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朋也「軽音部? うんたん?」-5

朋也「軽音部? うんたん?」-4
の続き

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:59:20.56 ID:cUBlBpOS0
―――――――――――――――――――――

妙な間はあったが、平沢と琴吹に制され、争いは一応の収まりを見せた。
両者ともそっぽを向いている。
まるで子供の喧嘩のようだった。

澪「毎回毎回…よく飽きないな…」

律「ふん…」

和「明日を機に仲良くなればいいんじゃない」

唯「そうだね。りっちゃんと春原くんは同じチームがいいかも」

律「えぇ、やだよっ」

春原「つーか、こいつもくんの?」

唯「うん。みんな来てくれるって」

律「わりぃか、こら」

春原「ふん、まぁ、明日は僕のすごさをその身をもって思い知るがいいさ」

律「あん? おまえなんか、りっちゃんシュートの餌食にしてくれるわっ」

春原「なんだそりゃ。陽平オフサイドトラップにかかって、泣きわめけ」

律「なにぃ? りっちゃんサポーターたちが暴動起こしてもいいのか?」


407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:01:13.21 ID:1qYNd8dxO
春原「んなもんは陽平ボールボーイで鎮圧できるね」

律「むりむり。りっちゃんラインズマンがすでに動きを抑えてるから」

春原「卑怯だぞ! 陽平訴訟を起こしてやるからな!」

律「あほか。こっちにはりっちゃん弁護士がついてるんだぞ」

律「あきらめて、『敗訴』って字を和紙に達筆な字で書いとけ」

律「それで、その紙を掲げて泣きながらこっちに走ってこいよ、はっははぁ!」

澪「もはや、サッカー全然関係ないな…」

―――――――――――――――――――――

食事を済ませ、連中と別れる。
春原は今日もまた奉仕活動に駆り出されていってしまった。
月曜日の時同様、俺はひとりになってしまい、暇な時間が訪れる。
差し当たっては、学校を出ることにした。

―――――――――――――――――――――

家に帰りつき、着替えを済ませて寮に向かう。

―――――――――――――――――――――

道すがら、スーパーに菓子類を買いに寄った。
資金源は、芳野祐介を手伝った時のバイト代だ。
もう先週のことだったが、無駄遣いもしなかったので、まだ全然余裕があるのだ。

408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:01:54.47 ID:cUBlBpOS0
―――――――――――――――――――――

買い物を終え、店から出る。
レジ袋の中には、スナック菓子、アメ、ソフトキャンディーなどが入っている。
その中でも一番の目玉は、「コアラのデスマーチ」という、新発売のチョコレートだ。
パッケージには、重労働に従事させられるコアラのキャラクター達が描かれている。
当たりつきで、ひとつだけ過労死したコアラが居るらしい。
製造会社の取締役も、よくこんなものにゴーサインを出したものだ。
なにかの悪い冗談にしか見えない。

声「あれ…岡崎さんじゃないですか」

突っ立っていると、横から声をかけられた。

憂「こんにちは」

朋也「ああ…妹の…」

見れば、向こうも俺と同じで私服だった。
プライベート同士だ。

憂「憂です。もう忘れられちゃってましたか?」

朋也「いや…覚えてるよ」

朋也「憂…ちゃん」

呼び捨てするのもどうかと思い、ちゃんをつけてみたが…
どうも、呼びづらい。
かといって、平沢だと、姉と同じで区別がつかず、座りが悪いような…。

409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:03:24.88 ID:1qYNd8dxO
憂「岡崎さんもお買い物ですよね」

朋也「ああ、そうだよ」

憂「なにを買ったんです?」

俺が手に持つレジ袋に興味を示してきた。

朋也「菓子だよ」

憂「あ、いいですね、お菓子。私も、余裕があれば買いたかったなぁ」

その、余裕とは、金の問題じゃなく、持てる量のことを言っているんだろう。
この子は、買い物バッグを両手で持っていたのだ。
そしてそのバッグの口からは、野菜やらビンやらが顔を覗かせている。
もう容量に空きがない、といった感じで膨らんでいた。

憂「これですか? 夕飯の材料と、お醤油ですよ」

憂「お醤油がもう切れそうだったから、買いに来てたんです」

憂「そのついでに、夕飯の材料も買っておこうかと思いまして」

朋也「ふぅん、そっか…」

しかし、重そうだ。

朋也「自転車で来てたりするのか」

憂「いえ、カゴに入りきらないだろうと思って、歩きですよ」

410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:04:04.54 ID:cUBlBpOS0
ということは、これを持ったまま、家まで歩いていくことになるのか。
それは、少しキツそうだ。

朋也「それ、俺が持とうか?」

憂「え?」

朋也「いや、家までな」

憂「いいんですか? 岡崎さん、これからなにか予定ありませんか?」

朋也「ないよ。暇だから、手伝ってもいいかなって思ったんだよ」

憂「でも、悪いですよ、さすがに…」

朋也「いいから、貸してみ」

憂「あ…」

少し強引に奪い取った。
ずしり、と重みが伝わってくる。

朋也「憂ちゃんは、こっちを持ってくれ」

俺の菓子が入ったレジ袋を渡す。

憂「あ、はい…」

できてしまった流れに戸惑いながらも、受け取った。


411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:05:23.83 ID:1qYNd8dxO
朋也「じゃ、いこうか」

憂「は、はい」

―――――――――――――――――――――

ふたり、肩を並べて歩く。
俺はほとんど自宅へ引き返しているようなものだった。
平沢の家とはだいたい同じ方角にあるからだ。

憂「重くないですか?」

朋也「ああ、このくらい、平気だよ」

憂「すごいですね。私、休みながら行こうと思ってたのに」

朋也「まぁ、女の子は、それくらいが可愛くて、丁度いいんじゃないか」

憂「そうですか?」

朋也「ああ」

憂「私は、軽々と片手で持ってる岡崎さんは、男らしくていいと思いますよ」

朋也「そりゃ、どうも」

憂「どういたしまして」

にこっと笑顔になる。やっぱり、その笑顔も平沢によく似ていた。
さすが姉妹だ。髪を下ろせば、見分けがつかなくなるんじゃないだろうか。

412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:05:49.10 ID:cUBlBpOS0
朋也「そういえば、平沢の弁当とか、憂ちゃんが作ってるんだってな」

憂「そうですね、私です」

朋也「これだって、おつかいとかじゃなくて、自分で作るために買ったんだろ」

バッグを手前に掲げてみせる。

憂「はい、そうです」

朋也「えらいよな」

憂「そんなことないですよ」

朋也「いや、親も、めちゃくちゃ助かってると思うぞ。なかなかいないよ、そんな奴」

憂「いえ、うちのお父さんとお母さんは、昔から家を空けてることが多いんですよ」

憂「今だって、どっちもお仕事で海外に行ってて、いないんです」

憂「だから、家事は自然とできるようになったんです」

憂「っていうか、しなきゃいけなかったから、って感じなんですけどね」

朋也「ふぅん…」

そうだったのか…。
なら、平沢も家事が器用にこなせたりするんだろうか。
でも、前に、弁当を妹に作ってやれ、と言われ、無理だと即答していたことがあるし…。
あいつは、掃除や洗濯を主にやっているのかも。

413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:07:01.70 ID:1qYNd8dxO
朋也「ま、それでもえらいことには変わりないよ」

朋也「だからさ、ご褒美っていうと、ちょっとアレかもだけど…」

朋也「俺の菓子、好きなのひとつ食っていいぞ」

憂「いいんですか?」

朋也「ああ」

憂「ありがとうございますっ」

憂「どれにしようかな…」

袋の中を覗く。
そして、おもむろに一つ取り出した。

憂「…コアラのデスマーチ?」

よりにもよって、それか。

朋也「なんか、新発売らしいぞ」

憂「絵が怖いです。名前もだけど…」

朋也「コアラがムチでしばかれてるだろ。そこは、コアラがコアラに管理される施設なんだ」

朋也「上級コアラと下級コアラがいて、その支配構造がうまく機能しているらしい」

憂「やってることが全然かわいくないです…」

415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:07:21.73 ID:cUBlBpOS0
朋也「ま、食ってみろよ。味とストーリ-は関係ないだろうからさ」

憂「はい…」

開封し、中から一個取り出した。

憂「わぁっ、岡崎さん、この子、し、死んでますっ」

朋也「それ、当たりだ」

なんて強運な子なんだろう。
一発目から引き当てていた。

憂「当たりって…」

朋也「その死体食って、供養してやってくれ」

憂「うぅ…死体なんて言わないでくださぁい…」

目を潤ませながら半分かじる。

憂「あ…イチゴ味だ…おいしい」

朋也「臓器と血みたいなのが出てきてないか、その死体」

憂「イチゴですよぉ…生々しく言わないでくださいよぉ…」

―――――――――――――――――――――

憂「ありがとうございました」

416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:08:38.19 ID:1qYNd8dxO
朋也「ああ」

平沢家の手前まで無事荷物を運び終え、そこで手渡した。
ここで俺の役目も終わりだった。

憂「それから…すみませんでした」

朋也「いや、いいって」

憂「でも…結局、私が全部食べちゃって…」

ここまで来る間、憂ちゃんは俺の菓子を完食してしまっていた。
それも、俺が譲ったからなのだが。
喜んでくれるのがうれしくて、次々にあげていってしまったのだ。

憂「あの、よければ、ホットケーキ作りますけど…食べていきませんか?」

朋也(ホットケーキか…)

普段甘いものが苦手な俺だが、時に、体が糖分を欲することがある。
それが、まさに今日だった。
だからこそ、スーパーで駄菓子なんかを買っていたのだ。
どうせなら、そんな既製品を買い直すよりも、手作りの方が味があっていいかもしれない。
加え、両親は現時点で不在だとの言質が取れていたため、俺の気も楽だった。
家に上がらせてもうらうにしても、とくに抵抗はない。
ただ、女の子とふたりきり、という状況が少し気になりはしたが。

朋也「いいのか?」

憂「はいっ、もちろん」

417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:08:55.99 ID:cUBlBpOS0
朋也「じゃあ…頼むよ」

憂「任せてくださいっ、がんばって作りますからっ」

意気込みを感じられる姿勢でそう言ってくれた。

憂「さ、どうぞ、あがってください」

憂ちゃんに通され、平沢家の敷居をまたぐ。

―――――――――――――――――――――

憂「じゃ、出来上がるまで、ここでくつろいでてくださいね」

俺をリビングに残し、荷物を持って台所に向かっていった。
とりあえずソファーに腰掛ける。
…尻に違和感。
なにか下敷きにしたらしい。
体を浮かせ、取り出してみると、クッションだった。
ぼむ、と隣に置く。

朋也(ん…?)

再びクッションを手に取る。

朋也(やっぱり…)

平沢の匂いがした。
いつもこれを使っているんだろうか。

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:10:10.91 ID:1qYNd8dxO
朋也(………)

顔を埋めてみる。

朋也(ああ…いい…)

朋也(あいつ、いい匂いするもんな…)

朋也(………)

朋也(って、変態か、俺はっ!)

我に返り、すぐさま顔を離した。
背後が気になり、振り返る。
憂ちゃんは、俺に背を向け、なにやら冷蔵庫から取り出していた。
見られてはいなかったようで、ほっとする。

朋也(しかし、妙な安心感がある空間だよな、ここ…)

ごみごみとした春原の部屋とは大違いだ。
まぁ、そのせいで、無用心にもこんな暴挙に出てしまったのだが。

朋也(にしても…なにしてようかな…)

携帯があれば、こういう時、楽しく暇も潰せるんだろうな…。
生憎と俺はそんなものは持ち合わせていなかったが。
今時の高校生にしては、かなり珍しい部類だろう。
うちの経済状況では持つこと自体厳しいから、それも仕方ないのだが。
持ってさえいれば、春原にオレオレ詐欺でも仕掛けて遊べるのに…。
例えば…

419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:10:31.93 ID:cUBlBpOS0
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

プルルル

がちゃ

春原「はい。誰」

声『俺だよ、オ・レ』

春原「あん? 誰? 岡崎?」

声『だから、オレだって言ってんだろっ! 何度も言わせんなっ! 殺すぞっ!』

声『あ、後さ…う○こ』

ブツっ

ツー ツー ツー

春原「なにがしたかったんだよっ!?」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

朋也(なんてな…)

いや…それはただのいたずら電話か…。
難しいものだ、詐欺は。

420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:11:51.18 ID:1qYNd8dxO
朋也(妄想はもういいや…)

朋也「憂ちゃーん、テレビつけていいかー」

リビングの向こう、台所にいる憂ちゃんに聞えるよう、少し声を張った。

憂「あ、どうぞ~」

許可が下りた。
テーブルの上にあったリモコンを拾い、チャンネルを回す。
土曜の午後なんて、ロクな番組がやっていない。
救いがあるとすれば、あの長寿昼バラエティ番組だけだったが、すでに終わっている時間だ。
しかたなく、釣り番組にする。
俺は、呆けたようにぼーっと眺めていた。

―――――――――――――――――――――

憂「できましたよ~」

おいしそうな香りを伴って、憂ちゃんがホットケーキを持ってきてくれた。

憂「はい、どうぞ」

皿に盛ってくれる。

憂「シロップはお好みでどうぞ」

ホットケーキの横に、使い捨ての簡易容器が添えられてあった。

朋也「サンキュ」

421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:12:34.36 ID:cUBlBpOS0
フォークで生地を刺し、口に運ぶ。
もぐもぐ…

朋也「うめぇ…」

憂「ほんとですか? お口に合ってよかったです」

嬉しそうな顔。
俺はさらに食を進めた。
が、憂ちゃんは一向に手をつけない。

朋也「食べないのか」

憂「私はお菓子をたくさん食べましたから…」

憂「これ以上甘いもの食べると太っちゃいますよ」

やっぱり、女の子だとそういうところを気にするものなのか。
男の俺にはよくわからなかった。

憂「だから、岡崎さんが食べてくれるとうれしいです」

朋也「じゃあ、遠慮なく」

再び手をつけ始める。
本当においしくて、いくらでも食べられそうだった。

―――――――――――――――――――――

朋也「…ふぅ。ごちそうさま」

422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:13:47.76 ID:1qYNd8dxO
憂「おそまつさまでした」

すべてて食べきり、皿の上にはなにも残っていなかった。
片づけを始める憂ちゃん。

朋也「俺も食器洗うの手伝おうか」

帰る前にそれくらいしていってもいいだろう。

憂「いえ、いいんです。岡崎さんはお客さんですから」

憂「それより、岡崎さん…」

ハンカチを取り出す。

憂「口の周り、ちょっとついてますよ。じっとしててくださいね」

朋也「ん…」

ふき取られていく。

憂「はい、綺麗になりました」

朋也「言ってくれれば、自分の手で拭ったのに」

憂「あ、ごめんなさい…お姉ちゃんにもいつもしてあげてるんで、つい」

朋也「いつも?」

憂「はい」

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:14:09.33 ID:cUBlBpOS0
あいつは…そんなことまでしてもらっているのか。
もしかして、妹に全局面で世話してもらってるんじゃないかと、そんな気さえしてきた。

朋也「…仲いいんだな」

憂「とってもいいですっ」

強く言う。主張したかったんだろう。
憂ちゃんは満足した顔で食器をひとつにまとめると、台所へ持っていった。

朋也(にしても…よくできた子だよな)

台所に立ち、洗い物をする憂ちゃんを見て思う。

朋也(ああ…憂ちゃんが俺の妹だったらな…)

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

声「お兄ちゃん、起きて。朝だよ」

朋也「…うぅん…あと半年…夏頃には起きる…」

声「セミの冬眠じゃないんだから。起きなさい」

勢いよく布団が剥がされる。

憂「おはよう、お兄ちゃん」

朋也「………」

424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:15:19.07 ID:1qYNd8dxO
憂「もう、うつ伏せになってベッドにしがみつかないでよ…」

朋也「眠いんだ」

憂「顔洗ってきたら?」

朋也「めんどくさい」

憂「じゃあ、どうやったら目が覚めてくれるの…」

朋也「いつものやつ、してくれ」

憂「え? いつものって?」

朋也「目覚めのちゅー」

憂「だ、だめだよ、そんなの…私たち兄妹なんだよ…?」

憂「それに、いつもって…そんなこと一度も…」

朋也「いいじゃないか。おまえが可愛いから、したいんだよ」

朋也「だめか…?」

憂「う…じゃ、じゃあ、絶対それで起きてね…?」

憂「ん…」

ほっぺたにくる。
俺は顔を動かして、唇に照準を合わせた。

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:15:37.79 ID:cUBlBpOS0
やわらかい感触が重なり合う。

憂「んんっ!?」

ばっと身を離す。

憂「な、なんで口に…」

朋也「とうっ」

ベッドから跳ね起きる俺。

朋也「憂っ! 憂っ!」

憂「あ、いやぁ、やめて、お兄ちゃん、だめだよぉ…」

憂「あっ…」

―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――

朋也(………)

朋也(いい…すごく…いい!)

俺は台所にいる憂ちゃんの背を目指して歩み寄っていった。

朋也「憂ちゃん…」

背後から声をかける。

426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:17:23.65 ID:1qYNd8dxO
憂「はい…?」

手を止めて振り返ってくれる。

朋也「俺の妹になってくれ」

憂「えぇ!? そ、それは…」

朋也「だめか?」

憂「いろいろと無理がありますよぉ」

自分でもそう思う。
だが、情熱を抑え切れなかった。

憂「それに、私にはお姉ちゃんがいますし」

朋也「…そうか」

憂「そ、そんなに落ち込まないでくださいよぉ」

憂「私、岡崎さんにそう言ってもらえて、うれしかったですから」

朋也「じゃあ、せめて、俺のことを兄だと思って、お兄ちゃんって呼んでみてくれ…」

憂「それで、元気になってくれますか?」

朋也「ああ」

憂「わかりました、それじゃあ…」

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:17:42.22 ID:cUBlBpOS0
すっと深呼吸する。

憂「お兄ちゃんっ」

まぶしい笑顔。首をかしげるというオプションつきだった。

朋也「…はは、憂はかわいいな。よしお小遣いをやろう」

財布から万札を抜き取る。

憂「わわっ、いいですよ、そんなっ。しまってくださいっ」

朋也「なに言ってるんだよ。俺たち、仲良し兄妹じゃないか」

憂「それは台本の上でのことですよっ、目を覚ましてくださぁいっ」

朋也「ハッ!…ああ、いや、悪い…本当の俺と、役の境目がわからなくなってたよ」

憂「もう…変な人ですね、岡崎さんって」

言って、笑う。俺も気分がいい。
素直に笑ってくれる年下の女の子というのは、新鮮だった。

朋也「なぁ、憂ちゃん。この後、予定あるか」

憂「え? そうですね…」

小首をかしげて考え込む。

憂「う~ん…夕飯の材料はもう買っちゃったし…とくにないですね」

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:18:48.93 ID:1qYNd8dxO
朋也「じゃあ、お兄ちゃ…いや、俺とどこか出かけないか」

今から寮に向かっても、春原が戻っている保証はない。
あの部屋でひとり過ごすくらいなら、そっちの方がよかった。

憂「いいんですか? 私となんかで」

朋也「憂ちゃんだから誘ってるんだよ」

憂「ありがとうございますっ。私も、岡崎さんに誘ってもらえてうれしいです」

朋也「それは、一緒に遊びに出てくれるって、そう取っていいのか」

憂「はい、もちろんです」

朋也「そっか。じゃあ、その洗い物が終わったら、出るか」

憂「はいっ」

―――――――――――――――――――――

食器の洗浄も済ませ、家を出た。
目的地はまだ決めていない。

朋也「どこにいく? 憂ちゃんの好きなところでいいぞ」

憂「いいんですか?」

朋也「ああ」

429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:19:09.45 ID:cUBlBpOS0
憂「それじゃあ、私、前から行ってみたい所があったんですけど…」

朋也「どこだ」

憂「商店街に新しくできた、ぬいぐるみとか、可愛い小物とかを売っているお店です」

憂「今、うちの学校の女の子の間で人気なんですよ」

朋也「ふぅん、そんなとこがあるのか」

憂「はい。だから、そこに付き合って欲しいです」

朋也「ああ、いいよ」

憂「ありがとうございますっ」

―――――――――――――――――――――

商店街までやってくる。
件の店はまだ真新しく、外観や内装が小綺麗だった。
ファンシーな看板を掲げ、手前には手書きの宣伝ボードが立てかけられてある。
店内には、所狭しと商品群が並べられていた。
客層は、この有りようからしてやはりというべきか、女性客ばかりだった。

憂「わぁ、ここですここですっ」

つくやいなや、目を輝かせてはしゃぎ出す憂ちゃん。

憂「いきましょ、岡崎さんっ」

430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:20:18.11 ID:1qYNd8dxO
朋也「あ、ああ…」

この中に男の俺が入っていくことに多少気後れしつつも、憂ちゃんに従った。

―――――――――――――――――――――

憂「うわぁ、かわいいっ」

憂ちゃんが立ち止まったのは、小さめのぬいぐるみが並べられたブロックだった。
デフォルメされ、丸みを帯びた動物キャラの頭部が手のひらサイズで商品化されている。
俺もひとつ適当なものを手に取ってみた。
ぐにゃり、と柔らかい感触がした。低反発素材でも使っているんだろうか。

憂「う~ん、でも、やっぱりないなぁ…」

朋也「なんか探してるのか」

憂「はい…」

持っていたぬいぐるみを棚に戻し、俺に向き直る。

憂「岡崎さん、だんご大家族って覚えてます?」

朋也「ああ、けっこう鮮明に」

それは、最近思い出す機会があったからなのだが。

憂「ほんとですか? よかったです、覚えててくれて」

憂「あれ、かわいいですよねっ」

431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:20:41.35 ID:cUBlBpOS0
朋也「ん、まぁ、多分な」

一応同意の姿勢だけは見せておく。

憂「でも、もうかなり前にブームが終わっちゃったじゃないですか」

憂「それで、世間からも忘れられちゃってて…」

憂「それでも、私もお姉ちゃんも、いまだに好きなんですよ、だんご大家族」

憂「だから、この小さな手のひらシリーズにないかなぁって、思ったんですけどね」

需要が無くなったことを知っていてなお探すんだから、想いもそれだけ深いんだろう。

朋也「じゃあ、こういうのはどうだ」

俺はうさぎの頭を棚から拾い上げた。

朋也「ほら、これの耳ちぎって、凹凸無くしてさ」

朋也「シルエットだけなら、だんごに見えなくもないだろ」

憂「そ、そんな残酷なことしてまで欲しくないですよぉ」

朋也「そうか? じゃあ、これを三つくらい買って、串で刺して繋げるのはどうだ」

憂「さっきのと接戦になるくらい残酷ですっ」

朋也「なら、これを…」

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:21:48.14 ID:1qYNd8dxO
憂「も、もういいですっ、気持ちだけ受け取っておきます…」

朋也「これを、憂ちゃんの鼻の穴に詰めてみよう、って言おうとしたんだけど…」

朋也「その気持ち、受け取ってくれるのか?」

憂「…岡崎さん、もしかして、からかってます?」

朋也「バレたか」

憂「…意地悪ですっ」

ぷい、とそっぽを向かれてしまった。
やりすぎてしまったようだ。

―――――――――――――――――――――

その後、なんとか機嫌を取ることに成功し、また一緒に見て回った。
憂ちゃんが興味を示したコーナーに留まり、しばらく見たのち、移る。
そんなことを繰り返していた。

―――――――――――――――――――――

朋也(やべ…)

巡って回る内、俺の目に見かけたことのある顔が留まった。
同じクラスの女たちだった。何人かで固まって、楽しげに店内を闊歩している。
そういえば、憂ちゃんが言っていた。
この店は今、うちの学校の女に人気があると。
なら、こういうブッキングをすることだって、十分ありえたのに…うかつだった。

433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:22:16.22 ID:cUBlBpOS0
俺がこんな店に出入りしているなんて思われたら、たまったもんじゃない。
その情報が春原の耳に入った日には…想像もしたくない。
俺は壁にぴったりと張りついてやりすごすことにした。

憂「岡崎さん、なにをやってるんですか?」

背中から憂ちゃんの声。

朋也「いや…知ってる顔がいたから、ちょっとな…」

憂「ああ…恥ずかしいんですね」

朋也「まぁ…そういうことだ」

憂「じゃあ…これを被って変装してください」

俺になにか手渡してくる。

朋也「お、サンキュ」

後ろ手に受け取って、それを目深に被った。

朋也(これでなんとかなるかな…)

声さえ聞かれなければ、制服を着ているわけでもなし、他人の空似で受け流してくれるかもしれない。
そうなってくれることを願いながら、俺は向き合っていた壁から離れた。

憂「よく似合ってますよ」

振り向きざまに第一声。

435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:23:25.20 ID:1qYNd8dxO
朋也「そうか?」

しかし、俺はなにを被ったんだろう。
なにも考えず、機械的に被ってしまったからな…。

憂「ご自分でも、鏡で確認してみたらどうですか?」

俺の目線より少し下、そこに小さな鏡が置かれていた。
覗いてみる。

朋也「…これ」

ネコミミ付きフードだった。

憂「あはは、かわいいです、岡崎さん」

朋也「…おまえな」

憂「さっきのお仕返しです。罰として、ここにいる間ずっと被っててくださぁい」

朋也「…はぁ」

これじゃ、顔は隠せても余計目立つことになってしまう…。

朋也「ほかにマシなの、なんかないのか」

憂「ありますよぉ。イヌミミがいいですか? それとも、ウサミミがいいですか?」

朋也「そんなのしかないのかよ…」

436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:24:02.16 ID:cUBlBpOS0
憂「ふふ、ここはそういうお店ですよ?」

そうだったな…。
仕方なく、俺は憂ちゃんの罰ゲームに従った。

―――――――――――――――――――――

憂「あ、これ、かわいいなぁ…買っちゃおうかなぁ…」

やってきたのは、携帯ストラップの陳列棚。
俺とは縁のない場所だ。

憂「う~ん、でも、こっちも捨てがたいし…」

憂「岡崎さん、これとこれ、どっちがいいと思いますか?」

両手にそれぞれ別の商品を持って、俺に意見を求めてくる。

朋也「う~ん…俺はこれがいいかな」

そのどちらも選ばずに、俺は新たに棚から取り出した。

朋也「この、『ごはんつぶ型ストラップ』って、なんかよくないか」

憂「えぇ? なんですか、それ?」

朋也「なんか、携帯にご飯粒がついているように演出できるらしいぞ」

憂「いやですよぉ、そんなの…常に、さっきご飯食べてきたよって感じじゃないですか…」

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:25:15.82 ID:1qYNd8dxO
朋也「いやか?」

憂「はい」

なかなかおもしろいと思ったのだが…。
しぶしぶ元の場所に納める。

憂「これかこれ、どっちかで言ってください」

再び俺の前に掲げてくる。

朋也「う~ん…じゃあ、そっちの、クマの方で」

憂「クマさんですか? じゃあ、こっち買っちゃおうかな…」

朋也「待て。買うなら、払いは俺がする」

憂「え? 悪いですよ、そんな…」

朋也「いや、ここで好感度を挽回しておきたいんだ。序盤で失敗しちまったからな」

憂「そんなこと気にしてたんですか…」

朋也「ああ。だから、俺にまかせろ」

憂「ふふ、じゃあ…お言葉に甘えて」

朋也「よし」

―――――――――――――――――――――

438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:25:37.32 ID:cUBlBpOS0
ストラップをレジに通し、店を出た。
ついでに、ネコミミフードも買っていった。
長いこと被っていて、買わずに出るのもためらわれたからだ。

憂「いいんですか? こっちも、もらっちゃって…」

朋也「ああ、いいよ。俺が持ってても仕方ないしな」

俺はストラップと一緒に、フードも譲っていたのだ。

憂「でも、これ、けっこう高かったですよね…?」

朋也「ああ、大丈夫。まだ余裕あるから」

憂「岡崎さん、アルバイトでもしてるんですか?」

朋也「まぁ、前はしてたけど、今はやってないな」

朋也「でも、この前単発で、でかいの一個やったっていうか…あぶく銭みたいなもんだから、気にすんなよ」

ぽむ、と頭に手を置く。

憂「あ…はいっ」

にっこりと微笑んでくれる。

憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」

朋也(う…)


439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:26:50.95 ID:1qYNd8dxO
胸が高鳴る。破壊力抜群だった。

朋也「…うん」

憂「あはは、…うん、って。岡崎さん顔真っ赤です」

朋也「…憂ちゃんがいきなり妹になるからだ」

憂「ごめんなさぁい」

いたずらっぽく言う。

朋也(さて…)

店の中に居る時はわからなかったが、外はもう陽が落ち始め、ほんのりと暗くなっていた。
それだけ時間を忘れて見回っていたのだ。
おそるべし、ファンシーショップ…。
まぁ、入店したのが三時半あたりだったので、実際それほどでもないのかもしれないが。

朋也「もう、帰らなきゃだよな、憂ちゃんは」

憂「はい、そうですね。帰ってお夕飯作らないと…」

朋也「なら、送ってくよ。もういい時間だしな」

憂「ほんとですか? ありがとうございますっ」

―――――――――――――――――――――

平沢家。その門前まで帰り着く。

440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:27:12.99 ID:cUBlBpOS0
朋也「じゃあな」

憂「はいっ。今日はありがとうございました」

別れの挨拶も済ませ、立ち去ろうと踵を返す。

唯「あれ? 岡崎くんだ」

朋也「よお」

そこへ、ちょうど平沢が帰宅してきた。

唯「どうしたの? うちになにか用?」

憂「私を送ってきてくれたんだよ、お姉ちゃん」

唯「送ったって? 憂を? 代引きで?」

憂「Amaz○n.comじゃないんだから…」

憂「あのね、岡崎さんと一緒に出かけてて、それで、もう暗いからって送ってきてくれたの」

唯「えぇ!? 岡崎くんと遊んでたの?」

憂「ちょっと付き合ってもらってたんだ。ほら、あの商店街に新しくできたお店あるでしょ?」

憂「あそこに、ついてきてもらってたの」

唯「えぇっ!? っていうか、なんでもうそこまで仲良くなってるの?」

441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:28:58.75 ID:1qYNd8dxO
唯「そうだよぉ。『ああ』とか、『好きにしろよ…』とかしか言わないし…」

俺を真似た部分だけ声色を変えて言った。

唯「最近になって、ようやくちょっと心開いてくれたかなぁって感じだよ」

唯「なのに、憂とは初日から遊びに行くまでになってるし…これは差別だよっ」

唯「悪意を感じるよっ」

憂「お姉ちゃん…あんまりお兄ちゃんを責めないであげて」

朋也(ぐぁ…)

唯「…お兄ちゃん?」

平沢が訝しげな顔になる。

朋也「今はやめてくれっ」

憂「ふたりっきりの時だけしかそう呼んじゃだめなの? お兄ちゃん?」

朋也「だぁーっ! だから、やめてくれぇ、憂ちゃんっ!」

唯「…ふたりっきりの時? 憂…ちゃん?」

442 名前:ミス[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:29:53.49 ID:cUBlBpOS0
唯「私と初めて会ったときは、すっごく冷たかったのにぃ…」

朋也「そうだっけ」

唯「そうだよぉ。『ああ』とか、『好きにしろよ…』とかしか言わないし…」

俺を真似た部分だけ声色を変えて言った。

唯「最近になって、ようやくちょっと心開いてくれたかなぁって感じだよ」

唯「なのに、憂とは初日から遊びに行くまでになってるし…これは差別だよっ」

唯「悪意を感じるよっ」

憂「お姉ちゃん…あんまりお兄ちゃんを責めないであげて」

朋也(ぐぁ…)

唯「…お兄ちゃん?」

平沢が訝しげな顔になる。

朋也「今はやめてくれっ」

憂「ふたりっきりの時だけしかそう呼んじゃだめなの? お兄ちゃん?」

朋也「だぁーっ! だから、やめてくれぇ、憂ちゃんっ!」

唯「…ふたりっきりの時? 憂…ちゃん?」

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:32:12.83 ID:1qYNd8dxO
唯「………」

じと~っとした目を向けられる。

唯「…中で詳しく聞こうか」

こぶしを作り、親指で自宅を指さす。
その顔は、あくまで笑顔だったが…それが逆に怖い。

―――――――――――――――――――――

唯「ふぅん、岡崎くんってそんな趣味だったんだ?」

テーブルにつき、説教される子供のように俺は正座していた。

唯「そんなこと、言ってくれれば私がしてあげたのに…」

朋也「いや、おまえ、タメじゃん。リアルじゃないっていうか…」

唯「失礼なっ! 私、妹系ってよく言われるのにっ」

朋也「じゃ、一回やってみてくれよ」

唯「いいよ? じゃ、いきます…」

こほん、と咳払い。

唯「お兄ちゃんっ」

満面の笑顔。

445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:33:04.41 ID:cUBlBpOS0
両手を開き、俺の前に突き出している。

朋也「なんか、違うんだよな…」

唯「むぅ、なにが違うのっ」

朋也「いや、そのポーズとかさ…なんだよ」

唯「庇護欲を煽るポーズだよ」

朋也「そういう計算が目に付くんだよなぁ…それに、全体の総量として妹力が足りない感じだ」

朋也「まぁ、おまえは、どこまでいっても姉だな」

唯「それはその通りだけど…なんか悔しい…」

朋也「まぁ、そういうわけだからさ。俺、帰るな」

赤裸々に語ってしまった恥ずかしさもあり、早くこの場を去りたかった。

唯「まぁ、待ちなよ。せっかくだから、一緒に夕飯してこうよ」

朋也「いや…」

唯「う~い~、岡崎くんのぶんも夕飯作ってくれるよね~?」

被せるようにして、台所で作業する憂ちゃんへ声をかけた。

憂「岡崎さんがそれでいいなら、作るよ~」

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:36:29.88 ID:1qYNd8dxO
向こうからは好意的な返答が届く。

唯「だってさ。どうする? おにいちゃん」

朋也「だから、それはもうやめろっての…」

朋也(でも、どうするかな…)

いや…もう答えは出ている。
コンビニ弁当なんかより、憂ちゃんの手料理の方がいいに決まってる。

朋也「俺の分も頼んでいいか、憂ちゃん」

あまりまごつくことなく、俺は注文を入れていた。

憂「は~い、まかせてくださぁい」

二つ返事で引き受けてくれる。

唯「うん、素直でよろしい」

朋也「そりゃ、どうも」

唯「ところでさ、なんで憂にはちゃんづけなの?」

朋也「年下だし、苗字だと、おまえと被るからな」

唯「えぇ、そんな理由? なら、私も唯ちゃんって呼んでよっ」

朋也「アホか」

447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:36:51.24 ID:cUBlBpOS0
唯「私も朋ちゃんって呼ぶからさっ。そうしよ?」

朋也「ありえないからな…」

唯「ちぇ、けち~…いいもん、別に。私にはギー太がいるから」

言って、横に置いてあったケースからギターを取り出した。

唯「だんごっ、だんごっ」

ギターを弾きながら歌いだす。
それは、俺も聞いたことのある、だんご大家族のテーマソング。
だが、オリジナルとは違い、曲調が激しかった。

唯「だんごっ、大家族ぅ、あういぇいっ!」

ロック風にアレンジしていた。

唯「岡崎くんも、サビはハモってよぅ、あういぇいっ!」

サビなんて知らない。
とりあえず、適当にだんごだんご言って合わせておいた。

―――――――――――――――――――――

憂「お待ちどうさま~」

憂ちゃんがお盆に料理を乗せて運んできてくれる。
まずは前菜のようだった。

449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:41:03.00 ID:cUBlBpOS0
唯「わぁ、肉じゃがだぁ」

憂「はいお姉ちゃん」

平沢に手渡す。

唯「ありがと~」

憂「岡崎さんも」

朋也「ああ、サンキュ」

俺も受け取った。
最後に自分の座る位置に置くと、また台所へ戻っていった。

朋也「おまえは料理したりしないのか」

唯「ん? しないけど」

朋也「じゃあ、おまえ、家事は掃除とかやってるのか」

唯「それも、憂だよ?」

朋也「なら、おまえはなにをやってるんだよ」

唯「私はね、生きてるんだよ」

朋也「あん?」

そりゃ、死んでるようにはみえないが。

450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:43:23.32 ID:1qYNd8dxO
投下ミスとかしてない俺?つなぎ目が不自然だったり話が飛んでるとこあったらおせーてね

453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:45:22.97 ID:cUBlBpOS0
今のとこOK? 大丈夫かな…? 

455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:47:11.84 ID:1qYNd8dxO
唯「だからね、私は生きてるから…いいんだよ…」

つまり、なにもしてないということか…。

朋也「神秘的に言うな。憂ちゃんに全部やらせてるだけだろ」

唯「ぶぅ、だって憂がやったほうが全部上手くいくんだもん」

唯「私が掃除しても、逆に、変な取れないシミとかついちゃうし…」

唯「料理だって、やってたら、電子レンジの中でアルミホイルが放電したりするんだよ?」

それは料理の腕とはあまり関係ない。常識の問題だった。

朋也「ほんと、おまえ、憂ちゃんいてよかったな」

朋也「親御さん、家空けてること多いって聞いたけど、おまえ一人じゃ即死してたよ」

唯「そんな早く死なないよっ! 丸二日は持つもんっ!」

延命するにしても、そう長くは持たないようだった。

憂「はい、これで最後だよ~」

今度は焼き魚と、人数分のコップ、そして麦茶を持ってきてくれた。
先程と同様、俺たちに配膳してくれる。最後に自らのぶんを揃え、食卓が整った。

唯「じゃ、食べようか」

ぱんっ、と手を合わせる。

456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:47:36.82 ID:cUBlBpOS0
憂ちゃんもそれに倣った。

唯「いただきます」
憂「いただきます」

綺麗に声が重なる。

朋也「…いただきます」

俺も若干遅れて同じセリフを言った。
こんなこと、かしこまってやるのはいつぶりだろう。
少なくとも、うちではやったことがない。
小学校の給食の時間以来かもしれない。

唯「ん~、おいしい~」

憂「ほんと? ありがと、お姉ちゃん」

唯「憂の料理はいつもおいしいよぉ。お弁当もね」

憂「えへへ」

仲良く会話する姉妹。
本来ならここに両親が居て、一緒に食事をして…
それで、その日学校であったことなんかを話すんだろうか。
そういった光景があるのが、普通の家族なんだろうか。
俺にはわからなかった。
ただ…
無粋な俺なんかが、土足で踏み込んでいい場所じゃないことは漠然とわかる。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:48:51.77 ID:1qYNd8dxO
唯「どうしたの? 岡崎くん。ぼーっとしちゃって」

朋也「いや…なんでもないよ」

言って、肉じゃがを口に放り込む。

朋也「うん…うまいな」

憂「ありがとうございますっ」

唯「私も料理勉強しようかなぁ…」

憂「お姉ちゃんならすぐできるようになるよ」

唯「ほんと? じゃあ、今度教えてよ」

憂「うん、いいよ。お姉ちゃんの今度は、今まで一度も来たことないけどね」

唯「あはは~、そうだっけ」

憂「ふふっ、うん、そうだよ」

ふたりとも同じように、えへへ、と笑いあう。
俺は箸を動かしながら、その様子をぼんやりと傍観していた。

―――――――――――――――――――――

唯「だいぶ遅くなっちゃったね」

平沢が玄関の先まで見送りに来てくれる。

459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:49:19.90 ID:cUBlBpOS0
憂ちゃんは中で後片付け中だ。

朋也「そうだな。長居しちまった」

あの場は本当に居心地がよく、離れることがひどくためらわれた。
それは、なんでだろう。
あの感覚はなんだったんだろう。

唯「どうせなら、泊まってく?」

朋也「馬鹿。んなことできるかよ」

唯「なんで? 明日は休みだし、みんなでサッカーする日だよ?」

唯「ちょうどいいじゃん」

朋也「そういうことじゃなくて…」

男を泊める、というその意味に、なにか感じるところはないのだろうか。
それとも、俺がそんな風に見られていないだけなのか。

朋也「とにかく、もう、帰るよ」

唯「ちぇ、つまんないなぁ…」

朋也「じゃあな」

唯「うん、また明日ねっ」

―――――――――――――――――――――

460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:50:56.22 ID:1qYNd8dxO
平沢家で過ごしていた今さっきまでの時間。
それが別世界の出来事に思われるような、あまりに違いすぎる空気。
気分が重くなる。
ただ、静かに眠りたい。

朋也(それだけなのにな…)

―――――――――――――――――――――

居間。
その片隅で、親父は背を丸めて、座り込んでいた。
同時に激しい憤りに苛まされる。

朋也「なぁ、親父。寝るなら、横になったほうがいい」

やり場の無い怒りを抑えて、そう静かに言った。

親父「………」

返事は無い。
眠っているのか、ただ聞く耳を持たないだけか…。
その違いは俺にもよくわからなくなっていた。

朋也「なぁ、父さん」

呼び方を変えてみた。

親父「………」

ゆっくりと頭を上げて、薄く目を開けた。

461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:51:37.98 ID:cUBlBpOS0
そして、俺のほうを見る。
その目に俺の顔はどう映っているのだろうか…。
ちゃんと息子としての顔で…

親父「これは…これは…」

親父「また朋也くんに迷惑をかけてしまったかな…」

目の前の景色が一瞬真っ赤になった。

朋也「………」

そして俺はいつものように、その場を後にする。

―――――――――――――――――――――

背中からは、すがるような声が自分の名を呼び続けていた。
…くん付けで。

―――――――――――――――――――――

こんなところにきて、俺はどうしようというのだろう…
どうしたくて、ここまで歩いてきたのだろう…
懐かしい感じがした。
ずっと昔、知った優しさ。
そんなもの…俺は知らないはずなのに。
それでも、懐かしいと感じていた。
今さっきまで、すぐそばでそれをみていた。
温かさに触れて…俺は子供に戻って…
それをもどかしいばかりに、感じていたんだ。

462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:53:10.75 ID:1qYNd8dxO
………。

「だんごっ…だんごっ…」

近くの公園から声がした。
それは、今となってはもう耳に馴染んでいた声音。
平沢だった。
あんなところでなにをしているんだろう。
俺はその場に呆然と立ちつくし、動くことができなかった。
そうしている内、平沢が俺のいる歩道に目を向けた。
こっちに気づいたようで、小走りで寄ってくる。

唯「あ、やっぱり岡崎くんだ。どうしたの? うちに忘れ物?」

朋也「いや、別に…」

唯「じゃあ…深夜徘徊?」

内緒話でもするように、ひそっと俺にささやいてくる。

朋也「馬鹿…そんなわけあるか」

もう俺は冷静だった。

朋也「ただ、帰るには時間が早すぎたからさ…」

唯「えー? もうお風呂あがって、バラエティ番組みててもおかしくない頃だよ?」

朋也「俺にとっては早いんだよ。いつも夜遊びしてるような、不良だからな」

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:53:36.40 ID:cUBlBpOS0
唯「またそんなこと言ってぇ…」

朋也「おまえのほうこそ、こんなとこでなにやってたんだよ」

唯「ん? 私はね、歌の練習だよ」

朋也「こんな時間に、しかも外でか」

唯「うん」

朋也「それ、近所迷惑じゃないのか」

校則さえまともに守れない俺が言うのも違う気がしたが。

唯「大丈夫だよ。ご近所さんはみんな甘んじて受け入れてくれてるから」

朋也「そら、懐の深い人たちだな」

唯「私が小さかった頃から知ってるからかなぁ…みんな優しいんだよ」

唯「とくに、渚ちゃんとか、早苗さんとか、アッキーとか…古河の家の人たちはね」

そんな名前を出されても、俺にはピンと来ない。

朋也「そっか…」

朋也「なら、がんばって練習してくれ」

言って、歩き出す。


464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:54:45.33 ID:1qYNd8dxO
唯「あ、岡崎くんっ」

朋也「なんだよ」

立ち止まる。

唯「これからまだどこかにいくの?」

朋也「ああ、そうだよ」

唯「あした、体大丈夫?」

朋也「まぁ、多分な」

唯「っていうか、平日とかも、それで辛くないの?」

唯「いつも、すごく眠そうだし…」

唯「やっぱり、夜遊びはやめといたほうがいいんじゃないかな」

朋也「いいだろ、別に。不良なんだから」

唯「それ、本当にそうなのかな。今でも信じられないよ」

唯「岡崎くん、全然不良の人っぽくないし…」

朋也「中にはそういう不良もいるんだ」

唯「前に、お父さんと喧嘩してるって言ってたよね?」

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:55:04.59 ID:cUBlBpOS0
唯「それで、喧嘩が原因で、肩も怪我しちゃったって…」

唯「それと関係ないかな?」

唯「お父さんと顔を合わせないように、深夜になるまで外を出歩いて…」

唯「それで、遅刻が多くなって、みんなから不良って噂されるようになって…」

唯「違う?」

なんて鋭いのだろう。
あるいは、安易に想像がつくほど、俺は身の上を話してしまっていたのか。

朋也「違うよ」

俺は肯定しなかった。こいつの前では、悩みの無い不良でいたかった。

唯「本当に、違う?」

朋也「まだお互いのことよく知らないってのに…よくそんな想像ができるもんだな」

唯「できるよ。そうさせるのは…岡崎くん自身だから」

唯「きっと、なにか理由があるんだって、そう…」

唯「そう思ったんだよ」

朋也「もし、そうだとしたら…」

朋也「おまえはどうするつもりなんだ」

466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:56:29.43 ID:1qYNd8dxO
訊いてみた。

唯「岡崎くんは、私が遅刻しないように、いつも頑張って早くきてくれるから…」

唯「私も、それに応えてあげたい」

唯「できるなら、力になってあげたいよ」

朋也「親父に立ち向かえるように、か…?」

唯「それはダメだよ。立ち向かったりしたら…分かり合わないと」

朋也「どうやって」

唯「それは…」

唯「すごく時間のかかることだよ」

朋也「だろうな。長い時間がいるんだろうな」

朋也「俺たちは、子供だから」

俺は遠くを見た。屋根の上に月明かりを受けて鈍く光る夜の雲があった。

唯「もしよければ…うちにくる?」

平沢がそう切り出していた。
それは、短い時間で一生懸命考えた末の提案なんだろう。

唯「少し距離を置いて、お互いのこと、考えるといいよ」

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:56:50.13 ID:cUBlBpOS0
唯「ふたりは家族なんだから…だから、距離を置けば、絶対にさびしくなるはずだよ」

唯「そうすれば、相手を好きだったこと思い出して…」

唯「次会った時には、ゆっくり話し合うことができると思う」

唯「それに、ちゃんと夜になったら寝られて、朝も辛くなくなるよ」

唯「一石二鳥だね」

唯「どうかな、岡崎くん」

唯「岡崎くんは、そうしたい?」

朋也「ああ、そうだな…」

朋也「そうできたら、いいな」

唯「じゃ、そうしよう」

事も無げに言う。

朋也「馬鹿…」

朋也「おまえは人を簡単に信用しすぎだ」

近づいていって、頭に手を乗せる。

唯「ん…」

468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:57:49.29 ID:1qYNd8dxO
くしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。

朋也「じゃあな。また明日」

唯「あ…うん」

背中を向けて歩き出す。
俺は支えられた。あいつによって。
いや、支えられた、というのは違うような気がする。
あいつはただ、そばにいただけだったから。
でも、それだけで、俺は自分を取り戻すことができた。
同じようなことが前にもあった気がする。
不思議な奴だと…そう、胸の内で感じていた。

―――――――――――――――――――――

469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:58:13.63 ID:cUBlBpOS0
4/18 日

目が覚めたのは、昼に程近いが、一応午前中だった。
久しぶりにゆっくり寝られたので、気分がいい。
布団からも未練なく抜け出せた。
その勢いに乗り、スムーズに洗顔と着替えも済ませた。
そして、その他諸々の用意が出来ると、すぐに家を出た。

―――――――――――――――――――――

適当なファミレスで食事を済ませ、退店する。
腕時計を見ると、待ち合わせの時間まであと30分だった。
ここからなら、歩いても十分間に合うだけの猶予がある。
それがわかると、俺は学校へと足を向け、悠長に歩き出した。
少し進んだところで、前方よりバスが走り去っていった。
今降りてきたであろう乗客の集団も、ばらけ始めている。
その中に、周囲とは異質な雰囲気が漂う女の子の姿を見つけた。

朋也(お…琴吹だ)

動きやすそうな服装で、バスケットと水筒を手に持っていた。
歩きながら見ていると、どうやら俺と同じ方向に進んでいるようだった。
あいつも、これから集合場所に向かうところなのだろう。
………。

朋也(まぁ、後ろつけてくのもなんだしな…)

俺は小走りで琴吹のもとへ駆け寄っていった。

朋也「よ、琴吹」

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 18:59:27.73 ID:1qYNd8dxO
追いつき、横から声をかける。

紬「あら、岡崎くん。こんにちは」

朋也「ああ、こんちは」

紬「岡崎くんも、これから学校?」

朋也「ああ、そうだよ。おまえもだよな?」

紬「うん、そうよ」

朋也「じゃ、そんな遠くないし、一緒にいかないか」

紬「あ、いいねっ、それ。手をつないだりして、仲良くいきましょ?」

朋也「いや、手って…」

少しドモり気味になってしまう。

紬「ふふ、冗談、冗談」

くすくすと笑う。

朋也(はぁ…なに焦ってんだ俺…)

こいつを前にすると、どうも調子が狂ってしまう。

471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 18:59:58.17 ID:cUBlBpOS0
―――――――――――――――――――――

朋也「そういえばさ、おまえ、先週日曜バイトしてたよな」

朋也「それも、このくらいの時間帯にさ。今日もあったんじゃないのか」

紬「うん、そうなんだけどね。シフト代わってもらったの」

朋也「昨日の今日でよく都合がついたな」

紬「うん、まぁ、ちょっと無理いってお願いしたんだけどね」

朋也「無理にか。なんでまた」

紬「私も、みんなと遊びたかったから」

シンプルな理由。
動機としてはいびつな部類なんだろうけど、こいつが言うとまっすぐに見えた。

紬「もう三年生だし、こういう機会もどんどん減っていくと思うの」

紬「だから、思いっきり遊べる時間を大切にしたくて」

朋也「そっか…」

そう、今年はもう受験の年だ。
気合の入った奴なんかは、今の時期から休み時間にも単語カードをめくっている。
部活をしている奴だって、引退すれば即受験モードに入るだろう。
こいつら軽音部も、どこかで区切りがつけばそうなるはずだ。
大会のようなものがあるのかは知らないが、どんなに長くても秋ぐらいまでだろう。

472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:01:29.49 ID:1qYNd8dxO
それを考えると、本当に、今だけなのだ。
まぁ、それも、俺や春原にとってはなんの関係もない話だが。
きっと俺たちは最後までだらしなく過ごしていくことになるんだろうから。

朋也「でも、それならバイトなんかやめて時間作ればいいんじゃないのか」

紬「う~ん、でも、せっかく慣れてきたから、もう少し続けたくて…」

紬「それに、少しでもお金は自分で稼いだものを使いたいから」

朋也「おまえ、小遣いとかもらってないのか」

紬「アルバイトを始めてからはもらってないかなぁ」

朋也「へぇ…なんか、生活力あるな、おまえ」

紬「そう? ありがとう」

本当に、見上げたお嬢様だった。
そのバイタリティはどこからくるんだろう。

朋也(庶民の俺も見習うべきなんだろうな、きっと)

―――――――――――――――――――――

唯「あ、岡崎くん、ムギちゃんっ」

律「お、来たか」

紬「お待たせ~」

473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:01:48.77 ID:cUBlBpOS0
校門の前、雑談でもしていたんだろうか、輪になって固まっていた。
メンバーは、軽音部の連中に加え、憂ちゃんと、真鍋がいた。
春原はまだ来ていないようだ。

憂「こんにちは、紬さん、岡崎さん」

紬「こんにちは、憂ちゃん」

朋也「よう」

律「岡崎、あんた憂ちゃんともよろしくやってるんだってな」

朋也「よろしくって…なにがだよ」

律「とぼけんなって。一緒に買い物出かけたんだろ、きのう」

また、知られたくない奴の耳に入ってしまったものだ…。
きっと、談笑中にでも先日のことが話の種となってしまったんだろう。
さっきから中野に冷たい視線を向けられているのも、それが理由に違いない。

律「やるねぇ、姉妹同時攻略か?」

朋也「おまえ、ほんとそういう話にするの好きな」

律「んん? 実際そうなんじゃないんですかぁ?」

朋也「違うっての…つーか、もういいだろ、このやり取り」

律「あんたがイベント起こすから悪いんだろぉ、このフラグ系男子め」


474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:03:04.12 ID:1qYNd8dxO
そんなジャンルはない。

唯「ねぇ、りっちゃん。攻略って、なに? 弱点でも突いて一気にたたみかけるの?」

律「そんな、敵のHPを削る有効な攻撃のことじゃないって」

律「いいか? ここでいう攻略というのはだな、ずばり…」

ぐっと腕に力を入れる。

律「ヒロインをいかに自分のものにするか、ということだ!」

唯「ヒロイン?」

律「ああ。この場合ヒロインはおまえと憂ちゃんってことになるな」

唯「ふむふむ。それで?」

律「おまえの好感度は十分だと踏んだ岡崎は、次のヒロイン、憂ちゃんに移行したんだ」

律「それで、一緒に買い物に行き、フラグを立てた」

律「ゆくゆくは憂ちゃんの好感度もMAXにして、自分に惚れさせる」

律「そして、おまえと憂ちゃんを同時に手に入れて、ハーレムエンド、ってとこかな」

言いたい放題言われていた。

唯「おお、すごいねっ!…って、えぇ!?」

475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:03:25.11 ID:cUBlBpOS0
唯「岡崎くん、今のマジなの!?」

朋也「だから、違うっつの…」

唯「だよね、岡崎くんはそんな人じゃないよね」

律「ずいぶん信頼されてんなぁ。じゃ、憂ちゃんはどうなの」

憂「私ですか?」

律「うん。岡崎が彼氏って、どう?」

憂「そうですね…そうだったら、楽しいと思います」

律「おお!? 脈アリだ?」

梓「………」

中野の視線が鋭さを増す。
憂ちゃんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいが、この局面では複雑だ…。

憂「でも、岡崎さんは、お兄ちゃんですから」

朋也(ぐぁ…ここにきて…)

律「…お兄ちゃん?」

憂「はいっ。ね、お兄ちゃん?」

朋也「あ…いや…」

476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:04:42.61 ID:1qYNd8dxO
憂「…お兄ちゃん、私のこと嫌い?」

朋也「いや…好きだよ…」

ああ…俺はなにを言ってるんだ…

憂「ありがとう、お兄ちゃんっ」

場が凍りついているのがはっきりとわかる…
終わりだ…俺はもう…

DEAD END

朋也(んなアホな…)

律「…まぁ、なんだ…そういう趣味か」

朋也「い、いや、待て、説明させてくれっ」

律「言い訳があるんなら、聞いてやるよ。最後にな」

朋也(最後ってなんだよ、くそっ…)

朋也「あー、えっと、そうだな…」

必死に頭の中で言葉を紡ぎだす。

朋也「俺、ひとりっこでさ、だから、そういう兄妹とかに憧れがあったっていうか…」

俺はしどろもどろになりながらもなんとか弁明した。

477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:05:01.00 ID:cUBlBpOS0

律「ふーん、それで憂ちゃんに頼んだってことね」

朋也「ああ、そうだよ」

憂「ごめんなさい、少し悪乗りしちゃいました」

朋也「もうお兄ちゃんは今後禁止だ」

憂「はぁい」

律「ま、それでもかなり引くけどな」

朋也「ぐ…」

唯「でも、岡崎くんがお兄ちゃんってよくない?」

律「いや、全然」

唯「えー、そうかなぁ。私はいいと思うんだけどなぁ…」

唯「ね、お兄ちゃんっ」

腕に絡んでくる。

朋也「あ、おい…」

憂「あ、お姉ちゃんずるいっ」

もう片方も取られてしまう。

478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:06:13.03 ID:1qYNd8dxO
朋也「おい、憂ちゃ…」

梓「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

突然奇声を発し、肩を怒らせずんずんとこちらに近づいてくる。

梓「えいっ!」

唯「うわぁっ」

憂「きゃっ」

無理やり平沢姉妹を俺から引き離し、距離をとった。

梓「唯先輩、あんな人に近づいちゃだめですっ!」

唯「え、でも…」

梓「だめったらだめなんです! あの人は…変態です!」

唯「そ、そんなこと…」

梓「あります! だから、だめです!」

唯「あ、あう…」

梓「憂も!」

憂「梓ちゃん、こわいよぉ…」

479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:06:38.09 ID:cUBlBpOS0
梓「いいから、返事は!?」

憂「う、は、はい…」

俺は呆然と、その力強く説き伏せられている様子を遠くから眺めていた。

律「はっは、変態だってよっ」

朋也「………」

律「ま、元気出せって、ははっ」

笑いながら、ぱんっと肩を叩き、中野たちがいるところまで歩いていった。

朋也「……はぁ」

思いのほかヘコむ。

澪「あの…」

朋也「…なんだよ」

澪「梓が失礼なこと言って、すいません」

朋也「ああ…まぁ、しょうがねぇよ、言われても」

澪「そんな…梓はただ嫉妬してるだけっていうか…そんな感じなんだと思います」

朋也「嫉妬?」

480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:08:50.70 ID:1qYNd8dxO
澪「はい。梓は、唯にかなり可愛がられてましたから…」

澪「それで、岡崎くんに唯を取られちゃうんじゃないかって、多分そう思ったんだと…」

紬「確かに、それはあるかもしれないわね」

朋也「はぁ…」

澪「だから、あの…元気出してくださいね」

よほど落ち込んでいるように見えたのか、そう励ましてくれた。

朋也「ああ、サンキュな。ちょっと救われた」

少し大げさに立ち直った風を装う。
一応、俺なりに礼儀をわきまえたつもりだ。

澪「あ、そ、それはよかったです…」

恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
割と顔を合わせているのに、まだ慣れないんだろうか。
それとも、俺が苦手なのか…。

紬「それにしても、あんなに取り乱す梓ちゃん、初めて見たわぁ…あんな梓ちゃんも、可愛くていいかも」

紬「それに、岡崎くんにじゃれついてる時の唯ちゃんも、憂ちゃんも可愛いし…」

紬「岡崎くんにはもっと頑張ってもらわなきゃねっ」

くすくす笑いながら、おどけたように言う。

481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:09:15.63 ID:cUBlBpOS0
朋也(なにをだよ…)

つんつん、と背中をつつかれる。

朋也「あん?」

和「で、どっちが本命なの? 唯? 憂?」

真鍋がひそひそと語りかけてきた。

和「あなたに唯を推した身としては、まず二股なんて許さないから」

朋也「どっちでもねぇっての。つか、もうそういうのは勘弁してくれ」

和「そうしてほしいなら、さっさと結論を出しなさい」

朋也「結論って、おまえ…」

一度、深く息を吐く。

朋也「そもそも、そんなんじゃねぇからこそ、やめてほしいんだけどな」

和「あなたがそうでも、唯のほうは違うわよ」

朋也「いや、あいつもそんな気はないって言ってたぞ」

和「あの子自身、まだはっきりとは気づいてないだけよ」

朋也「なんでおまえがそんなことわかるんだよ」

482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 19:10:35.07 ID:1qYNd8dxO
和「幼馴染ですもの。唯のことはそれなりに観察してきたつもりよ」

朋也「だとしても、おまえ自身恋愛したことないんだろ?」

朋也「だったら、実体験に基づいてないぶん、説得力に欠けるよな」

朋也「そんなの、おまえらしくないんじゃないのか」

和「それは…そうだけど…」

朋也「仮に…仮にだぞ? 平沢がもしそうだったとしてもだ」

朋也「俺が誰かに促されて、あいつの気持ちが未整理のまま結論出されたりするのは嫌なんじゃないのか」

和「………」

しばし、沈黙する。

和「…そうね。私が間違ってたわ」

すっと身を離した。

和「煙に巻かれたようで、少しシャクだけどね」

朋也「そう言うなよ」

和「でも、やっぱりあなたはなかなか見所があるわ。どう? 例の話、考え直してみない?」

朋也「いや、ありがたいけど、その気はない」

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 19:10:56.21 ID:cUBlBpOS0
和「そう。ま、一度断られてるしね。いいんだけど」

そう言うと、俺から離れていった。
向こうからは、部長たちが何事か騒ぎながら戻ってきている。
また、騒がしくなりそうだった。

朋也「軽音部? うんたん?」-6に続きます

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