FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

紬「唯ちゃんは水道水でいいわよね」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 21:57:46.88 ID:aIYpUpOL0
唯「えっ?」

紬「はい、どうぞ」

唯「えっ……えっ」

梓「……!?」

澪「……」

律「……」

唯「む、ムギちゃん……」

紬「なあに?」

唯「なんで私、お水……」

紬「唯ちゃんにはその方が良いかなって」

唯「え……」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:00:24.98 ID:aIYpUpOL0
梓「???」キョロキョロ

澪「……」

律「……」

唯「う……」

紬「いらないの? 唯ちゃん」

唯「……っ、…………」ごくっ

梓「……!」

唯「……」ごくごくごく

梓「……」

澪「……」

律「……」

紬「……」

唯「…………」ぐすっ

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:07:04.56 ID:aIYpUpOL0
いつものティータイム、
唯にだけ水道水の入ったコップが差し出された。
それがさも当然であるかのように。

唯は驚き、そしてショックを受けた。
まさか自分がこのような扱いを受けるとは思わなかったからだ。
水道水のコップを差し出された瞬間、唯は頭が真っ白になった。
紬に対してどういうことなのかを問いただしてみようとしたが、
うまく言葉が出てこなかった。
結局唯は水道水を飲んだ。
屈辱感と疎外感を味わいながら。
そして飲み干した後、
溢れてくる涙を必死に抑えようとした。

梓は唯に水道水が出されたことに驚いた。
この部活でいじめが起こってしまったのか、
なぜ澪と律は何食わぬ顔で座っているのか。
様々な疑問が頭の中を駆け巡った。
紬を糾弾したい気持ちもあったが、
唯が水道水を飲み始めたのを見て
何も言えなくなってしまった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:09:36.12 ID:aIYpUpOL0
唯「……」

梓「っ……」

紬「……」

律「……」

澪「練習しようか」

紬「そうね」

律「ああ」

梓「えっ……、……はい」

唯「……」

梓「ゆ、唯せんぱ……」

唯「へへ……」

梓「……」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:15:34.20 ID:aIYpUpOL0
澪の一言で練習が始まることになった。

他の部員がいつにも増して淡々と
練習の準備を始める中で、
みんなから遅れて立ち上がった唯に
梓は言葉をかけようとした。
しかし唯の想像以上に悲痛そうな顔を見て、
言葉は引っ込んでしまった。

唯は何も考えられなかった。
早くこの場から消えてしまいたかった。
ここからいなくなれば、
今日のこと出来事を忘れてしまえる。
夢だったと思い込むことができる。
ただの現実逃避に過ぎないが、
自分の存在が拒まれているこの空間にいることは
唯の精神が耐えられなかった。
梓が心配そうな顔で話しかけてきたとき、
唯は梓が何を言おうとしているのか悟っていた。
心配をかけまいと愛想笑いを作ったが、
それが余計に自分の顔を悲しく見せていることに
唯は気がつかなかった。

練習は散々だった。
唯はギターをまともに弾くことができなかった。
澪たちは唯を注意しなかった。
ただ「もう一度やろう」と言うだけだった。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:18:27.25 ID:aIYpUpOL0
2日目。

紬「澪ちゃんは水道水でいいわよね」

澪「!!」

律「……」

唯「……」ほっ

梓「????」

澪「え……」ちらり

唯「……」

澪「ああ……」

律「……」

梓「……?」

紬「……」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:26:30.95 ID:aIYpUpOL0
今日は澪の前に水道水のコップが置かれた。

澪は昨日の唯ほどにショックを受けはしなかった。
ああこういうシステムなのか、と一人で納得した。
昨日、唯が水道水を出された際、
澪は紬に対してどういうことだと尋ねようとしたが、
部室の異様な雰囲気に飲まれて
言い出せないでいたのだった。
それを澪は後悔していたが、
イジメでもなんでもなく、
ただの紬のいたずらだったのだと分かった今、
昨日は黙っていて正解だった……と
自分の気の弱さを正当化した。

唯は心の底からホッとしていた。
自分がいじめられているわけではなかったのだ。
紬がただいたずらをしているだけだった。
昨夜の食事が喉を通らなかったこと、
部室に来ようかずっと考えて胃を痛めたことを
我ながら馬鹿らしいと思った。

梓もひそかに安心していた。
自分の知らぬうちにイジメなどが発生していれば、
この部活の居心地が悪くなってしまうだけだ。
たわいもないいたずらなら、なんてことはない。
しかし、梓は昨日の唯の表情を忘れられなかった。
いたずらにしては悪意がありすぎる、
紬に対して注意しなければならない。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:31:32.17 ID:aIYpUpOL0
注意しなければならない、
と思ったがこうして全ての部員が
これはただの紬のいたずらで、
順番に水道水が回っていくシステムだと理解したであろう今日、
注意するタイミングとしてはまったくズレてしまっている。
紬に対して注意するとしたら昨日の時点で、
唯がショックを受けて涙目になっている時点ですべきだったのだ。
そこで注意をしていたならば、
紬のやったことがただの遊び、いたずらであっても、
唯を材料にして紬のやったことは悪いことだと
糾弾することができたのに。
梓は自分のタイミングの悪さが嫌になり、
同時に唯にたいして申し訳ない気持ちを抱いた。

ティータイムの後、練習が始まった。
今日はみんないつもどおりの演奏をしていた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:38:01.34 ID:aIYpUpOL0
3日目。

紬「りっちゃんは水道水でいいわよね」

律「おう」

唯「……」

澪「……」

梓「……」

もうみんなは完全に慣れてしまっていた。
律は水道水を受け取るのが楽しいと感じていた。
最初唯に水道水を出されたときは変だと思ったが、
こういう遊びなんだと理解すれば悪いものでもない、
むしろ楽しい。

もっとも律はこれが何かの遊びなのだと
初日から気づいていた。
なんだか部室の雰囲気がいつもより重かったし、
心なしかみんなの動作が淡々としているように見えたからだ。
部長たる律はそれを異様に思ったが、
とりあえず空気を読んでみんなに合わせておくことにした。
唯に水道水が出された時も、みんなの反応をうかがって
黙っておくのが正解だと考え、そうしていたのだ。

その日の練習もいつもどおりに終わった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:42:14.09 ID:aIYpUpOL0
4日目。

紬「私は水道水でいいわ」

唯「うん」

澪「……」

律「……」

梓「……?」

梓は気づいていた。
ここ最近、軽音部の空気が重い、ということに。
澪はともかくとして、
ムードメーカーの律が黙り込んでいるというのは異常だ。
いつもなら、自分からみんなを盛り上げてくれるのに。
よくよく考えてみれば、律以外の部員は
自分から雰囲気を盛り上げるということをしない。
澪はツッコミ役、イジラレ役だし、紬は完全に聞き手だ。
唯は……性格は明るいが、あまり積極的な方ではない。

とにかくこんな空気は嫌だ、と梓は思った。

その日の練習もいつもどおりに終わった。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:44:34.34 ID:aIYpUpOL0
5日目。

紬「唯ちゃんは水道水でいいわよね」

唯「へっ?」

梓「!!……」

澪「……?」

律「……」

唯「え。なんでわt」

紬「唯ちゃんにはその方が良いかなって」

唯「え、でも」ちらっ

梓「……」

唯「え……」

紬「早く飲まないと、ぬるくなっちゃうわよ」

唯「…………うん……」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 22:52:17.07 ID:aIYpUpOL0
梓は期待していた。
自分の前に水道水の入ったコップが置かれることに。
しかし紬の手は梓を素通りし、
唯の前にコップを置いたのだ。
その時、梓はすべてを理解した。
これは唯に対するイジメでも、
紬の変なイタズラなんかでもない、
明確に、自分だけに対して、
悪意が向けられているのだと。
それを悟った瞬間、
梓の心臓の鼓動は異様なほどに早くなった。
全身の毛穴から嫌な汗が吹き出してくるようだった。
え、どうして。なぜ、私が。なぜ、紬は。
そんな問い掛けを自分の中で繰り返してみても、
答えは一向に見つからなかった。

唯は不思議に思った。
今日は梓が水道水を飲む番ではないかと。
しかし紬は唯の前に水道水を置いたのだ。
唯は、紬に「今日は梓の番だ」と言おうとした。
しかしそれをすぐにやめた。
水道水なんて誰も飲みたくないもので、
それを後輩に押し付けるようなことは、したくなかったからだ。
唯は紬が自身の記憶違いを思い出してくれることに期待しつつ、
水道水を口に含んだ。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:00:30.27 ID:aIYpUpOL0
澪は理解した。
これはイジメなのだ。
紬の、梓に対する、イジメだ。
まずは唯を犠牲にし、
唯に対するイジメなのだと梓に印象付ける。
しかし水道水を順番に回していくことで、
これがただの遊びであるのだと思わせ、
そして自分に水道水が回ってくることを期待させる。
ここがミソだ。
そう、「期待」してしまうのだ。
飲みたくもない水道水が、自分にも回ってくることを。

しかしその期待は容易に打ち破られる。
水道水は、梓には回ってこないのだ。
ここで初めて、梓はこれが自分へのイジメだと理解する。
期待していたぶんだけ、
「水道水の輪に入れる」と思っていたぶんだけ、
ダメージも大きいのだ。

そして梓は紬に反抗することはできない。
「誰も飲みたくない」はずの水道水が
自分に回ってこないということは、
本当ならば喜ぶべきことなのだから。
それを無視して紬に「なぜ私にだけ水道水が来ないのか」
と反抗すれば、後はどうなるか簡単に想像が付く。
梓にだけ、毎日、水道水が出されることになるのだ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:07:55.65 ID:aIYpUpOL0
反抗の余地はない。
いや、反抗すれば悪い方に進んでしまう。
梓は甘んじて、この状況を受け入れるしかない……。
澪は感心した。
よくもまあこんなことを思いついたものだ、と。
同時に安心した。
このイジメの標的が、自分でなくて良かった、と。

しかしこれはイジメなのだろうか?
と澪は思った。
イジメというのは、集団で一人を攻撃することだ。
しかしこれは今のところ、紬と梓の1vs1でしかない。
……いや、本当に1vs1なのか。
もしかしたら自分以外の全員が、
梓イジメに加担しているのではないか……。
考えれば考えるほど、
澪の思考はこんがらがっていった。

とにかく、こんなことはやめさせなければいけない。
しかし、もし紬に注意したとしたら、
今度は自分に対してイジメが行われるのではないか……
そう考えると、澪は行動を取ることができなかった。

その日の練習は、梓が散々な演奏をして終わった。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:13:21.50 ID:aIYpUpOL0
練習後。

唯「あずにゃん、今日の演奏いまいちだったけど、どうしたの?
  体調でも悪い? そういえばなんか顔色良くないような」

梓「いえっ……な……なんでも、ないです」ささっ

唯「ありゃ、帰っちゃった」

紬「……」

律「……」

澪「……」

紬「じゃあ、私も、帰るわね」

唯「うん、ばいばい」

紬「また明日」ガチャバタン

澪「……」

律「……」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:18:46.69 ID:aIYpUpOL0
イジメの的になったことを知って、
精神に深くダメージを負ってしまった梓。
みんながイジメに加担しているのではないかと
疑心暗鬼に陥ってしまっている澪。
空気が重いのを読み取って、
騒ぐのを自重している律。
いつも通りの静かな紬。

音楽室全体が沈鬱な雰囲気になっている中で、
唯だけがいつものように振舞っていた。

唯「澪ちゃん、りっちゃん、一緒に帰ろ」

律「ん、ああ」

澪「おう……」

3人は明かりを消し、
戸締まりをして、音楽室を後にした。

律は「用事がある」と言って
校門を出たところで
いつもとは違う道へと行ってしまった。

唯と澪が一緒に帰ることになった。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:22:28.39 ID:aIYpUpOL0
唯「最近寒いねえ」

澪「ん、ああ……」

唯「地球温暖化はどうしたんだろうね」

澪「温暖化しようと冬は寒いんじゃない?」

唯「そういうもんかな」

澪「そうだよ、多分……」

唯「どうすれば冬は暖かくなるのかな」

澪「どうにもならないと思うけど」

唯「そっか」

澪「うん」

唯「……」

澪「……」

何気ない会話。
しかし澪には唯に探りを入れられている気がして、
ぎこちない受け答えになってしまっている。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:25:29.16 ID:aIYpUpOL0
唯「そういえばさ」

澪「?」

唯「最近のムギちゃん、なんか変だよね」

澪「!」

唯「水道水とか出してきたりさ」

澪「え、ああ」

唯「あれ最初やられたときはびっくりしたよー、
  なんかイジメなんじゃないかって思っちゃった」

澪「はは、いきなりだったからな……」

唯「もー、笑い事じゃないよ。
  あ、そうだ、今日あずにゃんの番だったのに、
  飛ばされちゃってたよね」

澪「ん? あ、ああ、そうだったな」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:30:01.01 ID:aIYpUpOL0
唯「ムギちゃんもうっかりさんだね、
  あずにゃんの番を忘れちゃうなんてさ」

澪「忘れ……?」

唯「うん、あずにゃんの番を忘れて
  私のとこに来たからさー、
  ムギちゃんにそれを言おうと思ったんだけど」

澪「うん……」

唯「でもやめといたんだ、
  水道水を押し付けるみたいだったからさ。
  誰も飲みたくないよねえ、水道水なんて」

澪「……ああ、そうだね」

唯「それにしても、なんでムギちゃんは
  いきなりこんなこと始めたんだろうねえ」

澪「さ、さあな……」

唯「なんか意味があるのかなあ。
  明日、ムギちゃんに聞いてみるよ」

澪「えっ……い、うん」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:38:33.83 ID:aIYpUpOL0
澪は唯の言葉を聞いて、
自分の考えを見直してみた。

勝手にイジメだと決めつけていたが、
紬がただ梓の番を忘れていただけなのかも知れない。
もしそうならば、水道水回しとは
梓に対するイジメではなく、
ただの紬のいたずらだということになり、
部のみんなが梓イジメに加担しているという疑惑も消え去る。

しかしこれはあくまで仮説に過ぎない。
紬の真意がはっきりしない以上、
簡単に結論を出してしまうのは危険であろう。
まずは紬がなぜ水道水回しを始めたかを
突き止めねばなるまい。
唯が「明日紬に尋ねる」と言っていたので、
その答えを聞けば分かるだろう。

まあそれはともかくとして、
澪は、少なくとも唯はイジメに
加担していないと感じていた。
100%唯のことを信じているわけではないが、
どうもこの唯が誰かに敵意をもつということは
澪には考えられなかった。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:42:16.90 ID:aIYpUpOL0
6日目。
朝の教室。

ガラッ
唯「おはよー」

律「おーっす」

唯「ムギちゃんまだ来てない?」

律「そのうち来るだろ」

ガラッ
紬「……」

唯「あ、おはよう、ムギちゃん」

律「おっす」

紬「あら、おはよう。
  ……」

唯「……」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:46:14.56 ID:aIYpUpOL0
紬「どうしたの、唯ちゃん」

唯「ん、えーっと……
  ムギちゃんさあ、最近お茶のときに、
  水道水、出すよね。あれなんで?」

律「あー、それ私も気になってたー」

紬「な、何で、って……それは……」

律「勿体ぶらずに教えろよー、
  なんか理由があってあんなことやったんだろ?」

唯「りっちゃん、興味津々だね。
  部活の時はスルーしてたのに」

律「いやあ、部活の時は
  なんか言い出しにくい空気だったからさあ。
  で、どうなんだ、ムギ」

紬「い、言えないわよ」

唯「えー、言ってよー」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/10(水) 23:52:51.57 ID:aIYpUpOL0
紬「……」

律「誰かに口止めされてるとか?」

紬「……」

唯「誰にも言わないから言ってよーねーねー」

紬「でも……」

律「言ってくれ、頼む」

唯「気になって夜も眠れないよ」

紬「う、うん……じゃあ、言うわ」

唯「うんうん」

紬「実はね」

律「うん」

紬「梓ちゃんにやれって言われてたの」

唯「へ」

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:03:29.64 ID:NgF42KrC0
それから紬は「誰にも言わないで」と念を押した後、
何を聞いても答えなくなってしまった。

唯は不本意ながらも納得した。
梓がこんなことを命じているなど、
信じたくはなかった。
しかし、梓が首謀者だとすれば、納得はいく。
梓は忘れられたのではなく、
自分が首謀者だから、
紬に自身の番を飛ばさせたのだ。
4人の先輩が水道水をすすっているのを見て、
心の中ではニヤニヤと笑っていたのだろう。
いや、こんなことを考えてはいけない、
可愛い後輩のことを悪く思ってはいけない、
唯は必死に自分自身にそう言い聞かせたが、
想像に浮かんだ梓の「裏の顔」が消えることはなかった。

律はさほど驚かなかった。
まあ紬自身からこんなことをやり始めるはずはないし、
誰かから強制されてのことだろう……と考えていた。
とすれば、後は誰がやったかは簡単に想像が付く。
律は水道水回しを楽しんでいたし、
特に自分にデメリットはないので、
まあ面白ければ良いか、と考えていた。

唯はその日、一日中いやな気分で過ごした。
そして放課後、梓に真意を確かめるべく、
音楽室へと向かった。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:10:25.39 ID:NgF42KrC0
音楽室。

ガチャ
唯「……やあ」

澪「おう」

唯「澪ちゃんだけ?」

澪「うん」

唯「あ、そう……」

澪「……ムギに聞いた?」

唯「うん」

澪「で、なんだって?」

唯「あずにゃんがやらせてたんだって。
  昨日飛ばされたのも、
  忘れられてたんじゃなくて
  あずにゃんが主犯だったからだよ」

澪「え?」

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:15:57.37 ID:NgF42KrC0
失敗した

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:19:54.68 ID:NgF42KrC0
>>134以降はなかったことに

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:22:24.90 ID:NgF42KrC0
紬「……」

律「誰かに口止めされてるとか?」

紬「……」

唯「誰にも言わないから言ってよーねーねー」

紬「でも……」

律「言ってくれ、頼む」

唯「気になって夜も眠れないよ」

紬「う、うん……じゃあ、言うわ」

唯「うんうん」

紬「実はね」

律「うん」

紬「澪ちゃんにやれって言われてたの」

唯「へ」


196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:28:09.30 ID:NgF42KrC0
それから紬は「誰にも言わないで」と念を押した後、
何を聞いても答えなくなってしまった。

唯には信じられなかった。
なぜ澪がそんなことを?
どうして楽しいティータイムに、
文字通り水をさすようなことをするのか……
とそこまで考えて、
唯はある仮説に行き当たった。
澪はティータイムをやめさせようとしているのではないか。
ティータイムをなくして練習に集中するために、
こんなことをしてティータイムをする気を
削ごうとしているのではないだろうか。
でも何故こんな回りくどいことをしなければならない。
こんなことをする必要が、どこにある。
そもそもこれは、真実なのだろうか。
疑惑の念は、澪だけでなく、紬にも向けられた。

律はさほど驚かなかった。
まあ紬自身からこんなことをやり始めるはずはないし、
誰かから強制されてのことだろう……と考えていた。
とすれば、後は誰がやったかは簡単に想像が付く。
律は水道水回しを楽しんでいたし、
特に自分にデメリットはないので、
まあ面白ければ良いか、と考えていた。

唯はその日、一日中いやな気分で過ごした。
そして放課後、澪に真意を確かめるべく、
音楽室へと向かった。

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:31:34.90 ID:NgF42KrC0
一方、澪のクラス。

和「ごめん澪、昼休みは生徒会があって……
  お昼ごはん一緒に食べられないのよ」

澪「あ、そうなんだ……」

クラスメイト「ざわざわざわざわ」

澪「……」

クラスメイト「ざわざわざわざわ」

澪「……」

クラスメイト「ざわざわざわざわ」

澪「食堂行こ」

澪「……」

澪「……」

澪「……」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:34:18.13 ID:NgF42KrC0
食堂。

紬「あら」

澪「あ、ムギ。
  珍しいな、学食にいるなんて」

紬「飲み物を買おうと思って」

澪「ふうん……、……」

紬「どうしたの?」

澪「あ、いや……
  ……ちょっと、いいか?」

紬「なに?」

澪「その、部活でのことなんだけどさあ。
  お茶の時間に、水道水出してるけど、
  あれ、なんなのかなーって思って」

紬「……」

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:38:18.27 ID:NgF42KrC0
澪「なんか、理由があって……」

紬「……」

澪「やってんの……」

紬「……」

澪「かなー……と」

紬「……私だって……
  やりたくてやっているわけじゃないわ」

澪「えっ……
  それはどういう」

紬「……」

澪「誰かにやらされてるのか?」

紬「……」こくん

澪「……だ、誰に……?」

紬「梓ちゃん」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:44:30.50 ID:NgF42KrC0
それから紬は「誰にも言わないで」と念を押した後、
何を聞いても答えなくなってしまった。

澪はもうワケが分からなかった。
水道水回しはてっきり梓に対する
遠まわしなイジメだとばかり思っていた。
しかし唯の話を聞いて、
これは紬のイタズラにしかすぎず、
梓が飛ばされたのは
ただ紬が忘れていただけなのではないか、
という仮説も生まれた。
しかし今、紬の口からはっきりと
「梓に命令された」という言葉が出てきた。
なぜ梓が、こんな意味不明なことをさせるのだ。
何か意味があって、やっているのか。
なんのために、なにを考えて?
だが梓が主犯だとすれば、
納得できることがひとつだけある。
梓が飛ばされた理由だ。
梓はいじめられたのでも
忘れられたのでもなく、
自分が首謀者だから、
紬に自身の番を飛ばさせたのだ。
4人の先輩が水道水をすすっているのを見て、
心の中ではニヤニヤと笑っていたのだろう。
いや、こんなことを考えてはいけない、
可愛い後輩のことを悪く思ってはいけない、
澪は必死に自分自身にそう言い聞かせたが、
想像に浮かんだ梓の「裏の顔」が消えることはなかった。

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:50:39.36 ID:NgF42KrC0
放課後、音楽室。

ガチャ
唯「……やあ」

澪「おう」

唯「澪ちゃんだけ?」

澪「うん」

唯「あ、そう……」

澪「……」

唯「……」

澪「……ムギに聞いた?」

唯「えっ……な、何を?」

澪「昨日言ってただろ、
  お茶の時間に水道水出す理由を聞くって」

唯「あ、うん……そ、そうだったね」

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 00:55:41.55 ID:NgF42KrC0
澪「私、昼休みにムギに会ってさ。聞いたんだ」

唯「えっ?」

澪「梓があれをやるように命令してたんだって」

唯「はっ?」

澪「信じられない気持ちは分かるよ、
  私だって完全に信じたわけじゃない」

唯「……」

澪「でもムギは確かにそう言ったんだ。
  この発言が本当のことかはどうか分からないけど……
  こういうのもなんだけど、
  ムギってちょっとワケ分かんないとこあるよな」

唯「え……そ、そだね……」

澪「ほんとに梓なのかなあ。
  唯はどう思う?」

唯「う、うーん……
  決めつけちゃうのもアレだと思うよ……」

澪「まあそれはそうだけどさ」

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:05:43.22 ID:NgF42KrC0
唯は混乱した。
今朝、紬は澪が命令犯だと言った。
しかし澪によると、
紬は梓に命じられてやっているらしい。
何が嘘で、何が真実なのか。
紬の言うことがすべて真実とも限らないし、
澪の発言もまた然り……
理論的にはそう理解しているものの、
人間の感情とは不思議なもので。
澪の方から積極的に
「梓が命令犯」という話をふられたことが、
唯にとっては澪が自分の罪を
梓になすりつけているように見えてしまうのだった。
だがそれすらも完全に信じきっているわけではない。
では、本当に梓が命令犯なのか?
澪は?
紬は怪しくないのか……?
軽音部の中の誰かが命令犯だとして、
なんのためにこんなことをさせているのか?
考えても考えても頭がこんがらがるばかりだった。

唯は、
紬から「澪が命令犯」と聞いたことは
黙っておくことにした。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:12:55.75 ID:NgF42KrC0
唯「……」

澪「ムギの言うことも、
  手放しには信用できないしなあ」

唯「……」

澪「梓が犯人ってのも、あり得る気がするんだよな」

唯「……」

澪「なあ、唯は……」

唯「もうやめてよ!」

澪「!?」

唯「友達同士で疑い合うなんて、良くないよ……」

澪「あ……そ、そうだな、ごめん」

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:18:15.37 ID:NgF42KrC0
唯「ムギちゃんにはっきり言おうよ、
  水道水出すのはもうやめて、ってさ。
  これがすべての元凶でしょ?」

澪「まあ確かにそうだけど」

唯「それで、ムギちゃんが誰かに言われて
  水道水を出してたって言うんなら、
  それもちゃんと説明してもらおうよ。
  なんで命令されてたのか、
  なんの目的でやってたのか……」

澪「そうだな……
  とにかく全てをはっきりさせなきゃ、
  無駄に仲間を疑うだけだもんな……」

唯「うん、そうだよ」

澪「ああ、分かったよ、唯」

そうしているうちに、
律と紬がやってきた。
梓は来なかった。

そして、ティータイムが始まった。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:29:16.76 ID:NgF42KrC0
紬「はい、どうぞ」

唯「あ……うん」

紬「どうぞ」

澪「……? うん」

紬「どうぞ」

律「サンキュー」

紬「じゃあ、いただきましょうか」

唯「え」

澪「う、うん」

律「……おう」

紬「♪」

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:35:47.51 ID:NgF42KrC0
この日、水道水は出されなかった。

唯は迷った。
今日このタイミングで水道水を出すのをやめられると、
紬に対してやめるように言えなくなってしまう。
いや、やめてもらえるのなら、
それはそれで構わないのだが、
なぜこんなことをしていたのか、
何のためにやっていかのか、
ということまでも聞けなくなる。
今聞けないこともないが、
わざわざやめてもらえたのに
今さら蒸し返すこともないだろうか?
聞くべきか聞くまいか、
唯は悩んだ。
どうにも唯は、
この手の空気を読むことが苦手だった。

澪は梓犯人説を完全に否定できなくなった。
梓が不在のこの日、
紬は水道水を出さなかったからだ。
しかし梓への疑いが増していくと同時に、
紬への疑いもまた増していくのだった。
紬が梓を犯人に仕立て上げようとしている?
でも、なんのために?

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:41:38.92 ID:NgF42KrC0
そう、「なんのために」。
それが一番の問題だった。
梓が命令したにしろ、
紬が一人でやったことにしろ、
「理由は何か」と問われれば
答えに詰まってしまうのだ。

紅茶の代わりに水道水を順番に回していく。
この行為には、
果たしてどんな意味が込められているのか。
それが分からない。
どれだけ考えても、考えても、
さっぱり理解出来ない。

今のところ、
紬が梓をいじめるため、
というのが最も納得できる理由だ。
梓に命令された、と言ったのも
おそらく梓を陥れるためのものだろう。
しかしこんな短絡的な結論に達して良いのだろうか。
まだ何か裏がある気がする。
澪にはそう思えてならなかった。

軽音部の部員たちは、
疑心暗鬼の渦に飲み込まれていた。

律を除いて。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:46:41.39 ID:NgF42KrC0
律「なあムギ、水道水出すのやめたの?」

唯「!!!」

澪「!?」

紬「ええ、今日は」

律「ふーん。ていうか何で
  水道水なんか出してたんだ?
  面白かったから良いけどさあ」

紬「……」

律「だんまりかよー。
  そうだ、澪が命令してたんだろ?
  いいかげん何でやってたのか白状しろよ」

澪「はっ?」

律「はっ、って……
  え、澪がムギに水道水を出すよう言ってたんだろ」

澪「ち、違うよ、なんで私がそんな」

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:51:49.78 ID:NgF42KrC0
律「え、だってムギが……
  なあムギ」

紬「もう、言わないでって言ったでしょ、
  りっちゃんったら」

澪「えっ……ちょっとまてよ。
  私は何も言ってない、命令なんてしてないぞ!
  ムギ、いい加減なことを言うな!」

紬「ごまかすのはやめて、澪ちゃん。
  澪ちゃんが私に命令したんじゃない」

澪「んなわけないだろ、
  なんの理由で、私がこんな、
  わけのわかんないことを……!」

唯「そ、そうだよムギちゃん……
  澪ちゃんがやったって言うなら、
  理由を教えてよ……」

紬「……梓ちゃんを、いじめるため」

唯「!」

澪「お、お前……!」

288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 01:57:36.91 ID:NgF42KrC0
紬「……私は脅されてたの。
  それで、梓ちゃんをいじめるように言われて……
  水道水も澪ちゃんが考えたの。
  まずは唯ちゃんを犠牲にし、
  唯ちゃんに対するイジメなのだと梓ちゃんに印象付ける。
  しかし水道水を順番に回していくことで、
  これがただの遊びであるのだと思わせ、
  そして自分に水道水が回ってくることを期待させる。
  ここがミソだ。
  そう、『期待』してしま以下略」

律「そ、そんな凝ったイジメを……
  おい澪……」

澪「私じゃない!
  おいムギ、でたらめを言うんじゃない!!」

紬「でたらめなんかじゃないわ、
  全部澪ちゃんが言ったことじゃない」

澪「そんなわけないだろ!
  おい、唯……、……」

唯「……」

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 02:06:45.62 ID:NgF42KrC0
唯に助けを求めようとして、澪はハッとした。
さっき、澪は梓が犯人であると
唯に対して主張してしまっていたのだ。
今、唯はそのことについてどう思っているか。
言うまでもなく、
澪が梓に罪を擦り付けていたようにしか見えなかったろう。
はめられた。
すべては紬の策略だった。
本当の犯人は梓なんかじゃなく、
紬だったのだ。
軽音部の部員は、
紬の手のひらの上で踊らされていたのだった。
しかし、それに気がついたときは手遅れだった。
律にも唯にも疑われ、
澪はもう、八方塞がりだったのだ。

唯は冷静だった。
自分でも意外だった。
こんなとき、自分は真っ先に取り乱す方だと思っていた。
しかし、不思議と心は落ち着いていた。
落ち着いて、現状の把握に努めた。
澪は梓が犯人だと紬から聞いた。
紬は澪が犯人だと唯と律に言った。
今、澪は犯人扱いされている。
これはどういうことか、
澪が嘘をついているのか、
それとも紬が?

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 02:15:00.62 ID:NgF42KrC0
律「澪、そんな意地はらなくても……
  別に怒ってるわけじゃないんだからさあ。
  素直になってくれれば良いだけだから」

澪「わ、私じゃないっ!
  ムギが、ムギがハメようとしてるんだ、私を!
  梓をいじめたのも全部ムギの一存だ!
  それを全部私になすりつけて!
  私じゃない!」

律「お、落ち着けって……」

澪「わ、私じゃないっ……ぞ……ひぐっ」

律「分かった、分かったから」

紬「ふざけないで!」

唯「!」

澪「!?」

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 02:22:22.32 ID:NgF42KrC0
紬「罪をなすりつけようとしてるのは澪ちゃんの方じゃない……!
  澪ちゃんが全部私にやらせたくせに……
  直接手を下すのは私で、澪ちゃんは見てるだけで……
  私がどれだけつらかったか……!」

澪「なっ……バカなこと言うな!
  そっちが……!!」

紬「酷い、酷すぎるわ……澪ちゃん……
  ううっ……うああああああっ……」

律「む、ムギ……」

紬「うううええぅ……りっちゃあん……」

律「よしよし……」ちらり

澪「っ……!!
  もういい、今日は帰る!!」

鳴き始めた紬の背中をさする律。
その律に非難の混じった視線を向けられた澪は、
耐えられなくなって音楽室を飛び出した。

ムギが泣き止んだ後、今日の部活は解散となった。

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 02:23:17.50 ID:NgF42KrC0
おやすみ

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 12:50:23.74 ID:NgF42KrC0
少し時間は戻る。
音楽室から飛び出した澪は、
昇降口で梓と出会っていた。

澪「あ、梓……」

梓「!! ……」ささっ

澪「ま、待ってくれ梓!
  私は梓をいじめてなんかない!」

梓「……な、何を」

澪「というか私も被害者だ。
  全部ムギが企んだことだったんだよ」

梓「そ、そんなの……信じられません」

澪「梓……」

梓「みんなで私を仲間はずれにして、
  面白がってたんでしょ……
  あの水道水で……」

澪「ち、違うよ、だからそれはムギが……」

394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 12:56:36.61 ID:NgF42KrC0
梓「どうやって澪先輩のことを信じろって言うんです?」

澪「そ、それは……
  ……・」

梓「説明できないじゃないですか」

澪「わ、わかった……
  じゃあもう信じてくれなくて良い、
  とにかく私の話を聞いてくれ」

梓「……はい」

澪「あの水道水回しは、
  間違いなく梓をいじめるためのものだった」

梓「……」

澪「そしてその首謀者はムギだ。
  他にも仲間がいるかも知れないけど、
  ムギが首謀者なのは確実だ」

梓「どうしてそんなことを言い切れるんですか」

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:05:51.03 ID:NgF42KrC0
澪「唯と律、そして私はムギに聞いたんだ、
  なんで水道水回しをやってるのか、ってな。
  そしてムギは、唯と律に対しては『澪に命じられた』、
  私に対しては『梓に命じられた』と答えたんだ」

梓「私、そんなこと命令してません!」

澪「分かってるよ、それくらい。
  そして、ムギは梓イジメの罪を
  全部私になすりつけようとしたんだ。
  私はまんまとハメられてしまった」

梓「……」

澪「どう考えてもムギが主犯だ。
  問題は、律や唯もグルなのか……」

梓「……」

澪「……無理に信じようとしなくて良いから」

梓「信じはしませんけど……
  あ、いえ、いいです。信じます」

澪「え」

梓「もう失うものは何もありませんから」

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:17:35.02 ID:NgF42KrC0
梓は部室に行けなかった。
あれほどまでにはっきりとした拒絶を
他人から受けたのは梓にとって初めてだった。
昨夜は食事もまともに食べられず、
ベッドの中で何時間も泣いた。
水道水回しは梓の精神を深く傷つけたのだ。

今日学校に行くことさえも躊躇われたが、
何も事情を知らない親に怒られて
重い気分のままで登校した。
さいわい放課後まで軽音部員と会うことはなかった。
そして問題の部活だ。
梓は軽音部を辞めてしまおうと思った。
ただの逃げなのかも知れないが、
信じた人たちから悪意を向けられるのは、
梓にとって耐えられないことだったから。

梓は部室には行かずに帰ることにした。
そこで澪と出会ったのだ。
自分を拒む先輩の一人、澪。
澪の顔を見た瞬間、梓の体に鳥肌が立ち、
脚が勝手に逃げることを選んだ。

400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:29:46.22 ID:NgF42KrC0
しかし澪に呼び止められ、
澪は「信じなくて良いから」と前置きして話し始めた。
それが真実かどうかは分からなかった。
いや、それが真実かどうかなんて、どうでもよかった。
自分が軽音部から拒絶されているには
変わらないのだから。

だが梓は澪の話を信じることにした。
何も信じられないと割り切った上でなら、
むしろ信じられないことを信じてみるのも
別に悪くはないだろう。
心から相手を信頼するのではなく、
一歩引いたところで斜に構えていれば、
傷つけられることもあるまい。
それに、どうせ辞める部活だ。
自分が拒絶されている以上、
先輩たちとの人間関係において、
もう何も失うものはないのだ。
また自分が痛い目を見るようなことになりそうなら、
その時点で縁を切ればいいだけのこと。
それに、自分がイジメられた理由も、
知っておきたかった。

梓は澪に協力することにした。

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:36:19.70 ID:NgF42KrC0
梓「で、これからどうするんです?」

澪「うーん……
  まずは唯と律がムギとグルなのか確かめないとな」

梓「はあ」

澪「グルじゃなかったとしても、
  2人はムギの味方だろうけど」

梓「どういうことです?」

澪「さっきも言っただろ、ハメられたんだ。
  律と唯の中では、梓をいじめた犯人は
  私だってことになってると思う」

梓「つまり律先輩と唯先輩は、
  澪先輩と敵対状態にあるわけですか」

澪「そういうことになるな」

梓「じゃあ、澪先輩が2人に直接確かめるのは難しいでしょうね」

澪「そうだな」

梓「私がやりますよ」

407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:44:06.37 ID:NgF42KrC0
澪「え……いいのか?」

梓「はい」

澪「で、でも」

梓「いいんですよ。
  言ったでしょ、澪先輩を信じるって」

澪「あ……ありがとう、梓」

梓「いえ」

澪「とにかく、こんなことは絶対やめさせよう。
  みんなが疑いあって、つらい思いをするだけだ」

梓「はい。
  とりあえず明日にでも、
  唯先輩か律先輩に話を聞いてみます」

澪「うん、頼むよ」

409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 13:50:54.28 ID:NgF42KrC0
7日目。
昼休み、唯、律、紬の3人は昼食を摂っていた。

律「でさあ、昨日のテレビでさあ」

紬「あらあらうふふ」

唯「あーそれ私も見てたよ」もぐもぐ

律「あはは、あれ面白かったよなー」もぐもぐ

唯「うん、憂と一緒に笑い転げてた……
  あ、ちょっとごめん」
ヴーッ ヴーッ

紬「……」

唯「メール……」カパッ

律「……」

唯「! ……」カチカチ

律「……」

唯「……ちょっと憂に呼ばれたから、
  行ってくるね」

律「……おう」

411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:02:10.19 ID:NgF42KrC0
唯に届いたメールの送り主は梓だった。
『話したいことがあるので、
 体育館裏まで来て欲しい』という内容だった。
澪のことも紬のことも信じきってはいない唯にとって、
この件について梓と話せることは好都合だった。
今までとはまた違った視点からの意見を
取り入れることができるからだ。
それでまた混乱してしまうことになるかもしれないが、
何も分からないままで立ち止まっているよりはマシだ。
唯は体育館裏へと向かった。

律は唯に届いたメールの内容が、
だいたい想像できていた。
今朝、律も梓からのメールを
受け取っていたからだ。
しかし律は時間がなかったため、
梓の呼び出しに応じることはできなかった。
律はそれを少し反省したが、
今こうして唯が呼び出されたことで、
自分の代わりに唯が行ってくれるならそれでいいか、
と考えた。

414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:10:17.38 ID:NgF42KrC0
体育館裏。

唯「あずにゃん」

梓「あ……唯先輩。
  いきなり呼び出してすみません」

唯「ううん、いいんだよ別に。
  で、話っていうのは……」

梓「ムギ先輩の水道水についてなんですけど」

唯「ああ……それが、どうしたの?」

梓「……唯先輩は、どう思います?」

唯「最初は……びっくりしたよ。
  いきなり私の前に水道水が置かれたんだもんね。
  すごくショックだった」

梓「……はい」

唯「でも次の日になったら、
  水道水は澪ちゃんの前に行って、
  ああこれはただの遊びなんだって分かったよ」

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:20:07.02 ID:NgF42KrC0
梓「……」

唯「あずにゃんの番が飛ばされたのは、
  ムギちゃんが忘れてただけなんだって思った」

梓「……」

唯「でもそれは私の勘違いだったみたい。
  ムギちゃんはわざとあずにゃんを飛ばしたんだよ。
  あずにゃんを傷つけるために」

梓「それは誰かから聞いたことですか」

唯「ううん、でも今は、私はこうだって確信してる。
  実はあの翌日いろいろあってさ、
  全部澪ちゃんのせい、みたいな雰囲気になっちゃって」

梓「……」

唯「澪ちゃんは全部、ムギちゃんがハメたって主張してた。
  で、りっちゃんは完全にムギちゃんの味方になってる」

梓「……唯先輩は、どっちを信じるんです?」

422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:27:30.51 ID:NgF42KrC0
唯「……どっちも信じられないよ。
  何もはっきりしてないんだから」

梓「そうですか」

唯「澪ちゃんもムギちゃんも信じないけど、
  あずにゃんのことは信じるよ」

梓「え……」

唯「あずにゃんはこの件で、
  何一つ嘘っぽいことは言ってないもん」

梓「ありがとう……ございます」

唯「あずにゃん、安心して。
  すぐに真相を明らかにするから。
  こんな馬鹿みたいなこと、絶対やめさせてみせるから。
  またみんなで、楽しくバンドやろ」

梓「……はい」

その時、チャイムが鳴った。
唯と梓は、それぞれの教室に戻った。

438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:38:55.61 ID:NgF42KrC0
梓は今の唯の会話を反芻した。
唯の発言を言葉通りに受け取るとすれば、
澪の言っていたことは真実であるということになる。
ただし、「唯が紬の味方だ」という一点だけは違う。
これについては、澪のただの勘違いと考えていいだろう。
唯は本当は中立を保っており、
紬、澪のどちらにも味方はしていない。

しかしこれが罠で、最初から唯もみんなとグルだったら……
いや、それはないだろう。
水道水回しの初日、
梓は確かに唯のショックを受けた表情を見た。
あれは演技なんかじゃない、
唯は演技であんなつらそうな顔を出来る人ではない。
つまり唯は水道水回しのことを知らなかったのだ。
紬が唯を味方に取り込むつもりだったのなら、
事前に言っておくはずだろう。
唯をいたずらに傷つけてしまえば、
仲間になるものもならなくなってしまうからだ。

ともかく、唯が紬とグルであるという説は間違いで、
唯は中立を保っていると考えてもいいだろう。
いや、正確には完全な中立ではない。
唯は梓を信じる、と言った。
澪を信じる梓を信じたということは、
唯が澪の味方になったと同義だ。
あとは、律。

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 14:50:20.43 ID:NgF42KrC0
唯と澪の話によれば、
律は紬の味方になっているらしい。
最初からグルだったのか、
それとも雰囲気に流されて味方についたのかは
まだ定かではないが、
もし後者だった場合、
律をこちらに引き入れれば
紬を糾弾する体勢は整う。
前者ならば今の3vs2のままで
律と紬を糾弾すればいい。
とにかく、律の真意を確認することが最優先だ。

放課後、梓は教室で
澪に唯との会話の成果を報告した。

澪「ふうん、それなら唯はこっちの味方についたも同然だな」

梓「そうですね」

澪「こっちが3人になったのは心強いな。
  形勢逆転ってとこか」

梓「はい」

澪「これで律をこっちに引き込んでで、
  ムギを問い詰めれば……」

梓「……」

449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:01:56.75 ID:NgF42KrC0
澪「どうした?」

梓「いや、今ふと思ったんですけど」

澪「なんだ」

梓「唯先輩は、完全にこっちの味方になった……
  と言ってもいいんでしょうかね」

澪「どういうこと?」

梓「確かにこっち側に傾いてくれてはいるでしょうけど、
  結局のところ唯先輩は誰の味方でもないんですよ。
  唯先輩はあくまで中立を保っていますから、
  こっちを信じてくれるだけで、
  紬先輩を糾弾するための仲間としては……」

澪「攻撃には役に立たないってことか」

梓「そうです。
  まあでもこっちが有利なのには変わりませんけど、
  過信するのも禁物ですよ」

澪「そうだな……」

452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:12:05.71 ID:NgF42KrC0
梓「あ、そういえば律先輩にも話を聞こうと思ったんですが」

澪「聞けなかったのか」

梓「はい、メールで呼び出しても無視されました」

澪「そうか……ううむ」

梓「わざわざ無視する理由なんて、
  ありますかね」

澪「理由があるとすれば……
  ムギとグルだから……?」

梓「……まあ決めつけちゃうのもあれですけど」

澪「でもこれ以外には考えられないだろう」

梓「それはそうですけどね」

澪「とにかく、律がどうなのかが問題だ。
  ムギと初めからグルだったのか、
  ただ味方についてるだけなのか……
  どうやって確かめればいいだろう」

梓「……唯先輩に頼みましょう」

453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:18:34.38 ID:NgF42KrC0
音楽室。
唯、律、紬はすでに集まっていた。

律「……澪のやつ、今日来るかな」

唯「さあ……」

紬「……」

唯「……!」
ヴーッ ヴーッ

紬「……」

唯「……」カパッ

律「♪~」

唯「…………
  ……りっちゃん、ちょっと」

律「ん、なんだ?」

唯「ちょっと、来て」

律「お……おう」

454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:27:51.16 ID:NgF42KrC0
唯に届いたメールは言うまでもなく梓からのものだった。
『この件について、律先輩から考えを聞き出してください』
という内容であった。
唯はこの依頼を受け入れた。
律の考えは唯自身も知りたかったからだ。
そして唯は音楽室から律を連れ出した。

唯「……」

律「どしたんだよ、いきなり」

唯「最近の軽音部についてなんだけど」

律「なんだ、やっぱそれか」

唯「うん……水道水回しから始まって、
  みんな喧嘩になっちゃって……
  りっちゃんはどう思う?」

律「どう思う、っつったってなあ。
  そりゃあみんなが仲直りするに越したことはないけど、
  そのためには澪とムギの言い分の
  どっちが正しいのかをはっきりさせなきゃなあ」

唯「……」

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:38:13.90 ID:NgF42KrC0
律「難しいよなあ」

唯「……りっちゃんは、どっちが正しいと思う?」

律「うーん……澪のことは信じたいけど。
  どっちなんだろうなあ」

唯「昨日はムギちゃんの方に付いてなかった?」

律「あれはムギが泣き出したからだよ」

唯「あ……そう」

唯はいける、と思った。
おそらく律も、自分と同じく中立だ。
紬とグルだとか仲間だとかいう説は、
きっと澪の思い込みだったのだろう。
いや、もう律の考えなど関係ない。
中立であると分かった以上、
どうにかして律をこっちに引き込まねばならない。
そうすれば紬に対して4vs1の状況を作ることができ、
紬も何か行動を起こさざるを得なくなるだろう。
多少強引だが、紬の真意を確認するためには
これくらいしないと埒があかない。

460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:45:22.84 ID:NgF42KrC0
唯「実はお昼にさ、あずにゃんに呼び出されて」

律「ああ、やっぱあれはそうだったのか」

唯「気付いてたの?」

律「うん、実は今朝、梓にメールで呼び出されたんだ。
  気付いたのが始業直前だったから、
  無視する形になっちゃったけど」

唯「そうなんだ」

律「……梓は、イジメられてた、んだよな」

唯「うん」

律「それをやったのは、ムギか、澪」

唯「……うん」

律「絶対許さない……
  可愛い後輩を、ヒドイ目にあわせやがって……!」

唯「!……
  りっちゃん、協力して犯人を突き止めよう」

律「おう!」

468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 15:55:22.18 ID:NgF42KrC0
唯は安心した。
律をこちら側に引き込むことができたからだ。
しかし同時に問題が発生した。
こちらには、澪がいるのだ。
律はまだ澪を疑う立場にいる。
唯の味方に澪がいると分かれば、
唯も梓も澪とグルだったと見なされてしまうだろう。
こうなってしまっては意味がない。
今までやってきたことが水の泡になり、
さらに疑いが生まれ、部内での対立は深まるだろう。
とりあえず澪がこっちの仲間であることは秘密にしよう、
と唯は思った。

律は奮起した。
後輩を、梓をいじめた犯人を突き止めるために。
犯人は間違いなく澪か紬だ。
しかしどちらを信じきることも、
心の底から疑ってかかることもできなかった。
一人でははどうしようもできなかったが、
今、唯が自分の味方になってくれた。
唯と一緒に犯人を突き止められるかは分からないが、
少なくとも一人きりで悩むよりはいくらか心強い。
それに、おそらく梓もこちら側の味方についてくれている。
3vs1vs1の構図だ。
澪も紬も孤立している。
もう放っておいても、どちらかがそのうちボロを出すかも知れない。

472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:06:01.01 ID:NgF42KrC0
教室。

ピロリロリンリロリン
梓「あ、唯先輩からメールが来ました」

澪「なんて書いてある?」

梓「『りっちゃんは中立のようです。
  特にムギちゃんに肩入れしているわけではないと思われます』
  ……だそうですよ」

澪「ようです、とか思われます、とか、心もとないな」

梓「仕方ないですよ、
  他人の心情は、発言や表情からは
  完全に読み取れるものではありません。
  ……あ、まだ続きがあります」

澪「何?」

梓「『りっちゃんは澪ちゃんのことも疑っています。
   澪ちゃんがこっち側だと分かれば、
   私達はみんなグルだと思われてしまいます。
   だからあずにゃんだけ、音楽室に来て。
   勝負を決めよう』」

澪「勝負って……」

476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:11:37.44 ID:NgF42KrC0
梓「一気に仕掛けるつもりですかね」

澪「性急すぎやしないか?
  もっと慎重に行動した方が……」

梓「……いえ、問題はないでしょう。
  ムギ先輩以外の4人の考えはもうハッキリしています。
  あとは、ムギ先輩だけですから」

澪「で、でも」

梓「唯先輩にも何か考えがあるんだと思います」

澪「……唯を信じるのか」

梓「唯先輩は私を信じると言ってくれました」

澪「そ、そうか……」

梓「……今は澪先輩のことも信じてますから。
  じゃあ、行ってきます」

澪「……うん」

481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:17:52.55 ID:NgF42KrC0
音楽室前階段の踊り場。

唯「あ、来た」

梓「どうも」

律「よう、今朝はゴメンな」

梓「ああいえ、別にいいです」

唯「じゃあ、行くよ。
  音楽室にムギちゃんいるから、
  3人で一気に問い詰める」

梓「はい……」

律「うまくいくか……?
  昨日みたいに泣き出されたりしたら」

唯「その時はその時……
  失敗しても、ムギちゃんに
  味方はもういないんだから」

律「そのうちボロを出す、か」

唯「そう」

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:22:26.91 ID:NgF42KrC0
律「澪はどうするんだ?」

唯「……澪ちゃんはまた明日にでも。
  今日はとりあえず、ムギちゃんに」

律「そうだな」

梓「……」

短期決戦に打ってでたのは、
澪が仲間だと律にバレないようにするためだったのか、
と梓は悟った。
このままの状態を長く続けても、
すぐに澪のことがバレてしまっただろうから、
唯にしては賢明な判断だった。

唯「じゃあ、心の準備はいいね。
  いくよ」

律「おう」

梓「はい!」

3人は階段を上がり、
音楽室の扉を開けた。

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:29:02.91 ID:NgF42KrC0
ガチャ
唯「……」

律「……」

梓「……」

紬「どうしたの? みんな」

唯「正直に言って……
  あずにゃんをイジメたのは、
  ムギちゃんが一人でやったことなんでしょ?」

紬「な、何を……」

唯「その罪を全部澪ちゃんに被せようとしたんでしょ」

紬「ち、違うわ!
  唯ちゃんまでそんなことを言うの?
  あれは澪ちゃんに言われてやったことで……!」

唯「もう誰もムギちゃんの味方はしないよ!」

紬「!!」

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:34:53.77 ID:NgF42KrC0
唯「ね、りっちゃん」

律「お、おう」

唯「あずにゃんも」

梓「はい」

紬「…………」

唯「もちろん、ムギちゃんの言い分が本当なら、
  ムギちゃんの味方はするよ。
  でも、何もはっきりしない状態で、
  感情に流されての味方はしないから」

紬「……私のいうことが嘘だと、
  どうやって証明できるのかしら?」

唯「それはできないけど……
  とにかく、本当のことを言って」

紬「言ってるでしょう、さっっきからずっと。
  あなたたちがそれを嘘だと決めつけているだけだわ。
  証拠もなく人を疑っているだけよ。
  そんなことをして、恥ずかしくないのかしら」

唯「っ……」

502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:40:03.23 ID:NgF42KrC0
梓「この物言い……どう考えても
  ムギ先輩が犯人じゃないですか……」

律「そうだぞムギ……」

唯「……」

紬「……はあ、もういいわ」

唯「?」

紬「そうよ、私よ。
  全部私がやったのよ」

梓「なっ……」

律「おいムギ、本当か?」

唯「ムギちゃん……」

紬「そうよ。私がやったの」

律「な、なんで……」

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:47:41.34 ID:NgF42KrC0
紬「あら、今度はあっさりと信じてくれるのね。
  さっきはあんなに疑っていたのに」

唯「……信じきったわけじゃないよ。
  とにかく、何でこんなことしたのか話して」

紬「試してみたかったの、みんなを」

梓「試す?」

紬「みんなの仲が乱されて、どうなるか。
  全員が疑心暗鬼に陥って、
  誰も信じることができない状態になって」

唯「……」

紬「その中で、私の味方でいてくれる人はいるのかな、って思って」

律「お前、そんなしょうもないことのために……」

紬「しょうもない?
  自分の味方を、本当の友達を探すことが?」

律「それが見つかりさえすれば、
  他の友達はどうでもいいってことかよ」

紬「友達なんてそんなものよ」

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:54:39.59 ID:NgF42KrC0
唯「……そんなことしなくても、
  私達とムギちゃんは友達だよ……」

紬「そうかしら」

唯「そうだよ……」

紬「じゃあなぜ私の味方をしてくれなかったの?」

律「それとこれとは話が別だろ」

紬「いいえ、同じよ。
  友達なら友達を最後まで擁護すべきだわ」

唯「……ムギちゃんとは友達だけど、
  澪ちゃんとも同じくらいに友達だから」

紬「だから私だけをかばうわけにはいかなかったって?」

唯「そうだよ」

紬「ふん……だからそんな友達はいらないと言っているのよ。
  他人と他人を天秤にかけて比べるような友達は」

唯「比べるだなんて……!」

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 16:59:37.78 ID:NgF42KrC0
紬「もういい、もういいわ。
  結局私に味方してくれる人は誰もいなかった。
  それが結論よ」

律「そうかよ」

唯「それなら澪ちゃんやあずにゃんに謝ってよ」

紬「謝る? なんでそんなことしなきゃいけないの」

律「おいムギ、お前いい加減に……あれっ」

梓「ん……なんですこれ……」

唯「頭が、くらくらする……」

律「おいムギ、これ……!!」

唯「ムギ、ちゃ……」

紬「7日間楽しかったわ。ありがとう」

唯「…………」

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:07:24.11 ID:NgF42KrC0
紬は不安だった。
自分がこの軽音部で必要とされているのか。
この軽音部に存在してもいいのか。
他の部員たちは、自分のことをどう思っているのか。

部員たちは自分を好いてくれている。
それは理解しているのだ。
しかし、それは「紬自身」を好きなわけではない。
紬がお茶菓子を出してくれるから、
紬が別荘を使わせてくれるから、
紬が楽器店で割引してくれるから、
そういった理由で紬を好いているのだ。
もし自分が金持ちではなく、
菓子も別荘も用意できなくなっても、
部員たちは今と同じように
自分に接してくれるだろうか。
琴吹紬という人間そのものを
好きになってくれるのだろうか。
そんなことを何度も考えて、
不安で枕を濡らす夜もあった。

そこで紬は確かめてみることにした。
軽音部の中に、
本当に自分のことを好きでいてくれる人がいるのかどうか。

555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:17:30.89 ID:NgF42KrC0
それが水道水回しだった。
紅茶の代わりに水道水を出すという
意味の分からない行動は、
軽音部の部員たちを動揺させるのに効果的だったと思う。
特に害はない、誰も損しないことなのだが、
「意図不明で不気味」というだけで
人の精神を揺さぶることが出来るものだ。

そしてそれは実は梓への攻撃であり、
それを受けた梓は大きなショックを受けた。
梓に対するイジメだと見破ったのは澪だけだったが、
それで充分だ。
ひとつの意見で全体が支配されては
不和を起こす意味がなくなってしまうから。

さらにその罪を澪になすりつけ、
他の部員たちの信頼関係にヒビを入れた。
だがそれはうまくいかなかった。
もっとパニックになるかと思ったのに、
唯も律も予想以上に冷静だったからだ。
ここは完全に読み違いだった。

結局、唯たちは結託し、
自分が犯人であると断定してしまった。
誰も自分の味方をしてくれなかった。
誰も。
誰も。

569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:28:00.13 ID:NgF42KrC0
紬は確信した。
自分は人として好かれているわけではないのだ、と。
お茶や別荘を用意するだけの
ロボットにしかすぎなかったのだ、と。

しかし悲しくはなかった。
自分が好かれていない、というのは
現時点の結果でしかないのだ。
好かれていないならば、
好かれればいいだけのこと。
これから、未来に向かって、
本当の友達としての信頼関係を
築きあげていけばいいのである。

自分のことを本当に好きでいてくれる友達。
それは不和の中で生まれる。
誰も信用できない状況下でこそ、
心の底から信頼しあえる人間関係を
作ることが出来るのだ。

自分を信じて、
自分を裏切らない、
自分の味方でいてくれる、
そんな関係が生まれるまでは、
何度でも。
やり直せばいい。

572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:30:56.51 ID:NgF42KrC0
唯「ん……あれ」

律「……あ、澪」

澪「あれ、ここ音楽室……?」

梓「……私、何をしてたんでしたっけ」

紬「みんな、お茶にしましょう」

唯「あ、うん、そうだね」

律「お菓子お菓子~♪」

澪「お菓子食べたら、すぐ練習だからなっ」

紬「はい、どうぞ。紅茶よ」

梓「ありがとうございます」

紬「唯ちゃんは水道水でいいわよね」

唯「えっ?」


       お      わ          り



575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:31:39.29 ID:NgF42KrC0
これでおしまい

疲れた
さようなら

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 17:33:58.58 ID:NgF42KrC0
おまけ

紬「唯ちゃんは水道水でいいわよね」

唯「えっ、何いきなり」

澪「何やってんだ、ムギ」

紬「唯ちゃんにはその方が良いかなって」

律「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ」

梓「そうですよ、
  バカなことしないでください」

唯「水道水なんて飲みたくないよ、
  まったくもう」

澪「ムギ、悪ふざけも大概にしとけよ」

律「そうだぞ」

紬「………………」

618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/11(木) 18:28:08.61 ID:NgF42KrC0
一応補足しておくと時間がループしたんじゃなくて
紬以外の4人が記憶を失ったみたいな感じで

コメント

No title

人間心理をうまく使ってるなこれ
参考になった

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。