばこれ以上ここで考えていても意味は無い。

1.ハルヒ達が心配だ。戻ろう。

2.何か気になる。きちんと調べよう。


404 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:49:55.74 ID:sDHzCwEM0
 何か気になる。きちんと調べよう。
 俺は鍵を開け、ドアノブを回す。
 ドアを開けると猛烈な風と雪が吹き込んできた。
 俺は咄嗟に顔を庇い、闇の中に目を凝らす。

 血だ。
 この裏口から外に向かって、ずっと雪に血痕が続いている。

 俺は意を決して外に踏み出した。
 スリッパのままなので、一歩進むたびに足が凍る思いがする。
 血痕はペンションの壁伝いにずっと続いているようだ。
 恐る恐る足を進めていく。
 体が震えるのは寒さによるものか、それとも恐怖によるものなのか判別はつかなかった。

 闇の中を必死で目を凝らしながら進んでいると―――雪の中に潜むように、ぎょろりと二つの目が輝いていた。

「なっ!?」

「おおぉぉぉォォオオオオオオオ!!!!!!」

 気付いたときには遅かった。
 まるで獣のような唸り声を上げて襲い掛かってきた何者かに俺は押し倒されていた。


407 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:54:07.89 ID:sDHzCwEM0
 俺の上に圧し掛かってきた何者かは、そのまま俺の首を絞めにかかる。
 物凄い力だ。あっという間に気が遠くなる。

「だ、誰だ……!」

 俺は喉を押し潰されたまま、必死で声を振り絞った。
 瞬間――俺の首を絞めていた猛烈な力がふっ、と消失した。

「なんだ……貴様か……」

 そんな声が聞こえて、俺の上に圧し掛かっていた何者かはどさりと横に崩れ落ちた。
 ごほごほと咳き込みながら俺は身を起こし、その倒れた『誰か』に目を向ける。

「な…!」

 俺は絶句した。
 俺の横に転がっていたのは―――顔を血で真っ赤に濡らした生徒会長だった。


411 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 22:57:48.46 ID:sDHzCwEM0
 会長は頭からだらだらと血を流していた。
 ぐちゃぐちゃになった傷口に、思わず顔をしかめてしまう。

「会長! どうしたんです!? 一体何があったんですか!?」

 息も絶え絶えな会長に、俺は狼狽してしまう。
 今回の連続殺人の犯人であるはずの会長。
 その会長が、なぜ今こんな事になってしまっているのか。

「アイツだ……犯人はやっぱりアイツだったんだよ……」

 会長がぼそぼそと口を開いた。

「オーナーの部屋から妙な物音がして…俺はオーナーの部屋を覗き込んだ……その時に頭を殴られた……。
 アイツが……ドアの影に隠れてやがったんだ……くそ、この俺としたことが……まんまと……」

「あいつ…? あいつって誰なんだ!? 会長!!」

「俺は…俺は……」

 会長は俺の言葉が聞こえているのかいないのか、虚ろな目のまま続ける。

「俺は……初めて会った時からずっとアイツは何か得体が知れないと思っていた……その瞳の奥に……どろどろしたどす黒いものが隠れているような……そんな気がしていたんだ……」

「会長…?」

416 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:01:20.66 ID:sDHzCwEM0
「本当であればあんな奴に関わり合いにはなりたくなかった…でも、立場上そういうわけにもいかなかった。
 俺は、俺の人生を有利に進めるために面倒くさい役割も引き受けていたというのに……この様だ……高い代償を払っちまった」

 俺は会長の物言いに違和感を覚えた。
 思い起こせば、喜緑さんが殺されたときもそうだったのだ。
 もしかして、もしかするとこの人は……!

「会長……あなたは……『繋がっている』のか?」

 俺の言葉がようやく届いたのか、会長はにやりと笑った。

「この期に及んで訳のわからんことを……とことん……KY野郎だな…貴様は……」

 嘘をついているようでも、誤魔化そうとしている風でもない。
 違う。この人は俺のように現実の世界と繋がっているわけではない。
 ただ、夢現のような状態で、向こうとこちらの記憶が混濁しているのだ。

「ふん…精々…気をつけろ……アイツは……恐らく全員を……」

 会長の体からはもう力が感じられない。
 さっき俺に襲い掛かってきたのが、正真正銘最後の力だったんだろう。

「会長! アイツって誰なんだ! 教えてくれ!!」

 もう、俺のそんな言葉も届いていないのか。
 会長はふっ、と微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。

「……………………………………寒いな……」

 それが彼の最後の言葉だった。

422 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:05:25.54 ID:sDHzCwEM0
 俺は会長の体を抱え、裏口からペンションに戻った。
 廊下に横たえた会長の体、その胸に耳を当てる。
 ……心臓の音はまったく聞こえなかった。
 会長が死んだ。
 俺はすっかり会長が犯人なんだと思い込んでいた。
 だが、その会長も『アイツ』に殺されたという。
 くそ。またわけがわからなくなってしまった。
 アイツってのは一体誰なんだ。
 もう残っているのは俺とハルヒを除けば鶴屋さんと朝比奈さん、そして阪中だけじゃないか。
 この中に犯人がいるっていうのか?
 でも、残った3人の中で全ての犯行を行うことが出来た人間はいなかったはずだ。
 いや、待て。
 途中までは共犯だったとしたらどうだ?
 谷口と阪中が共犯で、これまでの事件を起こし、最後に仲間割れして阪中が谷口を殺した。
 それならば理屈が通る。
 もしそうであるならば最悪だった。
 ハルヒは今、犯人と二人きりでいることになる。
 俺は最悪の判断ミスをしてしまったということなのか――?
 認めたくはないがもう考えられる可能性はそれしかない。

 まさか、死体が動き出して生者を襲っているわけでもあるまいに――――

 ふと、俺の脳裏にもうひとつの可能性が浮かぶ。



 そういえば俺は。
 朝倉の死を、きちんと確認してはいない。


425 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:09:41.55 ID:sDHzCwEM0
 精一杯の注意を払いながら、俺は談話室に戻る。
 朝倉の死体は変わらずソファに座っていた。
 俺はゆっくりと近づいて、朝倉の体をモップの柄でつつく。
 反応はない。
 さらに歩み寄る。
 朝倉は動かない。
 俺は恐る恐る朝倉の手を取った。
 体温は生きている人間のソレではない。
 手首に指を当てる。脈拍は―――無し。
 だが、朝倉は人間ではない。コイツは有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスとやらなのだ。
 脈拍がないからといって、本当に死んでいるとは限らない。
 俺は朝倉の服を捲り上げた。

「うっ…!」

 思わず声が漏れた。
 黒いブラジャーに支えられた大き目の乳房。
 朝倉はその胸を……ズタズタに切り裂かれていた。
 何度も何度もナイフで突き刺されたのだろう。
 流石にこの状態で生きているとは考えにくかった。
 朝倉は、どうやら本当に死んでいると判断してよさそうだった。

 と、その時。

 背後に気配を感じたときにはもう遅かった。


426 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:13:12.35 ID:sDHzCwEM0
 右手を後ろ手に取られ、足を払われる。
 俺は一瞬で地面にうつ伏せに倒れ付してしまっていた。
 右腕に激痛が走る。
 長い髪が、俺の頬を撫でている。
 肩越しに背後を見上げた。

 鶴屋さんだった。

 鶴屋さんが、鬼のような形相で俺の背中を右腕ごと押さえつけている。
 よほど完璧に極められているのだろう、少しでも体を動かそうとしただけで右腕はぎしりと悲鳴を上げた。
 俺は驚きで声を上げることもできなかった。
 まさか―――鶴屋さんが犯人だというのか?

「やっぱり……キミがりょーこちんを殺したんだね」

 鶴屋さんはよくわからないことを言い出した。


431 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:17:58.31 ID:sDHzCwEM0
「な、何を…」

「私はずっとキミを見張ってたのさ」

 鶴屋さんはぞっとするほど冷たい目で俺を見下ろしている。

「私たちは今日、ずっと部屋で起きておこうとしてた。けど、途中で不可思議な眠気に襲われて……起きたら、りょーこちんが消えていた。
 私はみくるに『私が戻るまで絶対にドアを開けるな』って強く言い聞かせてから様子を見に一階に降りてきた。
 そうしたら……こうやって、りょーこちんが死んでいた」

 鶴屋さんの声に悲しみの色が混じる。

「私はあの眠気は人為的なものだと考えた。昨夜飲んだココアに妙なものを入れられていたんだと。
 私はオーナーとメイドさんの部屋を覗き込んだ。そしたら……もちろん知ってるよね……二人とも死んでいた。
 どういうことなんだろうと固まってたら、足音が聞こえて、咄嗟に身を隠したんだ。
 部屋に来たのはハルにゃんだった。ハルにゃんは悲鳴を上げてすぐに出て行ったよ。
 それから、私は出て行くタイミングを失って……ずっと、キミ達の様子を観察していた」

 そうか……ならば、あの時見かけた人影は鶴屋さんだったのか。

「はっきり言うよ。キョン君、キミの行動はおかしい。あやしいんじゃなくて、おかしいんだ。
 どこに犯人が潜んでいるかもわからないペンションの中をうろちょろうろちょろ……
 ハルにゃんと一緒に助かりたいというのであれば、ハルにゃんと二人で部屋に閉じこもっていればいいじゃないか」

 違う。俺は、俺はハルヒだけでなく、皆を助けたかったから。


436 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:21:46.88 ID:sDHzCwEM0
「私にはもう、キョン君が犯人だとしか思えない。犯人だからこそ、こんな状況の中を平気で一人でうろちょろ出来るのさ」

「違う! 俺は…!」

「確かにキョン君は田中さんや喜緑さんが殺された時にアリバイはあるのかもしれない。でも、その犯人と皆を殺した犯人が別だとしたら?
 可能性の話だよ。二つの事件が起きて、『恐怖でおかしくなってしまった誰かが、次々と怪しい人物を殺しにかかったとしたら』?
 ねえ、キョン君。私実はさっきまでキョン君を見失っていたんだけど、その血は何? その洋服にべったりついた血は誰のものなのかな?」

 言われて俺は自分の体を見下ろす。
 会長に馬乗りになられた時のものだろう、赤い血がべっとり俺の洋服を汚していた。

「こ、これは違う! 違うんだ!」

「犯人はみんなそう言うのさ。さあ、立って」

 ぎり、と右腕を捻られる。
 逆らえば一瞬で腕をへし折られるだろう。
 俺は言われるままに立ち上がらざるをえなかった。

「さあ、そのまま歩くんだ」

 鶴屋さんは冷たい声で俺の背中を押してくる。
 くそ……俺をどうするつもりなんだ。


439 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:26:01.36 ID:sDHzCwEM0
「お願いだ鶴屋さん。俺の話を聞いてくれ」

「私は」

 俺の懇願を振り払うように鶴屋さんは口を開く。

「私は、みくるだけは助けてみせる。絶対にみくるだけは死なせない。
 そのためにはたとえ1%の可能性だって見逃すわけにはいかないのさ…さあ、入って」

 鶴屋さんに連れてこられた先はワイン倉だった。
 俺が逡巡していると鶴屋さんは俺の背中を腕ごと勢い良く押した。
 俺は階段を転げ落ちないように必死で体勢を立て直す。
 そうしている間に、バタンと入り口のドアは閉じられてしまった。

「鶴屋さん!!」

 慌ててドアノブを握る。
 しかし間に合わなかった。がちゃん、と無情な音が響き、ドアは鍵をかけられてしまった。

 閉じ込められた――!


442 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:30:19.83 ID:sDHzCwEM0
「……最悪だ」

 俺はダン!とドアを強く殴りつけた。
 もちろんその程度ではドアはびくともしない。
 ドアに両手をつけたまま、うな垂れる。
 くそ。俺は犯人なんかじゃないのに。
 こうしている間にも真犯人は皆を狙って―――いや。

 待て。

 待て待て待て。


 おかしい。

 おかしいぞ。


 鶴屋さん。






 何故あなたがワイン倉の鍵を持っているんだ?




445 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:35:48.42 ID:sDHzCwEM0
「あああああああ!!!! 開けろ!! 開けろ開けろ開けろぉ!!!!」

 俺は狂ったようにドアを殴りつける。
 拳の皮がむけて出血するのもまったく気にならない。
 鶴屋さんがワイン倉の鍵を持っていたという事実からは、二つの可能性が考えられる。

 ひとつはそのままシンプルに、鶴屋さんが犯人だという可能性。

 そしてもうひとつ。もし鶴屋さんが犯人じゃなかったとしたら?

 それは最悪な可能性だった。
 犯人はワイン倉に閉じ込められていた谷口を殺している。
 そのためには、どうしたってワイン倉の鍵が必要だ。
 でも、その鍵は鶴屋さんが持っている。
 じゃあ犯人はどうやってワイン倉の鍵を開けたのか。


 示唆されるのは―――マスターキーの存在だ。


 もしも犯人がそんなものを手にしているとしたら。
 鍵をかけて部屋に閉じこもるなんて、まったく意味を為さない――!


450 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:40:20.22 ID:sDHzCwEM0
「があああああああああああああああああ!!!!!!!」

 駄目だ。ワイン倉の扉はびくともしない。
 俺は階段を駆け下りた。
 裸電球の下で、谷口が横たわっている。
 心なしか血だまりがさっきより広がっているような気がした。
 しかし、今はそんなことに気を取られている暇はない。
 俺は何か、ドアをぶち破れるものがないかと辺りを見渡す。

 ……くそ! 駄目だ! 何も見当たらない!

 諦めるわけにはいかない。
 俺は谷口がなにか持っていないかとその死体に手を伸ばした。
 頭に血が上っていて、死体に触れる気味悪さなどまったく気にならない。
 谷口の体はひんやりと冷たかった。
 ずっと暖房の効かないワイン倉にいたせいだろう。
 その体はすっかりと冷え切ってしまっていた。


 …………え?


 その瞬間、まるで雷に打たれたような衝撃が俺の体中を走りぬけた。




 犯人が、わかった。



455 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:42:24.76 ID:sDHzCwEM0


 ガチャリ、とドアの鍵が開く音がする。



 ギシギシと階段を軋ませて、誰かが降りてきた。



 冷え冷えとした裸電球の下、俺の前に現れたのは―――






464 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:46:34.58 ID:sDHzCwEM0
 ツクツクボーシ――……… ツクツクボーシ――………
 みんみんとやかましかったアブラゼミの大合唱も鳴りを潜め、ツクツクボウシの声が目立つようになった。
 いつの間にか、夏も終わりか。
 いや、夏どころか、この世の全てが終わってしまったような気さえする。
 何もかもが狂ってしまったような。
 何もかもがくるくると捻じ曲がってしまったような。
 そんな世界の中で、俺はハイキングコースとしか思えない通学路をエッチラオッチラ登る。
 校門の前に、黒塗りのタクシーが止まっていた。
 俺は何となく中を覗きこむ。
 運転席で新川さんが死んでいて。
 助手席で森さんが死んでいた。
 新川さんは腹に包丁を刺していて。
 森さんは喉をぱっくりと切り裂かれている。


 俺は校門を通り抜け、自分の教室へと向かった。


466 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:48:42.39 ID:sDHzCwEM0
 教室では、谷口と阪中がそれぞれの机で突っ伏して死んでいた。
 谷口は腹の辺りを刺されたのだろうか、腹部から零れる血が1mほどの水溜りをつくっていて。
 阪中は突っ伏した机の上からぽたぽたと血が零れている。
 近寄ってよく見ると、成程、頭を殴られているようだった。


 俺は鞄を自分の机の上に置くと、さっさと教室を後にする。


469 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:50:50.05 ID:sDHzCwEM0
 三年校舎に足を伸ばしたら、廊下で鶴屋さんが死んでいた。
 左目の上辺りがべっこりとへこんでいて、端正な顔立ちが台無しになっている。
 だけでなく、腹の辺りからも血がこぽこぽと噴き出していた。


 一体どっちが致命傷だったんだろうな、とどうでもいいことを考えた。


472 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:52:55.78 ID:sDHzCwEM0
 生徒会室のドアをノックもせずに開ける。
 生徒会長用の立派な椅子に腰掛けたままで、会長が死んでいた。
 死んでなお偉そうにふんぞり返るその姿勢には頭が下がる。
 喜緑さんがいない。
 ああ、そうか。彼女は長門に死体ごと消去されていたんだった。


 いかんいかん、とこつりと頭を叩き、生徒会室を後にした。


477 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:55:09.94 ID:sDHzCwEM0
 SOS団の部室に行くと、メイド服の朝比奈さんがお茶を淹れる姿勢のままで死んでいた。
 死してなおお茶汲みの姿勢を崩さないとは、朝比奈さんはメイドとしていよいよ完成されたのかもしれない。
 ただ、メイドに一番求められる花のような笑顔は、今の彼女には望むべくもなかった。
 朝比奈さんの顔は恐怖に醜く歪み、そしてその切り裂かれた喉からはどばどばと血が流れ続けている。
 朝比奈さんの前に置かれた湯呑みに、零れた血液が溜まっていた。


 これがほんとの紅茶ってな。くだらないことを呟いて俺は部室を出た。


484 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/03(日) 23:59:09.80 ID:sDHzCwEM0
 俺は何となく食堂の屋外テーブルを訪れ、適当に腰掛ける。
 なんというか、あいつと話をするには、この場所が一番ふさわしい気がしたのだ。
 ことり、と目の前のテーブルに紙コップが置かれた。
 コップの中には、夏ももう終わりとはいえまだまだ暑さ厳しいこの時分に、熱々のホットコーヒーが満たされていた。
 一体何の嫌がらせだと憤慨しかけたが、一応はおごられている身分なので強くは言えない。
 ……おごりなんだよな?

「ええ、もちろんです」

 そう言って俺の対面に座った古泉は笑った。

「やっぱりお前が犯人だったんだな」

「ええ。僕が皆さんを殺しました」

 古泉はいつもの笑みを崩さないままそう言った。


490 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:04:35.85 ID:sDHzCwEM0
「今の答えで確信できたよ」

 俺はコーヒーに口を付け、軽く唇を湿らせた。

「お前は『繋がって』いたんだな?」

「はい、その通りです」

 古泉は頷いた。

「長門を殺したときからか?」

「はい」

 やはりそうか。
 俺はある時ふと思ったのだ。
 長門は何故生きていたんだろうって。
 いや、もちろん長門は結局死んでしまったんだけど、それでも死ぬ間際に俺に会うことが出来て、結果俺を現実とリンクさせることも出来た。
 これって、このゲームを仕掛けた『何者か』にとっては大失敗だよな。
 そういうイレギュラーな事態を防ぐためにさっさと長門を排除することにしたんだろうに。
 何故実行犯は長門にとどめを刺さず、あんなにも中途半端なことをしたんだろうってのがひとつ。

492 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:08:07.15 ID:qy72oAV60 [1/17]
 根拠はもうひとつある。
 長門はどうして俺を現実とリンクさせたんだろう。
 そんなもんわかりきってるよな。事件を解決するためだ。
 でもさ、実際はもっともっと簡単な方法があるだろう?
 あそこにいたメンバーは皆俺たちの仲間だったんだ。
 じゃあ話は簡単じゃないか。
 『犯人を現実とリンクさせて、犯行を自白させてしまえばいい』。
 それで事件はあっさり解決だ。探偵役の俺なんかをリンクさせるよりよっぽど手っ取り早いし、確実だ。
 そんな手段を、長門が取らなかったわけがないと思うんだよ。
 俺を繋げたのは、万が一の保険のようなもので、それがメインじゃなかったと思うんだ。
 直接体に触れるのが条件であったとしても、襲われたときにその機会はいくらでもあっただろうし。

 だから何となく、漠然と、俺は『犯人役』も現実とリンクしてるんじゃないかって思ってた。

 けれど、そんな考えは状況が一変してからはどこかへ吹き飛んでいたんだよ。
 だってそうだろう?
 もし犯人が現実とリンクしていたとしたら、さらに殺人が連続するはずなんてないじゃないか。

「答えろ古泉……お前はどうして……!」

「そうですね。ことここに至って隠し立てをするつもりはありません。全てお話ししましょう。ですがその前に僕からもひとつ」

「なんだよ」

「国木田さんを亡くされた時は、悲しかったですか?」


494 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:11:46.60 ID:qy72oAV60 [2/17]
 当たり前だろうが。
 お前も知ってるはずだろう。俺があの時どれだけみっともなく取り乱したか。
 そんな俺を諌めてくれたのが他ならぬお前だったじゃないか

「ええ、そうですね。そうでした。その通りです。いえいえ、どうしてこんなことを言い出したかというとですね。
 その気持ちを思い出して頂けたほうが僕の心情の理解もスムーズにいくかと思いまして。
 実はですね。僕も友達を亡くしたんですよ。国木田さんが亡くなる少し前のことだったんですが。
 閉鎖空間でずっと共に神人と戦ってきた相棒のようなものだったんですが、ある日、神人に潰されて、アッサリとね」

 俺は思い出していた。
 人の死だけはどうにもならないのだと、俺にとても真剣に語って聞かせた古泉。
 古泉はどうして長門でも死者を生き返らせることが出来ないことを知っていたのか。

「それからですね。恥ずかしながら僕は誓いを立てまして。まあ、それはその、これ以上仲間を絶対に死なせないぞと。
 僕の仲間は僕が絶対に守ってみせるといったまあ陳腐なものだったんですが、それなりに真剣にそんなことを考えていたんですよ。
 そしたらまあ、いきなりこれですよ。もう笑っちゃいますよね」

 古泉はどんな気持ちだっただろう。
 全てを思い出したその瞬間、長門を、他ならぬSOS団の仲間を殴りつけていた古泉は、果たして。


496 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:16:24.89 ID:qy72oAV60 [3/17]
「新川さんの料理はおいしかったですよね」

 突然の古泉の質問に俺は曖昧に頷く。

「今でも鮮明に思い出せるでしょう? あの熱々のスープの喉越し。メインディッシュの肉の噛み応え。全て素晴らしいものでした」

 俺は古泉の言いたいことに察しがつき、ごくりと息を呑んだ。

「……今でも鮮明に思い出すんですよ。喜緑さんを……長門さんを殴り殺した感触を」

 古泉は自分の手を見つめながら笑った。
 いつもの笑みとは少し感じの違うそれは、どうやら自嘲の笑みらしかった。

「それで、本当なら全部思い出した瞬間即座に名乗り出て事件は終わっていたんでしょうが、なんというかまあ、僕も相当頭に血が上ってまして。
 俗っぽい言葉で言うなら、キレてたんですよ。いえ、もうその時には狂っていたのかもしれません。
 とにかく、全てを思い出した僕の怒りはあなたと同様、朝倉さんへと向かいました。よくも、長門さんを殺させやがって――ってね。
 それで谷口さんを犯人とするあなたの推理が一段落した頃、僕は朝倉さんに一枚のメモを渡しました。
 内容は『犯人役より、管理人へ。話がある。後で部屋に来て欲しい』とまあこんな感じですね。
 しばらく時間をおいて、彼女は僕の部屋を訪れました。同室のお二方をどうやって誤魔化したのか尋ねたら、眠らせたとのことでした。
 聞くところによると朝比奈さんや鶴屋さんだけでなく、ペンションにいた全員を眠らせたらしいですね、彼女」

 そうか。
 あの時襲ってきた耐え難い眠気。
 あれは朝倉の仕業だったのだ。


500 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:20:34.20 ID:qy72oAV60 [4/17]
「部屋に招き入れてからはいきなり刺しました」

 まるで何でもないことのように古泉は言う。

「情報操作ですか? ああいった人外の能力を使われては厄介でしたからね。有無を言わさず、滅多刺しにしました。
 何回刺したかは数えませんでしたね。気付いたら彼女の体はぐったりと力を失っていました。
 結構刺し違える覚悟で臨んでいたんですが、正直拍子抜けしましたね。
 それでまあ、しばらくぼけーっとしていたんですが、我に返って、これはおかしいなと。
 システムの管理人である朝倉さんが死んだのに、一向にシステムが崩壊する気配がない。いや、焦りましたよ」

 皆も解放されて、僕も復讐が果たせて、一石二鳥の手だと思っていたんですと古泉。

「どうしたものかと思ったんですが、この世界が進行していく以上、まずはとにもかくにもこの状況を誤魔化さなくてはと考えました。
 いえね、朝倉さんの血でベッドがえらいことになっていたんですよ。
 でもまあ、それはどうしようもなかったんで、とりあえず朝倉さんの死体を談話室に移動させました」

 古泉の話を聞きながら、俺は一人で納得する。
 古泉のベッドを赤く染めていたのは、朝倉の血だったのか。
 談話室にあまり血痕が無かったのも、これで合点がいった。

「朝倉さんの体をソファに置いて……これからどうしようかと、泣きそうな気持ちでした。
 途方にくれるってああいう気持ちを言うんでしょうね。とにかく、部屋に戻ろうかと階段を上がったら……心臓が止まるかと思いましたよ。
 涼宮さんが廊下に出てきたんです」


502 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:24:31.80 ID:qy72oAV60 [5/17]
「『どういうことだ! 眠らせたんじゃねえのかよ!』と心の中で朝倉さんを罵倒しながら、僕はとりあえず階段に身を伏せました。
 僕は信じられない思いで涼宮さんを見つめていました。いえ、涼宮さんが眠っていなかったのがそれほど衝撃的だったわけではなくですね。

 彼女ね、笑っていたんですよ。あんな状況の中で。頬を染めて、嬉しそうに微笑んでいたんです。

 僕は混乱しましたよ。でもすぐに答えはわかりました。彼女が出てきたの、あなたの部屋だったんですよね。
 ああ、なるほどと。そうですかと。僕がこんな気持ちになっている間にあんた達はよろしくやってたんですかと。
 あの時の僕の気持ちを包み隠さず言えばこんな感じでしたね。そんな顔しないで下さいよ。だってしょうがないじゃないですか。
 ……しばらく僕はそのまま階段に腰掛けて色々考えてました。本当に、色々……どうして僕はいつもこうなんだろうなあって。
 本当に選んで欲しい人には選んでもらえないのに、神人狩りの超能力者とか、冬の山荘の殺人鬼とか、そんなものにばっかり選ばれて。

 ふざけんなよ。ふざけんなよ。ふざけんなよ。
 僕だって。僕だって。俺だって。

 ずーっとぶつぶつ呟いてました。その時に、本格的に頭のタガが外れてしまったのかもしれません。
 そういえば新川さん達は今の彼女にとっては親戚だったっけ、とかなんとか思いまして、ふらふらと彼らの部屋に向かいました。
 新川さん達が殺されてるのを見たら、涼宮さんはどんな顔をするんだろう。あの笑顔はどうやって歪むのだろう。
 こうやって振り返ってみますと、つくづく下種な発想ですねえ。そりゃあ選ばれないはずですよ」


504 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:29:35.97 ID:qy72oAV60 [6/17]
「それで、ずっと死体のフリをして俺たちの目をごまかして、犯行を重ねたのか」

「そうです。ああ、そういえばどうして僕が死んでないことがわかったんです?」

「体温だよ。寒いワイン倉に放置されていた谷口の死体より、お前の体は冷たくなっていた。まるで、氷か何かで無理やり冷やしたみたいにな」

「なるほど。少し冷やしすぎましたか」

「考えてみればお粗末な死体のフリだよな。もし俺が傷の確認までしてたらどうするつもりだったんだ?」

「別に。まあ、ばれたらばれたで構わないと思っていましたからね」

 何でもないことのように古泉は言う。

「ハルヒの悲しむ顔が見たいから、お前は皆を殺したといったな?」

「そう言葉にしてしまうと実に陳腐な動機ですが、まあ概ねそんな感じですよ」

「谷口を殺したのは何故だ? こういっちゃなんだが、ハルヒは谷口のことをあまり気にしちゃいない。
 お前の動機が本当にお前の言うとおりなら、谷口まで殺すことは無かったはずだ」

 同じ理由で会長も殺す理由はないはずだが、彼の場合は古泉の犯行現場に首を突っ込んでしまっている。谷口とは少し事情が違う。

「やれやれ、存外あなたも察しが悪い。今までの僕の言動で気づきませんか?」

 古泉は呆れたようにため息をついた。


「僕はね……あなたのことも嫌いなんですよ」


505 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:32:57.66 ID:qy72oAV60 [7/17]
 ぐにゃり、と突然視界が歪む。
 歪んだ視界の中で、古泉が歪に笑っている。

「本当にあなたのお人好し加減には辟易しますね。まさか、僕から差し出された飲み物に何の疑いもなく口を付けるとは」

 歪んだ視界が、今度は周りから黒く塗りつぶされていく。

「さようなら」

 古泉が、最後にそんなことを呟くのが聞こえた。


508 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:36:31.91 ID:qy72oAV60 [8/17]
 目を覚ます。
 がばっと、すぐに体を起こし、辺りを確認した。
 変わっていない。食堂の野外テーブルに俺はいた。
 古泉の姿が消えている。
 時計を確認する。まだそれ程時間は経っていない。
 俺は立ち上がり、何となくSOS団の部室がある校舎を目指す。
 渡り廊下を渡り、部室のある旧館に向かっていたところで、俺は足を止めた。
 中庭に一本の木が生えている。
 去年の文化祭のあと、あそこの木陰でハルヒは不貞腐れて横になっていたっけ。





 その木で、古泉が首を吊って死んでいた。



 ―――潔いのだけが取り柄でして

 いつかのオセロの時の古泉の言葉を思い出す。
 鬱血し、醜く歪んだその顔は、しかし俺には穏やかな寝顔のようにも見えた。


512 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:40:10.72 ID:qy72oAV60 [9/17]
「バッカ野郎……」

 俺はその場に立ち尽くしていた。
 拳を血が出るほど握り締める。
 自分の無力さに心底嫌気が差した。
 だが、そこで俺は一つの希望を掴み取る。
 その無力感に、俺はひどい既視感(デジャビュ)を感じていたのだ。
 この頭が朦朧とするほどの既視感には覚えがある。
 エンドレスエイト。繰り返されていた夏休み。

 そう、古泉が崩壊してしまった理由が、本当にハルヒが俺の部屋から出てきたことにあるのなら。
 きっと古泉にハルヒは殺せない。
 そしてハルヒが生きているのなら。
 あいつが、こんな夏の終わりを認めるわけがない。

「待っていろ古泉。そしてみんな……」

 俺は目の前で揺れる古泉の死体をしっかりと睨みつける。
 この光景を胸に刻み付けるために。
 この後悔を決して忘れてしまわぬように。




「絶対に俺がハッピーエンドまで連れて行ってやる。そのためなら、たとえ15498回だろうが喜んで繰り返してやるさ」



   <終>


516 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:43:42.50 ID:qy72oAV60 [10/17]
 夏が終わり、窓から吹き込む涼やかな風が俺の肌を心地よく通り過ぎていく。
 何回目のチャレンジの末かはわからないが、俺たちはあの冬のペンションを何とか無事に脱出した。
 いや、無事に、というと語弊があるか。
 実は俺、右腕にでっかいギブスを付けて病院に入院しているのである。
 どういう経緯を経てこんなことになってしまったかは冗長になるので説明しない。
 ここは『かまいたちの夜』の原作を知っている人だけにニヤリとしていただきたい。

「はい、あーん」

 俺の口元にウサギ型にカットされたりんごがずずい、と押し出されてくる。

「いや、だからよ……」

 俺は少し辟易しながら言った。

「左手でもフォークは使えるんだからさ、お前は皿のほう持っててくれたらそれでいいんだよハルヒ」

「なによ、アンタ何様? この私をただのテーブル扱いしようって訳?」

 俺の言葉に、見舞いに来てくれたハルヒはいたくご立腹のようだった。


521 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:47:28.01 ID:qy72oAV60 [11/17]
「いやお前、だったらこの今のこの扱いには満足だっていうのかよ?」

 いわばお前は今全自動りんご食べさせ機と化してしまっているんだぜ?
 テーブル扱いの方がなんぼかマシだろうと思うんだが。

「は、はぁ…? ま、満足なんて……」

 ハルヒの顔が真っ赤になった。
 なんだ? 心なしか頭から湯気まで立ち昇っている気がする。

「ちょ、調子に乗るな! バカキョン!!」

「ぐああ!」

 ハルヒは突然激昂すると持っていたりんごをフォークごと投げつけてきた。
 くそ。そんなに腹を立てるならやらなきゃいいだろ。

「まあ『はい、あーん』なんて完全に恋人さん扱いですもんねぇ」

「み・く・る・ちゃん!!」

「ひゃわぁ~! ご、ごめんなさぁ~い!」

 ん? 良く聞こえなかったが朝比奈さんがハルヒの逆鱗に触れてしまったらしい。

「おい、古泉。ハルヒを止めろ」

「なーに。あれはただの照れ隠しです。じきに収まりますよ」

 そう言って古泉は微笑ましげにハルヒと朝比奈さんのやりとりを見つめていた。

524 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:50:49.62 ID:qy72oAV60 [12/17]
 もちろん、ハルヒが一人で俺の見舞いになんて来るわけも無く、今日はSOS団総出で俺の病室を訪れてくれた次第である。
 喋りこそしないが、長門もちゃんといる。
 窓辺にパイプ椅子を置いて、じっと本を読んでいるのだ。
 まあ、ほら、来てくれただけでありがたいってことでさ。別に寂しくなんかないぞ?

「やっほー! キョン君元気ー?」

 鶴屋さんが片手を揚々と上げながら入室してきた。

「ええ、調子いいですよ」

「あは! そりゃ良かったにょろ!」

「ふん、調子はどうだ?」

「お見舞いに来ました」

 鶴屋さんの直後になんと生徒会長と喜緑さんまでやってきた。
 なんとも珍しいことだが、素直に嬉しいものである。

「な! なんでアンタがくるのよ!」

「同校の生徒の見舞いに生徒会長が来ることに、何の問題がある」

 早速ハルヒと会長がやりあい始めた。
 喜緑さんのほうを見ると、思ったとおり、ニコニコしてそのやり取りを見つめていた。


526 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:54:26.35 ID:qy72oAV60 [13/17]
「どうもこんにちは」

「あらあら、すごい人だかりですね」

 新川さんと森さんまで現れた。
 なんだなんだ? たかが骨折のお見舞いなのに、随分と大げさなことになってないか?
 まあ、嬉しいからいいんだけども。
 新川さんと森さんが俺のほうに歩み寄ってくる。
 森さんが目配せすると、新川さんが恭しくメロンを差し出してきた。

「いやいや! こんな高級オーラ滲み出るメロンなんてもらえませんよ!」

「ご心配なく。職場の経費で落としてますから」

 そっか! ならいっか! いや、いいのか!?

「ようキョン! 調子はどう――ってなんじゃこの人数は!!」

「すごーい。キョン君人気者なのねー」

 谷口と阪中までやってきて、もう病室はしっちゃかめっちゃかだ。
 古泉の計らいで個室にしてもらっといてよかったよホントにもう。


527 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:58:08.44 ID:qy72oAV60 [14/17]
 ハルヒがパイプ椅子の上に飛び乗り、仁王立ちを始めた。

「ふん! よくもまあ我がSOS団の雑用係のためにここまで雁首揃えたものだわ!
 ここで集まった皆に歓待のひとつも出来ないようじゃSOS団の名折れ! みんな! 宴会を始めるわよー!!」

「お前はここが病院だとわかってるのかバカタレ!!」

皆「「「おおー!!!!」」」

「ええ嘘ぉ!? 何で皆乗り気なの!?」

 もういい、止めるのは諦めた。
 ハルヒの隣に鶴屋さんが立ち、森さんや新川さん達『機関』が完全にサポートに回るとすれば、俺なんぞがその進軍を止めるなど土台無理な話である。

「まあ、たまにはこういうのもいいじゃないですか」

 やれやれと肩を竦める俺に、古泉が声をかけてきた。


528 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 00:59:54.70 ID:qy72oAV60 [15/17]
「たまにならな。あの馬鹿といるとこんなのがしょっちゅうだ」

「はは。それは確かにそうですが」

「なあ古泉。お前の家ってどの辺にあんの?」

「……どうしたんです? 突然」

「いや、今度お前の家に泊まりにでも行こうかなーって思って」

「……え? えぇ? いや、どうしてまたそんなことを」

「どうしてってお前、そんなもん」



 ―――友達だからに、決まってるだろ。



 いつものおすまし面を崩して、あたふたとなる古泉。
 本気で狼狽する古泉の様子がおかしくて、俺は腹を抱えて笑った。


530 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 01:03:25.87 ID:qy72oAV60 [16/17]
「よ、国木田」

 『国木田家之墓』と刻み込まれた墓石に俺は声をかける。
 あれからしばらくの時が経ち、ようやく病院から退院した俺は、国木田の墓参りに来ていた。

「遅くなっちまったけどな。感想を伝えに来たぜ」

 俺は国木田に見せ付けるように、『かまいたちの夜』とパッケージに書かれたゲームソフトを手に持った。
 長門曰く、あのペンションでの出来事は、俺以外誰も覚えていないらしい。
 それでいいと俺は思う。
 惨劇を乗り越えて、これからも俺たちは変わらず日々を過ごしていく。
 いや、少しは変わっていくのかもしれないな。
 変わったことの筆頭として、朝倉も戻ってきちゃったし。
 ま、それもいいさ。
 変わっていくことも受け入れて、俺たちは生きていこう。
 あとは約束を果たしてこの物語はお仕舞だ。
 俺が国木田にどんな感想を伝えるのか、そこは皆様のご想像にお任せするぜ。


 なぁに―――俺の抱いた感想は、こんなクソ長い俺の独白に付き合ってくれた皆が今抱いている気持ちと、きっとそうは変わらんさ。


「国木田」


「                                 」


             <完>


538 名前: ◆QKyDtVSKJoDf [] 投稿日:2010/10/04(月) 01:07:05.78 ID:qy72oAV60 [17/17]
終わったーー!!!!

まさか丸々24時間かかるとは思わんかったぜ

最後のキョンの感想は皆様のご想像にお任せします

流石に眠いので寝る ぐっない



コメント

凄かった

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。