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梓「だって唯憂が多いから」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 20:42:03.65 ID:IXkIM3hz0 [1/19]
 静かなリビングで、天井を見上げていた。

隣には、誰もいない。

唯「……」

ため息も、涙も、今は出ない。


 いつも後悔するのは、やらなかったときだけ。

あの時、言っておけばよかった。

何も変わらなかったかもしれないけど、今のこのどうしようもない気持ちになるよりましだ。

 今頃憂は、あずにゃんと一緒にいる。

その横に、わたしはもういられない。


今だって、あの憂の言葉が頭を離れない。

 この気持は、悲しいのかな、自分に腹がたってるのかな。

 今のままを壊すのが怖くて、怯えてただけ。

唯「ばかみたいだね、わたし……」

 また自分を嘲るように、瞼を閉じて目を擦る。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 20:53:06.46 ID:IXkIM3hz0
 あの時、あずにゃんはわたしに言った。

「ほんとにいいんですか?」

 だって、そんなのいいとしか言えないじゃん。妹だもん。

「あ、ありがとうございます」

 どうしてありがとうなんて言うのかな。

 でも、わたしの口から出ていたのは、

「がんばってね」

 その言葉だけ。


あそこでなりふり構わず憂のもとへ向かっていたら、どうなったのかな。

憂とも、あずにゃんとも、今の関係とは変わってるのかな。

 でも、それでなにかが変わるっていうのなら、それをしなかったわたしはばか。

 ただのばか。

唯「……憂」

いるはずもないのに、返事がくるはずもないのに、今はここにいない憂の名前を呟いた。

 あの時は、憂が横にいた。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:01:21.80 ID:IXkIM3hz0
──
────

いつもの帰り道。部活は休み。

憂「晩ごはんなにがいい?」

唯「憂の料理ならなんでもいいよ~」

いつものやりとりをしながら、ふたりで家に向かう。

 隣には、憂の笑顔。

その笑顔を見れば、わたしは幸せで、あったかくて、胸が締め付けられる気持ちになるんだ。

唯「今日はわたしも手伝うよ!」

憂「え~平気かな~?」

唯「あっひどいよ憂!」

憂「冗談だよ、ありがとね。お姉ちゃん」

 その優しい声はずっと昔からわたしを包んで、ずっと一緒だと思ってた。その時は。

でもその時のわたしは、それがどれだけ幸福なことか、分かっていなかったんだ。

唯「うん!」

 またふたり、家に向かう。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:07:28.43 ID:IXkIM3hz0
 家に入り、毎度の如く憂に抱きつく。

あったかくて、いい匂い。

この匂いが大好きで、何も考えずに抱きついていた。

憂「ほら、はやく作っちゃお」

唯「うん~」

 仕方なく離れる。別に構わない。

だってまたいつでも抱きつけるもんね。

 憂のあとについて、キッチンへ向かった。


唯「……ごめんなさい」

憂「平気だよ、うん、おいしいよ」

唯「うん……」

またいつものようにわたしが失敗。

 でも憂は笑顔でほめてくれるんだ。

優しい憂。わたしの大事な妹。

憂「ほら、食べよ」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:16:02.50 ID:IXkIM3hz0
 ただ憂が促すままに、食事を口に運んだ。


憂「おいしかったね」

唯「う~ん、やっぱり憂のご飯には敵わないよ」

憂「そんなことないよ」

唯「わたしは憂のほうがおいしく感じるもん!」

憂「そう……?ありがとね」

 そう言ってわたしのわがままに付き合ってくれる憂。

憂はやさしいな。


 憂と話すのは、当然軽音部のこと。それと、あずにゃんのこと。

当たり前だ。わたしたちふたりとも仲いいもんね。

 でも、ふと憂の口から漏れた言葉に、なぜだか体が震えたんだ。

憂「わたしも梓ちゃんに抱きついてみたいな」

 別にいいでしょ、わたしだってその気持ち分かるんだから。でも……

唯「わたしが抱きつくのじゃ……だめなの?」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:20:51.83 ID:IXkIM3hz0
憂「えっ?」

 あれ?どうしてこんなこと言ったのかな。

唯「あ、ごめんね!なんでもないよ!」

憂「……」

唯「わたしだってわかるよその気持ち!」

憂「う、うん……」

怪しまれちゃったかな。

 どうしてあんなこと、なんて思っていたけれど、ただ目を背けていただけだ。その時のわたしは。

だから、なんとか誤魔化した。

憂「うん……」

また、憂があの顔を見せた。

 少し表情が翳って、何かを考えている顔。

お姉ちゃんだったら、心配しなくちゃいけないのに。

唯「あ、わ、わたし部屋戻るね」

 わたしは逃げた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:27:02.66 ID:IXkIM3hz0
唯「……ふう」

何故か安心した。

 思えば怖かったのかもしれない。憂の言葉を聞くのが。

唯「……りっちゃんなにしてるかな」

でも知らんぷりをしたまま、別のことに頭をまわした。


布団に入り、考える。

部活のこと。あずにゃんのこと。憂のこと。

「わたしも抱きついてみたいな」

 うん、だってあずにゃんかわいいもんね。

唯「ただ、それだけだもんね」

 だから最近あずにゃんの話ばっかりするんだ。

わたしの話が少なくなったのは、そのせい。

 だから、何も問題ない。

唯「……平気だよ」

 暑いけど布団に潜って、何も考えないようにただ目を強く瞑った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:32:47.66 ID:IXkIM3hz0
──朝。

唯「ん……」

目覚ましで目が覚めたけど、憂の足音をまっていた。

唯「えへへ、憂ごめんね」

憂に起こしてもらうと安心出来るんだ。

ぱたぱたぱた、とかわいらしい足音が聞こえて、わたしはまた布団に潜る。

憂「お姉ちゃん起きてー」

憂の声が近づく。でもまだ寝たふり。

憂「お姉ちゃん」

憂がわたしを揺さぶる。

演技とは言えない演技で、それっぽく振る舞う。

唯「ん~?」

憂「起きたね、着替えて顔洗ってきて」

唯「はーい」

すぐに憂の足音は離れていってしまうけど、わたしの心は温かい。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:38:04.49 ID:IXkIM3hz0
 ふたりで学校に向かう。

隣には憂がいる。

憂「ほらはやく」

ぐだぐだと荷物を背負い直すわたしの手をとって、憂は微笑む。

 どきどきするのは、なんでかな。

唯「うん!」

 そんなの、考えなくてもいい。この気持ちは間違いなく幸せだったから。

憂「明日ははやくご飯済ませてね」

唯「だって憂のご飯おいしいんだも~ん」

憂「も~……そんなこと言われたら怒れないよ」

 やわらかい苦笑いを見せる憂。

 そうだ。この気持ちは幸せ。

だから深くは考えず、また学校へと足を進めた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:44:13.10 ID:IXkIM3hz0
 階段で分かれる。

唯「じゃね~」

憂「うん、またあとでね」

 少し寂しかったけれど、またあとで会える。だから笑顔で別れた。

鞄には、憂のお弁当。

髪だって、憂が整えてくれた。

 明日だって同じ。

だから気分の上気したまま、階段を登る。


唯「おはよ~」

律「お、来た」

澪「お、おはよう」

唯「?」

どうしたのかな。みんな目が泳いでる。

紬「ね、ねえ唯ちゃん」

 なんだか、よくない予感がした。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 21:52:14.19 ID:IXkIM3hz0
澪「言っちゃダメだろ」

紬「あ、うん……」

唯「なになに~」

律「あとで梓が話したいことがあるってよ~」

澪「お、おい!」

 あずにゃんからたぶん大事な話。

 みんなが教えてくれないのはなんでかな。

澪「あ、あとは梓からな」

唯「?うん」

 でもそんなのはどうでもよかった。

いつも通りに授業を受けて、いつも通りに憂のお弁当を食べるんだ。

そしたら午後なんてあっという間だから、部活でムギちゃんのお菓子を食べて、また帰って憂に抱きつく。

憂のことばっかり考えるのは、たぶんなんでもない。

憂のことばかり考えていたいのも、なんでもないんだよ。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 22:00:41.78 ID:IXkIM3hz0
 今日のみんなは、なんだかぎこちなかった。

別になにもした覚えもないし、聞いてもなんでもないっていうからわたしは気にしなかった。


 そしてあっという間に放課後。

唯「お菓子楽しみだな~」

紬「今日はね……」

律「まったまった!部室までとっとこう」

唯「そうだねー」

 またいつも通り。

部室へ行ったら、ムギちゃんのお菓子が待ってる。

 気持ち高らかに、わたしたちは部室へ向かう。

そういえば、あずにゃんから話があるんだっけ。


扉を開けると、もうあずにゃんが来ていた。

梓「こんにちは」

特に変わった様子はない。だから、気にすることもない。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 22:08:29.19 ID:IXkIM3hz0
 だらだらとおしゃべりをかわしながら、ケーキを口に運ぶ。

唯「あ~しあわせ~」

 ただ口から出るままに声に出した。

律「だな~」

 りっちゃんとふたり、机に突っ伏す。

こういう時は澪ちゃんがなにか言うのに、その時はなにも言わなかった。

 代わりに、あずにゃんが口を開いた。

梓「あの、唯先輩」

 顔をあげると、少し、ほんの少しだけ空気が固まったような気がしたけれど、構わずに尋ねる。

唯「あずにゃんなあに?」

 みんなは黙ったまま。

梓「ぶ、部活終わった、残ってもらえますか?」

唯「?いいよ」

梓「あ、ありがとうございます……」

 なんだろうこの雰囲気、わたしはどうすればよかったのかな。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 22:14:25.71 ID:IXkIM3hz0
「じゃあな~」

楽しい時間はすぐに過ぎ去り、あずにゃんと部室に残る。

梓「ありがとうございます」

 さっきは不安そうな顔をしていたあずにゃんは、今はもうしっかりとした顔つきになっている。

唯「なあに?」

梓「先輩に、言っておきたいことがあるんです」

唯「うん」

梓「あの、わたし……憂が……」

 憂が、なんだろ。

聞かなきゃいけないのに、聞きたくない。

耳を塞ぎそうになったけれど、なんとかこらえた。

梓「すっ好きなんです!」

時間が止まった気がしたけれど、たぶんわたしが動かなかっただけ。

 そっか。憂のこと、好きなんだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 22:34:35.01 ID:IXkIM3hz0
梓「唯先輩にまず言っておこうと思って……」

 なんでわたしに言うんだろ。

唯「憂に言うの?」

梓「そのつもりです……あの」

 だから、なんでわたしに言うのかな。

唯「なあに?」

梓「わ、わたしがこっ告白しても、いいですか?」

 意味がわからないよ。

唯「どうして?」

梓「先輩、憂と仲良いから……」

 だったら別に聞かなくてもいいでしょ。

梓「せ、先輩は……」

 わからないよ。

梓「憂のこと、好きなんですか?」

 そんなの。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/25(水) 22:40:25.52 ID:IXkIM3hz0
唯「……」

梓「……先輩?」

唯「ん?」

梓「ど、どうなんですか?」

 わたしが憂を?そんなわけないよ。

 だって憂は妹だし、ずっと一緒にいたし、いつもわたしの側にいてくれたし、

唯「憂は……」

 いつも笑っていてくれたし、手を握ってくれたし、そばにいると胸がどきどきするし……あ。

唯「……」

 そっか。わたし。

唯「……ただの妹だよ」

 憂のこと好きなんだ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/25(水) 22:59:03.13 ID:IXkIM3hz0 [17/19]
俺も憂ちゃんのことが好きです
おしまい



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 05:58:38.81 ID:u67SeOhG0 [1/8]


「唯先輩は憂のことただの妹だっていってたよ」

それを聞いた瞬間、体中がしめつけられるようだった……

もちろん私達は姉妹、だけどそんな風におねえちゃんに言われるのは何故だか辛い。

理由はわからないけど、涙が止まらない。

いや、理由はわかっている。私はおねえちゃんが好きなんだ

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:05:01.07 ID:u67SeOhG0 [2/8]
なるべく意識しないようにしていたけど、おねえちゃんに感じるこの感情はやはり家族関係以上のものだろう

ただの姉妹宣言、それをされただけなのにこうも辛いのは私がおねえちゃんに期待をしていたからだろうか

考えてみれば当然だ、姉妹愛なんて異常なのだ。

おねえちゃんは昔から中のいい姉妹くらいにしか思っていない。



「こんな時に言うのもあれだけどさ……憂、好きだよ」

「梓ちゃん……でも私……」

「憂、それ以上言わないで。私なら憂にこんな辛い思いをさせたりしないよ」


この苦しさを癒してくれるならこの子猫に甘えてしまうのもいいかもしれない




_____
_____

そうして私と梓ちゃんの交際は始まった

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:07:39.51 ID:u67SeOhG0 [3/8]
私たちはけいおん部公認のカップル?らしく先輩たちもやさしく見守ってくれた

おねえちゃんも今まで通りだった




今まで通り

そう。つまり私はおねえちゃんにとって、誰と交際しようが構わない程度の存在だったってことだ

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:10:51.64 ID:u67SeOhG0 [4/8]
「憂、それおいしい?」

「……」

「憂、ねぇ憂!」

「あ、ご、ごめん梓ちゃん。なんだっけ?」

「……別にいーよ」

「ちょっとぼーっとしちゃって、ね?ごめんね」

「そんなに詰まらなそうだと誘ったこっちが申し訳なくなってくるよ……」

「そ、そんなことないよ!日曜日に梓ちゃんとデートに誘われた時は嬉しかったよ。それで昨日眠れなくてね」

「それならいいけど……」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:13:22.15 ID:u67SeOhG0 [5/8]
「憂っていつも上の空だよね」

「………」

「また唯先輩の事考えてたんでしょ?」

「……違うよ」

「違わないよ」

「ごめんね」

「謝らないでよ。それに最初からわかってたし」



「だから私が忘れさせてあげる」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:18:31.38 ID:u67SeOhG0 [6/8]
「じゃあ会計すませて私の家行こう?」

「いいけど……んっ」

急に首筋に口付けされて声が漏れてしまう

「ちょ、ちょっと梓ちゃん!こんなとこでやめてよ」

「ほんと憂って反応が可愛いよね。ほら早く帰って続きシよ?」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:33:37.25 ID:u67SeOhG0 [7/8]
____
____


「おねえちゃん……」

先に眠ってしまった梓ちゃんを抱くようにベッドに寝ているとまた姉の事を思い出してしまう



梓ちゃんとはデートのつど体を重ねるようになった

確かに梓ちゃんは可愛いし、行為だって夢中になるほどだ

でも残るのは事後の後悔

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 06:34:30.51 ID:u67SeOhG0 [8/8]
かませとかマジで誰とくだからやめろ!!
そんな風にするくらいなら最初から梓出すべきじゃないな



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 09:42:20.47 ID:kQ4tYwS70 [2/20]
梓「じゃあ、ほんとにいいんですか?」

唯「……うん」

 そうとしか言えないよ、そんなの。

梓「あ、ありがとうございます」

 お礼なんていらないんだ。

 本音をここで出せるなら、やめてほしかった。

唯「……がんばってね」

梓「はい!」


 ぼーっとしたまま、帰り道。

昨日は憂がいたけれど、今はいない。

 あはは、憂、あずにゃんに告白されちゃうんだって。

唯「憂、かわいいもんね」

帰る足取りはなぜだか重く、憂のことを考えると胸が苦しかった。

 この気持ちは、なんでもない。

焦りとかそういうのじゃなくて、ただ憂のことを心配する気持ち。それだけ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 09:50:06.29 ID:kQ4tYwS70 [3/20]
 家に帰ると、憂が迎えてくれた。

憂「おかえり」

 やっぱり、胸が熱くて苦しくなる。

唯「ただいま」

 でもわたしには、あずにゃんを邪魔することなんてできないから、頑張っていつも通りを振舞った。

憂「……じゃ、着替えてきてね」

 憂の顔は、なんだか沈んでいた。

唯「……うん」

 なんでかな、でも。

唯「……」

 わたしには声をかけられない。


階段を登って、部屋の明かりをつけた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:22:24.59 ID:kQ4tYwS70 [4/20]
 着替えてリビングに降りると、憂はうつむいていた。

憂「あ、ご飯いま盛るからね」

どんなことがあったかなんて、わたしには尋ねられない。

 だって、知りたくないから。

聞いてしまったら、聞きたくないことを言われてしまいそうで、怖かった。

憂「……あのね、お姉ちゃん」

 でも、憂からわたしに声をかけた。

唯「なあに?」

憂「あ、梓ちゃんがね」

 あずにゃん。

その言葉を聞いて心臓が飛び出しそうになるけれど、まだなにも言っていない。落ち着かなきゃ。

唯「うん」

憂「わたしに、大事な話があるんだって」

 ひょっとしたら、憂はもうわかってるのかな。

わたしがそのことを知ってることも。……わたしの想いも。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:34:33.72 ID:kQ4tYwS70 [5/20]
唯「そっか」

 憂がわたしに話すのはなんでだろう。

憂「……うん」

 憂がわたしに聞いてほしいからでしょ。なにしてるのわたし。

唯「……じゃあ、ご飯にしよ」

 聞いてあげなきゃ。

 わかってるよ。わかってるけど……

憂「……」

 なにしてるんだ。わたし。

憂「お、お姉ちゃん」

唯「ん?」

 知らんぷりなんて、たちが悪い。

 こんな人間だから、いやになるんだ。

憂「……どう思うかな」

 そうだよ、憂は分かってるんだ。あずにゃんに告白されること。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:45:42.06 ID:kQ4tYwS70 [6/20]
唯「……どうして?」

 どうして?

憂「え?」

唯「わたしに聞くの?」

 そんなこと言っちゃうの?

憂「……そうだよね」

 お願い、そんな顔しないで。

唯「……」

憂「わたしのことだもんね……」

 そうだよ、憂が自分のことを言ってくれたんでしょ。

憂「ごめんね、変なこと言って」

 なんで?

唯「ううん」

 なんで自分の気持ちを言わないの?

 ……ううん。言うことができなかったんだ。憂と離れるのに怯えて。 

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 10:53:34.88 ID:kQ4tYwS70 [7/20]
 わかってるのにね、自分の気持ち。

憂「……」

憂はまたうつむいて、なにもしゃべらない。

 ひょっとしたら、今しかないのかもしれない。

わたしのこの気持ち、伝えるには。

唯「……」

 でも、口からはなにも出てこないんだ。

 臆病者で、卑怯なわたしだから。

憂「……お姉ちゃん、あのね」

 憂がまた口を開く。

憂「わたし……」

 だめだよ、なにを言おうとしてるの。

憂「お姉ちゃんのこと……」

 だめ、だめだよ!憂がそんなこと言ったら……

唯「やめて!」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/26(木) 11:13:00.58 ID:kQ4tYwS70 [8/20]
憂「!」

唯「だめだよ……」

 今度は憂の気持ちまで無下にして、わたしはなにがしたいんだろう。せっかく言おうとしてくれたのに。

憂「……あはは、そうだね。なに言ってるんだろ」

唯「……」

 憂がたぶんいっぱい勇気を出して言ってくれようとしたのにね。

 わたしだって、言いたかったくせに。

憂「じゃあ、部屋戻るね」

 自分からは言えないくせに、人が言うのは憚ることができるのかな、わたしは。

 勝手すぎて、悲しいよ。

 だったら、止めなきゃ。

唯「……」

 憂がどっか遠くに行ってしまう気がしたけれど、またなにもしなかった。

 もし憂の言葉を聞いていたら、どうなったかな。

 やっぱりこんな自分とじゃ憂に失礼だって、断っただろうな。……はは、結局だめだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:35:30.56 ID:kQ4tYwS70 [9/20]
 だから結局、全部自分のせい。

「ありがとね、お姉ちゃん」

最後に憂にそう言わせたのも、わたしのせい。

それを気のせいにしたのも、わたしのせいなんだ。


気がつくと、目が熱かった。

唯「あれ……?」

 それに視界も霞むから、目を何度も何度も擦った。

唯「……なんで……」

 憂とはもうこれでおしまい。

今まで一緒にいたのも、一緒に笑ってきたのも、今日で終わり。

 これから憂は、わたしのところにはいられない。

わたしがいられなくしたんだ。

 それがどんなに辛いのか、まだまだわかってないのに辛かった。

唯「……うい……」

 泣いてなんかいなかったけれど、目を拭った服の袖は濡れていた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 11:53:17.79 ID:kQ4tYwS70 [10/20]
──
────

 部屋の戸を閉め、ベッドに沈む。

憂「……」

お姉ちゃんは、わたしの言葉を遮った。

たぶん、なにを言うのか分かってたんだ。

 わたしはどんなにばかなことだったかも知れず、勢いのままに言おうとした。

 お姉ちゃんに抱くこの気持ちは、ずっと胸に秘めていたものだったけど、ただあの状況がいやでつい口から漏れた。

憂「ばかだな、わたし」

だからお姉ちゃんはそんなばかな自分を止めてくれたんだ。

 わたしのお姉ちゃんだもんね。わたしのことはお見通し。

こんな気持ちはだれにも言っちゃいけないんだ。

 お姉ちゃんにだって。

憂「……」

 明日、梓ちゃんからのお話。

聞きたくはなかったけれど、聞かなきゃいけないのは分かってた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:12:47.90 ID:kQ4tYwS70 [11/20]
──朝。

いつも通りにご飯を作って、いつも通りにお姉ちゃんを起こしにいく。

 いつも通りにしなきゃ。

憂「お姉ちゃん、起きて」

 でもやっぱりできなくて、お姉ちゃんの体に触れなかった。

唯「うん……」

 いつもよりはやく帰ってきた返事は、わたしに出ていってと言っているようで、わたしはすぐに部屋を出る。

憂「じゃあ着替えてきてね」

唯「……」

 返事はない。

 毎朝のことだけれど、わたしにはそれがとても苦しかった。


憂「あ、おはよう……」

唯「おはよう……」

いつもなら待ってるのに、今日はもうご飯は済ませた。

 なんだか、お姉ちゃんに合わせる顔がなかったんだ。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:20:09.50 ID:kQ4tYwS70 [12/20]
 一足先に家を出た。

お姉ちゃんには、用事があると嘘をついて。

憂「……」

学校に行きたくなかった。

 お姉ちゃんと笑って、いっしょにいられればよかった。

なのに昨日あんなことをしてしまった。

 全部、わたしが悪いんだ。

憂「そうだよ……」

 こうなったのは、わたしのせい。

自分を責めて責めて、もう心が限界だったけど、これ以上迷惑かけたくないからなんとかこらえた。

 
 いつもふたりで通っていた道を、ひとりで歩く。

 けれども体は、倍より重い。

 足は、ただ意志もなく進んでいた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:28:10.91 ID:kQ4tYwS70 [13/20]
「あっ憂おはよう」

 教室へ入ると、声をかけられた。

憂「あ、梓ちゃん。おはよう」

梓「う、うん」

 いつものように交わす返事だけれど、どこかぎこちない。

わたしはでも、なにも変わらず振る舞った。

梓「きょ、今日のこと……」

憂「うん、わかってるよ。放課後ね」

 梓ちゃんが緊張しているのがわかった。

梓「ありがとう!じゃ、じゃあね」

 そそくさとわたしから逃げるように梓ちゃんは去っていく。

一度も目は合わせなかった。

そのことに、なんだか罪悪感を感じ、後ろ姿を目で追った。

憂「……」

 わたしだって、割りきらなきゃ。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:41:10.44 ID:kQ4tYwS70 [14/20]
 授業は頭に入らなかった。

どうみても集中できていない梓ちゃんとか、なんだかよそよそしい純ちゃんも気になったけど、わたしの頭には何も入らない。

 お姉ちゃんのことも考えた。

今頃どうしてるかなとか、課題わすれてないかなとか、今のわたしはそれだけの余裕しかない。

どうすればいいのか分からないんだ。

 こういう時、いつも頼りにしてたのはお姉ちゃんだから。

だからどこにも頼れる当てがなくて、泣きそうにもなったけど、泣いたって誰も助けてはくれない。

 それに、これは自分で作った状況だ。自分でなんとかしなきゃだめ。

心を奮い立たせて気を保とうとするけれど、辛くて辛くて折れそうになる。

 お姉ちゃん。

 どれだけ大切だったのか、分かってなかったのかな。わたし。


そんなことを考えているうちも、時間はあっという間に過ぎて、放課後のチャイムが鳴り響く。

 次々と出ていくクラスメイトたちを横目に、空を見た。

憂「ちゃんと決めなきゃ」

 もうあとは、自分で責任をとらなきゃいけないよ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:48:44.30 ID:kQ4tYwS70 [15/20]
 しばらくして、人気のなくなった教室に、ふたりだけ。

どこからともなく口を開いた。

憂「もう平気かな」

梓「う、うん」

声色が震えてる梓ちゃんを見ると、手も震えてた。

 そんなにならなくても、平気だよ。

梓「う、憂」

憂「はい」

梓「わ、わたし……」

 そうだよね、わたしがしっかりしなきゃ。

梓「えと……その」

 だから大丈夫、大丈夫だよ。梓ちゃん。

梓「憂のこと、好きなの!」

 そっか。

梓「だから、もしよかったら、つ、付き合って……ください」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 12:55:26.99 ID:kQ4tYwS70 [16/20]
 梓ちゃん、わたしのこと好きなんだ。

梓「あ、あの……?」

 うれしいな。そんなこと思われてるなんて。

憂「ありがとね、梓ちゃん」

梓「……い、いや」

憂「わたし……」

 こんなに幸せなのは、すごく久しぶりな気がする。

梓「……」

 ほら、梓ちゃんがわたしをの言葉を待ってる。

 わたしだって、いつまでもお姉ちゃんなんて言ってられないよ。

憂「……」

 今までありがとね、お姉ちゃん。

憂「わたしは……」

 ……大好きだったよ。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:08:42.59 ID:kQ4tYwS70 [17/20]
──
────

唯「ただいま」

 誰もいない部屋に呼びかける。

 いつもなら、あの子が迎えてくれる。でも、もういつもじゃないんだ。

部屋のカーテンは閉めきって暗いまま、ベッドに倒れ枕に顔を突っ込んだ。

唯「憂……」

返事もあるはずのない名前を呼ぶ。

 だめだよ、もうあずにゃんのところだもん。

唯「……うい……」

 呼んだって、来てくれるわけじゃないんだよ。

唯「うい……いや、やだよ……」

 ばかみたい。自分のせいでしょ。

唯「おねがい……もどって、きてよぉ……」

 悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。

 それでもわたしは、ずっとひとりのまま。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:22:41.41 ID:kQ4tYwS70 [18/20]
──
────

 夕焼けがオレンジに照らす道を、ふたりで歩いてた。

憂「ね、梓ちゃん」

梓「は、はい?」

 まるで機械のように動く梓ちゃんの横顔は、淡く染められてとってもきれい。

憂「手、繋いでいい?」

梓「えっ?え?」

 そんな初々しいところもまた新鮮で、わたしから手を取った。

梓「あっ……」

憂「えへへ」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:29:41.83 ID:kQ4tYwS70 [19/20]
梓「あ、ありがと……」

憂「んーん」

梓「……憂、わたしね」

憂「なあに?」


梓「……憂のこと……」



 そして、

 夕焼けがかなわないくらい、顔を真っ赤にした梓ちゃん。

 わたしの顔は、どうなってるかな。

 今握ってる手は、いつもとは違うけど、

 これからは、これがいつもの風景なんだ。

 それをわたしは、その手に想いを込めるよう、

 強く握って確かめた。


                                              おしまい。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/26(木) 13:32:27.77 ID:kQ4tYwS70 [20/20]
おわりですー
見てくれた人いたらどうもありがとうございましたー

唯憂?
あとで書きますよ。それではさようなら。

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