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朋也「軽音部? うんたん?」2-6

朋也「軽音部? うんたん?」2-5

519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:36:22.90 ID:+UZ/pLeq0
5/6 木

朋也(眩しい…)  

布団の中に頭を埋めなおし、まどろむ。
………。
突然、平沢の顔が思い出された。
俺の腕の中にいた。
その場の陰影や、夜風の肌触りまで、克明に思い出された。
抱いた平沢の肩の小ささ。
近くで嗅いだあいつの髪の匂いまでも。
そして、腕の中で平沢は小さく頷く。
よろしくお願いします、と。
がばりと、俺は飛び起きていた。

朋也(そうか…)

俺はあいつに告白したんだ…。
それで、あの時から俺たちは恋人同士で…。

朋也(………)

いまいち実感がない。
昨夜は、ずっと手をつないだまま家まで送っていったのに。

朋也(本当かよ…)

壁の時計を見る。

朋也「まずい…」


520 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:37:38.43 ID:jpDSDOMkO
―――――――――――――――――――――

準備を進め、時間に余裕が出来てからも、俺は急ぐことをやめなかった。
足を止めたら、そのまま、立ち止まってしまいそうだった。
あいつが俺の彼女…
それは深く考えてしまうと、厄介なものである気がしたからだ。
けど、心のどこかでこそばゆいような、嬉しい気持ちもある。
ああ、考えるな。
急げ。
勢いでいくしかなかった。

―――――――――――――――――――――

今日も同じ場所で、変わらず平沢姉妹の姿があった。

朋也(いた…)

ようやくそこで肩の力を抜いて、息を整える。

朋也(ああ…なんかどきどきする)

これからの彼女の元へ…俺は歩いていく。

朋也「………」

朋也「よぅ…おはよ」

憂「あ、おはようございます、岡崎さん」

唯「お、おは…おはおは…よう…」


521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:38:12.88 ID:+UZ/pLeq0
つっかえながら言って、俺から目を逸らすように段々と視線を下げていった。
らしくない挙動。こいつも、俺と同じで、意識してくれているんだろうか。

憂「お姉ちゃん、本当にどうしたの? きのうからちょっとおかしいよ?」

唯「なな、なんでもないよっ…」

ぷるぷると顔を振る。

唯「あ、ほら、もう行こうよっ」

憂「手と足の動きがシンクロしちゃってるよぅ…」

―――――――――――――――――――――

朋也「………」

唯「………」

…気まずい。
こんなに沈黙が続いたことが、かつてあっただろうか…。
何か話さないと、息苦しいままになってしまう…。
しかし、俺から振れる気の利いた話題なんて、ぱっと思いつかない。

朋也(う~ん…)

憂「岡崎さん」

悶えていると、憂ちゃんから声をかけられた。


522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:39:22.35 ID:jpDSDOMkO
朋也「ん…なんだ」

憂「岡崎さんもきのう、律さんたちと一緒に遊んでたんですよね?」

朋也「ああ、まぁ…」

憂「あの、その時、お姉ちゃんになにかありませんでしたか?」

憂「帰ってきてから、ずっとぼーっとしてて…今朝もずっとこの調子なんです」

それは…やっぱり、俺の告白のせいなんだろう。

朋也「えっと…」

憂ちゃんには、言っておいたほうがいいんだろうか…。
ほとんど平沢の保護者のようなものだし…。

唯「岡崎くんっ」

急に声を上げる平沢。俺も憂ちゃんも、ほぼ同時に振り向く。
その表情からは、さっきまでのぎこちなさが立ち消え、今はなにか意を決したように目に力が入っていた。

唯「手、つないで行ってもいいって言ってたよね?」

朋也「あ、ああ…」

唯「じゃあ…つないでいこうよっ」

俺の側にあった手を差し出してくる。


523 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:39:51.30 ID:+UZ/pLeq0
朋也「………」

どうするべきか…。
あの時は軽い気持ちで言ったのだが…いざその時を前にしてみると、人目もあって、かなり恥ずかしい。
大体、手をつないで登校するなんて、考えてみれば相当な暴挙だ。
自分たちはラブラブです、なんてことをアホのように宣伝して回っているようなものじゃないか。
そんなの、プライベートでならまだしも、学校という狭い世間の中でやるのは危険すぎる。

朋也「…いや、さすがにやっぱ、無理かな。すまん」

唯「えぇ…そんなぁ…」

朋也「手つないで歩くのは、ふたりで遊びに行った時くらいにしてくれ」

唯「う~ん…でも、今だけはつないで欲しいなぁ。それで、実感したいんだ…」

唯「岡崎くんが…本当に私の彼氏になってくれたこと」

ああ…そうか。こいつも、まだ俺たちの関係にピンときていないところがあったのか。
………。

唯「あ…」

俺は黙って平沢の手を取り、しっかりと握っていた。

朋也「今日だけな」

唯「えへへ…ありがとう」

うれしそうに微笑む。俺も同じように返した。


524 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:41:01.64 ID:jpDSDOMkO
こんなことで喜んでくれるなら…毎朝でも悪くないかもしれない。
一瞬で考えが覆るほどに、俺は平沢の笑顔が見ていたかった。

憂「なぁんだ…そういうことだったんですね」

憂ちゃんが俺たちを見て、何度も頷いていた。

憂「それでお姉ちゃん、ソファーでバタバタしたり、うーうー唸ってたりしたんだね」

唯「あはは…お恥ずかしい…」

憂「可愛いなぁ、もう」

唯「いやぁ…あはは~…」

憂「でも、よかったね、お姉ちゃん。おめでとう。ずっと、岡崎さんのこと好きだったもんね」

唯「ええ!? なぜ憂がそれを…」

憂「わかるよ、それくらい。ご飯食べてる時も、岡崎さんの話が多かったし…」

憂「その時のお姉ちゃんの顔、すっごく生き生きしてたんだよ?」

唯「そ、そんな…私のポーカーフェイスの裏側を読み取るなんて…さすが憂だよ…」

憂「顔中にごはんつぶつけて、ポーカーフェイスもなにもないけどね」

憂「でも、お姉ちゃん、えらいよね。勇気出して、告白できたんだもん」

朋也「いや…俺からなんだ、告白したのは」


525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:41:21.94 ID:+UZ/pLeq0
憂「え? じゃあ、岡崎さんも、お姉ちゃんのこと好きでいてくれたんですか?」

朋也「まぁ…そうなるな」

唯「…あぅ」

憂「うわぁ、じゃあ、両思いだったんだぁ…いいなぁ、素敵だなぁ」

きゃぴきゃぴとはしゃぐ憂ちゃん。
対照的に、俺たちは互いの感情を再確認させられ、恥ずかしさが蘇り、もどかしく相手の表情を窺い合っていた。

憂「岡崎さん、これ、言うの二回目ですけど…お姉ちゃんを末永くよろしくお願いしますね」

そういえば、前にも言われた覚えがある。その時は、冗談交じりだった気がする。
でも、今は違う。

朋也「こっちこそだよ。愛想つかされないようにしないと」

はぐらかすことなく、素直にそう答えていた。

憂「愛想つかされるなんて、そんなこと、絶対ないです」

はっきりと言い切る。
やっぱり、俺はこの子も大好きだった。

憂「ね? お姉ちゃん」

唯「うん、でも…私の方が、飽きられちゃうんじゃないかって、それだけが心配なんだけどね…」

唯「岡崎くん、かっこいいし、優しいし…可愛い女の子がたくさん寄ってくるだろうから…」


526 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:42:35.23 ID:jpDSDOMkO
朋也「馬鹿…飽きるなんて、そんなことあるわけないだろ」

朋也「それに、俺は別にかっこよくもないし、性格がいいわけでもないからな」

朋也「こんな俺に、おまえみたいな可愛い彼女ができたんだ。大事にするに決まってる」

朋也「だから、変な心配するな」

唯「…うん。ありがとう」

憂「う~ん、ラブラブですねぇ。なんか、みせつけられちゃったなぁ」

唯「えへへ…」

朋也「う、憂ちゃん、茶化すのは勘弁してくれ…」

憂「えへ、ごめんなさぁい」

憂「あ、でも、私思ったんですけど、付き合ってるなら、下の名前で呼び合ったらどうです?」

唯「それ、いいかもっ。そうしようよ、岡崎くんっ」

朋也「まぁ、いいけど…」

唯「じゃあ、一回私のこと呼んでみて?」

朋也「ああ、じゃあ…えーと…唯」

唯「なぁに、朋也?」


527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:42:56.59 ID:+UZ/pLeq0
朋也「なんでもないよぉ、唯」

唯「そっかぁ、わかったよぉ、朋也」

朋也「あははは」
 唯「あははは」

朋也「って、アホかっ」

憂「くすくす…」

―――――――――――――――――――――

学校に近づくにつれ、生徒の姿が増えていく。
だけど、俺たちはずっと手をつないだまま歩いた。
こちらに目をくれて、ひそひそと話す連中もいたが、それでも離すことはなかった。
そんなこと、いちいち気にならないくらいに、俺の足取りは軽かった。

―――――――――――――――――――――

坂の下。ここまでくれば、もう周りはうちの生徒だらけになっていた。
皆、どんどん上を目指して上っていく。
これももう、見慣れた光景だった。
ちょっと前までは、誰もいない坂をひとりで上っていたのに。
何も変わらない日々にうんざりしながら、重い体をひたすら動かしていたのに。
今は、すぐ隣に俺を想ってくれる奴がいる。慕ってくれる子がいる。
それだけで、俺は前向きでいられた。
まさか、こんな気持ちでこの坂を上る日がくるなんて、思いもしなかった。

朋也(はぁ…なんていうか)


528 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:44:05.72 ID:jpDSDOMkO
唯と出会ってからいろんなことが変わった。
それは俺だけじゃない。
今の春原もだ。
唯と出会った人間はみんな変わっていく。
どんな方向かはわからなかったが…少なくとも最低から違う場所に向けてだ。

―――――――――――――――――――――

玄関をくぐり、昇降口に入る。
憂ちゃんは二年の下駄箱に向かい、俺たちは三年の下駄箱に足を向けた。
そろそろ手を離そうと、そう思っていた矢先…

バシィッ

 唯「うわっ」
朋也「うおっ」

後ろから繋ぎ目にチョップを落とされ、無理やり切られてしまった。

朋也(まさか…)

振り返る。

梓「ななななな…」

やはり中野だった。

梓「なに手なんかつないぎゃーっ!」

日本語になっていなかった。


529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:44:44.68 ID:+UZ/pLeq0
梓「じゃなくて…岡崎先輩っ! どういうことなんですかっ! 唯先輩の手だけを襲うなんてっ!」

梓「唯先輩そのものじゃなくても、襲ったってだけで犯罪なんですよっ!」

唯「違うよ、あずにゃん。これは、私たちが付き…」

咄嗟に唯の口を塞ぐ。

唯「むん…」

朋也「襲ったってわけじゃねぇよ。ただ、手がなんとなく寂しくてな…」

朋也「俺、いつもはリラックスボール握りながら登校してるんだけど、今日は忘れちゃってさ…」

朋也「その代わりに、平沢の手を借りてたんだよ」

梓「それなら、自分の手を握ってればいいじゃないですかっ」

朋也「それだと、異様に不安になってな…リラックスどころか、ストレスが溜まりだしたんだ」

朋也「でも、経験上、他人の手を握れば解決できることを知ってたからな。それでだよ」

梓「…なんか、すごく嘘臭いです…」

朋也「納得してくれよ、あずにゃん」

梓「あ、あずにゃんって呼ばないでくださいっ! 馬鹿っ」

ぷい、と顔を背けて立ち去っていった。


530 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:45:58.08 ID:jpDSDOMkO
朋也(ふぅ…)

なんとか事なきを得たようだ。
俺は唯の口を塞いでいた手を離す。

唯「っぷはぁ…なにするのぉ、朋也…」

朋也「いや、俺たちが付き合ってるって言おうとしてただろ、おまえ」

唯「そうだけど…だめなの?」

朋也「だめっていうか…一応、黙っておいて欲しいな、俺は。部長とかがうるさそうだし」

部長も春原もそうだが、一番知られたくないのは中野だ。
何をされるかわかったもんじゃない。

唯「ええー…いいじゃん。私はみんなに言いたいよぉ」

朋也「頼むから、大人しくしておいてくれ」

唯「ぶぅ…わかったよ…」

不満そうに頬を膨らませていたが、しぶしぶ了承してくれた。

朋也(憂ちゃんにも言っておかなきゃな…)

―――――――――――――――――――――

………。


531 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:46:28.17 ID:+UZ/pLeq0
―――――――――――――――――――――

昼。

律「ムギ、これ、なんだ? 弓と矢みたいだけど…」

紬「それはね、その矢で射抜かれると新しい能力が発現するっていう触れ込みで売られていたの」

紬「なんだかおもしろかったから、買ってきたんだけど…だめだったかな…」

律「いや、そんなことないぞ。イタリー製だし、オシャレな感じするしな」

澪「うん、すぐにでも鞄につけておきたいな。ありがとう、ムギ」

唯「ありがとう~、ムギちゃん」

春原「ムギちゃん、僕、これ家宝にするよっ」

紬「ふふ、よろこんでもらえて、よかった」

俺の手元にもそれはあった。
琴吹が買ってきたイタリア土産のキーホルダー。
今しがた全員に配られたのだ。

和「でも、よかったのかしら? これ、高かったんじゃないの?」

作りはあくまで精巧で、職人のそれを思わせた。
確かに、値が張りそうだ。

紬「お金のことは言いっこなしよ。気持ちを受け取って欲しいな」


532 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:47:45.36 ID:jpDSDOMkO
ということは、やはり、それなりにしたんだろう。
真鍋もそれを察したはずだ。

和「…そう。じゃあ、ありがたく使わせてもらうわね」

その上での、この答えだった。俺もそれで正解だと思う。

紬「うん」

律「でもさぁ、やっぱ、ブランドものだったりするのか? ヴィトンとかの」

紬「う~ん、露店で買ったから、手作りじゃないのかなぁ」

紬「ジョルノ・ジョバァーナさんっていう人が個人で売ってたから」

律「そか。ブランドものを身につけるあたしっていうのも、共鳴現象でより可愛さに滑車がかかったんだけどなぁ」

春原「トップバリュみたいな顔してなに言ってんだろうね、こいつは」

律「誰が安さ重視な顔だ、こらっ!」

春原「おまえはカップラーメンとかと共鳴しとけばいいんじゃない? ははっ」

律「てめぇ…負け原のクセに」

春原「僕は別にプロボウラーでもないしね。ボーリングで負けても悔しくないんだよ」

朋也「ああ、おまえの本業は……だもんな」

春原「なんで悲しそうな顔して僕を見てくるんだよっ!?」


533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:48:12.73 ID:+UZ/pLeq0
律「わははは!」

紬「ふふ、でも、私もみんなと行きたかったなぁ、ボウリング」

律「あん? いや、絶対イタリーのがいいって。楽しかっただろ、旅行」

紬「うん、そうだけど…やっぱり、みんなといたほうが楽しいから」

春原「それ、つまりは僕と一緒に居たいことだよね」

律「凄まじく自分に都合のいい解釈の仕方するな、アホっ」

唯「うれしいこといってくれるねぇ、ムギちゃんは」

澪「ちょっとご両親がかわいそうだけどな」

紬「いいのよ、お父さんとは、イタリアに行く前に喧嘩しちゃってたくらいだし」

澪「え、そうなのか?」

紬「うん。一応、仲直りは出来て、旅行自体は楽しめたんだけどね」

澪「そっか。なら、なんにせよ、いい連休が過ごせたってわけだな」

紬「そうね。初日に、岡崎くんとデートもできたし」

その一言で、しんと静まり返るテーブル。


537 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:51:15.20 ID:+UZ/pLeq0
春原「え…」
 律「え…」
 澪「え…」
 唯「え…」
 和「………」

春原「え゛ぇ゛ーっ!?」
 律「え゛ぇ゛ーっ!?」
 澪「えぇ!?」

悲鳴に近い驚きの声が上がる。

和「どういうこと? 琴吹さん」

そんな中、冷静に真鍋が琴吹に問いかけていた。

和「ふたりは、付き合ってるの?」

紬「ううん、そういうわけじゃないの。えっとね…」

琴吹は、あの日あった事の経緯を至極穏やかに話していた。
対して、話が進むたび、俺の心中は焦りと動揺で満たされていった。
唯と付き合うことになったばかりなのに…俺のうかつな行動が招いた結果だった。

紬「…というわけなの」

律「はぁ…偽の恋人役ねぇ…なんか、漫画みたいだな」

春原「てめぇ、あの日遅かった理由はこれだったのかよっ!」



538 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:52:27.19 ID:+UZ/pLeq0
朋也「帰りを待つ妻みたく言うな」

春原「なんでそん時僕も誘ってくれなかったんだよっ! つーか、恋人役なら僕にやらせろよっ!」

朋也「俺の?」

春原「ムギちゃんのだよっ! 決まってるだろっ」

朋也「いや、今みたいに騒がれたら面倒だと思ったから、おまえは避けたんだけどな」

春原「くそぉおおおおジェラシイィイイイッ!」

律「しっかし岡崎、おまえはほんとすげぇなぁ…ムギまで攻略中かよ。でも、ちょっと同時にいきすぎてないか?」

朋也「いや、別にそんなやましい考えはなかったけどな。ただ遊んでただけだって」

紬「岡崎くんったら、ただ遊んでただけだなんて…キス未遂までいったじゃない、私たち」

朋也(ぐあ…)

春原「え゛ぇ゛ーっ!?」
  律「え゛ぇ゛ーっ!?」
  澪「えぇ!?」

唯「………」

唯の視線が痛い…。
むすっとして頬を膨らませている。

春原「てめぇええええ!! うらやま死ねぇええええっ!」


539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:53:42.43 ID:jpDSDOMkO
朋也「落ち着け、未遂だ、未遂。ただの空砲だ」

澪「岡崎くん、ムギのこと…もしかして、その…」

朋也「待て、違うぞ、俺は別に…」

紬「岡崎くん、私のこと、嫌い?」

朋也「い、いや、そんなことないぞ…好きか嫌いかでいえば、好きだよ」

紬「うれしいっ」

春原「岡崎ぃいいいいいいいいいっ!!」

澪「やっぱり、岡崎くんは…」

朋也「だぁーっ、どうすりゃいいんだよっ」

紬「くすくす…」

琴吹は困惑する俺を見て、悪戯っぽく笑っていた。
最初からこうしてからかうつもりで話したんだろう。

律「これがフラグを立てすぎて処理しきれなくなった男の末路か…ふ、成仏しろよ岡崎」

和「まったく…はっきりしないからこういうことになるのよ。少しは反省なさい」

この場に俺の味方はいないようだった。
それよりも…


541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:54:17.30 ID:+UZ/pLeq0
唯「……ふん」

唯へのフォローはどうしようかと、それだけが心配だった。

―――――――――――――――――――――

唯「………」

朋也「なぁ…違うんだよ、あれは…」

唯「………」

朋也(はぁ…)

教室に戻ってきても、まったく口をきいてくれなかった。
そもそも、琴吹とふたりきりで遊んだのは、唯と付き合う前だから、セーフじゃないのか…?
そうは思いながらも、途方に暮れる俺。

朋也「どうすればいいんだ、俺は」

唯「…知らない」

一蹴されてしまう。

朋也「そ、そうだ、日曜に遊びに行こう。おまえの好きなところ、回ってさ」

朋也「どこでもいいぞ。寄生虫館とか、全力坂とか、チンさむロードでもオッケーだ」

唯「…どれも興味ないよ」


543 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:56:15.28 ID:jpDSDOMkO
朋也「そ、そうか…」

冷たい…あの唯が…。思いのほかショックだった。
でも、俺も最初はこんな感じで唯に接していたんだよな…。
される側になって初めてわかる…なんて嫌な野郎なんだ、俺は。

朋也(仕方ない…)

俺はそっと唯の耳元に口を近づけ…

朋也「好きだ…」

そう囁いた。

唯「…あ、ありがと」

照れたように顔を伏せた。

朋也(よし、手ごたえありっ)

朋也「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ…」

ここぞとばかりに連呼した。
すると、俯いていた唯がぷっと吹き出した。

唯「もう…わかったよ、それは」

朋也「そっか。そりゃ、よかった」

唯「変なの」


544 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:56:44.96 ID:+UZ/pLeq0
朋也「そうか?」

唯「うん…えへへ」

笑顔を向けてくれる。
機嫌を直してくれたようなので、俺はひとまず安心した。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

放課後。軽音部部室。

春原「ねぇ、ムギちゃん、今度は僕とデート行こうよ。擬似じゃなくて、本物のさ」

春原「それで、最終的には、あんなことや、こんなことに発展して…い、いやら…」

律「アホかっ」

スパコーンッ

上履きで頭をはたかれる春原。

春原「ってぇなっ! あにすんだよっ」

律「おまえが生粋の変態だから、人の道を叩き込んでやったんだよっ」

春原「余計なお世話なんだよっ! つか、そんなくっせぇ武器で攻撃するんじゃねぇよっ」


545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:58:44.41 ID:jpDSDOMkO
律「な、臭いだとぉ!? 失敬なっ! めちゃフローラルな香りがするんだぞっ!」

春原「うそつけっ! 痛いっていうより、むしろ臭いって感覚の方が大きかったわいっ」

律「な、こぉの野郎っ」

バシバシバシッ

席を立ち、春原に上履きの連打を与える部長。

春原「うぁっ、おま、や、やめ…ぎゃあああああっ」

律「ふりゃふりゃふりゃっ! この、薄汚い豚めっ!」

床にうずくまる春原に向かって、女王様のように上履きをしならせていた。

がちゃり。

梓「こんにちはー」

扉を開け、中野が姿を現した。

梓「………」

律「お、おう、梓。やっと来たか…」

攻撃の手を止める部長。

梓「はぁ…いい汗かいてますね、律先輩…」


546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:59:11.55 ID:+UZ/pLeq0
律「まぁな、ははっ。ま、とりあえずおまえも座れよ」

言って、自分の席に戻る部長。

梓「そうさせてもらいます」

中野は鞄を置きにソファへと歩いていった。

春原「くそぅ…暴力デコめ…」

春原もなにか小さく呟きながら起き上がり、もとの席についた。

梓「って、唯先輩っ! またそんなとこに座ってっ!」

荷を降ろして身軽になると、真っ先に唯のもとへ歩み寄っていく。

唯「あ、あずにゃん、思い出して? 自由席なんだよ?」

梓「でもっ…」

律「梓、諦めろ。あの時決めて、おまえも頷いてただろ?」

梓「うぅ…」

律「そんなに岡崎の隣がいいなら、もっと早くに来るんだな、うひひ」

梓「な…別にそういうつもりで言ってるんじゃないですっ! 変に取らないでくださいっ」

律「あーはいはい、わるぅござんしたね~、ふへへ」


547 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:00:37.13 ID:jpDSDOMkO
梓「もう…」

ため息混じりに、空席へ腰を下ろす中野。

紬「梓ちゃん、どうぞ」

そこへ、琴吹がティーカップとケーキを差し出した。

梓「ありがとうございます」

紬「それと、これ」

キーホルダーを手渡す。

梓「これは…?」

紬「お土産よ」

梓「あ、イタリアのですか?」

紬「うん」

梓「へぇ…なんだか神秘的ですね」

紬「お気に召してくれたかしら?」

梓「はい、すごく。ありがとうございます、ムギ先輩」

紬「いえいえ」


548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:00:59.12 ID:+UZ/pLeq0
中野はしばらくの間、キーホルダーのギミックに夢中になっていた。
一応、矢を発射できるようになっているのだ。さすがに刺さるほどの威力はなかったが。

律「なんだ? そんなに楽しいのかぁ、梓。けっこう子供だなぁ」

梓「う…ほ、ほっといてください」

言って、胸ポケットにしまう。

梓「…こほん。それはいいとして、今日はおやつを頂いたらすぐに練習しますよ」

梓「もう、創立者祭までの猶予もそんなにありませんからね」

澪「そうだな。気合入れていかないとな、うん」

唯「え~、キワキワまでゆっくりして、その白刃取り感を楽しもうよ~」

唯「キワキワたぁ~いむ♪ キワキワたぁ~いむ♪ ってね」

澪「そんなことしてたら、ばっさり切られちゃうくらいの段階まできてるんだぞ」

梓「そうですよ。唯先輩も、できるだけ早く食べ終わってくださいね」

唯「はぁ~い」

律「でも、なぁんか今日の梓は積極的だよなぁ。いつもは澪が練習のこと一番に言い出すのにさ」

梓「私だっていつも言ってるじゃないですか、練習しましょうって」

律「でも、最近はなぁなぁになってて、あんま言わなかったじゃん」


549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:02:19.77 ID:jpDSDOMkO
梓「う…それは…」

律「やっぱさ、目の前で岡崎の隣に他の女がいるのが嫌なのかぁ?」

梓「ち、違いますっ! 絶対にありえないですっ!」

律「おーおー、顔赤くしちゃって…うしし」

紬「うふふ、梓ちゃん、可愛いわぁ」

梓「か、からかわないでくださいっ」

梓「もうっ…」

拗ねたように嘆息すると、口直しとばかりにケーキを一切れ食べていた。

梓「むぐ…みなさんも、早く食べてください」

律「はは、わかってるから、食べながら喋るなって」

―――――――――――――――――――――

春原「う~ん、練習頑張ってるムギちゃんも可愛いなぁ」

春原は練習が始まって以来、視姦といっていいレベルで琴吹を見つめ続けていた。
その被害者である当の琴吹本人は、まるで意に介した様子はなく、自身の演奏に集中していた。
賞賛に値する精神力だ。

唯「ふわふわタ~ァイム…っと」


551 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:02:56.62 ID:+UZ/pLeq0
後奏が少し走って、音が止む。

澪「今の、結構よかったな」

梓「唯先輩のギターが正確な回でしたね。いつもこうだといいんですけど」

澪「ムラがあるからな、唯は」

唯「えへへ、ごめんね」

澪「いや、そういうところも、おまえらしくていいよ。この調子で頑張ろう」

唯「うんっ」

律「あ~、ちょっと待って。休憩入れよう、休憩」

部長がだらっと姿勢を崩して言う。

澪「って、なんだよ、今いい感じでまとまってたのに…」

律「だって疲れたんだもん」

梓「部長なんだから士気とかそういうことも考慮してくださいよ」

律「なんだよ、じゃあ、あたしが無理して再起不能になってもいいって言うのかよぉ」

梓「なるわけないじゃないですか…どんな叩き方してるつもりなんですか」

律「もぉーっ! いいから、休憩するのっ」


553 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:04:09.55 ID:jpDSDOMkO
澪「小学生みたいな駄々をこねるな…」

紬「ふふ、いいじゃない。休憩、入れましょ?」

澪「まぁ…ムギがそう言うなら…」

律「なんだ、そのあたしとの温度差はっ」

澪「日ごろの行いの差だ」

律「意味わかんねぇーっ! 理不尽だーっ」

唯「あははっ」

春原「ムギちゃん、ミネラルウォーターだよ」

いつの間にか春原がペットボトルを手に練習スペースに入っていた。

紬「あら、ありがとう、春原くん」

春原「これくらい、なんでもないよ。パシリ…いや、飲み物運びは慣れてるからさっ」

言い直しても意味は同じだった。

律「ふぃ~…春原ぁ、ちっとタオル持ってきてぇ~」

春原「あん? んなの、自分で持って…」

春原が部長を見て固まる。


554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:04:37.81 ID:+UZ/pLeq0
律「? なんだよ…」

部長はカチューシャを外して前髪を下ろしていた。
それだけなのだが、かなり印象が変わっていた。
硬直の原因はそれだろう。

春原「い、いや…」

律「変な奴だな…とりあえず、タオル持ってきてよ」

春原「あ、ああ…」

言われ、とぼとぼ歩きながらソファにかけてあった部長のタオルを持ち帰る。

春原「ほ、ほらよ…」

律「お、サンキュ」

受け取って、顔を拭く。

律「あー、すっきり」

そして、またカチューシャで髪を上げた。

律「ん? なんだよ、春原。もう用はないぞ」

春原「あ、いや…」

春原は立ったままその場で動きを止めていた。


555 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:05:47.56 ID:jpDSDOMkO
春原「おまえ、それしてない方が…」

律「あん?」

春原「いや…なんでもないよ、ははっ」

苦笑いを浮かべながらこちらに戻ってくる。

律「なんなんだよ…気持ちわりぃなぁ…」

紬「りっちゃん、気づかないの?」

律「なにが?」

紬「春原くん、髪下ろしたりっちゃんにトキメいてたのよ」

律「え? マジ?」

春原「ちょ、ムギちゃん、それはないってっ」

唯「春原くん、ラヴだね、恋だねっ」

春原「ちげぇってのっ!」

律「ふふん、そういうことか…道理であたしの言う事素直に聞いてたわけだ」

春原「勘違いすんなっ、デコっ!」

律「デコじゃないわよん?」


556 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:06:12.25 ID:+UZ/pLeq0
ぱっとカチューシャを外す。

春原「う…て、てめぇ…」

律「ははは、動揺しているようだな、春原くん?」

春原「ぐ…くそぉ…」

紬「あらあら…甘酸っぱいわぁ」

唯「澪ちゃん、こいいう甘酸っぱい感じの歌詞書けば、新境地に立てるんじゃない?」

澪「そうだな…タイトルは、デコ☆LOVE…でいけそう…いや、LOVE☆デコかな?」

律「って、まてぇいっ! どっちもめちゃくちゃ悪意を感じるぞっ! つか位置変えたただけだしっ」

梓「…ぷっ」

律「中野ーっ!」

騒ぎ出す部員たち。
俺と春原はテーブル席からその喧騒を眺めていた。

朋也「で、おまえ、実際部長はどうなんだよ」

春原「うん? あんなのただのデコさ、ははっ」

朋也「ふぅん…」

春原「マジだって、はははっ」


557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:07:43.55 ID:jpDSDOMkO
軽く言って、紅茶を口にする。

春原「ふぅ…なんか肺がおかしいなぁ…ガンじゃないだろうな…」

完全にトキメいていた。分り易い奴だ。

―――――――――――――――――――――

律「春原ぁ、鞄持って~」

春原「ああ? やだよ。アホか」

律「む…」

カチューシャを外し、髪を下ろす。

律「お・ね・が・い、春原くん」

春原「う…」

春原「うわぁああああああんっ!!」

猛ダッシュで坂を下っていった。

律「わははは! こりゃ、おもしろい」

紬「りっちゃん、あんまり春原くんの純情を弄んじゃだめよ」

律「いや、あいつにそんなもんねぇって。常に劣情をたぎらせてるような男だし」


558 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:08:30.76 ID:+UZ/pLeq0
律「まぁ、しばらくはこれで遊べそうだな、うひひ」

まるで新しいおもちゃが手に入った子供のようだった。

―――――――――――――――――――――

他の部員たちと別れ、唯とふたりきりになる。
俺はこのまま唯を家まで送っていくつもりだった。

唯「でもさぁ、意外だよねぇ。春原くんが、りっちゃんをあんな風に見ちゃうなんてさ」

唯「けんかも、いっぱいしてたのにね」

朋也「そうだな。でも、まぁ、あいつは見た目が好みなら、すぐに心が揺れるからな」

朋也「実際、ナンパもよくしてたみたいだし…俺もそれに付き合わされたことあるしな」

唯「…朋也、ナンパなんてしてたんだ? ふーん…」

しら~っとした、寒々しい目を向けられる。

朋也「いや、だから、付き合わされただけだって。それも、おまえと付き合う前に一度だけだ」

朋也「これからは誘われたって絶対しねぇよ。おまえがいてくれれば、俺は十分だからな」

唯「ほんと?」

朋也「ああ」

唯「えへへ…私もだよ。朋也がこれからも私の隣にいてくれると、うれしいな」


559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:09:54.60 ID:jpDSDOMkO
朋也「安心しろ。ずっとおまえの後ろから、そのうなじに執着しててやるから」

唯「なんで背後なのぉ? せめて横にいてよ…っていうか、そんな物理的な意味じゃないのにぃ」

朋也「そうか? 残念だな…あとちょっとだったのに」

唯「なにがあとちょっとなのかわかんないけど…どうせ、変なことなんでしょ」

朋也「まぁな。でも、男はみんなそんなもんだ」

唯「もう…特別変態だよ、朋也は」

ポン、と体に唯の拳を受けて、軽く制裁された。
俺はその腕を取ると、末端まで辿っていき、自分の手を絡ませた。
繋がれるふたりの手。
唯も笑顔で返してくれた。
そのまま歩く。

唯「とろでさ…朋也はあずにゃんのこと、どう思う?」

朋也「あん? 中野?」

こんないい雰囲気の中、その名が出てくることに少し戸惑う。
今もどこかに潜んでいて、俺たちの仲を引き裂こうと身構えているんじゃないかと、そんな気にさえなる。

朋也「つーか…どうって、なにが?」

唯「だから、可愛いとか、いい子だなぁ、とか、抱きしめたい~、とか…そんな感想だよ」

今挙げた例はすべてこいつの胸の内なんだろう、多分。


560 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:10:43.63 ID:+UZ/pLeq0
朋也「感想たってなぁ…まぁ、確かに見た目は可愛いけど…でも、生意気だしな…」

朋也「それに、俺たちにとってちょっと厄介な存在でもあるし…面倒だよな、正直」

それでも、わざわざ野良猫の飼い主を探すような優しい一面も、あるにはあるのだが。

唯「そっか…でもね、あずにゃんは朋也のこと、きっと良く思ってるよ」

朋也「んなわけねぇよ。むしろ、嫌われてるだろ。いつも攻撃されてるんだぜ? 俺」

唯「それはあんまり関係ないんじゃないかなぁ。春原くんだってそうだったでしょ」

朋也「そうだけど…なんだ? 部長が言ってたこと気にしてんのかよ」

朋也「あんなの、おもしろがって言ってるだけだろ。攻略とかなんとかってさ」

唯「そうかもしれないけど…案外当たってるところもあると思うんだ」

唯「あずにゃんが朋也の隣に座りたがるのも、やっぱりそういうことなんじゃないのかなぁ」

朋也「そうかぁ?」

単に唯を取られまいと、俺から遠ざけているだけに見えるのだが。
それがあいつの行動原理のはずだ。

唯「うん…それでね、もしほんとにあずにゃんが朋也のこと好きで、朋也も同じ気持ちになった時は…」

唯「その時は、私じゃなくて、あずにゃんを選んでくれてもいいかなって、ちょっと思ったりしたんだけどね」

朋也「馬鹿…そういうこと、冗談でも言うなよ」


561 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:11:52.93 ID:jpDSDOMkO
朋也「俺はおまえ以外考えられないって、さっきもそう言ったばっかりだろ?」

唯「うん…」

朋也「俺はおまえが好きだよ。おまえも、そう想ってくれてるってことで、合ってるよな?」

唯「うん」

朋也「だったら、もうそれだけでいいじゃないか。余計なことは考えるな」

唯「そうだね…うん」

朋也「けっこう恥ずかしいんだからな、好き好き言うのは」

唯「そう? でも、私はもっと言って欲しいなぁ」

朋也「もう言わねぇよ」


562 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:12:16.17 ID:+UZ/pLeq0
唯「じゃあ、私が言ってあげるね。朋也、好き好き~」

腕に絡み付いてくる。

朋也「…うん」

唯「あはは、…うん、だって。朋也、照れてるぅ~」

朋也「…ほっとけよ」

唯「かわいいなぁ~」

家に帰り着くまで、唯はずっと俺をからかい続けてきた。
スキンシップに耐性があまりないんだろうか、俺は…
終始どきどきしっぱなしだった。

―――――――――――――――――――――


563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:13:22.83 ID:jpDSDOMkO
5/7 金

唯「おはよぉ~」

憂「おはようございます」

朋也「ああ、おはよ」

今日も笑顔で出迎えてくれる。

唯「はい、朋也」

手を差し出してくる。

唯「手、つないでいこ?」

朋也「ああ、そうだな」

俺はやさしく握った…

憂「あ…」

憂ちゃんの手を。

唯「って、そっちは憂だよっ」

朋也「じゃ、行こうか、憂ちゃん。俺たちの愛の巣に」

憂「は、はい…ぽっ」


564 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:13:42.62 ID:+UZ/pLeq0
唯「って、こらーっ! ちがうでしょっ!」

憂「ていうか、愛の巣ってなんなの!? 憂もちょっと照れてるしっ」

朋也「なんかうるさいけど、気にせず行こうな」

憂「はいっ」

唯「ばかーっ! もう、ふたりともばかーっ!」

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

昼。

律「お、そのハムバーグうまそうじゃん。まるまるくれよ」

春原「やるわけねぇだろ。キンピラでも食ってろって」

律「あー、そういうこと言うんだ? ふぅん、そうですか…」

ここぞとばかりに髪を下ろす部長。

律「嫌い…春原くんなんて」

目をうるうるさせて春原をみつめていた。


565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:14:59.72 ID:jpDSDOMkO
春原「はぐぅ…」

心臓を押さえながら嗚咽する春原。
トキメキが直接臓器に叩き込まれ、よろめいていた。

春原「ふ…ふふ…」

と思いきや、目を瞑り、不気味な笑いをこぼしていた。
すると、いきなり胸元をはだけさせ、髪をかきあげた。

春原「ふっ…」

顔にも角度をつけ、気合が乗っている。

律「…なにがしたいんだよ、おまえは」

春原「おまえごときに不覚を取ってしまった自分が許せなくてね…」

春原「きのう、対抗策を考えてきたんだ。それが、これさ」

律「…はぁ?」

春原「僕のセクシーな魅力で、おまえもたじたじってわけさ」

律「いや…キモいからやめてくれ。食欲が失せる」

春原「あんだとっ!」

さらに体をくねらせる。


566 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:15:29.15 ID:+UZ/pLeq0
律「あー、わかった、わかったから…もうやめろ」

部長のほうが折れて、カチューシャをつけ、髪を上げた。

春原「ふふん、勝ったな」

律「キショすぎて早くやめて欲しかっただけだっての」

春原「はっ、バレバレな嘘つくなよ。僕の魅力の前にして怖気づいただけだろ」

春原「でも、どうしよっかなぁ、デコに告られたりしたら」

春原「僕、すでにムギちゃんと両思いだしなぁ…ね、ムギちゃん?」

紬「えっと…今、たわごとが聞えた気がするの」

春原「たわごとっすかっ!? ストレートすぎませんか、それ!?」

律「わはは! おまえの、ね、ムギちゃん? はもはやネタフリになってることに気づけよ」

春原「くそぅ…」

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

放課後。


568 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:17:17.26 ID:jpDSDOMkO
紬「今日はウィスキーボンボンを持ってきたんだけど…どうかな」

言って、テーブルの中央にボール型の器を載せる。
その中には、銀紙でパッケージされた固形物がたくさん入っていた。

澪「ウィスキーボンボンって…中にお酒が入ってる、あのチョコのことだよな?」

ひとつ手にとって言う。

紬「うん。好き嫌いが別れるだろうから、ここで出すのもちょとあれかなと思ったんだけど…」

紬「でも、これを頂いた製菓会社さんの方から、感想が欲しいって言われちゃってて…」

紬「これ、新商品の試作品らしいから。それで、みんなにも意見をもらえたらな~って、思ったの」

澪「私たちがモニターになるってことか…うう…なんか、責任重大だな…」

紬「澪ちゃん、そんなに重く考えなくてもいいのよ。おいしかった、とか、微妙だった、とかでも全然オッケーよ」

澪「そんな漠然としてて参考になるのか?」

紬「う~ん、具体的な方がいいのかもしれないけど…でも、率直な感想が欲しいって言ってらしたし…」

紬「シンプルでいいと思うな」

澪「そうか…じゃあ、少しは気が楽だな…」

律「おまえはいつも考えすぎなんだよ」

包装紙を破り、口に放る。


569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:18:01.48 ID:+UZ/pLeq0
律「お、けっこうイケる」

紬「みんなも、よかったら食べてみてね」

春原「当然僕はもらうよ。ムギちゃんの持ってきたものにハズレなんかないからね」

春原は一気に4つほど掴んでいた。

唯「私も、も~らおっと」

梓「私も、頂きます」

中野と唯もチョコに手を伸ばす。
俺も一つ食べてみることにした。
ボールから一つ取って、銀紙を剥がす。
もぐもぐ…
酒の味が濃いような気がしたが、なかなか美味かった。

澪「…あ、おいしい」

律「だよな? もう一個もらおっと」

唯「でも、なんか、苦いね…」

梓「お酒のせいですよ、それは」

唯「あずにゃんは平気なの?」

梓「はい、私は別に」


570 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:19:28.59 ID:jpDSDOMkO
律「梓は将来酒飲みになるぞ、きっと」

梓「ウィスキーボンボンくらいで、変な未来を視ないでくださいよ」

春原「もぎちゅん…むぐ…うみゃいね…もれ」

律「って、おまえはリスか…頬袋にためやがって…」

―――――――――――――――――――――

律「あ、もう無いな…」

いつの間にかボールの中は空になっていた。

律「んじゃ、ここでティータイムも終わりか…食ったらすぐ練習だっけか」

律「だったよな、梓」

梓「…ひっく」

律「梓?」

梓「あー…あい?」

ふらふらと揺れて、目の焦点が定まっていなかった。
例えるなら、酩酊状態のような…

律「なんか…変だぞ、おまえ」

梓「あにが変だって言うんれすかっ!」


571 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:19:54.78 ID:+UZ/pLeq0
ろれつが回っていない。

律「まさかおまえ…酔ってるのか?」

梓「んなわけないれしょっ!」

律「酔っ払いはみんなそう言うんだよ…つーか、ウィスキーボンボンで酔うって、おまえ…」

梓「だぁから、酔ってねぇーっつーのっ」

完全に酔いが回っていた。

梓「う゛ー…ったくもー…」

梓「………」

潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

朋也「な、なんだよ…」

梓「この…女たらし最低野郎…」

椅子を寄せて、俺の肩に頭を預けてくる。
今日はこいつが隣に座っていたのだ。

朋也「なっ…」

梓「女の子にこんなことされると嬉しいんですよね、岡崎せんぴゃあは…」

梓「はふぅ…」


572 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:21:04.73 ID:jpDSDOMkO
さらに体重を預けてくる。

朋也「お、おい…」

唯の手前、あいつの反応が気になって、ちらりと目を向ける。

唯「………」

なぜか笑顔だった…それが逆に怖い。

朋也「中野、離れ…」

ばぁんっ

机を叩く激しい音。

澪「こらっ、梓っ! 岡崎くん、困ってるらろっ!」

澪「…ひっく、う゛ー…」

律「って、澪も酔ってるし…」

梓「困ってませんよーだ…逆に喜んでますけどね、うふふ」

澪「そんあことないっ! 顔がすっごく困ってるっ!」

梓「えうー…?」

俺の顔を覗き込む。


573 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:21:24.83 ID:+UZ/pLeq0
梓「あ、なんれすかっ! あたひじゃ不満だって言うんれすかっ!」

朋也「い、いや…」

澪「不満があるにきまってるらろっ! 梓みたいな幼児体型じゃっ」

梓「よ、幼児体型…?」

澪「そうらっ! 男の子は、胸があるほうが好きなんらぞっ!」

澪「ちょうど、その…わ、私くらいのらっ!!」

律「おお…澪なのに強気な発言だ…」

梓「じゃ、なんれすか? もしかして…澪先輩がこうしたいっていうんれすか?」

ぎゅっと強く腕を絡めてくる。

朋也(うぉ…)

中野の体温が伝わってくる。
こいつのいい香りも、ふわっと鼻腔をかすめた。
図らずもどきっとしてしまう。

澪「な、そ、そういうわけじゃ…と、とにかく離れなさいっ」

梓「わーっ、乱暴れすよーっ!」

中野がいつも唯にするように、今度は自分が秋山にひっぺがされていた。


574 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:22:37.95 ID:jpDSDOMkO
澪「………」

今しがた主人を失った空席をみつめる。

澪「ちょっと疲れちゃった…」

そこに腰を下ろす。

澪「…岡崎くん、私、ちょっと疲れちゃった」

朋也「あ、ああ…そうか」

澪「…うん。ちょっと、疲れちゃったんだ」

朋也「ああ…知ってるよ」

澪「そう? じゃあ…体、預けてもいいかな?」

朋也「え?」

俺が答える前、そっと寄り添ってきた。

朋也「お、おい…」

澪「………」

目を閉じて、心地よさそうにしている。
邪険に扱うことがためらわれるような、安らいだ表情。

朋也(ごくり…)


575 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:23:05.28 ID:+UZ/pLeq0
正直、可愛かった。

梓「って、やっぱり自分がしたかっただけじゃないれすかーっ!」

澪「う、うわぁっ」

同じように引きずりおろされる秋山。

澪「ち、ちが…ちょっと疲れてたんだおっ」

梓「だお、じゃないれすよっ」

わーわーと言い合いになっていた。

春原「おまえ、おいしいポジションにいるよね、マジで」

朋也「そうでもねぇよ…」

見た目ほど状況は単純じゃない。

朋也(唯…)

唯「………」

朋也(う…)

笑顔をキープしていたが…口の端がひくついていた。
怒ってる…のか?

澪「あー、もう練習らっ! 練習するろっ!」


576 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:24:28.39 ID:jpDSDOMkO
梓「う゛ー、そうれすね…練習れすよ…やぁってやるれすっ!」

ずんずんと練習スペースに踏み入っていくふたり。

紬「う~ん、お酒の調節がちょっと雑だったのかしら…報告しておかなきゃね」

律「今日はえらく事務的っすね、ムギさんは…」

澪「こらーっ! おまえらも、早くこーいっ!」

梓「たるんでますですっ! きびきび動くですっ!」

律「あー、はいはい、わかったよ…」

やれやれ、と肩をすくめて部長も席を立った。
琴吹もそれに続く。

唯「………」

唯だけがずっと座ったまま俺を見て微笑んでいた。

朋也「お、おまえも行ったほうがいいんじゃないのか…?」

唯「………」

無言で立ち上がる…やっぱり、俺を見たまま。
そして、最後までなにも言うことなく練習に加わっていった。

朋也(…ヤバイかもしれん)


577 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:24:53.03 ID:+UZ/pLeq0
―――――――――――――――――――――

活動が終わり、下校する時間になっても秋山と中野のふたりは酔いが抜けていなかった。
その暴れようは、いつも騒いでいる部長と春原でさえ少し引き気味にさせる程だった。
秋山と通学路を共にする部長は、きっと帰り着くまで延々クダを巻かれ続けることになるのだろう。
それはいいとして…

朋也「いやぁ、あのふたりが酔うと、あんな感じになるんだな」

唯「………」

朋也「あー…暴れ上戸って言うのかな? ああいうのってさ…」

唯「………」

朋也(はぁ…)

無視され続ける俺。

朋也「唯ちゃ~ん…怒ってるのか?」

唯「………」

ちゃん付けで呼んでみたが、効果はなかった。

朋也「お~い…」

唯「…嬉しそうだった」

朋也「ん?」


578 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:26:25.46 ID:jpDSDOMkO
唯「ニヤニヤしてた…顔が赤くなってた…デレデレしてた…」

唯「私だけだって言ってくれたのに…可愛い女の子なら、誰でもいいんだね、朋也は」

朋也「い、いや、そんなことねぇって。全然なんとも思わなかったよ、あんなの」

唯「嘘だよ。だって、すっごくだらしない顔してたもん」

そうだったのか…気づかなかった…そんなに顔が緩んでしまっていたとは…。

唯「あーあ、いいよねぇ、朋也はモテて。私、ハーレムの一人に加えてもらえて、うれしいなぁ」

ハーレムの一人、の部分を強調して言った。
皮肉を込めているんだろう。
本格的に拗ねてしまっているようだった。

朋也「変なこと言うなよ…俺の中じゃいつだっておまえが一番だぞっ」

朋也「ヒューッ! 唯、最高ゥッ! 超可愛いぜっ! あ~、幸せ者だ、俺はっ」

唯「…ばかみたい」

頑張ったのに、ばかって言われた…悲しい…。

朋也「はぁ…俺が悪かったよ…ごめんな、鼻の下伸ばしたりなんかして…」

朋也「もうそんなこと絶対しない…約束する。だから、機嫌直してくれよ…」

出したことも無いような情けない声色で、訴えるように言った。
かなり惨めな男になっていた。絶対他人には見せられない…。


579 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:26:54.52 ID:+UZ/pLeq0
唯「ほんとに、約束守る?」

朋也「ああ、絶対」

唯「じゃあ…許してあげる」

朋也「そっか…よかった」

ほっと胸をなでおろす。

唯「………」

朋也「ん? なんだ?」

黙って俺を見ていたと思うと、急に近づいてきた。
そして、くんくんと匂いを嗅ぎ始める。

唯「…あずにゃんと澪ちゃんの匂いが残ってる」



580 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:27:55.71 ID:jpDSDOMkO
朋也「わかるのかよ…」

犬並みに研ぎ澄まされた嗅覚を持った女だった。

唯「…えいっ」

飛びつくくらいの勢いで腕に組みついてくる。

朋也「歩き辛くないか? 普通に手つないだほうがいいだろ」

唯「いいの。こうやって私も匂い残すんだからっ」

朋也「あ、そ…」

なんというか…縄張り意識の強い獣のような思考な気がする…。
まぁ、そんなこいつの行動も、可愛く思えてしまうのだが。

―――――――――――――――――――――


581 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:28:34.50 ID:+UZ/pLeq0
5/8 土

唯「あぁ~カミサマ~お願い~二人だけの~」

上機嫌で口ずさむ。それは、軽音部の練習でよく歌われている曲だった。
もう何度も聴いていたので、俺もすぐにわかった。

憂「ふふ、お姉ちゃん機嫌いいなぁ。やっぱり、あしたは岡崎さんとデートだからかな」

朋也「知ってたのか、憂ちゃん…」

憂「はい。すっごく嬉しそうに話してましたよ、きのう」

朋也「そっか」

そう、俺は明日、唯とデートする約束を取り付けていたのだ。
今日は午前中で授業が終わるので、午後からは一人でデートコースの下見に行くつもりだった。
初めてのデートだったから、一応念を押しておきたかったのだ。

憂「でも、岡崎さん。まだ、学生の内はエッチなことしちゃだめですよ」

朋也「わ、わかってるよ…」

なぜ釘を刺されるんだろう…憂ちゃんには俺がそんな奴に見えているんだろうか…。
しかし…つくづく保護者じみているな、この子は…。
本当に年下なんだろうか…。

―――――――――――――――――――――

………。


582 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:29:46.26 ID:jpDSDOMkO
―――――――――――――――――――――

昼。

澪「う~…頭痛い…」

和「大丈夫? 風邪?」

澪「いや、そういうわけじゃないんだけど…熱もなかったし…なんでだろ」

見事に二日酔いしていた。

澪「顎もなんか痛いんだよな…」

それもそうだろう。
放課後デスメタルを名乗り、歯ベースなるものを披露していたのだから。

澪「それに、きのうの部活あたりから記憶がおぼろげなんだよな…」

澪「そこになにかヒントが隠されてる気がするんだけど…」

律「あー、なにもないよ。おまえはちゃんと練習してたぞ。それも、すっげぇテク見せつつな」

澪「ほんとか?」

律「ああ。だから、もう気にするな」

澪「う~ん…まぁ、いいか…」

醜態を晒してしまった過去は今、闇に葬られていった。


583 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:30:06.17 ID:+UZ/pLeq0
真面目な秋山のことだ、知ればきっと、恥ずかしさで身動きが取れなくなってしまうんだろう。
それを未然に防ぐための処置だった。

―――――――――――――――――――――

朋也(う~ん…どうしようかな…)

学校を出て、町の中をうろつく。
現地を巡りながら、彼女と二人で過ごすに耐えうるプランを練っていたのだが…
まったくいい案が思いつかない。というか、俺の経験程度じゃ、まず発想自体が浮かばない。
こういう時、誰か頼れる人間がいればいいのだが、生憎とそんなツテはない。
となると、ここは、そういった情報を扱っている雑誌を参考にしてみるのも手かもしれない。

朋也(本屋にでも行くか…)

―――――――――――――――――――――

朋也(………)

棚に並ぶ雑誌群。その中に、それらしいものを見つける。
表紙のあおり文には『鬼畜王が教えるデート必勝法!』とあった。
その鬼畜王というフレーズに惹かれ、一冊手に取ってみる。

朋也(なになに…)

漢ならストレートにいけ! 会った瞬間唇を奪うのだ! 後はわかるな?
ホテルに直行だ、がははは! 金が無いなら自宅でもいいぞ。
野外派の奴は、P12を開け。俺様おすすめの路地裏を教えてやる。ありがたく思え、がははは!
出かける前には、ハイパー兵器はちゃんと洗って…


584 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:31:16.14 ID:jpDSDOMkO
パタム

俺はそこで読むのをやめた。

朋也(レベルが高すぎる…)

この筆者…いや、英雄とは生きている次元が違うような気がする。
その差をひしひしと感じながら、雑誌を棚に戻す。
というか…よく出版できたな、この雑誌…。

朋也(それはいいとして…)

俺は再び雑誌を物色し始めた。

―――――――――――――――――――――

朋也「はぁ…」

本屋から出てくる。結局、決めたのは映画を観にいくことだけ。
上映時間を調べて、それで終わりだった。

朋也(どうすっかなぁ…)

電車で都心部の方まで出れば、それなりにサマになったデートになるんだろうか…。
でも、俺はあまりこの町から出て遊ぶことはしなかったので、その辺の地理に疎かった。
今から付け焼刃で調べに行っても、実りがあるとは思えない。
やはり、地元が無難だろう。

朋也「痛っ…」


585 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:31:43.90 ID:+UZ/pLeq0
次に向かおうと身を翻した矢先、誰かに肩をぶつけてしまった。
ばさばさと本が地面に数冊落ちる。
相手方のものだろう。

声「おっと…悪いな」

朋也「いえ、こちらこそ…」

言いながら、その本を拾い集める。

朋也(って、エロ本かよ…)

これは、俺もそうだが、相手はもっと気まずいぞ…。

朋也「どうぞ。すみませんでした」

二冊重ねて手渡す。

男「おう、悪いな」

朋也(ん? この男どこかで…)

サングラスをしていたが、なんとなくその背格好や顔つきに見覚えがあった。

朋也「…あ」
 男「…あ」

思い出す。そう、この男は…



586 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:32:28.16 ID:+UZ/pLeq0
朋也「あんた、サバゲーの…」
  男「あん時の小僧か…」

指をさし合う。向こうも覚えてくれていたようだ。

男「なんだ、おまえもエロ本買いに来たのか」

朋也「違うっての…」

男「ふん、そんなみえみえの嘘をつくな」

男「どうせ、買いたくても、恥ずかしくて一歩が踏み出せずに、この場で足踏みしてたんだろ?」

男「そこで、姑息なおまえはエロ本を買った客をここで襲うことにしたわけだ。どうだ、図星だろう?」

朋也「あんたにぶつかったのは偶然だ…」

男「だが残念だったな、この俺様を狙ったのが運の尽きよ…返り討ちにしてくれるわ、小僧ぉおっ!」

朋也「人の話を聞け、オッサンっ」

男「誰がオッサンだ。秋生様だ。秋生様と呼べ、小僧」

朋也「俺にも岡崎って名前があんだよ、オッサンっ」

秋生「小僧は小僧だろうが、この小僧が…真っ昼間からエロ本なんか買いに来やがって」

朋也「そりゃ、あんたのことだ」

秋生「まぁそうだが…ちっ、仕方ねぇな、そこまで言うなら、同士としてアドバイスをくれてやる」


587 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:34:08.99 ID:jpDSDOMkO
一方的に話を進めていた。
この人とは一生まともな会話が出来そうにない。

秋生「いいか、まずは店内の監視カメラの位置をすべて把握するんだ」

秋生「そして、死角を縫うようにしてアダルトコーナーにたどり着け」

秋生「ここまでくればあとは買うだけだが…一応、少年ジャンプも二冊ほど一緒に買っておけ」

秋生「その間に挟んでレジを通せば、店員も『あ、なんだ。ただの成年ジャンプか』とサブリミナル効果で騙せるからな」

朋也「そんな回りくどいことせずに普通に買えばいいだろ…」

秋生「それができないっていうからアドバイスしてやってるんだろうがっ」

朋也「いらねぇよっ」

秋生「じゃ、なんだ、ここでエロ本を買っていく善良な市民を襲い続けるのか、てめぇは」

朋也「だから、んなことしねぇってのっ」

秋生「嘘をつけぇっ! さっきエロ本拾う振りしてポケットにしまってただろうがっ! 返せ、こらっ!」

朋也「無理があるだろっ! ポケットなんかに入んねぇよっ」

秋生「なら、腹に仕込んで喧嘩しにいくつもりだろ。ボディもらった時、ちょうど袋とじが破れるように調節しやがって…」

意味がわからなかった。

朋也(付き合ってられん…)


592 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:36:43.69 ID:jpDSDOMkO
俺はオッサンを無視して歩き出した。

秋生「おーい、そっちにゃ本屋はねぇぞーっ。エロ本買うんだろーっ」

朋也(声がでけぇよ…)

朋也(う…)

通行人が俺とオッサンを交互にちらちらと見ている。
仲間だと思われているのだろうか…かなり嫌だ。

朋也(くそ…)

俺は逃げるように大急ぎでその場を立ち去った。

―――――――――――――――――――――

朋也(ふぅ…えらいのに絡まれちまった…)

商店街のあたりまで駆けてきて、そこでやっと足を止めた。
少し息を整える。

朋也(遊んでる場合じゃない…デートコースだ、デートコース)

気を取り直して再び考えを巡らせる。

朋也(商店街…この辺を見て回るのもいいかもな…)

朋也(後は…)


593 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:37:17.19 ID:+UZ/pLeq0
―――――――――――――――――――――

朋也(よし…この辺でいいかな)

大まかな流れを固め、ひとまずは区切りがついた。
細かいことはその場の判断でいいだろう。
俺は腕時計を見た。まだ余裕で軽音部が活動している時間帯。

朋也(戻るか…)

学校へ足を向ける。
道中も、立てたばかりの計画を頭の中でずっと反芻していた。

―――――――――――――――――――――

『ごめんね ル~だけ残したカレー…』

部室の前までやってくると、音が漏れ聞えてきた。
今も練習中なのだろう。

がちゃり

扉を開け放ち、中に入る。

―――――――――――――――――――――

ぎゃりぃっ!

弦を乱暴にひっかいたようなギターの音。それをもって演奏が止まった。


594 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:38:43.08 ID:jpDSDOMkO
律「なぁんだよ、梓…いきなり変な音だして…」

梓「す、すみません、岡崎先輩がぶしつけに入ってくるのが見えたので、気が散っちゃって…」

律「あん?」

その一言で、部員たちがの視線が俺に集まる。

律「ああ、来たのか」

唯「おかえり~」

紬「今岡崎くんの分のお菓子、用意するね」

朋也「いや、いいよ。なんか邪魔しちゃったみたいだし…練習続けてくれ」

手をひらひら振ってテーブル席に向かう。

朋也「ふぅ…」

春原「用事ってなんだったの」

腰を下ろすと、春原がそう訊いてきた。

朋也「大したことじゃねぇよ。俺の行きつけの部屋があるんだけど、そこで空き巣してきただけだ」

春原「ははっ、そりゃ哀れだね、その部屋に住んでる被害者は…」

春原「って、待てよっ! それ、僕の部屋のことだろっ!?」


595 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:39:12.63 ID:+UZ/pLeq0
朋也「ああ。堂々と土足で踏み込んでやったぜ」

春原「なんでそんな自慢げなんだよっ! つーか、パクッたもん返せっ!」

朋也「馬鹿、嘘に決まってるだろ。気づけよ。だからおまえは毎日がエイプリルフールって呼ばれるんだよ」

春原「んなの一度も呼ばれたことねぇってのっ!」

春原「ったく…いつもいつもおまえは…」

ぶつくさ言いながら紅茶を口にする春原。
そこで、シンバルの音が鳴り、また演奏が再開された。
顔を向ける。

梓「…っ!」

中野と目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
気のせいか、頬が赤く染まっているように見えるが…。
そんな、目が合ったくらいで照れるようなタマでもないし…俺の思い過ごしだろう。

―――――――――――――――――――――

梓「あ、あの…岡崎先輩…」

帰り道、中野が控えめに話しかけてきた。

朋也「なんだよ」

梓「き、きのうことですけど…」


596 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 06:40:24.69 ID:jpDSDOMkO
もじもじとして言いよどむ。
多分、酔っ払っていた時の話を切り出そうとしているんだろう。

梓「あの…岡崎先輩に抱きついたりしましたけど…か、勘違いしないでくださいねっ」

梓「あれはっ…ただ、気分がぽーっとなって、その…若気の至りというか…そんなアレだっただけですから…」

朋也「ああ、なんか変だったもんな、おまえ」

梓「うぅ…」

朋也「わかってるよ。変な気なんか起こしてないから、心配するな」

梓「…ちっともですか?」

朋也「ああ、まったくな」

梓「…ああそうですか、そうですよね、私、唯先輩や澪先輩と違って魅力ありませんもんねっ」

梓「わかりましたよ、もういいですっ」

怒ったように言うと、俺から離れていった。

朋也(なんなんだ…?)

気難しい奴だ…あいつをどう扱っていいのか、いまいちわからない。

―――――――――――――――――――――

朋也「軽音部? うんたん?」2-7

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