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夏奈「セックスしたいなぁ」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 09:37:21.30 ID:Ag8M2pN90 [1/51] ?2BP(3200)
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「最近セックスしてないんだよなぁ」
私は隣で寝転ぶ夏奈を見た。何を言ってるんだこいつは。
「おい夏奈、今何て言った?」
「ん~、別に何も言ってないぞ。それより千秋、飯はまだか」
「ちょっと待て。お前さっき何かしてないとか言ってただろ」
「言わないよう。飯はまだなのか?」
クワガタみたいな髪の毛をだらしなく垂らして飯はまだかと叫ぶ、
いつもみたいに私をからかってるのか。
でもさっきのは私の聞き間違いかもしれないし、深く追求したくない話題だから放っておくことにした。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 09:40:54.32 ID:Ag8M2pN90 [2/51] ?2BP(3200)
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「今日春香姉さまは5限まで授業だから二人でご飯を作れと言われただろ」
「え~?じゃあ今日は千秋が担当するのか。早速作業に取りかかってくれ」
「だから二人で作るんだよ!!」
冷蔵庫の中身を考えると買い物に行かないことには何も始まらないので
ヤダヤダとごねる夏奈を尻目に立ち上がった。
ふじおかをぶつけてやったのは言うまでもない。
窓から射す夕日は黒髪を橙色に染めている。
ずぼらな性格なのに髪はよく手入れされていて綺麗だ、見る度にいつも不思議に思う。
「じゃあ私は買い物に行ってくるから。料理は手伝うんだぞ」
「よし、留守番はまかせろ」
顔だけこちらに向けてそう言うと、またすぐにうつ伏せに戻った。
夏奈の嫌いな食材を頭に浮かべながら扉を開けると、大きなため息が聞こえた。
「は~セックスしたいなぁ」
「おい」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 09:46:41.90 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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とにかく歩くことにした。
体を動かしていないと正気を保っていられない気がした。
右足と左足を交互に出していればそのうちスーパーまで行けるはずだ。
そうすれば少しは頭の中が買い物の方へと切り替わるかもしれない。


「今絶対言ったよな」
「何を?買い物行かなくていいのか」
「話を逸らすな」
起き上がって大きな伸びをして、こっちへ近づいてくる。
「そのあれだよ、ごにょごにょしたいって、言った」
眉をぴくりと動かし、新しい玩具を見つけたような目をして
「ごにょごにょって何だい、千秋くん?」
「いや、セックスしたいって言ってたじゃん」
「え?」
「え?」
とりあえず夏奈を正座させた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 09:53:42.04 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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頭がまだボーっとする。
夏奈を正座させたところで玄関を飛び出してきてしまったけど
買い物カゴと財布は持っているみたいなので家に戻らなくて済む。
家に戻れば夏奈の話の続きが待っている。
あいつはセックスしたいって言った。誰としたいんだ?決まった相手がいるのか?
そもそもあいつが男の前で裸になっている姿が想像出来ない。
駄目だ、刺激が強すぎる。
頭が沸騰して脳みそが何%か蒸発したみたいだ。
家を出てから何分経ったか分からないけどとにかく歩こう。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 09:57:42.68 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「おい千秋、千秋ってば」
それからまた少ししてよく知る声に呼び止められた。
「なんだ冬馬か」
「なんだとはなんだよ」
「いや、違う奴のことを考えてたからだよ。別に冬馬だからってがっかりしたわけじゃないよ」
「なんかそこまで説明されると怖いな」
冬馬は小石を蹴り上げて、そのまま落ちてきたのをもう一度蹴った。
小石は音も立てずに側溝に落ちた。
「一人で買い物か?春香と夏奈は?」
「春香姉さまは講義、夏奈は留守番だ。冬馬こそ部活じゃないのか?」
冬馬はサッカー部のエースとか言うポジションらしい。
「今日は早く終わったんだ、他の部員が追試ばっかで人数集まらないから」
「そうか」
「うん、そう。俺も一緒に行っていい?」
別にいいよと応えたら横で「やった」と小さい声がした。
そう言えば中学になってから冬馬が家に来る日数はかなり少なくなった。
テスト前の勉強会という名目のお泊り会には必ず参加するけれど。
5分くらい並んで歩くとスーパーに着いた。
沸騰しそうな頭がだいぶ冷えたので冬馬に会えたのは良かった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:03:41.65 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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適当に買い物を済ませ、そのまま帰ろうとしたら公園へ引っ張り込まれた。
そして何故か公園のベンチに座っている。
冬馬はファミリーパックのジャイアントコーンを3口で食べ終え、
脚をブラブラさせてオレンジ色が濃くなった空を見上げている。
というかいつの間にアイスをカゴに入れたんだこいつは。
「あ~あ、なんか最近みんな揃わないよな」
「お前がボールばかり蹴ってるからだろ」
「……さっきスーパーにマキがいた」
「いたな」
いつまでも持っているわけにはいかないので私もアイスを囓った。
頭がキーンとする。
「あれ彼氏かな」
そうかもね、といい加減な相槌を打って溶けそうなチョコの所を舐めた。
私は春香姉さま以外の人間が誰と付き合おうが知ったこっちゃない。
それにあの2人は幸せそうだったし、それ以上は何も言うことはないように思えた。
「お花畑って感じだよな、あの2人」
「うん」
「千秋さぁ」
「冬馬、セックスしたことあるか?」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:09:19.24 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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冬馬の体の動きと目線がピタっと止まった。マズイ。
「あ、ごめん。今のなし」
つい喋ってしまった。夏奈のせいだ。
「あの夏奈が変なこと言ってて、それが頭に残ってて聞いただけだ、うん。私は別にそういうことを考えてるわけじゃない」
「千秋」
「だいたい夏奈はいっつも変だから。それしても急にあんなこと言うのはな」
「ち~あき」
「今日だって2人で買い物行こうとしたんだけど焦って出て行っちゃって。あ、出ていったのは私の方なんだけど」
「ちぃあ~きい」
冬馬の手のひらが私のほっぺに触っている、それで我に返った。
思ったことを全部口に出してたみたいだ。溶けたアイスが手でべたつく。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:15:06.79 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「大丈夫?」
冬馬は私を手洗い場まで連れて行き、カバンから下敷きを出して扇いでくれた。
後輩の世話で慣れているのかちょっと頼り甲斐がある。弟のくせに。
「もう大丈夫」
「そっか、あんなに慌てた千秋を見るのは久しぶりだな」
なんだこいつ、ちょっとカッコいいじゃないか。弟のくせに。
「さっきのことだけど」
「うん」
「俺も何か喋ろうとしてよく聞こえなかったんだけど。何を聞きたかったんだ?」
「忘れてよ」
「そんな言い方されると余計気になるだろ~」
どうにかすり替えてやれないだろうか。向こう側では2人の女の子がブランコで遊んでいる。
最後にあれに乗ったのはいつだろう?そんなに前のことじゃあないのに全く思い出せなかった。
「で、何を聞きたかったんだよ」
下敷きで自分の方へ風を送りながら冬馬が続きを催促する。
「冬馬、好きな人いるか?」
下敷きが地面に落ちた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:21:55.96 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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冬馬は何もなかったみたいに下敷きを拾い私の目を見た。
「好きな人いるの?」
さっきのセリフが誤魔化せればいいやと思って頷いた。
質問攻めされたら困るなと身構えたけど、予想に反して冬馬は「そっか」とだけ言って歩きだした。
「待ってよ」
「ああごめん。で、好きな人って藤岡なのか?」
冬馬がこっちを見ないで尋ねる。少しだけ早足で、早口で。
藤岡が好きかと聞かれたら好きだと答えるのが私の本心だ。
でも冬馬の言っている(元々は私の質問だけど)「好きな人」とはそういう意味ではなくて。
男として好きかとかそんな事を聞いているわけだ。
正直に言って自分の中の「好き」をいちいち恋愛やその他に分けて考えたことはない。
内田も吉野もマコちゃんも好きだ。そして藤岡も好きだ。
それだけで充分。
春香姉さまは特別だけど。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:36:02.24 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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会話が止まったまま歩き続けているとマンションが見えてきた。
蝉の声が響いている。
「藤岡じゃあないよ」
「え?」
「好きな人、藤岡じゃない」
「そうなのか」
「うん。藤岡のことは好きだけど、夏奈と付き合ってても別に嫌な気はしないし。
というかよく考えたらそっちのが自然な感じだしな。夏奈が鈍感だから大変かもしれないけどさ」
「確かに藤岡のは大変だ、だってあの夏奈なんだもん」
2人して笑い合って、それからまた並んでゆっくり歩いた。
本心を伝えて良かったと思う。好きな人がいる、と嘘をついてしまって後ろめたい気持ちもあったけど
弟に取り繕う姉なんてかっこ悪いから。
「冬馬は好きな人いるのか?」
「いるよ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:40:04.48 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「うそ……」
「俺だって好きな人くらいいるよ」
「そうか、まぁ頑張れ」
なんて言ったらいいか分からなくて間抜けなコメントをしてしまった。
「おう俺は頑張るぞ」
「あぁ」
どうやったらカレーに人参を入れずに済むか考えながら階段を上った。
「ご飯食べてくだろ?」
「うん、食べてく」
「料理するの手伝えよ」
「うん」
ドアに手をかけて振り返る。
「夏奈に変な事聞かないようにな。その、好きな人がどうかとか」
「うん」
気のない返事、色々あって疲れたんだろう。
「ただいま~」
お帰りなさいと夏奈の声がする。流石にずっと正座していたわけじゃあないみたいだ。
「鈍感、かぁ」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:43:54.12 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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時計を見ると7時を少し過ぎていた。
夏奈は相変わらず寝転がっている。変わったことといえば漫画を持っていることくらいだ。
家を飛び出した時の出来事はなかった事にしよう。それにもうすぐ春香姉さまが帰ってくる。
だんだん気分が盛り上がってきた。とりあえずカレーを作ろうか。
「ようし、今日は気合入れて作っちゃうよ」
「おお千秋。なんだか知らんがやる気だな。カレーなら私に任せろ」
夏奈が珍しくやる気だ。
「夏奈は野菜を切って。冬馬は夏奈を手伝う。春香姉さまのためにすっごいカレーを」
「人参たっぷりのやつを!!」
「いやその理屈はおかしい」
「人参も食べなきゃ大きくなれないぞ千秋」
「そうだぞ千秋」
「うるさあああい」
人参なんてなくてもおいしいカレーは作れるんだ。
あんなのモブの顔がまっ黒で隣に陰気臭いのが引越してきた話と同じくらい必要ない。

30 名前:>>26タッツやめて[tattu] 投稿日:2010/07/15(木) 10:46:21.23 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「それよりいいか。春香姉さまは7時半には帰ってくる。時間があんまりない。だから人参は省略」
「あんなこと言ってますよ奥さん」
「あれは本気な顔だな。ああ怖い。ってなんで俺が奥さんなんだよ」
「時間がないって言ってるだろ!」
テーブルをバシっと叩く。
中学になってもたいていの家事は春香姉さま任せになんだから
今日くらいはゆっくりしてもらいたいというのが可愛い妹心ってものだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:53:54.23 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「コーラの牛乳割りってあるだろ」
「おお、ゆびさき何とかって漫画で見たぞ」
「そこで私は考えたわけだ」
「何を?」
「コーラのペプシ割りって上手いんじゃないかと!!」
「何ぃ!?お前天才か」
「フッフッフ。私をナメるなよう」
ふう、馬鹿は料理をしていても馬鹿のままらしい。
お米を研ぎジャーのスイッチを入れたので隣を見てみたら作業がほとんど進んでいない。
人参だけはしっかりと切ってる所が憎たらしい。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:57:29.38 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「おいお前ら、全然進んでないじゃあないか」
「千秋隊長、人参はバッチリであります」
「うるさいバカヤロウ。他のも早くしないと間に合わないだろ」
「うまいなコーラのペプシ割り」
「冬馬もそんなの飲んでないで早く手を動かすんだ」
「いやホントにうまいぞこれ。千秋も飲んでみろって」
ああもう埒があかない。私1人でやってしまおう。
こんなことなら切る役をやれば人参なんて鍋に入らなかったのに。
「本当に飲まなくていいのか?勿体無いなぁ」
椅子に座って肘をつく冬馬は完全にくつろぎモードだ。
夏奈にいたってはエプロンを脱いで大あくびをしている。
右目に涙がキラリと光った。
だらしないはずの仕草が可愛く見えた。手のかかる子ほど、ってやつか。
こんなことを言ったらまた変にからかわれるだけだから黙っておこう。
最近の夏奈は姉の威厳がどうとか五月蝿い。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:02:46.44 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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駆け込みで野菜と肉を炒め、鍋を火にかけたころチャイムが鳴った。
やれやれ、ギリギリ間に合った。
エプロン姿のままで春香姉さまを迎えに玄関へ早足で駆ける。
「こら、走っちゃ駄目でしょ」と叱れるのが良いのだ。
そして「すみません」と言って顔を上げ、その後おかえりなさいを言う。
そんな短いけど愛しい儀式を今日も繰り返し2人で居間に入った。
カレーの番は冬馬がしているので大丈夫だろう。うん、大丈夫じゃないと困る。
「いい匂いね」
髪をとかしながら春香姉さまはゆっくりと息を吐いた。
「みんなで作ったんだぞ~」
「お前何もしてないだろ」
「私はコーラの開発で忙しいんだ」
何がエッへンだ、ちょっとは手伝うことも覚えて欲しい。
家事をこなす夏奈を想像してみたけれど、猫がワンと鳴く方がまだ自然に思えた。
「へぇ、面白そうね」
「だろ?私の研究結果によればだな……」
「千秋ー。ぐつぐつ言い出したぞ」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:06:46.26 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「あら冬馬」
「お邪魔してるぞ」
「今日はゆっくりしていってね」
春香姉さまは嬉しそうな顔を浮かべている。
最後に来てから10日も経っていないので久しぶりって感じではない。
冬馬が毎日家に来ていた頃のことを思い出しているのだろう。
いつか私と春香姉さま、そして夏奈も離れ離れに暮らすようになるのかもしれない。
時間の変化には誰も逆らえないのだ。
一瞬センチメンタリズムが目の前を通り過ぎ、すぐさま馬鹿野郎という現実が現れる。
「何ぃ?味見の時間か!これは私の出番だな」
夏奈が台所へ駆け込んでいった。
楽しそうなので放っておいた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:10:47.30 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「ごちそうさまでした」
「あ~うまかったな~」
「当然だ。私の愛情がたっぷり入っているからな」
今日のカレーはおいしくできたと自負している。
ただ私の機嫌はあんまりよくない。
「ところで千秋選手」
「ん?なんだ夏奈」
「ベルギーは赤い悪魔でしたか?」
「知らないよ。人参は赤い悪魔だけどな」
そうなのだ、人参を食べさせられたのだ。
春香姉さまは「中学生なんだからいい加減好き嫌いはなくしましょうモード」
に入っているので人参も容赦なく食べさせられる。
いや、食べさせていただいている。
「千秋もだいぶ人参食べれるようになったよなぁ」
「そりゃあ千秋だってもう中学生なんだもん、ね?」
ふるふると頭を振って否定する。ちょっと歳をとったくらいじゃ相性は最悪のままだ。
でも春香姉さま、その「ね?」は反則です。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:13:27.46 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「はい、少しは食べられるようになりました」
「……すごいんだな春香は」
「どうして?」
「夏奈や千秋が言う事聞くし」
「なぁに冬馬。冬馬も何か食べられないものあるの?」
「人参のことだけじゃあなくてさ、好かれてるし」
天井を見上げてふーっと息を吐く姿が悩ましいというか、色っぽいというか。
鎖骨の形がくっきり見える服を着ているからなのか
とにかく冬馬がそんな風に見えた。
自分の目線に何となく気まずくなって席を立った。
こういう時は単純作業をするのがいい、そう思って皿を洗うことにした。
後ろの2人の会話が気になったというのもある。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:23:14.36 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「うーん、部活のことかしら」
「違うよ。ただ俺は春香みたいに上手くできないなって」
「人参を食べさせたい人がいるの?」
「いや、人参から離れてよ」
皿を洗うガチャガチャという音と蝉の声だけが聞こえる。
少し会話が止まっている。多分考える時間が必要な話題なのだろう。
「俺が言っても千秋は人参を食べないだろ?」
「そうかな……どうなの千秋?」
急に話を振られて体がビクっとした。たまげたなあ。てか結局人参の話かよ。
「えっと、多分食べないです」
「あら」
「夏奈に言われてもタケルに言われても食べません」
それだけ答えてまたシンクの方へ向き直った。
「春香は特別なんだよ」
「そうかしら」
私はその場で頷いた。何をいまさらって感じだが春香姉さまは特別なのだ。
不文律という言葉が頭に浮んだ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:25:56.43 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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冬馬の態度といい春香姉さまの落ち着いた表情といい何やら悩み相談な雰囲気になっている。
「冬馬だって私にとっては特別。大切な千秋の弟だよ」
流石です、と思わず口を挟みそうになるくらいの言葉。
「あーあ、こんなこと考えたって仕方ないな。テレビ見ようっと」
一件落着、めでたしめでたし。何だか知らないが冬馬の悩みも解決だ。
鼻歌を歌いながら残りの皿を片付けていると思いがけないため息が聞こえた。
「はぁ…大丈夫かしら」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 11:28:45.74 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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大丈夫かしら、と言った時の春香姉さまからは
いつもの優しい顔とは違う何か言葉にできない不安を覚えた。
表情の機微なんてものには疎い方なのだけど
毎日顔を合わせている人の、(それも1番好きな人の)わずかな差異を捉えたのは
それが表す意味がかなり大きなものだったから。
不安とは自分が思っているよりも早く形になって表れる、
それも知ってたのに。
なぜか私にはどっちだっていいことに思えて、あまり深く考えずに眠った。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 16:49:09.47 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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明けて次の日。
眠気が残る土曜の朝、テストも明けて久しぶりにゆっくり過ごせるはずのこの日に
何故か車に揺られて夏奈の熱唱を聞かされている。不快だ。
「カーップ、カーップ、カーップ、ひろっしま!!」
「うるさいんだよ、私は眠いんだぞ」
「いいだろー別にー。今日は楽しい土曜日なんだからさ」
そうだ、静かに過ごす土曜日だ。だから少し黙れ。
「あのさ夏奈」
「ん~、どうした冬馬?」
「カープの応援歌はもういいからラジオ聞こうよ」
「そうだな、私の美声は癒し効果がありすぎて春香が寝てしまうかもしれん」
「選挙カーよりうるさいんだよ。まぁとにかくラジオのがまだマシだ」
「分かったよう。ラジオにすればいいんだろ」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 16:51:34.33 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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カーステレオを操作しつつ大きなあくびをするところを見ると夏奈もだいぶ眠そうだ。
夏奈が適当に周波数を合わせ、外国の歌が聞こえてきた。
ニュースでも流して欲しかったがあまり注文をつけて騒がれても困る。
それにあの頭に響くやっかいな歌のせいで春香姉さまの運転が乱れたら事だ。
春香姉さまのことはもちろん信用しているが、普段あまり運転する機会がない人が遠出をするのだから
それなりに緊張もあるだろう。口数が少ないことからしてもそれは分かる。
ちなみに夏奈が助手席、後ろに私と冬馬が座っている。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:03:51.48 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「今日はその、誘ってくれてありがとう」
「どうしたんだよ急に。礼なら春香姉さまに言え」
なんだなんだ、突然かしこまって。いつもと様子が違うじゃないか。
それに私は何もしていない。
叩き起こされてトーストを牛乳で流し込んで、(夏奈に)車に押し込まれて
前を見たら春香姉さまは余所行きのワンピースを着て微笑んでいた。
「おはよう」の挨拶をしてぼーっとしていたら冬馬の家の前までやってきた。
周りの景色がぐるぐると変わっていく様を
自分の意識はベッドに置いてけぼりのままただただ眺めていた。
で、今日は休みだったっけ、とか少しずつ状況をつかめてきた時に
夏奈の絶叫(熱唱)が始まったわけだ。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:09:56.80 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「でも千秋と一緒に出かけれて嬉しいよ」
「だからそれは春香姉さまのおかげだからな」
「分かってるって。ありがとう、春香」
「私もちょうど何処かへ行きたかったし。最近は夏奈も忙しいみたいだから」
そうなのだ。夏奈は休みなると外出している日が多くなった。
帰りが遅いわけではないから気にしていなかったがどこへ行っているんだろうか。
「ちょ……私は別にいいだろー。もう高校生なんだから」
「あら。別に駄目だなんて言ってないでしょ」
「何か大げさな反応だな」
「あーもう」
春香姉さまがクスクスと笑った。
私たちのことは何もかもお見通しみたいに思える。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:16:01.08 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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夏の風を突っ切るように車は走る。
エアコンを切って窓を開けてもいいくらいに気持ちいい天気だ。
「そういえばさ、今日藤岡は来ないのか?」
一呼吸置いて、少しためらいがちに冬馬が質問した。
誰に聞いたってわけでもなくみんなに向かってという感じで。
「どうなの夏奈?」
「わーこの歌いい歌だなー」
「おい夏奈。春香姉さまを無視するな」
「ふふん~♪ふんふんふん~♪」
「おい春香、この歌なんて言う名前なんだ?」
「歌の話は関係ないだろ。藤岡は来るのか」
「しーはーぜーらー♪」
くそ、完全に無視じゃあないか。
「これはえっと、なんて歌だったかな」
などと言って考え込む春香姉さま。
完全に夏奈のペースにされてるじゃあないですか。
藤岡が来れない理由なんてサッカーとかサッカーとかサッカーだろうけど
無視はいただけない。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:27:49.21 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「これはビートルズのレディマドンナって歌です」
「そうそう、ビートルズだよこれは」
「お前知らないだろ」
「いや~、このこぶしは完全にビートルズだね」
「どこでこぶしを利かせてるんだよバカヤロー」
夏奈は窓を開けて歌いだしたが、ラジオからは次の歌が流れているし
歌詞もめちゃくちゃなので30秒くらいで終わった。
「へー、よく知ってるわね」
「前にNHKの特集で見ました。お母さんの歌です」
「あ、この前2人で見たやつね」
「ポールが作ったって言ってました」
「流石ポールだな。ピーターもいいけどやっぱポールだよな~」
「そんなやついないんだよ、誰だよピーターって!!」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:31:06.36 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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月曜日から日曜日まで忙しなく働くお母さんが
毎日どうやって家を切り盛りしてるのか、子育てに対する賛歌だとか。
なんとなく春香姉さまのイメージが重なって印象的だったので覚えいる。
高校生活と家事の両立、加えて大学受験。
それらをサラッとこなしてしまう姿は本当に「凄い」の一言に限る。
時間を止める魔法でも使っているんじゃあないかと疑うくらいだ。
ちなみに流石のレディマドンナも週に1日くらいは休みってことで
歌詞には土曜日だけ出てこない(パーティーなんだとポールが言ってた)。
しかし春香姉さまは土曜日だって車を運転して私たちを遊びに連れて行く。
殊勝なものである。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:46:19.67 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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歌のことを思い出しているうちにだんだん頭が冴えてきた。
冬馬の家を出てから15分ほど過ぎた。
で、その冬馬は横で難しい顔をしている。お腹でも痛いのだろうか。
「どうした、調子悪いのか?」
「違うけど」
「じゃあなんでそんな困ったみたいな顔してるんだよ」
「なぁ千秋、レディーマドンナってどんな意味だ?
レディーって女の人って意味だろ?マドンナも女って感じがするし……
そうすると女の人女の人ってなってよく分からないんだよ」
そんなことを悩んでたのか。
ちょっと心配した自分が馬鹿みたいじゃあないか。
「いいか。まずマドンナってのはイタリア語で淑女って意味だ」
「は?」
「んと、淑女ってのはだな――」
という説明に20分もかかった。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:48:52.71 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「まぁとにかく、私の大切な人ってくらいに思っとけばいい」
「なんだ。意外に簡単だな」
「たいていのことは実は簡単なんだよ」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ」
特に冬馬みたいに毎日ヘディングしてるような
サッカー馬鹿にはものすごく噛み砕いた説明でいい。
窓からくる風がふわっとして気持ちいいので私は鼻歌を歌った。
「千秋にも早く大切な人ができるといいわね」
前の席で会話を聞いていた春香姉さまがこちらに顔を向けて言った。
信号は赤だ。
「ええっ――。私はまだいいです」
なんだなんだ、急にこんな話題を振られてもどうしたらいいか分からないぞ。
「夏奈なんか見てるとね、私も誰かの大切な人でいたいなーって思っちゃうな」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 17:53:46.33 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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夏奈の話か、とほっとしている自分がいる。
何が怖いのか分からないけど私にこういう話はまだ早いのだ。
「おい夏奈、耳と肩でジュースを挟んで寝たフリするやつはいないと思うぞ」
「ああっもう。私のことはいいだろ。ほっといてくれよー」
「いや、流石にその姿勢は無理があるだろ」
ガバっと髪をかきあげ、明らかに困った目でこちらを見る仕草は
素直に可愛いなと思わせるが、普段の憎たらしさでプラスマイナス0にしておく。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:23:43.76 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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夏奈は顔をかきながらぽつぽつと話し出した。
前から報告しようとは思っていたのだが
恥ずかしくて言い出せなかったと見える。

「えっと、最初は藤岡にサッカーの試合を見に来てくれって言われて――」

以下省略。
自分の耳がどんどん熱くなっていくのが感じられるし
冬馬なんか息を止めてるんじゃあないかと心配になるくらい静かにしていた。
青春ですか?ポカリのCMですか?ミニストップでハロハロの食べさせ合いっこですか?
あーもう耐えられない。
身内の恋愛話は恥ずかしくて聞いていられないことが分かった。
窓を全開にして叫びたい衝動に何度とらわれたことか。
夏奈のお熱い話に比例して日がだんだんと照り付けてきたので窓は開けなかったけど。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:25:32.94 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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そう言えば昨日セックスがどうとか言ってやがったのを思い出した。
さっきの乙女チックな話のどこにそんな生々しい要素があるというのか。
その疑問をひとまず放っておくことにしたのは
すでに話の甘さがマックスコーヒーの20倍くらいに達していたのと
目的地に到着するという都合の良い区切りが訪れたから。
どこへ向かうのか知らされていなかったが
かすかな潮の香りと広がる水平線が海だと教えてくれた。
これで遊園地に行きますなんて言われたら
私はミッキーマウスに海パンを履かせて千葉の海に放り込んでやる。
それくらいに「今日は海ですよ」って感じなのだ。
日差しも風も半ズボンにタンクトップで道路の脇をかける少年も
すべてが海のしわざで。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:31:03.55 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「ううー海だー!!」
「海かー。まぁ水着持ってこいって言われたしな」
「思ったより暑いわね」
「暑いですね。でも気持ちいいです」
「ちょっと夏奈ー。走ったら危ないわよ」
「海が待ってるんだよおおお」
足がめちゃくちゃ速くなっているような気がするんだけど。
走り方が末次系なんですけど。
夏奈め、はしゃぎ様がまだまだ子供だな。
「春香姉さま、とりあえずあれですね」
「そうね。じゃあまずは――」
『ご飯にしましょう』
冬馬も私たちの意見に賛成のようだ。
無言で頷いている。うん、お腹がすいてしかたない。
稼働率2%くらいの寝ぼけた体にパンを1枚押し込んで以来何も口にしてない。
「なんか夏奈のせいで異様に酸っぱいものが食べたくなっちゃって」
「俺は辛いものが食べたい、とにかく唐辛子を口に入れたい」
理由はどうあれ腹ごしらえという目的はみんな同じだ。
ということでナンバ走りかぶれを置いて海の家へと向かった(どうせ着いてくる)。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:35:30.50 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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海の家なんて年に1、2回行くのがいいとこだろう。
私の場合最後に行ったのがいつだったかすら思い出せない。
そんな曖昧な場所で辛いものと酸っぱいもの両方が揃っているだろうか。
「じゃあ私はラーメンとチャーハンとおでん」
「ちょっと待て」
「なにさ」
「お前絶対食べきれないだろ」
「ふふふ。私には秘策がある」
断じて秘策などない。夏奈はただ適当に言ってるだけだ。
もう手に負えないのでここは春香姉さまに任せよう。
どうかこの馬鹿を止めてください、と目で訴えてみる。
「酸っぱいもの酸っぱいもの……。ん、どうしたの?」
あぁやべえ。なんだこの可愛い生き物。酸っぱいものを探す春香姉さま超かわいい。
超超超いい感じ。
だって海の家だよ?ここ。
酸っぱいものなんてなさそうなのに、それを懸命に探してるんだよ。
春香姉さまのために世界中のビネガーを集めたい。
ビネガーの海で泳いで欲しい。
「すいませーん、海藻サラダとカレーライスください」
うん、普通にあった。酸っぱいもの。
海の家なめてた。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:44:03.87 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「ちょ、お腹いたい」
「当たり前だ。ひとりで3つも食べたんだから」
「秘策」
「よしっ張り切っていこー」
馬鹿夏奈の秘策とはハムスター食いだった。
舐めてるのか、本当に。
だいたいラーメンにもチャーハンにもおでんにもハムスター食いは使えない。
というかハムスター食い自体誰も覚えてないだろうし。
「やっぱ藤岡を連れてくれば良かったな」
「なんでだよ」
ちなみに今は着替え中。冬馬は水着を中に着てきたので脱ぐだけだった。
お前は小学生か。
「藤岡がいたらそんなぽっこりしたお腹で水着になれないだろ」
「いや、俺はたくさん食べてる夏奈を嬉しそうに眺める姿が目に浮ぶぞ」
そうだ、冬馬の言うとおりどうせ藤岡は笑ってるだろう。私は夏奈の恥じらいに期待してるのだ。
車の中で見せた恥ずかしい姿に、その可能性を賭けているのだ。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:49:37.88 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「まぁ藤岡はそんなことで夏奈を嫌ったりはしないと思うが」
「思うが、なんだ?」
「もうちょっと恥じらいを持てよ」
「私にだって恥ずかしいことはある、しかしそれをここで言うと18禁なので捕まってしまう」
またか、昨日からずっと続くエロ攻撃か。
もう怯まないぞ。こっちから反撃してやる。
「夏奈、私たちももう中学生なんだ。18禁なんて何てことない世代なんだ。そうだよな?冬馬」
すかさず冬馬を肘で突っつく。
「おう。18禁なんて日常茶飯事だからな、俺たちは」
いいぞ、中々攻撃的な台詞じゃあないか。今にも夏奈がごめんなさいしそうだぞ。
ため息をひとつ、髪の毛が揺らして服を脱ぐと夏奈は仕方ないなぁって顔をして胸を見せた。
「ほら、こことか」
「~~~~~~~~~~ッッッッッッッッッ!!」
意外、それはキスマーク!!

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:55:14.80 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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そりゃあ恋人なんだしキスもする。
だって2人は付き合ってるわけで、人間なんだから性欲もあるわけで。
だからってそんなエロい場所にキスするのか?
戸惑いを通り越して思考停止しそうだ。
春香姉さまが天使すぎるだけで夏奈もどちらかと言ったら純情な方。
車の中で話した限りなく透明でささやかなストーリーはなんだった?
「やめなさい」
春香姉さまが止めに入るまで少しの間、私たちは何も言えなかった。
春香姉さまもショックで一瞬(体感的には20秒くらい)動けなかったと思う。
冬馬は口を開けっ放しで突っ立っている。お口あんぐり。
バッティングセンターでマシンがいきなり宜野座カーブを投げてきたくらいの衝撃だった
と後で話していた。
すぐに春香姉さまのお説教が始まり、
俯く夏奈にはある種の色っぽさがあった。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 18:57:31.34 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「さ、海行こうよ」
シュンとする夏奈の頭を撫でながら春香姉さまが言った。
その一言で一気に遊びに来ましたって雰囲気になるのだから春香姉さまは凄い。
スイッチをオフからオンに切り替えたみたいに私たちの顔も晴れやかだ。
どうでもいいことだが、サッカーの大会が近くて藤岡がかまってくれないので
せめて何かしてくれと迫ったエロ河童(夏奈)の顛末がキスマークであり
長澤まさみのカルピスよろしくな純情乙女だったのは中3の頃だと
お説教の受け答えから分かった。
つまり時系列的にはまぁ健全な手順を踏み、2人はプラトニックな関係から
男女の仲になったわけで、春香姉さまもその辺の事情は前々から気になっていたらしく
説教中にもある意味安心したような表情を見せていた。
そういうわけで、心の隅に引っかかっていたものが解消された私たちは
(意図的に私と冬馬の前でお説教をしたのかもしれない)
海へと向かって駆け出していった。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:02:00.30 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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日を射す太陽、反射する砂浜、さらに照りつける太陽、負けじと照り返す砂浜、以下略。
とにかく空気も砂も暑いのだ。
暑いというか「あっつい」って言葉のが似合う。
まずは日陰にでも入りたいのだがパラソルを組み立てているうちに
焦げ付いてしまいそうなので冬馬と一緒に海に飛び込んだ。
ざっばーん。
「うおっ」
波が私の体を押し返えす。なんて反抗的なやつだ。
「だいじょぶか千秋?」
「ふふふ……」
「どうしたの?」
「望むところだこのやろー」
自分でもハイになっているのが分かる。
波になんて負けてたまるか、私は今日泳ぎに来たんだから。
ざっばーん。
中々手ごわいが、波の制止を振り払って泳ぐ。
腕と脚に力を入れて一気に遠くまで、ってイメージで5メートルくらい進む。
もう一度大きなフォームで水をかき、ゆっくりと前へ。
外が暑かった分、海の中はとても気持ちがいい。
高かったテンションも少し収まり、仰向けになって頭だけ出してすいーっと漂う。
自分の体と水の境界線があやふやになり、海に溶けてしまったような感覚。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:04:23.26 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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気付けばつま先立ちじゃないと顔を出せないくらい深いところまで来ていたので
春香姉さまの待つパラソル(組み立ては夏奈)まで引き返すことにした。
平泳ぎしながら岸の方を見てたら、冬馬が準備体操をしているのを見つけた。
浮き輪を抱えたままなので少々不恰好だ。体操中は横にでも置いておけばいいだけど、
多分あいつは私が溺れた時のために見張っている。
泳げなかったころのイメージが強いので春香姉さまも気をつけているはずだ。
まったく、「もうこれで完璧だな」ってセリフはどこへ行ったんだ。
まぁ冬馬が助けてくれるだろうというのが頭の片隅にあるから
安心して泳げるのも確かなのだけれど。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:08:12.42 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「たとえば急に脚が吊ったら危ないだろ?」
ケロっとそんなことを言う、心配性の弟。
「千秋が楽しそうにしてるのを見るのが好きなの」
後光が射しそうな微笑を浮かべる姉。
「ちあきぃ~ちょっと肩揉んでくれ。パラソル組み立てたら疲れた」
クワガタ(♀)。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:10:02.31 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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そんな3人のために、海の家まで行った。
1つだけぬるいジュースを選ぼうとしたが、あいにく全部しっかり冷えていた。
とても残念だ。
「はいおまたせ、キンキンに冷えてるぞ」
最初の1缶を冬馬に、次に春香姉さまと夏奈に渡して4人で乾杯した。
夏奈だけジュースを口にせず何かを待っている。
まぁいいかとスプライトを1口飲んだ。
「おお、おいしい」
この感動を味わうためだけに海に来てもいいてくらい。
ふーっと息を吐き、高くて青い空を見上げた。夏だ。
「つめたっ――。何するんだよ春香」
「気持ちいいでしょ?」
「なんかビックリするだろー」
春香姉さまもいつもよりはしゃいでいる。
冬馬をからかうなんて珍しい。
みんな楽しそうに笑っている、いつもより大きめの声で。
「よし、じゃあ春香にも」
「つめたっ。やったなー冬馬ー」
おい待て、春香姉さまといちゃつくのは私の役目だ。
じと目で2人の様子を眺めていると背中がびくっとした。
「つめたっ。何するんだこ……」
春香姉さまだった。馬鹿夏奈かと思ったけど、私の体にジュースをくっつけたのは春香姉さまなのだ。
なんというか、そのことが単純に嬉しかった。普通のことなんだけれど、上手く言葉にでいないけど。
「どうしたの?」
構ってもらって嬉しかったです、なんて恥ずかしくて言えない。
「うわっ」
「ふふふ、冷たいだろ」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:14:11.57 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「冷たい……」
遠くを見るような目、とか言えばいいのか。
冬馬はさっきと明らかに違う反応で自分の体に触れた。
やけどしたのか?
「本当に2人は仲良いわね。ほら、ジュース冷めちゃうよ」
春香姉さまに言われて、ジュースの残りを飲み干した。
何を考えるでもなく、さっきの冬馬の表情を思い浮かべながら。



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 19:15:32.49 ID:Ag8M2pN90 ?2BP(3200)
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「あのさ、チアーズって言わないの?」
「言わないよ。だってもう乾杯したじゃん」
「ずっと待ってるんだけど」
「そういうのは自分から言わなきゃ」
「発音が分かんなかったんだよー」
「調べとけよ」




おわり


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