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とある暗部の心理掌握

1 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:03:45.66 ID:7ZLwxxI0 [1/9]
ただ一応前日譚として

垣根「常盤台破壊計画?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1272894563/
とりあえず設定としては、

一、スクールのメンバー「心理定規」の正体は、学園都市第5位の「心理掌握」
二、スクール入りした理由は、常盤台を襲った垣根帝督の記憶を操作して、監視するため
三、御坂を含めた常盤台の人や、スクールメンバーは記憶を改ざんされて上記の事を覚えていない
四、そのことを知っているのはアレイスターと上条さんだけ

以上を頭の片隅にでも置いていただければ十分です

最後に簡単な注意を

・このお話の時間軸は一応15巻より前ですが、細かく詰めると破たんするのでややアバウトです

・主人公は心理掌握と垣根帝督の2人になります

・作者が台本形式を苦手としているため、セリフの前に名前はつきません

・基本的にシリアスなので、ギャグはありません

これらの点を踏まえて、お付き合いしてくださる方はよろしくお願いします

2 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:04:44.33 ID:7ZLwxxI0

スクールの隠れ家


能力開発を特色とし、外と比較して数十年進んだ科学力を持つ学園都市――

その裏に潜む組織の一つ、《スクール》のリーダー、垣根帝督はイライラしながら電話していた。


「この俺に任せるにしては、随分チャチな仕事じゃねえか」

「そう言わずに、お願いしますよ」


学園都市第2位の憤りに対し、声色一つ変えずに答えるのはスクールの指示役、電話の男だ。

いや、正確な性別などは垣根たちスクールメンバーも知らないし、知る気もないのだが。


「…ちっ」

「分かった、詳しい資料を送れ」

「助かります、それでは」ピッ


垣根は電話を切ると、ソファーの上に寝っ転がってメールを待った。


3 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:05:31.40 ID:7ZLwxxI0

数分もしないうちにメールが届いたので、それを一瞥すると顔をしかめて

「下らねえ」

と呟いて携帯をテーブルに放り投げる。

それから5分ほどたって、この隠れ家に一人の少女が入ってきた。


「あら?…なんだお休み中?」

「いや、起きてる。つか仕事があんだけど」

「…まさか、私も?」


嫌そうな顔をして答えたのは、心理定規と呼ばれるスクールの正規メンバーだ。

彼女は人の心の距離を自由自在に調節できる、精神操作系能力者…という役割を演じている。

わずか数か月前までは表の世界にいながら、学校を守るために暗部にまで落ちた女王サマ。

かつて彼女はこう呼ばれていた…学園都市第5位、最強の精神操作系能力者――《心理掌握》と。


4 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:06:24.41 ID:7ZLwxxI0

「ああ。とりあえずその携帯に資料があるから、確認しろ」

「えー。こういう時に限ってゴーグル君はいないんだから…」


文句を言いながらも、心理掌握は垣根の携帯に入った資料を確認する。

そこに表示されたのは、一つの幼稚園児バスであった。

今から20分ほど前に、このバスが突然第19学区で行方不明になったらしい。

そのバスには園児22名、教師3名、運転手1名が乗っており、その誰とも連絡がつかない状況だ。


「…これって誘拐?」

「そうだ。しかも目的は多分金じゃねえ」

「あの学区は再開発に失敗して寂れてやがる。その廃墟のどっかにバスごと立て篭もってるんじゃねえか」

「…にしても、妙ね。人工衛星で現在位置ぐらい簡単に分かるでしょ?」

5 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:08:53.36 ID:7ZLwxxI0

「どうやら、使われてねえ地下道を無理やり通って移動したらしい」

「ふーん。アンチスキルは?」

「それがよお、どうも主犯の馬鹿は統括理事会メンバーの親戚って話だ」

「はぁ!?」

「ったく、何を考えてこんなことしたか知らねえが、クソめんどくせえ」

「あー、それで目的は金じゃないって言ったのか」

「そ、つー訳でお仕事だぜ」

「けどこういうのって普通は《アイテム》とか《グループ》の担当でしょー?」


この学園都市に潜む組織には、それぞれ目的が与えられている。

例えば《グループ》は裏の陰謀から表世界の人々を守るのが任務だし、

《アイテム》は統括理事会を含む上層部暴走の阻止を主任務としている。

そしてスクールは、理事会ではなく直接アレイスターの意思のもとに活動する事が多い。

あの猟犬部隊と共同作業を行ったりと、暗部組織の中でもとりわけ汚れ仕事が多いのだ。


6 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:10:09.16 ID:7ZLwxxI0

「俺に文句言うんじゃねえよ。どうせどっちも使用中か、なにか連中じゃダメな理由があんだろ」

「分かったわよ。…で、作戦は?」

「とりあえず、19学区に行くぞ。最後に確認された映像のポイントから、地下道を探せば痕跡はすぐにわかる」

「後は犯人たちの抵抗力を無くして、犬どもに引き渡せばいい」

「いつもながら、アバウトな作戦よねー」


呆れながら心理掌握が文句を言うが、垣根は気にすることもなくニヤリと笑う。


「うるせえ。こんな事で時間を無駄にしたくねえんだ、さっさと片付けようぜ」


そう言って、垣根は返事も聞かずに隠れ家を後にする。

慌てて心理掌握がその後を追いかけ、二人は下部組織の用意した車に乗り込んだ。


7 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:10:48.47 ID:7ZLwxxI0

第19学区、封鎖された地下道


二人が地下道に到着してからわずか2分で、バスの痕跡は見つかった。


「…このまま、奥に続いてるわね」

「マジで隠ぺいもしてねえのかよ…」

「むしろ私たちを誘い込む罠かも?」

「ふん、だったら少しは褒めてやってもいいんだけどな」


垣根は全く気にすることもなく奥へと進んでいく。

それを見た心理掌握は、近くにいた下部組織の人間にここの封鎖を命じて、イヤイヤ自分も付いていくことにした。

が、入り口をわずかに入ったところで憂鬱になり、足を止めて溜息をつく。


8 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/11(水) 23:11:50.96 ID:7ZLwxxI0

(そりゃあアイツは確かに何があっても平気だろうけど…)

(何せ、常盤台の校舎に押しつぶされても大して怪我しないぐらいだし)

(でも私はかよわい女の子だから、爆弾とかあったら危険なのよー!)


同じレベル5とはいえ、その能力の差をうらめしく感じる心理掌握であった。


「あ、そろそろ時間ね。忘れるとこだった」


周りに人がいないか精神索敵をかけて確認すると、彼女はスクール用とは別の携帯を取り出して、電話をかけた。


「もしもし」

「…ん。じゃあ今日の夜いつもの場所で会合ね」

「そう、派閥参加希望者が4人…あとで資料をちょーだい」ピッ


携帯の電源をしっかり落とし、頬を叩いて気合を入れなおす。


(今日の夜には、常盤台の寮で心理掌握派閥の会合がある)

(気合入れてこの任務を終わらせなくちゃ)


彼女は自分の守る世界(ニチジョウ)のため、今日も全てを騙して歩き出す。




現在時刻:午前10時40分


14 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:19:12.17 ID:a3PAG4A0 [1/13]
第19学区、封鎖された地下道の奥


垣根がバスの痕跡を追いながら歩いていると、停車しているバスを発見した。

どうやらバスの中は無人らしく、物音ひとつ聞こえない。


(ガキどもを連れて逃げたか…?)

(大勢の人質を連れて徒歩で逃げるなんて、間抜けすぎだろう)

「ちょっとー!置いていかないでよ!」


ようやく追いついてきた心理掌握が声をかけるが、垣根は謝罪など口にしない。

むしろ、どんだけ俺を待たせるんだ…と言わんばかりの態度で溜息をついた。


15 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:20:21.81 ID:a3PAG4A0 [2/13]

「バスはあったが、中に誰もいねえようだな」

「まさか園児連れて団体行動してるってわけ?」

「知らねえ。…とりあえず後を追うぞ。バスの中は下っ端に一応捜査させろ」

「オッケー…ってだから置いていかないでよ!」


この場を下部組織に任せて、二人はさらに奥へと進んでいく。

1,2分ほど歩いた時、心理掌握は人の気配を感じ取った。


「垣根、近くに誰かいる」

「ああ。奥だな…オラ、出てきやがれ!」


垣根が一喝すると、奥から小さな男の子がおずおずと涙目で現れた。

資料にあった、誘拐された幼稚園児の一人だ。


「ひょっとしてあなた一人なの?」

「グス…うん。先生もユウちゃんも、みんな怖い人たちに連れて行かれた…」

「もう大丈夫よ、お姉ちゃんたちが助けに来たから」


心理掌握が男の子の頭をゆっくりと撫でながら語りかける。

念のため心の中を覗いてみたが、恐怖心でいっぱいの彼に嘘や隠し事は無かった。


16 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:21:22.30 ID:a3PAG4A0 [3/13]

「で、どうやってキミは逃げだせたのか、お兄さんに教えてくれるかな?」


とても暗部に所属しているとは思えない、爽やかな笑顔で垣根が男の子に質問する。


「あのね、怖い人の一人がね、『このガキはここに置いてけ』って僕を突き飛ばしたの」

「妙ね…どうしてそんなことを?」


その時垣根は、男の子が持っているカバンから、シュー…とわずかな音が出ているのに気がついた。


「おい!カバンを寄こせ、多分ガスだ!」

「!」


男の子からカバンを引ったくった垣根は、その中から円筒状の機械を取り出した。

そしてその機械から何らかのガスが出ていることを確認すると、《未元物質》でガスごと包み始めた。

一瞬のうちに機械が大きな繭となり、有害なガスは止まる。

それを見ていた男の子は目を輝かせた。


「すっごー!お兄ちゃん能力者なんだ!」

「おう。すっげーだろ?」


垣根は笑顔で答えると、男の子に睡眠スプレーをかけて眠らせた。


17 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:22:44.45 ID:a3PAG4A0 [4/13]

「あれれれ…ぐー…くー…」

「ちっ、ガキに毒ガス持たせてあたりに解放しやがった!」

「多分、奥にはまだ何人も園児がいるはず…追手をここで殺すか足止めする気ね」

「俺が見たところ、あの機械には遠隔装置と赤外線スキャナが付いていた」

「俺らがガキに近づいた瞬間に、ガスを出すようにするためだな」

「しかも私たちが近づかなくても、何時でも遠隔操作で人質を殺せるって事よね」

「残るガキは21人、その上教師や運転手も含めるとなると…手が足りねえな」

「でも犯人がどこに行ったか分からない以上、一人一人装置を無力化するしか方法はないわよ」

「は、そんな時間稼ぎに付き合う訳に行かねえな」


垣根はそう吐き捨てると、未元物質による6枚の白い翼を自らの背に顕在させた。


18 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:24:03.50 ID:a3PAG4A0 [5/13]

「あの遠隔装置の有効範囲はたかが知れてる。まだそんな離れていねえってことだ」

「地下道を“飛んで”園児と接触しないようにすれば、スキャナにも見つからねえ」

「そりゃそうかも知れないけど…じゃあ私はこの付近で待機してろって事?」

「何馬鹿言ってやがる。テメェが犯人に能力を使って、先に動きを止めた方が確実じゃねえか」

「けど、私は飛べない…」


心理掌握の言葉が終わる前に、垣根は彼女を抱き抱えてあっさりと飛んだ。


「ちょ、ちょっとー!」

「動くな、喚くな、ついでにもっと肉付けろ」

「どういう意味!?」


さすがにお姫様抱っこをされて照れた心理掌握は、顔を赤くして抵抗したが全て無駄だった。

やがて抵抗を完全に諦めて、犯人の“意思”がないか精神捜索をかけて垣根に協力する。


19 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:25:19.09 ID:a3PAG4A0 [6/13]

彼女の持つ心理掌握という能力は、極めて多種多様な現象を起こすが、実はそれぞれ発動条件が異なる。

記憶の読み取りや書き換え、精神操作といった高度な能力を使うには、相手に直接触れるか目を見る必要がある。

逆に念話や感情の読み取り、近くにある精神活動体の捜索などは前提条件が緩く極めて自由に扱えるのだ。

それだけではない。数ヶ月前に心理定規の記憶を読み取り、その《自分だけの現実》を盗み見た心理掌握は、

念話の能力を応用することで、心理定規の能力も完全に自分のものとしていた。


「…そろそろ行き止まりだな。一旦分かれ道まで戻るぞ」


垣根がそう言った直後、心理掌握はどこか歪んだ悪意をわずかに感じ取った。


「待って…もう少しだけこの辺を探しましょう。嫌な感覚が…」

「さすがだな、…ビンゴだぜ」

「え?」


行き止まりと思われた道の奥、古めかしい避難扉から、4人の犯人と思わしき男が銃を持って現れた。


20 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:26:56.34 ID:a3PAG4A0 [7/13]

「ちくしょう!追手が来やがった!」

「何だアイツ、空を飛ぶ能力者だと!?」


動揺を隠せていない男たちを見た垣根は、期待したほどの腕利きがいないことに軽く失望した。


「…何だお前ら、俺らみたいな裏の人間とやり合うためにこの事件を起こしたんじゃねーの?」

「計画失敗だ、ガキどもを殺…」


突然自分たちの動きが止まり、犯人たちは困惑していた。

手元にあるスイッチを押す、それだけのことがひどく難しく感じてしまって動けない。

そしてその隙に、学園都市第2位の怪物が音もなく眼前に降り立ち…


「期待はずれもいいとこだぜ…今の俺は気分が悪いんだ、死んどけよ」


その翼で全てを蹂躙した。


「で、結局こいつら何がしたかったんだ?」

「聞き出す前に全員ボコボコにしてどーすんのよ!」


21 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:28:05.69 ID:a3PAG4A0 [8/13]

「いやあ、全員じゃねえ。まだ例のご親戚サマが残ってるはずだ」

「あ、そう言えばここにいる誰とも写真が一致してないわね」

「まあこの避難扉の向こうにいるんだろ、これで終わりにしよーぜ」


垣根によって半殺しにされた犯人たちを縛りながら、心理掌握は考えた。


(この誘拐の目的って何だったのかしら?)

(主犯は裕福な理事会の親戚…金銭目的の可能性は低い)

(それに子供たちに毒ガスを持たせたってことは、追手が来るのを予測していたということ)

(なのに肝心の犯人たちは、私たちの登場に驚いていた…)

(どうもおかしいわね…チグハグな感じを受けるわ)

(それとも…ここにいる連中は追手が来る事を予想していなかった?)

(そう、主犯だけが暗部の追手が来る事を予測して、かつ仲間を見殺しにする気なら)

(…子供も仲間も、全て追いかけてくる暗部の実力を観察するために用意したなら)

(この誘拐の本当の目的は…暗部にいる高い能力を持つ者を捕獲すること!)

「垣根、この誘拐はもしかしたら――」


22 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:28:52.77 ID:a3PAG4A0 [9/13]

心理掌握が言葉を紡ぎ終える前に、捕まえた犯人の体が急激に膨張する。

そして次の瞬間、ボジュゥ…と奇妙な音をしながら破裂した。

それに驚き、駆け寄る垣根の姿を目にしながら、心理掌握はゆっくりと意識を失った。


「…おい、とっとと起きろよ」

「う…?」

「目は覚めたな」

「…うん、どれぐらい気絶してたの、私?」

「精々数分ってとこか。それにしても、えげつねえモン用意しやがったな」

「本当に。まさかあのガスを、仲間の人間の体に仕込んでいたなんて…」

「俺らが来るのが遅ければ、ガキどもにも同じことをしたんだろうな」

「ガスの正体は分かった?」

「ああ。あのガスはAIM拡散力場を経由して能力者を侵し、演算能力と体の自由を奪う代物だ」

「確かまだ実験中だが、いずれはアンチスキルに配備されるかもしれねえって聞いてる」

「その通りだ、暗部の諸君」


避難扉の奥から、今回の主犯である30代半ばの痩せた男が現れた。


23 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:30:31.33 ID:a3PAG4A0 [10/13]

神経質そうな顔立ちに、今は抑えきれない喜びが浮かんでいる。


「このガスが充満している今、君達能力者は抵抗することが出来まい」

「安心したまえよ。別に殺す訳じゃあない」

「ただ、私があの家系で確固たる地位を築くため、協力してほしいだけなのだ」

「…なあ、オッサン?」

「ぬ?」

「一コ答えてみろ、能力者の俺はこのガスの影響を受けているでしょーか?」

「何を当たり前なことを…」

「はい、ハズレ」


垣根は6枚の翼を再び出現させ、ドゴォッと目の前の男の急所を正確に打ちすえた。


「ぞ、ぞんな…ばがな…!」

「では、第2問。テメェは誰に喧嘩を売ったんでしょーか?」

「…じ、知らんっ、ぎざま…一体…」

「時間切れでーす。正解は学園都市第2位、垣根帝督でしたー」


さらに何発か翼で殴打すると、男は完全に沈黙した。


24 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:32:51.05 ID:a3PAG4A0 [11/13]

(うわあ…痛そ。そう言えば私も以前コイツにやられたっけ)

「ねえ、その辺で終わりにしましょーよ」

「そうだな、後はこいつを引き渡して、この下らねえ任務も終わりって訳だ」


心理掌握は、飄々としている目の前の男の怪物具合を、改めて認識した。

恐らく垣根はそのガスが噴出した際、AIM拡散力場を保護する不可視の未元物質を展開したのだろう。

一瞬でガスの正体を見極め、さらに有効な対策を打つというのは常人にはおよそ不可能な芸当だ。

そうして心理掌握が慄いていると、垣根の携帯に電話がかかってきた。


「あー、アレから電話だ」ピッ

「もしもし」

「今終わったとこだ」

「…ああ?詳しいことは連絡員にでも聞けよ」

「俺らは一旦引きあげるからな」ピッ


垣根はさっさと携帯をしまうと、集まってきた下部組織の人員に指示をとばした。


「じゃあ、証拠集めやら情報の処理やらは任せたからな」

「あ、近くにいるはずのガキどもはキチッと人数確認して保護しとけよ」


そう言い残して、垣根は心理掌握を連れて隠れ家へ戻ることにした。


25 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/12(木) 22:33:37.26 ID:a3PAG4A0 [12/13]

スクールの隠れ家


2人が隠れ家に戻ると、すでに時計の針は12時を過ぎていることを示していた。

垣根はソファーにドッカリと座り込むと、文句を言い始めた。


「おいおい、もう午前が終わってんじゃねえかよ」

「まあ、あれだけの誘拐事件を解決したんだし、しょうがないじゃない」

「そりゃーそうだが」

「じゃあ、私は今日は帰るわよ?」

「ああ、その前に一つ聞いておきたいんだが…」

「え?」


心理掌握が振り返ると、いつの間にか背後にいた垣根によって彼女はテーブルへ投げ飛ばされた。


「何だってこんな真似してんだ、常盤台のお嬢さんは?」

「いや、正確に言えば…レベル5の一人、心理掌握サン?」

(気づかれた…なんで!?)



現在時刻:午後12時10分


32 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:52:16.58 ID:ncT7ISA0 [1/11]

スクールの隠れ家


心理掌握は背中の痛みをこらえてなんとか立ち上がる。

その間も垣根はいつもの笑顔のまま動かない。

…背中に未元物質による翼が現れたこと以外は。


「…一応、先に聞かせて。いつ気づいたの?」

「ああ?めんどくせえな。…ここ最近どーも妙な感覚はしてたんだよ」

「テメェの事を、スクールの仲間として捉えていなかった気がする…ってな」

「違和感は徐々に大きくなってきていたが、決定的だったのはさっきの出来事だ」

「どういうこと?」

「さっきの誘拐事件で、犯人がガスで爆死した時、テメェは気絶したな?」

「あのガスは演算能力と運動能力を阻害するだけで、意識を奪う類のものじゃねえんだ」

「なら気絶した理由は、単純に目の前の光景が悲惨で耐えられなかったってことだ」

「仮にもスクールの正規メンバーが、人間爆弾“ごとき”にビビって気絶するなんざありえねえ」


33 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:52:56.45 ID:ncT7ISA0 [2/11]

「それがどうしても納得いかなかった」

「だから俺は帰る途中ずっと記憶の確認作業をしていた」

「で、ようやく記憶の一部を取り戻したんだ」

「俺とテメェは何らかの理由で敵対していて、俺はその記憶を修正されちまったこと」

「そしてテメェが…第5位の心理掌握ってことをな」

「…幾らなんでも、私の能力を自力で解除するなんてありえないわ」

「それは残念だったな、この俺にそんな常識は通用しねえ」


垣根は自分の頭をトントン、と指差した。


「どうも俺は、かつてテメェの脳波干渉に抵抗するために、自分の脳内に直接未元物質を生成したらしいな?」

「あ…」



34 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:54:39.52 ID:ncT7ISA0 [3/11]

心理掌握は過去に、この垣根に自分の計画を見破られ、絶体絶命のピンチに陥ったことがある。

その時とっさに自作の《レベルアッパー》を聞かせることで、辛くも難を逃れていた。

だが、音楽を聞いたはずの垣根は、そのネットワークから自力で脱出するという荒業を見せた。


「そう…一体どうやってあのネットワークから逃げたのかなあってずっと気になってたんだけど」

「本当に常識知らずの怪物ね、あなたは」

「当然だろ?で、それを使ってある程度は思い出した…だがまだ全てじゃねえ」

「さあ、今度はこっちの番だぜ?とっとと俺の記憶を全部戻せよ」

「まさか抵抗はしねえよな?」

「…確かに、もうあなたに私の能力が通用しない事が分かった以上、拒否権は無いわね」

(しょうがない、ここは言うとおりに記憶を戻すしかない…)

(けど、あの学校は…命に代えても守って見せる!)


35 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:55:38.35 ID:ncT7ISA0 [4/11]

垣根は心理掌握に抵抗の意思がないことを感じ取り、目だけで早くしろと促した。

逃げ場の無い心理掌握は、そっと垣根の頭に触れると、彼の記憶を全て元どおりにし始める。

その作業中、垣根は顔を微妙にしかめながらじっと耐えていた。


「…はい、終わり」

「ああ、すっきりしたなあ、全部思い出したぜ!」


垣根は一瞬で心理掌握の首を片手で締めると、ゆっくりと持ち上げた。

心理掌握は足をバタバタさせて抵抗するが、それを歯牙にもかけずに垣根は笑った。


「そうだ、俺が常盤台を襲った時、テメェとやりあったんだ」

「途中でテメェは潰したが、あの超電磁砲のヤツに一杯食わされたんだった」

「…それとも、校舎をぶっ壊したのはテメェの入れ知恵かよ?」


36 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:57:29.20 ID:ncT7ISA0 [5/11]

そう言いながら垣根が手を離し、心理掌握は力なく床に倒れた。

ようやく呼吸ができるようになったので、心理掌握は咳き込みながら訴えた。


「お願い…」

「ん?」

「もう…常盤台には手を出さないで…!」

「嫌だって言ったら?」

「…っ」

「おいおい、そんな命懸けの目をするんじゃねえよ」


垣根は、倒れている心理掌握に手を差し出して立ち上がらせると、呆れたように首を振った。


「なんだ、お前は案外間抜けかよ?もう俺が常盤台に興味はないってのが分からねえのか?」

「え、え?」

「確かにこの俺があれだけの醜態をさらしたからな。受けた借りは返したいが…」

「今ここでお前や超電磁砲を潰したとこで、精々俺の気分転換にしかならないじゃねーか」

「せっかくお前と言うレベル5が、事情はどうあれ仲間になってんだ」

「ならそれを潰すより利用する方が賢いに決まってる…だろ?」

「それは…」


ようやく意味が分かった心理掌握は、言葉を詰まらせる。


37 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:58:20.13 ID:ncT7ISA0 [6/11]

その様子を横目に見つつ、垣根は今まで誰にも見せていない表情を浮かべた。


「お前の素直さを評価して、俺も一つ秘密を教えてやるよ」

「?」

「――俺は、この学園都市の中心になる」

「…中…心?」

「そうだ。そしてクソ野郎のアレイスターとの直接交渉権を手に入れる」

「それにはお前が役に立つ。だから…お前はこの俺の手元にいろ」


垣根は先ほどとは違った意味を込めて、心理掌握に手を差し出した。


「…女の子の口説き方って知らないの?」

「そーいうのはな、もっと魅力的な女が言うもんだ」

「今のお前じゃ、色々と“足りなすぎる”」


ムッと押し黙る心理掌握は、それでも垣根の手を取ると笑顔になった。


38 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:59:15.96 ID:ncT7ISA0 [7/11]

「じゃあこれからよろしく、第2位《ほけつ》さん?」

「ふん、それも時間の問題だな」

「じゃあ、お腹も空いたしランチにしましょーか。どこかいいお店に案内してくれない?」

「…女は立ち直りが早いっつーのは本当みたいだな」


そして二人は隠れ家を後にして、少し遅めの昼食を取りに出かけた。


(あれ?どうしてかしら?)

(絶対に正体はバレたらいけなかったのに…)

(私、自分の事がバレたこと…どこか喜んでる?)

(うん、きっと、常盤台がもう襲われないって分かったからよね!)


頭の中に一瞬浮かんだ不穏な考えを打ち消すと、心理掌握は垣根の後を追いかけた。


39 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 22:59:55.03 ID:ncT7ISA0 [8/11]

その日の夜、常盤台中学学生寮(学舎の園)、小ホール


「ですから、是非とも心理掌握様の派閥に参加させていただきたいのです!」

「…うん、よーく分かったわ。みんなと相談して、結果は後で連絡を入れるから」


今日の派閥の会合目的は、新規参加希望者4人との面談である。

たった今最後の一人も退席したので、これから派閥の上層部で吟味し、最終決定を下すのだ。


「全員能力に関しては申し分ないでしょう。が、性格的には…」

「特に、過去の論文の着眼点は素晴らしく…」

「父親の所属する素粒子工学研究所との良い接点になるかと…」

「その方の良い噂は聞きませんし…」


結局そのうちの2人が新規メンバーとして決まるまで、1時間も時間がかかった。


40 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 23:01:24.54 ID:ncT7ISA0 [9/11]

「じゃあ、新しく入る2人には明日私から声をかけておくねー」

「はい、分かりました」

「では残りの方にはわたくしが通達しておきます」

「うん、お願い。…以上、解散してちょーだい」


会合終了から数分後、ホールに残っているのは心理掌握とその右腕のレベル4の少女だけになった。


「お疲れさまでした」

「そう?これぐらい楽なものじゃない」

「…心理掌握様。失礼ですが、何か喜ばしい事でも…?」

「私に?」

「はい。今日は特別、ご気分がよろしいご様子でした」

「なにか顔や態度に出てたかしら?」

「いえ。ですが、私にはっきりと分かる程度にはご機嫌でしたね」

「そっか。まあ、一つ懸案事項が解決したから、それで明るくなってたかも」

「…左様ですか。では、私もこれで失礼します」


何か言いたそうな取り巻きの少女だったが、結局素直に頭を下げてホールから消えた。


41 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/13(金) 23:02:19.38 ID:ncT7ISA0 [10/11]

今日やるべきことを全て終えた心理掌握は、グイ、と気持ちよさそうに体を伸ばした。

そしてこの寮で唯一の1人部屋である自室に戻ると、おもむろに携帯をチェックする。


「…垣根からメール?」


メールには、いつもと同じくスクールの明日やるべき仕事の詳細が書かれていた。

が、いつもと違ってメールの最後に追伸があったので、思わず緊張して続きを見る。


『この俺相手に喧嘩売るようなお嬢様なんだから、もうビビったりトチったりするなよ』

「アイツ…ああ見えて心配性なのかも」

『ついでにもう一つ良い事を教えてやる。俺の知り合いに豊胸―』


やっぱり正体を死ぬ気で誤魔化すべきだった、と心理掌握は後悔して携帯をぶん投げた。




現在時刻:午後11時30分


47 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:04:16.86 ID:91/JL/s0 [1/14]
第7学区のとあるファミレス


スクールと同じく、学園都市の裏に潜む組織、《アイテム》のメンバーがそこで食事をしていた。

ただしその雰囲気は最悪であり、特にリーダーの麦野はいら立ちを隠そうともしていなかった。

その原因は、今も通話中の電話の相手との会話にある。


「…そんな説明で、私らの仕事が盗られたことを納得できるとでも?」

『だからー、こっちが悪いんじゃないっつーの!いいかげん分かれよこいつときたらー!』


電話の相手はアイテムの監視役で、女性の声でありながら大声で怒鳴り返してきた。


48 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:05:15.01 ID:91/JL/s0 [2/14]

「今回だけじゃなく、ここ最近スクールに大事な仕事が回ることが多い気がするんだけど?」

『しょうがないでしょー!上からの指示なんだからさー!』

「もしかしてアンタ、指示役の中でも立場弱いワケ?」

『黙れ下っ端。とにかく代わりの仕事があるんだし、ちゃっちゃと片付けてよねー!』

「えー」

『えーじゃないわよこいつときたらー!仕事したいのかしたくないのかどっちなのよー!』

「仕事はイヤ。けど自分の獲物横取りされるのもイヤ」

『わがまま言うんじゃないわよ!大体アイテムが最近舐められてんのは、あんたたちがヘマしたからでしょーが!』

「ちっ」

『病理解析研究所での失態を、忘れたとは言わせないんだからねー!』

『しかもその犯人を放っておいてるなんてどーいうつもりなんだか…』

「うるさい。仕事はするわ。じゃあね」


ちょっとー!?とまだ怒鳴り続ける指示役を無視して、麦野は携帯を切ってポケットにしまい込んだ。


49 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:06:14.59 ID:91/JL/s0 [3/14]

指示役の女の言う通り、麦野達アイテムは数ヶ月前に、とある製薬会社から受けた依頼を失敗している。

それは2つの研究施設を防衛しろ、という単純な依頼だったのだが…。

その守るべき施設の一つ、病理解析研究所で麦野たちは襲撃者である御坂美琴と戦った。

そして激闘の末、病理解析研究所を破壊されてしまう。

しかもその犯人を逃がし、今も放置しているのだからアイテムの評価が下がるのは当然の成り行きではある。


「やっぱりあのクソガキ殺しとけばよかったかしら…?」


わりと真剣な表情でつぶやく麦野に対し、絹旗という見た目12歳ぐらいの少女がなだめようとする。


「麦野、超落ち着くべきです」

「結局、いくら文句を言ってもスクールにギャラの良い仕事を盗られた事は変わらないわけよ」


しかしそれを、金髪碧眼の女子高生、フレンダが台無しにした。


50 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:07:16.20 ID:91/JL/s0 [4/14]

「他人事みたいに言ってんじゃないわよフレンダ。そもそもあの失敗の原因はアンタでしょうが!」

「大丈夫だよフレンダ、私はそんなフレンダを応援している」


怒る麦野を気にせずに、いつもと全く同じ様子で滝壺が無意味なフォロー。

一見表の世界と変わらぬ日常を過ごしながら、アイテムのメンバーは仕事の配分やスケジュールを確認していく。

やがてそれも終わると、話題は先ほど出たスクールの事に切り替わる。


「にしても、やっぱりおかしい感じよね」

「何がー?」

「馬鹿フレンダは黙りなさい。私らの仕事にまで手を出すスクールの事よ」

「ああ、麦野はさっきの話を超気にしてたんですか?」

「そう。最近の依頼変更の数を見ると、これはもう私らのミスが原因って事だけじゃなく…」

「スクールの連中が、積極的に仕事を超奪っている、と?」

「そう考えるのが自然ね。スクールは一体何を考えてんのかしら」

「まあ、結局私たちが楽できるなら問題は無いってわけよ」


51 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:08:15.25 ID:91/JL/s0 [5/14]

能天気なフレンダを無視して、麦野は一人で黙考する。


(今までは、スクールと私らの管轄は比較的明確に分かれていた)

(初めっからこんなクソ仕事を喜ぶような連中だったら、もっと前からこうなってる)

(つまり、最近になって仕事を沢山こなす理由が出てきたってこと)

(…仕事を“しないとダメな事がある”のか、仕事を“するとイイ事がある”のどっちかねぇ)

(ただ、私らと並び立つような連中が、ネガティブな理由で動くのは考えづらい気がする)

(仮に誰かが強制的に操れるような弱い組織なら、こっちが警戒する必要もないわけだし)


これ以上は考えたとこで結論が出ないか、と麦野は会話に戻ることにした。


52 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:09:07.04 ID:91/JL/s0 [6/14]

「そもそも、スクールについて組織名以外は超知らないじゃないですか」

「まあ、そうなんだけどさ」

「…でもスクールの状況が何か変わったのは、間違いないと思う…」

「滝壺の言う通りよ。で、今回の件はスクールの状況が変わったと言うより、“状況を変えた”と見るべきね」

「で、自分から状況を変える理由なんて案外限られてるもんなの」

「『新情報の入手』、『メンバーの増減』、『行動目的の移行』…これぐらいかしら」

「うーん、麦野、結局どういう事なのか説明してほしいんだけど?」

「超大事なことを知ったか、超使えるメンバーが増えたか消えたか、目的のためにすることが超変わったってことです」

「そのいずれにしろ、スクールを警戒をしておいて損は無いわね」

「あいかわらず麦野は色々考えてるねー。結局私は全てお任せしちゃうわけよ!」


最後に麦野が一発フレンダに拳骨をして、この日のアイテムの集まりは終了となった。


53 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:09:59.68 ID:91/JL/s0 [7/14]

同時刻、スクールの隠れ家


心理掌握に記憶を戻されてから2週間近くたったある日のこと、垣根は最近集まった資料を確認していた。

垣根が呆れたことに、彼女はただの中学生の身でありながら想像以上の暗部の情報を持っていた。


(まさか、他の暗部組織の構成員まで知っていたとはなあ)

(ま、おかげで随分動きやすくはなったが)


その新しい情報などを基に、現在スクールは裏の仕事を精力的にこなしている。


(アレイスターの情報収集方法が分かるまで…あと1歩ってとこなんだがなあ)

(一昨日潰した犯人が呟いていた『滞空回線』って言葉の意味さえ分かれば…)


突如垣根の思考を遮るように、心理掌握から強力な念話が届いた。


54 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:11:00.53 ID:91/JL/s0 [8/14]

「うお、あいかわらず強度がすげえな。で、どんな感じだ?」

『今とっ捕まえた研究員からパスワードを“聞いた”ところよ』

「頼りになるなあ、《心理定規》サン?」

『…嫌味?大体人の名前ぐらい覚えなさい…っとと、解除出来たわ』

「どうだ?」

『間違いないわね。この裏切った馬鹿な研究員は、一時期『滞空回線』のメンテナンスに噛んでいたみたい』

「そりゃー良かった。アイテムからこの仕事を横取りしたかいもあるってもんだ」

『…よし、これで『滞空回線』の正体も分かったわ。すぐにコピーして持ち帰るから』

「おう、お土産(ジョウホウ)楽しみにしてるぜ」

『ご褒美にはかわいい洋服をヨロシク』

「任せろ。お前の趣味ってイマイチだからな、俺が選んでやるよ」

『えー!?それどういう…』


突然、念話の波がブッツリと途絶えた。

それを感じた垣根は1人静かにぼやいた。


「…めんどくせえな、オイ」


55 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:12:32.16 ID:91/JL/s0 [9/14]

とある研究施設の一室


ここのところ暗部の仕事などで忙しくしていた心理掌握は、それでも最近気分が良かった。

この2週間、学園都市という巨大な敵に対して、垣根と協力して挑むことをどこか楽しんでいたからだ。

ましてその重要な糸口がもうすぐ手に入るとなればなおさらである。


(ただ、もうちょっとパートナーを大切に扱ってくれると嬉しいんだけど…)

(って違う違う!…もしかして私、少し浮かれてる?)


彼女は緩みそうな頬と気分を引き締めて、自分の目的を再確認する。

――ある研究所が、この学園都市に対しテロ行為を計画しているので、それを阻止せよ。

元々はアイテムに来ていた依頼であったが、垣根と協力して研究員を全員調べたところ、

一昨日聞いたばかりのキーワード『滞空回線』の関係者が一人いるらしいと判明したので、横取りした。

結果見事に研究所を制圧した心理掌握は、その研究員以外の全ての人間を退去させることにした。

反対した下部組織の人員もいたが、何とか説得してようやく情報を持つ人物と2人きりになることに成功したのである。


56 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:13:16.21 ID:91/JL/s0 [10/14]

「で、あなたのパソコンのパスワードは?」

「何故そんなことが気になる?」

「こっちにも事情っていうものがあるのよ」

「…悪いが、それだけは言えない。いくら暗部とはいえ、お前が知ったら確実に消されるぞ」

「じゃあ、やっぱり“聞き出すべき”情報がそこにあるってことね」


それだけ分かれば十分だった。心理掌握は研究員の頭から直接パスワードを入手すると、垣根に念話を送る。

そして念話をしながら、自分たちの求めていたデータがあることを確認。

だが最後にコピーを終えて複製データを隠した瞬間、


「あ…」ガツッ


突然心理掌握は何者かによって殴られ、意識を失った。


57 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:14:18.34 ID:91/JL/s0 [11/14]

(…ここは?…頭…痛あっ…それに…手足が縛られてる…)

「目が覚めたようだな、心理定規」


ようやくはっきり覚醒した心理掌握は、目を開けて辺りを見まわす。

照明が落とされたため暗くて分かりづらいが、ここはまだ研究所の中らしい。

話しかけてきたのは、今回同行してきた下部組織の1人であった。


「一応聞いておくけど、どーいうつもり?」

「なに、スクールの正規メンバーであるお前に、幾つか聞きたいことがある」

「ああ、そーいうこと。…さしずめ、アイテムかどっかのスパイってことかしら?迂闊だったわ」


一瞬男に動揺が走るが、すぐにそれを隠して威圧的に語りかける。


「フン、まだ偉そうな口を利くのか。状況を把握したらどうだ?」

「……」


58 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:15:37.68 ID:91/JL/s0 [12/14]

「お前の能力が発動すれば、俺は確かに攻撃できないが…」

「それは能力が発動していれば、の話だ」


そう言うと男は、右手に持っていた何かのスイッチを押した。

すると、男の足元にあるカバンらしきものから妙に高い音が流れ出た。


「う…あ……何…コレ…!?」


途端に頭痛が発生し、心理掌握の演算機能が阻害される。


「これでお前は能力を使えなくなった」

(うう…この音は多分…あの御坂も苦戦したって言う…キャパシティダウン…)

(演算を阻害する…音響兵器…!)


心理掌握の能力は人の脳を直接いじるものであるため、精密なコントロールが重要となる。

つまり空間移動能力者ほどではないにしろ、極めて複雑な演算を必要とするのだ。

言わば、学園都市に7人いるのレベル5の中でも、最もキャパシティダウンが効果的なのが彼女である。


59 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/14(土) 22:16:29.78 ID:91/JL/s0 [13/14]

「心理定規は極めて強い能力だが、それさえ無ければお前はただの小娘」

「さあ、今日はいつもと逆の立場を味わってもらおう」

(これは…本当にマズイかも)

「その綺麗な顔をグシャグシャにされる前に、言う事を聞く方が賢明だぞ」




「…なんだよ、テメェ暗部のくせにお優しい奴だなあ?」


その時、最も聞きたかった男の声が彼女の耳に届いた。


(ああ、マズイ…こんな完璧なタイミングで来るなんて、本当にマズイ)


白い翼を広げた第2位、スクールのリーダー垣根帝督がいつもの笑顔で現れた。


(これは…好きになっちゃっても…しょうがないじゃない…)




現在時刻:午後2時00分


65 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 21:55:56.00 ID:wakwFPI0 [1/11]
とある研究施設の一室


「お前が何故ここに…」

「教えねえよ。つーか何だこのムカつく音は?」


垣根は警戒もせずに男の目の前に近づき、キャパシティダウンを足で踏みつぶした。

それを見ていながら、男は指一本動かす事が出来ずにいた。


「馬鹿な…」

「おいおい、『馬鹿な』って言って助かった奴がいるかよ?」


垣根の様子がいつもと違う、と心理掌握はなんとなく感じ取った。


66 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 21:56:42.50 ID:wakwFPI0 [2/11]

口調も、笑顔も、その全てがいつもどおりなのに、この恐ろしさは何だろうか。

疑問を浮かべる彼女をよそに、垣根は一切能力を使わずに男を殴り、蹴り上げ、捻り潰した。


「ぐぁぁ!ま、待ってくれ!」

「…良かったなあ、お前」

「本当なら、お前を痛めつけて雇い主について吐かせるとこだが…」

「今の俺にはそんな必要はないからな」


ようやく男に対する攻撃を止めた垣根は、心理掌握を縛っていた縄を千切って彼女を解放した。


「やれやれだな。とっとと覗け」

「…分かってるわよ。しっかりお礼もしなくちゃ」


心理掌握は垣根に対する疑問を捨てて、男から記憶を読み取る。


67 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 21:57:37.56 ID:wakwFPI0 [3/11]

「…この男は《メンバー》の下部組織ね。最近のスクールの行動を警戒して、スパイを送り込んだみたい」

「何だ、アイテムじゃねえのか?」

「向こうもそろそろ私たちの行動を疑問に思う頃でしょうけど、今回は違うわね」

「ちっ。メンバーとなると、ちょっとばかし厄介だな」


垣根の言う通り、この時点でメンバーに目を付けられた事は問題である、と心理掌握も同意した。

メンバーは他の暗部組織と異なり、完全なるアレイスターの直轄部隊である。

スクールも基本的にアレイスターの意思で動くが、名目上は理事会含む上層部の依頼を受けていることになっている。

そう言った“建前”すら存在しない、猟犬部隊と同じアレイスターの手足となるのがメンバーという組織なのだ。

そのメンバーに目を付けられたということは、これはアレイスターからのメッセージなのだろう。

随分面白そうな事をしているね、と。


68 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 21:59:08.34 ID:wakwFPI0 [4/11]

「お前の資料によれば、メンバーには高レベルの能力者はいない…が、それでも向こうの情報収集能力は侮れねえ」

「そうね。アレイスターがバックにいる以上、私たちを上回る情報を持っているはずよ」

「…お前はこの件どう思う?」

「うーん…多分まだしばらくは問題無いはず。メンバーもこれ以上は動かないでしょ」


メンバーに目を付けられた事は厄介だが、緊急性は無いはずだと心理掌握は判断した。


(そう、アレイスターはこの状況も利用しようと思うはずだから)

「だな。向こうがそうやって油断しているうちは、動ける隙がある」

「そう言うこと。とりあえず、彼には偽の記憶を植え付けておくわ」

「…殺した方が簡単だがな」

「ひょっとして、珍しく虫の居所が悪かったの?」

「あ?」

「久しぶりに見たもの、あなたがそんなにキレてる感じ」

「……そう言う訳じゃねえよ。この大事な時期に、厄介事に巻き込まれた馬鹿にはムカついたがな」


どことなく照れた感じの垣根を見て、心理掌握は自分の抱いた淡い気持ちを思い出した。

結果、彼女は垣根の顔を正面から見れなくなり…フイっと目を背けた。


69 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 21:59:58.19 ID:wakwFPI0 [5/11]

「?」

「あの…その…ごめんね…」

「口答えしないぐらいヘコんでるってか?」

「いやまあ、そんな感じ…かな…」

(ううう…イケメンってズルイ…)

「まあいいや。とりあえず隠れ家に戻ってデータを確認するぞ」

「あ、うん。そうそう、結構凄いことが分かったのよ」


その後隠れ家に戻った2人は、コピーした『滞空回線』のデータを確認して、再び悩むことになる。


70 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 22:00:58.12 ID:wakwFPI0 [6/11]

「学園都市中に、見えねえ機械を5千万個以上もばら撒いて情報のやり取りをしている…か」

「さすがアレイスター、私たちの想像以上の事をあっさり実現するわよねー」

「だがその機械がやり取りしている情報を手に入れれば、交渉はやりやすくなる」

「そりゃーそうかもしれないけど、見えない機械からどうやって情報を抜きとるわけ?」

「これは無理に情報を覗くと量子信号を変質させるっていう厄介な代物なんだけど?」

「見りゃわかるよ。…なに、ここは学園都市だ。必ず解析出来る道具はあるはずだ」

「じゃあ、次はそれを手に入れる必要があるわね」

「ああ。何だ、どうやら思った以上にゴールは近そうだぜ」


自分たちに目を付け始めたアレイスターや暗部組織を出し抜き、必要な道具を手に入れる。

どう考えても極めて難しい目標なのだが、この第2位はそれが出来ると確信しているらしい。


71 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 22:01:51.80 ID:wakwFPI0 [7/11]

(やっぱり敵わないなあ…)


それでも、この男を見ているとどこか安心してしまう自分がいることに心理掌握は気づいていた。

彼ならきっと目標を達成できる、そんな気がするのだ。


「計画はまた後で詰めるとして、今日はこの辺で終わりでいいかしら?」

「もう今日はこれ以上する事はねえしな。好きにしろよ」

「じゃあ、そうさせて貰うわ。…帝督、今日はありがと」


そう笑顔で言い残して、心理掌握は隠れ家を走って後にした。


「……」

「……飯に行くか」


何故かその場でたっぷり20秒ほど硬直した垣根は、そう言うと自分も隠れ家を後にした。


72 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 22:03:17.96 ID:wakwFPI0 [8/11]

第7学区のとある大通り


まもなく太陽が沈むこの時間、心理掌握は久しぶりに常盤台の制服を着て1人で歩いていた。


(本当に久しぶりだわー、この感じ)

(学校だと派閥のコが誰か付いて回るし、仕事中は下の人がサポートに来たりするし)

(せっかく1人だし、新しい洋服でも見ようかしら)


つい数時間前には監禁されかけていた彼女だが、完全に立ち直って久しぶりの1人を楽しんでいた。


「あれ?…なあおい、ちょっと待ってくれ!」


その心理掌握に、突然後ろから慌てたように声をかける者がいた。

思わず不機嫌になりかけたが、声をかけてきた男の顔を見てキョトンとする。


73 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 22:04:27.09 ID:wakwFPI0 [9/11]

「あ、かみじょー君」

「やっぱり…ええと…確か名前は…」

「ああ、《心理掌握》で良いですよー。お久しぶりですね」

「確かになー。何ヶ月ぶりだっけ…ってそうじゃなく!」


上条は真剣な表情になって、小声で問いかけた。


「アレから随分たったけど、その…大丈夫なのか?」

「ああ、もしかして私の事、心配してくれてたんですか?」

「そんなの、当たり前のことじゃねえか!」

「ありがとーございます。…ふふ、本当に聞いた通りお人よしさんですね」

「へ?」

「御坂が言ってましたよ、関係無い事に首を突っ込んでくる極度のお人よしだって」

「ふ、不幸だ…」


もちろん御坂が言っていた、というのは嘘である。彼の反応が面白くてついからかったのだ。


「そんなに気になるのなら、互いに近況報告でもします?」

「近況報告?」


74 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/15(日) 22:05:19.94 ID:wakwFPI0 [10/11]

「ええ。でもこんなとこじゃあなんですし、この喫茶店でお茶でもどうです?」

「…そこ結構高そうな雰囲気なのですが…上条さんは今月もピンチでして…」

「遠慮しないで下さいよ、高校生男子が“中学生の女の子”に奢ってもらえばいじゃないですか」

「グサ!…いや、そういう訳には…」

「だって無能力者なら大してお金貰えないし」

「グウ!」

「その公立高校の制服と雰囲気からすると裕福なご家庭の生まれに見えないし」

「グハ!」

「ぶっちゃけますと、エコバックから見えてるお買い得品のパッケージが悲痛な叫びに見えるし」

「もうやめてくれー!って言うかキミそんな顔してるくせして結構毒舌だよね!?」


やばい、この人超弄りやすい。そう思いながら心理掌握は上条と喫茶店に入った。



「…誰だあの男?」


たまたま通りがかった第2位が、その様子をバッチリ見ているとも知らずに。



現在時刻:午後5時00分


88 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:12:04.81 ID:iiZnoyc0 [1/13]
第7学区のとある喫茶店


最終下校時刻前のためか中は大勢の生徒で賑わっていたが、2人はタイミング良く奥の座席に案内された。

着席と同時に渡されたメニュー表を見て、上条はげんなりとした。


「おかしい…コーヒーが一杯1200円っておかしすぎる…!」

「そーですかー?…あ、私はこの『秋の紅茶&ケーキセット』にしよう」

「ギャアア!それ、1万3000円もするやつじゃねーか!」

「あーでも、新作のフィナンシェも食べたいし…」

「マジ勘弁してください」

「冗談ですよー、自分のぐらいちゃんと払いますから」

「うう…この店おかしい…上条さんはコーヒーで…」


すぐに2人のもとに注文したメニューが届き、味わいながら話を続ける。




89 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:13:11.70 ID:iiZnoyc0 [2/13]

「すげーなあ、上条さんはこんな美味しいコーヒーを初めて飲みましたよ」

「別にここも最高級品質ってわけじゃないんですけどねー」

「これ以上俺を弄るのはやめてください」


涙目になった上条を見て、そろそろ本来の話に戻そうと心理掌握は話題を切り替えた。


「で、近況の方なんですけど…とりあえず、常盤台の方はもう大丈夫です」

「ホントか?」

「はい。あの第2位と話を付けて、ちゃんと解決できましたから」

「なら、良かった。代わりに無茶な要求とかされてないか?」

「…やっぱり結構イメージ悪いですかね、第2位」

「そりゃ、キミに酷い怪我を負わせた奴だし…」


90 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:14:24.89 ID:iiZnoyc0 [3/13]

上条の頭の中では、見たこともない第2位が一方通行のように「最っ高に面白ェぞ、オマエ!」とか

声高く叫びながら、心理掌握をグシャグシャにするシーンが上映された。


(どんな想像よ、ソレ)


こっそり上条の頭を覗いていた当の彼女は、あまりな光景に思わず噴き出しそうになる。


「いやまあ確かに色々あったけど、今はちゃんと仲直りしてるから、ホントに大丈夫ですよ」

「…分かった、信じるよ」

「それよりも、約束守ってくれてありがとうございます」

「え?」

「ホラ、御坂たちにちゃーんと黙っててくれたじゃないですか」

「それは…」

「正直なとこ、かみじょー君なら御坂たちに話して第2位にケンカ売るかもしれないって思ってたから」

「全部バラして助けるべきだったかもしれないけど…俺も、似たような状況だしな」


91 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:16:04.38 ID:iiZnoyc0 [4/13]

以前上条はこの心理掌握から、これから自分が第2位の記憶を改ざんし、別人になりすまして

その第2位を監視するつもりだ、と打ち明けられた事がある。

そのために常盤台の生徒全員の記憶も改ざんし、御坂たちには何も起きなかったことにするとも。

当然上条は、そんな危険な事をさせる訳にはいかないと主張したが、そこで彼女に痛いところを突かれた。


――『それに、あなたも似たようなものじゃない』

――『自分が記憶破壊されてること…大切な人に知られたくないんでしょ?』


心理掌握に記憶を読み取られた上条は、自分“も”周りを騙して生きている事を指摘される。

いつも腹ペコな同居人の笑顔を守るため、どうしても譲れない一線が自分にもあるという事を。

結果として、自分の最大の弱点と同じような弱点を『共有』する彼女を止めていいか迷ったのだ。


「けど、本当に無事でよかったよ。なんの役にも立てなくて、悪かった」

「ふふ、そこで謝っちゃうなんて、本当にお人よしなんですからー」


92 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:16:48.28 ID:iiZnoyc0 [5/13]

心理掌握は少し暗く、罪悪感のある様子で悲しく笑う。


「元々、意識を奪ったり脅したりしたのは私じゃないですか」

「そりゃーそうだけど…」


複雑な表情を浮かべる上条を見て、心理掌握は改めて思う。

この一般人(オヒトヨシ)は、これ以上こちらに来るべきではないと。

他人の痛みを自分のこととして受け止める彼は、きっとこの闇に耐えられない。


(やっぱり、あの御坂(オヒトヨシ)とお似合いなだけあるわー)

(まあ、彼は暗部の事を知らないし、このまま平穏に過ごすのがピッタリね)

(私たちがアレイスターとうまく交渉すれば、彼も『計画』から解放されるはず)


彼女の思惑とは裏腹に、やがて彼は学園都市どころか地球規模の争乱の中心になっていくのだが、それはまた別のお話。


93 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:18:03.11 ID:iiZnoyc0 [6/13]

心理掌握と男が入った喫茶店に、何故か学園都市第2位の垣根帝督も足を踏み入れた。

1人だったので割と早くカウンターに通された垣根は、適当に幾つかオーダーすると例の2人に注意を傾ける。


(もしかしたら、あの男はスパイかもしれねえ)

(今は大事な時だ、用心に越したことはねえからな)


出された飲み物に目も向けず集中していると、喧騒の中でも声が所々届くようになる。


『おかしい……マジ勘弁…』


どうにも情けない男のようだ。ぺこぺこ頭を下げている。


(スパイ…って感じじゃねえな、ありゃただのヘタレか?)

『代わりに…要求…酷い怪我…』

(?なんか会話が…)

『…全部バラして…』

(なにか脅迫みてぇな…)


そして垣根の耳に、心理掌握の落ち込んだ言葉が届く。


94 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:19:15.81 ID:iiZnoyc0 [7/13]

『意識を奪った…脅したりしたのは…!』

(!!!!)


どうやらこの男の情けない様子は、全て演技のようだ。

よりにもよって暗部の一員、それもレベル5を脅すとは、只者ではない。

しかも、会話から想像するに脅迫のネタは…


(クソムカついた。とんだゲス野郎がいたもんだ。これは俺が始末する必要があるな、間違いねえ)


垣根が抹殺する決意を固めていると、その男が喫茶店を後にした。

振りかえって後ろを見ると、心理掌握はまだ残って携帯を操作している。


(…あいつに見せる必要はねえな)


少し悩んだ末、垣根はその男の後を追うため自分も店を後にした。


95 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:20:31.58 ID:iiZnoyc0 [8/13]

第7学区のとある公園


垣根がしばらく男の後を付けていると、公園に入ったところでその男に声をかける者がいた。


(あれは…!)

「ちょっと!いい加減にしなさいよ!人を散々弄んでおいて逃げる気じゃあないでしょうね!」

「まーたかよ、ビリビリ。今俺は相手する気はねーんだけど…」

(…第3位の超電磁砲だと…!?)

(アイツまで手玉に取っていたとは…)


自身の想像を超える相手だという事を確信した垣根は、本気で戦う決心をした。


「あれ…帝督?」


翼を出すその直前、自分の後ろからキョトンとした顔の心理掌握が声をかける前は。


96 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:21:22.04 ID:iiZnoyc0 [9/13]


「馬っ鹿じゃないの!?」

「いやだって、まさかアイツが幻想殺し(イマジンブレイカー)とは…」

「それにしたって、なんて言う想像してんのよ!?」

「…じゃあ、エロイ事してないの?」

「あ、当たり前でしょう!」


目の前で大激怒する心理掌握から事情を説明され、ようやく垣根は自分が誤解していた事を知った。


「大体、情報も確認せずに暗殺しようなんてどーいうつもり!?」

「悪かったって。たまたま見かけたお前らから、不穏な言葉が出るからよぉ」

「…心配してくれたわけ?」

「あー、まー、そりゃ、同じ陰謀を担ぐ仲だしな?」

「…それだけ?」


97 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:22:12.72 ID:iiZnoyc0 [10/13]

急に怒りを引っ込めた心理掌握の問いかけが、垣根の胸にスッと入ってきた。


(それだけ、か?)

(こいつは俺の目標を達成するうえで、この上なく役に立つパートナーだ)

(…他に価値はねえ)

(むしろ、互いに殺し合った仲だし…)


そんな風に自分を納得させていると、突然垣根は今日の事を思い出す。

彼女がメンバーの下部組織に襲われ、縛られていたところを発見した時の事を。


――ムカつくこの男をぶち殺そう、と思った。

能力すら使わずに、自分の手で、足で、叩き潰そうと一瞬で決意した。


(おいおい、マジかよ)

(いやでも、こいつ胸も色気も淑やかさもねえし…)


98 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:23:38.58 ID:iiZnoyc0 [11/13]

『…帝督、今日はありがと』

そう言って照れたように部屋を後にした彼女の顔が、何故かしばらく焼きついた。

初めて自分の『名前』を呼んだその声が、耳に残って消えやしない。


(もしかして…)


自分が初めて計画を明らかにして、手を差し伸べた彼女が、いつのまにか…


(なに、俺ってこんなガキみたいなコイゴコロ持ってたか?)

(本気で殺したかったこの女が…)


「やべえな」

「え?」

「どーすんだコレ」

「ちょ、ちょっとー?」

「今さらになってかよ、オイ」

「ねえ、…帝督?」

「なあ、俺はお前を殺そうとした」

「は?」

「だろ?」

「…うん」

「そんな相手を、本気で欲しくなっちまった」

「!」


99 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:25:02.60 ID:iiZnoyc0 [12/13]

「だから、お前は俺のモンだ」

「…本気?」

「いや、俺もまだ信じられねえけどよ、本気だ」

「…ねえ、知ってる?」

「何を?」

「人の精神に関するありとあらゆる事象を掌握するこの私が、自分の感情すらコントロール出来ていないって」

「……」

「常盤台校舎を破壊してでも殺す気だった相手に、こんなにも夢中になってるなんて」


その言葉を聞き終える前に、垣根は無言で彼女を抱きよせた。

それに驚きながらも、心理掌握は赤い顔で囁いた。


『…女の子の口説き方って知らないの?』

「言わせて見せろよ、レベル5?」


心理掌握が反応する前に、垣根はゆっくり――彼女に口づけをした。

さらに赤くなった心理掌握は、「ばか」とだけ言葉を残して彼の胸に顔をうずめた。



現在時刻:午後7時00分…これにて一章終り


100 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/16(月) 22:29:38.90 ID:iiZnoyc0 [13/13]

今日はここまでです。

…ええ、まあ、予定をかなり変更してこうなりました。


この後第二章『VS学園都市編(原作15巻一部準拠)』

そして第三章『垣根復活編(原作19巻一部準拠)』

と続きます。あ、第二章では垣根過去編も入る予定です。

また(一応)明日二章を投下します

…では、おやすみなさい



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