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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

491 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:37:38.72 ID:OODBRrU0 [2/22]
>>464の続き








「…………っ」

顔を照らす光に気が付き、眩しそうにゆっくりと瞼を持ち上げる。
目が慣れていないせいだろうか、想像以上に鬱陶しい日差しに顔を顰めながら体を起こした。
そこで腕や足に鈍痛が走る。寝惚けた頭に丁度いいくらいの傷みが。
不意に、腕に包帯が巻いてあることに気付いた。
包帯は不恰好に巻いてあり、今やよれよれになっていてその意味を成していなかった。
特にそのことに気を止めることなく、億劫そうに顔を上げ辺りを見回す。

「…」

昨日散々暴れまわって破壊した部屋は、多少だがマシな状況になっていた。
散乱していたガラスや砕け散った欠片などが片付けられており、ぽっかりと空いた窓枠にはダンボールが貼り付けられている。
足のなくなった椅子や粗大ゴミに分類される大物は部屋の隅によけられ、生活スペースはしっかり確保してあった。
打ち止めが、一人で遅くまで片づけたのだろう。
もう痛みを感じない筈のくすんだ灰色の心が、少しだけ痛んだ。




493 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:39:33.32 ID:OODBRrU0 [3/22]


一瞬。ほんの一瞬だけ眉を顰めると、一方通行はそのまま力を抜いてソファーに体重を預ける。
ソファーに座るわけでなく、昨日打ち止めに引き摺られた格好のまま背を預け目を瞑った。
打ち止めはまだ寝ているのだろうか。部屋には物音一つなく、どこか淀んだ空気が沈み込んでいるような気がした。
(……)
自分は薄情な奴だと一方通行は思った。ただ、そう思った。
胸の痛みも、尽きる事のなかった怒りも、自身を深く呪った悔恨も全てなくなってしまった。
平然と欠陥電気のことをテレビを眺めるように思い出し、あの光景を目に浮かべることが出来る。
そして、何も感じない。小波一つすら起きない。
まるで生きながら死んでいるようだと、淡々とそんな感想を抱いた。
ぽっかりと穴が空いているわけじゃない。バラバラに砕け散ったわけでもない。
薄くこびり付くような濁った白に塗りつぶされている。そんな感じだ。
欠陥電気と別れてまだ一日しか経っていないというのに、一方通行にはもう大昔のことのように思えた。

「…」

昨日から何も喉を通していないのに、乾きも飢えも感じない。
呼吸だけ繰り返せば死んだように生きていけると、おかしな錯覚さえ覚える。
自分は今正しく死んでいないだけなのだろうと、どうでもいい結論を下した。
下らない結論ではない。どうでもいい結論なのだ。何もかもがどうでもいい。何がどうなろうが、どうでもよかった。
関心が持てず、やる気がでない。生きることに。
一方通行はそれきり何も考えず、部屋を満たす濁った沈黙に身を委ねた。





495 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:43:01.62 ID:OODBRrU0 [4/22]





朝もやや遅い時間、打ち止めはスーパーの袋を両手に抱え階段を上がっていた。
一歩段を上がるたびに手にビニールが食い込む。地味に痛く辛い。その上重い。
二日前に欠陥電気が買ったものはとうに無くなっていた。無駄なものを買わず、夕食の材料分しか買っていなかったのだ。
打ち止めは、2リットルのペットボトルや冷凍食品を大量に買い込み家へと戻る。

「…か、買いすぎたかも、ってミサカはミサカは自分の体力を計算してなかったことを後悔してみたり…」

階段が、階段が、とうわ言のように呟きながらも打ち止めは足を動かし続けた。
一方通行が待つ家はもう少し。待っているかはかなり微妙だが、それでも打ち止めは一方通行の居る家へと歩を進める。
秋の柔らかい日差しが辺りを照らし、憂鬱な気分を洗い流すように心地よい風が流れた。

「…ふぅ」

階段をようやく登りきり、打ち止めは一旦足をとめ荷物を下ろす。手が尋常じゃなく痛い。
廊下に置いたビニールを傾いて中身がこぼれないように慎重に手を離し、掌を眺めた。
食い込んだ箇所がしっかりと跡になっており、ジクジクと痛む。
この程度の痛さで根を上げるなんて情けないと、打ち止めはやや翳りのある表情で笑った。
(ミサカは頑張らなきゃ、ずるいもんね…)
打ち止めは、昨晩遅くまで一人で片付け続け、その後に思いっきり泣いた。
声を押し殺し涙が枯れるまで泣き続けた。そして泣き疲れいつの間にか寝てしまっていた。
遅くに寝たわりに早く目が覚め、きょとん、と自分の心が少しだけ軽くなっていることに打ち止めは気付く。
泣いて寝て起きたらさっぱりする。そんな分かり易すぎる自分の単純な心が恨めしく、心強かった。
そして、欠陥電気のことを少しだけ考えると、頭を思い切り振って思考を止める。
今それを考えても仕方ないと自分に言い聞かせ、下ろした荷物を手に持ち歩き始める。

ドアの前まで来ると、一泊置いてドアを思い切り開け放ち、

「たっだいまー! ってミサカはミサカはまだ寝てると思われる一方通行を無視してミサカの帰りを全力で告げてみたり!」




496 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:45:59.19 ID:OODBRrU0 [5/22]


靴を投げるように脱いでドタドタと騒がしく廊下を歩く。
廊下を挟む壁にビニールを擦るようしてゴリゴリとリビングまで行くと、ひび割れの目立つテーブルに荷物を置いた。
部屋は自分が片付けて家を出てから何一つ変わっていない。

「…、…ただいま、一方通行」

打ち止めは昨日のままソファーに背を預け目を瞑り眠っているであろう一方通行に、小さく呟く。
悲しそうに優しい笑みを浮かべて。
そのまま十数秒ほど一方通行の顔を眺めると、ビニールの中の冷凍食品のことを思い出し、慌てて冷凍庫に放り込む。
ペットボトルは冷蔵庫。冷凍チャーハンは冷凍庫。何となく買ったトマトは野菜室。お菓子は冷蔵庫の隣の棚。
あっという間にビニールの中身は空になってしまい、打ち止めはすることがなくなった。
ぺしゃんこに潰れたビニールを前にしばし呆然とし、どうしようかと考える。
朝は食べていない。まだお昼には早い。そこまで考えて、そもそもお腹が減っていないことに気付いた。
いつもなら欠陥電気に強請ってご飯を作ってもらうのだが…、どうやら自分はそれなりに繊細なのだと考え納得する。
打ち止めはキッチンを後にし、やや頼りない足取りでリビングまで行くと一方通行の近くに座り込む。

「…」

一方通行はとても安らいだ自然な顔で寝ていた。
眉間に皺もよっていない。口元が嫌な感じに歪んでいない。顔の筋肉が変に強張っていない。
静かに小さく寝息を立てている。

「…っ」

打ち止めは唇を噛み締め、肩を震わせて俯く。
変な話だが、打ち止めは嬉しかった。今だけは全てを忘れ安穏としている一方通行が、とても嬉しかった。
あのとき、傷ついて暴れまわった後の一方通行はまるで死んでいるようだった。
あの夜抱きしめた一方通行は、錆びて朽ち果てた金属のように冷たく拒絶の空気を纏っていたから。
もう前みたいに笑えなくてもいい。陽気な日向を歩くような日々までは望まない。
ただ、こうして一緒に居られるだけでいい。
だから、愚かで罪深い自分には不釣合いな眩しすぎる願いなのかもしれいが、一方通行の横に居させて欲しいと願った。
ずっと。ずっとこうしていたいと、心から思った。





497 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:47:33.20 ID:OODBRrU0 [6/22]






流れる水のような深いまどろみの中、僅かだが違和感を感じた。
はっきりとしない夢のような薄い世界で、微かに感じた。
おぼろげな意識を少しだけそちらへ傾けると、儚いが確かに感じる。
感覚は次第に強くなり、時折揺れ動く。
意識を向けても離れるときは、離れてしまう。
だが、不意に強く感じるときもある。
思い通りにならないその感覚に悪態をつきながらも、引っ張れるだけ引っ張った。
どうやったのかは自分でもよく分からないが、感覚は安定して落ち着いた。
そして、その心地よい感覚を感じながら意識を落とそうとして唐突に世界が閉じてしまった。

「……………………あン?」

誰にともなくそう呟くと、一方通行は眠たそうに瞼を持ち上げ首筋をポリポリと掻いた。
なにがどうなっているのかよく分からないが、寝惚けていたようだ。
不意に左腕に違和感を感じ、目を向ける。




498 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:49:03.16 ID:OODBRrU0 [7/22]



「……、…すぅ」

打ち止めが自分にもたれ掛かりながら寝ていた。
引っ張ったモノの正体は、打ち止めのようだ。
左腕でヘッドロックするように抱きしめていた。
(…こいつか)
口を間抜けに開けて寝息を立てている。
顔をよく見てみると目元に涙の跡があった。

――――ざわめく。

「…っ」

頬には痣があった。

――――濁った白が砕け落ちた

涙の粒をこぼさないまま、笑みを浮かべ寝ている。

――――落ちた欠片は波紋となる

腕には痣があり、擦り切れた跡が残っている。

――――波紋は大きな波になり

それでも打ち止めは、笑っている。

――――気付かないまま腕に力が入った。

「――ッ」

奥歯を強く、噛み締めた。
意識ははっきりと覚醒し、霞がかっていた世界に色が戻り黒い衝動が甦る。
忘れていた。投げ捨てていた。見ない振りをしていたかけがえのない存在に、一方通行はようやく気付いた。
(……なにやってやがンだ俺は)
ガキか。と胸中で吐き捨て顔を顰める。
結局全部自分の仕出かしたことだ。あの最悪な結末も最低な別れも。
だというのに感情に振り回され、無様に暴れまわって終いには悲劇の主人公気取り。




499 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:52:39.02 ID:OODBRrU0 [8/22]



「……ちィ」

我ながら吐き気が催すクズっぷりだと、一方通行は自身を罵る。
悪党が聞いて呆れる、予想の遥か上空を通過している人工衛星といい勝負の自分の周回軌道なアホさ加減にドン引きだ。
守るべき存在はここに在る。欠陥電気を切り捨ててまで守ると決めた存在が、ここに居るのだ。
(…とンだ道化だ、クソがッ)
自分がどれだけのクズでも。どんな理由があろうが打ち止めを守ると決めた。
欠陥電気を切り捨てた。欠陥電気をズタズタに引き裂いた。自分はもう本当にどうしようもない所まで来ている。
だが、それとこれは関係がない。

(―――――このクソガキを守ることに、それは関係がねェンだッ!!)

妹達を一万人ぶっ殺し、自分の仕出かしたことの重大さに気付いたときに、もうこれ以上堕ちることはないと思っていた。
自分は行き着くところまで行き着いたクズだと認識していた。だがそれは違った。
行き着いた果てすらも、軽く突き抜けるクズだと思い知らされた。
ガキで。自己中心的で。我侭で。クソで。クソ過ぎて付ける薬など何処にも存在しないクズだ。
ただ殺すだけじゃ飽き足らず、ズタズタに引き裂いて好き勝手に汚した。
(ああ、そうだクソッたれ…)
それでも打ち止めは守る。打ち止めはを守ることにテメェの事情は関係ない。
勝手に諦めるな。勝手に投げ捨てるな。勝手に終らせるな。どうでもよくなんかない。いい筈がないのだ。

「クソったれが……」

一方通行は、小さく強く呟く。
まだ終ってなんかいない。終りなんかある筈がない。打ち止めを守り通すのだから、終わりなんてない。

「………っ」

舌打ちし、懺悔するように天井を仰ぎ見る。
顔を思い切り顰め、睨みつけるように。
(これで、イインだなクソが…)
誰にともなく、胸中で吐き捨てる。
全てを切り捨て、振り払い、放り投げてでも打ち止めは守る。それが自身に科した義務であり誓いだ。

酷く都合のいい想像だった。それは出来の悪い妄想だった。どうしようもない勝手な幻想だった。
だが、勝手にしろ、と言って苦笑する彼女の姿はしっくりときた。
胸がズキン、と痛む。
守るべきものを再び見出し、気楽だった夢から苦しい現実へと戻ってきたからこそ、ようやく胸が痛んだ。
この痛みも苦しみからも解放されることはない。それだけのことを自分はしたのだから。
一万人をぐちゃぐちゃにして、一人の人間をあらゆる意味で徹底的に貶めた。
けれど守る。誰に何と言われようが、自身がどれだけクズだろうが打ち止めは守る。俺が。他の全てを捨ててでも。
だというのに――――――――



500 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:55:45.89 ID:OODBRrU0 [9/22]


「……んん」

打ち止めが寝苦しそうに、眉を顰め抗議の声を上げる。
左腕の拘束を強めてしまっていたらしい。
寝ながら抗議するとは器用なガキだと、一方通行は考えるのをやめ呆れたように鼻で笑った。

「…すぅ」

左腕を離し、小さく寝息を立てる打ち止めの髪をいつかのようにいじり始める。
髪に違和感を感じたのか、打ち止めはくすぐったそうに首を振った。

「クソガキ…」

そう呟いて一方通行はぎこちなく笑った。
相変わらず胸の底には粘りつくようなしこりが燻っている。
しかし今だけはその全てを忘れ、一方通行は久しぶりにそう悪くない時間を過ごした。






501 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 00:57:45.74 ID:OODBRrU0 [10/22]








浅い呼吸を何度も何度も繰り返す。
脳が酸素を欲している。体が休息を訴える。手足は命令を拒否する。
この下らない時間は一体いつになれば終るのだろうか。
この退屈なプログラムはどうすれば終るのだろうか。
命じられるままに動き、言われるがままに従う。

「…はぁ、はぁ…………っ」

やはり無理だったのだろうか。あの考えが間違っていたのだろうか。
早くもあのちっぽけな決意は砕けようとしている。それではいけないと思っても止められそうになかった。
気力は尽き、意思は鈍く、心は萎えてダメになろうとしている。


『――――第13次実験素体の基礎体力測定、及び能力測定を続行します。所定の位置につき―――――』


無機質な合成音のアナウンスが響き渡る。
重たい体をのろのろと動かし、声の指示に従うべく開始位置へと移動する。
指示に逆らったり、研究者に反抗的な態度をとれば、腕に付けられた無骨な手錠から電流が流されるようになっている。
実験を失敗させる以上無駄に逆らうつもりはなかったが、予想以上の扱いに何度も反抗し何度も痛い目にあった。
電撃使いが電流を流されて苦しむなど酷く滑稽だ。
そんなことをおぼろげな頭で考えながら、足を動かした。


『――――測定プログラムを開始します。次のブロックを――――』





502 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:01:15.62 ID:OODBRrU0 [11/22]






自分は思ったよりも価値があるのだと知らされた。
非常にどうでもいい評価だ。それを告げた研究員は嫌らしく顔を歪め愉悦に浸っていた。
自分が超電磁砲の複製だと知り、その現実を受け入れてなお自我を保っていられることは非常に珍しいケースだと狂喜していた。
自分を含めた過去13回の実験の結果、複製だと知らされた『私』はまずそれを否定する。
当たり前だ。そんなことを突然言われて信じられるわけがない。
だがその考えはすぐに間違いだと気付かされる。

能力の弱さに愕然とし、中途半端な記憶に驚愕し、自身の正体に恐怖する。
見る影もない劣化した能力。雷撃の槍はか細く、砂鉄の剣はナイフになり、超電磁砲に到っては発動すら困難。
そして記憶を必死で遡る。だが、何度遡っても8月の途中で記憶は途切れてしまう。
すでに外では新学期を迎えているというのに、その記憶が一切ない。
そこで壊れる。呆気なく過去の『私』は何度も壊れた。
単純に発狂するもの。その事実を受け入れず殻に篭るもの。壊れきれずにプログラムの最中自殺を決行するもの。
自分のように狂った衝動に身を任せるもの。

嬉しそうに楽しそうに、そのときの状況を収めた録画を見せられた。
そこでまず記念すべき一回目の電流を食らう。
映像に我慢ができず、研究員に飛び掛ろうとしたから。
能力を使おうともしたが無理だった。
首に嵌められた小さなディスプレイ付きの首輪と手錠が連動し能力を封じているようで、本当に使えないのだから笑えない。
プログラムに沿って必要なときは、機能をオフにもできるらしい。相手の思うがまま。
過去の『私』がオフ時に電撃でぶち壊したこともあるらしく、今は耐電仕様だという。本当に笑えない。




504 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:05:05.03 ID:OODBRrU0 [12/22]


そして身体検査を受けた。
能力の測定でなく文字通りの身体検査を。
体重。身長。視力。握力。脚力などの測定から始まり、
それが終り検査のため血を抜かれ、筒状のベッドに横になり体の隅々まで視られる。
扱いは思ったより丁寧だが、対応は無機質そのものだ。
それも終ると、次に待っているのは非常に屈辱的な内容だった。
素っ裸になって培養液に放り込まれる。
気を使ったのか、女性の職員が付き添うことになった。
付き添いの女は人当たりもよく、表情もあったせいで自分を人間扱いしているのかと大きな勘違いをした。
そこで2回目の電流を浴びることになる。

その次は、計算問題や記憶能力のテストなど地味で退屈な作業が延々と続いた。
実験データとの誤差を調べるという名目で、当分こういった内容が続くと在り難い言葉を頂く。
途中で職員の態度に苛立ち、作業に飽き飽きしたこともあってプログラムを拒否したら3回目の電流が体を流れた。
そこから馬鹿馬鹿しくなり、数を数えるのをやめた。

結論から言うと。あっさりとわたしの目論見はばれた。
いとも容易く初日に看破された。実験を失敗させるという目的を、自分から喋ったのから。



505 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:07:37.86 ID:OODBRrU0 [13/22]



激しく抵抗した。何度も電流を食らって体が痙攣し、それでも必死に抵抗した。
だが、どうにもならなかった。何となくこうなることは予想していた。だけどそれは許せなかった。
汚された。あのかけがえのない大切な思い出を、わたしはバカみたいに言われるがままに話した。
聞かれていないことまで丁寧に説明した。
泣いて笑って狂っていった様を。
三人で過ごした日々を。
黒子たちと再会したときのことも。
経緯も感情も状況も何もかも喋った。
理性を欠片も感じないだらしない顔で。涙と鼻水と口元から垂れるよだれでぐちゃぐちゃになった顔で。
非常に簡単な話だ。薬を使われた。それだけ。
気付いたときには、彼等は全てを知っていてそれでいて笑っていた。滑稽なわたしを。
そのとき、わたしの意思は膝をついた。
理不尽な現実に。非情な世界に。狂気に満ちた凄惨な結末に。
屈しかけようとしていた。

最早自由はない。
プライベートな場所も時間も何一つなかった。
分刻みのスケジュールに、制限された食事内容、お風呂に入ることもなく、洗浄という作業。
ベッドで寝ることも二度とない。寝るときは培養液に浸かり調整も兼ねて夜を過ごす。
短い寿命を少しでも延ばそうと、少しでもスケジュールを繰り上げ成果をだそうと必死のようだ。
奴等は言った。まだ、わたしの記憶は上書きされることがないと。




506 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:09:31.23 ID:OODBRrU0 [14/22]






『――――プログラムの全工程が終了しました。次の指示があるまで待機していてください――――』


膝に手をついて肩を大きく揺らし呼吸を整える。
体中から汗が噴出し顎先からポタリと汗の雫が落ちた。
ようやく退屈で下らないプログラムが終ったのだ。

「……………はぁ、はぁ…」

無機質な白亜の壁に囲まれた空間。天上まで5,6メートルはあるだろうか、広さはテニスコート二つ分ほどある。
そのだだっ広い空間で反響し耳に突き刺さるアナウンスに、欠陥電気は眉を顰めた。
欠陥電気の右手の壁には足元から3メートルほど登った所に大きな窓枠があり、そこから研究員が忙しそうに動き回る様子が見れた。
画面を睨むものから紙を片手に右往左往するもの、どこかへ電話をかけるものと様々だ。
十数人の研究員が、あまり広いとはいえない空間にいた。
このだだっ広い空間には自分一人しかいないというのに。
どこか隔絶された別の世界に思える。あのガラス一枚挟んだ向こう側とこちら側には決定的な差があるのだと。

『――――いいわよ、9982号。上がって洗浄を受けなさい――――』

クソ女じゃなくて丸眼鏡か、と欠陥電気は胸中で吐き捨てる。
ここの研究員は自分のことを好き勝手に呼んでいた。
9982号。実験用素体。複製など。欠陥電気と呼ばれたときは殺意が涌いたが、今では少し苛立ち感じるだけ。
欠陥電気はのたのたと足を動かし、この部屋とドア一枚を隔てた洗浄室へと向かった。
部屋に入ると設置されているカゴにスパッツとシャツを投げ入れる。
ここに来る前に着ていた服はすでに手元にない。服だけでなく、私物も全部没収されどこかへ持って行かれた。



507 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:12:39.81 ID:OODBRrU0 [15/22]



自室くらい用意されているであろうと考えていたが、とんだ勘違いだった。
部屋と呼べるのは、ガラス張りの人一人ぎりぎり収まる程度の広さを持った培養器だ。
部屋に入るときは培養液で満たされるソレに私物など持ち込める筈もなく、持ち込めるだけのスペースも碌にない。
いや、そもそも初めから私物など持つことを許されなかっただろう。
どちらにしろ、私物を持ったところでどうする時間もないのだ。

通路状になっている洗浄室を重たい体を引き摺って歩く。
通り抜けると同時に、左右の壁から、天上から勢いよく水が噴射され洗浄される。
まるで洗車されているような気分だった。
10m程歩くとシャワーが取り付けてある個室が並んだ場所へと出る。適当な個室を選び適当にシャワーを浴びる。
噴射される水には洗剤かなにかが混ぜてあり、それを洗い落とすために。
そして通路のもう少し先にあるシャワー室と同じような、個室に入り体を拭く。
ここでのタオルの持ち運びは厳禁。
過去の『私』がこういった小物を使って悪さをしたようで、今のような待遇になっているようだ。
無言のまま作業のように体を拭き、髪の毛を乾かし外へ出る。
さらに先に進み、通路左手の棚に用意されている服を着て、その向かいにあるスライド式の自動ドアを抜け持ち物検査を受ける。
空港にあるような、高さ2mほどの四角い枠をくぐり抜けてようやく一連の作業が終るのだ。
この間も手錠と首輪は付けたまま。これを外すのは欠陥電気の意識がないときだけだろう。

「終ったわね。さぁ行きましょう」

丸眼鏡を掛けた、ヘアバンドをした女が欠陥電気に声を掛ける。
ヘアバンドの女は検査用の機械の横にあるベンチから立ち上がり、廊下へとでた。
欠陥電気も表情を変えることなく無言のままそれに従いついて歩く。




508 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:14:50.63 ID:OODBRrU0 [16/22]



「少しは慣れたかしら?」

歩いたまま欠陥電気に振り向くことなく、ヘアバンドの女は言った。
(…慣れるわけないでしょ)
欠陥電気は内心で悪態をつきつつも、口に出すことはなくヘアバンドの女を無視する。
このヘアバンドの女は妙に軽く、平然とこういったことを欠陥電気に聞いてくるのだ。
同僚に話しかけるように、自然とした態度で。
その言葉はどれも欠陥電気を苛立たせるような内容ばかりだが、どこか冷めた口調なので慣れてしまえば特に何も感じなかった。
問題なのは、このヘアバンドの女とよく一緒にいる黒縁の眼鏡を掛けた女。
下手に出るような態度と口調で接してくるので、悪い奴じゃないのかもしれないと欠陥電気は考えてしまった。
だが、話すとそれは大きく違うと気付かされた。
頭がおかしいんじゃないかと思えるようなことを平然と口にするのだ。

――――私の用意した紅茶を飲んだときのことを覚えてる?
――――あ、そうなんだ残念。
――――まあ、この問答も何度かあなたとしたことあるんだけどね。
――――え? そうよ、9982号のことを話したらあなたの反応がおかしくって、ついね?
――――怖い顔しないで、そんなつもりじゃないんだしさ。
――――ええ、次のあなたにはもうちょっと優しく言うからね?

雰囲気と言葉のギャップが酷く、黒縁眼鏡の女は欠陥電気を激しく苛立たせた。
欠陥電気はそのときのことを思い出し、少しだけ眉を顰める。

白で統一された廊下をヘアバンドの女について歩く。
ヘアバンドの女は独り言のように、なにかをペラペラと喋っているがその全てを無視し足を動かした。
途中何人かと職員と擦れ違ったが、欠陥電気に特に視線を寄こすことなく通り過ぎていく。
両開きの自動ドアを抜け分かれ道を右に曲がり、やや照明の暗い通路を歩く。
不意に、欠陥電気は昨日から窓を一つも視掛けていない事に気付いた。
行き来する廊下にも、最初に通された部屋にも窓はなかった。
脱走防止のため行動できる範囲には窓はないのだろうと、欠陥電気は勝手に納得することにした。



509 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:19:14.20 ID:OODBRrU0 [17/22]



案内された場所は学校の教室程度の空間にポツンと机と椅子が置いてあり、その向かいには質素なソファーとテーブルがワンセット。
部屋のど真ん中にある机の上には見慣れた紙と筆記用具が用意されており、欠陥電気は憮然とした顔をする。
この実験には、妙にアナログなところがある。外の20、30年先を行く学園都市のさらに奥深くの研究施設でペンを片手に紙と格闘するなどと。
ノートPCを使ったほうが、採点するときも効率がいいだろうに。
そんな欠陥電気の考えが分かったのか、ソファーに腰を下ろしたヘアバンドの女が皮肉げな笑みを浮かべ言った。

「あなたの気持ちは分かるけどね、これはこれで意味があるのよ。
 その内頭にゴツイの取り付けてするようになるだろうし、このくらいで文句を言ってたら始まらないわよ?」

文句なんか一言も言ってないわよ、と口中で吐き捨て欠陥電気は席に着くが、開始のアナウンスはない。
指示がない以上は動くことが出来ないので、手持ち無沙汰にならざる得ない。
欠陥電気は憮然とした顔のまま開始のアナウンスを待つことにした。

「あなた、こんな話知ってる?」

ソファーに座ったヘアバンドの女が事も無げに話しかけてきた。
しつこい奴、と思いつつ欠陥電気はいつものように無視をする。

「何でも昔ソ連じゃ宇宙でモノを書くのにえんぴつを使っていたそうよ? ソ連ってのは、今でいうロシアのことね。
 それで当時ソ連の宇宙開発競争の相手だったアメリカのNASAなんだけど、彼等はえんぴつを使わなかった。
 NASAは10年の歳月と120億ドルって莫大な予算を使って宇宙で使えるボールペンを開発したらしいわ。傑作だと思わない?」

ヘアバンドの女はそういって腹を抱えて笑った。ソファーの上で暴れるように。
その様子に鬱陶しそうに眉を顰めるが、欠陥電気はヘアバンドの女に言葉を返さない。
右手にシャーペンを持ち、机をコツコツと忌々しそうに叩く。

「まあ、この話はただのジョークなんだけどね。全部が全部嘘ってわけじゃないけど、流石にボールペンに120億ドルも使うなんてありえないわ。
 当時のNASAの予算が大体250億ドルぐらいらしいから、半分も使うことになるわ。この辺は大嘘ってわけね。
 でもね、このジョークは素晴らしいと思わない? このジョークは、この下らない内容こそが真に笑える。そこが素晴らしいわね本当に」

そう言って、今度はくすくすと笑い出した。
がらんどうの室内に、ヘアバンドの漏らす笑い声だけが響く。



510 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:23:05.71 ID:OODBRrU0 [18/22]


「……、さっさと始めたら?」

欠陥電気は、冷たく低く呟いた。
こんな下らない問答に付き合うくらいなら、退屈な作業をしたほうがいくらかマシだと言わんばかりに。
ヘアバンドの女は欠陥電気の言葉に片眉を持ち上げ一瞬止まり、ややあって口を開いた。

「悪いわね。実験データと今のあなたとの誤差にプログラムの修正が間に合わなくてね。
 調整に手間取ってるの。だから少しだけ時間があるのよ」

「あっそ」

「冷たいわね。『前』のあなたはもう少し可愛げがあったわよ?」

その言葉にギリ、と奥歯を噛み締める。
ヘアバンドの女を睨みつけながら。
欠陥電気の様子に小さく鼻を鳴らし、ヘアバンドの女は続けた。

「にしても、バカバカしいと思わない? 意義がないとは言わないけど、実用まで一体何年掛かるのかしらね。
 それこそ第一位の進化法のバグを探した方が建設的じゃないかしら。本人にその気がなければ意味ないけど」

「…、アンタ、なに言ってるの?」

「この実験の意義よ? わざわざレベル5を造る。そこにどんな意味があると思う?」

欠陥電気はヘアバンドの女の言葉に口を閉じ考えた。
意味も何もレベル5の製造こそが目的だろう。
すでに存在するレベル5の複製だとしても、人工的にレベル5が造れるとしたらそれは快挙だ。奇跡と言ってもいい。
何を言っているのだこの女は、と欠陥電気は思い口を開き、

「意味もクソもないわよ。偶然で生まれる希少な才能を必要とせず無限に生み出せる。それが全てじゃない」

と言い放った。

「随分と一面的ね。で、それでどうするの?」

「わたしの知ったことじゃないわ。…そもそも妹達は、軍用品なんでしょ? 売るんじゃないの」

投げやりに、冷め切った表情で言い切った。
そうだ。自分はこいつらにとってただの商品開発の過程で生み出された実験体に過ぎないのだ。
欠陥電気は思い切り顔を顰め、シャーペンを強く握り締めた。



511 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:27:39.29 ID:OODBRrU0 [19/22]



「そう、ね。妹達の経緯はその通りだわ。でも少し考えて見なさい9982号。あなたに商品価値があると思う?」

「…」

「とんだ欠陥品よ。リコール対象だわ。純粋に商品として価値を比較するならあなたは他の妹達にすら劣る」

ヘアバンドの女は歌うように続けた。
反抗精神に溢れ、常に反逆の機会を伺う商品にどんな価値があるのだと。
隙あらば逃げ出し、可能であれば主人を殺すであろう商品に誰が価値を認めるのだと。
欠陥電気のレベルが上がれば上がるだけその危険度は増し、
その能力の汎用性の高さから、管理することが非常に面倒で厄介なのだ。
従順な妹達と違い、超電磁砲の人格を持つ複製を誰が好き好んで抱えるというのか。単なる特大の地雷だと。
研究価値はあるだろうが、商品価値はない。学園都市の外に研究素材として売るわけにはいかないのだから。
そんなものを造って一体何になるのだと、ヘアバンドンの女は言った。

「知るわけないでしょ。アンタ等のすることじゃない」

「そうよ。上は何を考えているのかしらね? まあ、無理じゃないわ。あなたを管理することは不可能じゃない。
 面倒だけど無理じゃない。方法はいくらでもあるわ」

「…、自分で言ったことを否定するのね。バッカじゃない」

「ここに頭のいい人間なんかいないわ。利口な奴はもっとマシなところに勤めるわよ」

ヘアバンドの女はそう言って、大きく笑った。
私はこんなところしか来れなかったけどね、と言って。
ひとしきり笑って満足したのか、ヘアバンドの女は笑うのを止めると何かを考える素振りをして黙り込む。
そして突然口を開き、

「ねえ、あたなはどう思う? どうしてあなたは他の妹達と違って能力が強いのだと思う?」

と言った。
ヘアバンドの女は欠陥電気の反応を待たずに言葉を続ける。

 「私達にもそれが分からない。同じ遺伝情報を持つ妹達は超電磁砲のせいぜい1%止まりだけど、あなたは5%を超えているわ。
 人格や記憶によって、超電磁砲の『自分だけの現実』に近づけたからかしら?
 でもそれじゃあ変じゃない? 現に『前』のあなたは他の妹達と殆ど変わらない能力しか持っていなかった。
 繰り返し記憶を上書きすることで、少しずつ能力が向上していったのよ。不思議じゃない?」

「…っ、し、知らないわよそんなこと」



512 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:31:14.40 ID:OODBRrU0 [20/22]


ヘアバンドの女の言葉。
それは欠陥電気も持っていた、疑問だった。
命題ともいえる欠陥電気の抱えた問題だった。
その言葉は、欠陥電気の心を揺さぶった。
どうして自分には超電磁砲が使えないのか。
どうして自分にはこんな中途半端な能力しかないのか。
どうして自分はこんなにも『私』だというのに、決定的に違うのか。
欠陥電気自身にも影も踏めない、理解不能な疑問だった。

「上の連中は人工超能力者ってのに夢中だけど、この事象の究明こそが真に価値ある命題なのよ。
 リスクまで犯して、こんな巨額を投資する必要もないわ。本当に素晴らしい連中だわ」

わざわざ面倒なレベル5を使う必要はない。
もっと管理が楽なレベル3辺りの能力者を何人も使って平行して実験を行った方が効率がいい。
多種多様な能力者を集めて同時に行った方が成果がでる。
レベル5を造るなんてのは、その後でいいのだ
上の連中は、人工超能力者が現実となりつつある状況に夢中になり本質を見失っている。
レベル5など、レベル6を造る過程でしかない。
レベル5を造れたから次はレベル6という訳にはいかないのだ。
確かにレベル5を造ることができれば、現状では7人しかいない貴重な才能を好きに使い潰せる。
それは非常に魅力的だ。
だからこそ、レベル5に拘る必要はない。まずはもっと手近なところから始めるべきなのだ。
結果ではなく、経緯にこそこの実験の価値はあるのだから。
ヘアバンドの女はそう語ると、ぶつぶつと呟きながら自分の世界に入った。
しばし後にアナウンスが聞こえ、欠陥電気は顔を顰めたまま面倒くさそうにペンを動かした。






513 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 01:38:04.00 ID:OODBRrU0 [21/22]
ここまで
さーせん、流れが妙な方向に着ちまった
欠陥電気の方はスパッとする予定だったのですが、少しだけ変わった
臭すぎると怖い、どうにも微妙、ああうん、って感じでした
ようやく一方さんが少し元気になって嬉しい
突込みがあればしてくれ。何もないのが一番痛い

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