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朋也「軽音部? うんたん?」-6

朋也「軽音部? うんたん?」-5
の続き

―――――――――――――――――――――

春原「あれ、もうみんな来てんのか」

春原が腹をぽりぽり掻きながら、ちんたら坂を上ってきた。

律「あれ、じゃねぇっつーの! もう20分遅刻だぞっ!」

春原「わり、出掛けにちょっと10秒ストップに手出したら、長引いちゃった」

律「そんなもん暇なときにでもやれよなっ!」

春原「ま、いいじゃん。さっさといこうぜ」

律「ったく、こいつは…」

春原「って、その子、誰よ?」

憂「あ、初めまして。私、平沢憂と言います。二年生です」

春原「平沢? もしかして、妹?」

憂「はい、そうです」

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:12:07.53 ID:1qYNd8dxO
唯「いぇい、姉妹でぇす」

春原「ふーん、あっそ。似てるね、顔とか」

憂「ありがとうございますっ」

似ている、はこの子にとって褒め言葉だったようだ。

春原「ま、いいや。行くぞ、おまえら」

律「遅れてきた奴がえばんなってーの…」

―――――――――――――――――――――

グラウンドまでやってくる。
今日は運動部の姿もなく、広い場内は閑散としていた。
おそらくは、他校で練習試合でもあって、出払っているのだろう。
俺もまだバスケをやっていた時分、休みの日は大抵そうだった。
なければ、普通に練習があったのだが。
なんにせよ、サッカー部がいなくてよかった。
…というか、いたらどうするつもりだったんだろうか。
平沢がサッカー部の動向を知っていたとは思えない。
となると…やっぱり、そこまで考えていなかったんだろうな…。

朋也(それよりも…)

朋也「今更だけど、勝手に使っていいのか、このコート」

唯「え? だめかな?」

485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:12:37.99 ID:cUBlBpOS0
律「別にいいんじゃね? うちらだってこの学校の生徒だし」

朋也「いや、サッカー部の連中が気を悪くするんじゃないのかって話だよ」

春原「まぁ、大丈夫でしょ」

春原が答えた。

春原「今いないってことは、今日は朝練だけだったか、よそで試合があったんだろうからね」

春原「これから鉢合わせすることもないだろうし…あとでトンボだけ掛けとけばいいよ」

ソースがこいつというのは普段なら心許ないが、一応元サッカー部だ。
今回に限ってはそれなりに信憑性があった。

律「やけに自信たっぷりだな…なんか根拠でもあんの?」

朋也「こいつ、元サッカー部だからな」

律「え、マジで?」

春原「ああ、まぁね」

律「それできのう、実力がどうのとか言ってやがったのか…」

春原「ま、んなこといいからさ、とっとと始めようぜ」

朋也「そうだな。じゃあ、おまえ、番号入ったビブス着て、枠の中に立ってくれ」

朋也「俺たち、かわるがわるシュートで狙うから」

486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:14:04.94 ID:1qYNd8dxO
春原「ってそれ、的が僕のみのストラックアウトですよねぇっ!?」

律「わははは! そっちのがおもしろそうだな!」

春原「僕はまったくおもしろくねぇよ!」

春原「最初はチーム分けだろ、チーム分けっ」

朋也「じゃ、春原対アンチ春原チームでいいか」

春原「僕を集団で攻撃するっていう構図から離れてくれませんかねぇっ!」

朋也「でも、俺たち奇数だしな。綺麗に分けられないし」

春原「だからって、僕一人っていうのは理不尽すぎるだろっ」

朋也「じゃあ、おまえ、右半身と左半身で真っ二つに別れてくれよ。それで丸く収まる」

春原「僕単体を無理やり偶数にするなっ!」

春原「って、もうボケはいいんだよっ」

春原「平沢、どうすんだ」

唯「う~ん、そうだねぇ…まず、春原くんと岡崎くんは別チームにしなきゃね」

春原「あん? なんで」

唯「男の子だからね。分けておきたいから」

487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:14:29.64 ID:cUBlBpOS0
春原「ああ、なるほどね。いいよ」

唯「後は私たちで別れるよ」

春原「わかった」

唯「じゃ、みんな、ウラかオモテしよう!」

律「久しぶりだなぁ、そんなことすんの」

澪「律、なんでチョキを出そうとしてるんだ。じゃんけんじゃないんだぞ」

律「お約束お約束」

皆平沢のもとに集合し、円を作っていた。

春原「へっ、チーム春原対チーム岡崎の頂上決戦だな、おい」

朋也「今までトーナメント勝ちあがってきたみたく言うな」

春原「ドーハの悲劇が起こらなきゃいいけどねぇ、ふふん」

こいつは、絶対ドーハの悲劇が言いたかっただけだ。

―――――――――――――――――――――

チーム分けが終わり、メンバーが決まった。
Aチームは、俺、憂ちゃん、真鍋、秋山、部長。
Bチームは、春原、琴吹、中野、平沢。
こっちの方が人数は多いが、春原は元サッカー部だ。

488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:15:48.53 ID:1qYNd8dxO
人材の差で、そこまでのハンデにはならないだろう。
両陣営に別れ、ボールを中央にセットする。
ちなみに、持ってきたボールは部長の弟のものだそうだ。
それはともかくとして、先攻は春原チーム。

春原「よし、キックオフだっ」

横にいた中野からパスを受け、春原がドリブルで切り込んでくる。

律「おっと、通すかよっ」

それに部長が対応した。

春原「はっ、デコのくせにスタメン起用か。世も末だなっ」

律「なにぃっ! 本田意識して金髪にしたようなバカのくせにっ」

律「実力が違いすぎて違和感あるんだよ、アホっ!」

春原「隙アリっ! とうぅっ」

律「わ、やべっ」

股の間にボールを通され、突破される。
屈辱的な抜かれ方だ。

春原「ははは、甘いんだよっ」

朋也「おまえがな」

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:16:14.27 ID:cUBlBpOS0
春原「ゲッ、岡崎っ」

通された先、俺が待ち構えていた。
ボールを奪い、カウンターを仕掛ける。
しかし初心者の俺では春原のようにボールコントロールが上手くいかない。
走ってはいるが、スピードが出せないのだ。
後ろからは春原が追ってくる。
前からは中野。
俺は周囲を見てパスを出せるか確認した。
秋山が右サイドに上がっている。しかもフリーだ。
好機と見て、パスを送ろうとした時…

梓「ていっ!」

ずさぁあっ!

朋也「うぉっ」

ボールではなく、直接俺の脚めがけてスライディングが飛んできた。
間一髪かわす。

梓「チッ」

朋也(舌打ちって、おまえ…)

春原「よくやった、二年!」

春原がボールを拾う。

律「今度は絶対通さねぇーっ」

491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:17:36.67 ID:1qYNd8dxO
春原「平沢、押し込めっ」

前線にいる平沢にパスを送った。

律「あ、ずりぃぞっ! 勝負しろよ!」

春原「ははは、また今度な」

律「くそぅ、勝ち逃げしやがって…」

朋也「真鍋、頼んだぞっ」

真鍋は攻め込んできていた平沢をマークしていた。
ボールを受けた平沢と一対一の状況になっている。

唯「和ちゃん、幼馴染だからって手加減しないよっ」

和「その必要はないわ。あんた、運動神経ゼロじゃない」

唯「ムカっ! メガネっ娘に言われたくないよっ」

和「なら、私を抜いてゴールを決めてみなさい」

唯「言われなくてもっ」

平沢が走り出す。
…ボールをその場に置いたまま。

和「せめて、ボールを蹴るくらいはしなさいよ…」

492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:17:58.23 ID:cUBlBpOS0
ぼん、と蹴ってクリアする。

唯「ああ!? 和ちゃんの鉄壁メガネディフェンスにやられた!」

和「なにもしてないけどね…」

春原「なぁにやってんだよ、平沢っ」

唯「ごめぇん、和ちゃんの動きが速すぎて見えなかったよぉっ」

その珍回答に、ずるぅ、とこける春原。

春原「…わけわかんねぇ奴だな…」

朋也「秋山、いけっ、ドフリーだぞっ」

さっきクリアされたボールは、秋山の手に渡っていた。
ゴールを遮るものは、キーパー以外なにもない。
ドリブルで進んでいく。

澪「ムギ、私は本気でいくからな」

紬「くす…どうぞ」

澪「はぁっ」

どかっ

紬「みえたっ」

493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:19:06.00 ID:1qYNd8dxO
ばしぃっ!

飛び込みキャッチでボールを抱え込む。

澪「うわ、すごいな、ムギ…」

澪「って、ムギ…?」

琴吹はボールを抱え込み、そのまま足で締め上げていた。

紬「あ、つい癖で…」

ボールを持ち、立ち上がる。

紬「掴んだら逆十字で折って、そのまま三角締めに移行するよう言われてるから…」

つまり、ボールに関節技を掛けていたのか…。
つーか、そんな球体に間接なんかない。

澪「なんかわかんないけど、とりあえずすごいな…」

紬「ありがと。そぉれっ」

蹴りではなく、投げでボールをフィールドに戻した。
それなのに、なかなかの飛距離があった。
女にしては、かなりの強肩だ。

澪「すご…」

放物線を描き、やがて地面に着地する。

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:19:29.99 ID:cUBlBpOS0
2,3バウンドした後、ころころと転がった。
それを拾ったのは春原だ。
またドリブルで切り込んでくる。

律「させるかっ」

春原「またおまえか。おまえじゃ僕を止められねぇよ」

律「ふん、ほざけよ…」

じりじりと膠着状態が続く。

春原「ほっ」

律「あ、ちくしょっ」

春原は一度パスを出すフェイントを入れ、スピードで抜き去った。
俺がフォローに回る。
すると、フリーになった中野にパスが回った。
今度はこちらに失点の危機が訪れた。

梓「憂、岡崎先輩側に回るなんて、許さないからっ」

憂「そんなぁ、運だから仕方ないのにぃ…」

梓「御託はいいのっ! やってやるですっ」

憂「――――√v―^―v―っ!!」

憂ちゃんが機敏に動き出す。

495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:20:46.69 ID:1qYNd8dxO
どかっ!

憂「ここだよっ」

バシィ!

その移動した先、どんぴしゃでボールが飛んでいった。

梓「な、なんで…私が打つ前に…」

憂「うーん、先読みって奴かな?」

ニュータ○プか。

梓「く…憂…やっぱりあなどれない…」

律「憂ちゃーん、パスパース!」

憂「はぁーい。いきますよぉ、律さん」

ボールが高く蹴られた。
グラウンドには、俺たちの声がこだましている。
まるで、はしゃぎまわる子供のようだった。
空を見上げる。
天気もよく、すみずみまで晴れ渡っている。
そんな中、たまにはこうやって健康的に汗を流すのも、悪くないものだ。

―――――――――――――――――――――

律「ふぃ~、ちかれたぁ~…」

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:21:30.73 ID:cUBlBpOS0
紬「お疲れ様。はい、アイスティー」

紙コップを渡す。

律「お、テンキュー」

ひとしきり遊んだ後、ピクニックシートを敷いて休憩を入れていた。
琴吹が用意してくれたケーキや紅茶、各自持ち寄った菓子類を囲んで座っている。

律「ぷはぁ、うめぇーっ」

澪「確かに、運動の後の一杯は格別だよな」

律「運動か…じゃ、今日はカロリーとか気にせず食べられるな、澪」

澪「別に、いつもそんな神経質になってるわけじゃ…」

律「嘘つけ、いつも写メで自慢のセルライト送ってくるじゃん」

澪「そんなことしたことないだろっ」

ぽかっ

律「あてっ」

春原「ははっ、殴られてるよ、こいつ」

律「ツッコミだっつーのっ」

朋也「おまえはいつもラグビー部に死ぬ寸前までガチで殴られてるけどな」

497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:23:53.61 ID:1qYNd8dxO
春原「言うなよっ!」

律「わはは、だっせーっ!」

春原「黙れっ、負けチームっ」

律「ああ? まだ試合は終わってないだろ。つーか、たった一点リードしてるだけじゃん」

律「このハーフタイムが終わったら一気に逆転してやるよ」

春原「ふん、せいぜい無駄な足掻きをすればいいさ」

律「けっ、威張ってられるのも今のうちだぜ」

春原「はーっはっはっは!」
 律「はーっはっはっは!」

悪者のように高笑いする二人。

唯「なんか、生き生きしてるよね、春原くん」

隣にいた平沢が俺にそっと話しかけてくる。

朋也「かもな。あいつがあんなノリノリになってる時なんて、あんまないからな」

悪ふざけしている時ぐらいにしか見せない顔だった。

唯「じゃあ、やってよかったのかなぁ、サッカー」

朋也「ああ、多分な」

498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:24:26.00 ID:cUBlBpOS0
言って、頭に手を乗せようとすると…

梓「ていっ」

ばしっ

朋也「って…」

中野に払われてしまった。

梓「唯先輩、このクッキーおいしいですよ。あ~んしてください。私が食べさせてあげます」

唯「わぁ、ありがとうあずにゃんっ」

唯「あ~ん」

寄り添って、口にクッキーを運ぶ中野。

唯「むぐむぐ…おいひぃ~」

梓「ですよね」

にやり、と俺を見てほくそ笑んでいた。

朋也(なんなんだよ、こいつは…)

―――――――――――――――――――――

律「うし、そんじゃ、そろそろ再開するか」

499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:25:52.39 ID:1qYNd8dxO
菓子類も一通り食べつくし、しばらくだらけていると、部長がそう声を上げた。

春原「後半戦の開始だね」

律「開始五分で逆転してやるよ」

春原「はっ、軽く追加点取ってやるよ」

律「自分のゴールにハットトリックしてろ、オウンゴーラー春原め」

春原「おまえこそ、レフリーに後ろからスライディングかまして一発退場してろ」

ぎゃあぎゃあ言い合いながら立ち上がり、グラウンドへ向かって行った。
残された俺たちも、やや遅れてそれに続く。
すると…

男1「あれ? なにこいつら」

男2「あ、軽音部の子じゃね?」

男3「うぉ、マジだ」

男4「つか、春原もいるんだけど」

男5「岡崎もいるぞ」

男6「なに、あの組み合わせ」

向こうから私服の男たちが6人、ぞろぞろとやってきた。

500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:26:26.09 ID:cUBlBpOS0
春原「ちっ…」

俺は春原のそばまで小走りで寄っていった。

朋也「おい、春原、あいつら…」

春原「…ああ、サッカー部の連中だよ」

朋也「練習しにきた…ってわけじゃないよな」

春原「だろうね。向こうも僕らと同じで遊びに来たんだろ」

なら、試合があったわけじゃなく、朝練が終わって解散していただけだったのか…。

サッカー部員「おい、春原。ここでなにしてんだよ」

話していると、ひとりの男が若干敵意を含んだ言い方でそう訊いてきた。

春原「別に、遊んでるだけだっつの」

サッカー部員「そっちの軽音部の子たちはなんなんだよ」

春原「こいつらも、同じだよ」

サッカー部員「は? おまえ、軽音部の子たちと遊んでんの?」

サッカー部員「うわ、ありえねー」

サッカー部員「こんな奴がよく取り合ってもらえたな」

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:27:45.88 ID:1qYNd8dxO
サッカー部員「土下座して頼んだんじゃねぇの、僕で遊んでくださ~いってさ」

部員たちに、どっと笑いがおこる。

春原「ぶっ殺すぞ、てめぇらっ!」

春原がキレて、殴りかかっていく勢いで一歩を踏み出す。

サッカー部員「は? また暴力かよ」

サッカー部員「変わんねぇな、このクズは」

サッカー部員「おまえのせいで俺たち、どんだけ迷惑したかわかってんのか」

サッカー部員「関係ない俺たちまで、いろんなとこで頭下げさせられたんだぞ」

サッカー部員「新人戦だって出られなかったしな。実績あげないと、推薦だって危ういのによ」

サッカー部員「まだそのことで謝ってもねぇのに、あまつさえ俺たちに暴力振るうのかよ」

サッカー部員「今度は退学んなるぞ、てめぇ」

春原「……くそっ」

踏みとどまる。
そうさせたのは、退学だなんて脅しじゃない。
きっと、胸の奥底では感じていたであろう罪悪感の方だったはずだ。

サッカー部員「君ら、軽音部の子たちだよね?」


502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:28:25.66 ID:cUBlBpOS0
春原に取っていた態度とは打って変わって、陽気に声をかけてくる。

サッカー部員「こんな奴らとじゃなくてさ、俺らと遊ばね?」

自分たちから一番近い位置にいた部長に訊いてから、後方にいた連中を眺め渡した。

律「………」

だが、部長を筆頭に、誰もなにも言わない。

サッカー部員「うわぁ、やっぱ、りっちゃん可愛いって」

サッカー部員「ばっか、澪ちゃんだろ」

サッカー部員「俺唯ちゃん派」

サッカー部員「あずにゃんだろ、流石に」

サッカー部員「おまえら、ムギちゃんのよさわかれよ」

答えないでいると、その内、内輪で盛り上がり始めた。

サッカー部員「つか、見たことない子もいるけど、あの二人もかわいくね?」

サッカー部員「うぉ、マジだ。後ろで髪上げてる子と、メガネのな」

サッカー部員「つか、メガネのほうは、生徒会長じゃん」

サッカー部員「そうなの?」

503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:29:38.92 ID:1qYNd8dxO
サッカー部員「昨日発表あったじゃん」

サッカー部員「知らねぇ。寝てたわ、多分」

一斉に笑い出す。

律「…わりぃけど、あんたらと遊ぶ気にはなんないわ」

サッカー部員「えー、なんでだよ」

サッカー部員「カラオケいこうよ。おごりでもいいよ」

律「あたしら、サッカーしに来てんだよね。カラオケなら、あんたらでいきなよ」

サッカー部員「サッカー? 俺らも、そうなんだけど」

サッカー部員「サッカーがしたいなら、俺らのほうがいいよ」

サッカー部員「春原みたいな半端な奴とか、岡崎みたいなただのヤンキーとやるより楽しいよ」

サッカー部員「そうそう、いろいろヤって、楽しもうよ」

サッカー部員「ははは、腰振んなよ、おまえ」

サッカー部員「ははははっ」

サッカー部員「ははっ、てかさぁ、春原が今更サッカーってどうなの」

サッカー部員「マジ、ウケるよな」

504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:30:12.04 ID:cUBlBpOS0
サッカー部員「どうせ素人相手にカッコつけたかったんだろ」

サッカー部員「それしかねぇな。マジでカスみてぇ」

唯「…どうしてそこまでいうの?」

平沢が口を挟む。

サッカー部員「ん?」

唯「春原くんが喧嘩して、大会出られなかったのは、残念だったけど…」

唯「もう、終わったことなんだし…そんなに言わなくてもいいでしょっ!」

サッカー部員「あー、あのさぁ…」

一番体格のいい男が、ぽりぽりと頭を掻きながら前に出てくる。

サッカー部員「まぁ、お遊びクラブで仲良しこよしやってる子には、わかんないかもだけどさ…」

サッカー部員「俺ら、マジで部活やってんだ? そんで、将来とか懸かってんの。わかる?」

澪「そんな、私たちだって真剣に…」

サッカー部員「軽音部って、茶飲んでだらだらしてるだけなんでしょ? けっこう有名だよ」

澪「それは…」

梓「そんなことないですっ! 馬鹿にしないでくださいっ!」

505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:31:23.41 ID:1qYNd8dxO
サッカー部員「ああ、ごめんね。馬鹿にしてないよ」

サッカー部員「あずにゃんのプレイ、最高~」

サッカー部員「萌え萌え~」

他の部員が横から茶化しを入れると、皆へらへらと笑いあった。

梓「………」

中野の顔が紅潮していく。
奴らの態度は、どうみても馬鹿にしているそれだった。

サッカー部員「ま、だからさ、公式戦って、超大事なんだ。それを台無しにされたら、普通怒るよね」

唯「でも…でも…言ってることがひどすぎるよ…」

サッカー部員「クズにはなに言ってもいいんだよ」

唯「クズなんかじゃないよっ! 春原くんは、ちゃんとした、いい人だよっ!」

サッカー部員「ぶっははは! それ、マジで言ってんの?」

サッカー部員「いい人とかっ、ははっ、春原がかよっ」

サッカー部員「ああ、やっぱ、唯ちゃん頭弱ぇなぁ」

また下品に笑いあった。

唯「うぅ…」

506 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:31:53.43 ID:cUBlBpOS0

朋也(こいつら…)

もう、限界だった。
そもそも、最初からどこか癇に障る奴らだったんだ。
春原が踏みとどまっていなければ、俺も喧嘩に加わるつもりだった。
一度は耐えたが、それももう終わりだ。
手を出したほうが負け? そんなもん知ったことか。
喧嘩を売ってきたこと、死ぬほど後悔させてやる。

春原「おい、岡崎…」

朋也「…ああ」

春原も俺と同意見のようだった。
ぶっ飛ばしてやろうと、そう意気込んだ時…

律「あーあ、もういいや。みんな帰ろうぜ」

部長がそう言った。

律「なんかこいつらもここ使うみたいだし…それに、しらけちゃったしな。変なのが来たせいで」

律「はい、撤収~」

言って、敷かれたままのピクニックシートの方に足を向けた。

サッカー部員「や、ちょっと待とうよ」

部長の腕を掴んで引き止める。

507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:33:11.56 ID:1qYNd8dxO
サッカー部員「ぜってぇ俺らと遊んだほうがおもしれぇって」

律「触んなっ。離せ、バカっ」

その手を乱暴に振り払う。

サッカー部員「っ、んだよ、こいつ…調子乗りすぎ」

サッカー部員「ちっと可愛くて人気あるからって、これはねぇわ」

サッカー部員「ライブとか言って、下手糞な演奏しても、チヤホヤされるもんな」

サッカー部員「ああ…それはあるかも」

サッカー部員「よな? 聴きに来てる奴らなんか、ほとんどこいつらの体目当てだし」

サッカー部員「体って、おまえさっきからエっロいな」

サッカー部員「はは、うっせぇ」

律「なんだと…? 大人しく聞いてりゃ、つけあがりやがって…」

サッカー部員「え? 怒っちゃう? もしかして、自覚なかったの?」

サッカー部員「うわぁ、勘違い系?」

サッカー部員「痛ぇ奴」

サッカー部員「つーか、部員が可愛い子ばっかなのはそういうことだろ、どうせ」

508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:33:41.33 ID:cUBlBpOS0
サッカー部員「ああ、全員が客寄せパンダってことな。じゃ、図星突かれて怒ったのか」

サッカー部員「ははは、マジでそれっぽ…」

いい終わる前、その部員は殴り倒されていた。

サッカー部員「っつ…てめぇ、春原ぁっ!」

倒れこんだまま、怒声をあげる。

春原「馬鹿にしてんじゃねぇっ!」

春原が吠えた。

律「春原…」

春原「こいつらはなぁっ、そんなんじゃねぇんだよっ!」

サッカー部員「はぁ? なんだこいつ…」

春原「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

突っ込んでいく。
たちまち乱闘になった。

澪「ど…どうしよう、誰か呼んでこないとっ…」

朋也「やめてくれ。んなことされたら、俺らが捕まっちまうよ」

澪「え…」

509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:35:16.17 ID:1qYNd8dxO
朋也「真鍋、事後処理頼めるか」

和「ま、なんとかしてみるわ」

朋也「頼んだぞ」

前を見る。
春原が囲まれて、四方から蹴りをもらっていた。
ぐっ、と拳にに力を込める。
2対6。不利だが、不思議と負ける気はしなかった。

朋也「てめぇら、俺に背中向けてんじゃねぇっ!」

唯「あっ、岡崎くんっ…」

後ろから平沢の声がした。
だが、振り返ることはしなかった。
まっすぐ敵に向かって拳を振り下ろす。
相手の嗚咽する声と、拳に鈍い痛みが走ったのは同時だった。

―――――――――――――――――――――

呼吸が苦しい。
ずっと全力で殴り続けていたから、まったく余力が残っていない。
体重を支えるその脚にも、まともに力が入らない。
立っているのがやっとだった。
それに加え、身体中が痛む。
打撲に、擦り傷、切り傷…鼻血も出ている。
口の中には血の味が広がっていて、なんとも気持ち悪かった。
もう、ボロボロだ。

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:35:51.94 ID:cUBlBpOS0
春原「楽勝だったな……げほっ」

散々殴られたその顔で、苦しそうに咳き込んだ。
ひどい表情だ。きっと今、俺も同じ状態なんだろう。

朋也「その顔で言うなよ…」

春原「へっ…」

ぐい、と血を拭う。

春原「ま、やっぱ、僕ら最強ってことだね…」

朋也「特に俺はな…」

春原「あんた、結構ナルシストっすね…」

喧嘩は、一応の決着がついた。
KOというわけじゃない。連中の方が撤退していったのだ。
それほど喧嘩慣れしていなかったのだろう。
痛みと、本気で殴りかかってくる相手への恐怖からか、終始引き気味だった。
そのおかげで、あまり長引かずに済んだ。
部活も辞めて長いこと経ち、持久力の落ちている俺たちにはありがたかった。

和「お疲れ様」

真鍋がタオルを渡してくれる。
俺たちはそれを受け取り、汗と血を拭き取った。
そして、顔を上げて一番最初に目に入ってきたのは、泣いている平沢の姿だった。
見れば、部長と真鍋以外、全員すすり泣いていた。

513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:45:38.09 ID:cUBlBpOS0
律「あんたら…大丈夫か」

春原「無傷だけど」

律「そんなわけないだろ、見た目的にも…」

和「なんにせよ、治療は必要ね」

朋也「そうだな。おまえの部屋、なんかあったっけ」

春原「絆創膏ならあるよ」

朋也「ないよりマシか…まぁ、いいや」

朋也「そういうことだからさ、悪いけど俺たち、帰るわ。もう、フラフラだからな…」

和「待って。絆創膏だけじゃ駄目よ」

和「私たちが薬局で必要なもの買ってくるから、待ってて」

春原「できれば、もう帰りたいんすけど…」

和「じゃあ、寮で待ってて。確かあなた、地方からの入学で、寮生活してたわよね」

春原「はぁ、まぁ…」

和「唯と律はこの二人を支えながら送ってあげて」

和「坂の下をちょっと行ったところに寮があるから、そこまで」

516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:47:17.92 ID:1qYNd8dxO
唯「ぐす…うん…わかったよ…」

律「お、おう」

和「憂と琴吹さんは、グラウンドをトンボでならしておいて欲しいんだけど…」

それは、血が飛び散って、いたるところに黒いシミを作っていたからだろう。

憂「は、はい、任せてください」

紬「うん、任せて」

和「私と梓ちゃんと澪は、薬局に買出しね」

澪「わ、わかった」

梓「は、はい」

和「じゃ、みんな、さっと動きましょ」

その一言で、各自行動を開始した。
仕切るのが上手いやつだった。
人の上に立つ器とはこういうものなんだろうか…。
ぼんやりと思った。

―――――――――――――――――――――

唯「う…ひっく…ぐすん…」

朋也「おい…もう泣きやめ」

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:47:44.11 ID:cUBlBpOS0
唯「だっでぇ…うぅ…」

俺は平沢に、春原は部長に支えられながら、坂を下っていく。

唯「わだしがサッカーやるなんていっだがら…ぐすん…」

朋也「おまえのせいじゃないだろ」

春原「そうそう。あのバカどもが分をわきまえず喧嘩売ってきたのが悪いんだよ」

唯「うう゛…ぐすん」

律「…その件だけどさ、あんた、ちょっと見直したよ」

春原「あん? なんだよ、気色悪ぃな…」

律「いや…ほら、私たちが馬鹿にされたとき、あんた、すげぇ怒ってくれたじゃん?」

律「それがなんていうか…な? 意外だったんだよ」

それは、俺も同じだった。
まさか、こいつの口からあんなセリフが飛び出してくるとは思わなかった。

春原「は…その場のノリって奴だよ。勘違いす…」

春原「おわっ」

つまずく。

律「おい、しっかりし…」

519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:48:53.54 ID:1qYNd8dxO
春原「ん? なんか今、右手が一瞬柔らかかったけど…」

どごぉっ!

春原「うぐぇっ」

春原のレバーに部長の鉤突きが突き刺さる。

律「どさくさにまぎれて、どこ揉んでんだ、こらぁっ!」

春原「い、いや…違う、そんなつもりじゃ…」

律「くそぉ、こんな変態、見直したあたしが馬鹿だった…」

春原「って、なに髪つかんでんだよっ、っつつ…」

律「あんなたなんかこれで十分だっつの! さっさと歩けっ、ボケっ」

春原「うわ、やめろっ、スピード落とせっ!」

どんどん坂を下っていく…いや、引きずられて、か。

唯「ぷ…あははっ」

あのふたりに感化されたのか、平沢がぷっと吹き出し、笑みを浮かべていた。

唯「もう…ほんと楽しそうだなぁ…」

朋也「じゃあ、おまえが今日サッカーに誘ったこと、無駄じゃなかったな」

520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:49:16.57 ID:cUBlBpOS0
唯「そうかな…」

朋也「ああ。結果よければ、全てよしってやつだ」

唯「あは…うん、ありがと」

―――――――――――――――――――――

春原の部屋。
ここに、全員が集まっていた。
トンボ班と、医療班には、メールで部屋の番号を伝えていた。
寮の場所は、坂下から一直線なので、それだけでよかったのだ。

春原「いつつ…」

紬「あ、ごめんなさい。しみた?」

残りの連中が部屋に駆けつけてくれた時。
先に帰りついていた俺たちは、何事もなかったかのようにくつろいでいた。
その様子に、最初はポカンとしていたが、それも少しの間のこと。
何も言わず、顔をほころばせ、すぐに馴染んでくれていた。

春原「いや、大丈夫。ムギちゃんの愛で癒してくれれば」

紬「え? それは、どういう…」

春原「傷口を舐めて消毒して欲しいなっ」

紬「えっと…ごめんなさい、手刀でいい?」


521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:50:27.14 ID:1qYNd8dxO
春原「患部ごと切り落とすつもりっすか!?」

律「わははは!」

これも、いつも通りだった。
少し前、凄惨な暴力を目の当たりにして、泣いていたのに。
今では、穏やかな空気さえ漂っていた。

朋也「と、つつ…」

澪「あ、ごめんなさい」

朋也「ああ、大丈夫。気にすんな」

俺も春原同様、治療を受けていた。

律「澪、おまえ、血苦手なのに、よくやんなぁ」

澪「消去法で、私しか残らなかったんだから、しょうがないだろ」

そうなのだ。
最初、平沢と憂ちゃんがやりたがってくれていたのだが、中野によって却下された。
その中野自身はやってもいいと言っていたが、悪意を感じたので遠慮しておいた。
部長と真鍋は不器用だと自己申告していたし…
それで、最後に残ったのが秋山だったのだ。

朋也「苦手なら、自分でやるけど」

澪「で、でも、背中とか、わからないでしょうし…私がやりますよ」

522 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:50:44.20 ID:cUBlBpOS0
朋也「そっか…じゃあ、よろしく」

言って、上着を脱ぐ。

澪「って、ええ!?」

朋也「ん? なんだよ」

澪「なな、なんで脱いで…」

朋也「だから、背中やってくれるんだろ」

澪「そそ、そうですけど…」

朋也「じゃ、よろしく。おわったら、自分でやるから」

背を向ける。

澪「うう…」

律「きゃぁ、澪がたくましい男の背中に見ほれてるぅ」

澪「ううう、うるさいっ!」

朋也「ぐぁ…」

部長の煽りで力が入ったのか、傷口に痛みが走った。

澪「あ、ご、ごめんなさい…」

523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:51:52.48 ID:1qYNd8dxO
律「澪~、ダーリンを傷つけちゃダメだぞぉ」

澪「だだだ、ダーリンって…」

朋也「うぐぁ…」

澪「あ、また…ご、ごめんなさい」

朋也「部長…マジでしばらく黙っててくれ…」

律「きゃはっ! ごめんねっ、てへっ!」

こつん、と頭にセルフツッコミを入れた。

朋也(ったく…)

―――――――――――――――――――――

紬「はい、これでよし」

春原に最後の絆創膏を貼り終える。

春原「ありがと、ムギちゃん」

律「おまえ、それくらいは自分でやれよな…」

春原「せっかくムギちゃんが全部やってくれるっていうんだからね」

春原「のっかっておかなきゃ、未練なく成仏できねぇよ」

524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:52:08.55 ID:cUBlBpOS0
律「地縛霊みたいな奴だな…」

春原「それくらい僕の愛は深いってことさ。ね、ムギちゃん?」

紬「あら? この異様に盛り上がってる部分の床はなにかしら」

春原「って、余計な詮索しちゃだめだよっ!」

律「ああ…エロ本か」

澪「……うぅ」

春原「ちがわいっ!」

朋也「そのエリアはかなりディープなのが隠されてるぞ」

春原「エリアとか、妙にリアリティのある嘘つくなっ!」

春原「ムギちゃんも、剥がそうとしないでね…」

紬「あ、ごめんなさい。好奇心が抑えられなくて…」

春原「はは…まぁ、ただの欠陥住宅だったんだよ、ここ」

朋也「住んでる奴の気が知れねぇよな」

春原「住人の目の前で言うなっ!」

律「わははは!」

526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:53:28.33 ID:1qYNd8dxO
部長が笑う。
平沢も、憂ちゃんも、琴吹も、真鍋も、秋山も、中野も…みんな笑っていた。
俺も、つられてちょっとだけ笑ってしまう。
ツッコミを入れた春原自身も、苦笑していた。

春原「ああ…そうだ」

春原「ところでさ、平沢」

唯「ん? なに?」

春原「僕がサッカー辞めた理由、知ってたみたいだけどさ…」

春原「こいつから聞いたの?」

唯「えっと…うん…」

唯「私が、しつこく軽音部にきてくれるように言ってたら…教えてくれたんだ」

唯「ごめんね…知ってて、サッカーしようって、誘ったんだ、私…」

春原「いや…いいよ。それなりに楽しかったしね」

春原「………」

春原「まぁ、これから言うことは、適当に聞き流してくれていいんだけどさ…」

みんなが春原に注目する。

春原「あのさ…」

527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:54:01.13 ID:cUBlBpOS0
窓の外、暗くなった外を見上げながら、春原はぽつりと語りだす。

春原「僕、とんでもねぇ学校に入っちまったと思ってた」

春原「ガリ勉強野郎ばっかりでよ…」

春原「部活でも、みんな先のことしか考えてねぇんだ」

春原「絶対、友達なんか作らねぇって思ってた」

春原「意地張ってたのかな、やっぱり」

春原「でもさ…そうすると…」

春原「僕の心が保たなくなってたような気がする…」

朋也「………」

それは、俺も同じだった。
同じように考えて…同じように苦しんでいた。

春原「中学の頃の連れは、みんな中卒で働いてたしさ…」

春原「そいつらの元にいきたいって思うようになったんだ」

春原「サッカー部の連中に苛立ってたのが、半分で…そんな思いが半分で…」

春原「それで、やらかしちゃったんだ」

春原「他校の生徒相手に大暴れしてさ…」

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:55:06.69 ID:1qYNd8dxO
春原「退部になれば、自主退学に追い込まれて、実家に帰れるって思ってた」

春原「おまえ、覚えてるか?」

春原「初めてあったときのこと」

朋也「…ああ」

脳裏にふと思い浮かぶ。
鮮明で、鮮烈に記憶されている光景だった。

春原「おまえに会ったのは、その時だよ」

春原「あん時、おまえは幸村のジジィと一緒だった」

春原「生活指導を受けて、ジジィが担任だったから、引き取りに来てたんだよな」

朋也「だったな…」

春原「それでさ…」

春原「おまえさ、ボコボコに顔を腫らした僕を見てさ…どうしたか、憶えてるか?」

朋也「…ああ」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

春原「…大笑いしたんだよな、おまえ」

529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:55:26.53 ID:cUBlBpOS0
春原「涙流しながら、笑ってたよ」

春原「すげぇ不思議だった」

春原「なんでこいつ、こんなにおかしそうな顔して笑ってるんだろうってな…」

春原「そう考えてたら、僕までおかしくなってきた」

春原「我慢しようとしたけど、ダメだった」

春原「僕も、笑っちゃったよ」

春原「この学校に来てから、あんなに笑ったのは、初めてだった」

春原「すげー気持ちよかった」

朋也「そう…だったな」

あの時の情景。
思い出してみると、自然と笑みがこぼれた。

春原「あの後、ジジィに連れられて、宿直室いったら、さわちゃんいてさ…」

春原「そこで用意してくれてた茶飲んで…おまえと話したんだよな」

春原「今なら、なんとなくわかるよ」

春原「全部、あのジジィとさわちゃんが仕組んでたんだぜ」

春原「僕とおまえを引き合わせてさ…」

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:56:44.13 ID:1qYNd8dxO
春原「ふたりを卒業させるって」

春原「きっと、一人じゃ辞めてしまうって、気づいてたんだよ」

春原「いつか、訊いてみないとな」

春原「どうして、僕たちをこの学校に残したのかって」

朋也「だな…」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

春原「ま、後はもう一年だけどさ」

春原「またよろしくってことで」

朋也「ああ」

平沢たちは、しんみりとした表情で、じっと春原の話に聞き入っていた。
こんなに人がいるにも関わらず、静かな室内。
俺たちだけの言葉だけが響いていて、それがどこか心地よかった。

春原「つーか、腹減ったなぁ…どっか食い行くか、岡崎」

朋也「そうだな、いくか」

春原「おまえら、どうする。ついてくる?」

律「ん…なんか、今日は外食って気分だし…私はいいけど」

531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:57:03.42 ID:cUBlBpOS0
唯「私もいく! 憂も、くるよね?」

憂「うん、もちろんっ」

澪「私も、行きたいな…」

紬「私も。みんなで晩御飯なんて、楽しそう」

梓「じゃあ…私も」

和「ここまで付き合ったんだし、私も最後までいくわ」

春原「よぅし、全員か。じゃ、僕について来い」

律「どこいくんだよ」

春原「全皿100円の回転寿司だよ。知らねぇのか、スシロゥ」

律「知ってるけどさぁ…貧乏臭ぇなぁ…回転しない高級店でも連れてけよなぁ」

春原「なにいってんだ、ボケ。その場で自転するシャリでも食ってろ」

律「なんだと、こらっ!」

軽口を叩きあいながら、部屋を出ていく。
俺たちも、その様子を目にしながら、あとに続いた。

―――――――――――――――――――――

…二年前。

532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:58:18.94 ID:1qYNd8dxO
俺は、廊下である奴とすれ違った。
金髪のヘンな奴だった。
その顔はもっとヘンで、見ただけで大笑いした。
この学校に来て、初めてだった。
ああ、まだまだ笑えたんだって思った。
それが無性にうれしかった。
小さな楽しみを見つけた。
こいつと一緒に馬鹿をやってみよう。
やってみたら、やっぱりすごく楽しかった。
また、大笑いできた。
それが楽しくて、嬉しくて…
なんども、俺たちは笑ったんだ。
そして今も俺たちは…

―――――――――――――――――――――

春原「おーい、いい加減ネタ回してくれよ」

律「しょうがねぇだろぉ、九人も横に並んでんだぜ」

春原「だから、ちょっとは気を遣えって言ってんだけど」

朋也「わかったよ、ほら、今リリースしてやる」

回転棚に皿を載せる。

朋也「みんな、手つけないでくれ」

春原「おおっ、さすが岡崎、いい親友っぷりだねっ」

533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:58:37.92 ID:cUBlBpOS0
春原の元に無事到着する、俺の放った皿。

春原「って、これ、ワサビしか乗ってないんですけどっ!」

朋也「頼んだぞ、リアクション芸人。いまいちな感じだと、業界干されちゃうぞ」

春原「素人だよっ!」

律「わははは!」

大将「お客さん、食べ物で遊ばれたら、困るんですけどねぇ…」

春原「ひぃっ」

強面の寿司職人に凄まれる春原。

朋也「完食して詫びろっ」


535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:59:18.77 ID:cUBlBpOS0
律「いーっき、いーっき!」

春原「無理だよっ」

大将「お客さぁん…」

春原「う…食べます、食べます…」

ぱく

ぎゃああああああああああぁぁぁぁ…

―――――――――――――――――――――

     春原と初めて出会った日。

 あの日から、小さな楽しみを積み重ねて…

     そして、今も俺たちは…



       笑っている。

―――――――――――――――――――――

536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:59:49.44 ID:cUBlBpOS0
4/19 月

唯「おはよ~」

憂「おはようございます」

朋也「ああ、おはよ」

憂「怪我、どうですか? まだ痛みます?」

朋也「まぁ、まだちょっとな」

顔には青アザ、切り傷、腫れがはっきりと残っていた。
身体には、ところどころ湿布やガーゼが貼ってある。

憂「そうですか…じゃあ、直るまで安静にしてなきゃですね」

朋也「ああ、だな」

憂「それと、もうあんな無茶はしないでくださいね?」

憂「私、岡崎さんにも、春原さんにも、傷ついてほしくありません…」

朋也「わかったよ。ありがとな。心配してくれてるんだよな」

そっと頭を撫でる。

憂「あ…」

唯「私だって、めちゃくちゃ心配してたよっ」

537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:00:20.96 ID:cUBlBpOS0
朋也「そっか」

唯「そうだよっ。だから…はい、どうぞ」

ちょっと身をかがめ、頭部を俺に差し出した。

朋也「なんだよ」

唯「好きなだけ撫でていいよっ」

朋也「じゃ、行こうか、憂ちゃん」

憂「はいっ」

唯「って、なんでぇ~!?」

―――――――――――――――――――――

唯「でもさ、岡崎くんと春原くんの友情って、なんかいいよね。親友ってやつだよね」

朋也「別に、そんな間柄でもないけどな…」

唯「まぁたまた~。きのう、春原くん言ってたじゃん。一人だったら、学校辞めてたって」

唯「それに、サッカーは辞めちゃったけど、新しい楽しみが今はあるんだよ」

唯「それが、岡崎くんと一緒にいることで、それは、岡崎くんも同じでしょ?」

唯「それくらいお互い必要としてるんだから、親友だよ」

538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:00:53.90 ID:cUBlBpOS0
朋也「そんなことはない。あいつと俺の間にあるのは、主従関係くらいのもんだからな」

憂「え? それって…どちらかが飼われてるってことですか…?」

憂ちゃんが食いついてきた。
こういう馬鹿話は、平沢の方が好みそうだと思ったのだが…。

朋也「そうだな、まぁ、俺が飼ってやってるといっても、間違いじゃないかな」

せっかくだから、さらにかぶせておく。

憂「ということは…岡崎さん×春原さん…」

憂「春原さんが受け…岡崎さんが攻め…ハァハァ」

ぶつぶつ言いながら、徐々に鼻息が荒くなっていく。

朋也「…憂ちゃん?」
 唯「…憂?」

憂「ハッ!…い、いえなんでもないです、あははっ」

朋也(受け…? 攻め…?)

よくわからないが、なぜか憂ちゃんは微妙に発汗しながら焦っていた。

―――――――――――――――――――――

正面玄関までやってくる。
下駄箱は各学年で区切られているので、憂ちゃんとは一旦お別れになった。

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:02:25.97 ID:1qYNd8dxO
ここを抜けさえすれば、合流して二階までは一緒に行けるのだが。

朋也「っと…」

脱いだ靴を拾おうとしゃがんだ時、脚が痛んでよろめいた。

唯「あ、おっと…」

すぐ横にいた平沢に支えられる。

朋也「わり…」

唯「いやいや、このくらい守備範囲内ですよ。むしろストライクゾーンかな?」

こいつの例えはよくわからない。

梓「…おはようございます」

朋也(げ…またこいつか…)

音もなく背後に立っていた。
…とういうか、ここは三年の下駄箱なのだが…

唯「おはよう、あずにゃんっ」

俺を支え、体をくっつけたたまま挨拶する平沢。

梓「………」

じっと、俺の顔を見る。

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:02:46.46 ID:cUBlBpOS0
また引き離しにくるんだろうか…。

梓「…今だけは特別です」

そう、俺にだけ聞えるようにささやいた。
そして、『また放課後に』と会釈し、二年の下駄箱区画に歩いていった。

朋也(…はぁ…特別ね…)

それは、多分怪我のことを考慮して言っているんだろうな…。
頬に貼った絆創膏をさすりながら、そう思った。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

朝のSHRが終わる。
一限が始まるまでは机に突っ伏していようと、腕を回した時…

さわ子「岡崎くん、その顔、どうしたの?」

さわ子さんが教室から出ずに、まっすぐ俺の席までやって来た。

さわ子「まさか、またどこかで喧嘩してきたんじゃないでしょうね…?」

朋也「違うよ。事故だよ、事故」

さわ子「事故って…なにがあったの? その怪我、ただ事じゃないわよ」

541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:04:04.33 ID:1qYNd8dxO
朋也「猛スピードの自転車避けて、壁で打ったんだよ」

さわ子「それだけで、そんな風にはならないでしょ」

朋也「二次災害とか、いろいろ起きたんだ。それでだよ」

さわ子「ほんとに? どうも、嘘臭いわね…」

唯「ほんとだよ、さわちゃん! 私、みてたもん!」

さわ子「平沢さん…」

唯「ていうか、その自転車に乗ってたのが私だもん!!」

さわ子「………」

腕組みをしたまま、俺と平沢を交互に見る。
そして、ひとつ呆れたようにため息をついた。

さわ子「…わかったわ。そういうことにしておきましょ」

さわ子「ま、他の先生に聞かれたら、うまく言っておいてあげる」

この人は、やはりなにかあったとわかっているんだろう。
だてに問題児春原の担任を2年間こなしているわけじゃなかった。

唯「さわちゃん、かっこいい~っ」

さわ子「先生、をつけて呼びなさいね、平沢さん」

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:04:23.89 ID:cUBlBpOS0
言って、身を翻し、颯爽と教室を出ていった。

朋也「おまえ、嘘ヘタな」

唯「ぶぅ、岡崎くんに乗っかっただけじゃんっ」

唯「土台は岡崎くんなんだから、ヘタなのは岡崎くんのほうだよ」

朋也「唯、好きだ」

唯「……へ? あのあのあのあのあのっそそそそれれびゃ」

朋也「ほらみろ、俺の嘘の精度は高いだろ」

唯「……ふんっ。そうですね、すごいですねっ」

ぷい、とそっぽを向いてしまった。
からかいがいのある奴だ。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

和「ま、なんとかなりそうよ」

朋也「そうか、ありがとな」

和「いえ…あなたには借りがあるからね」

543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:05:50.44 ID:1qYNd8dxO
真鍋はサッカー部員の告げ口を防ぐため、朝から動いてくれていたのだ。
こいつの人脈を使って、各方面から圧力をかけていったそうだ。
それも、あの六人を個別にだという。
頼りになる奴だ。こんな力技、こいつにしかできない。
事後処理を頼める奴がいて、本当によかった。

和「まぁ、でも、彼らも大会を控えている身だし…」

和「自分たちから大事にしようとはしなかったかもしれないけどね」

和「彼ら自身も、暴力を振るっていたわけだから」

朋也「でも、おまえの後押しがあったからこそ、安心できるんだぜ」

和「そう。なら、動いた甲斐があったというものだわ」

和「ああ、それと、あなたたち、奉仕活動してたじゃない?」

朋也「ああ」

和「あれも、もうしなくてもいいように働きかけておいたから」

和「まぁ、あなたは最近まともに登校してるから、直接は関係ないでしょうけど」

朋也「って、んなことまでできんのか」

和「一応ね。先生たちの心証が悪かったことが事の発端だったみたいだから」

和「ちょっと手心を加えてくれるよう、かけあってみたの」

544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:06:10.52 ID:cUBlBpOS0
朋也「生徒会長って、思ったよりすげぇんだな」

和「生徒会長うんぬんじゃないわ」

和「長いこと生徒会に入っていた中で作り上げてきた私のパイプがあったればこそよ」

和「立場的には、私個人としてしたことね」

朋也「そら、すげぇな」

和「生徒会なんてところに入ってると、先生方とも付き合う機会は多いから…」

和「深い繋がりができるのも、当然と言えば、当然なんだけどね」

それでも、口利きができるほどになるには、こいつのような優秀さが必要なんだろう。

朋也「でも、よかったのか」

和「なにが?」

朋也「おまえの好意は嬉しいけどさ…」

朋也「でも、それは、遅刻とかサボリを容認したってことになるんじゃないのか」

朋也「生徒会長として、まずくないか」

和「そうね。まずいわね。でも…」

くい、とメガネの位置を正した。

545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:07:31.39 ID:1qYNd8dxO
和「私だって、人の子だから。打算じゃなく、感情で動くこともあるわ」

朋也「感情か…なんか思うところでもあったのか」

和「ええ。あなたたちは…そうね、自由でいたほうがいいと思って」

朋也「自由ね…」

和「うまく言えないけど…ふたりには、ちゃんと卒業して欲しいから」

和「規則で固めたら、きっと、息苦しくなって、楽しくなくなって…」

和「らしくいられなくなるんじゃないかしら。違う?」

朋也「そうだろうな、多分」

和「だから、最後まで笑っていられるよう、私にできることをしたのよ」

朋也「なんか、悪いな、いろいろと…」

朋也「でも、なんで俺たちを卒業させたいなんて思ったんだ」

なんとなく、さわ子さんや幸村に通ずるものを感じた。

和「あら、生徒会っていうのは、本来生徒のためにあるものよ」

和「だから、ある種、私の行動は理にかなってるわ」

和「特定の生徒をひいきする、っていうところが、エゴなんだけどね」

546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:07:49.94 ID:cUBlBpOS0
多少納得する。
でも、本心を聞けなかった気もする。

和「まぁ、こんなに人のことを考えられるのも、私に余裕があるからなんだけどね」

和「生徒会長の椅子も手に入って、真鍋政権も順調に機能してるし…」

和「総合偏差値も69以上をキープしてるから」

こいつは、やっぱり真鍋和という人間だった。
これからも、ブレることはないんだろう。

朋也「おまえのそういう人間臭いところ、けっこう好きだぞ」

和「それは、どうも」

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

昼。いつものメンツで学食に集まった。

春原「てめぇ、あれは事故だったって言ってんだろっ」

律「事故ですむか、アホっ! 損害賠償を求めるっ!」

春原「こっちが被害者だってのっ! あんな貧乳、揉みたくなかったわっ!」


547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:09:13.80 ID:1qYNd8dxO
朋也「え、でもおまえ、思い出し揉みしてたじゃん」

朋也「まくらとかふとん掴んで、『なんか違うな…』とか言ってさ」

朋也「あれ、記憶の中の実物と、揉み比べてたんだろ」

春原「よくそんな嘘一瞬で思いつけますねぇっ!」

律「最低だな、おまえ…つーか、むしろ哀れ…」

春原「だから、違うってのっ!」

紬「春原くん…その…女の子の胸が恋しいの?」

春原「む、ムギちゃんまで…」

紬「えっと…もし、私でよかったら…」

顔を赤らめ、もじもじとする。

春原「へ!? も、もしかして…」

ごくり、と生唾を飲み込む。
その目は、邪な期待に満ちていた。

紬「紹介しようか…?」

春原「紹介…?」

紬「うん。その…うちの会社が経営母体の…夜のお店」

548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:09:33.24 ID:cUBlBpOS0
春原「ビジネスっすか!?」

律「わははは! つーか、ムギすげぇ!」

一体なにを生業としているんだろう、琴吹の家は…。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

放課後。

唯「じゃね、岡崎くん」

朋也「ああ」

平沢が席を立ち、軽音部の連中と落ち合って、部活に向かった。
帰ろうとして、俺も鞄を引っつかむ。
ふと前を見ると、さわ子さんと春原が話し込んでいた。
きっと、今朝の俺と同じように、怪我のことでも訊かれているんだろう。
しばらくみていると、いきなり春原がガッツポーズをした。
さわ子さんはやれやれ、といった様相で教室を出ていく。
話は終わったようだった。
春原が意気揚々とこちらにやってくる。

春原「おいっ、僕たち、もう居残りで仕事しなくていいってよっ」

即日で解放されるとは…。

549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:11:26.12 ID:1qYNd8dxO
本当に仕事の速い奴だ、真鍋は。

春原「やったなっ。これで、放課後は僕らの理想郷…」

春原「ゴートゥヘヴンさっ」

あの世に直行していた。

朋也「俺を巻き込むな」

春原「なんでだよっ、一緒にナンパしにいったりしようぜっ」

朋也「初対面の相手と心中なんかできねぇよ」

春原「いや、僕だってそんなことするつもりねぇよっ!?」

朋也「今言ったばっかじゃん、ゴートゥヘヴンって。天国行くんだろ。直訳したらそうなるぞ」

春原「じゃあ…ウィーアーインザヘヴンでどうだよ?」

みんなで死んでいた。

―――――――――――――――――――――

唯「あ、岡崎くん、春原くん」

廊下に出ると、向かいから平沢が小走りで駆けてきた。

朋也「どうした、忘れ物か」

550 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:12:10.93 ID:cUBlBpOS0
唯「うん、机の中にお弁当箱忘れちゃって…」

唯「明日まで放っておいたら、異臭事件起きちゃうから、すぐ戻ってきたんだ」

朋也「そっか」

唯「ふたりは、今帰り?」

朋也「ああ」

唯「春原くんは、今日はお仕事ないの?」

春原「あれ、もうやんなくていいんだってさ。だから、これからは直帰できるんだよね」

唯「え、そうなんだ? だったらさ…」

唯「って、そっか…部活、嫌なんだよね…」

こいつは、また部室に来るよう誘ってくれるつもりだったのか…。
めげないやつだ。

唯「でも、気が変わったらでいいからさ、顔出してよ。軽音部にね」

そう告げると、すぐ教室に入っていった。

春原「…なぁ、岡崎」

朋也「なんだよ」

春原「ただで茶飲めて、菓子も食えるって、いいと思わない?」

551 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:13:32.63 ID:1qYNd8dxO
朋也「………」

こいつの言わんとすることはわかる。
つまりは…

春原「行ってみない? 軽音部」

どういう心境の変化だろう。こいつも丸くなったものだ。
でも…

朋也「…行くか。どうせ、暇だしな」

俺も、同じだった。

春原「ああ、暇だからね」

弁当箱を小脇に抱えた平沢が戻ってくるのが見える。
あいつに言ったら、どんな顔をするだろうか。
喜んでくれるだろうか…こんな俺たちでも。
だとするなら、それは少しだけ贅沢なことだと思った。

―――――――――――――――――――――

がちゃり

部室のドアを開け放つ。

唯「ヘイ、ただいまっ」

律「おー、弁当箱回収でき…」

552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:13:58.69 ID:cUBlBpOS0
春原「よぅ、邪魔するぞ」

朋也「ちっす」

ずかずと入室する俺たち。

律「って、唯、この二匹も連れて来たんかいっ」

春原「単位が匹とはなんだ、こらぁ」

唯「遊びにきてくれたんだよん」

律「うげぇ、めんどくさぁ…」

春原「あんだと、丁重にもてなせ、こらぁ」

紬「いらっしゃい。今、お茶とケーキ用意するね」

春原「お、ムギちゃんはやっぱいい子だね。どっかの部分ハゲと違ってさ」

律「どの部分のこと言ってんだ、コラっ! 返答次第では殺すっ!」

唯「まぁま、りっちゃん、落ち着いて…」

唯「ほら、岡崎くんも、春原くんも座った座った」

平沢に促され、席に着く。

律「ぐぬぬ…」

554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:15:15.75 ID:1qYNd8dxO
春原「けっ…」

唯「険悪だねぇ~…それじゃ、仲直りに、アレをしよう」

唯「はい、春原くん、これくわえて」

春原「ん、ああ…」

春原に棒状の駄菓子をくわえさせる。

唯「で、りっちゃんは、反対側くわえて、食べていく」

唯「そうすると、真ん中までいったとき、仲直りできますっ」

律「やっほう、た~のしそぅ~」

春原「ヒューっ、最高にクールだねっ」

 律「って、アホかっ!」
春原「って、アホかっ!」

唯「うわぁ、ふたり同時にノリツッコミされちゃった…」

唯「こういう時って、どう反応すればいいのかわかんないよ…」

唯「澪ちゃん、正しい解答をプリーズっ」

澪「いや、別に何もしなくていいと思うぞ…」

唯「何もしない、か…なるほど、深いね…」

555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:15:35.64 ID:cUBlBpOS0
澪「そのまんまの意味だからな…」

唯「どうやら、私には高度すぎたみたいで、さばき切れなかったよ…」

唯「ごめんね、りっちゃん、春原くん…」

春原「僕、こいつの土俵に入っていけそうにないんだけど…」

律「ああ、心配するな。付き合いの長いあたしたちでも、たまにそうなるから」

唯「えへへ」

まるで褒められたかのように照れていた。

紬「はい、ふたりとも。どうぞ」

琴吹が俺と春原にそれぞれせんべいとケーキをくれた。

春原「ありがと、ムギちゃん」

朋也「サンキュ」

紬「お茶も用意するから、待っててね」

言って、食器棚の方へ歩いていく。

唯「岡崎くん、おせんべいひとつもらっていい?」

朋也「ああ、別に。つーか、俺も、譲ってもらった身だしな」


557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:16:55.56 ID:1qYNd8dxO
唯「えへへ、ありがと」

俺の隣に腰掛ける。

梓「唯先輩っ」

それと同時、中野が金切り声を上げた。

唯「な、なに? あずにゃん…」

梓「そこに座っちゃダメです! 私の席と代わってください!」

唯「へ? な、なんで…」

梓「その人の隣は、危険だからですっ」

唯「そんなことないよ、安全地帯だよ。地元だよ、ホームだよ」

梓「違いますっ、敵地です、アウェイですっ! いいから、とにかく離れてくださいっ」

席を立ち、平沢のところまでやってくる。

梓「ふんっ!」

唯「わぁっ」

ぐいぐいと引っ張り、椅子から立たせた。
席が空いた瞬間、さっと自分が座る。

唯「うう…強引過ぎるよぉ、あずにゃん…」

558 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:17:18.66 ID:cUBlBpOS0
肩を落とし、とぼとぼと旧中野の席へ。

梓「………」

中野は俺に嫌な視線を送り続けていた。

澪「梓…なにも睨むことないだろ。やめなさい」

梓「……はい」

少ししおれたようになり、俺から目を切った。

律「ははは、相変わらず嫌われてんなぁ」

朋也「………」

春原「なに、おまえ、出会い頭にチューでもしようとしたの?」

春原「ズキュゥゥゥウンって擬音鳴らしながらさ」

朋也「無駄無駄無駄無駄ぁっ」

ドドドドドッ!

春原のケーキをフォークで崩していく。

春原「うわ、あにすんだよっ」

紬「おまたせ、お茶が入っ…」

559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:18:36.97 ID:1qYNd8dxO
そこへ、琴吹がティーカップを持って現れた。

紬「…ごめんなさい。ケーキ、気に入らなかったのね…」

ぼろぼろになったケーキを見て、琴吹が悲しそうな顔でそうこぼした。

春原「い、いや、これはこいつが…」

朋也「死ね、死ね、ってつぶやきながらフォーク突き刺してたぞ」

春原「僕、どんだけ病んでんだよっ!?」

紬「…う、うぅ…」

その綺麗な瞳に涙を溜め始めていた。

律「あーあ、春原が泣ぁかしたぁ」

春原「僕じゃないだろっ!」

春原「岡崎、てめぇっ!」

朋也「そのケーキ、一気食いすれば、なかったことにしてもらえるかもな」

春原「つーか、もとはといえばおまえが…」

紬「…ぐすん…」

朋也「ああ、ほら、早くしないと、本泣きに入っちまうぞ」

560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:19:00.41 ID:cUBlBpOS0
春原「う…くそぅ…」

皿を掴み、顔を近づけて犬のように食べ始めた。

律「きちゃないなぁ…」

春原「ああ~、超うまかったっ」

たん、と皿をテーブルに置く。

紬「あはは、なんだか滑稽♪」

春原「切り替え早すぎませんかっ!?」

律「わははは! さすがムギ!」

がちゃり

さわ子「お菓子の用意できてるぅ~?」

扉を開け、さわ子さんがだるそうに現れた。

律「入ってきて、第一声がそれかい」

さわ子「いいじゃない、別に。って、あら…」

俺と春原に気づく。

春原「よぅ、さわちゃん」

561 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:20:25.41 ID:1qYNd8dxO
朋也「ちっす」

さわ子「あれ、あんたたち…なに? 新入部員?」

春原「んなわけないじゃん。ただ間借りしてるだけだよ」

春原「まぁ、今風に言うと、借り暮らしのアリエナイッティって感じかな」

某ジブリ映画を思いっきり冒涜していた。

さわ子「確かに、そんなタイトルありえないけど…」

さわ子「なに? つまるところ、たまり場にしてるってだけ?」

春原「噛み砕いて言うと、そうなるかな」

さわ子「…ダメよ。そんなの許されないわ」

やはり、顧問として、部外者が居座ってしまうのを認めるわけにはいかないんだろうか…。

唯「さわちゃん、どうして? 私たちは、別に気にしてないんだよ?」

律「私たちって…あたし、まだなにも言ってないんだけど」

唯「じゃあ、りっちゃんは反対派なの?」

律「う…まぁ、いっても、そんな嫌って程じゃないけどさ…」

唯「ほら、お偉いさんもこう言ってらっしゃるわけだし…」

562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:20:57.84 ID:cUBlBpOS0
さわ子「そういうことじゃないわ」

唯「なら、どうして?」

さわ子「お菓子の供給が減ったら困るじゃないっ」

ずるぅっ!

紬「先生、それなら気にしないでください。ちゃんと用意しますから」

さわ子「いつものクオリティを維持したまま?」

紬「はい、もちろん」

さわ子「じゃ、いいわ」

あっさり許可が下りてしまった。
なんともいい加減な顧問だった。

―――――――――――――――――――――

さわ子「それにしても…なんだか懐かしい光景ね」

律「なにが?」

さわ子「いや、岡崎と春原のことよ」

春原「あん? 僕たち?」

さわ子「ええ。覚えてない? あんたたちが初めて会った時のこと」

563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:22:42.14 ID:1qYNd8dxO
さわ子「宿直室で、お茶飲みながら話してたじゃない?」

さわ子「あの時と、なんとなく重なって見えちゃってね」

この人も、俺たちと同様、あの日のことを覚えてくれていたのだ。

さわ子「まぁ、今は、ふたりともが顔腫らしてるわけだけど…」

さわ子「あの時は、春原が大喧嘩してきて、顔がひどいことになってたのよね」

思い出したのか、可笑しそうにやさしく微笑んだ。

さわ子「あなたたち、知ってる? このふたりの、馴・れ・初・め」

唯「うん。春原くんから、聞いたよ」

さわ子「あら? そうなの? 意外ね…」

驚いたように春原を見る。

さわ子「まぁ、でも、このふたりがわざわざ遊びに来るくらいだしね」

さわ子「それくらい仲はいいんでしょう」

春原「まぁ、それも、僕とムギちゃんの仲がめちゃいいってだけの話なんだけどね」

紬「えっと…白昼夢って、ちょっと怖いな」

春原「寝言は寝て言えってことっすかっ!?」

564 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:23:11.04 ID:cUBlBpOS0
律「わははは!」

さわ子「拒絶されてるじゃない」

春原「く…これからさ」

さわ子「ま、がんばんなさいよ、男の子」

ばしっと気合を入れるように、背を叩いていた。

朋也「…あのさ、さわ子さん」

さわ子「ん?」

朋也「あの時のことだけど、やっぱ、幸村のジィさんと打ち合わせしてたのか」

さわ子「ああ…やっぱり、わかっちゃう?」

朋也「まぁな。なんか、でき過ぎてたっていうかさ」

さわ子「そうね。あの話は幸村先生が私に持ちかけてきたんだけどね」

さわ子「私、春原の担任だったから。以前からあんたたちのことで、よく話をされてたのよ」

さわ子「どうにかしてやらないといけない連中がいる、ってね」

やっぱり、そうだった。全て、見透かされていたんだ。

春原「あのジィさん、なにかと世話焼きたがるよね」

565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:24:28.02 ID:1qYNd8dxO
さわ子「それは、あんたたちが、幸村先生にとって…最後の教え子だからよ」

朋也「最後…?」

さわ子「幸村先生ね、今年で退職されるのよ」

朋也「そうだったのか…知らなかったよ」

春原「僕も」

朋也「でも、俺の担任だったのは一年の時だし…」

朋也「今は担任持ってないんじゃなかったっけか」

さわ子「最後の教え子っていうのは、担任を持ってるとか、そういう意味じゃないわよ」

さわ子「最後に、手間暇かけて指導した、って意味よ」

朋也「ああ…」

さわ子「幸村先生はね、5年前まで、工業高校で教鞭を執っていたの」

さわ子「一時期、生徒の素行が問題になって、有名になった学校ね」

どこの学校を指しているかはわかった。
町の不良が集まる悪名高い高校だ。

さわ子「そこで、ずっと生活指導をしていたのよ」

朋也「あの細い体で?」

566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:24:55.05 ID:cUBlBpOS0
さわ子「もちろん、今よりは若かったし…それにそういうのは力じゃないでしょ?」

朋也「だな…」

さわ子「とにかく厳しかったの」

春原「マジで…?」

さわ子「ええ、本当よ。親も生活指導室に放り込んで説教したり…武勇伝はたくさんあるわ」

信じられない…。

さわ子「そんな型破りな指導者だったけど…」

さわ子「でも、たったひとつ、貫いたことがあったの」

朋也「なにを」

さわ子「絶対に、学校を辞めさせない」

さわ子「自主退学もさせなかったの」

さわ子「幸村先生は、学校を社会の縮図と考えていたのね」

さわ子「学校で過ごす三年間は、勉強のためだけじゃない」

さわ子「人と接して、友達を作って、協力して…」

さわ子「成功もあったり、失敗もあったり…」


572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:34:29.35 ID:cUBlBpOS0
さわ子「楽しいこともあったり、辛いこともあったり…」

さわ子「そして、誰もが入学した当初に描いていた卒業という目標に向かって、歩んでいく」

さわ子「それを途中で諦めたり、挫折しちゃったりしたら…」

さわ子「人生に挫折したも同じ」

さわ子「その後に待つ、もっと大きな人生に立ち向かっていけるはずがない」

さわ子「だから、生徒たちを叱るだけでなく、励ましながら、共に歩んでいったのね」

さわ子「でも、この学校に来てからは…」

さわ子「その必要がなくなったの。わかるわよね?」

さわ子「みんなが優秀なの」

さわ子「きっと、幸村先生にとっての教育、自分の教員生活の中で為すべきこと…」

さわ子「それを必要とされず、そして、否定されてしまった5年間だったと思うの」

さわ子「ほとんどの生徒が…中には違う子たちもいるけど…」

平沢たち、軽音部のメンバーをぐるっと見渡した。

さわ子「この学校で過ごす三年間は、人生のひとつのステップとしか考えていないでしょうから」

さわ子「自分の役目だと思っていたことは、ここではなにひとつ必要とされていない」

575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 20:36:08.20 ID:1qYNd8dxO
さわ子「それを感じ続けた5年間」

さわ子「そして、その教員生活も、この春終わってしまうの」

朋也「………」

俺も春原も、何も言えなかった。
結局、俺たちは、ガキだったのだ。
あの人がいなければ、俺たちは進級さえできずにいた。

さわ子「…そういうことよ」

朋也「今度、菓子折りでも持っていかなきゃな」

さわ子「それは、いい心がけね。きっと、喜ぶわよ」

春原「水アメでいいよね」

さわ子「馬鹿、お歳召されてるんだから、食べづらいでしょ…」

さわ子「っていうか、そのチョイスも最悪だし」

律「ほんっと、アホだな、おまえは」

春原「るせぇ」

…最後の生徒。
やけにリアルに、その言葉だけが残っていた。
本当に、俺たちでよかったのだろうか。
さわ子さんは、最後に言った。

576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:36:39.22 ID:cUBlBpOS0
光栄なことね。
いつまでも、ふたりは幸村先生の記憶に残るんでしょうから…と。
これから過ごしていく穏やかな時間…
その中であの人はふと思い出すのだ。
自分が教員だった頃を…。
そして…
最後に卒業させた、出来の悪い生徒ふたりのことを。

朋也「軽音部? うんたん?」-7に続きます

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