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唯「ミュージックトレカ?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 21:19:57.15 ID:HeO87v30O [1/17]
律「よくトレーディングカードって言うだろ?あれのミュージシャン版だな」モグモグ

唯「は、はぁ…そうなんだ」ジュルリ

律「演奏者カードと楽器と、それに補助カードがあって他のヤツと対戦もできるんだぜ」モグモグ

唯「へ、へぇ…そうなんだ…」

律「…って、お前ちゃんと聞いてる?」

唯「いやー、だって律っちゃん美味そうなの食べてるんだもん」ジュルリ

律「どうせそんな事と思ったぜ。このチョコのオマケなんだよカードは」モグモグ

唯「いいなぁ、私も欲しいな。そのウエハースチョコ!」

律「…チョコの方かよ」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 21:32:08.53 ID:HeO87v30O [2/17]
律「インディーズカードか、また外れだな」

唯「それじゃ、当たりってどんなカードなの?」

律「ピンからキリまであらるけど、私はやっぱドラムやってるからスティーヴ・スミスみたいなドラマーのヤツかな」

澪「なんだ律、また買ったのか、そのカード?」

唯「あ、澪ちゃん!そだ、澪ちゃんも持ってるのミュージシャントレカ」

澪「え、それはまぁ持ってるけど」

律「そりゃ最初に買ったのは澪だからんな」

唯「へーそうだったんだ。澪ちゃんはどんなの持ってるの」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 21:39:15.82 ID:HeO87v30O
澪「そんなに無いけど…、今はこれくらいだな」パラッ

唯「うわぁ、沢山アルバムに入ってる!…あ、コレ澪ちゃんの持ってるのと同じだ」

澪「フェンダー・ジャズベースか。最初に買ったカードがこれだったんだよ」

唯「へぇー、いいなぁー。私もギー太のカードが欲しいよ!」

律「そういっても何が入ってるか分かんないからな。簡単にはいかないと思うぞ」

梓「そんな所で何やってるんですか、先輩たち?」

唯「澪ちゃんのミュージシャントレカ見せてもらってたんだよ」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 21:48:29.97 ID:HeO87v30O
梓「ミュートレですか?澪先輩も集めてたんだ」ヒョイ

澪「あぁ、まだ集め始めたばかりだけどな」

梓「わぁ!凄いですね、プロカードばっかりじゃないですか。楽器カードもいいヤツばっかりだし」

澪「そうかな、たいした事ないと思うけど…」

梓「そんな無いですよ!さすが澪先輩ですよ、羨ましいなぁ!」グッ

澪「そ、そうか…?ありがとう」アセアセ

唯「あ、澪ちゃん真っ赤になってるよ!」

律「澪ばっかりズルいぞー!見ろよ梓、私だって集めてんだぜ。ほれ、敬え敬え」バラッ

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 21:55:58.38 ID:HeO87v30O
梓「なんですかコレ…?インディーズカードばっかりだし、アルバムに閉じてないからカードの端が折れちゃってます」ペラッ

律「ん、本当だな。気付かなかったぜ」

梓「ダメダメじゃないですか。澪先輩の足元にも及びませんよ」

澪「あはは、そ、そうなかなぁ…」モジモジ

唯「あ、澪ちゃんが凄いドヤ顔してるよ!?」

梓「澪先輩!もっと見せてもらえませんか」グイッ

澪「あぁ、勿論構わないよ。…そうだ、ダブってて要らないカード梓にあげようか?」

梓「ほんとですか!?やったー、澪先輩大好きです!」ギュッ

澪「お、おい!そんなにくっついたら歩きにくいよ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:04:47.09 ID:HeO87v30O
律「チクショー、澪ばっかりズリィぜ。私のコレクション馬鹿にしやがって」

唯「そうだよね、澪ちゃんばっかりずるいよね!私もあずにゃんに抱き付かれたいよぉ」

律「そっちかよ…。くっそー、こうなったら絶対梓達をギャフンと言わせてやるぜ!」

唯「律っちゃんカッコいい!そのいきだよ!」

紬「みんな、お茶の用意が出来たわよ。少し休憩にしましょう」

律「休憩みたいだな、おい唯行こうぜ」

唯「そうだね、今日のお菓子は何かなぁ。たのしみだよ」ワクワク

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:16:35.39 ID:HeO87v30O
澪「…で、これがジョン・ポール・ジョーンズだ」

梓「あのレッド・ツェッペリンのジョンジーですか!いいなぁー」スリスリ

澪「あははっ、梓ちょっとくすぐったいよ」

唯「あぁ…あずにゃんと澪ちゃん、あんなに顔が近いよ…」

律「アッチィーなぁ、まったくアッチィーよなぁ!」

澪「うん、律暑いのか?冷房の温度下げようか」

律「そっちの暑いじゃねぇよ。まったく、澪のヤツデレデレしやがって」

紬「あらあら、ちょっとそのアルバム閉まってもらってもいいかしら?ティーカップが…」

澪「あぁ、すまんムギ!すぐ片付けるよ」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:27:34.44 ID:HeO87v30O
唯「こうなったらヤケ食いだよ!ムギちゃん、今日のお菓子はなぁに!」バッ

紬「ウエハースチョコよ。沢山あるからいっぱい食べてね!」サッ

唯「わぁい!いつものと違ってちょっと安っぽい感じだけど、それもまたいいよね!」サクサク

律「…ん、このチョコどっかで見た事あるような気が」チラッ

紬「あら、どうしたの律っちゃん?そんなにジロジロ見て」

唯「これ、さっき律っちゃんが食べてたチョコと似てるよねぇ」サクサク

律「そ、そういわれりゃそうだな…。ムギお前もまさかミュージシャントレカを?」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:33:48.29 ID:HeO87v30O
紬「あら、律っちゃん達も集めてたの?中々、コルグTRITON Extremeが当たらなくて…」

唯「へぇ、やっぱり狙って当てるのは大変なんだね」サクサク

律「しっかし、この数のチョコ…。一体いくら何個買ったんだ」

唯「じゃあムギちゃんもカード持ってるんだよね。見せて見せてー」

紬「ちょっと待ってね。えーっと」ゴソゴソ

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:43:58.74 ID:HeO87v30O
紬「あった、あったコレだわ」サッ

唯「…あれ、ムギちゃんのアルバム、ミュージシャントレカのロゴが入ってるね。カッコいいなぁ!」

澪「それで、これがベースアンプカードの…」
ピクッ
梓「そ、それはプレゼントカードを送れば貰える、特製バインダーじゃないですか!」グイッ

律「へー、そうなのか。良く知ってんな梓は」

梓「凄い、クラスでもまだ誰も持って無いんですよ!ムギ先輩凄いです!」グイッ

紬「あら、そうかしらぁ。まだ余ってるのよね、梓ちゃん良かったらもらってくれる?」

梓「ほんとですか!?有り難うございます、ムギ先輩ぃ!」ギュウッ

紬「あらあら、そんなにキツく抱き付かれると痛いわよ」

澪「…………え?」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 22:57:13.46 ID:HeO87v30O
律「ふぅ、今日も練習疲れたなぁ…。なぁ澪?」

澪「………、あぁ」

律「なんだよ、いつもみたいにツッコまないのかよ?」

唯「どしたの澪ちゃん?なんか元気ないよ」


梓「これも、レアカードだ!こっちは、ウルトラレア!?見た事無いカードばっかりだ…」テカテカ

紬「まだ、家にしまってあるカードも沢山あるのよ」

梓「まだ、この他にもあるんですか!?見たいですよムギ先輩!」ギュウッ

紬「あら、だったら帰り私の家に寄って行く?」

梓「は、はいっ!是非お願いします!じゃあ先輩達、そういう事なんで」グイッ

澪「えっ!?待って梓、私も一緒に…」

紬「ちょっと、そんなに引っ張ったら危ないわ、梓ちゃん!」

タッタッタッ

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:08:30.14 ID:HeO87v30O
律「あーりゃりゃ、こりゃ完全に梓にフラれたんじゃねーの?」

澪「………………」ウルウル

律「おい、冗談だってば!?泣くなよ」

澪「……泣いて無いもん」ウルウル

律「いや、完全に目が真っ赤だぞ…」

唯「そうだよ、澪ちゃん!元気だして」ギュッ

スタスタ

憂「あ、やっぱりお姉ちゃん達だ!こんばんは」ペコリ

唯「あれ、ういー?どうしたの、こんな所で」

憂「夕飯の買い物の途中なの。今日は麻婆豆腐にしようと思って」

唯「ほんと!やったー、麻婆豆腐楽しみだよ。じゃあ早く行こ!」グイッ

憂「ちょっとお姉ちゃん!…それじゃ律さん、澪さん失礼します」ペコリ

律「あぁ、唯の事ヨロシク頼むわー」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:13:19.20 ID:HeO87v30O
憂「後は…、お醤油も切れかかってたんだよね」

唯「お醤油か、それじゃ私とって来るよ!」

憂「そう?じゃあお願いお姉ちゃん」

唯「ついでにお菓子も買ってもいいかな!?」

憂「仕方ないなぁ、お姉ちゃんは。一つだけだよ」

唯「分かったよ!有り難うういー!」ダッ

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:21:47.52 ID:HeO87v30O
唯「あったよういー、お醤油!」トテトテ

憂「有り難うお姉ちゃん…って、お菓子は一つだけって言ったじゃない」

唯「もう一つは憂の分だよぉ。一緒に食べよう」サッ

憂「なにこれ?ミュージシャントレーディングカード…」

唯「軽音部のみんなも集めてるんだよ!私もギー太が欲しくて」

憂「そういえば、クラスでも話題になってたなぁ。へぇ、これがそれなんだね」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:30:16.64 ID:HeO87v30O
ジャラジャラ

澪「ひい、ふう、みい…。ダメだ、全然溜まって無い…」

澪母「澪ちゃーん、ご飯出来たわよ。早く食べに来なさい」

澪「あ、うん分かったよママ!……こうなったら」

スタスタ

澪母「お小遣いの前借り?どうしたの、澪ちゃんがそんな事言うなんて珍しいじゃない」

澪「えーっと…、そう。欲しい参考書があってそれで!」アセアセ

澪母「参考書か、それなら仕方ないわね。いいわよ」

澪「ほんとママ!?有り難う!」バッ

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:45:59.88 ID:HeO87v30O
澪「や……、やった、ポール・マッカートニ!あの、ポール・マッカートニじゃないか!これならきっと梓も!」

たがその瞬間、ふと澪は気付く。相手はあの琴吹紬だ、いくらレアカードを引き当てようとも、それ以上のカードを所有している可能性が高い。

澪「もっと…、もっとレアなカードを当てないと、じゃないと梓が…」

澪は震える指先で、一つ…また一つとチョコレートの袋に手をかける。口からはゲップが吹き出し、胃袋は当の昔に満腹になっている。
だが、澪はその手と口を止めることはない。まるで何かに取り憑かれたかの様に…、自分の為、そして梓の為にチョコレートを貪り続けた。最後の一袋に手をかけた時には既に母親を騙したという罪悪感も口の中のチョコレートと共に深淵の体内へと消えていった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/18(日) 23:56:23.84 ID:HeO87v30O [17/17]
憂「ご飯食べ終わったよ、なう…っと」カタカタ

唯「ういー、ういー。それじゃ早速食べようよ、チョコレート」

憂「え?うん分かったよ、ちょっと待ってね!…お姉ちゃんがチョコを食べます、なう…っと」カタカタ

唯「さーて、それじゃ早速開けるよ」パカッ

憂「えーっと、…何々、ティム・ボガードだって。おじさんのカードなんだ、残念だなぁ」

唯「んとね、私はエリック・クラプトン。私もおじさんだよ、うぅギー太が欲しいよぉ!」

憂「諦めないでお姉ちゃん!きっといつかは当たるよ」

唯「そうだよね、有り難うういー。それじゃ、このカードどうしようかな」

ゴソゴソ

憂「じゃあ、こうやってカバンに貼り付けるのはどうかな?」

唯「あ、それいいね。私もそうするよ!」ゴソゴソ

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 00:21:35.55 ID:G1O5DZbJO [1/39]
澪「ゲップ…!朝も、チョコレートだけだから気持ち悪い…ゲップ」

梓「あ、澪先輩!おはようございます」

澪「あ、梓おはよう…」

梓「聞いてくださいよ先輩!ムギ先輩のコレクション凄いんですよ」

澪「あぁ、それなんだが…、これ梓にあげるよ」ドキドキ

梓「なんですか…コレ?ポールマッカートニ……」

澪「やっぱり要らないよな…?ムギの方がこれよりも」

カバァー!

梓「そんな事無いですよぉ!ビートルズなんてムギ先輩のコレクションより凄いじゃないですか!」

澪「ほ、本当か!?他にも色々あるんだぞ」パァァ!

梓「やっぱり澪先輩が一番ですよぉ!大好きです澪先輩ぃー」ギュウギュウ

澪「あ、梓ぁぁ!」スリスリ

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 00:35:43.06 ID:G1O5DZbJO [2/39]
澪は今至福の絶頂にいた。無理もない、あの中野梓に、今まさに憧れの眼差しで見つめれ、抱き付かれているのだから。
一人っ子であった澪にとって、梓はまるで妹の様な存在であり、普段は律や唯にからかわれている澪にとっては自分を頼よりにしてくれる梓は自分の自尊心を満たしてくれる存在でもあるのだ。

一時は紬に、その心の拠り所である梓を奪われたかの様な状態に陥り、深く落胆した。……だが、そんな悪夢はもう終りを告げたんだ、今までも、そしてこれからも梓は自分を必要としてくれる、と澪は徐々に身体から力が抜けていく錯覚に見舞われた。


唯「あっるぇー?澪ちゃをとあずにゃんだ、オハヨー」

梓「あ、唯先輩。おはようございます」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 00:49:11.55 ID:G1O5DZbJO [3/39]
唯「ほら、みてみてあずにゃん!私もミュートレ買ったんだよ」

梓「…え、どれですか?」

唯「ほらこのカバンに貼ってるやつだよ!」サッ

梓「そんな所に張り付けたら折れてグチャグチャになっちゃうじゃないですか!」

唯「え?あぁ、本当だね」

梓「えーっと…、エリック・クラプトン……?」

唯「なんかおじさんだったよ。残念だよねぇ、私はギー太が欲しかったんだけど」

梓「ちょっ!ちょっと凄いじゃないですか、三大ギタリストと称される内の一人なんですよ!」バッ

唯「へぇ、そうなんだ。あずにゃん詳しいねぇ」

梓「うわぁ!良く見せてくださいよ、カッコいいなぁ」

唯「おおぅ、ちこう寄れ、ちこう寄れ」スリスリ

澪「………え、梓?」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 01:07:24.73 ID:G1O5DZbJO [4/39]
澪「なんとかしないと…なんとかしないと……、なんとかしないと」ブツブツ

律「お、いたいた。澪話があるんだけど」

澪「律?なぁ、悪いけど少しお金を貸してくれないか」

律「金なぁ…、その話だけどお前、嘘付いて小遣いも前借りしてんじゃねーかよ」

澪「な、なんでお前がそんな事を知ってるんだ!」

律「お前のカーチャンに聞いたんだよ。参考書なんて買ってないだろ」

澪「うるさいな、私が何に使おうが私の勝手だろ!それよりも、貸してくれよ…お金」ガッ

律「そんな金ねぇよ、もしあったとしても今のお前には貸さないと思うけどな」

澪「なんだよその言い方は!私はいつも律に貸してあげてるのに、役に立たないな!」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 01:19:22.58 ID:G1O5DZbJO [5/39]
律「いい加減にしないと怒るぞ、たかがカードじゃないか。何をそんな夢中になってるんだよ」

澪「うるさい、うるさい、うるさいっ!律なんかに私の気持ちなんか分からないさ!」ダッ

律「お、おい澪待てよ!?何処いくんだよ!」


私は律の制止を振り切り、走った。行くアテも無く、ただガムシャラに走り続けた…。
気が付けば、駅前の繁華街で佇んでいる自分がそこにいた。

「何をやってるんだろ私は……、梓も…何もかも失って…」

身体に走る悪寒を紛らわせる為、手に持っていたベースを抱き締める。…そして、気付く。

「そうだ…、ベースだ……。このベースを売れば……」

気付く…、両手に抱くこの感触に。気付いてはいけないと脳が警鐘を鳴らす……、だが私は気付いてしまったのだ。そう……。

「何かを手に入れるには、何かを失わなきゃならない……」

人込みの繁華街で、私は一人静かにそう呟いた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 01:32:28.20 ID:G1O5DZbJO [6/39]
「有り難うございましたー」

フェンダーのベース、それは私が軽音部である為に存在する物。そのベースを手放した罪悪感と、虚無感に私は襲われていた。
まるで軽音楽の……、律との絆をも捨て去ってしまった様に気がして。

「……でも、もう戻れないんだ。私にはもう、梓しか…」

全ての未練を振り切るかの様に歩道を走った、向かう先は一つ。梓を取り戻す為に、ただその為だけにトレーディングカードを。


紬「あら?澪ちゃん今日は来てないの」

唯「あれ、おっかしいなぁ。朝確か見た様な気がするんだけど。律っちゃん知らない?」

律「……さぁ、知らねぇよ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 01:51:26.43 ID:G1O5DZbJO [7/39]
「違う…、これも違う……。なんでだよ…、なんでインディーズカードばっかりなんだっ!」

次々とチョコレートを口の中に放り込むが、出て来るのはどれも他愛の無いカードばかり。焦燥感に苛まわれる私の気持ちとは裏腹に、時間ばかりが過ぎていった。

「…澪ちゃん?聞こえて無かった、ご飯出来たわよ」

「いい、要らない…」

扉越しから聞こえる母親の言葉も右から左に聞き流し、私はチョコを貪る。食らい尽くそうとする。胃は既に限界を向かえているが、そんな事も構わずにまるでリスの様に両頬に詰め込んだ。
そんな自分が情けないのか、梓を奪われた事が悲しいのか、ベースを失った事に後悔しているのか。それともそれ全てなのか。
何一つ分からないままに、ただ壊れた機械の様にチョコレートを飲み込む。軽音楽での思い出を飲み込む。律の笑顔を飲み込む。
全てを飲み込み一人慟哭した私は……、その夜に全てを吐いた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 02:01:41.62 ID:G1O5DZbJO [8/39]
唯「あーずにゃん、ほらほら見てついに当たったよ!YAMAHAのカスタネットカード!」サッ

梓「なんですかそれ?カスタネットって体鳴楽器カードの最下層じゃないですか」

唯「えー!そんな事ないよぉ、いいじゃんカスタネット!傷が付かないようにローダーに入れておかないと」

梓「エリックはカバンに張り付けてるのに…。大事にする順位逆ですよ」

ガチャリ

唯「…あれ、もう誰かきてるのかな?」

梓「そんな訳無いですよ、ムギ先輩と律先輩掃除当番って言ってたじゃないですか?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 02:13:22.15 ID:G1O5DZbJO [9/39]
澪「あ、梓………」クルッ

梓「ひ、ひぃ!?澪先輩ですか、ビックリさせないで下さいよ」

唯「澪ちゃん来てたんだ?てっきり今日も休みだと思ったよ」

澪「梓見てくれ……ほら、お前の為にカードを……」バラッ

梓「ん…?なんですかこれ、どれもインディーズカードばっかりじゃないですか。別に要らないですよ」

澪「そ、そんな!?じゃあ、ちょっと待ってくれすぐ用意するから…」ガタガタ

梓「用意って……、ちょっと澪先輩そこ退いて下さいよ」ガッ

ドンッ!

澪「痛ッ……!」バタッ

唯「ちょっと、あずにゃん何するの!?澪ちゃん大丈夫?」

梓「や、やっぱり……。なんて、なんて事をしたんですか先輩は…」

唯「どうしたの?澪ちゃんが何かしたの」

澪「ち、違うんだ梓!それは!」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 02:38:39.67 ID:G1O5DZbJO [10/39]
梓「このゴミ箱をみて下さいよ!大量のチョコが捨てられてます」

唯「ほんとだ……。まさか、澪ちゃん」

梓「チョコを捨てて、中身のカードだけ取るなんて絶対にしてはいけない事じゃないですか!最低ですね、見損ないましたよ澪先輩!」

梓の私を見つめる瞳、それは既に憧れなど微塵も消え去り、氷の様に冷たく、鋭いナイフの様に尖っていた。

澪「違うんだ……違う……!」

梓の口から、私の身体に何か例えようの無い物が襲いかかる。それは私の身体、心、全ててを蝕み、食らい尽くしていくかのようだった。

梓「ちゃんと責任をとって処分して下さいよ!全く、行きましょう唯先輩!」

幾度と無く放たれた、それは私の全てを奪い、そして、消えていった。

その後の事は良く覚えていない、気が付いた時には自分の部屋のベッドで布団に包まれていた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 02:59:16.83 ID:G1O5DZbJO [11/39]
梓「あ、キアヌリーブスだ」スッ

唯「プップーッ!あずにゃん私のカスタネット馬鹿にしたのに、キアヌリーブスだって!ハリウッド俳優じゃん、外れもいいとこだよね!」

梓「外れじゃないですよ、キアヌは『ドッグスター』ってバンドでベースを担当してたんですよ」

紬「あら、そうなの?私もてっきり俳優だけかと思ってたわ」

梓「まぁ、もう解散しちゃってますし、人気も無かったみたいだから、外れといえば外れかな」

唯「ムギちゃんは何が出たの?」

ガサガサ

紬「えーっと私は…、やったわ三木道三のLifetime Respectの標準語Verだわ」サッ

唯「あれ?でも、そのカード持って無かった」

紬「それはLifetime RespectのアカペラVerね」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 03:06:27.08 ID:G1O5DZbJO [12/39]
梓「Lifetime Respectは全ての種類が手札に揃うと一発で相手を倒せるんです」

唯「凄いね!ねぇ、律っちゃんは何がでたの」

律「ん?あぁ…、ただの外れだよ」

唯「どうしたの?なんだか元気ないよ」

紬「きっと澪ちゃんが学校を休んでるから心配なのよ。そうだ、帰りに皆でお見舞いに行ってあげましょう!」

唯「そうだね、それが良いよ!この前も体調悪いみたいだったし」

梓「あー…、私はいいです。先輩達だけで行って来て下さい……」

唯「えー、なんで?一緒に行こうよ。あずにゃん澪ちゃんの事嫌いなの!」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 03:11:42.56 ID:G1O5DZbJO [13/39]
梓「勿論好きですよ…、でもだからこそあんな事をした先輩が嫌いなんですよ!」

紬「好きで嫌い…?どういう事よ梓ちゃん」

律「別にいいぜ、梓は来なくても。私には梓の気持ち分かるしな」

唯「えー、なんなのそれー!駄目だよぉ、皆で行こうよ」

梓「嫌って言ったら嫌ですよ」プイッ

紬「仕方ないわね…、私達だけで行きましょう」

唯「もー、しょうがないなぁ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 03:24:28.50 ID:G1O5DZbJO [14/39]
淡い夢の中に私は居た。その中では、軽音部の皆がいつもの様にお茶を啜り、談笑に華を咲かせている。
けれども、その中には私の姿は無い。まるで私等必要無いかの様に。まるで最初から存在しなかったかの様に。私はその様子をただ外から眺めていた、手を伸ばせば届きそうなのに。けれども絶対に届かないと私は悟っていた。だって私のベースは既に無いんだから、私は……

「軽音部じゃないんだから……」

そう呟き、目を開ける。そこには部室では無く、部屋の天井だけが広がっていた。少し寝返りを打つと、テーブルの上にあった食器が目に付いた。
中身は全て入ったままだ。昨日の一件以来、私の胃は何も受け付けなくなっていた。まるで、胃も腸も、心臓も全て無くなってしまったかの様に。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 03:33:17.85 ID:G1O5DZbJO [15/39]
ぼんやりと虚空を見つめていた私の耳にノックね音が鳴り響く。

「澪ちゃん、お友達がお見舞いに来てくれたわよ」

「お見舞い……まさか、梓が?」

きっと、私の事を心配して来てくれたんだ。そして、私の事を全て許してくれるんだ。そう思うと不思議と心は軽くなり、必死にベッドからはい上がった。
たが、そんな私の望みはいとも簡単に砕かれた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 03:45:11.56 ID:G1O5DZbJO [16/39]
「でも、あずにゃんも心配してたよ。だから早く元気になってね!」

扉越しから相も変わらず脳天気な声が聞こえる。何が心配しているだ、だったら梓が見舞いに来ない訳がないだろ。

「……るさい」

「え、何澪ちゃん?聞こえないよぉ」

「うるさいって言ってるんだよ!お前はいつもそうだ、そうやって何の罪悪感も無く私から奪っていくんだ!」

「み、澪ちゃん…何を言ってるの?」

「ろくに練習もせずに、いとも簡単にギターを弾いて…、いとも簡単に梓を奪って!追い付いと思ったら一歩も二歩も先に行って、それが許せる訳ないだろ!」

「澪ちゃんが何を言ってるのか分からないけど、唯ちゃんは悪気があったわけじゃないのよ」

「悪意の無い悪意が一番タチが悪いんだよ!」

私は想いの限りに叫ぶ、支離滅裂なのは自分でも分かっている。だが、叫ばずにはいられなかった。
気が付けば、静寂に包まれた部屋の中には唯の啜り泣く声が虚しく響いていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 04:01:46.08 ID:G1O5DZbJO [17/39]
「ねぇ、澪ちゃん、お願いここから出て来て。ちゃんと話し合えばきっと、唯ちゃんとも梓ちゃんとも分かり会えるわよ」

「ムギ…ちょっとどいてくれ。おい、澪聞こえるか?」

「なんだよ…、お前も私を連れ戻しにきたのかよ。でも無駄だぞいくら律だからって」

「違う、そんなんじゃねぇよ。今日当たったミュートレだ、使うかどうか迷ってたんだけど、その必要は無かったみたいだな」

律がそう言うと、ドアの隙間から一枚のカードが差し込まれた。私はそのカードを拾って目を通す。
そのカードは、キャンディーズの日比谷野外音楽堂コーンサートでの解散宣言カードだった。

「そういう事だから、じゃあな澪。ムギ帰るぞ、唯を連れて来てくれ」

「ちょっと待って律っちゃん!どういう事なの」

慌ただしい足音が三つ私から遠ざかって行った。私は手の平のカードにもう一度目をやる。解散宣言カード、それが意味するものは即ち私と律の関係。
私はただ、そのカードを眺めている事しか出来なかった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 08:37:28.99 ID:G1O5DZbJO [18/39]
軽音部室から聞こえる演奏、だが今鳴り響いているそれは以前とは違い不協和音だけだった。

律「うーん、全然ダメだな。ムギ、休憩だお茶の準備をしてくれ」

梓「ちょっと、まだ始めたばっかりじゃないですか!」

律「さっきから唯何度トチってるんだ?」

唯「え…?あぁ、うんゴメン…」

律「こんな状態でいくら続けても一緒だろうが。休憩して気分を切り替えるぞ」

紬「そうね、待ってて直ぐに準備するわ!」

梓「どうしたんですか唯先輩?らしく無いですよ」

唯「うん、ゴメンね。別に何でも無いんだよ」

そう呟くと唯はギターを床に下ろすと、おぼつかない足取りでテーブルへ向かう。その背中は梓の目にはやけに小さく映つった。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 08:52:58.29 ID:G1O5DZbJO [19/39]
律「しっかりしてくれゃれな唯。そんな事ならギタークビになっちまうぜ?ほら、私の分のチョコやるから」

唯「あはは…、有り難う律っちゃん」

梓「だったらギターよりも先にベースを募集しましょうよ!澪先輩、軽音部に戻って来ないかも知れないんでしょ」

紬「そ、そんな事無いわよ。きっと体調が良くなったら戻ってくるわ。ねぇ、律っちゃん?」

律「私は知らねぇよ、もう解散カード叩き付けたんだし」

梓「でも止めるにしても、あのチョコ処分してからにして欲しいですね」

律「ん?なんだそりゃ」

梓「この前の澪先輩がカードだけを取って捨てたチョコですよ。とって置いんです」

律「あいつ……、そんな事してたのかよ」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 09:15:46.62 ID:G1O5DZbJO [20/39]
梓「退部届けを受け取る時に、無理矢理にでも食べさせて下さいよ!もっとも、全部湿気ちゃってますけどね」

唯「……あずにゃん、澪ちゃんにも訳があったんだよ。そんな言い方は止めてあげて」

梓「理由ってなんですか?ただ自分がレアカード欲しいからじゃないですか。あーあ、何であんな人に憧れてたんだろ」

律「おい、梓。こっち向いて歯食いしばれ」

梓「……え、何ですか。そんな怖い顔して」

首を傾げる梓の頬に律は、思いっ切り平手を打ち込む。いきなりの事に、梓は受け身を取れずに床に叩き付けられる。

紬「律っちゃん!?何をするの、何で梓ちゃんを」

梓「そうですよ!悪いのは澪先輩じゃないですか!律先輩だって私の気持ち分かってくれてるんでしょ!?」

驚きと怒りに満ちた目で、梓は律を睨み付ける。だが律はその視線を全て受け止めて、場に立ち尽くす。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 09:27:54.96 ID:G1O5DZbJO [21/39]
律「知ってるよ……。梓の気持ちを知ってるから、澪に解散カードを叩き付けた!澪の気持ちを知ってるから、梓の頬を叩き付けた!」

梓「何なんですかそれは!?訳が分かりませんよ」

律「澪は自分の為にチョコを買い漁ってたんじゃ無い。梓に、お前に自分を見ていて欲しいって、……お姉ちゃんだと思って欲しいって。そんな気持ちだったんじゃねぇのかよ!」

梓「そんな……、そんなの言ってくれなきゃ分からないじゃないですかぁッ!!私だって澪先輩を本当のお姉ちゃんみたいに思ってた、だからこそあんな事をした澪先輩が許せなかったんですよ!」

梓はその場に蹲り、ただ嗚咽する事しかできない。律も、その梓の様子を見つめる事しかできないでいた。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 09:39:43.07 ID:G1O5DZbJO [22/39]
唯「違うよ……、こんなのは違うッ!こんなのは軽音部なんかじゃ無い」

紬「唯ちゃん!待って、どこに行くの」

律「いいよ、ムギ放っておけよ…。どうせこうなる事は分かってたんだよ。私が解散カードを引いた時から」

紬「そんな、じゃあこのまま終わってしまうの?私達の軽音部…、放課後ティータイムは!?」

律「それを決めるのは私一人じゃないさ……、なぁ澪」

律はそう歌う様に呟くと、窓の向こうに視線をやる。その目に映っていたのは、必死に手を振り校門から飛び出す唯の姿だった。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 09:55:32.82 ID:G1O5DZbJO [23/39]
私は、またゴミ箱に向かって嘔吐物を吐き出す。それは、胃の中の物を全て吐き終るまで終る事は無い。
あれから、私は一度もまともに食事を取る事は出来ずにいる。頬も大分すり減って来ているようで、鏡に映る自分の姿は目の下がくまだらけの不気味な日本人形の様だった。

「澪ちゃん!ねぇ、澪ちゃん開けてよッ!」

ママの叫び声、そして廊下に慌ただしい足音が鳴り響いたかと思うと、急に自分の名前を呼ばれて身体を震わせる。

「ゆ、…唯か。なんだよ、開けないって言ってるだろ帰れよ」

私は、吐き捨てる様に言い放つ。しかし、唯はここから離れる様子は無く、なんども扉を叩き叫び続ける。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 10:09:22.15 ID:G1O5DZbJO [24/39]
「このままじゃ、律っちゃんもあずにゃんも皆バラバラになっちゃうよ!ねぇ、澪ちゃん!」

梓の名前を聞き、私の思考が動きだし始める。しかし、あの時の冷たい目が頭を過ぎり、私の意思は再び深い深淵へと転がり落ちてしまう。
その代りに浮かぶのは、あの夢の光景、私のいない放課後ティータイムの姿だった。

「もういいよ、唯。そんな事いってどうせ四人で仲良くやってるんだろ。放っておいてくれ」

「なんで……、なんでそんな事悲しい事を言うの!なんで、澪ちゃんがいない部室で楽しく出来るの!?」

唯の叫びは酷く澄み切り、扉越しから私の心に突き刺さる。しかし、その叫びも虚しく、深淵に位置する私の心には届く事は無い。

「ねぇ、澪ちゃん!私達は五人で放課後ティータイムはなんだよ。それを、それをこう簡単に失っていくのは、酷い事なんだよ!」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 10:20:07.34 ID:G1O5DZbJO [25/39]
澪「うるさいっ!もう私は、軽音部じゃないんだよ。もう、ベースも……、軽音部の想い出も売り払ったただの秋山澪なんだよッ!」

私は頭をかき毟り、腹の底から絶叫する。その、一撃は唯の心をぶち壊した様で、床に崩れ落ちた唯の呻き声が聞こえ始める。

「分かっただろ……、もう私には軽音部に戻る資格なんて無いんだよ」

そう、唯に告げて私は再びベッドに戻ろうとする。だが、今度は扉を爪でかき毟る音が聞こえ始める。
それは、先程とは違い消え入る様に弱々しい。しかし、何故かより深く私の身体にめり込んでいった。

「澪ちゃん…お願いだよぉ……。私なんだってするから、だから……」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 10:42:58.64 ID:G1O5DZbJO [26/39]
私は堪らず、鍵を開けて勢い良く扉を開く。そこには、涙と鼻水でクシャクシャになった唯が床に這い付くばっていた。

「本当か……、本当に何でもするんだろうな」

私はゆっくりとした足取りで唯の目の前まで歩を進める。唯はそんな私の様子を怯えた様な瞳で見つめていた。

「な、何澪ちゃん…、何をするの?」

「だったら、お前のカバンに張り付けてあるエリック・クラプトンのカードを私に寄越せよッ!」

私は唯の身体に馬乗りになる様に覆い被さると、脇に抱えていたカバンを奪い取ろうとする。しかし、唯も取られまいと必死に身体を捻り抵抗をする。

「待って、澪ちゃん!これは…、これは憂と一緒に買った初めてのミュートレなの、だから!」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 10:52:09.45 ID:G1O5DZbJO [27/39]
「そんなの関係無いよ!言っただろ、何でもするって!ショップに売れば高く買い取って貰えるんだよ、お前が持ってるよりそうした方がずっと良いんだよ!」

カバンを抱えて、団子虫の様に丸々唯の頭を掴み必死に引っ張る。もうこれしかないんだ、これでまたミュートレを買うしかないんだ、そして梓に……。

「ご、ゴメン澪ちゃんッ!」

一瞬激しい痛みが頭を走り、遅れて状況を理解する。勢い良く唯に身体を突き飛ばされた私は、壁に頭を打ち付け倒れているのだという事を。
虚ろに状況を理解する私の目には、踵を返し逃げる様に走り出す唯の姿だった。

「……最低だ、私って」

自分の指に絡まった唯の髪の毛を見つめつつ、誰に言う訳でもなく私はそう呟いた。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 11:02:43.07 ID:G1O5DZbJO [28/39]
再び私は眠りについた、しかし今度はあの淡い夢は見ない。私の脳裏には何も映らない、見えない。ただの暗闇、それだけが永遠と広がっていた。
これは、ミュージシャンバンドにおいて全ての破壊、そう解散を意味しているのかも知れない。そんな事を思った瞬間、私は眠りから現実へと引き戻された。

「……、着信音?軽音部の皆は拒否してあるのになんで」

私は必死に手を伸ばして、携帯電話を掴む。ディスプレイには見た事も無い番号が表示されており、少し悩んだ末に私は電話に出る事にした。

「あっ、澪さんですか?私です、平沢憂です」

私の耳には憂ちゃんの声が聞こえてくる。私の状態を知らないのだろうか、何一つ邪気の無いその声は酷く懐かしい感じがした。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 11:15:05.96 ID:G1O5DZbJO [29/39]
「お姉ちゃんがまだ帰って無いんです。私心配になって、澪さん何か知らないですか?」

受話器からは先程どうって変わって、酷く緊迫した様子が伝わってきた。

「し、知らない……。分からないよ、ゴメン」

「そうですか…?最近お姉ちゃん、なんだか元気が無かったから、心配で」

「律達には言ったのか?もしかして一緒に遊びに言ってるだけかも」

「律さん達も知らないって……。今手分けをして探すのを手伝ってくれてるんです」

「そうなのか……」

私はその後一言二言、言葉を交わすと通話を切り、毛布に丸まる。考えなくとも原因は私にあるのは火を見るよりも明らかだ。もしかすると最悪の事態になっているかもしれない。

「でも……、だからって私に何が出来るって言うんだよ」

唯にあんな事をしてどんな顔をすればいい?律や梓にどんな顔をすればいい?私には何も出来ないんだ、自分にそう言い聞かせる事しか今の私には出来なかった。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 11:24:52.14 ID:G1O5DZbJO [30/39]
再び気が付いた私は、繁華街を力の限り走っていた。着の身着のまま、息が切れそうになりながらも必死に。まるでその姿は友達を、唯を必死に探す軽音部の一員かの様だった。

「な、なんだよこの滑稽な夢は…。私がこんな夢を見る資格なんか無いよ、早く覚めてくれよ!」

だが、私の思いとは裏腹にその夢は全く覚める気配は無い。
止めてくれ…、身体だって限界じゃないか、苦しいよ。皆私の姿を見て笑っているじゃないか、恥かしいよ。
けれども、夢は覚めなかった。むしろ身体が熱を持って、まるで現実かの様に私に訴える。
その出来事に戸惑った私は足を絡ませ地面に倒れ込んでしまう。

「痛いっ!なんで覚めないんだよ。……血が出てる、まさかこれって」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 11:34:40.40 ID:G1O5DZbJO [31/39]
私は気付く、これは夢なんかじゃない。確かな現実だと言う事に。夢だと、言い訳をしてまで探し続けている惨めな私に。

「唯……、一体どこにいるんだ」

携帯に電話をするも、電源が入っていない事に苛立ちを覚える。しかし、すぐさま自分の携帯の事を思い出し苦笑する。

「仕方ない、行ける所まで行ってみるか!」

私は髪をかき上げ、後ろでまとめる。他人の目なんか気にしてられない、悲鳴をあげる胃に気にしてなんかられない。ただ、ひたすらに走り続けた。
それが唯に対するただ一つの贖罪の様に思えて。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 11:47:13.17 ID:G1O5DZbJO [32/39]
目の前がクラクラし、心臓の鼓動が激し波打つ。額から止めど無くあふれ落ちる汗を袖で拭うと私は立ち止まり肩で息をする。
やはり、思うだけではそう簡単に見つからない様で、私は弱々しく周りを見渡した。

「ミュートレショップか……」

目についた看板は私が初めてミュージシャントレーディングカードを買った楽器店だった。いつの間にか無意識にここまで足を運んでしまっていたようだ。

「ここから全てが始まったんだな……、何気無く買ったカードがフェンダー・ジャズベースで。律は変な被り物したインディーズカードで悔しがってたっけ」

想い出に吸い込まれる様に、私は目の前の楽器店に足を運んだ。そして、カードが展示されているショーケースに近付こうとした時、ふと見覚えのある後ろ姿を見つけた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 12:00:23.81 ID:G1O5DZbJO [33/39]
「おい、唯!お前こんな所で何やってるんだよ」

私はいてもたってもいられなくなり、急いでその肩を叩く。一瞬ビクリと身体を震わせると、ゆっくりとこちらを振り向き始めた。

「み、みおちゃぁ……、ぎゃああぁああぁぁッ!!」

私に向き直った瞬間に、口から耳をつんざく様な悲鳴を吐き出し、私は思わず尻餅を付く。

「お、おい唯、いきなり大きな声を出すなよ!ビックリするじゃないか」

「あはは…、ゴメンね。だって澪ちゃんの顔が」
「顔って……。うわっ酷いなこれは」

涙で真っ赤になったであろう目を細めて、唯は私を見つめて笑い続けた。その笑顔を眺めながら、私は全身の力が抜けていくのを感じていた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 12:08:37.27 ID:G1O5DZbJO [34/39]
「それよりも済まなかったな、唯。私はなんて酷い事を……」

「ううん、いいよ。だって恥かしがりやの澪ちゃんがそんな格好で私を探しに来てくれたんでしょ?」

「…それはそうだけど。本当にいいのか、私のやった事は簡単に許される事じゃ」

「少なくとも私は簡単に許せるよ。だって同じ軽音部、ううん友達じゃない!」

「ゆ、唯ありがとう……」

私は周りの目も気にせずに唯に抱き付く。唯はそれを拒む事なく温かに受け入れてくれた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 12:22:05.48 ID:G1O5DZbJO [35/39]
「でもどうしてこんな所にいたんだ?憂ちゃん達も見つからないわけだよ」

そう質問すると一枚のカードをポケットから差し出して私に見せた。

「これは…、唯のカバンに付いてたエリックのカードじゃないか。まさか!?」

「うん、そのまさか。でも澪ちゃんがミュートレを買う為のお金じゃないよ。売っちゃったエリザベスを買い戻す為に、それならこのカードを手放す覚悟が出来たの」

「私のジャズベース…、エリザベスを買い戻す為?」

「そうしたら澪ちゃんも軽音部に戻ってくれるでしょ?だったらこんなに嬉しい事は無いよ!」

「ば、馬鹿!これ以上唯に迷惑を掛けられるか、元はといえば私が」

「だったら約束してくれるかな?必ず軽音部に戻ってくれるって」

「や、約束する!ベースが無くても、律が反対しても!もうあんな思いはしたくないんだ」

「そっか…、良かった。さようなら、私のエリック・クラプトン」

唯は歌う様にそう呟き、大事そうに手にしていたミュートレを二つに裂いた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 12:30:33.55 ID:G1O5DZbJO [36/39]
「お前っ!?何をするんだよ、それはお前の大事なミュートレじゃなかったのか」

私は慌て唯の破り捨てたカードを見る。しかし、唯は静かに私の顔を見つめていた。

「大事だったけど……、それよりも澪ちゃんや軽音部の皆の方が大事だもん!皆と一緒にいられるだけならミュートレなんか要らないよ」

「唯……、そうだなミュートレなんかよりも大事な物、絶対無くしちゃいけない物。こんなに身近にあったのに、今になって気付くなんて」

「やっと気付いたのかよ。ったく、遅すぎるんだよ澪は」

声のした方向に振り返ると、そこには律と紬。そして梓と軽音部の皆が佇んでいた。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 12:48:13.12 ID:G1O5DZbJO [37/39]
「どうして、お前達がここにいるんだ!?」

「ふふっ、澪ちゃんのその格好で走り回ってたら直ぐに気付くわよ。凄い寝癖じゃない」

ムギに指摘されるまでも無く、ショーケースのガラスで自分の姿を確認していた私は恥ずかしさの余り俯く。

「全く、見てるこっちが恥かしくなるぜ。……ほら、受け取れ!」

律が身体を捻り、手裏剣の様に何かを私に投げ付ける。慌て飛んで来たソレを掴かみ取ると手を開き目を通す。
それはミュートレ、1989年のNHK紅白歌合戦でのピンクレディ再結成カードだった。

「再結成カード……、律これって?」

「なーに驚いた顔してんだよ。解散カードと再結成カードはワンセットで使うのがセオリーだろう。私と澪の腐れ縁はそう簡単に解散なんて出来ねぇよ」

そう言いながら律はポケットに手を突込んだまま私を見つめる。私もただ黙って律を見つめ返す。
これ以上何も言葉は要らない、全て元通りだ…、と律の瞳がそう語っている様だった。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 13:03:12.85 ID:G1O5DZbJO [38/39]
「はいはい、律先輩達も充分恥かしいですから!何見つめ合ってるんですか」

そう言いながら、二人の影に隠れていた梓が飛び出して来た。私と目が合うとバツが悪そうに視線を逸した。
その瞬間、また梓の冷たい瞳が脳裏に浮かぶ。逃げ出したくなる気持ちを押さえ、私は必死に歯を食いしばって耐える。

「梓、すまない私は先輩失格だな……。でも、もう一度チャンスをくれないか!あのチョコもちゃんと食べるから」

「あのチョコってなんですか。知りませんよ、そんな物」

「そ、そんな……」

「あずにゃん、澪ちゃんを許してあげてよ。澪ちゃんだって悪気は無かったんだよ」

「だから…!許すも何も澪先輩は何もしてませんよ!あの湿気て美味しくないチョコなんて最初から無かったんですよ!澪先輩が……、私のお姉ちゃんがそんな事する訳無いじゃないですかっ!!」

梓は吠えた、涙と鼻水で顔を歪ませながらも必死に。その叫びは私の中にも入り込み、深淵の檻を叩き壊してくれたかの様な錯覚に見舞われた。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/19(月) 13:12:54.57 ID:G1O5DZbJO [39/39]
「私達も手伝うって言ってるのに、梓ちゃん一人で食べちゃうんだもの」

「小さいくせに以外と根性あるんだよな。見直したぜ」

「えー、あずにゃん一人で全部食べたの?いいなぁー、ずるいなぁ!」

「だから、湿気て美味しくない…って。違う、チョコなんて始めから無かったんです!」

いつもの軽音部のいつもの光景。いつもと変らないはずなのに、それは私の心を隅々まで浄化してくれるかの様だった。

「終わったな……、全て。これで私の悪夢は終るんだ」

呟きながら、歩を進めようとする私の肩をふと誰かが掴む。
振り返るとムギが毅然とした表示で佇んでいた。

「まだよ澪ちゃん……、まだ肝心な物が残っているわ」

「なんだよムギ…?まだ何があるって言うんだ」

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 13:23:55.24 ID:G1O5DZbJO
私は両手に感じるエリザベスの感触に暫くの間酔っていた。しかし、ふと我に返りムギに申し訳ない気持ちで一杯になる。

「すまないなムギ……、このお金はきっとバイトでもして返すから!」

「いいわよ、気にしないでこれは事故みたいな物だったんだから。それよりもバイトする時間があるなら練習に回してくれた方が軽音部の為にもなるし」

「…あれ?でも部活にいてもティータイムばっかりしてる気がするよね」
「お前はいいから黙ってろっ!」

「はぅん!?」

優しく私を諭すかの様に表情で言い聞かせるムギ。しかし、値段も値段だけにそう簡単に首を縦に振るわけには行かない。
暫くそうした押し問答が続くと、ムギは困った顔をして私の方に近付いて来た。

「そうね、それじゃ澪ちゃんのこのミュートレと交換って事でどうかしら?」


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 13:35:19.09 ID:G1O5DZbJO
ムギはそう言うと私のポケットから一枚のミュートレを取り出した。

「そのミュートレはレアでも何でも無いノーマルプロカードじゃないか?そんなんじゃ到底釣り合わないよ!」

「澪ちゃんに取ってはそうであっても、私には違う物もあるのよ」

そう言うとムギは悪戯っぽく微笑んだ。私はムギの言う言葉の意味が分からず、ただ首を傾げる。

「このLifetime Respectの鼻歌Ver、これがあれば全ての三木道三カードが揃うのよ。こういう時の最後の一枚って言うのは人によってはどんなレアカードよりも価値のあるものなのよ」

「そうなのか…、まさかそのミュートレがムギにとってそんな価値のある物だったなんて」

「という訳だから、安心してね澪ちゃん!」

「あぁ、有り難う!これで全て元通りだよ」

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 14:00:24.35 ID:G1O5DZbJO
「よーし、んじゃ何か食べて行こうぜー!こんな時間まで走り回ったから腹が減って堪らないぜ」

「あ、じゃあ私チョコレートパフェが食べたいな!あずにゃんもそう思わない?」

「思いませんよ!?なんで夕食がチョコレートパフェなんですか!?私に対する嫌がらせですか!」

「ふーふんふふんふ♪ふーふんふふ♪」

「あっ!今のムギちゃんの口笛って、一生~一緒に居てくれや♪だよね!」

「あら、分かっちゃった?Lifetime Respectカード全部集まったから嬉しくなっちゃって」

「あ、そうだ皆?一旦着替えもいいかな。さすがこの格好でお店に入るのは恥かしい……」

「だーめ!澪は皆に迷惑かけたから、今日一日はこの格好な」

「えー、意地悪するなよ律ぅ!お願いだからさ!」

こうして私の長い一日は終りを告げた。例えこの先どんな事があろうとも、例え離れ離れになる事があっても、きっと私達軽音部は繋がっていけるだろう……。私は手の中の再結成カードを握り締めながらそう願い続けていた。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 14:12:22.23 ID:G1O5DZbJO
数日後、今日も私達軽音部は練習に勤んでいる……、訳は無くティーセットが用意されたテーブルの上で激しいミュートレバトルが行われている。

「おい、律!唯!いい加減に練習始めるからミュートレはしまえって」

「ちょと待ってよ澪ちゃんー、もう少しで勝負が付くから。……やった、ジェフ・ベックだ!これにギー太カードを装備だよ!」

「な、なんだと!お前それじゃ、デッキの中に三大ギタリスト全部入ってるのかよ!?」

「憂と一緒に買いにいったら偶然揃っちゃってさぁ。このおじさん達が一番上手くギー太を扱えるんだよ!」

「あらあら、唯ちゃんって凄い引き運がいいのね」

「さすがは姉妹ですね…、憂もビートルズメンバーとその楽器全て揃えててもはやクラスで敵無しですよ」


92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 14:19:44.69 ID:G1O5DZbJO
「お前ばっかりズリィーぞ!三枚もあるんだからジミー・ペイジと私のこのカードと交換してくれよ」

「何それ?嫌だよぉそんな変な被り物したインディーズカード。全然可愛くないもん!」

「うるせぇ!確かに気持ち悪ぃし、何の役にも立たないクソカードだけどな、私にとっては始めて引いてミュートレなんだよ!」

律は自分のカードと交換させようと唯につかみ掛かる。唯も自分のカードを死守せんと必死で逃げ回った。
その時、静かに扉のドアノブが回り部屋に入ってきたのはさわ子先生だ。

「何をドタバタしてるのよ?外まで響いてるわよ!……って何かしらこのカードは」

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 14:27:33.85 ID:G1O5DZbJO
「聞いてよさわちゃん!律っちゃんたらそんな気持ち悪いカードを私に押し付けようとするんだよ!」

「だから、気持ち悪くて不気味でも私にとっては思い出のカードなんだよ!」

「……あら、このカードは」

さわ子は足元に舞い落ちた一枚のカードを拾った。それは律がトレードさせようとしていたカードだった。

「だったら律っちゃんが持っててよぉ!私嫌だよー」

「私だって嫌なんだってば!じゃあ何でもいいからトレードしようぜ!」

「あら、あなた達知らないのかしら……?このカードの真の効果を」

「ふぇ?なにそれ、さわちゃんもミュートレ知ってるの」

「んな気持ち悪ぃカードに何の効果があるんだよ?」

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 14:45:17.20 ID:G1O5DZbJO
さわ子は懐から一枚のカードを取り出すと、二枚のカードを一つに重ねる。

「このDEATH DEVILのカードにヴォーカルの楽器、ギブソン・GSのカードを装備させる事により本来の力を発動……」

「で、ですでびる…?ま、まさかこの気持ち悪いカードって……!」

「ヴォーカルっつーと、この気持ち悪ィ被り物の中身って……!」

「被り物をキャストオフした山中さわ子が、場の相手カード全てを半殺しにできんのよぉぉおぉッ!」

血肉に飢えた肉食獣の様な俊敏な動きで、山中さわ子は平沢唯と田井中律に言葉の通り喰らいかかろうとする。
二人は目の前の強大なプレッシャーに、蛇に睨まれたカエルの如くただ震える事しか出来ないのであった。

「あら、あのインディーズカードってさわ子先生だったのね」

「まったく、自業自得ですからね。私は知りませんよ!」

「やっぱりミュートレは部室じゃ禁止にするか……」

午後のうららかな日差しの元、今日も軽音部室には唯と律の叫び声。そして、私の静かな溜め息が鳴り響くのだった。

=おしまい=

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