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火憐「う、嘘だろ……? 月火ちゃんが怪異だったなんて……」

原作ネタバレ注意
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 22:40:23.13 ID:MJOMLGZJ0 [1/31]
火憐フェイク

001

 怪異の事について語ろうとすれば、必然、自分の事も語る事になる。それは恥さらし同様の物で、また火憐ちゃんとは違って僕はドMではないので進んで自分の恥を晒したくなる人格ではない。まあ僕の事についてはともかく、怪異の事である。
 怪異。
 吸血鬼。おもし蟹。迷い牛。レイニーデヴィル。蛇切り縄。障り猫。囲い火蜂。不死鳥。
 ああそれと、ブラック羽川。
 以上九つ。
 僕が見てきた怪異である。
 これからも怪異に出会うかもしれない。しかし、僕は未来に関する予知能力は所持していないので、それに関しては勘弁して貰いたい物だ。
 それらは人間界に存在してはいけない物――存在するべきではない物。否、敬遠すべき存在である。……もしも人間であればの話だが。
 僕は吸血鬼である。
 否――吸血鬼もどきだ。決して吸血鬼ではない。僕が人間であろうとする限り。あくまで人間だと思ってもらえればいい。少し傷の治りが他人より、早いくらいだ。
 そして僕の小さい方の妹、月火は不死鳥だ。
 先天的な怪異。偽物の妹。ホトトギス。しかし月火はその事を知らない。あくまで自分は人間だと思っている。
 そして僕のもう一人の妹――阿良々木火憐も、怪異の事は何一つ知らない。
 それだけ分かっていれば、この物語には十分である。
 それと、後に出てくる戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、八九寺真宵、神原駿河、千石撫子、そして忍野忍。この人達は怪異を知っているという事。
 それさえ分かってもらえれば何も言うまい。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 22:43:03.96 ID:MJOMLGZJ0
002

 僕は予告通り、何の前触れもなく阿良々木家に戦場ヶ原ひたぎを連れてきた。その頃には僕の家のドアもドアノブもちゃんと直っている。
 予告通りというのは月火ちゃんに以前紹介すると言った時の事だ。そして夏休み明け、サプライズとして僕の彼女である戦場ヶ原ひたぎを連れてきたのだ。サプライズとしては少しやり過ぎかなとも思うが、あいつらにも彼氏がいるのでいいだろう。
 玄関前にて、戦場ヶ原。
「……ファイヤーシスターズに会うのはこれが初めてだから、何だか緊張するわね」
「お前はいつも通り悪口言ってりゃいいんだ。『あら。何様のつもり? 自分の家だからって思い上がらないで欲しいわね。この私のしもべになりたかったら、三回回ってワンとお言い』とか言ってりゃいいんだ」
「そんな事は一言も言った試しがないし、そもそも私、阿良々木くん以外に毒舌を吐いた事がないのよ」
「嘘を付け。貝木に酷い罵倒してみせたじゃないか」
「あれは貝木だから。それ以上その名前言わないで」
「お、おう」
 相当緊張しているのだろうか、いつも通り僕に悪口を吐く気配がない。
 デレてからそんな事は言わなくなったけれど、たまに言う毒舌は一級品の重さだ。えらく応えるけど、何だか安心する。飼い慣らされた犬の気分だ。
 三回回ってワンと言うのが僕だったのかと思うと、何だか落ち込むな。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 22:46:26.60 ID:MJOMLGZJ0
 ドアが開いた。ああちなみに、このドアは一回変な格好をした正義屋さんに壊されてから、新しく新調する事になったのだけれど、
それがまたゴージャスな感じで、この家にはえらく不似合いな感じがする。それもこれも火憐がねだったもので、光沢が眩しくて見ていられない。そもそも家ごとに違うドアを付け替えられるのが意外だった。
「は~い」
 と言って、火憐がドアを開けた。犯罪者だったらどう対応するんだよと思いながらも、火憐なら大丈夫かと思い直す。いやそれでも一応確かめておけよ。
「……? ……っ? ……!?」
 一度目の驚きは、僕以外の訪問者に対する驚き。
 二度目の驚きが、兄ちゃんである僕がお友達を連れてきた事に対する驚き。
 三度目の驚きが、それが女の子だった事に対する驚き。
「に、兄ちゃん……」
 火憐は激しくどもりながら、兄である僕を呼ぶ。兄は僕しかいないので当然僕を呼んだのだろう。
「……神原先輩から話は聞いてるんだけどね。え、へへ。信じられなかったかな。あははは」
 火憐は固まったまま、そのまま笑い続けた。
 笑気ガスを吸った訳でもなかろうに。
「いきなりで悪かったな。僕の彼女の戦場ヶ原ひたぎだ。これからたまに見る事もあるから気軽にとは言わずとも気楽に声を掛けてくれ」
 火憐はその戦場ヶ原を怯えるように見て(いや火憐が怯える物があったのが意外だ)、そして、覚悟を決め直したのか口を結ぶ。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 22:52:35.85 ID:MJOMLGZJ0
 そして前へ出て、
「覚悟!」
 とか言って、戦場ヶ原に前キック。
 戦場ヶ原はモロに喰らった。うわっ、こいつ運動神経なっ。
 まあ僕が言える事ではないけれど。
「お前が千石の敵の戦場ヶ原ひたぎか。兄ちゃんの彼女のようだけど、覚悟!」
「ふざけんな! てめえ僕の彼女に何してやがる!」
 ええええ。
 まさかこんな事になるとは。
「…………」
 戦場ヶ原は無言で立ち上がり、
 ホッチキスなど文房具一式を取り出した。カッター、鋏……ああっ、アロンアルファまで。
「久々に戦闘が出来て、嬉しいわ」
 もう僕には止められない。僕と八九寺のように、互いの戦士の魂が呼応しあったのだろう。……と思っていたのだけれど。
「はい、そこまで!」
 と言って、阿良々木月火が割り込んできた。
 ……その手には、千枚通しと(まだ持っていたのか)包丁が!
 それぞれを火憐と戦場ヶ原に向け、その戦闘を終了させた。……包丁と戦場ヶ原の体の距離は一センチもない。火憐の方の千枚通しも同様だった。
 ……やべえ。
 僕の家族、いや、僕の彼女と家族、やばすぎる。
 割り込んでここまで見切れる月火の動体視力も特筆すべき物だった。……特筆したくないけれど。そして、一番役立たずの僕。
 僕の役割はこんな所である。
 司会進行。主人公じゃないから、期待しないでくれ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 22:57:50.94 ID:MJOMLGZJ0
 さて。火憐が千石がどうのこうの言うので、千石に事情を聞くのが一番かと思い、千石に電話した。千石も了承して、この家へ来るらしい。
 えっとまあ戦場ヶ原が千石の敵になるような事をしたかと戦場ヶ原に聞けば、「思い当たる事がないでもない」というので、事情を聞く為に呼んだのだった。
 千石がこの家へ来た。
 寒そうな服装で、九月の初めだというのに、ノースリーブでホットパンツだった。
「話をするぞ。えっと、今隣にいる人が、戦場ヶ原ひたぎ。僕の彼女だ」
「暦お兄ちゃん、彼女いたの?」
「ああ。言ってなかったか? ああ、確か月火以外には言ってなかったんだっけ。今紹介するよ。
これから会う事もあるだろうけど、戦場ヶ原ひたぎ。最初はつっけんどんだったけど、最近変わりつつあるんだ。昔は暴言とか言いまくりだったんだけど、今は言わない。性格は相変わらずだけどな。
そして戦場ヶ原、一番でかい吊り目が阿良々木火憐、格闘技強いしお前でも敵うかどうか分からないから、手合わせとか考える時は注意しろよ。そして椅子に座っているのが阿良々木月火。垂れ目でおとなしそうに見えるが、ある意味一番危険だ。
そして千石撫子。おとなしめで人見知りだが、ボケると結構楽しくて癖になる」
 一通りの紹介を終え(ほんとに司会進行だな)まあさっきの邪険な感じを思えばちょっと怪しむ所はあるのだけれど、こいつらなら仲良くなってくれるだろうと思う。打ち解ければ面白いし、人見知りの千石が難だが月火達がフォローしてくるに決まってる。
 その点では信頼しているので多分仲良くやってくれる事だろう。
 あとは水入らずな感じなので出て行くのが宜しいかなと思い、僕は二階の自分の部屋へと行く事にした。少々の不安はあったが、それぞれの思惑があるなら僕がいない方が話しやすいかなと思ったのだ。気を使いすぎの気もするが、こんな物だろう。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:00:26.02 ID:MJOMLGZJ0
003

 上の階まで会話が聞こえてくる程楽しそうな会話だった。いや聞こえてないんだけどな。会話の内部までは。
 あの千石が打ち解ける相手はそんなにいないのだ。やはり独り身であった期間が長い戦場ヶ原や千石は気が合うのだろうか。独り身というか、孤独というか。
 生憎女子の会話に参加出来るような勇気は僕は持っていない。どうせ僕の悪口で盛り上がってるんだろうしな。まあそれはそれで、悪い気はしない僕だった。
 楽しそうな会話が聞こえてくるたび、暇という事はなかった。仲良くなってくれて、本当に嬉しい。
 ……例え僕の悪口であろうとも。
 何を話してるんだろうか。まさかあのシスターズ、おっぱい揉みしだいたりした事言ったりしていないよな? 後で戦場ヶ原からのボディーブローくらいは覚悟しといた方がいい。吸血鬼だからって遠慮ないもんな、あいつ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:02:04.54 ID:MJOMLGZJ0
 そうこうしている内に夕方になった。昼に連れてきたので、もう三時間ぐらいは話している計算になる。
 まだまだ聞こえてくるけれど、もうそろそろ千石と戦場ヶ原を家に帰すべきかなとも思う。僕は立ち上がり、二階にある僕の部屋のドアを開けた。
 階段を降りていく間にも、会話は聞こえてくる。
「お兄ちゃんってやばいんだよ! 病身の火憐ちゃんを襲ったりして」
「返り討ちにしてやったけどな」
 あることないことを。
「撫子の家に来て、我が物顔で撫子のベッドに座ったんだよ。『撫子。ジュースはまだかね? コップが一つ足りないようだが』とか言って」
「私の眼球舐めてきたり……」
「違う! 僕はそんな事していない!」
 僕はリビングの部屋のドアを開けつつそう言った。
「でもおっぱい揉んだ事は事実だろ?」
「ベッドに座った事も」
「私に眼球を舐めさせてくれた事も」
「あのなあ。ニュアンスが違うんだよ。胸揉んだのはスキンシップだし、ベッドに座れって言ったのは千石の方だし、眼球舐めるのは戦場ヶ原の性的嗜好だ」
 お前ら僕が本当に大好きなんだな。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:04:27.87 ID:MJOMLGZJ0
「お前ら集めると僕の悪口しか言わないのか」
「いい事も言ってるわよ」
「例えばどんな?」
「阿良々木くんは私を助けてくれたり、見えない小学生を助けたり、神原を助けたり、千石を助けたり、
羽川さんを助けたり、吸血鬼を助けたり、火憐ちゃんを助けたり、どこかで月火ちゃんを助けたらしい事もちゃんと聞いてるわよ」
 そ、そう改めて言われると照れるな……。
「さて、帰るぞ、千石、……それからひたぎちゃん」
 戦場ヶ原の新しい呼び名。
 ガハラさんから改名。
「ええ。帰りましょう」
「…………」
 千石は目を眇めたが、後からついてきた。途中まで送る訳だ。特に、展開がある訳ではない。
「何の話をしていたんだ?」
「阿良々木くんの悪口よ」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:06:57.42 ID:MJOMLGZJ0
「本人の前で堂々と言うんだな。いっそ清々しいよ」
「暦お兄ちゃんの新しい面が知れて、よかった」
「ああ千石、ひたぎちゃんのいうことは七割方嘘だから、真に受けない方がいいぞ」
「ええ、緊縛プレイをした事は本当だけれどね」
「いつですか!? そんな事をした覚えはありませんが」
「現実に即して手錠で縛ってあげたじゃない。あれが緊縛プレイよ」
「あれは軟禁だ! 緊縛プレイじゃない!」
 いつの日か、戦場ヶ原にとある廃塾で手を縛り付けられてしまった。鉄柱を通していて、しかもその手錠がマジモンであるため吸血鬼の力をもってしても脱出する事が不可能だったのだ。
 ちなみに戦場ヶ原の名誉を慮って言うと、その行為は貝木泥舟という詐欺師に僕を会わせない為の手段だったらしい。それにしてもやりすぎだろ、どう考えても。
 緊縛プレイとか言う奴も軟禁っぽいけどな。ていうか実際にそれやってる奴いるのか?
「ツイスターゲーム楽しくやってる所もちゃんと言ってあげたんだよ。暦お兄ちゃん、私の体に触れても全く気にしなかったって」
「ツイスターゲームは楽しかったけどな。体に触れるってのは余計じゃないのか?」
「あと阿良々木くん、妹に対しては本性を顕すようね」
「だからあれはスキンシップだって……妹の胸は胸の内に入らない」
 キリッとした表情で僕は言った。心なし、戦場ヶ原と千石の表情が硬くなった気がする。
「……僕はキメ顔でそう言った」
 さらに滑った感じだった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:09:17.34 ID:MJOMLGZJ0
「えっとだな、あいつらにも彼氏がいるからそういうことはないんだってなんでこんな弁解みたいな事してるんだ。自分で自分の胸揉んでるって思っとけ」
「私は自分の胸揉むと興奮するわ」
「暦お兄ちゃん、撫子の胸、小さくないんですよ?」
 なんでこんな話に……これからは自粛するか。妹の胸を揉めないのはあれだけどな。
「で、なんで揉んでたのかしら」
「いやだからスキンシップって……」
 落とさなければならないのか。
 阿良々木暦の力が試される時!
「なんで揉んでたのかって? ……そこに胸があるからだ」
「じゃあ阿良々木くん、そこらの婦女子の胸を揉みたくってきたってわけ?」
「落とせよ! いや、妹以外は揉んだ事ない……あとは小学生だな」
「そう。阿良々木くん、彼女の胸は揉まなくても年下の女の子の胸は揉むのね」
「違うって! その小学生はセクハラしないと怒るんだ!」
「暦お兄ちゃん、なんで撫子の胸は揉まないの……?」
「千石は揉んだらやばそうな雰囲気が……いや、何でもない」
 何の会話だ。
「で、なんで揉んでたのかしら」
「えーっと……」
 なんで?
 決まってるじゃないか。
「揉んでも冗談で済む奴と済まない奴がいるからだ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:13:32.80 ID:MJOMLGZJ0
 本音で会話する事は時に弊害をもたらすが、嘘を付くよりはいいだろう。そんな訳でまあ何とか戦場ヶ原と千石を言いくるめて(何で千石を言いくるめなければならないんだ)帰路につく。
 時間帯的には六時くらいだが、この時期になると流石に暗い。空が青色がかっている。……夜に幽霊は映えるものだ。
 ふと前方に、二つに揺れるツインテールの姿が見えた。小さくて、顔はよく見えないけど、あのツインテールの位置から推測するに小学生だろう。身長的に言えばだけど。
 あーあ。
 家に帰らなければならないのに。
 いつの日か、僕が助けた女子小学生だ。ネタバレを惜しまずに解説すると、彼女は実は幽霊で、そのため以前は家に帰りたくない人以外には見えないのだった。
 家族と何らかの揉め事、もしくはいざこざがあった人に見える怪異。いつの日かは地縛霊だったけれど、今宵においては浮遊霊に二階級特進したのだそうだ。
 今は僕は家族の間に亀裂が走ったりしていないけれど、それでも見えるって事はきっと何か理由があるのだろう。ないのかもしれないけど。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:16:40.77 ID:MJOMLGZJ0
 だから僕は彼女とは以前までは仲がよかった経緯があるのかもしれないが、今ではその背景は跡形もなく見せない。つまり仲良くないのだ。暴力も振るし、悪口も言ったりするね!
 まあ? ただ? 仲良くなくても? 声を掛ける事は普通だろ?
 道端で会ったらそんなの、嫌いな相手でも「おう」ぐらいは言うじゃないか。だろ? だったらあの小学生にも、その短い挨拶をしてこようじゃないか。
 ただのスキンシップだよ? いやスキンシップですらない。社交辞令とも言うべき物だ。小学生相手にそんな事をするのもかたじけないが、それでも礼儀は礼儀である。
 僕は背後から全力ダッシュして、八九寺に抱きついた。いやごめん本当は僕八九寺が大好きなんだ。
 ……と思ったらそれは張りぼてだった。あれ?
 僕はその辺の壁に激突した。変わり身の術? いや残像か……。
「ああフララ木さん、お元気でしたか。いやその様子ですとあまりお元気ではないようですが……」
「ぼ、僕の名前を今にも倒れそうな擬音で呼ぶな。僕の名前は阿良々木だ。それ言いたかっただけじゃん」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「かみまみた」
「わざとじゃないっ!?」
「ほんとに噛みました! がぶっ!」
 そんな事を言って、僕に噛み付いてきた八九寺。待て……全力ダッシュをした上で壁に激突し疲労させた挙げ句噛み付かれたら流石の僕もひとたまりもない。僕は華麗に下に避けた。
 下に避けた事で八九寺はバランスを崩し、前から転けるハメになった。そのまま八九寺は器用に前転した。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:20:16.10 ID:MJOMLGZJ0
「流石阿良々木さん。反射神経すごいですね。ボクサー並みですよ」
「八九寺と戦っていく内に鍛えられたからな。いずれ世界ランカーだ」
「でも阿良々木さん、ボクシングはしない方が賢明ですよ? 吸血鬼さんですし」
「そうだな……」
 今の反射神経、いや、暗闇に置ける視力も。
 僕が吸血鬼であった証拠なのだ。
「八九寺。お前って老化しないんだろ?」
「ええ。永遠の十一歳です」
「お前が十一歳かどうかは知らないがな……あーでも、お前が死んだのって十年程前だから、年上って事もあるのか?」
「その辺はどうでしょう。阿良々木さんにお任せしますが」
「お任せされても困るけどな。でもまあ一家言ある奴だろ。特に怪異に関しては」
「まあ私のこの十年なんて、あったようでなかったような物なんですけれど」
 さらっと言う八九寺。
 自分の事だからか、とてもさらっと簡単に言えるようになった八九寺。
 慣れているからだろう。自分のこの境遇に、不幸を感じなくなったのだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:22:52.44 ID:MJOMLGZJ0
「過去の財産でやってるようなもんですよ」
「格好いい事言うなぁ……自慢じゃないけど、僕は怪異になってから学ぶ事が増えたな。いや、もちろん勉強じゃなく」
「例えばどんなですか?」
「助けた責任は取らなければならない」
 鉄血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
 僕は彼女を助けたが故に、こんな身になってしまった。
 後悔はしていないけれど。
 たまに、思うのだ。
 もしも、彼女を助けなかったらと。
 僕は、……幸せに生きられたのだろうかと。その結論はまだ出ていないけれど。
「しかしまあ、八九寺は八九寺で、普段は一体何をやっているんだ?」
 いっつも歩いているけれど。
 それは目的地がないからで。
「別に。何もしていませんよ。ただ歩いているだけです」
「そうか」
「強いて言えば成仏する方法を求めて探し歩いているのです」
「え? 何お前? 成仏とかする気なの?」
「いや、幽霊なので成仏するのは役目というか……。さっきから阿良々木さん、本音が駄々漏れしていますよ」
「まあ僕としてもお前にどこかに行って欲しくないしな。……でもお前が成仏する気なら、手伝うよ。でも僕に何も言わずに消えるなよ」
「それは多分ありませんので大丈夫です。安心してください、私は阿良々木さんの物ですよ」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:24:24.64 ID:MJOMLGZJ0
「お前あんまりそういう冗談ばかり言っていると、その内誤解とかするからやめといた方がいいぞ」
 僕ならまだしも他の人に言っていたら、それこそ告白なんかと勘違いするだろう。
 まあ僕は冗談で言われるだけの器量があるけどな。
「失礼、噛みました」
「何と噛んだんだ?」
「『私は阿良々木さんの霊ですよ』と言いたかったんです」
「守護霊かよ。いや、お前はお前で、守ってくれなさそうな薄情な奴だけどな」
 危機を見たら「ああ可哀想に、頑張ってくださいね」とか言う奴だろう。助けもしない、血も涙もない奴だ。
「阿良々木さん、それは失礼ですよ」
「そうか? じゃあ実際にお前、僕に危機があった時救えるのか?」
「状況によりますが、努力はしましょう」
「嬉しい事を言ってくれる。まあその時になったら頼むよ」
 僕が八九寺を助けたいように、八九寺も僕を助けたいのだろう。僕は基本的に八九寺を助けたいのだけれど、成仏するのは嫌だな。八九寺いなくなったらつまんないだろうし。
「それで、成仏の方法は見つかったのか?」
「いや成仏の定義が曖昧でしてね……生前の私の後悔はお母さんの家に行けない事でしたから。それ以外はなかったように思われます。多分この成仏出来なかった十年に何らかの原因があるのではないかと」
 ほう。
 幽霊の生きる十年。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:26:11.26 ID:MJOMLGZJ0
「ちなみにお前の幽霊になってからの十年間って、どんなの?」
「会う人に『話しかけないでください。あなたの事が嫌いです』と言っていました」
「マジか」
「自分の家族が嫌いな人は、嫌いですから」
 ふうん。
 八九寺は、離婚した母親の家に行く時に事故にあい、そのせいで死んだのだ。
 自分が見える、すなわち家族が嫌いな人に、思う所があるのだろう。
 僕を嫌いだと言った事も、あながち間違っていなかったようだ。
「僕の事も嫌いなのか?」
「ええ。大嫌いです。見つけたら噛み付くくらい嫌いです」
 相当嫌われているようだった。
「ちなみに今も嫌いなの?」
「ええ。嫌いです」
 落ち込むな。
 って、マジか。いや、何かの冗談だろう。
「どういう所が嫌いなんだ?」
「そう聞く所が嫌いです。ついでに目と鼻と口と体も嫌いです。話しかけないでくださいっ!」
 最初の頃に戻っちゃった!
 振り出しだ! 何故だ! 僕は何のいけないスイッチを押したんだ!
「話しかけないでください。あなたの事が嫌いです!」
 なぜだああああああああ!!!!

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:29:36.40 ID:MJOMLGZJ0
「冗談ですよ、阿良々木さん。お世話になった阿良々木さんに、そんな事するはずないじゃないですか」
「そうか? お前前、チェーンソーで八つ裂きにするとか言っていた癖に」
 それも冗談だろうけど。
 閑話休題。
 まあ元気そうで何よりだ。元気という言葉は当てはまらないかもしれないが、この際オーケーだろう。成仏してなかっただけよしとするか。
「八九寺。今度暇が出来たら、お前の成仏の方法とやらも探しに行こうか。やっぱり気は進まないんだけどな」
 やっぱり消えて欲しくない、というのが本音だから。
「ええ。阿良々木さんなら、きっと見つけると思います」
 嬉しい事を言ってくれる。
 同時に悲しくもあったりするが、それは自分勝手な感情だと思うので引っ込めておく。
「じゃあな。八九寺。今度会った時には、迷子になってるなよ」
「ええ。またお会いしましょう」
 そんな綺麗な敬語を言って、
 八九寺は去った。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:33:21.05 ID:MJOMLGZJ0
004

 怪異というのは、全般において忌避される存在である。
 忌避されるが故に崇められ、そして忌避されるが故に恐れられる。
 忌避というのは意図的なしかとなので、そこに無視という概念は通用しない。そこに意図がある限り、怪異は存在する。
 どこにでもいるし、どこにでもいない。
 忍野がそう言っていた。今になってあれは詭弁だと思うが、詭弁だろうが勘弁だろうが、大して変わりはないものだ。怪異になった者としては――変わりないものだ。
 例えば林檎があったとして。
 それが赤く見えるか。
 それとも青く見えるか。
 多数の人間が赤と言っているだけで、それが青ではないという理由にはならない。青と言っている人間がいるなら、それも尊重されるべき意見だ。いや多数決の原理についての背理論を出したい訳ではない。
 どこにでもいるし、どこにでもいない。
 しかし僕はここにいる。
 阿良々木暦という吸血鬼は――存在する。
 否、していたと言うべきか。
 過去に存在していたと言うだけで、それが怪異の存在の証明にはならない。もう、なれない。僕は、人間なんだから。
 人間なんだから。
 人間であろうとしたんだから。
 だから僕は人間だ。
 阿良々木月火は人間か? 人間だ。人間であろうとしているんだから。
 火憐は? 人間だ。人間を守ろうとしているんだから。羽川翼は人間か? 人間だ。しかし過去に怪異になろうとした形跡がある。
 障り猫。
 触っただけで、自らの力が抜けてしまう。体力と精力が奪われてしまう――そんな怪異。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:35:27.94 ID:MJOMLGZJ0
 閑話休題。
 今は高校の帰りなのだが、今日は奇数の日なので確か羽川の家庭教師の日だ。羽川の制服姿は見飽きたので、遠回しに「羽川の制服姿もいいけど、他の私服も見てみたいなぁ~」とか言ってみたんだけど、案の定無視された。
 そこまでのネグレクトは受けていないはずなんだけどな。
 あの人も普通の親であろうと頑張っているようだし。まあよく分からないが、普通の人というのは確かである。羽川が言うので間違いない。
 さて、前々からずっと僕は羽川と戦場ヶ原の授業を受講しているのだけれど、もうそろそろ申し訳ないのでお金払おうかとも思わないでもないが、多分双方から怒られる事を予測して言わない事にしている。でも、お金でなくてもいつかは恩返ししたいなと思う。
 絶対に恩返ししたいなと思っている。
 大学へ受かる事が彼女たちへの恩返しである。それはもう最低ラインだ。ここまで教えてもらったのに大学に受からないのでは話にならない。
 目標はもっと先にある。
 彼女たちが幸せになればいいだなんて、そんな大それた事、考えてみたりして。それでも願わずにはいられない。彼女たちの幸福を。
 こうしてみると宗教みたいだが、まあ自分自身が宗教みたいなものなので別に構わない。羽川は完璧だと豪語しちゃってるしな。羽川の前だと突っ込めなかったりして、羽川様々だな。本当に危ない奴だ。
 僕は結構学校から遠い我が家に帰った。羽川は多分十五分くらいしたら来る。それまでに髪をセットしないと……アホ毛も立てとかないと。
 もしかしたら羽川は私服姿で来るかもというのが僕のボルテージ、生きる喜びと言ってもいい。まあ私服で来る事がないから、こういう事で楽しめるんだけど。私服で来たら逆にがっかりなのかなぁ。よく分かんねえや。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:38:37.86 ID:MJOMLGZJ0
 さて、アホ毛のセット完了。ちなみにアホ毛とは、阿良々木さんのてっぺんに立っているアンテナみたいな奴だが、アホとは何だアホとは。ネーミングが酷い。
 それは言い得て妙なので、戦場ヶ原にからかわれないようにする為言わないようにしているが、多分思われている事だろう。
 二十分ぐらいして羽川が来た。
 いつもと変わらない服装に、イメチェン後の髪型。やべぇ可愛い。
「さ、阿良々木君、私に見蕩れてないで、早く勉強するよ」
 何というか、その。
 流行るといいよな。羽川、蕩れ。
「えっと今日は数学Ⅱだっけ。教科書捨ててない? まあ捨ててたとしても持ってきたから別に問題ないわよ。さて先週やった証明の続きだけど……」
 と言って、羽川は僕の部屋に入った矢先解説をし始めるが、生憎僕には分からない。
 イメチェン後の羽川はやっぱ可愛いよなぁ。
 イメチェンする前も可愛いけど。充分可愛いけど。
 眼鏡を取ったおかげで、そのくっきりとしたアイラインが浮かび上がる。まつげは化粧をしていない羽川の目を大きく見せているのだろうが、不思議ときつさはない。可愛さを底上げしている。普通系女子になろうとした結果がこれなのだから、侮れない。
「聞いてないよね? 私に蕩れるのはいいけど、その台詞、戦場ヶ原さんの告白する返事にも使ってたでしょ。後で戦場ヶ原さんにチクるから……」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:40:23.27 ID:MJOMLGZJ0
「やめてくれ! 言ってないだろ!? お前が僕の心情を読み取っただけだろ!?」
 必死に弁明する僕。
 いや、ドロひたぎちゃんからツンドラガハラさんに戻られると困るのだ。流石の僕でも対応出来ない。
「そんな事言っちゃって。どうせ毒舌ガハラさんに戻ってもらって、いじめて貰いたいと思ってるんでしょ」
「思ってない! 断じて思ってない!」
 必死に叫ぶ僕。
 絶対に思うものか!
 拘束されたりするんだぞ!
 そんな僕を羽川は冗談の仕草だと思ったのだろうか、口元をかくしてくすっと笑った。なかなか可愛いが、冗談ではない……。
 まあ、そんなこんなで。
 雑談はそれまでにして、勉強タイムである。羽川は賢い割に教え方も上手いので(家庭教師か何かのバイトでもしていたのだろうか)それなりに捗る事が出来た。この僕でも。
 勉強がある程度一区切り突いた後、僕は羽川に問いかけた。
「羽川、お前障り猫とかどうすんだ? そのままほっといて旅に行くとか出来るのか?」
「分かんないけど、自分で抑えてるから大丈夫」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:42:32.75 ID:MJOMLGZJ0
 なるほど。
 ってそれは大丈夫じゃない。羽川はストレッサーがあまりに溜まると、障り猫なる化け物が出てくるのだ。まあそれは羽川の意思もあるから、羽川が被害者だとは言えないけど。
「僕もついてってやろうか? 気休めにはなるはず」
「なりません。戦場ヶ原さんと楽しんでください」
 あっ、そうか。二回目の障り猫が出現した原因は僕なのだから僕がついていったら逆に駄目なのかな……。
 なんか落ち込むな、それ。
 僕が側にいると駄目なのかよ。
「そ、そんなに落ち込まないでよ。大丈夫だって、もう出現する事はないから」
「そうかぁ? ……まあ、信じておくよ」
 というかお前が意識的に出しているようなもんだから、大して信用出来ないんだけど……。ストレスの原因の僕がいなくなれば、そりゃ安泰か。
「悪い事言って済まなかったな。僕がいたら逆に出現しちゃうからな」
「そんな事ないわよ。阿良々木君はもう私の中で整理もついたから。だから阿良々木君はもう用済み」
「それはよかった。ちなみに羽川は僕の事好きか?」
「それは言わない約束。言ったら告白と同じになっちゃうじゃん」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:44:44.48 ID:MJOMLGZJ0
 うう……でも、僕は羽川の口から聞きたいのだ。
「ついてくるって言った時、嬉しかったよ。でも、一人で行くから。お金はまあ稼がないといけないけど、私の計画に沿っていけば四年後ぐらいには行けるかな。
本当にありがとうね。……私、障り猫とちゃんと……決別するから」
 と、言った瞬間。
 羽川が……猫に成った。
 ブラック羽川? ……いや。
「にゃーーーーーー!!!!!」
 違う。

 人語が喋れない。

 つまり、猫。
 障り猫、本体だ。
「忍、助けて!」
 僕はとっさに叫んだ。
 それと同時に、影からにゅっと、金髪幼女の姿が現れる。
「なんじゃい騒がしいのう。せっかく寝ていたのに。まったく。主殿はとんだ我が儘なようじゃな」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:48:02.83 ID:MJOMLGZJ0
 そして、
「兄ちゃん、飲み物持ってきたぜ――」
 火憐がこの部屋の扉を開けた。飲み物を手に持ちながら。その後ろには――、
 月火も、いる。
 阿良々木月火。
 本性、不死鳥、フェニックス。阿良々木月火は傷を負っても死なない。
 その瞬間――
「にゃーーーーーー!!!!!」
 障り猫は目の前にいた忍を突き飛ばし、その月火にかぶりついた。
 かぶりついた。
 いや――違う。
 舐めたのだ。
 自慢の……猫舌で。
 猫舌はとんでもない程の凶器だ。それだけで傷を負う。舐めただけで――
 ましてや障り猫。
 怪異。
 それに特化している――
 飛び散る鮮血、驚く阿良々木火憐に阿良々木月火。いや、驚いている暇さえないはずだ――その鮮血は。
 しかし一瞬にして、跡形もなく、なくなった。
 傷跡さえも。
 一つ残らず。
 血さえもなくなった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:50:35.15 ID:MJOMLGZJ0
 障り猫は驚きに満ちた表情だった。猫なのに感情が分かるのもおかしいが、そうなのだからしょうがない。
 だから、死なないのだ。――死ねないのだ。
 障り猫は――触っているだけで、ダメージを受ける。
 それなのに――月火の表情からは、まるで生気が抜けていない。
 目は瞑っているが、ただ寝ているだけのような状態なのだ。僕の妹のまんまだし――変化さえもしていない。
ただ、気絶はしていた。今の事はよく覚えていないのだろう。それでいい。阿良々木月火は、それでいい。
 この隙に、忍に僕の血を吸わせてやった。忍はどんどん吸血鬼化していく。
 忍野忍。
 別名キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。
 吸血鬼のなれの果て。
 吸血鬼としての能力はないに等しいが、一時期はとても有名な吸血鬼、そして美しい吸血鬼だった。
 何より強い。
 怪異の王。
 怪異を食事にする。そりゃもちろん人間も食べるが。
 怪異の格として――障り猫に負ける訳がない。
 忍は瞬時に障り猫との差を詰めるが、そこは障り猫、かわそうとしてどんどん階段を降りていく。そして突き当たりで忍に追いつかれた。
 忍は障り猫の体躯にしがみつき、
 首筋からついっと、怪異を吸った。
 この場合怪異が羽川と同化していない、つまり怪異百パーセントの状態なのでこの時点で、障り猫、羽川に憑いていた怪異、障り猫は消滅した。
 そして、羽川は生きている。昏倒していない。目が開いている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:52:29.07 ID:MJOMLGZJ0
 そして、何よりも。
「……火憐ちゃん」
 僕は彼女の名を呼んだ。
 彼女は信じられないように、目を見開いていた。それだけ見ると、普通の少女のようだ。
「火憐ちゃん」
 もう一度呼ぶと、僕の方を見た。
 しかし僕に構うことなく駆け出した。……僕さえも怖かったのだろう。
 忍に捕まえろなどとは言わなかった。もちろん羽川にも、そして寝ている月火にも。
 さて。
 僕は忍に今度ミスタードーナッツを好きなだけ買っていいという約束を交わし(どんだけ買わされるのだろう)、
 羽川は僕の部屋のベッドに寝かせ、そして月火は月火のベッドに寝かせた。
 ……火憐ちゃん。
 火憐ちゃん、火憐ちゃん。
 奇しくもその反応は、最初に怪異を見た時の僕と同じ反応だった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:54:34.73 ID:MJOMLGZJ0
005

 奇しくも、なんて言うべきじゃない。
 だって、妹なんだから。
 反応が似て当たり前だろう。というか、ああいう出来事が起こったなら、誰だってそうする。
 火憐は今、何を考えているのだろうか。見当はつくが、予想はつかない。つまりおおよそは分かるが、詳しくは分からないといったところか。
 いやそんな事はどうでもいい。
 早く火憐を探さないと……。どこにいるんだ。
 遠くに行く事が目的でないのなら、多分、あの場所にいるはずだ。きっと、僕が来るのを待っている。
 いつか来た、バス停の前。その席に座りながら、しかしバスに乗っていく気はないのだろう、バスが来ても頭を抱え込んだままだった。
 頭を上げもしないので、運転手が困っていたが、やがて走り去った。
「火憐ちゃん」
 僕は、その名前を呼んだ。
 彼女は僕の声だけに振り向いたように、そっと、顔を上げた。
 弱いなぁ。
 脆い。
 弱すぎて、守ってあげたくなる。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/02(木) 23:59:24.85 ID:MJOMLGZJ0 [31/31]
「兄ちゃん……来てくれたんだね」
「おいおい。来ないと思ってたのか?」
「半々だと思ってた。帰ってくるのを待ってるかもしれないって」
「馬鹿野郎。お前みたいな危なっかしいのをほっとけるかよ」
 今、一番危ないのは火憐だ。
 羽川でも月火でも忍でもなく。……そういえば、月火はあの記憶は残っているのだろうか?
 そうだとしたら厄介だが、まあ例えそうだったとしても僕が吸血鬼の傷で治したと言っておけばいい。妹に嘘をつく時は躊躇わないのだ。
 そしておそらく覚えていたかに対する答えはノーだろう。覚えていないだろう。怪異の都合からすれば。
 まあいい。そんな事は後回しだ。
 火憐をどうするかだ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:01:36.01 ID:nOhr30eT0 [1/13]
「火憐ちゃん。僕の首を見てくれ」
「首……? ……うん」
 首に、傷跡があるのを火憐ちゃんは見た。
 火憐ちゃんは怖がるかもしれない。でも……大丈夫だ。僕の妹なんだから。
「これ、吸血鬼に咬まれた跡なんだ。吸血鬼に咬まれたってことは――吸血鬼に成ったって事だ」
「えっ……兄ちゃんも……?」
 やはり火憐は、僕だけは人間だと思っていたらしい。いや、ちょっとは疑ってたかもしれないが。だからあの時、呼びかけても逃げたのだろう。
「今は人間に戻ったから、大丈夫。お前を食ったりしないよ」
「兄ちゃんに食われるなら、悪い気はしないけどね」
 と、火憐は挑発的な口調でそう言った。やっぱりこいつ、僕を舐めてやがるな。
「馬鹿野郎。僕が本気になったら、お前なんかコテンパンなんだからな」
「いやいや、それはありえないでしょ。一ヶ月ぐらい前の事もう忘れたの?」
 ああ、あの時な。
 僕は火憐にボッコボコにされたっけ。フルボッコとはまさにこの事だった。
 ちなみに火憐は僕の妹なので、僕は僕の妹に負けたって事になる。吸血鬼性を持つというハンデを持ちながら――そりゃ手加減したよ?
 だって吸血鬼だもん。相手を殺しちゃまずいでしょ。ただ手加減しすぎたな。ちょっと見くびっていた。そりゃ、手加減しなかったら、勝てるよ? 当たり前だろう。
 勝てない訳ないじゃないか。嫌だなぁそんな誤解。僕のお人好しが火憐をボコボコにするのをやめただけなのに。
 と、まあ勝手に独白しているが、負けたのは事実である。それについては認めるしかない。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:03:51.54 ID:nOhr30eT0 [2/13]
「そして知ってる通り……月火ちゃんも怪異だ。あいつは先天的な怪異で、不死性を持つ、これまた吸血鬼とは違うんだけど、不死鳥という奴でな。
俗に言うフェニックスだ。あいつは僕や火憐ちゃんの妹ではなかった。月火ちゃんは、僕らをただその存在という一点のみにおいて、騙していたんだ」
「薄々分かってたけどな。兄ちゃんの口から聞かされると……辛いよ」
「…………」
「…………」
 僕も火憐も、何も言えなかった。言う事がなかった。
「でもな……月火ちゃんは、その事を知らないんだ。自分が怪異であるという事は知らないんだよ。人間だと、普通の人間だと思い込んでいるんだ。
生まれた時からずっと僕たちと同じ人間だと――ずっとそう思ってる」
 そして、言いたかった事。
「今は人間だ。お前にこう言うのは辛いが、月火ちゃんにはこの事を黙っておいて欲しい。僕は出来る限り一生、月火ちゃんを普通の人間として生かしてやりたいんだ」
「本当に月火ちゃんには甘いんだな。分かったよ――黙っておいてやる」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:06:17.62 ID:nOhr30eT0 [3/13]
「ありがとな。そしてもう一つお願いがある」
 これは、多分火憐なら分かってくれる事。
 分かってくれると――信じている。
「月火ちゃんを今までと同じように、普通の人間として、いや、お前の今まで通りの妹として見てくれ。
いくら怪異でも月火ちゃんは――僕の妹だ。
そして火憐ちゃんの妹だ。火憐ちゃん、僕の言っている事が分かるか? 今までと同じように、お前の妹として見てくれ」
「……兄ちゃんは我が儘だな。怪異だと分かった上で妹を愛してくれって事だろ? そんなの難しいよ。
だって、やっぱりどうしても偏見が生まれちゃうわけだし。でもまあいいよ」
「いいのか?」
「当たり前だろ。妹を愛する事は姉の義務だし、そして何より兄ちゃんからの命令だ」
「よかった。あ、あと親にも黙っておいてくれ。知らない人は知らないままでいた方がいい」
「じゃあ兄ちゃんと二人だけの秘密、だな」
「そんな甘いもんじゃないけどな」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:09:00.45 ID:nOhr30eT0 [4/13]
 しかし火憐はその条件を認めてくれた。即断か……格好いいな。僕の妹だけあるぜ。
「じゃあ、これまで僕が出会ってきた怪異の事について話してやるよ。そうだなあ……じゃあ、まずは羽川のパンツからか」
 と言って、僕は長い語りを始めた。
 一晩経っても終わらなかった。幸い、翌日は日曜日だったので学校は気にする事はなかった。
 何度も止まるバスが鬱陶しかったので、ファミレスに行こうとしたが、当然閉まっていた。
 語る事と言っても僕の事と囲い火蜂の事とそれから月火の事だけだったのだが、何度語っても尽きなかった。
 流石に他人の事までは話せない。結局公園のベンチに座って話す事にした。まあ人気のない所なのでお巡りさんらしき人は来ない。
 いつかはこうなるんだろうと思っていた。そうなると確信していた。こいつに隠す事は出来ないと。いずればれてしまうと。
 でも、それでいい。
 怪異を見つけてしまっても、充分人生楽しく生きられるはずだから。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:12:05.36 ID:nOhr30eT0 [5/13]
 006

 後日談というか、今回のオチ。
 朝方に帰ってきてから寝たので、正直あんまり寝た気がしない。羽川に話を聞いてみると、今度は本当に覚えていないそうだ。
 障り猫は怒ったのだ。障り猫は、羽川が「障り猫と決別する」と言った瞬間、怒ったのだ。
 だから、怪異に成ったのだ。とんだ我が儘な怪異もいたものだ。あれは融合じゃなくて、侵食その物だった。障り猫。ストーカー。
 最初に月火を襲ったのは、何となく月火が怪異だったからだろうとか推測を立ててみる。猫なりに、何か感じる所があったのだろう。同じ怪異として。
 そして羽川が寝ていたはずの布団、羽川はもう帰ったので(朝なので別に送らなくてもよかった)その布団は僕の独り占めという訳なのだけれど、
正直羽川はこの布団で寝ていないようだ。羽川の匂いがしない。……いや別に、羽川の匂いを覚えているとか、そんなんじゃないけど。
 阿良々木月火。
 中学二年生。
 彼女は人間であり、人間その物だ。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:13:20.07 ID:nOhr30eT0 [6/13]
「月火。昨日の事、覚えてるか?」
「いや……何だか、お兄ちゃんの部屋まで行ったのは覚えてるんだけど、そこからは全然……ていうか、羽川さんをお兄ちゃんの部屋のベッドで寝かせたでしょ。どういうつもり?」
「いや、別に。羽川の匂いを貰おうだとか、そんな事、思ってないよ?」
「そういうのじゃないけどさ、もっとデリカシーとかいう物があってもいいと思うんだよね」
「ほう。……でもその割に、ベッドから羽川の匂いはしなかったけどな」
「うわっ、嗅いだの? 最悪……」
「ちょっと嗅覚がいいだけだ。人を変人呼ばわりするな!」
「変人なんて言ってませんけどー。お兄ちゃんがそう思ってるだけじゃん?」
「何をー!?」
 あとから聞いた話だが、月火が僕のベッドに入って寝ていたらしい。羽川が譲ってやったんだとか。……お前が正真の変態じゃねえかよ、と思ったけれど。
「月火ちゃん、不安だったんだって。自分がお兄ちゃんの妹じゃないかもって、パニック起こしてたから」
 羽川から聞いた話だ。
 安心する為に僕のベッドに入ったのだろう。……匂いがしなかったのはそういう事か?
 嗅ぎ慣れてるからか、同じ匂いだからか。
 多分、どっちもだと、僕は思った。
 羽川から聞いた話だと、月火は今ではちゃんと僕の妹だと思っているらしい。……そうだ。そう思っとけ。
 それが事実なんだから。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:14:17.23 ID:nOhr30eT0 [7/13]
終了です。
何か感想があったらお願いします。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/03(金) 00:17:00.01 ID:nOhr30eT0 [8/13]
あっ、タイトルの会話が入っていませんが、概ねはそういう話でした。
これに関しては後付けで考えた物なので申し訳ないです。

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